冬華
71 件の小説第6回N1「君と僕のランデブー」
自分は、幸せだった。 一般家庭に生まれ、友人にも恵まれ、親にも恵まれ、頭はあまり恵まれなかったけれど、環境にも恵まれた自分だった。 尊敬する人物がいて、目指したい目標があって、信頼できる友人がいて、満足のいく生活ができている。これほど幸せな人生は、当たり前なことではないと思いながら、日々を過ごしていた。 そんな幸せな自分にも、愛する人ができた。 一生をかけて守っていきたい、自分の人生だと思った。自分が生きる意味だと、そう感じた。 彼女は、生まれた時から体が弱く、親から捨てられてギリギリの生活をしていた。そんな彼女を好きになって、今は結婚までありつけた。 今、彼女は基本は家で、ゆったりと過ごしている人だった。 そのため、家に帰ると笑顔で自分の方を見て、嬉しそうな顔で「おかえり!」と言ってくれる。それだけで、自分が生きていると、実感することができた。 彼女との日々を積み重ねていくたびに、彼女への想いは強くなり、周りが認めざるを得ないほどの相思相愛夫婦であった。 いつの日か、妻と共に行った友人との食事では「スパゲッティ食べてんのに砂糖吐きそう」と言われたほどだ。 それほど、僕たちは愛し合っていた。 しかし、突然訪れた暗闇に、僕は飲み込まれた。 仕事中に鳴り響いた電話は、家の近くの大型病院から。嫌な予感がしてすぐに電話に出ると、彼女が入院することになったが、緊急ではないので自分の空き時間に来てくれ、とのことだった。 僕はいてもたってもいられず、会社に事情を伝えて急いで病院に向かった。 受付をするとすぐに通されて、一つの病室に連れてこられた。 うるさい心臓の音を聞きながら、汗ばむ手でゆっくり扉を開けると、そこには、外をぼんやりと見つめる彼女の姿があった。 彼女がいるベッドの横にゆっくり歩いていくと、人の気配に気づいた彼女がこちらを向いて、嬉しそうな顔で「おかえり」と言ってくれた。こんな時でも、彼女のその笑顔に救われて、焦っていた自分が落ち着いた。 ただいまと言い、頭を撫でていると、失礼します、と言いながら医者が入ってきた。 そして、彼女と共に説明を受けた。 彼女は、もともと体が弱かったが、ここ最近の体調の悪化頻度が増えてきていた。そこで検査をしてもらった結果、体の免疫がどんどん弱っていて、体の組織が少しづつだが破壊されてきているらしい。しかし、これは病気ではなく体質で、彼女だけにしか無い特性のため、特効薬等は無く、手の施しようがない。病室のように比較的清潔で安静にできる場所なら長く生きられるが、余命はもって一年だと言われた。 絶望した。 自分の生きる意味が、あと少しで消えてしまうのかもしれない。そのことを想像しかけて、めまいがして、椅子から落ちそうになった。 何もできない医者や、自分自身、現代医療や国に苛立ちを覚えた。 そんな僕に、彼女は笑いかけて言った。 「まだ一年あるし、それ以降も生きられるかもしれないんでしょ?じゃあまだ気に病むことないし、今の私は生きてる!だからまた頭撫でてよ〜」 そして頭突きをしてぐりぐりと押し付けてくる彼女に、つい笑顔になってしまう。 彼女には勝てないと思って、満足するまで頭を撫でてやった。 そこから病室に通う日々が続き、医者からもよければ、ということで病室に仮で住んでも良いということになった。 食事は自分で摂るが、寝られればそれで良い。 住んでた家は引っ越しをしたがっていた親に住んでもらい、自分は病院から仕事に行く日々を送っていた。 彼女はいつも笑顔で、「おかえり!」と言ってくれるし、前よりも甘えん坊になっていて、とてつもなく愛おしかった。 病室から見える景色を2人で眺めながら話をしたり、協力ゲームのRTAに挑戦してみたり、楽しく過ごしていた。 そして、余命宣告から8ヶ月半。11月14日。冬の気配がし出したその日。 彼女は亡くなった。 「まだ元気だよ〜!」と言って笑っていた彼女は、昼寝をし、その日の夕方、晩御飯の時間になり、買い物をして帰ってきたが起きておらず、声をかけても起き上がらなかったため、手を取ると冷たかった。 ナースコールをしたが、もうすでに遅く、死亡宣告を受けた。 あまりにもあっけない終わりだった。 「ドラマのように、最後に好きだよって言って、あなたにも好きだよって言われながら、手を握られて死にたいな」、とか言ってたのに。一言も交わすことなく、手を握ることもできず、天国へ行ってしまった。 そして、葬儀は小さく行われて、一通りが済んでから医者のところへ挨拶をし、病室の片付けにうつった。 僕の私物はスポーツバッグ一つ分であったが、彼女のものはスーツケース二つ分はある。 これは片付けるのも大変だな、と思いながら、彼女との思い出を思い出しながら片付けていく。 彼女が好きだったゲーム、好きだったキャラクターのぬいぐるみ、好きだったネックレス、好きだったドライフラワー、好きだった絵、 こうして思うたびに、全て「好きだった」という過去形になってしまったことが、とてつもなく悲しくて、泣きながら片付けをしていた。 ベッドの横には、三段引き出しが付いている小さな棚があり、その一番上は貴重品入れとして鍵がついている。 看護師さんにもらった鍵を使い、少し動きにくい引き出しを引き出す。 彼女が使っていた財布、僕があげたネックレス、僕との婚約指輪。思い出が、いっぱい詰まっている。 そして片付けていくと、一番下に何かがあった。 そこには、身に覚えのない、「あなたへ」という小さな冊子があった。 なんだこれはと、手に取り、表紙を開く。 そこには、「[注意!]私が生きているうちに読まないこと!」と書かれており、彼女からのメッセージだと気づいた自分が、ワクワクしていたことに不謹慎だな、と思いながらゆっくりページをめくった。 『これを読んでるということは、私は死んでますね?っていう書き出し、ドラマとかアニメとかあるあるだよねぇ〜、まさか私がこれを書ける日が来るとは思わなかったよ。ちなみにこれを書いてる今日は10月29日だよ。あとどのくらいで死んじゃうかな?まぁでも、もうすぐ死んじゃう気はしてます。あなたがお仕事に行ってる間に起きられる時間が減ってきちゃってて、体も弱ってくのを感じてるんだ。自分の体は自分が一番わかってるって、ほんとなんだね。 さて、私が死んじゃったら、あなたはどうなるのかな。私のこと大好きすぎて、生きる意味って言ってくれたあなたは、どうするのかな。 泣いてくれないと、私が泣いちゃうけど、たぶん誰よりも泣いてくれるよね。それは嬉しいなぁ。そのあとはお仕事をして、お義父さんとかお義母さんに親孝行するのかな?それとも、私のことなんて忘れて、他の人と幸せになるのかな?それだとヤキモチ妬いちゃうけど、あなたが幸せならそれでいいや。 あなたが幸せな未来が訪れることを誰よりも願ってるよ!それがたとえ、1人でも、他の女と一緒でも、お友達と一緒でも、あなたが幸せなら、私はそれで幸せだから! あとは、ありがとう。体の弱い私のことを愛して、支えてくれて。人生が短かった私の生きる意味はあなたでした。体が弱くて、親から捨てられて、絶望してた私の、太陽になってくれた。本当にありがとうね。あなたを一番愛してるよ。 とまぁ、ここまで書いてきたけど、他に何も思い浮かばないな…書こうと思うと意外と思い浮かばないんだね、あなたもこーゆーの書く時は気をつけてね!案外難しいから! そろそろあなたが帰ってくる時間だし、書き終わろうかな! あなたが笑顔で過ごせますように、願ってます。もし私がいなくなっても、あなたなら大丈夫。強くて、優しくて、私が愛したあなたが、幸せに過ごせますように。 おわり!』 彼女らしい、体のことなど感じさせない、明るい文章だった。笑ってる顔が脳裏に焼き付いて離れない。ヤキモチを妬いてる彼女の、膨れっ面が思い出される。 彼女は、体は弱くても、誰よりも強い人だった。彼女への想いが、また強くなる。もうこの世にはいないのに。 残りの10ページほどは白紙かと思い、パラパラとめくると、最後のページに、あることが書かれていた。 『あなたが幸せになって、満足して、あなたの人生に終わりを迎える時まで、私は待ってます。待ち合わせ場所は、幸せな花園で。』 幸せな花園、それは、彼女が余命宣告を受けた翌日に、2人で想像した、2人だけの世界。 『死んだ先がこんな世界ならいいね』 『いいじゃん、一緒に行こうよ』 そう、話しながら作った世界。 それを見て、また涙が溢れ出した。 しばらくして、病室を後にした。 その後は、会社を辞めて、有り余ったお金で、彼女が行きたいと話していた場所に回るため、全国を飛び回った。 そして、全てを回り終わったのは5ヶ月後だった。家に帰り、親の手料理を食べて、自室に戻る。 彼女の写真に語りかける。 「君と出会って、僕は十分幸せになれた。でも、やっぱり君のいない世界はつまらないや。もう、やり残したこともないし、あとは、君と一緒に、ゆっくり過ごしたいよ」 写真の中で笑う君を見て、続ける。 「待ち合わせ場所。幸せな花園、だったよね。結構長く待たせちゃったや。ごめんよ。昔のデートと同じだ。僕がまた待たせてるね。 大丈夫、もういくよ。だから、もう少しだけ待っててね」 時計の針は12の数字を過ぎた。誰もが寝静まった、満月の綺麗な夜。君が好きだと言った、青い夜。 部屋に置いてあったものの準備をして、布団に潜った。君との思い出を抱きしめて、静かな夜に浮かび上がってゆく。 目を覚ますと、君が、手を振りながら笑顔で待っている。 それを見て、僕は小走りで駆け寄って、言った。 「お待たせ」 君は太陽のような暖かい笑顔で、にっこり微笑んで、僕の手を引き、花園へと連れていく。 君が病室で提案した、君と僕の、2人っきりのランデブー。 僕は、幸せだ。
強要される努力?
『苦しい、大変、つらい、嫌だ』 そう、言ってみる でも、帰ってくるのは、労いの言葉でも、励ましの言葉でもない 『甘えたことを言うな、自分のためだろう、まだいけるのに何を言っているんだ』 僕の気持ちを、僕よりも理解しているような口ぶりで、立ち止まった僕を叱責する 僕の何を理解しているんだ、僕の何を知っているんだ なぜ僕はこんな思いをしているのか 確かに、努力は大切だ 全ては自分のために、そんなことはわかっている、嫌ほど言われてきたから、大事なんだというのは知っている でも、今の自分がこんなに苦しんで、辛い思いをしている努力は、正しい努力なのだろうか 確かに努力をすることは大変で、疲れてしまうことだ しかし、努力をして、その結果が動けないほどボロボロになって倒れてしまっては、努力の意味などなくなってしまう、前進するための努力なのに、前進できなくなってしまう まだ人生が始まって十七年、人生百年時代とか言うこのご時世、僕はまだまだ青い若人だと思う そんな僕が努力の何を知っているのか、そう思われても仕方ないかもしれない でも、何事も過剰であることがあまり良くないように、努力もそうなのではないのかって、そう思ってしまう 努力をする気力は、無限ではない 人によって、長く努力できる人もいれば、短い努力で、ところどころ休息が必要な人もいる 十人十色って、こういうことじゃないのって思う だから、休んだっていいんじゃないの? 努力は、休憩してちゃいけないの? もちろん、サボるとか、楽をするとか、それじゃあダメだってことはわかってる ちゃんとした、しっかりとした努力をするために、休憩してもいいんじゃないかなって、僕は思っている 努力は、強要されてやるものじゃなくて、自分の意思で、自分のペースで、自分が納得のいくようにするものじゃないのかな
最低な自分
きっかけは、些細なこと 物を無くしてしまった これから必要なのに、そんな物を無くしてしまった 焦った、変な汗が吹き出してくる 友達といても、ゲームをしてても、心のどこかで緊張感が残っている ちゃんと、今を楽しめない よく物を無くしてしまう自分に、嫌気がさす 変わらない自分に、憤りを覚える 過去の自分に、後悔をする ごめんなさい その一言から始まった 何がなくなったのか、友人が間違えて持って行った可能性があるから、聞いている途中だということ、今どんな状況なのか、事細かに話した その後、親の言葉は、1時間続いた 僕の気持ちを知らずに、「反省もしていない、謝れば済むと思っている」「『そんなん』だからいつまでも変わらない」「『普通は』もっと必死に探すだろう」「『私は』お前みたいなバカみたいなことしない」 イライラした、こっちの気持ちを知らずに、決めつけてくる親に むしゃくしゃした、『普通』という曖昧な言葉で、攻めてくることに 憤りを感じた、『私』という、僕とは違う人間の価値観や考えを押し付けてくることに 声を荒げて、反論した こっちの気持ちも知らずに、決めつけるな 『普通』とか言う曖昧な言葉で決定するな 僕と親は違うんだから、そっちの価値観を押し付けてくるな それを聞いた親は、こう言った 「言い訳をするな、屁理屈をこくな」 「だからいつまでもお前は変われないんだよ」 僕が声を荒げて、何を言おうとも、『言い訳』とか、『屁理屈』とかで、全て無かったことにする そして、反論してきた生意気な僕を、また大声で罵る ずっと前からこうだ 些細なことで追い詰められて、反論しても、親の耳には「都合の良い言い訳、または屁理屈」に変換されてしまうらしい そして、そんなことを言うバカな僕を、大声で罵る また、この言葉の途中には、「将来のお前を心配して言ってる」と言う言葉がほぼ必ず入る この言葉は魔法の言葉だ この世の中では、善人ポイントが高いほど、信頼が強くなる、言葉が真実に近づく、その人が正義になる その善人ポイントを最高潮まで上げて、周りの人を信じさせる、そんな言葉だ その言葉が、真実なのか偽りなのかわからないが、僕も何も言えなくなってしまう 僕には、「反論」とか言う権利は無くて、親の口から投げられる、言葉で傷をつけられるだけ、サンドバッグになるしかないんだ 悪いのは自分、そんなことは嫌と言うほどわかってる もうこんな無くし物で楽しい日常を壊したくない、こんな自分、嫌いだ この気持ちを、もっと強くするのは、いつも、親の言の刃だ こんな自分、いらないんじゃないか こんな自分、死んでしまった方がいいのではないか こんな自分、居たって意味がない こんなふうに、よく考える でも、死ぬ勇気は無くて、生きたくて、でもやっぱり死にたくて、でもなんとかして生きていたい、けどやっぱり死んで居なくなってしまいたい そんな自分が、自分の人生が、自分のスペックが、自分の能力が、身体が、知能が、全てが、クソみたいに思う 僕と親は、きっと一生分かり合えない お互い、自分が全て正しいと思っているから 相手の意見を否定して、自分の意見を押し通そうとするから 相手の話を遮って、自分の流れに持っていこうとするから 怒鳴って、大声を出して、優位に立とうとするから おんなじやり方の僕と親は、お互いに何も譲れないから、一生分かり合えることはない 僕は、親の考えなんてわからない、なぜそこまで罵られなければいけないのかわからない、僕の意見のどこがどんなふうに嫌なのかわからない 親は、僕の考えなんてわからないと思うし、なぜ僕がこんなにも反論してくるのかわからないと思うし、自分の意見が僕にとってどんなふうに嫌なのかもわからないと思う 何もわからないのに、わからせようとするから、うまくいかないんだ 僕はこの日、親と分かりあうことを諦めた もう、疲れてしまった 親を分かろうとすることに、穏便にことを済ませようとすることに、ストレスに耐えることに もう無理だ 交通事故で、即死とか、転落して、即死とか そんなふうに死ねたら、僕も納得できるから 死んでしまったのは、運が悪かったからだって、思えるから 僕の少し先の未来が、そんな運命にならないかな
幸せなのか
自分は恵まれていないって、ずっと思ってた 自分は不幸だって、ずっと思ってた でも、気づいた 僕は、恵まれてる部類に入るんだと 僕は、不幸じゃなくて、その逆なんだと 周りには、僕よりも苦しんでる人が山ほどいる 周りには、想像もつかないような苦しみを抱えてる人が、何人もいる なのに僕は しょうもない理由で「しにたい」とか どうでもいいような理由で「きえたい」とか ちっぽけな理由で「生きてる意味ない」とか 自分で呆れる 僕は、自分がどれだけ恵まれているのか、幸福なのか、何もわからずに、もっと苦しい人たちの中に埋もれて、甘えてたみたいだ 恥ずかしい、穴があったら入りたい こんな自分を、消し去りたい
今年もありがとう
今年もいろいろありました。 歳をとったり、友人と笑い合ったり、ストレスが溜まったり、体調を崩したり、誰かを手伝ったり。 思い返すと、余計にいろいろ思い浮かんできます。 このアプリも、2024年で40作品くらいかきました。 読んでくれた人、ありがとう。 こんな僕の、拙い文章、訳もわからない自分勝手な内容、共感してくれた人に感謝を。 僕と出会ってくれた人、ありがとう。 また来年、投稿頻度はかなり落ちてしまうとは思いますが、たまに顔を出して、投稿したり、コメントさせていただいたりするので、もしよければお願いします。 年末は少し忙しいので、今日、今年最後の挨拶とさせていただきます。 では、また来年。元気に会えることを願っております。 良いお年を。
し に か た
最近、いつどこにいても、その時から何が起こると、自分はしぬのかな、なんて考えてる。 例えば、歩道。 居眠り運転の車がこっちに突っ込んでくれば、右の石垣と挟まれてしねるかな、とか。 地震が起きて、電柱がこっちに倒れたら、しねるかな、とか。 冗談でもなんでもなくて、真剣に、真面目に考えちゃってる。 怖いよね?そうだよね?自分でも笑っちゃうくらいには怖い。 でも、それよりも怖いことがあって。 これから先、生きていくことが怖い。 周りの人が怖い。 これからどうなるのかわからなくて、怖い。 自分が失敗して、周りに迷惑かけるのが怖い。 自己中な言動をして、周りを困らせるのが怖い。 だから、って言って、理由になるのかはわからない。 でも、しにかたを考えてる。 その瞬間。その場所で、どんなことが起これば、僕はしねるのか。 …いま、てんじょうがおちてきたら、ぼくはしねるのだろうか…
いやだ
逃げちゃダメだ みんなに迷惑だろう そんな言葉が、僕の頭を支配する 心がギュッて、押しつぶされて、苦しくなって、辛くなって、痛くなって 嫌だよ、嫌だ、って、心が泣く そして口から、「嫌だ…」とつぶやくその瞬間 『逃げるな』 『お前のせいだろう』 『お前の都合に他人を巻き込むな』 『自己中だな』 と、低い声が頭に響く 頭がぐわんぐわん揺れて、ひどく酔ったような気分になって、視界の端がぐにゃりと曲がって、貧血みたいに手足から力が抜けて 思わず、地面に倒れ込む 『責任から逃げるな』 『お前が他人に迷惑をかけるな』 『失敗するな』 頭の中に、低い声が響く 苦しい、辛いって、泣いてみても、その声は止まらない 自分でも分かりきっていることを、何度も何度も言ってくる 頭に声が響いて数秒 気分が悪すぎて、意識が朦朧としてきた 辛さと苦しみと痛みと悲しみと怒り それらの感情が、感覚が、頭の中に流れ込んできて、何も処理できなくなる 意識を手放すその瞬間、低い声が頭に響いた 『何もできないお前が、何をしたって無駄』 『だったらせめて、周りに迷惑かけるなよ』 『どうせだったら…』 『しねばいいのに』 僕の心は、もうボロボロだ
わがまま
夜、布団の中に潜って、この暗闇がずっと続けばいいのに、なんて思いながら眠りにつく でも、目を開けると、小鳥が鳴いて、きらきらした朝日が僕の目を照らす その朝日が、綺麗なはずなのに、僕の心をギュッと押し付ける あぁ、起きたくない もう、ずっと寝ていたい あの子に会いたくない 何も、言われたくない そう思ってしまう でも、なぜだろうか 時間が間に合わなくなってしまう、そう思ってしまう 動きたくないのに、僕の体はだるそうに起き上がって 布団からゆっくり、這うように出て 洗面所で顔を洗うと、そこにあるのは元気そうな僕 心の中では、ため息をついて、悲しそうな、辛そうな顔して、動きたくないって、泣いているのに 体の僕は、心の僕のわがままを、許さない 心の僕のわがままは、ずっと許されない
第5回N1「日記」
12月30日 今日は、君と出会って一ヶ月の記念日だ。 だから、特別なディナーも用意して、特別なプレゼントも用意して、二人で出かける… なんてことはできない。 高校生の僕たちは、せいぜい小さな贈り物しかできない。そして、日頃の感謝を伝えて、常に思っている愛を伝え合う。 それだけ。いつでもできる、なんでもないこと。でも、それでよかったんだ。 僕たちは、それだけでも、十分幸せだ。 12月30日 今日は、君と付き合って一年の記念日。 僕らは変わらずに、寄り添って歩いてきた。 もう受験だけど、今日は少し寄り道して帰った。 近所の公園で、落ち葉が足元に黄色い絨毯をひいていた。 誰も人がいない、夕暮れ時、ベンチでネックレスを渡した。高校三年生で買うには、少し高い、いいネックレス。 それをつけた君は、本当に綺麗で、見惚れていた僕の唇に、君の唇を重ねてくれた。 僕らにとって、ファーストキスだった。 一生、大事にすると決めた瞬間だった。 12月30日 今日で、君と付き合って三年が経った。 君と僕は別の大学に行ったが、どちらの大学も近かったので、週末には毎回会うこともできた。でも、今日は特別だ。平日だけど君に会いに行った。 君は喜んで僕を迎えてくれた。抱きしめてくれた。キスをしてくれた。 君と作った晩御飯。二人で暮らすなら、こんな感じなのだろうと、想像できた。 僕の愛は、膨れ上がるばかりだった。 12月30日 君と歩いてきて、五年が経った。 でももう、この日記は燃やしてしまおうと思う。 今まで綴ってきた、この日記は、君との時間が詰まっていた。僕にとっての、宝物だった。 でも、君にとっては、そうではないらしい。 僕と君は、一生を添い遂げることはできなかった。僕がなんと言おうと、なにをしようと、君の心はもう振り向かない。 時の流れは恐ろしいもので、人をこんなにも変えてしまう。 君を想うこの気持ちを、時間が育てて。 君の持つ僕への気持ちを、時間が攫っていってしまった。 君へしかあげたくないこの気持ち。時間が攫っていってしまえばいいのに。 「…君のせいだよ」 目の前で燃える真っ赤な炎に、そっと、日記帳をおいた。 僕と君との時間は、灰となって、空に飛んでいって、散り散りになって消えた。 僕はそれを見て、やり場のない悲しみ、怒り、寂しさ、そして愛を、使い終わったライターと一緒に、ゴミ箱に投げ入れた。
自分の意味
僕は、この世界で、生きていけるのだろうか? 僕は、こんな世界で、価値があるのか?必要とされているのか? なぜ、生まれたんだ? それを見つけるのが、生きることだとか、一生をかけて自分の意味を見つけるとか。 そんなことをほざいてるやつがいるらしい。 この世界に自分が生きる意味があるなら、それは生まれた時にわかるべきではないのか? 言葉は、生まれた瞬間から意味が与えられる。そうでないと、存在する意味がないからだ。 人は、人間は、違うのか? もう、わからない。