湖の真ん中で。

 今時珍しい木の船で湖の真ん中にいる。水の中には青色の魚が尾を翻し翻し泳いでいる。ころころと角の取れた丸石が敷き詰められていて、ところどころ苔むしている。  私は小さく白いキャンバスを手に取り、パレットを広げる。油絵の具で視界に入った色を次々に塗っていく。筆越しに、ペインティングナイフ越しに感じる、キャンバスのざりざりとした感覚。凹凸に色が入っていく。ないものを埋めるように、自分色に染めるように。自由自在なのが私は好きなのだ。  風が吹く。水面が揺れる。船は動く。  地球は休みなく動いている。  当たり前のことをこの身をもって実感するまで私は長らく時間がかかってしまった。  忙しいのが当たり前、我慢するのが当たり前、否定されるのが当たり前。  私はそんな日々を過ごして、とうとう壊れてしまった。
カシミヤ
気ままに投稿する大学生です。授業の合間と休みのタイミングを見計らって投稿します。皆様も好きなタイミングで読んでいただければと思います。リクエストあればいつでも大歓迎です。