カシミヤ
11 件の小説カシミヤ
気ままに投稿する大学生です。授業の合間と休みのタイミングを見計らって投稿します。皆様も好きなタイミングで読んでいただければと思います。リクエストあればいつでも大歓迎です。
地獄の皆様、プルガトリウムへの行き方を教えてください。1
私の妹が、 「私はね、死ぬのは怖くないの。むしろ気になって気になってワクワクするくらいなんだけどね。でも、天国にも地獄にも行けないのが一番怖いの。」 こんなことを言った。 妹の言う、「天国でも地獄でもない場所」というのは日本語で煉獄、英語でプルガトリウムというらしい。妹は昔から好奇心旺盛だった。姉である私とは違って。でも、プルガトリウムという言葉の響きが妙に気に入って、気になってしまった。冒険はしない主義で、安全な場所に居たいはずなのに、私はなぜかその場所に行ってみたいと思ってしまった。 私が現世の地面から足を離すためにかかった時間はそう長くはなかった。どこかの映画で言っていた。「地から離れては生きられないのよ」と。つまりはその逆のことをすればいいのだから。私はマンションの13階から飛び降りる。内臓が浮く感覚、ゆっくりと落ちていく感覚、道行く人が焦っている様子。すべてが面白く感じる。地面に叩きつけられた体は、固体と液体をぶつけた音がする。一瞬だった。私は死んでしまった体を上から眺めている。飛び散った血液は、アスファルトの隙間にしみこんでいく。病院に搬送されるも、即死した私。私の両親は悲しんでいた。私は妹が自殺する機会を奪ったのだ。私が代わりにみてくるよ。プルガトリウムという空間を。 葬式が執り行われる前まで私は自分の亡骸と細い糸のようなもので繋がっていた。例えるなら、水あめを練って伸ばしたような半透明の糸である。この糸は思った以上に頑丈で、行動を制限するのである。まぁ、下手に動き回ると霊感の強い母と妹にばれるからそこそこにしておいた。葬儀が終わり、火葬される前あたりに地獄の職員がやってきてその糸を切ってくれた。私は迎えに来てくれた大きな火車という猫に連れられ地獄の裁判にかけられるようだ。不思議と怖くなかった。怖い見た目ではあるが「大きなオレンジ色の猫だなぁ」という感想以外は何もなかった。 大きな猫の背中に乗って地獄の門前まで行く。牛と馬の門番がいる。牛頭と馬頭というらしい。自分の身長よりも何倍も大きな鉄製の扉をくぐると暗い空間が広がっていた。白い柱が何本もあってそれ以外には何もない。足音が嫌に反響する。暗闇は自分の心を圧迫してくる。気持ちのいい場所ではない。そう思いながら歩いているとまた扉があって押したら簡単に開いた。そこは赤い世界だった。地面は舗装されていない土丸出しの道で、一本の長い道がただひたすらに遠くに伸びている。木々は枯れたような葉をつけない寂しい風景で、熱風が私の肌を焼く。冥界の旅装束のおかげか私は特に困ることもなく前に進む。途中で怪しげな声も聞こえてくる。誘惑しているような、貶めるような甘いささやき。本能からか、気づけば私はすべて断っていた。 長い道をただひたすらに歩いた先に大きな門があった。青い瓦に、クリーム色の壁。鉄でできた部品たち。そこにもまた鬼の門番がいた。中に促され青いタイル張りの空間に入っていく。最も奥の部屋に裁判官がいた。この人が私を裁くようだ。わかっている。私は自ら命を絶ったのだ。それ相応の地獄にはいくだろう。そう覚悟していた。 「大した罪なし。最終結論が出る第五審で天国か現世への転生が決まる」 これが私に下された判決だった。私は裁判官に聞いてみた。「プルガトリウムに行くにはどうすればいいか」と。その時、裁判官の横にいた補佐官が口を開いた。 「なぜ行きたいのか。」私は正直に言う。「興味があったから私は死んだのです」と。裁判官とその補佐官はため息をついて私を見る。 「尊い命を犠牲にしてまで気になったのか。それならば第五審の判決が下った後、同じことを聞いてみればよい。行き方を教えてくれるであろう。」 と教えてくれた。その後、私は第一裁判所を出てまた殺風景な道を進む。時折叫び声が聞こえてくる。大きな鳥がこちらをじっと見つめてくるときもある。私は目もくれずただ歩き続けた。
ご報告
皆様、こんにちは。私事なのですが、今さっき創作サークルを脱退してきました。そのサークル自体は居心地もよく、人当たりのいいひとばかりでした。ですが、なぜ脱退したかったかと言いますと、一年を分割してサイクルを作りそれぞれを目標や振り返りをしたり、サークルの方向性について話し合う会議があったり、創作談義という部門ごとにお題を出して創作するという課題のようなものが出されるわけです。私はそれがつらかった。 中高生の時、つらい時期が長くありました。学校生活を苦しめていたのはいじめでも仲間外れでもありません。(もちろんそれもありましたが)それは「しなきゃいけない」という自分自身の考え方です。頭の中に渦巻く課題やしなければいけないこと。できなければ、ずっと頭の中に居座り続ける。それが本当につらかった。失敗すれば自己嫌悪、達成してもまた新しい課題や仕事が次々と生まれ出る。そんな状況から早く抜け出したくて自殺を試みたこともありました。 このアカウントはパソコンでのアカウントなのですが、実はスマホのアプリのほうで3、4年前から投稿をしています。アカウントの引継ぎがちょっとうまくいかなくて別々の媒体になっています。なぜ、こっちのアカウントで報告しているかというと、そのサークル長はスマホのアカウントを知っているんですね。フォローもされてます。言い方を悪く言えば監視されているようなものです。個人的な話ものその人とはたくさんしているので正直かけない話も多いわけです。書きたいこと、話したい事、作りたい話を少し頭の中で制限しなきゃいけないことが私にとってはすごくストレスだったわけですね。 まぁ目標とかを立てて活動しないとサークルとして成立しないというのも十分わかります。でも、提出が必要なんですよ。例えば「週に2作投稿する」って目標を立てた場合、その集計とかを提出する必要があると。しかも、目標や振り返りってサークルの幹部に提出するわけじゃなくて全員にみられる場所に書かなきゃいけないんです。嫌でしたね。正直。それに、私は一応共通テストを受けた身なので受験勉強をしてたわけなんですが、その一年くらい活動を休止していたんです。で、いざ復帰したと思ったら、サークル内のカテゴリーというかシステムが結構変わってて新しい空気感についていけないなと思ったのも一つの理由です。 長々と書きましたが、言いたいのは「誰にも縛られず自由に小説や絵をかきたい」ということです。サークルの目標のために書いてるわけではないし、コミケとかでお金を稼ぎたいからいいものを書きたいわけでもないんです。下手の横好き程度であってもいいから、自分の言葉を紡ぎたい。小説を通してみんなとつながりたい。だから書くんです。 これからもどうぞよろしくお願いします。カシミヤでした。 (※スマホ版のアカウントを知りたい方は「もちもち金斗雲」で調べると出てきます)
消えないシャボン玉
シャボン玉の中に上下逆さまの世界が映る。透明な膜を一枚隔てた先に笑う君がいた。 「シャボン玉なんて子供の時以来だわ。」 君は緑色のパイプに液をつけて、胸いっぱいの息を優しく吹き込む。 咲き誇った桜を反射するきれいな丸。時々連結して複雑な形を作る。 満足そうに笑う君。僕はその笑顔に惚れていた。知らない間に。 60年の月日が流れて、君は今病室のベッドに横たわっている。 しわしわの手に、掠れた声、白銀の髪の毛。 僕らは多くの時間をともにした。 君の体の中には悪い虫が住み着いて、君の体の中から蝕んでいった。 見る見るうちに弱っていく君。 寂しいよりも悲しいよりも先に 僕は君を抱きしめた。 「よく生きたね。ずっと隣にいてくれてうれしかったよ。」 もう二度と力の入らない君の手を握って僕は笑う。 悲しくないわけじゃない。 やっと泣けたのは 自分が死ぬ時だった。 これでやっとずっと 君と一緒に居られる。
湖の真ん中で。
今時珍しい木の船で湖の真ん中にいる。水の中には青色の魚が尾を翻し翻し泳いでいる。ころころと角の取れた丸石が敷き詰められていて、ところどころ苔むしている。 私は小さく白いキャンバスを手に取り、パレットを広げる。油絵の具で視界に入った色を次々に塗っていく。筆越しに、ペインティングナイフ越しに感じる、キャンバスのざりざりとした感覚。凹凸に色が入っていく。ないものを埋めるように、自分色に染めるように。自由自在なのが私は好きなのだ。 風が吹く。水面が揺れる。船は動く。 地球は休みなく動いている。 当たり前のことをこの身をもって実感するまで私は長らく時間がかかってしまった。 忙しいのが当たり前、我慢するのが当たり前、否定されるのが当たり前。 私はそんな日々を過ごして、とうとう壊れてしまった。 人間の 頑張れる期間は有限なのだ。 私は使い切ってしまった。 これからは自分のために生きよう。
ジグソーパズル
まだ幼い妹を連れて散歩に行ったとき、妹が空を指さして 「神様がお空でパズルしてるよ」 って言ったんだ。なんだろうって思って空を見上げたら 大きなくぼみを持った雲が広がっていた。 そっかぁ。妹にはジグソーパズルのピースに見えたんだね。 何に見えるかとか、自分はこう思ったとか 大人になるにつれて忘れちゃうんだよね。 空気を読むことが一番だって 周りに合わせることが一番だって 社会の波にのまれた人間は いつの間にか 他人の価値観を 自分の価値観だって 思い込んでしまうんだもの。 心に手を当てて ゆっくり思い出してごらん。 忘れていたものは すぐそこにあるんだよ。
幸せでも人は死ぬ
人間は儚い生き物だ。 心臓にナイフを突き刺して引き抜けば やがて死ぬ。 ストレスが重なって 吐き出す場所がなければ 心が死ぬ。 会社で悪いことをして 社会的に死ぬ。 亡者は現世にいる人たちに 思い出してもらわなければ 死ぬ。 不思議よね。 死んでもまた死ぬなんて。 世間は死であふれている。 今日も世界のどこかで人が死ぬ。 僕らはその一人でも多くの人を 身体的、精神的、社会的な死から 救えたらいいのにね。
黒猫は福を呼ぶ
ある雨の日。鈍色の空から銀色の水がざぁざぁと降る午前十一時。僕は傘をささず家を出た。それはもう数分で前身はずぶ濡れ、靴の中に水が出たり入ったり非常に気持ちが悪い。脳天をつく雨は冷たくて体が芯まで冷える。心の中まで冷え切りそうになる。わかっていながら僕はこんなことをするのだ。変人と言われてもしょうがない。うんうんと独り言をつぶやきながら散歩をしていると、一匹の猫が僕にすり寄ってきた。毛艶のいい黒猫だった。猫は水を嫌うというのにこの猫は雨でずぶ濡れだった。ふわふわとした毛だろうに。雨でぺしゃっとした細い猫だ。しかし、この黒猫は僕に同情するような眼を見せる。びしょ濡れのなのはお互い様なのに。黒猫は僕の足元にきてちょこんと座った。そしてなぜか、僕の右足に左手をぷにっと置いた。僕はいったんしゃがんで、猫の頭に手を置いた。猫に人の言葉をしゃべっても、理解してくれるなんて思っていないけれど、ダメ元で話しかける。 「君は?どこから来たんだ?首輪があるから飼い猫なんだろう?」 黒猫は「なぁーん」と鳴いて、僕の手のひらに顔を擦る寄せる。猫の言葉はわからないが、かわいいのは確かだ。 「家に帰らなくていいのか?」返事はない。のどを軽くなでる。それでも返事はない。このまま放っておけば僕もこの猫も雨で冷え切り低体温症になりかねない。 「しょうがない。今日だけだぞ。」僕は猫を抱え、家に帰ることにした。抱えたとき、胸の中で黒猫は満足げに小さく「なぁん」と鳴いた。毛越しに感じる猫の肋骨や上下する筋肉。そして脈打つ心臓にその他の臓器。この猫は生きているんだと改めて感じる。 家に入るとうっかりつけっぱなしにしていた玄関が迎えてくれた。 「しまった…。電気つけっぱなしで出ちゃったか。」電気代もったいねぇ…とかつぶやきながら、風呂場からタオルを持ってくる。猫を優しくくるんで拭く。おとなしく拭かれる姿は愛らしい。タオル越しに肉球を触るとちゃんと爪が出てきた。ちなみに肉球は桜色だった。自分も濡れた服をかごに入れ、バスローブを着て猫を連れてリビングに向かう。ドライヤーで猫の毛を乾かす。数分後には乾き、毛艶のいい猫に戻っていた。どうやら長毛種のようだった。凛々しい顔つきをしている。自分も髪の毛を乾かそうとドライヤーをいじっていると猫が膝の上に乗り、丸くなる。本当に心のつかみ方がうまい猫だなぁ…と感心していたらすぐに降りられてしまった。つかの間の猫の温かさを感じた瞬間だったのに…。と心の自分は涙を流す。 何の変哲もない日常からは打って変わり、一人の人間と一匹の猫の生活に変化した。明日はどんな一日になるのかな。
兎と狼
カーテンを開けると、向かいの部屋の人と目が合う。 なにか会話があるわけじゃないけれど、 あの人はにこやかに笑う。 一度部屋に入って黄色のポットを持ってきて 観葉植物に水をかけ始める。 種類は複数あって、サボテンやハエトリソウ ウツボカズラ、アロエなど。 どうやら多肉植物が好きなようだ。 水をかけ終えると、あの人は部屋に入ってしまう。 僕はただ、毎日その時間を見ることが好きだった。 好きになるきっかけは、そこら中に転がっている。 なにかの名言にあった気がする。 僕の場合は、あの人のあの時間を守りたい。 それがきっかけだった。 ある日の夜。 僕は友達と居酒屋で呑み、いい感じに酔いが回っていた。 そういう時は大体、家でももう一杯やりがちになる。 冷蔵庫を開け、冷やしてある缶のハイボールを手に取る そして食器棚の下段にしまっておいたつまみを無造作に開け 部屋で一杯やることにした。適当にテレビをつけ 時々鼻で笑いながらちびちびと呑む。 僕はこの時間が好きだった。 そんな時、インターホンが鳴った。 一瞬酔いがさめそうになった。 モニターを見ると、向かいに住むあの人だった。 扉を開けると、あの人はおびえた様子で部屋に入ってきた。 「助けてください…。」とか細い声で言った。 その様子は、天敵に睨まれおびえるウサギのようだった。 話を聞くと、付き合っていた彼氏に暴力を振るわれるようになり あの部屋から逃げてきたとのこと。 今は彼氏は部屋で寝ているらしい。 サンダルや靴も履かず、 服も着ずブランケットだけを纏った姿を見ると 緊迫した様子なのがよくわかった。 僕はかくまうことにした。 いや、いいチャンスだと思ったのかもしれない。 とりあえず、風呂に入れて僕の下着や服を貸した。 風呂から上がったあの人は、 頬が赤らみ濡れた髪の毛が本当にかわいらしい。 僕はココアをいれて飲むように促す。 少し落ち着くと話し始めた。 「僕は今の彼氏と付き合い始めて三か月が経ったんですが、 彼、お酒を飲むと口調が強くなるんです。 最近は手を挙げることも増えて…。 それに…。無理やり襲ってくることも…増えて…。」 彼は手をぎゅっと強く握りしめて言う。 僕は彼の肩に毛布をかけて、肩をさすりながら 「ここなら、きっと安心ですからね。 しばらくはここで暮らしませんか?」 我ながら大胆すぎるかもしれない。 不謹慎かもしれない。それでもすこしでも この人と長く一緒に居たかった。 すると彼は大きな涙を瞼に浮かべ「いいんですか?」と言う。 相当な恐怖が彼を支配していたのかもしれない。 少しでも安心させたいという 母性のようなものが芽生えた瞬間だった。 それとも、安心させた後 自分の思い通りにしてしまおうという悪魔の心か。 今はまだわからない。きっと神様にも。 彼の寝顔が星明りに照らされ、すやすやと眠る姿は 今まで見たものの中で一番美しかった。
サヨナラの形
サヨナラの形は 様々だ 例えば 卒業式とか式典でお別れする形。 ほかには 「さよなら」「また明日」言葉でするお別れ。 涙ぐんで、いい思い出で、時に心に桜が咲く そんなこともあるだろう。 でも僕らがしたお別れは、あまりにもあっけなかった。 君が「もう無理」 と書いた手紙で僕らの仲はなかったことになった。 それから三十年の時がたった今でも その手紙を捨てることができない。 悲しいはずなのに 苦しいはずなのに なぜか何度も何度も読み直してしまう。 君が僕にかけた言葉。 「大好き」とか「かけがえのない存在」とか 思い出す言葉はどれもこれも ありふれた言葉。 それでも 君が言うから 君の口から出てくる言葉だから 僕は君が大切で守りたくて愛おしかった。 文通で始まった恋は 文通で終わるしかないのだ。 ああ。 君とみる世界の景色は さぞ美しいのだろうな。
物語の一部
僕は小さい時から、昔話が大好きだった。 桃太郎とかかちかち山とか王道なものから 地方でしか知られていないような、マイナーなものまで。 元々父がそういうのが好きだったっていうのもあるかもしれない。 日本昔話のDVDとか、絵本とかそういうものが身近にあったんだ。 昔話って、教訓が含まれているものが多いよね。 「こうなってはいけませんよ」とか 「欲を出しすぎるといい結果になりませんよ」とか。 でもさ。 そうやって先人たちがなぞらえてきた教訓も 小さいときに学んだ大切なことも 大人になると多くの人が忘れてしまう。 それよりも大切なことが、考えなきゃいけないことが増えるから。 僕も忘れていた張本人。 自分も、物語の一部にならないように 気をつけなきゃね。