ひう
13 件の小説映画
映画やアニメには「BGM」が付けられる。 悲しい場面には、ピアノの悲しそうなメロディーが背景で流れている。 感情的な場面には、ギターやドラムが大きい音で鳴っている。 そして、映画には起承転結がある。 主人公がいて、問題が起こり、それを解決するためにいろいろなことをし、最後に解決させて終わる。 決められたレールをそのまま進むだけ。 物語なのだからしょうがない。 だが、この「物語」は、決められたレールも、起承転結がいつ起こるかもピアノやギターのBGMも流れない。 この「物語」の主人公かもわからない。誰かの人生のモブAなのかもしれないし、声優もアニーションも付けられないような存在を認知されないような、背景なのかもしれない。 貴方の人生の一欠片なのかもしれないし、「物語」の主人公なのかもしれない。 劇的な場面も、感動するようなシーンもないけれど、この「物語」を必死に生きている。 春も、夏も、秋も、冬も。 貴方はこの「物語」をどう生きる?
月光に手を伸ばす
入院中、病室の窓から見える月は、鳥が、籠の中から見る空のように、近いのに遠い、手に届きそうな距離なのに、決して手に触れることはできない。 鳥のように羽ばたけるわけでもないが、いつか空を飛んでみたい。 「ゴホッゴホッ」 慌てて手で口を抑える。その手を見ると、血がついている。咳をした時に出たのだろう。 自分にかけてある布団を見ると、そこにも血がついている。真っ白なシーツに、赤黒い血液が染み込んでいる。 「鳥でもこんな事ならないのに。」 神様は非情にも、こんな体で産み落とした。 生まれつき歩くだけで体の調律が狂ってすぐに倒れる。 6歳の頃、突然血を吐いて倒れたと、お母さんは言った。 結核?肺炎?肺がん?白血病?……病名なんて忘れたけれど、18歳まで生きていたら奇跡だと言われた。 そんな僕は今、16歳。あと2年で死ぬらしい。 神様は非情にも、僕を不幸な体にした。 ひよこだって笑顔で歩くのに、僕は苦いものを食べた直後のような顔で毎日を生きている。 大半を病院のベッドで寝てるだけの人生が、生きていると言えるかはわからないが。 窓から入る月の光が、静かに病室を照らす。 神様はこんな綺麗なものを生み出したのに、僕には綺麗な人生を与えてはくれなかった。 僕がなにをしたっていうのか? 窓をガラガラと開け、上半身を窓の外に出し、手を伸ばす。 あと少しで届きそうな月が、力強く僕らを照らしている。 「届いた!」 そう思った時には、僕の体は窓の外だった。 僕は、空を飛んだ。
黒い壁
近頃、後ろに気配がする。 普段、後ろに人がいても気付かないのに、こういう時だけなにがが変だ。 一般的なマンションは、霊がいるとか、そういうことはあるのかもしれない。一軒家にあるというのはあまり聞いていない。 私が住んでるアパートは、外壁も剥がれているようなおんぼろアパートだから、しょうがないのだろうか。 お風呂に入る時、トイレの時、部屋にいる時。 そんな1人の空間の時、なぜか心臓が苦しくなる。 息がしずらく、頭の中の圧迫感が酷い。 怖い時ほど、映画のように冷や汗をかくものだろうか。 周りの音が耳に入る度、瞬きをする度、目の前に「何か」が現れないかが怖い。 静かな空間ほど、広い空間ほど、その恐怖は増していく。 緊迫感と恐怖で崩れ落ちそうだ。 毎日、この感情と戦っている。 みんなと話している時、外にいる時、別のことをしている時。 その時は、背中の気配を無視できる。 肩が重い。 重圧感がある。 心臓が苦しい。 いつもの事でも、友達と話せば忘れられる。 二階建てのこの家には、私と、お母さんとお父さんの部屋の3つしかない。 一人でいる時、とても怖い。 誰もいない一人の空間が寂しい。 腹の底から湧き出るような不安。 羽虫が大量に体を這っているような不快感。 全てが脳に襲いかかり、恐怖を生み出す。 小さじ1杯もないような勇気を振り絞り、後ろを振り向く。 なにもない。 誰もいない。 目の前にあるのは部屋の壁だ。 天井を見ても、床を見ても、それはいつもの景色。 「なんだ、なにもないじゃないか」 だが、ここからだ。油断させておいて、目の前に現れるというものかもしれない。 ゆっくりと、慎重に前を向く。 何も無い。やっぱり、思い違いなんだ。 そう思うと、安心感が湧いてくる。 今日はよく眠れそうだ。 そう思うと、この心臓の苦しさは、修学旅行の前日のワクワク感に似ている。 私はそのまま、布団に入り、瞼を閉じた。 あれ?私って、こんな二階建ての家に住んでたんだっけ
海の幸
潮の香りがする。 ザバン、と波が起き、防波堤にぶつかる度、うるさい音と水しぶきが襲ってくる。 毎夜毎夜この音に悩まされ、寝る時間はどんどん遅い時間になる。 ここは、海岸の近くで、よく漁師が船で通る。 灯台の光が眩しく、真夜中の暗い海も照らす。 ここはよくカップルが心中しに来る自殺の名所で、私もよくカップルを目にする。 止めても意味が無いので、いつも横目に眺めている。 砂浜に男女の足跡ができても、波がすぐそれをかき消す。 可哀想なものだ。まだ若いのに、人生に絶望し、海に帰るとは。 ニュースにもならないようなただの一般人でも、それを目撃した一般人には特大ニュースになるだろう。 これも、愛なのだろうか。 永遠の愛と呼べるのだろうか。その価値観はそれぞれだろう。 心中しに来るカップルは、毎回キスをしながら海に落ちる。 それは、とても美しく、儚い。そして、醜い。 私は生涯彼氏も彼女も作らないので、そんなことにはならいないと思うが、できていたら、こうなっていたのだろうか。 この地域には森も山もない。 だから、ここ周辺にはよくカップルが来るのだ。 それは、海で遊ぶという目的と、心中するという真反対の目的がある。 まるで、光と闇だ。 今夜は月がよく光っている。 雲もなく、月がよく見える。 灯台の光が、2人を照らす。 男女はキスをしながら海へ沈んでいった。
夜明け
寂しい夜も終わりを告げる。 寒く、暗く、不安が渦巻く一夜も、たった一つの存在で全てが除かれる。 暖かいあなたが居てくれるだけで、私は救われる。 その光に包まれるだけで、私は生きていける。 辛い日々も、沈んだ心も、涙の池も乗り切れる。 また明日を行けていこうと思える。 明日もまた、あなたの眩い光で私を包んで欲しい。
昔の話
「昔昔ある所に……」 そんな語りから始まる昔話は、在り来りで、つまらない。 だけど、簡潔で、わかりやすい。 こんな惹かれる語りを昔の人は思いつくなんて、昔の人は発想力が豊かだ。 「最近の若者は戦争を知らぬから……」 そんな語りから始まる昔話は、在り来りで、つまらない。 だけど、内容には惹かれるものがある。 昔のことなんて誰も分からない。 だから語り継がないといけない。 「あの頃の国を知らないから」 「昔は良かった。今の国はダメだ。」 「これだから最近の若者は」 そんな話ばかりする老人は、数百年前の昔の人を見習って欲しい。 最初の語りが惹かれる言い方なら、いくらでもその昔の話を聞こう。 ほんと、昔の人を見習って欲しい。 これだから最近の老人は。
冬の夏
冷え込む季節。 昨日から止まらず降った雨は、人の体を冷やす。 突然降ってきた大雨には対処しようがない。 連日最高気温を記録している気象庁も、これは予測できなかったようだ。 そのため、傘も無く、冷たい雨の中では薄い服は体温を保ってはくれない。 それどころか、熱を出して身体は火照っていく。 ある日、連日の猛暑により酷使されたハンディファンのバッテリーが過放電等により発火したとのニュースがあった。 暑くなる季節。 連日降り注いだ雪は、あたり一面を真っ白に染めあげる。 雪は太陽光を反射して、こちらの肌を刺激する。 真上から落ちてくる太陽は身体の体温をどんどん上げる。 分厚い服。マフラーに、ニット帽。カイロを握りしめ外に出たものの、体温は上がり、逆に暑くなる。 肺には冷たい空気しか入らないのに。 ある日、連日の寒さにより使われたストーブの周辺に、毛布などの可燃物が置いてあり、発火したとのニュースがあった。
癒々
疲れた。 もう疲れたんだ。 上司からのパワハラ。先輩からの嫌がらせ。 後輩からの嫌味。同年代はもう結婚したり、自分の好きなことをしてお金を稼いでいる。 一方俺は、平凡な会社でダラダラと人生を過ごしている。 もう死のう。 1歩進めば落ちる。 ここは3階建てのビルの屋上。 頭から落ちれば即死だろう。 やっと開放される。あの空間から。この世から。 嫌なことも全部ここまでだ。 そう思ったら、なんでもできる気がする。 開放感というか、心の重荷が全て降ろされたような、そんな感じがする。 体が軽い。風が心地よい。体が浮くような、そんな感覚だ。例えるなら、ジェットコースターの下がる時のような、浮いた感覚だ。 ああ、みんな見てる。前までは誰も俺のことなんて見なかったくせに。 無視したくせに。 学校でも、会社でも、なんでも。みんな無視したのに。 今では注目の的だ。やはり。注目を浴びるのは心地よい。 五月蝿いな。救急車の音は。パトカーの音は。 寝ている最中に来るなよ。せっかく気持ちよく寝ていたのに。 あー、明日もこんな心地よい日が続くといいな。
双子の解決
チリリリ。チリリリ。 アラームが鳴る音が聞こえる。 僕はアラームを止め、ベットから起きる。 カーテンを開け、窓を開ける。朝の新鮮な空気が淀んだ空気を変えてくれる。 寝巻きから制服に着替えた頃に、 「柊真ー!!ご飯できたよー!!」 「はーい」 部屋のドアを開け、階段を下りる。 目玉焼きの香ばしい匂いが鼻腔を刺激する。 「いただきまーす」 僕は朝食を勢いよく口に放り込み、手を合わせる。 「ご馳走様でした」 洗面所へ向かい、歯磨きをする。 父さんが髭を剃っていて、その真横を素通りする。 「今日は雨なんだって。傘もっていきなさいよ」 「うん。わかった。」 歯磨きを終え、部屋に戻る。 バックの中に教科書とノートを入れ、そのまま背負う。 「じゃ、行ってくる」 「行ってらっしゃい。気をつけてね」 秋風が心地よい。 太陽は程よく地面を照らしている。 僕は入院後、精神病院での治療を受けて、無事に治った。お兄ちゃんのことはまだ、少し気になるけど……でも、もう大丈夫!! お父さんもお母さんも、僕をもう大丈夫だって思ってる。ちゃんと、春から学校にも復帰して、もう中学2年生。 目の前には紅葉が一面にあった。 葉っぱを踏まず、隙間だけ踏んで歩く。忍者みたいでこれも楽しいのだ。 僕はそのまま一緒に登校している人に話しかける 「お兄ちゃん、そっちの組って1時間目の授業なんだっけ!!」
双子の思い出
目が覚めると、病院にいた。 真っ白な天井が目に映る。 「お兄…ちゃん?」 「お兄ちゃんっ!!お兄ちゃんはどこ!」 病室のドアが開いた。 「柊…真…起きたの…」 「お母さん…お母さん!!お兄ちゃんは!?」 お母さんは顔が真っ青だった。 涙をぽたぽたと流し、お見舞いの品を落としたままなこちらに近づいてきた。 「柊真…轢かれて…死んだって…あんたを庇って…」 「お兄ちゃんが庇ったから…」 僕を庇ったから、僕がアイツらに従ったから 僕があんなことしたから僕が早く落ちとけば 僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が 僕が殺したんだ それ以降、記憶は曖昧だ。 ただ、お兄ちゃんとの日々を思い出していたはず。 お母さんは言う。 「飛び降りようとしたときは本当に怖かった。」 お父さんは言う。 「いじめっ子を半殺しにした時は止められなかった。止めたらいけないと思った。」 警察沙汰にはなったが、いじめの件がバレて、罪には問われなかった。 お兄ちゃんは言う。 『人を傷つけるな。優しくしろ。いじめなんてしちゃいけない。人の役に立て。そうするなら、俺はお前とずっと一緒にいるよ』 僕は初めてこの約束を破った。 これが1人になった最初の僕の思い出だった。