くうきり

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くうきり

最近始めました。まだ何もわからないような状態です。よろしくお願いします。

海を眺める丘の上にて ( )

一体どれだけ走っただろうか。 気づけば森の奥深くまで来てしまっていた。 「はぁ、もう少しなは、ず…は、あとちょっと……」 負傷した体はもう限界近く、走るのは無理だ。 それでも、丘住みとして放っておくわけにいかない。 そこらじゅうから寄生虫の鳴き声が聞こえる。 小さくて、弱いのなら阿呆を晒して襲いかかってくる。 そいつらを切りつけて歩いていると、足に絡みついた草で転んでしまった。 本当に、丘住み総動員して草刈りでもしたほうがいい気がする。 「だいじょうぶ?」 そのとき、上から声が聞こえた。 顔をあげると、まだ7、8歳くらいの男の子が立っていた。 こんなところにいるというのに、妙に整った身なり。 ふわりと揺れた髪はわかりやすく艶があり、どうやら相当かわいがられているようだ。 「……うん、転んだだけだからね。君はこんな時間に、一体どうしてこんなところにいるの?」 そう聞くと、その子はこてんと首をかしげ、しばらく考えたようすを見せたあと 「おしえない。」 とだけ答える。 「じゃ、じゃあ名前を教えてくれる? お父さんもお母さんも、君のことを心配してると思うんだ。」 「さきにおにいちゃんのなまえ、おしえてよ。」 なんとも無愛想で、素直でない子供だ。 それに、丘住みの名前も顔も知らないとは。 しかし放っておくという選択肢はない。 「僕は柳原悠。この町の丘住みだよ。」 できるだけ柔らかく笑うよう意識して言ってあげれば、少し警戒を解いたのか 「…おんなじなまえ。ぼくもやなぎはらゆう。」 と、さらりと衝撃的なことを言いのけた。 まさか同姓同名だとは。 ここは危ないということで、以前唐木さんと休憩をしたあの場所へ行くことにした。 あの場所には寄生虫の嫌う植物が生えていて、まあ、森の中では比較的安全だ。 改めて落ち着いてみると、外がとても寒いことに気がついた。 真冬の夜なのだから、当然と言えば当然なのだが。 「おにいちゃんはさ、まだおもいださないの?」 ふと、そんな問を投げかけられたかと思えば、一層頭痛が酷くなって────

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海を眺める丘の上にて 〜姉妹の花屋(2)

「けほっ…ひゅ、ゴホッゴホッ!」 思わず咳き込んでしまった。 息はあがって、体には痛みと疲労が溜まっている。 対する寄生虫どもは、まるでそんな僕を嘲るかのように見下ろし、余裕にこちらを伺っていた。 あんにゃろう、あろうことか仲間を呼んだ。 二対一は流石に卑怯というものじゃなかろうか。 戦い慣れてる丘住みの僕だって、多対一、それも寄生虫相手となればかなり望みが薄くなる。 体勢を直そうとすれば、そこを見計らったかのように尻尾が振り下ろされる。 よろけながらも跳んで避けた。それは良かった。 「うぐっ…」 着地を失敗してしまった。 チャンスだとばかりに喜んで寄生虫が這いよってくる。 ギュッと目を瞑り、痛みに備えたその時だった。 “い゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っだああぁ!!” 耳を壊す気か疑うほどの声とともに、寄生虫が怯んだ。 見れば、目に園芸用ナイフが刺さっている。 「ごめんね、柳原くん!遅れちゃったわ…」 「姉さんが謝ることじゃないし、あんた何普通にやられてるわけ?正式な丘住みなんでしょ、ちゃんとしなさいよ!」 どうやら、彼女たちが助けてくれたようだ。 もう一度包丁を構え直して、3人一緒に寄生虫と向かい合う。 「本っ当、姉さんの仕事を邪魔するなんて許せない!ミンチにしてやるわ!」 …協力はありがたいが、恵梨花ちゃんはまだ修行中の身なのでできるだけ自分第一にしてもらいたいものだ。 さて、そんなことを考える暇はない。 “ぎぃぁ…この、ののの゛…げす、や゛ぁ゛” と、寄生虫に目をやった時。 1匹が、もう一匹を飲み込んでいるのだ。 「なっ…?!」 「あら……見たことない行動ね。」 普段余裕な優里花さんも、動揺した態度を見せる。 ごくり、と飲み込んだ方の寄生虫はこちらを向くと、先ほどとは比べ物にならないスピードとパワーで襲い掛かってきた。 先手必勝、とでも言うつもりだろうか? すかさず空いた腹を切りつけてやる。 その後はお互いに引かない戦いが続いた。 人数差は逆転したとはいえ、寄生虫と人間。 実力の差は明らかなものだった。 そのどちらも疲弊したころ、本当にまぐれだったのだけれど、僕の包丁が寄生虫の背に思いっきり突き刺さった。 固い殻の繋ぎ目に刺さって、不快な体液が飛び散って顔についた。 “ゆ゛る゛さ、ぁ゛ない゛い゛い゛…” 疲れきっていた体にはそれが致命傷だったようで、そのまま寄生虫は息絶えた。 …死に際に発せられた単語に聞き覚えがある。 いや、気のせいだ。 ふと出てきた邪魔な思考を振り払って、後処理をして、帰ることになった。 「ありがとう、二人とも……僕一人だったら、多分死んでた。」 「あら、そんな悲しいこと言わないで。結果的に今、生きてるんだしいいじゃない!」 「姉さんのおかげよ、感謝しなさい。」 通常運転の二人を見て、どこか安心した。 最近、変に思考が曲がって困ってしまう。 二人とも別れて、思い出のアトリエに帰った。 小鳥遊くんが怪我を治療してくれて、ご飯も用意してくれた。 ありがたくて、温かいと同時に、少し申し訳なかった。 寝る支度も済んで、ベッドに入ろうかと思った頃、外で誰かが転んだような音がした。 「!?……だ、大丈夫かな…」 冬場だし、とても心配になって、外に様子を見に行くことにした。 外に出ると、薄っすら雪が積もっていて、少し頭痛がした。 ツキ、と痛みに目線を下へやると、足跡が森の方面へ続いていた。 「…こんな時間に…?!」 大きさから見て子供、こんな時間に危ないどころの話ではない! まだ痛む身体も、頭痛も、見ないふりをして駆け出した。

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海を眺める丘の上にて 〜姉妹の花屋(1)

ばねじかけのおもちゃのように飛び起きた。 体に動かされた毛布が、ベッドの下へへなりと落ちる。 「……夢、?……今は、目が覚めた…んだよね…」 最近夢と現実の自覚があやふやで、不安になる。 でも、暖房もつけず眠った体は冷えて痛むし。 飛び起きた反動でも背中が痛むし。 痛みしかないような目覚めで、なら現実だとわかった。 外はまだ薄暗い。 時計を見れば6時を指していた。 「……ご飯作ろ。」 そっと、隣の部屋の彼を起こさないようにキッチンへ向かった。 「ありがとな、柳原!やっぱ玉子焼き作るのお前のほうが上手いよな…」 窓から朝日が射し込んで、だいぶ明るくなった。 外から微かに聞こえる小鳥のようなフルートが、朝を知らせる。 起きてきた小鳥遊くんと朝食を食べていると、彼はそう言った。 まあ確かに、彼が作る玉子焼きはとても不格好というか、お世辞にもきれいとは言えないというか… 「…今度、教えようか?」 そんな提案をすれば彼は目をパッと輝かせ、大きく頷いた。首大丈夫なのかな… 食べ終わり、食器を片付け、仕事へ向かう。 昨日は森をメインに回ったから、今日は町を回ろう。 たっ、といつものルートに走り出す。 町の人たちは、そんな僕を見て挨拶をする。 「おはよ」「いつもありがとね」 嬉しいことこの上ない。 掲示板まで行けば、フルートを吹いてる唐木さんがいた。 この町の一種の名物みたいなものだ。 朝、昼、夜。 大体同じ時間に楽器の音が聞こえる。 町の人はみな、これを時計台か何かと同じように扱う。 すべて唐木さんが弾いたり吹いたりするものだ。 俗に言う、天才。何でも弾ける上に指揮までこなす。 改めて並べてみると恐ろしいほどの才だ。 「はよ、柳原。なんか用?」 「ううん、特には。相変わらず上手だなぁって。」 素直にそう返せば、彼の機嫌が見るからに良くなっている。 まあ、褒められれば誰でも嬉しいだろう。 「まっ、まぁな……日頃から練習してるし? お前は…見回りか。昨日の怪我は…どうだ? その、なんというか…ああも目の前でやられてると、夢見も良くない…というか…」 彼はそうどこか気まずそうに目を泳がせ、ボソボソ呟く。 「僕は全然だよ、ありがとう。唐木さんは?」 昨日、首元に傷を負っていた彼。 まあまあ深い傷で、もう少し深かったら何か後遺症の可能性とか、あったかもしれない。 「俺は平気だよ。ちゃんと治療もしたし…」 ドゴン、 そんなときだった。 何か、低く地を這うような、揺るがすような音が響いた。 「今の音っ…!」 「……柳原、俺は避難誘導に向かう。 海辺へ行ってくれるか?」 「わかった。」 さっきとは違う、走りに焦りが出る。 最近はおとなしいと思っていたけど…そうでもないようだ。 “ぎゃ、がああぁ……ら゛ぁぁいじょう…ぶ…” 2日連続で会うとはなんとも不運だと、我ながら思う。 今の今まで遊んでいたであろう家族が逃げ出したのを確認して、包丁を構えた。

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カケラ

カケラってのが、この世界にはある。 世界にまばらに分布していて、条件さえ満たし続ければその恩恵を受けられる。 ただ、その条件っていうのがなかなか難しい。 今までのテロやら何やら、ほとんどそれのせいだ。 一年に一度、健康体でかつ20歳以上35歳未満の人間を「カケラ」に放り込む。 そうすれば、完璧にエコなエネルギーの誕生ってわけだ。 別にこの健康状態とか、年齢とかの制限は破ったらどうなるわけでもなく。 まあ、ただ今までの記録からこれが一番効率的にエネルギーを引き出せるのだ。 さて、自己紹介が遅れたが。 僕はカケラへの贄が生活する寮の、まあ、医者みたいな者かな。 厳密には色々違うんだけど、似たようなもの。 この前入った後輩はガチ医者だった。知識差が一番怖い。 …とまあ、関係のない話は置いといて。 今僕がこう一人でぶつぶつと呟いているのは何も、画面の向こうが…みたいな話ではなく。 ただ、罪を犯したことの懺悔だ。 カケラというのはどうも、エネルギーが凄まじいもので。 なんの対策もなしに近づけば気が狂ってしまう。 僕らカケラ寮従事者というのは、カケラに近づいてなお正気を保つ必要がある。 正気を失ってカケラに飛び込んで殉職しました……とか、笑えないでしょ? でも、贄の彼らは必ず狂う。 タイプは色々あるけど、中でも道連れを作ろうとするタイプが一番疲れる。最悪死ぬし。 …話がずれたな。 本当は禁止されているけど、僕はその贄の一人と恋人関係にあったんだ。 うちに子供ができて、願って、願って、精一杯彼女を支えて……彼女も、子供も死んだ。 そりゃそうだったんだ。 対策はあるといえど、カケラ寮従事者は必ず何か、心身に異常が生じる。 じわりじわり、蝕まれる。 僕の場合、記憶の喪失だった。 現に、彼女と一緒に考えた子供の名も、彼女の声も、姿も。 ほんの少し前のはずなのに思い出せない。 かろうじて名前だけは覚えているが、これもいつまでもつか。 この異常は交わったものにも訪れる。僕にカケラのエネルギーが伝染ったとも言える。 彼女はそれに蝕まれた。 だから、死んだ。 ねえ、ごめんね。もう君の名前も曖昧なんだ。 でもきっと、すぐ会えるから。 そうしたら、また自己紹介から始めるから、また教えてね。 目の前の後輩には申し訳ないが、まあ彼の優秀さならどうにでもなるだろう。 彼の出世した姿と、愛しい彼女と、生まれるはずだった子をぼんやり、思い浮かべて。 僕は落ち着いて、カケラへ足を滑らせた。

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海を眺める丘の上にて 〜雨宿り小屋(2)

森は町からすぐのところにあって。 軽い雑談をしながら向かえば、体感1分もしなかった。 唐木さんの話、面白いし。 「はー……いつ来ても不気味だな、ここ。 本能的に恐怖を感じる…みたいな。」 森を見渡しながら唐木さんが言った。 薄らと霧がかかり、自然だけの中生き残った木々が影を落とす。 陽を求め伸びきった雑草は足に絡みつき、普段の見回りルート以外はとても歩けたもんじゃない。 「まったく、こんなところにハンカチなんか落としやがって…!」 本当にそうだ。まあ、ルート以外に外れることはないから道なりに行けば見つかるだろう。 まず、それよりも一番まずいのは… “ごごっろしや゛ぁぁぁああがぁぁ” 「……うるさい。」 「あいつら」だ。 醜い、理性のない化物ども。 人と似た言葉を発するが、所詮意味のない言葉の羅列だ。惑わされてはいけない。 “ひい゛あああどっどい…いあ゛ぁ…” それぞれ武器を手に取る。 僕は今日持ってきた、手に馴染む包丁を。 唐木さんはいつものシャベルだ。 そういえば、言っていなかったか。 森に住む寄生虫ども。見境なく町の人を襲う化物。その退治も、僕達丘住みの仕事なのだ。 とたん、寄生虫が尻尾を振り上げる。 咄嗟に横に避け、うまれた隙を逃さず切りつける。 寄生虫は臆さず向かってくるが、そんなチャンスを彼が逃すはずもなく。 ドゴッ、と鈍い音がしたと思えば寄生虫は一瞬怯み、バランスを崩し、倒れる。 さっさと殺してしまおうと、包丁を振り上げて…声が聞こえた。 “そん゛なに…おれのこと、きら…いだった…?” 思わず手が止まる。 だめだ、早く仕留めなきゃ。 意味のない言葉の羅列を聞いちゃだめだ。 何も、思い出すな。 隙を見逃さないのは、寄生虫も同じ。 強い衝撃を食らったと思えば、木の幹に体が打ち付けられる。 「あがっ…!」 「っ柳原!!」 …あぁ、そうだ。柳原。僕の名前。 ……今まで、忘れていた気がする。 ゲホゲホと咳き込みながら立ち上がれば、まあ体は痛むがまだ動ける。 唐木さんもそれを察したみたいで。 また二人、寄生虫に向かう。今度はミスなんてしない。 唐木さんが注意を引く間に、素早く近づいて グチャッ 少なくとも気持ちのいい音ではない。 寄生虫は、先ほどの音といい勝負の声をあげ、そのまま力尽きた。 なんだか力が抜けて、膝をついた。 「…大丈夫か、柳原。立てるか?」 こく、と頷けば、よかった、と呟かれた。 表情は難しいままだけど。 肩を貸してもらって立って、よし歩こう…としたら、おぶられてしまった。 もう成人してるのに。恥ずかしい。 文句を垂れて、窘められて。 そうやって森を歩いて(僕はおぶられて)いくと、少し開けた場所に出た。 比較的安全で、丘住みの間では森の休憩所として共通の認識をしている場所だ。 「…ん、あの橙色のって…!」 唐木さんが声をあげる。 見れば、見覚えのあるハンカチが落ちている。 「…恵梨花ちゃん、ここに落としてたんだ…」 「な、破れたりしてなくてよかった。」 二人して安堵のため息を吐く。 少し休憩、と言って唐木さんは倒木に腰掛けた。 僕は隣で貰ったお茶を飲む。 やっぱり日本茶が一番だな、うまい。 ようやく休息を取れた気がする。 体も痛みが取れてきた。 「どうだ、体は…少しはマシになったか?」 「うん、ありがとう。唐木さんこそ、その怪我治療したほうがいいんじゃない?」 彼の首を指差せば、驚いたように傷に触れる。 浅く、首に切り傷が入っていた。 痛みか、指先の不快感か、顔を歪ませ血を拭う。 「あれ、首に攻撃なんか食らったっけなぁ…地味に痛えし。」 不思議そうにしていたから、本当に無自覚なんだろう。 僕も自分の傷でいっぱいいっぱいで、あまり見てあげられなかったし。 しばらく休憩が続いたけど、他の仕事もあるってことで。 念の為またおぶるとか言われたけど、全力で拒否させてもらった。 全然歩けるし! 町に戻った頃には、空が茜色から藍色へ変わり始めていた。 まぁ、冬は日の沈みがとても早いから仕方ない。 とりあえず今回一番の目的だったハンカチの持ち主である恵梨花ちゃんのもとへ行こうとなって、二人となりあって歩いた。 余談だが、丘住みの家には何かしら由来ある名前がついてたりする。 結構昔からある唐木さんのところは「雨宿り小屋」。昔傘を作ってもいる丘住みが住んでたらしい。 僕と小鳥遊くんが住む「思い出のアトリエ」。 この町では有名な画家が住んでた。…ちなみに僕らも絵を描いたりしている。 最近できた「姉妹の花屋」。優里花さんと恵梨花ちゃんが住んでる。名前の通り花屋でもある。 姉妹の花屋へ向かえば、優里花さんが出迎えてくれた。 「あらあら、ハンカチをとってきてくれたのね!わざわざありがとう。あとでお礼にケーキでも焼こうかしら。」 「ケーキ……」 思わず反応してしまった。 仕方ないと思う。 優里花さんのケーキ、美味しいし。 「それは楽しみだな。恵梨花は中にいるか?」 唐木さんが聞く。 僕はケーキに気を取られて一瞬目的を忘れていた…っていうのはまあ、バレてないし。 「ええ、恵梨花なら自分の部屋にいるはずよ。2階の一番奥の部屋よ。」 ありがとう、そうお礼をして2階へあがる。 奥の部屋の扉をノックすれば、どうぞ、と高い声が聞こえる。 ハンカチを返しに来た旨を伝えれば、素直に感謝をしていた。 普通に笑ってる顔を見るの久しぶりな気がする。 「ありがとう!これ、姉さんから貰った大切なもので…助かったわ。」 「んな大切なもんなら町の中だけにしとけ。大変だったんだから…」 そんな二人の会話を聞いていると、なんだか声が遠い気がして。 すぐ瞼が重くなったから、ああ、これは眠いのだと。そう気づいた。 「じゃ、次からは気をつけろよ。」 ウトウトしていたらすぐに会話が終わり、気づいたら帰ってきていた。 眠気って怖い。 とても、とても眠い。 もう無理だ。 そう感じて、自室のベッドに倒れ込む。 体が沈み込むのと一緒に、意識もまた沈んでいった。 自然と目が覚めた。……部屋は暗い。 …なんとなく、唐木さんのところに行かなきゃ…いけない。 そんな気がして、自分でわかるくらいにふらついた足取りで向かう。 ドアに手をかけると、鍵はかかっていなかった。 どく、どく、どく、どくん 心臓が速まる。思い出す、あの時を。 あぁ、そうだ。あの時、ここで、僕は… 僕は、彼を殺したんだ。 首を掻っ切った。 だから、今も彼は恨めしくこちらを見つめるだけなのだろうか。 口が動けども、声は聞こえない。 地面には、何に使ったかも忘れたハサミと、椅子が転がっている。 なんとなく天井を見上げたけれど、電気もつけていないせいかよく見えなかった。 彼はまだ、こちらに何かを訴えかけている。

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海を眺める丘の上にて 〜雨宿り小屋(1)

かち、かち、かちり 時計が周りの時間そのものを急かすように鳴る。窓からの月光は途絶えている。 もうこんな時間だ。 あぁ、早く眠らなきゃ。 自然とそういうふうに思考がはたらく。 まあまあ柔らかいベッドに体を転がせば、すぅ、と意識が沈んだ。 時計の針は、まだ時間を急かしている。 なにか、僕を呼ぶ声が聞こえた気がした。 ふわりと意識が浮上する。…が、やはり冬の朝はどうあがいても辛いもので。 まぶた越しに明るくなったことだけはわかるが、目が開けられない。もっと寝たい。 そんな僕の願い虚しく、声はまたかかる。 「お〜い、そろそろ起きろ!…入るぞ?」 少し古いドアを鳴らし、冷気とともに入ってきた彼はあろうことか僕の毛布をひっぺがした。 嘘だろ、人じゃないこいつ。寒い。 そんな思いを込めて仕方無しに目を開き、睨みつけたらため息をつかれた。 「はぁ……ほら、朝飯用意してるから。冷めないうちに食え。」 「ほんとに!?食べる、ありがと小鳥遊くん!」 最高だ!前言撤回しよう。彼は間違いなく模範となるべき人物だ。 チョロ…と声が聞こえた気もしなくはないが無視だ無視。 いつもは僕のほうが起きるのも早いし、朝ごはんも用意するけど。でも、正直彼のほうが料理は上手だ。 だから、朝から彼の料理を食べれるなんて幸せだな、と。そう思う。 並べられた和食を二人で食べる。 「お前が寝坊とか結構珍しいよな…最近多くなってきたけどさ。」 ふと彼が言った。 まあ確かに、最近起きるのが辛い、と言うよりどうにも意識が浮かばない。 まあこればっかりは多分どうにもならない。 そのうち治るだろうと根拠のない希望を述べれば、苦笑で返された。 失礼だと思う。 これでも彼の気持ちに配慮し、明るい未来を考えたというのに。 ごちそうさま、と声が重なった。 洗い物、あとでもいいかなぁ 別にいいんじゃない? そんな会話を交わして、今日の仕事に向かうことにした。 ちょっと残念だけど、ここで小鳥遊くんとは一旦のお別れだ。 今日の僕の仕事は…ああ、今週は僕が町の見回り当番だ。 愛用の武器である包丁を腰にかけて、丘から降りて……とりあえず、商店街から行こうかな。 もしかすれば、丘住みの誰かが買い物をしてるかも。 …ちなみに丘住みっていうのは、15歳…つまりこの町での成人済みとされる人がなれる町のリーダー的存在だ。 この町の中でも目立つ位置の、丘に住んでるからまんま「丘住み」。 今の丘住み就任者は4、修行中の子も含めたら5人。 仕事は色々あって、今回僕の仕事である「町の見回り」もその一つ。大体、週交代でやってる。 誰に向けたかわからない説明を心の中でつぶやきつつ。 異常がないことを確認しながら商店街を歩く。 8時半をすぎるということもあり、少しずつ店が開き始めている。 あ、そういえば消毒と絆創膏を切らしちゃってたな。 僕が怪我したときに救急箱の中身が無いと、何かと小鳥遊くんがうるさいし…… よろずスーパーなら今でもやってるだろう。 思い立ったならすぐ行動、向かうことにした。 おはようございます、と挨拶すれば気持ちのよい挨拶を店員さんが返してくれる。 目当てのものをかごに入れ、ついでに軽食を探していたら見慣れた背中が見えた。 「唐木さん。」 「ん、はよ。お前も買い物か。」 チラ、と彼のかごを見れば…… おそらくまた朝食も食べずに町まで来たのだろう。軽食と呼ぶべきものが大量に放り込まれていた。 唐木さんというと、丘住み男性陣の中では最年長で、この町の案内人としての役割も果たしている。 そんな頼もしくあるべき人物がこんな不健康な…とも思ったけど、僕もあまり人のことは言えなかったりする。 だから黙った。 なんだよ、って唐木さんに言われたから、多分表情には出てしまったんだろう。 「そういえば、今週の見回り番お前だったっけ?」 棚に並べられた菓子パンを見ていたら、唐木さんが僕にそう聞いた。 嘘つく理由なんかもないし、素直にはいそうですと答えれば、しばらく考える素振りを見せて 「お前さえ良ければ、ついていってもいいか?…っつうのもまあ、森に用があってさ。」 森、そのままだ。町の外にある、まあまあ危ない場所。下手したら普通に死人も出るので、丘住みでない場合、あるいはその許可がない場合は立ち入れない。 丘住みは見回りの範囲に入っているから、嫌でも行くけどね。 「別に全然大丈夫だけど…なんでわざわざ?」 正直、あの森に近づきたがるような人なんていないと言っても過言じゃない。 つまり、何かしら重要な理由があるはずだと。 そう考えた。 「いや、俺もできれば行きたくねぇけどさ…恵梨花がハンカチ落としちまったらしいんだよな。」 彼の苦労を察した。 丘住みは、修行中の子を含めて5人だと話したと思うが。 そのうち二人が女子で、やはり立場が強いというか、なんというか。丘住み最年長でもある優里花さんは特にお母さんみたいな人で、あれだ。母は強しと言うやつだ。 そして今回ハンカチを落としたという恵梨花ちゃんだが、その恵梨花ちゃんこそが修行中の子。 優里花さんの妹で、最年少。 かなりのお姉ちゃんっ子で、これには僕らも度々手を焼いている。 修行中であり、正式な丘住みではないため森へ行くのも丘住み4人のうち、誰かの許可が必要になる。 まあ、そうなったなら頼んでしまえば早いということだ。 そうでなくとも断れない。女性に強く出れる男は丘住みにいないのだ。 「じゃあ、一緒に行こう。唐木さんがいれば安心だし。」 あんま期待すんな、と半笑いで言われた。 でも、実際彼は実力者だ。 前に熊と戦ってた気がする。 …と、声に出ていたらしい。「んなわけあるか。」 と彼からつっこまれてしまった。 まあ、この後のことも決まったし。 ササッと会計をして、森へむかうことにした。 ……あ、結局軽食買ってない。

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