ゆるる
45 件の小説ゆるる
本好きのゆるるです。 恋愛系 切ない系の物語を作りますゆるるの作品が貴方の心に灯ってくれると嬉しいです🌷✨ 🫧〜詩〜🫧 花の香りにふと撫でられ私はぽつりと風になる 優しさと美しさが光となって貴方に吹きますように。私の吹く文字という風が貴方の心の紙を奏でることを静かに願います 今日も私は物語を描いていく
水の花の告白
海の泡に混ぜて泳ぐ僕らはなんだろう 空気ではなく水を飲み干してゆっくりと海に溶けていく 美しい貴方の影を見た まるで神様の手だ ゆらゆら霞む神様の手 死ぬ時は貴方の光に入るのだろうか 僕の心にはなにもない。水とプランクトンだ 貴方は美しい何かを心に持っているのかな 足はあるけど地面には立てない 僕は 僕は 生まれ変わりたいよ みんなと海をぷかぷか 貴方の手はどこかに消えていく 言葉もなく 愛も分からず 僕はどうやって貴方と話せるのか 水を体に入れて泳ぐ僕らはなんだろう 夜の匂いと海の匂いが混ざり僕らは上り空気に触れた 月だった。。貴方じゃなかった それじゃあ、話すのはまた明日 その時だった。1人が溶けてく 僕は目を丸くした 嗚呼、魂が吸われてく 僕もだんだんと水が入ってきた。もう終わりなのかな 愛も言葉も貴方に聞きたかったのに ただ、ただ、海の声を聞くのだ 泡と海の声に引っ張られ僕の体は溶けていった 目を開けると東の上にある海から貴方の目が見えたの さようなら また会えるといいね 太陽さん 僕は、、くらげは貴方のことが好きでした
見知らぬ貴方と泡の中
俺は、誠実な人になりたかった。田舎ぐらしなので給料が多くもらえるのは誠実で呑み込みの早い奴で、俺にはとてもじゃないがなれない。誠実になれたらあのボロいアパートではなく一軒家に住めただろうなと俺はため息をつく。とにかく変わりたかったのだ。いや、むしろ全部忘れて 別人になりたかった 「川田!またミスしやがって。何回も言ってるじゃないか」 「すみません」 俺は深く頭を下げた。周りの視線が痛い中上司からもらった資料を片手に持ち自席へ進む。見ての通り俺は役に立たないやつ。環境も合わないし転職しようと思ったがこんな山に囲まれてる村なので会社数は少ない。手を伸ばしてパソコンで資料を直す。その時、後ろから肩を叩かれた。 「湊〜昼飯食おうぜ」 振り向くと幼馴染で一緒にこの会社に入った彰がいた。 「おー」 朝、コンビニで買ってきた弁当を広げながら会社の屋上にあるベンチに腰掛けた。 「湊、あんまり思い詰めるなよ。あのじいさん、いつもガミガミ言ってくるよな」 「でも、金稼がなきゃ。俺は我慢できるよ。それに俺の容量の悪さが原因なんだし」 2人の頬を風が通る。深くて青い空はまるでストレスがなにもない平和な心のようで俺は思わず目を背けた。 夕方になり彰と駅で別れた後、俺は自分の家から洗濯物をカゴに入れていつも行くコインランドリーに向かった。田んぼが続く道を俺はゆっくり歩いて行く。夜の田舎は、虫の音、蛙の音で覆われていた。でも、どこを見ても俺にとっては思い出の場所だ。数個の街頭の明かりを頼りにして俺はコインランドリーのドアを開ける。中を見ると店員のおじさん腕を組みながら横にあるテレビを見ていた。客は誰もいない。それはそうか、もう日にち過ぎてる時間だもんな。俺は、カゴを持ち上げていつも使ってる洗濯機の横へ置く。洗濯物を大きな穴に投げボタンを押した。 「カタカタ」と洗濯機は揺れる。俺は終わるまで椅子に座ろうとすると1つの洗濯機が目に入った。 店内の隅にある赤い洗濯機だ。俺は、赤い洗濯機の前に立ちじーっと眺めた。 「なんだろ?これ」 「兄ちゃん、その洗濯機興味あるかい?」 「え」 横を見ると店員のおじさんが横に立っていた 「いや、そういうわけではなくて…何でこの洗濯機だけ赤色なのかなと」 その時、おじさんはニヤリと口角を上げる。 「それはな、心の洗濯機だよ。入ったから心を洗ってくれるんだ」 俺は、頭が真っ白になった。 「いや、そんなことあるわけないですよ。店員さん夜中だからって俺を怖がらせようとしてるんじゃないですか?」 「嘘じゃないさ。これは生きるのが苦しいっていう人を助けてくれる。何もかも忘れさせてくれるんだ。洗濯機から出た時はもう別人になって楽しい人生を送れる!どうだ?興味あるか」 「もしも」という言葉が俺の頭に浮かんだ。俺の心にある黒い画用紙に白色の泡がついたクレヨンでなぞられたらどんな気分だろうか?泡水に心が沈み天国に行ってきた気分で目を開けたら、、 店員さんの目をチラリと見る。おじさんの目には俺が変われると映っているのだろうか? 信じたくなかった、いやこんな馬鹿なことを言ってる店員だ。断って立ち去ればいいのに俺の足は動かない。 「や…ります」 「そうか!決めたんだな」 俺は頷く。だってもうこんな生活終わらせたかった。おじさんは赤い洗濯機の扉を開けた。俺は身を縮めて中に入る。おじさんは、ニコリと笑いながら最後の俺に向かってこう呟いた。 「さようなら」 バタンと扉が閉まる音が聞こえ暗い洗濯機から「ウィーン」と音が聞こえた。俺は全てを諦め目を閉じる。 目を開けると一筋の光が俺の顔を照らす。 透明な扉から外を見ると店員のおじさんが椅子に座りながら寝ていた。はっと気づき俺は扉を開けて外に出る。 「なぁ、店員さん嘘だろ!変わってない」 そうだ。目を開けてもさっきのことは覚えてるし体にも変化はなかった。 「はは。兄ちゃん。そんないきなり変わるわけないだろ。徐々に変わって行くから」 「本当かよ…」 家に帰って数日経っても得に変化はなかった。ため息を吐き俺はベットに寝転がる。そうだ、買い物に行かないと。俺は、クローゼットを開けて何を着るか中を見る。 「あれ?こんな服持ってたっけ」 俺は、普段から黒い服を着てたはずなのに白い服か幾つかあった。あの時気付いてればよかったのに。 「湊、お前服の趣味変わったのか?」 しばらく経ったある日のことだった。休日遊びに来た彰にそう言われる。 「え、いや変わってないよ」 「そうか?なんかあんまり見ない格好だからさ。それに家の壁紙も変わってるし。もしかして彼女とかできた?」 「そんなわけないだろ。ただでさえ忙しいのに僕に彼女とか」 「え?湊?」 僕、、いや俺は思わず口を押さえる。 彰はキョトンとした顔で俺を見た。 「本当に彼女とかいないから俺」 「あはは!びっくりしたぁ。湊が僕とか言い出すからさ!もしかして実家では僕って言ってるのか?」 「え、、あ。実はそうなんだ」 夕方5時頃、彰は帰って行った。ドアがパタンと締まった時俺は力が抜けて座り込む。なんで、、 思えばそうだった。無意識に俺は自分の趣味ではないものを家に飾っていた。服だって壁紙だって 「なんで、、もしかして一人称だけじゃなくて全て変わってしまうのか?」 混乱と恐怖で心がえぐられそうだ。でも自分で望んだことだ。けど、俺はもう変わりたくないよ 目が覚めると散らかった部屋を見てため息をついた。あれ?僕、昨日床で寝てたはずだよな?自分の趣味ではない家具や小物になんだか胸騒ぎがしたので押し入れのダンボールに全部入れた。雑貨屋、スーパー、家具屋に行き僕は自分らしい素敵な部屋を作る。 「よし!終わった〜なんで僕の趣味じゃないものがあったんだ?」 何故だかわからない。昨日の記憶があまりなかった。でも、すごく心の中がスッキリしている。仕事を終えてソファに座っているとドアのチャイムが鳴った。 「湊ー!今日休日なんだしどっか行かね?車持ってきたからさ」 ん?誰だ?知らない人の声がした。不審者とか? 僕が無視してると男の声が聞こえなくなった。安心して部屋に戻るとスマホの通知音が聞こえる。スマホの電源を押すと彰という人から通知が届いていた。 「彰、、こんな人知らない。」 間違えて交換したとか?いや僕がそんなことするわけないし。意味がわからなったので僕はその人を友達欄から消した。そうだ。洗濯物洗わなきゃ。僕は、走っていつも使うコインランドリーに急いだ。店内に入るとクーラーが効いていて僕の汗を冷やす。 「おー!兄ちゃんじゃないか。どうだ調子は」 僕はニコリと笑い 「僕は元気ですよ」 店員さんにそういうと店員さんは真顔になり 「そうかよかったな」と苦笑いで呟いた 「そう言えばおじさん。黒い洗濯機なんで珍しいじゃないですか。ここの洗濯機全部白いのに。1つだけ黒色って」 「あぁ、、昨日から黒色になったんだ。前の魂が解放されたからな」 「前の魂?」 「そう。前は赤色の派手な靴を履いた優しそうな兄ちゃんがこの洗濯機を使った。君は、その兄ちゃんに似ているな。まぁそりゃそうか!ははは」 どうゆうことか僕にはわからなかった。けど黒いこの洗濯機を見る限り最近、黒色が好きな人がこの洗濯機を使ったのだろうか 「まぁ、兄ちゃんが幸せそうでよかったよ」 「え、、はい」 何の話をしてるんだ?とは思ったか考えてもわからない。自分の洗濯を終えてコインランドリーを出る。夕日が傾く田舎の景色と匂いを見ると不思議な懐かしさを覚えた。その時、強い風が吹いた。僕の帽子が風に乗って高く上がる。 「あ!いけね」 帽子を追いかけるとコインランドリーの入り口付近にある看板の上に乗った。帽子を取りその看板を見るとこう書かれていた。 ー洗い屋。なんでも綺麗に洗えますー あとがき こんにちは☺️ゆるるです。久しぶりのホラー作品です。なんかあんまり怖くなかったような、、。 今回は、心を洗う洗濯機をテーマにしました。使った人が増えるたび洗濯機の色は変わります。次にあの洗濯機を使う人がいたらきっと主人公に似た性格になるんでしょうね。自分の前に使った人の魂が自分の中に入るから。 貴方は変わりたいと思いますか? それとも今の自分が大好きですか? 不思議な道具を目にして自分の記憶を消してでも変わりたいですか? ダメですよね。なので髪型を変えたり使っている文房具を変えたりしてみてください。少しの変化で心が満たされるような人になってください。 全部消えるなんて怖すぎるからね。 ここまで読んでくれた人ありがとうございます よかったら感想教えてねー✨
ゆるるの呟き♯7
みなさんこんにちは✨📕私の小説を読んでくれる読者様にお2つ嬉しい報告をします 1つ目→この前、ある人が開催してた小説の大会に参加しました。戦争をテーマにした「腐った宝石とかくれんぼ」という作品で応募しました!とってもレベルの高い大会だった、、😓結果は、14位中6位でした。うーん?高いのかな?でも、前回出場した時は7位だったので1つ上がった!!「腐った宝石とかくれんぼ」よかったら読んでみてください☺️初手1行をインパクトにしたことが工夫です。 2つ目→次の投稿は、ホラー作品です。お化けは出ませんご安心を。やっぱ夏といえばホラーですよね。あらすじを少しご紹介します。 ある男がいた。男は自分が嫌でとにかく変わりたかった。そう別人のように、何もかも忘れて。そんな男がいつも利用してるコインランドリーがある。そのコインランドリーには1つだけ赤い洗濯機があった。噂によると、〇〇を綺麗にしてくれるらしい。 こんな感じのお話です。 それでは!
腐った宝石とかくれんぼ
太陽が沈む頃、それは起こった。黒くて臭くて虫が舞う物体が私の背中から落ちる。私は驚いてその場に座り込んだ。違う、違う、、頭の中に混乱が生まれる。私が背負っていたのは宝石だった。優しくてしっかり者で話していると暖かい。手を伸ばして触ると冷たくてドロドロしていた 「ひっ、、」 私は、思わずその黒い物体を蹴った。荒い息が私の耳を包む。気持ち悪さと絶望で心がえぐられた。その時、一つの考えが浮かぶ。彼女は、かくれんぼが好きだった。 「入れ替わったんだ。この黒い物体はゴミで私にバレないようにかくれんぼを始めた、、そうよ!きっと」 私は、立ち上がり彼女の名前を呼ぶ。火の玉が落ちても銃声が聞こえても私は、彼女を探した。意味なんてなかったのに。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「みなさんおはようございます。」 先生が、みんなを見渡しながら笑いかける。 「先程、戦争の前線で頑張っている兵隊さんからお知らせをもらいました。看護要員としてお国のために動員したいと」 みんながザワザワする。え、学校の勉強はどうなるの?不安という冷たい風が私の心を仰ぐ。その時、肩を後ろからトントン触られた。振り向くと後ろの席のみっちゃんがニコニコしている。 「そんなに緊張してどうするの!みんな初めてなんだから大丈夫よ」 「そ、そうかな」 次の日、荷物を持って病院に行った。私の知っている建物の病院ではなく戦地の兵隊さんが運ばれる地下病院だ。強い血の匂いがする 「みっちゃんこんなとこいたらそのうち私達が倒れるんじゃない?」 先生が説明している中、鼻をつまみ小声でみっちゃんに助けを求める。 「た、確かに。換気とかしないのかしらこの病院。でもね、逆らったら兵隊さんに非国民だ!って言われるから我慢よ」 私達の仕事は、兵隊さんの包帯巻きや水を汲んでくることだった。朝から学校が終わる時間の夕方まで働く。何より辛かったのは死んだ兵隊さんを埋める作業だ。誰もが首を横に振る中、立ち上がるのはみっちゃんだった。手を高く上げてみんなの注目を集める。 「さすが!助かるよ」 みんなが安心した顔をして作業に帰っていく。はっとして私はみっちゃんの元へ走った。 「私も手伝うよ」 「え?本当に」 私は、頷き2人でスコップを持って遺体を埋める。遺体を埋めるのはいつのまにか私達だけの仕事になっていった。誰かがやればいいのに。でも、あの時の私もみっちゃんの優しさに甘えていた。 「でね、みっちゃんすごいの。嫌な仕事も笑顔でこなしてて」 「へえ。それはすごいわね」 私は、家に帰るといつもみっちゃんの活躍をお母さんに話す。戦争が始まってから家の雰囲気はガラリと変わった。お兄ちゃんは兵隊へ行き、お父さんは戦闘機の工場で夜まで働いている。話すことはいつも暗かったが私とみっちゃんの話だけは明るくてお母さんはニコニコ笑いながら「みちこちゃんは優しいのね」と母は、優しい目を私に向ける。 ガラガラ 「あら、お父さん帰ってきたわ」 私も、おかえりと言うとお父さんはまるで一回死んできたような目をしていた。思わず目を逸らす。 「今日、同僚の若い友達が戦地に行くそうだ」 「それって、、お父さんと仲の良かった人?」 お父さんは何も言わず鼻をすすりながら隣の部屋に入りふすまを閉めた。 「そうよね。お父さんだって、きっと帰ってくるって信じることしか心を慰められないのよね」 振り向くとお母さんは、お兄ちゃんの写真を見て俯いていた。お兄ちゃんと重ねていた。 「お、お母さん大丈夫だよ!日本きっと勝つよ。お兄ちゃんも訓練所で友達できて訓練頑張っているかもよ」 あぁ、まただ。また、落ち込むお母さんの背中を撫でながら曖昧な言葉を投げる。この生活が早く終わって欲しかった。だって、こんなの私の家族じゃなかったから。お父さんは庭でいつもお兄ちゃんと遊んでてお母さんは笑いながらお隣さんとの面白い話をする。それが普通だ。普通を壊した戦争なんて大嫌い。その後、少しだけのご飯を食べて布団に入った −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−バケツを持って水を取りにいくのは私の仕事だった。地上に出て近くの井戸まで行く。空を見上げると大きな雲が流れていた。でも、この作業が一番楽。だって、外の空気を吸えるから。あんな血と土の匂いがするとこで死んだような顔をした兵隊さんのお世話をするとこっちまで辛くなってくる。ふぅーと深呼吸して病院内に戻るとみっちゃんが駆け寄ってきた。 「えり!お疲れ様。疲れたでしょ。はい水筒よ」 「みっちゃんありがと」 少し休んだら、兵隊さんのお世話だ。まず、バケツの水でタオルを濡らし兵隊さんの体を拭く。動ける人は自分でやっていたが動けない人は、私達が拭かなければならない。私が兵隊さんの背中を拭いていると兵隊さんはチラリと私を見た。 「汚いよね、、ごめん」 「い、いえ。頑張った結果ですよ。兵隊さん」 私がそう言うと「そうかい」と表情が柔らかくなった。戦争に必要なのは、心の助け合いだ。相手が戦争で挫けそうな時は、心が強い人が引っ張ってあげないと。多分、ここで働く私達みんな思っているだろう。匂いと雰囲気は最悪でもここはいつも優しい言葉が漂っていた。 「えりー。包帯が上手く巻けないの。教えてー」 横を見るとクラスの坂田さんがあわあわしている。兵隊さんの足に巻いてある包帯がゆるゆるだった。私は立ち上がり「うん」と返事をして手伝った。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−帰り道はいつもみっちゃんと一緒。 「戦争っていつ終わるんだろうね。早く学校の勉強に戻りたいよ。この仕事疲れるし」 みっちゃんの言葉に私は首を縦に振りながら 「疲れるけど、みっちゃんはすごいよ。嫌な仕事も丁寧にこなしてさ。私は、無理だよ」 「あら。えり、この前手伝ってくれたじゃない」 そ、それは…みっちゃんがいたし。 「二人なら大丈夫なの!」 みっちゃんは、私が考えていることがわかったようにクスッと笑った。夕日がみっちゃんの頬を照らし大きな影を作る。私は、思わず指を差した。 「見て!みっちゃんの身長高くなってる」 「もう、、えり!私が身長低いのからかってるでしょ」 みっちゃんは、顔を赤くして私をポコポコ叩いた。ごめんと言いながら私が手を合わせるとみっちゃんはため息をつく。 「ねぇ、みっちゃんかくれんぼしない?好きでしょ」 かくれんぼと聞いてみっちゃんは嬉しそうな顔をした。よかった。機嫌治ったみたい。 「じゃあ、私が鬼やるよ」 「わかったわ。数かぞえて」 私は、顔を手で隠しながら一、ニとかぞえる。 その時だった。ドーンと大きな音がしたのは。 え…何??地面がぐらぐら揺れて私は思わず座り込んだ。 「えり!大丈夫?」 草むらがみっちゃんが慌てて出てきた。 「みっちゃん地震かな?」 「わからない」 転ばないように二人で抱き合いながら座っていると カンカンカンカン、と音が聞こえた。 「空襲だー!逃げろー!」 何が起こっているかわからなかった。みっちゃんの顔を見ると青ざめている。私の足は震えてて動かない。早く、、早くお母さんを迎えに行かなきゃ 「えり!走って」 みっちゃんは立ち上がり自分と私の頭にタオル巻いて走り出した。みっちゃんと私は全力で走ってお互いの家に向かう。町に着くと遠くの方は黒い煙が上がっていた。家の玄関が見えるとお母さんは荷物を持って私を待っていた。 「えり!遅い。早く防空壕へ!」 黒い煙の中をお母さんと口を押さえながら走り防空壕に駆け込んだ。中は、泣いている子供と暗い顔をした大人達、同じクラスの友達もいた。 「ここに座りなさい」 お母さんに言われ混雑した人達の中に入り座り込んだ。先生に教わった通り耳を押さえて口を開ける。先生が言うには放射線?という光を体から逃すとかなんとか。大きな爆発音が聞こえる中、心配だったのはみっちゃんと病院の兵隊さん。私は耳を強く押さえながら祈り続けた。 爆発音が消えてシーンとなり私は目を開けた。 周りはザワザワしていて「もう大丈夫か」と聞こえてくる。前の人がドアを開けて外を確認していた。 「空に敵軍はいなかったわ。一旦出てみましょ」 みんな頷いてゾロゾロ外に出ていく。 「お母さん、外に出るって。もう終わったよ」 お母さんの顔を見るとびっしょり汗をかいていてお兄ちゃんの写真を握りしめていた。 「そ、そう。」 順番が来て、お母さんの手を引きながら外に出ると私は、あまりの酷い景色に口がガタガタ震えた。お母さんは呆然として泣いている。あたりは、灰色の砂まみれになっていた。とにかく、何もなかったのだ。建物も、電波塔も瓦礫になって散らばっている。その後は、誰かに手を引かれ平地になっているとこでみんなで固まって過ごした。正気になってきたとこで、私はハッとした。 「みっちゃん、、は?」 薄暗い視界の中浮かんだのはみっちゃんだった。 横を見るとお母さんは毛布に包まれ寝ていた。私の体は考えなくても動き、のろのろとふらつきながらみっちゃんの家に向かう。生きていて欲しかった、、大丈夫神様にお願いしたし。瓦礫だらけの道を進み家の前まで着くとみっちゃんの家は真っ黒けで形すらなかった。 「そうだ、、防空壕。確か近くにあったよね、、」 向かうと、みっちゃん家の近くの防空壕に人が集まっていた。よかった!みんな生きてたみたい。 防空壕の前まで着くと異様な景色が広がっていて思わず座り込んだ。 「な、何これ…」 血まみれた何かがたくさん転がっている。 「落ちたんだって、、防空壕の下に」 「え、まさか全員」 はぁはぁはぁ…私は人混みを押し除けて赤い塊を見つめた。すると、左の隅にみっちゃんのカバンをぶら下げた"何か"がある。 「みっちゃん!大丈夫。今出してあげるから」 私は、腕を引っ張って黒い塊の中からみっちゃんを出した。赤い液体を顔につけたみっちゃんだった。私は、その姿を見てゾッとする。いやこの世のどん底に突き落とされた。しかし、私の体は動いた。みっちゃんをおんぶして走り出したのだ。 「病院、、!病院」 もう助からないよと後ろから聞こえても私は病院を目指す。しばらく走って病院が見えた時、 「あ!」 目の前にあった瓦礫で転んでしまった。うぅと足を押さえる。そうだ!みっちゃん落としちゃった 「みっちゃんごめんね。今、病院つい、、た」 何かが腐るような匂いと虫の音が私の体を蝕んだ。振り返ると、それはみっちゃんではない黒い物体だった。虫が舞っているゴミだった。私は、気持ち悪くなり思わずそれを蹴って遠くに飛ばした。そうだ、、みっちゃん私に気づかれないようにかくれんぼ始めたんだ。 「もーいいかーい。見つけにいくね…」 私は、足が折れそうなぐらい歩いてみっちゃんを探した。照りつける太陽と灰色の景色の中。でも、どこにもいなかった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−今日もあの日と同じように太陽が照りつける中、私はみっちゃんのお墓参りに行っていた。あれから三十年近く経ち、私は大人になった。あの日、私は歩き疲れて倒れていたとこを母が見つけて助けてくれたからだ。母に抱きしめられて嬉しいはずなのに何も感じなかった。あの黒い物体がみっちゃんだと理解したのは、お母さんから火葬してもらったみっちゃんの骨を見せられた時。 「みっちゃん、隠れる場所が天国だなんてそりゃ見つけられないよ。あの時、手でも握ればよかったな。蹴ったりしてごめんね」 私は、そう呟きお線香をみっちゃんの前に立てる。何かに取り憑かれたように毎週、みっちゃんのところへ行って気づいたら何十年も経っていた。お兄ちゃんも親友も無くした戦争は大嫌いだ。でも、私の心にはみっちゃんがいた。眩しくて優しい宝石のようなあの人が心にいる。 「私、みっちゃんの分まで頑張って生きるね。いつか、天国でまたかくれんぼしようね。」 涙を拭きながらそっとお墓に手を当てる。私とみっちゃんは心で手を繋いでいるからね。帰り道、みっちゃんのような優しい風が私の髪を撫でた。
水たまりのお客さん
僕はいつものようにハンドルを手に夜の街を走っていた。2年前タクシー会社に就職したからだ。年寄りのおじさんが多い会社に入ったため若い僕の存在を嬉しそうにしていた。なので、僕は夜のタクシー担当になる。そりゃあおじいさんが夜道走るのはちょっと危ないよなと僕は静かに納得した。 ふと、そんなことを思い出しながら運転してたら 雨が降ってきた。 「雨でお客さん増えるかな」 きっと傘を忘れた人が乗り込んでくるだろうと僕は、近くの駅を目指す。その時、暗闇の中に人影が見えた。僕は、思わずスピードを落とす。 その人は、僕のタクシーを見て、ゆっくり手を上げた。 「え?」 僕は、その人の前でタクシーを止めた。 「すみません。タクシー乗ってもいいですか?」 「ど、どうぞ」 灰色のレインコートを着ている人だった。 「どこまで行きますか?」 「…」 何故か、その人は答えない。 「じゃあ、見覚えのある景色見えたら教えてください。そこで止まります。」 僕らの間には雨の音しかなかった。ポツポツと雨がガラスをなぞる。しかし、雨の音とは全然違う音が聞こえてきた。 「ぴちゃ、、ぴちゃ」 大粒の水滴がゆっくり床に落ちる音に聞こえる。 「なんか、水が落ちる音がしますね。窓から水が垂れてませんか?」 僕は道の隅にタクシーを止めてお客さんの方を振り返る。 「い、いえ。多分、私の音だと思います」 レインコートのフードをとった彼女の姿を見た時、思わず息が止まりそうだった。透明な顔、体に流れる泡、ぴちゃぴちゃと落ちる彼女の水。彼女の体は水でできていたのだ。 「あ、あの。黙っててごめんなさい。私、雨人間なんです。」 「あ、雨人間?」 夏のおばけ?それとも僕の夢だろうか。 「見た通り、雨の水でできた人間です。晴れたら蒸発して消えてしまうけど」 「そんな人がどうしてタクシーに?」 「人間とお話ししたくて、、昔から」 彼女は、自身のことについて語る。 「私、雨の日しか姿を作れないので人と話す機会があまりなく。でも、梅雨なら雨がたくさん降るし、さっきまで道を彷徨っていたんです。お化けだと勘違いされるか怖かったので道に落ちてたレインコートを着てました。」 彼女と話すうち僕の彼女に対する恐怖心は薄れていった。彼女は、雨人間だけど、とても気さくで優しい人だった。駅に着くまでの彼女との時間は淡い風のよう。 「名前なんて言うんですか?よかったらまた喋りに来てください」 彼女は、残念そうな顔をする。 「名前ないんです。」 「そうですか。じゃあ、僕がつけてもいいですか?」 「え?」 バックミラー越しに彼女と目が合う。 「人間に名前つけてもらうなんて、、!」 「雫さんとか。水で、できてますし」 「可愛い名前、、大切にします。」 彼女とのやりとりはそれで終わりだった。駅が見えてきて僕はタクシーを止める。 「ありがとうございました。ここで止めるんですよね。私、降ります。」 彼女は、ドアを開けて外に出る。 降りたか確認した時、座席の上にレインコートがあった。 「雫さん忘れ物です!」 僕は、ドアを開けて彼女に声をかけようとすると彼女の姿は消えていた。 いつのまにか空は晴れている。 「雫さん?」 ふと、下を見ると大きな水たまりが目に映った。 晴れた空を写す透明な水たまり。彼女だろうか?確信ではないが彼女だと感じた。水たまりには紫陽花の花びらが舞っている。 僕は、そっと水たまりの中から花びらを拾った。 「代金頂きますね。ご利用ありがとうございました」 あれから1年経った後、僕は彼女の存在を思い出しあの場所へと夜道を走る。 「さすがにいないよな」 タクシーのライトに照らされ1人の人影が浮かんだ。彼女は、ニコリと笑って片手を上げる。夜と雨が繋ぐ不思議なお客さんは、僕だけの秘密。 あとがき 今回は、企画でもらったカタツムリさんのリクエストです✨☺️ 梅雨をテーマに書いてみました。 不思議なお客さんっていいですよねー!
祈りは甘く私は苦く
赤い紐の下駄が音を鳴らしながら歩いていく 私は、神社の鳥居、食べ物の匂いに誘われながら星祭りの会場へ急いだ。会場へ着くと吹き流しが空を舞いお月様と一緒に輝く。 本当は、友達と行く予定だったが来れないことになり今日はひとり。 「お嬢ちゃん!ちょっと」 笹の葉に願い事を飾ろうとするとおじいさんが話しかけてきた。私が振り向くとおじいさんはニコリと笑って 「お嬢ちゃんこの短冊の方がいいよ」 「え?これって、、」 短冊を見ると星のスタンプがついている。 「これはね魔法の短冊なんだよ」 「魔法?」 お願い事が叶う短冊なのかな?顔をしかめておじいさんを見る。だって嘘だと思ったから。絵本で見るような魔法が現実にあるわけがない。 「信じれないならこの笹につけてみるといい」 私は、おじいさんに背中を押された。 「ちょっと!待って」 笹の葉が目の前に広がり私は渋々短冊をつけた。 すると、何故だろう。ふわりと眠くなる。 体に泡が巻き付いたような感覚に襲われた。 私の視界はゆっくりと暗くなる。 「お姉さん大丈夫?」 誰か呼んでる?目を開くと七夕の飾りが見えた。寝てたのかな?でも何で、、 「あー。やっと起きた!お姉さん倒れてたからさ」 横を見ると背の高い男の人がいた。 青色の浴衣を着ていて私と同じ下駄を履いていた 「すみません。寝てたみたいで」 何で寝てたのかは覚えてないけど 私はお兄さんの顔を見た。すると、お兄さんは私のことをじっと見る。 「怪我はしてないみたいだね!よかった」 「え、、あ、はい」 男の人にジロジロ見られるのはどこか気持ちが揺れていく。私は思わず目を逸らした。 「一緒に回らない?星祭り」 お兄さんは座り込んだ私の手を引き微笑んだ。 星祭りに誘う彦星さんみたいに優しく 「うん!いいですよ」 屋台を見て回ったがどこか違っているような気がした。あんなお店あったけ?リンゴ飴の屋台があったのでお兄さんに片方のリンゴ飴を差し出す。その時、お兄さんが何歳か聞くので答えると 「え!一個下なんだ。じゃあ、ちゃん付けで呼べるね」 お兄さんは赤いリンゴを食べる。 顔が熱い、でも優しい。私の心は、そんな気持ちに包み込まれた。顔も、りんごのようになってるのかも。はっとする。そんな、、初対面の人を急に好きになっていいのかな? 「星祭りだから短冊飾りに行かない?僕、あんまりお祭りとか行かなかったから飾りに行きたいな!ん?どうしたの」 「え、あー。いいよ。私もね、短冊持ってて」 危ない、バレるとこだった。平然を装い私は、ポケットの中に手を入れた。あれ?短冊がポケットに入っていない。冷や汗かわからないけど体が寒くなる。 「どうしたの?」 「短冊がないの!さっきまであったのに」 「そっか、、どうしようね」 その時、お兄さんは私の浴衣の裾を掴んだ。 「へ?お兄さん?」 「ちょっときて」 お兄さんは、笹の木までつくと水色の短冊を取り出して鉛筆で真ん中に線を引く。 「はい。これで書ける」 「半分にして2人で書くってこと?」 「だって、お願い事叶えて欲しいもん」 ドーン 「あ、花火の時間だ!わ!星型だね」 そんなことはどうでもいい。私の顔は赤くなり指先が震えてる。初めての恋だったから。私の、視界に短冊が写った。お兄さんが花火に夢中になってる。チャンスだ!私は、鉛筆を握りお願い事を書いた。 「あーあ。終わったね。そうだ短冊、、」 「書けました。お兄さんもどうぞ」 「ありがと。」 お兄さんは、その短冊を見て笑った。 「ダメですか?」 「えっと、、」 お兄さんは、私の顔をチラッと見て、鉛筆で短冊に色をつける。 「これは、後で僕が飾っとくよ」 「お返事教えてくれないの?」 そんな、、 「だって、僕はできないから。ごめんね」 「そうですよね、、」 下を向くと雫が浴衣に染み込んでいた。その時、お兄さんの手が私の手を握る。冷たい手だった 「お兄さん冷たいよ。寒いの?こんな暑いのに」 「これが理由なんだ。みかちゃんの事好きなのにね。神様が時間を巻き戻せたらな」 私は、お兄さんの言うことがわからなかった。 「どうゆう、、」 その時、目の前がふと暗くなる。あの時みたいに泡が私を包みこむ。バッと視界が暗くなった。 「おーい。お嬢ちゃん起きてー」 目を開けるとやっぱり星祭りの飾りが空を飛んでいた。 「私、寝てたの?」 「いや、お嬢ちゃんを不思議な世界へ招待したんだ」 「不思議な世界、、」 だったらお兄さんも全部私の妄想?ため息をついてポケットの中に手を入れた。ん?何か入ってる 「え?」 あの時の、水色の短冊。表を見ると私は、思わず口を手で押さえた。 「お嬢ちゃんは、彼岸に飛ばされたんだね。」 涙を流しながら首を縦に振る。祈りは甘い気持ちだったけど苦かったみたい。天の川に流れてこの願いが届きますように。私は、手を合わせて祈った。きっと、また会えるよね。 解説 リクエスト企画から貰ったお題で書こうと思ったら七夕用に作った小説を出し忘れてた🫨ので投稿しときます!遅いけど、気分は七夕で読んでください🎋⭐️甘いけどどこか儚い恋物語です。 短冊の内容→みかちゃん‥お兄さんと結ばれますように →お兄さん‥君が、生きてる誰かと幸せになれますように
ガラスの踊り子
光が照る中、今日も私はスカートを揺らし舞う カラコロ カラコロ 私の足先から音が鳴る 鈴のような舞で風を吹かせる 君は今日も見てくれるかな 光が眩しくなる頃、君は私を見た 君は私の足を掴み何かを結ぶ 君は、ニコニコ 私は、カラコロカラコロ お願い事だった。なら守ってあげよう 私の舞は涼しいかな? 君はまた笑ってくれるかな? カラコロ…カラコロ 私の舞は今日も冷たい風を吹かせるよ 小さな私のお友達へ 今日は、フォロワーのつきみさんからもらったリクエストを題材に書いてみました✨🎐 久しぶりのゆるるの世界です 楽しんで読んでくれたら嬉しいです
ゆるるの呟き♯6
みなさんお久しぶりでーす! 私のこと覚えているかな?? 最近、ノベリーに浮上してなくて気づいたら一カ月笑笑😓書いてなさすぎて表現力落ちてそうなんだが! 物語のアイデアが浮かばないのでまたリクエスト募集しまーす!素敵な物語の設定たくさんコメントに書いてください! たくさんリクエスト来たら復活しようと思います!
魔女の鳥かご
窓を開けると微かな外の光が僕の顔を照らす。 鳥かごの中は真っ暗だからその微かな光に触れると安心した。鳥かごって言っても家の中だけど。僕は暗闇に寝転んでその光をそっとなぞった。あの人は外が嫌いなのか昼でもカーテンをしてる。 ドアが開く音がした。あの人が帰ってきたと思い急いでカーテンを閉める。 「ともくん、ただいま!ちゃーんとお留守番できた?」 「うん…夕食ありがと。お姉ちゃん」 「私の手作り美味しかったでしょ」 そう言ってお姉ちゃんは僕の前に座った。いつも昼にどこか出かけるお姉ちゃん。鍵とカーテンを閉めて僕を鳥かごに閉じ込める。見る限り大人ぽいし何か仕事をしてるのだろうか? 「お姉ちゃんは何の仕事してるの?」 「うーん。つまらない仕事だよ」 お姉ちゃんはそれ以上何も言わず「私、寝るから」と寝室に入って行った。お姉ちゃんは優しい。ご飯くれるし、一緒に夜ゲームしてくれる。でも、僕はいつ鳥かごから出れるの?このまま、ずっと閉じ込められるのだろうか?ここに来た時あの人は言った 「今日から、私のことお姉ちゃんって呼んで。ともくーんずっと一緒だよ。大丈夫、ここでの楽しい生活で本当のお家のことも忘れるよ」 あの人の笑ってるのに冷たい視線が僕の脳裏にこびりつき離れない。僕は布団の中、ぎゅっと目を閉じた 「ともくん朝だよー」 お姉ちゃんに体を揺さぶられ朝日が顔を照らす 朝ごはんを食べてる時、玄関のチャイム音が響いた。僕の体温がグッと上がる。人だ、ここから出れる!僕が立ちあがろうとした時、ドンと背中を誰かに叩かれた。すべって僕は隣の部屋に転ぶ。 「え、、お姉ちゃん?」 「ともくんはここで待ってて」 そう言ってお姉ちゃんはドアを閉めた。 僕の心臓が鳴る。出ていこうとしたら叩かれた。僕の心は、逃げられないという恐怖に駆られ耳をドアにくっつけて聞き耳を立てるしかなかった。 ドアに張り付く自分の手を見ると震えている。 「すみません。警察の者ですが」 玄関の方から声が聞こえてくる。 え!警察?何で 「最近、近くで小学生の男の子が行方不明になって保護者から連絡が届いたんです。何か知りませんか?」 それ僕です!ここにいます!と言いたかったがここで言ったらあの人にどんなことされるかわからない。 「いえ、知りません。」 お姉ちゃんの声が聞こえてくる。あー。玄関に僕の小さな靴があったらな。気づいてもらえるのに。昨日、玄関を見たら靴がなかった。おそらく見つからないようにどこかに隠されたんだ ドアが開いた。お姉ちゃんは何もなかったようにニコニコ笑っている 「誘拐だって、、怖いねー。私も弟が誘拐されたら泣いちゃうよ。ともくん気をつけてね」 僕は、言葉が出なかった。だっていつもと違ってお姉ちゃんの目がすごく冷たかったから。あの日と同じだったから。僕はあんたの弟なんかじゃない 「ともくん?どうしたの?そんな青ざめた顔で」 「な、何でもない。」 僕が脱出をしようと思ったのはお姉ちゃん、、あの人が寝てる1時頃だった。足音を立てないようにそっと廊下を通り玄関のドアを開ける。僕は手ぶらではなかった。もし、襲われたらとキッチンにあった包丁を持っている。昔、襲われたら抵抗していい。それは正当防衛だから罪には問われないと聞いたことがある。僕は勇気を振り絞りドアを開けた。外は真っ暗で誰もいなかった。とりあえず近くのコンビニに行って助けてもらおう!僕が走ろうとすると誰かに左手首をぎゅっと掴まれた。 「何してるの?ともくん?」 それは、パジャマ姿のあの人だった。僕は必死にこの場を逃げるための言い訳を考える。 「お、お腹すいたからコンビニにお菓子を、、」 「あー。お姉ちゃんが買ってくるよ。そうだよね!男の子なんだからいっぱい食べるもんね」 僕の言い訳は通じなかった。だから、、 「放せ!放せよ!あんた、僕を誘拐しただろ!お姉ちゃんって何だよ。何で知らない人に向かってそう言わなきゃいけないんだ」 僕は思いっきり力を入れて手を振り払った。そして、持っていた包丁を向ける。 「へぇー。悪い子だね。ともくん!お家に帰ったら縄で体縛ってガムテープで口を塞がなきゃ」 女は怖い顔を向けながら僕に飛びかかった。 「ザク」 その時、何かが何かに刺さった。僕の視界が真っ赤に染まる。その瞬間、女は倒れた。持っていた包丁を見ると赤い液体が垂れている。そうか、、僕が あれから、あの人がどうなったのかわからない。 あの夜気づいたら病院のベットで、お母さんとお父さんがいた。2人、倒れていたとこを交番の人が助けてくれたらしい。 「よかった、、よかった。ともくん。ごめんね、早く助けてあげられなくて」 お母さんとお父さんとたくさん泣いた。僕は鳥かごを抜け出し羽を広げて幸せへと戻って行った。 ここで、おしまい。ならよかったんだけど僕はお父さんにもお母さんにも言っていない秘密があの夜起こってしまった。僕を何日も閉じ込めたあいつを優しいふりして騙したあいつを、、、 人の形をした化け物を体の形がなくなるほどぐちゃぐちゃに包丁で何度も切ったことを。魔女は僕だったのかもしれない。罪にはならないよね?だって、、僕はまだ小さな小鳥なんだから。
花の蜜が溶けていく後編
さやちゃんのお父さんが転勤するとお母さんに言われたのはあれから一年経った春の日だった。 「お母さん、転勤って何?」 僕がランドセルに新しくもらった6年生の教科書を入れながら言うと 「どっか遠くにお仕事しにいく所よ。だからさやちゃん転校するかもしれないね」 その時、僕は嘘だと思った。だってさやちゃんは一度もそんなこと言ってないし様子も変わってなかったから。僕は家を飛び出し急いで学校に行く。 学校に着くと入り口付近にクラスを確認するみんながいた。その中にさやちゃんがいないか急いで探す。 「おー、おはよう!今年も同じクラスだったぜ!うん?何でそんな焦ってるんだ?」 走ってきて息が上がった僕をけんとは見つめてくる。 「さ、さやちゃんは?」 あー。とけんとは納得した顔をして答えた。 「なんか春休みの間に学校辞めて遠くへ言ったらしいよ。先週さやとお別れのパーティーをしたってさっき女子から聞いたし」 「そ、そんな。さやちゃんはもういないってこと?」 顔を下に向けて地面を見る。こんなことなら好きって言えばよかった。さやちゃんともっと遊べばよかった。 「まぁ、そんなに落ち込むなよ。親の事情ってやつだし、まぁお前は悲しいよな」 教室に入り新しいクラスメイトを見た。髪がさらさらな子、二重が綺麗な子を見つけたが僕にはさやちゃんが一番の美人で優しい子だと思ってるから何とも思わない。けんとは女子に挨拶をして去年とあんまり変わっていなかった。 今年も、バレンタインの義理チョコを狙っているのだろうか。甘党なけんとなら今年も考えているのかも。あ、バレンタインに告白すればよかったとまたさやちゃんの顔が僕の脳裏によぎる。でも後悔しても変わらないんだ。 家に着き僕はポストのふたを開ける。今日は確かお母さんの友達から手紙が来るって言ってたから取っとかなきゃ。その時、僕は首を傾げた。2つ手紙が入っていたのだ。1つはお母さん宛て、もう1つは…黄色の封筒で裏を見ると“さやより”と書かれている。僕は思わず「え!」と叫んでしまい急いで家の中に入る。リビングに行って座り封筒をそっと開けて手紙の文字をゆっくりと読んでいく。 “突然引っ越しちゃってごめんね。お別れを言う のを忘れたので手紙を送りました。一緒に遊んでくれてありがとう。とっても楽しかった。女の子の友達ばっかだったから男の子とか初めてだったの。でね、実はちょっとだけ好きだったの。言いたかった。言いたかったけど恥ずかしくて、、文字で気持ちが伝わったかな?ふふ、ラブレターみたいだね。最後に少しの間ありがとう。” 僕は最後の文を見た時心臓が口から出そうなぐらいドキドキした。さやちゃんも同じ気持ちだった。やっと気づいた。どっちも恥ずかしくて言えなかったってこと。僕の気持ちはさやちゃんに届いてたってこと。手紙の裏を見るとさやちゃんのらしき電話番号が書かれていた。出るかわからないけど廊下にある家の固定電話の受話器を持って番号を押していく。 「はい。こちら松浦です。」 大人の女の人の声がした。僕はさやちゃんいますか?と緊張しながら答える。女の人は 「わかりました。呼びますね」 僕は、この無言の時間が嫌だった。さやちゃんはなんて言うだろう。 「もしもし。誰ですか?」 「ぼ、僕だよ。こんにちは。さやちゃん」 「えぇぇ!」 さやちゃんが叫んだ後ドンと音がした。多分びっくりして受話器を落としたのだろう。 「あのさ、手紙読んだよ。ありがと実はね僕も同じ気持ちなんだ。」 僕がそう答えると受話器から「嬉しい」と聞こえてきた それから何年か経って僕たちが電車の中で再会した話はまた別のこと。 僕は一軒家の引越しのため荷物を詰めていた。そんな時、押し入れから見つかったダンボールにあったのが小学校の時のアルバム。思い出をなぞって僕は懐かしいとあの頃を想像する。 僕の妻である結衣が袋を抱えながら 「こっちのダンボール終わったよ」と言ってきた。はーいと返事をして僕はそっとダンボールを閉じる。これは結衣にも見せていない思い出の箱。僕とさやちゃんの関係は高校まで。僕が留学に行って遠距離になり付き合えなくなった それでも、僕はさやちゃんを忘れない。でも今は結衣を大切にしたい。春が近づく度、花を見るたびに彼女を思い出す。 「結衣、これからよろしく」 結衣はニコリと笑って頷いた。