山田・まんでぃ〜・エロガキ

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山田・まんでぃ〜・エロガキ

小学生なので、誤字脱字とかあるかもしれません。暇な時投稿します。表紙はなるべく自分で描きたいです。投稿頻度がもやし(?)

ショッピングモール

## スターライト・メモリー ### 第一章:星影の出会い 佐藤陽菜は、金曜日の放課後になると、決まって同じ場所を目指した。街の中心部から少し離れた場所にそびえ立つ、巨大なショッピングモール、「スターライトモール」だ。ガラス張りのドーム状の屋根が特徴的なその建物は、晴れた日には陽光をいっぱいに浴びてキラキラと輝き、夜には色とりどりのネオンサインが星のように瞬くことから、いつしかそう呼ばれるようになった。 陽菜がここでアルバイトを始めたのは、高校に入学してすぐのことだった。モール内にある、古本と新しい本が入り混じる、どこか懐かしい雰囲気の小さな本屋「星屑文庫」。本の匂い、紙の感触、そしてそこに並ぶ無数の物語に囲まれている時間が、陽菜にとって何よりの癒しだった。 この日も、陽菜は星屑文庫の制服に着替え、レジカウンターに立っていた。週末を前にして、店内は学生や仕事帰りの人々で賑わっている。陽菜は、レジを打ちながらも、時折店内を見渡すのが好きだった。新しい本を探す人、古本を手にじっと立ち読みする人、友達と楽しそうに本を選んでいる人。それぞれの物語が、この場所で交差しているように感じられた。 陽菜のもう一つの趣味は、写真を撮ることだった。古いフィルムカメラを片手に、街の風景や日常の一瞬を切り取るのが好きだったが、最近はスターライトモールの中を被写体にすることも増えていた。ガラスの屋根から差し込む光、エスカレーターを行き交う人々、カラフルなショップのディスプレイ、そして、時折見せる人々の笑顔。この巨大な箱庭の中には、無限の被写体があるように思えた。 バイトが終わる少し前、陽菜は店内の棚の整理をしていた。背の高い棚の一番上の段に手を伸ばそうとした時、足元の段ボール箱につまずきそうになり、バランスを崩す。危ない、と思った瞬間、背後から伸びてきた手に支えられた。 「大丈夫?」 落ち着いた、少し低めの声が耳に届く。振り向くと、そこに立っていたのは、陽菜と同じくらいの年齢の男の子だった。黒いTシャツにジーンズというラフな格好だが、どこか洗練された雰囲気がある。少し茶色がかった髪はゆるくウェーブしていて、伏せがちな長いまつげの下には、吸い込まれそうなほど深い色の瞳があった。 陽菜は驚きのあまり、声も出なかった。ただ、男の子の顔を見上げる。 「気を付けてね」 そう言って、男の子は陽菜が落としそうになった本を拾い上げ、棚に戻してくれた。その手つきは丁寧で、本を大切に扱っているのが伝わってきた。 「あ、ありがとうございます…!」 ようやく声が出た陽菜に、男の子はにかっと笑った。その笑顔は、クールな印象とは裏腹に、陽射しのように暖かかった。 「いえ。怪我、なかった?」 「はい、おかげさまで。本当に助かりました」 陽菜は深々とお礼を言った。男の子は「よかった」と安心したように頷くと、陽菜が整理していた棚に目を向けた。 「ここ、好きなんだ。静かで」 「そうなんですね。ありがとうございます」 陽菜は少し気恥ずかしくなった。いつもここでバイトしているのに、こんな風に声をかけられるのは初めてだったからだ。 「どんな本、読んでるんですか?」 陽菜が思い切って尋ねてみた。男の子は少し考えてから、指で一つの背表紙をなぞった。それは、陽菜も好きな海外の詩集だった。 「これ。ちょっと難しいけど、言葉の響きが好きで」 「私も好きです、この詩集。特に、夜の静けさを歌った詩が」 陽菜がそう言うと、男の子は少し目を見開いた。 「分かる? 俺もそれが一番好き」 なんだか、思わぬところで共通点が見つかったことに、陽菜の心は少し弾んだ。 「僕、田中悠真。君は?」 男の子は、優しく尋ねた。 「佐藤陽菜です」 陽菜は、ドキドキしながら答えた。田中悠真。その名前が、陽菜の心に刻まれた。 「佐藤さんか。よろしくね」 悠真はそう言うと、手に取っていた詩集をレジに持って行った。陽菜は慌ててレジに戻り、会計をする。悠真は財布から紙幣を取り出しながら、陽菜に尋ねた。 「いつもここにいるの?」 「はい、平日の夕方と、週末の午前中とかに」 「そっか。また来てもいい?」 その言葉に、陽菜の顔は一瞬で熱くなった。 「はい!ぜひ」 蚊の鳴くような声になってしまったが、陽菜は精一杯答えた。悠真は嬉しそうに笑うと、「ありがとう。また来るね」と言い残し、店を出て行った。 悠真の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、陽菜は一つ大きく息を吐いた。ドキドキが止まらない。さっきまでとは全く違う感情で、陽菜の心は満たされていた。 田中悠真。 スターライトモールの中の小さな本屋で出会った、少し不思議な雰囲気を持つ男の子。もしかしたら、この出会いが、陽菜の日常に新しい光を灯すことになるのかもしれない。陽菜は、手に持っていた詩集のページをそっとめくった。そこには、まだ知らない物語が、星のように輝いているような気がした。 (第一章 終わり) ### 第二章:モールに響くメロディ 悠真が再び星屑文庫に姿を見せたのは、その週末の土曜日だった。陽菜が午前中のシフトに入っていることを知っていたのだろうか。少し照れながら「こんにちは」と入ってきた悠真を見て、陽菜の心臓は跳ね上がった。 「いらっしゃいませ…あ、田中君」 「うん、また来ちゃった」 悠真はそう言って、店内をゆっくりと見て回った。陽菜はレジカウンターにいながらも、悠真の姿を目で追ってしまう。彼は前回と同じように、詩集や小説のコーナーで立ち止まることが多かった。 その日は、特に話すきっかけはなかったが、悠真がレジに来た時に少しだけ言葉を交わした。 「他に気になる本はあった?」 「うん、いくつか。でも、今日はこの一冊だけ」 悠真が手にしていたのは、有名なSF小説だった。意外な選択に、陽菜は少し驚いた。 「田中君、SFも読むんだ」 「あ、うん。たまにね。色々なジャンルを読んでみるのが好きで」 「そうなんだ。私は偏りがちで…」 「別にいいんじゃない? 好きなものがあるって素敵なことだよ」 悠真の言葉に、陽菜の心は温かくなった。 それから、悠真は平日の夕方や週末に、定期的に星屑文庫に顔を出すようになった。最初はお客さんとして本を買うだけだったが、次第に陽菜のバイトの休憩時間に合わせてやってくるようになった。 休憩時間は、モール内のフードコートや、スターライトモールの一番の目玉である屋上庭園で過ごすことが多かった。屋上庭園は、季節の花々が植えられ、ベンチやカフェも設置されている。天気の良い日には、ガラスのドーム越しに青空が広がり、まるで空中庭園のようだった。 屋上庭園のベンチに並んで座り、二人は様々な話をした。学校のこと、将来のこと、好きなこと、嫌いなこと。陽菜は写真を撮ることが好きなこと、悠真は音楽が好きで、バンドを組んでいることを話してくれた。 「バンド、やってるんだ!どんな音楽なの?」 陽菜は興味津々で尋ねた。 「うーん、なんていうか…衝動的な音っていうか…」 悠真は少し照れながら答えた。 「今度、モールの楽器店でちょっと試奏してみようかなって思ってるんだけど、来ない?」 悠真からの誘いに、陽菜は思わず「行く!」と即答した。 数日後、陽菜は初めてスターライトモール内の楽器店「メロディ・ボックス」を訪れた。ギターやベース、ドラムセットなどが並び、試し弾きをする音が響く店内は、星屑文庫とは全く違う活気と熱気に満ちていた。 悠真は、ギターコーナーでいくつかのギターを手に取っていた。慣れた手つきで弦を弾き、音色を確かめている。その真剣な横顔は、星屑文庫で見せる穏やかな表情とはまた違った魅力があった。 悠真がギターを試し弾きするのを見て、陽菜は思わずカメラを構えた。悠真の指先が弦を追う動き、音に集中する表情。それらを切り取っていくうちに、陽菜の心の中には、これまで感じたことのないような、甘くて切ない感情が芽生えていることに気がついた。 悠真がギターを置いて陽菜の元に戻ってきた時、陽菜は慌ててカメラを下ろした。 「どうだった?」 「うーん、やっぱりこのモデルがいいかな。音の伸びが違うんだ」 悠真は嬉しそうに話した。 「陽菜、写真撮ってたの?」 「あ、うん…練習で」 陽菜はごまかすように答えた。 「見せてよ」 悠真は陽菜のカメラを覗き込んできた。陽菜は少し躊躇したが、悠真のまっすぐな瞳に促され、シャッターを切った写真を見せた。 「わ…すごい」 写真を見た悠真は、感嘆の声を上げた。陽菜が撮ったのは、悠真がギターを弾く手元や、真剣な横顔、そして楽器店の独特の雰囲気だった。 「なんか、音が聞こえてくるみたい。陽菜って、本当にすごいね」 悠菜の素直な賞賛に、陽菜の顔はまた熱くなった。 「そんなことないよ…ただ、撮るのが好きなだけで」 「でも、俺が自分で見てるのとは全然違う。陽菜の視点って、すごく綺麗だね」 悠真はそう言って、陽菜の瞳をじっと見つめた。その瞬間、陽菜の心臓は破裂しそうなほど強く鳴った。彼の瞳の中に映る自分の姿が、なんだか別人のように見えた。 この頃から、陽菜は悠真のことを「友達」としてではなく、「気になる人」として意識するようになった。スターライトモールで悠真に会えると思うと、バイトに行く足取りも軽くなった。休憩時間が待ちきれなくなり、悠真とのメッセージのやり取りに一喜一憂するようになった。 星屑文庫、メロディ・ボックス、屋上庭園、そしてフードコート。スターライトモールの様々な場所が、二人の思い出の場所になっていく。陽菜の心の中には、悠真の存在が、星のようにきらめき始めていた。 (第二章 終わり) ### 第三章:レンズ越しの距離 悠真と過ごす時間が増えるにつれて、陽菜の心の中には、言葉にできない感情が募っていった。それは、友達とは違う、もっと特別で、甘くて、そして少し切ない気持ちだった。 ある日、二人は屋上庭園で、空が茜色に染まるのを眺めていた。モールから少し離れた場所にある高校のグラウンドからは、部活の掛け声が聞こえてくる。 「もうすぐ、文化祭か」 悠真がぽつりと言った。 「そういえば、田中君の学校も文化祭、近い?」 「うん。俺たちのバンド、そこで演奏するんだ」 「え!そうなの?すごい!」 陽菜は目を輝かせた。悠真がバンドをやっていることは知っていたが、実際に演奏する姿を見られる機会があるとは思っていなかった。 「来てもいいけど…でも、俺たちの演奏、あんまり期待しないでね。まだ下手だから」 悠真は照れくさそうに頭をかいた。 「ううん、絶対行く!田中君の演奏、見たい!」 陽菜は迷わず答えた。悠真は嬉しそうに微笑んだ。 文化祭までの間、悠真はバンドの練習で忙しくなった。陽菜とモールで会う時間も少し減ったが、メッセージのやり取りは続いていた。悠真からは、練習の様子や、曲作りに苦労していることなどが送られてきた。陽菜は、応援のメッセージを送ったり、写真集に載っている景色に合いそうな音楽の話をしたりした。 陽菜は、悠真の文化祭に行くのが楽しみで仕方がなかった。どんな曲を演奏するんだろう。ステージに立つ悠真は、どんな表情をするんだろう。想像するだけで胸が高鳴った。 文化祭当日、陽菜は少しおめかしをして、悠真の高校を訪れた。初めて入る彼の学校は、自分の学校とは違う雰囲気だった。悠真のバンドの演奏は、体育館で行われることになっていた。 体育館に入ると、すでにたくさんの生徒が集まっていた。ステージの上には、ドラムセットやアンプが並んでいる。陽菜は、少しでも悠真の姿がよく見えるように、前の方に席を取った。 しばらくして、バンドのメンバーがステージに登場した。その中に、悠真の姿を見つけた時、陽菜は思わず息を呑んだ。いつもラフな格好をしている悠真が、この日は白いシャツに黒いスキニーパンツというシンプルな衣装だったが、それが逆に彼のクールな雰囲気を際立たせていた。ギターを肩にかけ、少し緊張した面持ちでマイクスタンドの前に立つ悠真は、まるで別人のように見えた。 演奏が始まった。パワフルなドラムとベースに、歪んだギターの音が絡み合う。そして、悠真の歌声が響き渡った。まっすぐで、少し掠れた、心に直接響いてくるような歌声だった。歌詞は、少し切なくて、でも前向きな、高校生らしい等身大の気持ちが歌われていた。 陽菜は、悠真の歌声と演奏に、完全に惹きつけられていた。彼の音楽に対する情熱が、ひしひしと伝わってくる。悠真は、音楽を奏でている時、誰よりも輝いていた。 演奏が終わると、体育館は大きな拍手と歓声に包まれた。陽菜も、力の限り拍手をした。ステージから降りてくる悠真を見つけて、手を振った。 ライブ後、悠真は陽菜の元にやってきた。少し汗ばんだ顔は、達成感に満ちていた。 「来てくれて、ありがとう。どうだった?」 「すごくよかった!田中君、かっこよかった!」 陽菜は、思ったままを口にした。悠真は照れたように笑った。 「ほんと?よかった…」 「うん!特に、あの曲。歌詞がすごく好き」 陽菜が心に残った曲について話すと、悠真は少し驚いたような顔をした。 「あれ、俺が作ったんだ」 「え!そうなの?すごい!」 陽菜は再び感嘆の声を上げた。悠真の才能に触れ、陽菜の心の中の「好き」という気持ちは、さらに大きくなった。 その帰り道、二人は一緒にスターライトモールに立ち寄った。屋上庭園のカフェで、ジュースを飲みながら話をした。 「陽菜に、聞かせたい曲があるんだ」 悠真が少し改まった様子で言った。 「陽菜のこと、思って作った曲」 その言葉に、陽菜の心臓は大きく跳ねた。まさか、自分に向けて曲を作ってくれたなんて。 「聴きたい…」 陽菜は、震える声で答えた。 悠真は、スマホを取り出し、イヤホンを陽菜に渡した。陽菜は、ドキドキしながらイヤホンを耳に装着した。 流れてきたのは、アコースティックギターの優しい音色と、悠真の歌声だった。歌詞は、屋上庭園で一緒に見た夕焼けのこと、星屑文庫で話した本のこと、そして、陽菜へのまっすぐな気持ちが歌われていた。 聴いているうちに、陽菜の瞳からは涙が溢れてきた。それは、悲しい涙ではなく、嬉しくて、温かい涙だった。悠真が、自分のためにこんなにも素敵な曲を作ってくれた。そして、その歌詞から、悠真の気持ちが伝わってきた。 曲が終わった後も、陽菜はしばらくイヤホンを外すことができなかった。悠真は何も言わず、陽菜の隣で静かに座っていた。 陽菜がイヤホンを外すと、悠真は少し不安そうに陽菜の顔を見た。 「どうだった…?変だったかな」 「ううん、すごくよかった…ありがとう」 陽菜は、涙を拭いながら、精一杯の笑顔で答えた。 「ねえ、田中君…」 「うん?」 「あの…私、田中君のこと…好きです」 陽菜は、勇気を振り絞って、自分の気持ちを伝えた。顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。心臓はバクバクと音を立てていた。 悠真は、陽菜の告白に一瞬驚いたような表情を見せた後、優しい笑顔になった。 「陽菜…ありがとう。俺も、陽菜のことが好きだよ」 悠真の言葉に、陽菜の心は温かい光で満たされた。屋上庭園の夕焼けは、一段と美しく見えた。スターライトモールは、二人の新しい始まりの場所になった。 (第三章 終わり) ### 第四章:迷子の星 悠真と「好き」という気持ちを伝え合ってから、二人の関係は一歩前進した。モールで会う時は、以前よりも距離が近くなり、触れる指先や、ふとした視線に、甘い緊張感が走った。陽菜は、毎日が夢の中にいるように感じていた。 スターライトモールは、二人の「秘密の場所」になった。星屑文庫で待ち合わせたり、メロディ・ボックスで一緒に音楽を聴いたり、屋上庭園で他愛もない話をしたり。陽菜のカメラロールには、悠真の後ろ姿や、笑った顔、真剣な表情を捉えた写真が増えていった。悠真も、陽菜がバイトしている様子をそっと遠くから見守ってくれたり、休憩時間に飲み物を差し入れてくれたりした。 しかし、甘い時間ばかりが続くわけではなかった。高校三年生に進級し、二人はそれぞれ進路について真剣に考え始める時期になった。 陽菜は、将来写真に関わる仕事がしたいと考えていたが、具体的にどうすればいいのか、まだ漠然としていた。美術系の大学に進学するのか、専門学校に行くのか、それとも全く違う道を探すのか。悩む陽菜に、悠真はいつも優しく耳を傾けてくれた。 一方、悠真は、音楽の道に進むことを視野に入れ始めていた。バンドの活動も本格化し、ライブハウスでの演奏や、オリジナル曲の制作に時間を費やすようになった。彼の音楽への情熱は、ますます強くなっていた。 ある日のこと、悠真から「大事な話がある」とメッセージが来た。いつもの屋上庭園で待ち合わせると、悠真はいつもより少し神妙な面持ちだった。 「あのさ、陽菜…実は、俺、来年東京の音楽専門学校に行こうと思ってるんだ」 悠真の言葉に、陽菜は息を呑んだ。東京。自分の住んでいる街から遠く離れた場所。 「バンドのメンバーと話し合って、みんなで東京でプロを目指すことになったんだ」 悠真は、少し申し訳なさそうに陽菜の顔を見た。陽菜は、悠真の夢を応援したい気持ちと、彼が遠くに行ってしまう寂しさとで、心がぐちゃぐちゃになった。 「そっか…すごいね、田中君…応援してる」 声が震えるのを抑えながら、陽菜は精一杯の笑顔を作った。 「ありがとう、陽菜。でも…その、遠距離になるから…」 悠真は言葉を濁した。陽菜は、彼の言いたいことをすぐに理解した。遠距離恋愛は、簡単なことではない。特に、これからお互いが新しい環境で、それぞれの夢を追いかける中で、二人の関係を維持していくのは難しいかもしれない。 「うん…分かってる」 陽菜は、俯いて小さな声で答えた。悠真も、辛そうな表情で陽菜を見つめていた。 その日以来、二人の間には、目に見えない距離が生まれたように感じられた。会えば優しく、愛情を伝えてくれる悠真だったが、彼の心はすでに、これから始まるであろう東京での生活や、音楽活動に向かっているように思えた。 陽菜は、悠真の夢を邪魔したくないと思った。彼の負担になりたくないと思った。だから、自分の寂しさや不安を、なかなか口に出すことができなかった。 スターライトモールに行くのも、少し辛くなった。二人の思い出がたくさん詰まった場所なのに、今はその思い出が、別れを予感させるようで、胸が締め付けられる。星屑文庫でバイトしていても、悠真がもうすぐ遠くに行ってしまうという考えが頭から離れなかった。 そんなある日、陽菜はモール内で悠真のバンドメンバーらしきグループが楽しそうに話しているのを見かけた。悠真の姿はなかったが、彼らが話している内容が、陽真の耳に飛び込んできた。 「悠真さ、最近ちょっと上の空じゃない?もしかして、彼女のこと気にしてんのかな」 「ああ、佐藤さんのこと?でも、しょうがないよな。東京行くんだし、向こうで新しい出会いもあるだろうし」 「ま、自然消滅ってやつかな」 陽菜は、その言葉を聞いて、足が止まってしまった。自然消滅。悠真も、同じように考えているのだろうか。自分の存在が、悠真の負担になっているのだろうか。 陽菜の心は、深い霧に包まれたようだった。悠真を失うのが怖くて、でも、彼を引き止めることもできない。自分たちの関係は、このまま終わってしまうのだろうか。 スターライトモールの光も、以前のように輝いては見えなかった。まるで、二人の関係を表すかのように、陽菜の心の中の光も、少しずつ翳っていくようだった。 (第四章 終わり) ### 第五章:光の再会 悠真との間に生まれた距離は、陽菜の心を深く傷つけていた。メッセージの返信が遅くなったり、会う約束がなかなかできなかったりするたびに、自然消滅という言葉が頭をよぎった。悠真の夢を応援したい気持ちは変わらなかったが、自分の気持ちを押し殺すのは辛かった。 ある夜、陽菜は一人でスターライトモールの屋上庭園に来ていた。夏休みに入り、バイトがない日だった。夜の屋上庭園は、昼間とは違う静けさがある。モール全体の光が、まるで星のように瞬いて見えた。 陽菜はベンチに座り、夜空を見上げていた。遠くに見える街の明かりが、まるで手の届かない場所にいる悠真のように思えた。涙が、ポロポロと頬を伝った。 このまま、私たちの関係は終わってしまうのだろうか。私たちは、スターライトモールで出会って、たくさんの時間を一緒に過ごしたのに。あの頃のキラキラした気持ちは、もう戻ってこないのだろうか。 陽菜は、カメラを取り出し、夜の屋上庭園を撮り始めた。光の粒、影のコントラスト、そして、自分の心の中にある切なさ。レンズを通して見る景色は、いつものスターライトモールなのに、どこか違って見えた。 シャッターを切っていると、背後から声をかけられた。 「陽菜…?」 聞き慣れた声に、陽菜は振り返った。そこに立っていたのは、悠真だった。彼は、陽菜がいるとは思っていなかったようで、少し驚いた表情をしていた。 「田中君…どうしてここに?」 「いや、ちょっと考え事があって…ここに来ると、落ち着くんだ」 悠真はそう言って、陽菜の隣にそっと座った。二人の間に、しばらく沈黙が流れた。 陽菜は、何を話せばいいのか分からなかった。悠真も、何かを言いたそうにしているが、言葉が出てこないようだった。 「あのさ、陽菜…」 悠真が、意を決したように口を開いた。 「ごめん。最近、なんか、俺、陽菜のこと…」 悠真は言葉を詰まらせた。陽菜は、彼の言葉の続きを聞くのが怖かった。 「不安にさせてたよね。東京のこととか、バンドのこととか、色々なことを考えてたら、陽菜にちゃんと向き合えてなかった」 悠真の言葉は、陽菜が思っていたものとは違った。 「俺、陽菜のこと、すごく大切に思ってる。だから、東京に行くことになっても、陽菜との関係を終わりにしたくないんだ」 悠真は、陽菜の手をそっと握った。彼の指先は、少し冷たかった。 「でも、どうすればいいのか分からなくて。遠距離になることとか、俺が陽菜に寂しい思いをさせてしまうんじゃないかとか、色々考えてたら、どうしようもなくなっちゃって…だから、少し距離を置こうとしたのかもしれない」 悠真の声は、少し震えていた。彼の本心を聞いて、陽菜の心の中の霧が、少しずつ晴れていくのを感じた。 「私も…不安だった。田中君が、遠くに行っちゃうのが寂しくて。でも、田中君の夢、応援したい気持ちもあって。だから、何も言えなかったの」 陽菜も、正直な気持ちを伝えた。 悠真は、陽菜の手を強く握りしめた。 「ごめんね、陽菜。これからは、ちゃんと話そう。不安なこととか、寂しいこととか、なんでも言ってほしい」 「うん…」 「俺も、陽菜のこと、ずっと大切にする。離れていても、陽菜のこと、一番に考えるから」 悠真は、陽菜の目を見て言った。そのまっすぐな瞳に、嘘偽りがないことを陽菜は感じた。 「ありがとう、田中君…」 陽菜は、もう一度涙が溢れてきたが、今度は温かい涙だった。悠真は、陽菜の涙を優しく拭ってくれた。 「田中君…あのね、私も、将来のこと、ちゃんと考えてるんだ」 陽菜は、自分の夢についても話した。写真に関わる仕事がしたいこと、そのためには、どんな道があるのか、これからもっと勉強したいと思っていること。 悠真は、陽菜の話を真剣に聞いてくれた。 「すごいな、陽菜。応援してる。お互い、夢に向かって頑張ろうね」 「うん」 夜の屋上庭園に、二人の声だけが響いていた。不安な気持ちが消え、陽菜の心は、温かい光で満たされていた。 「ねえ、田中君」 「なに?」 「私、このスターライトモールが大好きだよ。ここで、田中君と出会って、たくさんの思い出ができたから」 陽菜は、笑って言った。 「俺もだよ、陽菜。スターライトモールは、俺たちが出会った、特別な場所だね」 悠真も、陽菜を見て微笑んだ。 二人の間には、もう距離はなかった。未来への不安はまだあるけれど、お互いを大切に思う気持ちと、夢を応援し合う気持ちがあれば、どんな困難も乗り越えられる。そう思える夜だった。スターライトモールの光は、再び陽菜の心の中で、明るく輝き始めていた。 (第五章 終わり) ### 第六章:スターライト・ラブストーリー 悠真との関係は、あの夜を境に、以前よりもさらに深まった。お互いの不安な気持ちを共有し、将来のことについて真剣に話し合うようになったことで、二人の絆はより一層強固になった。 悠真は、東京の音楽専門学校への進学に向けて、準備を進めていた。バンドの練習も大詰めを迎え、卒業前のライブに向けて忙しい日々を送っていた。陽菜もまた、自分の進路について具体的に考え始め、美術系の大学の資料請求をしたり、写真の専門学校について調べたりしていた。 スターライトモールは、相変わらず二人の大切な場所だった。悠真は、練習の合間を縫って星屑文庫に顔を出してくれたり、陽菜のバイトが終わる時間にモールで待ち合わせたりした。屋上庭園のカフェで、将来の夢について語り合ったり、他愛もないことで笑い合ったりする時間は、陽菜にとって何よりの宝物だった。 ある週末、悠真のバンドがモール内のイベントスペースでライブを行うことになった。高校卒業を前にした、彼らにとってはこの街での最後のライブとなるかもしれない。陽菜は、バイトの休みを取り、一番前で悠真の演奏を見守ることにした。 ライブが始まると、イベントスペースはあっという間に人でいっぱいになった。悠真は、これまでで一番楽しそうに、そして力強くギターを弾き、歌っていた。彼の歌声は、スターライトモール全体に響き渡り、多くの人々を魅了していた。 ライブの最後に、悠真はMCで観客に語りかけた。 「俺たちは、もうすぐこの街を離れて、東京でプロを目指します。正直、不安なこともたくさんあります。でも、ここで出会った仲間と、応援してくれるみんながいてくれるから、頑張れます」 悠真は、陽菜の方を見て、少し照れたように続けた。 「そして、俺には、この街で出会った、大切な人がいます。その人に、一番感謝しています。ありがとう」 悠真の言葉に、陽菜の心臓は高鳴った。彼は、今、自分のことを言ってくれたのだろうか。 ライブが終わると、陽菜は悠真の元に駆け寄った。 「田中君、お疲れ様!すごくかっこよかった!」 「ありがとう、陽菜。見ててくれたんだね」 悠真は、陽菜の頭を優しく撫でた。 「あのさ…最後のMC、私のこと…?」 陽菜は、少し勇気を出して尋ねた。 悠真は、陽菜の目を見て、にっこり笑った。 「当たり前だろ。陽菜のことだよ」 その言葉に、陽菜の顔は一瞬で熱くなった。 卒業式も終わり、悠真が東京に旅立つ日が近づいてきた。最後の週末、二人はスターライトモールで過ごした。星屑文庫、メロディ・ボックス、屋上庭園…これまで一緒に訪れた場所を、一つ一つ巡った。 屋上庭園のベンチに並んで座り、二人は未来について話した。 「東京に行っても、連絡するからね。陽菜も、写真のこと、頑張って」 「うん。田中君も、音楽、頑張って。応援してる」 少し寂しいけれど、お互いの夢を応援し合う気持ちで、二人の心は満たされていた。 「ねえ、陽菜」 「なに?」 「もし、俺たちがプロになれたらさ、いつか、このスターライトモールで、またライブやりたいな」 悠真は、キラキラした瞳で言った。 「その時は、私が田中君のライブの写真を撮るね。最高の瞬間を、全部」 陽菜は、笑って答えた。 「約束だよ」 悠真は、陽菜の手を握り、小指を絡めた。 陽菜は、悠真の手の温かさを感じながら、スターライトモールを見上げた。ガラスのドームが、夕焼けに照らされて輝いている。この場所で出会い、恋に落ち、そして未来への約束を交わした。 悠真が東京に行っても、二人の関係が終わるわけではない。離れていても、心は繋がっている。お互いの夢を応援し、高め合っていくことができる。スターライトモールで始まった二人の物語は、これからも続いていく。 春になり、悠真は東京へと旅立った。陽菜も、自分の夢に向かって新たな一歩を踏み出した。離れていても、二人は連絡を取り合った。電話で今日の出来事を話したり、メッセージで写真を送り合ったり。 ある日、陽菜は悠真からメッセージを受け取った。それは、彼が東京のライブハウスで演奏している写真だった。悠真は、少し緊張した面持ちでステージに立っていたが、その目は輝いていた。 陽菜は、その写真を眺めながら、心の中で呟いた。 田中君、頑張って。いつか、私が、スターライトモールで、あなたの最高の瞬間を撮りに行くから。 スターライトモールは、今日も多くの人々で賑わっている。そこで生まれた小さな恋の物語は、これからも続いていく。遠く離れていても、二人の心の中には、あの星影の出会いが、そしてスターライトモールの光が、いつまでも輝き続けているのだから。 (完)

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第一話 曲がり角の出会い

「遅刻遅刻〜!」 春の陽光が、心地良い風に乗って舞い込む朝。 今日はいよいよ高校生活がスタートする、初登校日。 それなのに、昨日は「ある事」が楽しみすぎてあまり眠れず、今日の朝寝坊してしまい、今に至る。 けど、やっぱり楽しみすぎて仕方ない! その「ある事」とは、1週間前の商店街での出来事…、 賑わう商店街の一角で、一際輝いて見えた、同じ中学だった先輩。 中学の頃は片思いで、告白しないまま卒業しちゃったんだよね。 その先輩と同じ高校らしいから、「久しぶり…✨」みたいな感じでお近づきになれたらなー。 そんな気持ちで胸が高鳴っていると、学校の目の前の交差点で、 なんと、先輩を見つけてしまった!こんな偶然、もう二度とないかもしれない。 そこで私は天才的な頭脳(?)である作戦を閃いてしまった! ズバリ、『恋の曲がり角作戦』‼︎ こんなあるあるな作戦でも、女子力の高い私ならなんとかなる!(⁇) 「あっ、今だ!」 意を決して飛び出した私は先輩ではなく、別の人に当たってしまった。 「イタタって、せ、先輩は⁈」 尻もちをついてる私は、バッと先輩の方に振り向く。 すると、先輩は、少し引いた目で、後退りして行ってしまった。 (絶っっっっ対嫌われちゃったーー!!!) 落ち込む私に、 「大丈夫ですか?」 と、少し低いけど、優しい声がかけられた。 顔を上げると、こちらを心配そうに見つめる、先程ぶつかってしまった女の子がいた。 私はその女の子の、何ともイケメンとしか言いようが無い顔を見つめてしまった。 私がボーッとしていると、けたたましいチャイムの音が校舎の方から聞こえてきた。 「大変!遅れる!」 焦ったその様子のその女の子は、とっさに私の手を取り、走り出した。

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第一話 曲がり角の出会い

さよなら

愛してた けれどもいつかは終わってしまうもの ご縁が無かったという事で もう会う事はないでしょう 幸せだと思えるのは最初だけ ずっと欲しかったおもちゃも しばらくしたら遊ばなくなるのと一緒 お互い飽きてしまったもの そして新しい物を欲しいと思う それが人間の本能という物なんでしょう 一生を共にできる人は あなたじゃなかった あなたもそうでしょう? もうお互い辛い思いはしたくないはず これが正解だったの 初めてのデート 覚えてる? あの頃は幸せだったよね あの頃は けれども今は違う 愛し合ってた時があったのは事実 これは人生と呼ばれる物語の 一つの章となるでしょう そして今 次の章へと 移ろうとしている もうお互いの次のページへ進みましょう 一緒にいたって意味はない さよなら

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CD

CDを出すことが私の夢だった。 歌手になろうと、沢山歌の練習をした。 コンクールでは一番いい点をとった。 けど、最下位だったお金持ちのお嬢様が、賄賂を払って賞を取った。 私は表彰式の時、最下位ということになっていた。 お金がなかったら、ダメなのかな? 私は事務所に入るために、オーディションを受けた。 歌の点数は一番良かったのに、音痴だけど顔が可愛い子が合格した。 私、別にブスではないと思うんだけどな。 仕方ないから、個人で活動を始めた。 YouTubeチャンネルを開設した。 動画を出してから1週間経っても、再生回数はゼロのまま。 私は何かいけない事をしたのかな? その罰当たりなのかな? 何がいけなかったのかな? もう涙も枯れてしまった。 今日も再生回数を確認する。 私はその瞬間、心臓が飛び出しそうな程、嬉しくなった。 再生回数が、昨日はゼロだったのが、12回まで増えていた。 気がつけば、瞬く間に再生回数は伸びて行き、応援のコメントが殺到した。 後から知った事だけど、有名な歌手の人が、 たまたま私の動画を見つけてくれた。 とても感動してくださって、すぐに拡散したのだそう。 そのおかげで今日、CDを発売できる。 今は、コンサート会場の舞台裏にいます。 客席を見ると、何千人もの人が楽しみに待ってくれている。 CD発売記念コンサートが、今。 幕を開けます。 ここまで色々大変だったけど、 今、舞台の真ん中に立ち、スポットライトを、 浴びています。

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第三話 謎ノ少女

風が止み、目を開けると祠の上に狐の面を被った私と同じくらいの女の子が座っていた。 「だ、誰?なに?巫女のコスプレ?」 「こすぷれ(?)とは失敬な。お主が妾を呼んだのじゃろう?」 私は一瞬戸惑った。 (呼んだ?なんのこと?もしかして神様?) 「あの、つかぬことをお聞きしますが…もしかして、神様?」 「そうじゃ。お主は妾に願い事があるのじゃろ?まず名前を言え。」 「あゆり…澤田あゆり。」 私がそういうと神様は狐の面を外した。 「妾の名は霧乃。この神社に司る死の神じゃ。」 面を外した顔を見ると赤い、不思議な目をしていた。 「霧乃…さん?実は私、願い事とかじゃなくて…。」 「霧乃で良いぞ。それより…、遊び半分でやったのか?」 その時向けられた、強い視線が怖かった。 「まぁ良いだろう。覚悟はあるんだろ?」 噂のとおり、命を代償にしなくちゃいけないのかな。 そんなことをするぐらいなら願い事を叶えて欲しいと思い、 「叶えて欲しい願い事があります。」 思い切っていうと、聞く気になってくれたのか、霧乃は祠から降りた。 「どれ、言ってみろ。」 私は思い切り深呼吸をし、 「私は、」 「死んだ人に会いたいです。」

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第三話 謎ノ少女

第二話 禁忌ヲ犯シタ者

「あ、負けちゃった。」 「それでは!ビリのあゆりは罰ゲーム!」 はぁー、とため息をつく。 「あの噂の『犯してはならない禁忌』をやって来れば良いんでしょ?」 最近、学校で流行っている噂があり、それを確かめる為に、ババ抜きで負けた人が罰ゲームとして行くことになった。 「澤田さん、大丈夫? 噂の通りだったら命の危険も…。」 「ま、噂なんて嘘だろうし、行ってくるよ。」 ザッザッザッ (随分と森の方まで来たな。) 「ここを曲がって、あ。神社」 そこには古い神社がポツンとたっていた。入ってみると、 ジャボンッ! 「わっ!なにこれ!水⁈」 よくみると、あたり一面、透き通った水で覆われていた。 (興味深い。あいつらの為にも土産に写真くらい撮っておこう。) 神社の中は意外に広かった。しかし、どこを見ても水、水、水。 そんな時、夕陽の光が木々の間から流れ込んできた。 『黄昏レ時、祠ノ隣ニ電話ハ居ル』 噂う言葉を思い出し、ハッとして祠の隣をみると、古い黒電話が居た。 「黒電話⁈さっきは無かったのに…。やっぱ噂ってホントだったんだ。」 恐る恐る受話器を手に取り、噂で言っていた番号を入れる。 「もしもし…、神様ですか?」 そう言った途端、強い風が私を襲った。 「な、なに⁈」

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第二話 禁忌ヲ犯シタ者

第一話 黄昏レ時、電話ハ現ル

ねぇ、知ってる? 学校の近くの温泉街を抜けて、少し歩いたら、神社があるでしょ? その神社の祠の隣には、黄昏れ時に古い電話が現れるんだって。 その電話はね、死者の国と繋がってて、もう会えなくなっちゃった人と喋れちゃうんだよ。すごいでしょ? そこには噂を聞きつけてきた人がたくさんくるんだよ。 今週もたくさんの人が来たよ。 例えば、月曜日は小さな男の子が来たよ。 「もしもし、お兄ちゃん?いつ帰ってきてくれるの?お母さんは『遠くへ遊びに行った』って言ってたけど…。ぼく、寂しいの。また一緒にヒーローごっこして遊ぼーよ。待ってるね。」 火曜日には、少し疲れた顔をした女の人が来たよ。 「もしもし、たっくん?お母さんねぇ、たっくんがいなくなってから、毎晩毎晩泣いちゃうの。たっくんはお母さんがいなくても大丈夫?ちゃんと眠れてる?今日はお母さんが子守唄を聴かせてあげるね。 ねんねん ころりよ おこりよ ぼうやは 良い子だねんねしな…。おやすみ、たっくん。安らかに。」 木曜日は目の下にくまができた男の人が来たよ。おっきな声を出して、ちょっとうるさかったな。 「さや、どうして俺と子供たちをおいて逝ってしまったんだ!ひどい!ひどいよ…。毎夜毎夜、眠れないんだよ。…。いや、ごめん。感情的になりすぎた。本当に言いたかったことがあるんだ。好きだったよ、ありがとう。どうか、さやに。安らぎを。」 今日は金曜日だね。誰がくるかな? あ、そう言えば言い忘れてた。 電話はね、神様を通して死者の国と繋いでるんだけど、『犯してはならない禁忌』があるの。 それはね…。 神様に話しかけることだよ。神様はこの世界のことをなんでも知ってる。だから、なんでも答えてくれるよ。 ただし、命と引き換えに、ね。 だから、気をつけてね。

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第一話 黄昏レ時、電話ハ現ル

あの窓の向こう

沙月「んー、届かない。あともう少しなのに。」 そろそろ肩車をしている、なっちゃんも限界そうだから、とりあえず降りることにした。 菜月「あの窓の向こうには、何が映ってるんだろうね。さっちゃん。」 私たちは双子である。姉の菜月に妹である私、沙月。物心ついた時からずっと2人で同じ部屋から出れず、親の顔もわからない。部屋に窓はたった二つしかない。 一つは、時間になると、気がついたら食事が置いてある、人は通れなさそうな小窓。 もう一つは、陽の光が入ってくる、高い位置にある少し大きい窓。 私たちは、外の世界が気になり、いつも肩車をし合って見ようとするが、身長が足りず見ることができない。今日も見ることができず、勉強の時間になった。勉強は、部屋の隅に置いてあるモニターを見て覚える。 菜月「欲しいものはいつだって手に入るし、別に不自由な生活ではないんだけど…。」 沙月「外の世界が見れないんだもの。つまんないよ。」 菜月「いつになったら出られるんだろうね。」 それから時が経ち、2人とも12歳になったある日、この日もまた窓の外を見ようとする。 菜月「あと、ちょっとで、あ!届いた!よいしょっと、のぼれたのぼれた!」 沙月「本当?!私も見たい!」 菜月「今外見たら変わるから待ってて。」 窓の外を見ると、菜月の希望に満ちた顔は一瞬にして絶望に変わったのである。 菜月「キャーーー!!!!!!!!!」 そう言うと菜月の声は聞こえなくなった。 沙月「なっちゃん?」 (なっちゃんどうしたんだろう、心配だな。) しばらく、ひとりぼっちの生活が続いた。 それから私は身長が届くようになり、窓がある場所の床を見ると、赤茶色になっていました。窓の方を見ると、よく見えないけれど、遠くに黒い影が見えました。 16歳になると、部屋から出してもらえ、両親にも会え、幸せに過ごしました。 その後、なっちゃんがどうなったかは、聞いても誰も教えてくれませんでした。

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月の影の下で

この世界ではないどこかの世界。たくさんの国がある中、とても大きな三つの国、洋ノ国、魔ノ国、そして和ノ国。その世界は争いもなく平和な国だった。しかし、ある時突然と現れた怪物たちと国と国の間にできたとても高い絶壁らによって世界の平穏は崩れた。それは和ノ国も同じだった。そんな怪物たちから人々を守るために和ノ国がつくったのは、シノビ。怪物と戦うため何年も修行を積み重ね、戦う。これはある1人のシノビの少女の物語。 第一話 新たな伝統継承者の誕生 月影家は、代々和ノ国の王家でありながら、国を守るためにシノビの家業を続けてきた由緒ある一族だった。代々男児が生まれ、13歳になると神の使いの元へ修行へと送り出され、立派なシノビへと成長していくのが慣例であった。 ある時、月影家に、数々の兄たちに囲まれて一人の女の子が生まれた。その子が凪沙である。月影家において、女の子の誕生は前代未聞のことだった。王である父は深く悩み、凪沙をどう育て上げるべきか、長い夜を徹して考え込んだ。 月影家の伝統は、男児がシノビとなること。しかし、凪沙は聡明で心優しく、誰からも愛される女の子に育っていた。王は苦渋の決断を迫られ、13歳になるまで、凪沙自身の意思に委せることにした。 年月が流れ、凪沙は明るく元気な少女へと成長した。兄たちと日々を共にしたおかげで、運動神経は抜群で、どんな厳しい訓練にも耐え抜く体力を身につけていた。一方で、王后から教わった裁縫や生花も得意とし、その美しさは周囲を驚かせるほどであった。 凪沙は、兄たちがシノビとして活躍する姿を見て、自分もいつか彼らのように国のために力を尽くしたいと願うようになった。しかし、同時に、女の子としての人生も諦めることはできなかった。 13歳の誕生日が近づき、凪沙の心は複雑な感情で揺れ動いていた。果たして、彼女はどのような道を選ぶのだろうか。 以下、第一章の続きの案 ある日、凪沙は父を一人に呼び出した。 「父上、私はシノビになりたいのです。」 凪沙の言葉に、王は驚きを隠せない。 「凪沙…、お前は本当にそう思うのか?」 王は、凪沙の青い瞳を見つめながら、静かに尋ねた。凪沙は、力強く頷いた。 「はい、父上。私は、この国のために、そして兄様たちのように、立派なシノビになりたいのです。」 王は、凪沙の決意の固さを悟り、静かに頷いた。 「わかった。それでは、明日からお前も神の使いの元へ行き、修行を受けることとする。」 王の言葉に、凪沙の瞳には光が宿った。 翌日、凪沙はいろんな感情を胸に、屋敷を後にした。

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