地獄の皆様、プルガトリウムへの行き方を教えてください。1
私の妹が、
「私はね、死ぬのは怖くないの。むしろ気になって気になってワクワクするくらいなんだけどね。でも、天国にも地獄にも行けないのが一番怖いの。」
こんなことを言った。
妹の言う、「天国でも地獄でもない場所」というのは日本語で煉獄、英語でプルガトリウムというらしい。妹は昔から好奇心旺盛だった。姉である私とは違って。でも、プルガトリウムという言葉の響きが妙に気に入って、気になってしまった。冒険はしない主義で、安全な場所に居たいはずなのに、私はなぜかその場所に行ってみたいと思ってしまった。
私が現世の地面から足を離すためにかかった時間はそう長くはなかった。どこかの映画で言っていた。「地から離れては生きられないのよ」と。つまりはその逆のことをすればいいのだから。私はマンションの13階から飛び降りる。内臓が浮く感覚、ゆっくりと落ちていく感覚、道行く人が焦っている様子。すべてが面白く感じる。地面に叩きつけられた体は、固体と液体をぶつけた音がする。一瞬だった。私は死んでしまった体を上から眺めている。飛び散った血液は、アスファルトの隙間にしみこんでいく。病院に搬送されるも、即死した私。私の両親は悲しんでいた。私は妹が自殺する機会を奪ったのだ。私が代わりにみてくるよ。プルガトリウムという空間を。
葬式が執り行われる前まで私は自分の亡骸と細い糸のようなもので繋がっていた。例えるなら、水あめを練って伸ばしたような半透明の糸である。この糸は思った以上に頑丈で、行動を制限するのである。まぁ、下手に動き回ると霊感の強い母と妹にばれるからそこそこにしておいた。葬儀が終わり、火葬される前あたりに地獄の職員がやってきてその糸を切ってくれた。私は迎えに来てくれた大きな火車という猫に連れられ地獄の裁判にかけられるようだ。不思議と怖くなかった。怖い見た目ではあるが「大きなオレンジ色の猫だなぁ」という感想以外は何もなかった。
大きな猫の背中に乗って地獄の門前まで行く。牛と馬の門番がいる。牛頭と馬頭というらしい。自分の身長よりも何倍も大きな鉄製の扉をくぐると暗い空間が広がっていた。白い柱が何本もあってそれ以外には何もない。足音が嫌に反響する。暗闇は自分の心を圧迫してくる。気持ちのいい場所ではない。そう思いながら歩いているとまた扉があって押したら簡単に開いた。そこは赤い世界だった。地面は舗装されていない土丸出しの道で、一本の長い道がただひたすらに遠くに伸びている。木々は枯れたような葉をつけない寂しい風景で、熱風が私の肌を焼く。冥界の旅装束のおかげか私は特に困ることもなく前に進む。途中で怪しげな声も聞こえてくる。誘惑しているような、貶めるような甘いささやき。本能からか、気づけば私はすべて断っていた。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2025/5/13 10:23
カシミヤ
気ままに投稿する大学生です。授業の合間と休みのタイミングを見計らって投稿します。皆様も好きなタイミングで読んでいただければと思います。リクエストあればいつでも大歓迎です。