エズエシ

68 件の小説
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エズエシ

糞ガキを野球のバットでぶっ叩け

反省と

 いつの間にか秋になっていた  ボカコレの結果は散々だった。薄々わかっていたけど。  初出場で何を落ち込むんだい?と自分で慰めてみるが、反省はすべきだと思う。  一番はMIXがクソだった、前回の曲より酷い。時間が足らなかった。ボーカルに迫力が無いし、ギターが邪魔な癖に小さいし、何となく全体的にシャカシャカと煩くて纏まってない。曲がぼやけてる。  作り始めにメロディーで悩みに悩んで十回は書き直したのが原因。しかしメロディーも悩んだ割にそんなに良くなかった。サビはそこそこに成ったけどAメロが本当にゴミ。何を聞かせたいのかさっぱり分からん、全くキャッチーじゃない。  そして細部が雑。ドラムとかもう何がしたいの?ベースラインそれで合ってるの?まだルートだけ弾いてる方がマシじゃない?途中まで裏メロ3度でハモってただけなのに動き始めた瞬間ハーモニーくずぐずだよ?  作り込みが足りなかった。本当は全部私の怠慢が一番の原因、一月前からもっと詰め込んで作業するべきだった。    私が好きなボカロPが今一位だ、彼が優勝するんじゃないだろうか。最初の数秒に実力の差が分かって素直に聞けなかった。嫉妬、醜い。凄く良い曲だった。  アニメーションまで自分で描いて、あのレベル楽曲。恐らく一、二週間で曲は完成してるはず。  お前は凡人と言われてる様だ。いや、私は凡人以下だが。  すぐに作曲に戻ろうと思う。二週間に一曲発表がしばらくの目標。今は質より量だと思う。  久しぶりにバイクを見るともう、サビサビで悲しそうだった。軽く磨いてあげた。もうすぐ冬、バイクには乗れなくなるし、魚も釣れなくなる季節。  ボカコレで結果が振るえば、アカメを釣りに行こうと、そう思っていたけれど来年にお預け。 やるべき事は  耳コピ訓練とエフェクター類の知識、MIXとマスタリング技術、ギターとベースとピアノの練習、作曲。  来年の春ボカコレで結果を残したい

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釣り人の怪談

   八月に暑さも真っ盛りといった感じで御座いますから、怖い話の一つも綴らなければ、と。久々に筆を取った次第です。  私の中で怖い話、といえば「夜釣り」。こんなインターネットの場末で、名前の売れてない素人の書く物語を読むアナタですから、夜釣りに関した怪談の一つくらいは聞いたことがありませんか?  無ければ、私が一つ目という事で嬉しい限りです。  なぜ、夜釣りなのか。と聞けば、私の趣味が釣りだからです。物心つく前から竿を振っていたモノですから、そういった「怪談」もよく耳に入ります。釣り場のお爺さんの噂話に、幽霊を見た!と眉唾な体験を語る人もいれば、ネット上で釣り場の名前とセットで怪談が載せられていたり。それこそ海近くの地名で検索すれば、一番上に怪談が載ります。    では、誰が何の目的でそんな物を書くのか。理由は明白、 「釣り場に人を近寄らせない為」  夜釣りは、日中より大型の魚が狙い易いので玄人から好まれるのです。しかし、人が集まって仕舞えば釣れなくなってしまいます。つまりは、自作の人避け。  それを証拠に釣果の上がる有名な釣り場には、有名な怪談が必ずあるのです。  長い前置きでしたが、ここからは私の体験談です  湿った空気が全身に纏わりつく、風の無い八月の熱帯夜でした。  その時、まだ私は高校生でしたから真夜中に釣りに行く事など以ての外でした。しかし、今日は両親が旅行に出掛け留守番を任されていたのです。普通の高校生であれば、、まぁ恋人を連れ込んでと、そんな話でしょうが、私にそんな話がある訳もなく。  何より魚の方が好きでした。釣りキチと周りから揶揄され、実際そうでした。  釣り場は、両親の旅行が決まる前から決めていました。  地元では「軍艦」、と呼ばれる有名な磯場で、山中を数十分掛けて登り、最後に十五メートルほどの崖をハシゴで下ると辿り着く、知る人ぞ知るポイントでした。  しかし、誰に聞いても、「軍艦で夜釣りはするな」と忠告されました。釣りの師匠や、釣り友達のおじさん、そこそこに釣り歴が長い人は皆一様にそう言ったのです。  私は、  高校生にあの危険な釣り場を夜に勧める人は居ないよな、と。  そして何より  あれだけ曰く付きのポイントに夜、何が釣れるか、と気になって仕方がありませんでした。  近所のオバちゃんの告げ口が怖いですから、町が寝静まる深夜十一時にバイクで出発し、到着した頃には一時になってしまいました。  釣り場近くの、公衆便所つきの駐車場にバイクを停めました。辺りは街灯一つなく、山中にポツンとトイレの灯りが有るのみです。蟲の声や獣の声は不思議と聞こえず、ただ私の釣りの準備の音だけがガサガサと辺りに響きます。  数分して準備も終わり、山道へ向かおうとする私を物音が呼び止めました。  あれ、何の音だろう。  と不思議に思いました。小さな駐車場ですから車や人が来れば分かるはず。  がちゃん、、がちゃん、、 と物音は不規則に鳴っています。はやる気持ちを抑えて、私はバイクまで一度戻ることにしました、車上荒らしやバイク盗難が怖かったからです。  数十歩進めば、遠目に見て、音の原因が分かりました。多目的トイレの重い引き戸が開いたり閉まったりと、その音だったのです。  ぞわぞわと寒気がしました。  トイレの中は暗く、暗い闇が少し開いて、また閉まって。  がっちゃん、、がっちゃん  確認しなければ怖くて釣りにならない、とヘッドライトでゆっくりとトイレの床を照らすと、少しだけ人の足が見えたんです。アッ、と思いライトを横に避けました。  一瞬でしたから確かではありませんが、酷く汚れた女の人の素足に見えました。    がっちゃん、、がっちゃん  一度照らされても、変わらず開閉を繰り返していました。そして、その物音に混じり、かすかに呟く声が聞こえます。 ただいま、、ただいま  掛ける言葉もなかったので、私はゆっくりと後退りし山道に向かいました。  きっと、頭のおかしな人だと思い警察に通報しようかとも考えましたが、私が補導されると気づいて辞めました。  気味が悪い物を見たので、山道に入ってからもベットリと恐怖が脳裏に張り付いています。暗い山中に耳ばかりが冴えて、、 気付きました、私の後ろから足音が聞こえるのです。  ついてきてる  嫌な汗が全身から吹き出します、山道は崖までの一本道。脇道は無くどこにも行けません。  引き返そうと決めました。 幸い、山道に入って十分も経っていません、全力で走ってバイクまで辿り着けます。  一度深呼吸をし、来た道へ全力で走りだします。そして、直ぐに人影が見えました。  ライトで照らしたその人は、頭蓋が陥没し、人の顔をしていなかったんです。  血みどろで、皮の袋に石を詰めた様な頭でした。  その光景に叫んでしまいそうになりましたが、ぐっと耐えて横を駆け抜け、バイクに乗り込み山を降りました。  私はそのまま家に帰らず、ファミレスで昼前まで時間を潰しました。いってしまえば、一人が怖かったんですね。  家に帰る頃にはへとへとで、昼過ぎから寝て起きた時には、また真夜中でした。  ベッドに疲れた体でボーッとスマホを見ていると ガラガラ  と玄関が開きました、田舎ですから鍵は閉めていませんでした。しかし、両親が帰ってくるのは今日の昼のはずです。 ただいま、、ただいま  あの声が聞こえました。飛び起きた私は自室のドアをバン!と閉め鍵を掛けました。  ギシ、ギシと廊下を踏む音が聞こえます。ドアノブを握った両手の震えが止まりません。 ただいま、、ただいま  ぎぃぃい、、ばたん、ぎぃいい、、ばたん どこかのドアを開閉する音が聞こえます。  絶対あいつだ。ついてきたんだ  ギシ、、ギシとノロノロ歩って、ドアを揺らす一連の行動をソレは続けました。 ただいま、、ただいま  ドアノブにナニかが触った感触が伝わりました、ドア一枚向こうにいるのが分かります。 ガチャ、、がちゃ、、  とドアノブが動き、 ただいま、、ただいま  と聞こえます。もう数十分が経過してましたから、恐怖も薄れていました。 「ここは貴女の家ではないです。ここは貴女の家ではないです。お帰りください。お帰りください。」 と小さく呟くと いたい、いたい、いたい、、 と、液体混じりの声でつぶやき、足音は二階へ登って行きました。  朝日が昇る頃、ドサッと庭にナニカが落ちた音が聞こえました。 後日談  釣りの仲間から聞いた話ですが、「軍艦」で六十代の女性が梯子から転落し亡くなったそうです。恐らく、アワビやウニの密猟者だろうとの噂でした。  夜中は密猟者が湧くから、軍艦に夜釣りには行くな。という忠告だったそうです。  死体が発見されたのは、私が夜釣りに行った二日後でした。    彼女は果たして、、死んでいたんですかね。

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釣り人の怪談

血を嫌う貴女に

 ガヤガヤと五月蝿い週末のファミリーレストラン。  テーブルを挟み、幼馴染とその娘とが座っている。まだ、一歳半だ。食事がスムーズに行くことなど無く、必死におだてて、冷えてしまったお子様ランチを何度も娘の口に運ぶ。お子様プレートやテーブルの上は大惨事で、ぐちゃぐちゃに母親の格闘の痕跡が、家での苦労が見てとれた。 「ごめんね。遅くて。本当に」  心から申し訳無さそうに謝る彼女を見て私は、もう少し時間がかかる料理を選ぶべきだったと後悔した。幼児を連れた母親との食事に坦々麺を三分で啜り切ってはいけないのだ。 「いや。いいよ。今日暇だしゆっくり食べさせてあげて。」  入店してから二時間半は経過していた。それでも、彼女の皿と、お子様プレートには料理が残っていた。    幼馴染とは言ったものの、そこまで歳が近い訳ではない。ただ、家が近かったことと、彼女の家庭環境が杜撰だったので、子供の頃から関わりがあったのだ。 「母親とは最近どうなの?」 と私が質問すると、彼女の顔が曇った、が後悔はしなかった。聞くべきだからだ。 「この前帰ったら、パニック障害の症状が出たから話したくない、って最初に言われてずっと無視された」 「相変わらずだね」 「そう、相変わらずだよ」    大人になった今でも、彼女とこうして理由も無く食事をするのも、彼女の母親が原因だろう。幼い頃からネグレクトと暴力に晒されて育った彼女は、避難所として、行政では無く私の家庭を頼った。服を捲れば青痣と、マトモな食事すら取れず骨の浮いた体が見えた。  彼女が結婚した後も、彼女の母親は無視を続け、話し掛ければ物を投げ、妊娠すれば通院に車を出すことを拒否し、出産直前には「足が痛いから」と衣服を入院先に運ぶことすら拒否した。  彼女の若さと、美しさと、幸福。自分の老いて行く様と、皺と、不幸を天秤にかけて、その差を少しでも埋めようとしているようだった。    なぜ縁を切らないのか?と聞けば、「まだ何処かで期待している」と答えた。  彼女は人を判断する事ができないようだった。  彼女の夫は、幼い頃から家族ぐるみで新興宗教に浸かっており、家族で貯めた貯金を全て振り込んでしまう。が、 「まだ何処かで期待している」    不幸を呼び込む性質を帯びていた。  どんな人かと聞かれれば、救えない人だと一言で表現できた。  お酒が飲みたい。とポツリ呟くのが聞こえた。 「お酒?」 「、、まだ完全には乳離れしてないから無理だけど。」 「もう少しかかりそうだね」 「うん。もう何も考えたくない」  昼間から酒臭い彼女の母親が脳裏によぎった。 「そう」  スプーンにご飯を乗せ、小さな口へ運ぶ。十回拒否されて、一回口に入る。 「でも分かるでしょう?」 「なにが?」 「こう、一回の食事で二時間も三時間も掛かるのに、イライラしてしまうのが」  沈黙が流れる。私は頷けなかった。彼女の目が怖かったからだ。 「そんな時期も、今だけだから」 振り絞って言葉を出した、  その一瞬に小さい手が振り回されて、空のグラスが倒され氷が隣のテーブルに滑っていった。 「すみません。」 と私は席を立ちながら隣のテーブルに謝罪を呟き、大きめの氷を回収し、店員を呼んだ。  テーブルに戻ると、彼女は子供の腕を握り締め、持ち上げ、無言で目を凝視していた。声が動揺してしまう。 「ちょ、ちょっと。」 「ねぇ。」 「しょうがないじゃん、まださ、 「ねぇ、、、  君は、私の味方だよね?」  子供の腕にはいつか見た、暗い痣があった。 「、、今日は帰ろう。送るよ」  自分が嫌いな貴女はきっと、貴女の親に似ていく自分を嫌っているのだろうと知った。  味方として、敵になれると思う。と言葉にせず  幼い貴女を思い出して  沈黙の車内にその約束は、確かに結ばれていた

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血を嫌う貴女に

人間に近づいた亀

「見下されていることを自覚している限り、君が下なんてことはないんだよ」  人間の手から餌をもらい生き永らえる心得を先輩のカメはそう後輩たちに伝えていた。この小さな桶から出られず、何をやっても勝てない僕ら。そんな惨めな僕たちを笑う人間から、醜く首を伸ばし餌をもらう。何度も執拗に伸ばされた手に握られたペレット状の餌は、愛玩と同情が混じり出来ていて同量の侮蔑が滴っていた。 「いい?醜く生まれたのだから醜く生きるしか選択肢はないんだ。空を見ても羽根は生えてこないし、外へ出ても生きてはいけない、そして助けてくれるナニカはやってこない。だからこそ、僕たちにこそ、生きる為に自分より下の存在を作る必要があるんだよ。」  僕たちは人間を見下した。亀を囲い、悪趣味な名前を付け、自由を奪い、下らない日常の足しにする下劣な人間を。  見ろ、見ろ。自分が見下されてるとも知らず、餌を運ぶアノ猿を。  あまりに直接的で下品な侮辱の仕草を。  アイツには見下せる人間がいないから、亀なんて飼ってるんだぜ。 どっと笑って  亀は人間に近づいた

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人間に近づいた亀

にょにょっき

 うるさい目覚まし、目が覚めると足の親指からにょにょっきが生えていた。白く、未熟なのだが一眼見ればすぐにソレがにょにょっきだとわかった。 「ぁ、、にょにょっきだ」  私は初めて見たにょにょっきに感激した。この感動を共有したい。 「おかーさーーん!!にょにょっきが生えたー!」  階下で朝ごはんを作っているであろう母親に大きな声で呼びかけると、 「訳のわからない事言ってないで早く降りて来なさい〜」 と返事が返ってきた。  にょにょっきが折れないよう、慎重に階段を降りた。プルプルと震えている。 「にょにょっきが生えたんだって!にょにょっきが!」  トーストが乗った平皿片手に母は怪訝な顔をしてコチラを見た。 「何を言ってるの?寝ぼけてるなら顔洗ってきなさい。」  話の通じない母にイライラする、私は皿を置いた目の前に足を上げてみせた。 「ほら!にょにょっき!」 「ぁ、、にょにょっきだ」  行儀の悪さを叱られると思った私を裏切り、キョトンとした顔でにょにょっきを見つめる母に可笑しくなってしまった。 「あはは、だからそう言ってるじゃん最初から」 「あらあら、どうしましょ。一応病院で診てもらおうかしら」 「大袈裟じゃない?」 「いやいやにょにょっきが生えたんですから、、今日は学校お休みね。大事をとって」  朝の忙しい時間帯が終わった後、私は病院へ行くことを父や弟を含めた全員に勧められた。しかし、予約の電話でにょにょっきの説明をするが上手く伝わらず、取り敢えずかかりつけ医に診察してもらう事となった。 「今日はどうされました?」 「にょにょっきが生えまして。。」 「?」  新人のナースだろうか?確かに珍しい現象ではあるもののナースがソレを知らない物なのか?と疑問に思いつつ、にょにょっきごときで病院に来る私が間違っているのかもと不安になった。  サンダルから足を抜いて、母に見せた様にナースへ。 「ぁ、、にょにょっきだ」  話が通じた様でホッとした。 「この病院でも診れますか?」 「はい。大丈夫ですよ。お呼び致しますので、そちらでお待ちください。」    スマホで時間を潰して数分後には名前が呼ばれ向かうと、ドアに手をかけるときにナースの荒げた声が中から透けて聞こえてきた。 「ですから!にょにょっきですって!」 「なにを言ってるんだ君は」 「医者なのにそんなことも知らないんですか!?ほんっとヤブなんだから」 「な、なんてこというんだ!何かの略称なのか?それは」  気まずい空気に立ち尽くしていた私だが、喧嘩が断ち切れる様子もないので、スッとドアを開けた。 「し、失礼します」 「あ!、、ごめんねー。さぁ掛けて掛けて。」  小さい頃から病弱な私をずっと診てくれていたお医者さんなので、もう親戚のおじさんくらいの距離感だ。 「きょうはどうしたの?」 「ですからにょにょっきが!!」  後ろのナースがまた声を荒げた。眉を顰めた先生はナースを一瞥し、私の足へ視線を落とした。 「ぁ、、にょにょっきだ」 「そう言ってるでしょう!?」 「あぁすまない。ど忘れていた。怒らないでくれ。。足見せて」  私は先生の膝へ足を乗せ、診察してもらった。 「いつ気づいた?」 「今日の朝です」 「そう、、コレなら問題ないね、大丈夫」 「そうですか」 「うん。ゆっくり経過を見ようね。お薬も要らないから」 「良かっです」  帰宅し、報告すると安堵から家族全員の口から息が漏れた。 「良かったね。にょにょっきが何ともなくて」 「いやぁーうちの娘ににょにょっきが生えるとはね」 「うちのねーちゃんににょにょっきが生えたって学校で自慢するよ」 翌朝、母の肩ににょにょっきが生えた。 翌々日、父のお腹と弟の耳ににょにょっきが生えた。  一週間後にはクラスメイトの半数ににょにょっきが生えまして、その頃には全国的な流行を見せ、ニュースで特集が組まれた。 「いやー今年は多いみたいですねぇ〜にょにょっき。」 「えっ、にょにょっきって何ですか?」 「これのことだって」 「ぁ、、にょにょっきだ」 「一大ムーブメントですよ、これは。HAHAHA⭐︎」  私のにょにょっきは日毎にムクムクと大きくなり、一月もすれば、親指程のサイズとなっていた。 そろそろだよ  突然、声が聞こえた。 もうそろそろ収穫時期だよ 「にょにょっき!?」  私は驚きのあまり声が裏返った。ついににょにょっきが喋った!   ほらみてみて  六センチほどの白いエリンギの様な物がゆら、ゆらとしなり、揺れている。 美味しそうでしょう?  私は腕で足を抱え、ぐぐぐっと体を折りたたみにょにょっきにソッと口を付けた。 パクッ 、、 、、 、、 「そう言えば、、にょにょっきって何だ?」  世界的大流行に発展したにょにょっきは庇護欲を掻き立て、伝染する精神汚染を繰り返し、人類の歴史に空白を作った。  にょにょっきという謎を残して。

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にょにょっき

日記っき、にっききっきっきのき危機麒麟

 久しぶりに絵を描いた。  クリップスタジオを開くと、最後に描いたのが一年前と表示されて笑った。案の定、操作の半分を忘れていて、消しゴムが何処にあるかを探すのに三十分も掛けてしまう。  昼ごろから始めて、やるべき全ての事を放棄し十二時間後に完成。  うーーん。反転するとやはり見れた物じゃない。  が、楽しかった。  私の周りには絵が上手い人が沢山いたので、下手さを気にし過ぎていたのかも知れない。  下手でも楽しければ良いじゃないか、現実と違って、無名なら批判する人もいない。そして肥溜めのネット上なら鼻で笑われても傷つきもしない。 肥溜めに〜  下手でも晒そう   露出狂    今日はマキシマイザーとコンプが届くはず。ミックス頑張ろ。。

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日記っき、にっききっきっきのき危機麒麟

猫のなみだ

 朝、目が覚めた時、布団がいつもよりも冷たかった。這い出た先、窓から差し込む陽に暖まる主人の顔を見れば、それは寝ぼけ頭にもすぐに分かった。 「しんだか?」  私は寝ている人に寝たか?と聞くような、そんな間抜けな質問をした。ある日から寝たきりになり、薄れていく曖昧な反応に死期は悟っていたので、衝撃的なことは無かった。  すーっと息を深く吸すって、大声でないてみた。  ないても涙は零れない。  ゴロゴロと喉を鳴らして頬にすり寄れば、まだ体の深部に暖かさが残っている気がした。一人と一匹眠りにつく前のちょっとした時間が、私の頬を撫でたあの暖かさが、変に歪んで、懐かしく感じた。  にゃああああ    もう一声、ないてみた。こんな時になかなくてどうする。と、残された遺族にそんなセリフが火曜サスペンスで流れていたのを思い出した。うっ、うっと小さくえずく人間特有のなく姿になんてなくのが下手な生き物なのだろうと思ったのを覚えている。  一晩、二晩が過ぎた。寝顔を眺めていた。臭いを放つのはまだ先だと思った。  部屋の中は主人の空っぽな心を埋めるかのように、モノに溢れていた。布団が鎮座する部屋の中心をカルデラとして、ゴミは淵として天井に届いていた。中央火口丘がご遺体。 「火山弾はゴキブリだね」  黒いすい星をぺし、と叩きおとした。死体が部屋にふたつ。私が一つ食べてまたひとつ。白い内容物はミントのような爽やかな味がした。  もう数日たてば、ひどい臭いがするようになった。 「だめだね。もう」  なくおなかと痩せた頭でもここで待つことは何の意味も無いとわかった。こんな地獄に主人は居ないんだ、と。いや、いて欲しくないと思った。  ひとつ、鍵の開いていたベランダにでて、大きめのゆったりした椅子に座ると小さな町の全容が見えた。椅子の正面、ゴマ粒ほど遠くに息子夫婦の建てた家が見える。主人はボケてしまった頭とからっぽの心で一体何を待っていたのだろう。    風に吹かれた穏やかな横顔は、記憶の中でないていたと形容できるかもしれない。  やっぱり、なくのが下手だねと思って、思い出の家にお別れをとにゃあ、と一声ないて、ベランダからとんだ。  涙は  

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猫のなみだ

変なオジサン

 夕暮れの河川敷、学校から家に帰る途中だった。鯉がパクパクと水面で口を動かしているの見ながら、いつもの様に、ただただボーッと歩いていた。  しかし、その日は違った。  家まで300メートルほどの橋の下、私は機敏に動く人影を見た。シュババ!シュババ!と動いて、止まり、また動く。物凄いスピードで両手を振り回して、止まり、また振り回す。残像を作り出すほどにその両手は速かった。  人影は男だった、六十代に見える。  その男がフラフラとコチラへ歩いてくるので、私は警戒した。携帯をポケットにしまい、イヤホンを外した。  私は、なるべく目を合わせない様に、ただ警戒は解かない様に、男の足元を見てすれ違う。目の端で捉えた男は両手にバドミントンのラケットを持ち、歯を見せて笑っていた。  気持ち悪い、と思った瞬間 パコン!と頭に衝撃が走った。  すれ違い様に私はラケットで殴られたのだ。痛くは無かったが驚いた。 「わっ。え。なに!?」 「コラァあああああああああ!!」  怒鳴られた。めちゃくちゃ大声だったので、身がすくんだ。 「人にぶつかったら謝るのが常識だろうがぁ!」  訳がわからなかった。私がぶつかったのはラケットで、ラケットを私にぶつけたのはオジサンだ。ただ、オジサンの顔が余りに顔が赤いので私が悪いのだとその時は思ってしまった。 「ごめんなさい」 「フガ!フガ!」  怒髪天だった。何を言われてるかは聞き取れなかったが、私は出来る限り丁寧な言葉遣いで謝罪した。 「本当にごめんなさい。これからは周りを見て〜〜今後二度と〜〜、、」 と二、三分の謝罪をするとオジサンの態度が急に軟化した。 「お前、見所があるな」 「は、はぁ」 「おし!明日、朝五時にここに来い!分かったな!?」 「え?」 「男同士の約束だからな。忘れるなよ!」  オジサンはそう言い残して立ち去った。  勿論、次の日私はその橋の下へは行かなかった。オジサンは来たのかなとか、私のどこに見所を見つけたのだろう?とか、色々と気になったが時間と共に記憶は薄れ消え去った。  が、数年の時を経て、本日、私はオジサンを再び目撃した。両手にバドミントンのラケットを持ち、ブンブン振り回して、ピタリと一時停止をし、ニコニコと笑っていた。  その姿を遠くから眺めると、一つだけ理解することができた。恐らく彼は、風に散りゆく桜の花弁をラケットで打っていたのだ。(それでも意味不明だが)  あの日、約束を果たせば、その謎のスポーツを体験していたかもしれない。  何かを期待してか、私は再び彼の横を通ったがニコニコと視線を送られるだけで、ラケットで殴られることはなかった。

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変なオジサン

夢喰い

 人の夢を見る。例えば、隣のお爺さんの夢。  家族が一同に集まり、大きな食卓と自分を囲んで食事をしている。孫の一人が突拍子もなく可笑しなこと言うので、ドッと笑い声が上がり皆の箸が止まる。膝が悪く一人椅子に座る私を妻はスッと見上げ、また食事へ戻った。口数は少なく表情も豊かとは言えない私達は、お互いの目に小さな喜びを見つけていた。  なんて幸せなんだろう。 ピピピッピピピッ  控えめな目覚ましに目が覚めた。多幸感と充実にとろんと寝ぼけた頭は一瞬にして罪悪感に犯された。 「また食べてしまった。。」  この罪悪感は本物だろうか?飢えも乾きも消えた。今、私が抱いている幸せがアノ幸せな夢であることを願う。 ガチャ 「朝だぞー、、起きてんじゃん」  弟の声だ。 「うん」  泣いたかもしれない、と私は両手で顔を覆っていた。声は多分、震えてはいない。 「遅刻するぞ。俺は先に行ってるからな」 「わかった」  そっとドアが閉められ、階段を下りる音が聞こえた。こういう時に深く関わらずサッと身を引くのが弟のいい点もあり、悪い点でもある。私は嫌いじゃない。  私には他人の夢でしか満たせない飢えがある。ふっと脈絡なく湧き上がる食欲は本能と同じようにタガが外れる。  時計を見る。小テストがもうすぐ始まってしまう。焦りに一時的に加速した私だったが、すぐ諦めがついてしまい、お腹も減っていたので二時限目から登校することに決めた。食パンをかじりながら眺めたテレビのニュースは子供向けの番組に切り替わっていた。  玄関を出てすぐ、犬を連れた隣のお爺さんと目が合った。できれば、会いたくはなかった。 「おはようございます」 「おはよう。学校は?」 「今からです。」 「そうか。お母さんはいるかい?」 「いえ」 「ちょっとお願いがあるんだが、、料理を作りすぎてしまってね。少し貰ってくれないか?」 「、、はい」  ぶり返した私の罪悪感をお爺さんは微笑で片付けた。  タッパーによそられる鮮やかに美味しい料理たちは、夢の中と比べて褪せて見えた。ポツリポツリ漏れたお爺さんの言葉から推察すると息子夫婦は急な用事で来れなくなってしまったらしい。家に戻り、冷蔵庫にしまうと時刻は既に二時限目の始まりを過ぎていた。  私は何事もなかったかのように三時間目から登校した。昼休みに部活のミーティングがあったので参加すると監督からこっぴどく叱られた。他先生方から今日の遅刻と授業態度についての告げ口があったらしい。私への説教がひとしきり終わると一週間後の高体連についての話題へ移った。優勝が狙える部員が十分に揃っていた、今年こそ全国大会へ行けると息巻いている人間が滑稽に思えた。  全国への夢は私一人で食べてしまったもの。  部長が県大会の壇上に上がり優勝旗を貰ったキラキラとした夢の情景を思い出して、心揺れるモノがあった私はニマニマとほくそ笑んだ。檀下にいる死んだ顏の私をみて私は高揚している。 「おい、お前はレギュラーから外すから」  ミーティングの終わり、私へ決め台詞を吐いた監督のドヤ顔はこの上なく面白かった。  私をレギュラーにするつもり何てサラサラ無かった癖に。  心配した薄っぺらい友人たちの掛ける声に虚しさが募った。  部活をサボり、いつもよりずっと早く帰宅した私は冷蔵庫から昼間に貰ったいくつかの料理を取り出した。お腹が減った。夢で食べた料理よりずっと不味かった。やけ食いで空にしたタッパーを見て食事では癒えない飢えを自覚する。 「あぁ、素敵な正夢が食べたい」  ぽっかりと空いた私の虚しさを埋めてくれるダレカの幸せを食べたい  西日差し込むリビングで子供の様に親指をしゃぶる  お腹が減った ぐううううぅぅぅぅっ ガチャ 玄関を開ける音が聞こえた 「ただいまー。おねぇが好きなコンビニスイーツ買ってきたよ」 「おかえり。ありがとう、、、ねぇ今日なんか良い事あった?」 ふふふ、と隠し、笑う弟から洩れる幸せな夢の匂いを感じ取った私は、食欲と罪悪感が入り混じり滴る涎を背徳で拭った。

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夢喰い

はるのひ

 私の住む地域もここ数日でようやく春になった。玄関とリビングの大窓とを開けると心地いい春風が家全体を吹き抜ける。何となく、なんとなく気分が良い。  特に何か新しいことを始めた訳でも、去年と何かが変わった訳でも無いが。。  春の日はいつもそんな感じだ、何もなくても気分が良い。  ひとつ、今年の春は少し残念なことがあった。三年ほど前に植えたザクロの木が冬眠から覚めない。死んでしまったのかも。  越冬できなかった原因は私の怠惰にあるだろう。台所にツケ置きされた皿は腐臭を放ち始めている。ピンク色の例の雑菌がそろそろ湧きそうなので明日にでも片付けようと思う。しかし、今日はエイプリルフールだ。明日やらなくても許される。台所もそのうち死ぬ。朱きエオニア。  海にも春が来ているようだ。川を下った稚鮎は漁港でキラキラと輝き、遥か南方からハクの群れが近所のどぶ川を占拠しに来た。夜な夜な、冬の産卵を終えやせ細った鱸が乱舞していた。  やっとバイクが活躍する時期だ。点検すると欠陥だらけで嫌になる。走る前にゆすらないと走らない水の溜まった燃料タンク、紫外線でひび割れたフロントフォークシール、刺さるほど尖ったスプロケット、夏でもチョークが必要なぼろエンジン、えとせとら、けせらせら。冬の間にバイク屋に出そう出そうと考えていたが、見積もりを貰うのが怖くてずっと放置していた。周りからは買い替えろと言われるが、、気に入っているから問題なしだ。壊れてから考える。  とは言いつつ中古のバイクをネットで検索していたりする。買えないのにね。  とくにオチも無しに   はるのひ

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