黒猫は福を呼ぶ

 ある雨の日。鈍色の空から銀色の水がざぁざぁと降る午前十一時。僕は傘をささず家を出た。それはもう数分で前身はずぶ濡れ、靴の中に水が出たり入ったり非常に気持ちが悪い。脳天をつく雨は冷たくて体が芯まで冷える。心の中まで冷え切りそうになる。わかっていながら僕はこんなことをするのだ。変人と言われてもしょうがない。うんうんと独り言をつぶやきながら散歩をしていると、一匹の猫が僕にすり寄ってきた。毛艶のいい黒猫だった。猫は水を嫌うというのにこの猫は雨でずぶ濡れだった。ふわふわとした毛だろうに。雨でぺしゃっとした細い猫だ。しかし、この黒猫は僕に同情するような眼を見せる。びしょ濡れのなのはお互い様なのに。黒猫は僕の足元にきてちょこんと座った。そしてなぜか、僕の右足に左手をぷにっと置いた。僕はいったんしゃがんで、猫の頭に手を置いた。猫に人の言葉をしゃべっても、理解してくれるなんて思っていないけれど、ダメ元で話しかける。 「君は?どこから来たんだ?首輪があるから飼い猫なんだろう?」  黒猫は「なぁーん」と鳴いて、僕の手のひらに顔を擦る寄せる。猫の言葉はわからないが、かわいいのは確かだ。 「家に帰らなくていいのか?」返事はない。のどを軽くなでる。それでも返事はない。このまま放っておけば僕もこの猫も雨で冷え切り低体温症になりかねない。 「しょうがない。今日だけだぞ。」僕は猫を抱え、家に帰ることにした。抱えたとき、胸の中で黒猫は満足げに小さく「なぁん」と鳴いた。毛越しに感じる猫の肋骨や上下する筋肉。そして脈打つ心臓にその他の臓器。この猫は生きているんだと改めて感じる。    家に入るとうっかりつけっぱなしにしていた玄関が迎えてくれた。 「しまった…。電気つけっぱなしで出ちゃったか。」電気代もったいねぇ…とかつぶやきながら、風呂場からタオルを持ってくる。猫を優しくくるんで拭く。おとなしく拭かれる姿は愛らしい。タオル越しに肉球を触るとちゃんと爪が出てきた。ちなみに肉球は桜色だった。自分も濡れた服をかごに入れ、バスローブを着て猫を連れてリビングに向かう。ドライヤーで猫の毛を乾かす。数分後には乾き、毛艶のいい猫に戻っていた。どうやら長毛種のようだった。凛々しい顔つきをしている。自分も髪の毛を乾かそうとドライヤーをいじっていると猫が膝の上に乗り、丸くなる。本当に心のつかみ方がうまい猫だなぁ…と感心していたらすぐに降りられてしまった。つかの間の猫の温かさを感じた瞬間だったのに…。と心の自分は涙を流す。  何の変哲もない日常からは打って変わり、一人の人間と一匹の猫の生活に変化した。明日はどんな一日になるのかな。
カシミヤ
気ままに投稿する大学生です。授業の合間と休みのタイミングを見計らって投稿します。皆様も好きなタイミングで読んでいただければと思います。リクエストあればいつでも大歓迎です。