にこ
7 件の小説桜の咲かない春
「くっそーーーおりゃあああああああ!」夕聖はそう叫びながらほぼ全力ダッシュで俺を置いて走っていった。 「お前それ絶対後半ばてるぞ!」と注意したもののもう夕聖は豆粒くらいちっちゃくなっていたので、たぶん聞こえていないのだろう。俺も夕聖に引っ張られて、少しペースをあげて走った。 体育教官室で練習に参加させてくださいと言いに行った後、成田先生に言われた通り、夕聖と俺は練習着に着替えて校庭に出た。「先生!」成田先生は校庭の石階段の2段目のところに立っていた。俺らは先生の元へ走って向かった。 「お来たね来たね」言葉は柔らかいのに無表情なのと抑揚がないのとでなんだか、カンペでも棒読みしているかのようだった。「じゃあとりあえず外周10周走って戻っといで」え、と声が出たのは俺だった。わざとでは無い。自然と出てしまったのだ。だってサッカーさせて貰えると思ってたから。驚きを隠せない僕達に先生は、またさっきのロボットみたいな声で「はいはい行った行ったそれが終わったら練習参加させてあげる」と言った。 コースが分からないので1周目は、2年生の先輩が案内してくれたのについて行った。 なんとか外周10周を走り終え、俺と夕聖は先生のもとに急いだ。 「お、思ったより早かったな」そういう先生は俺たちが外周する前とほぼ変わらない場所に立っていた。顎を少し撫でながらうーんと唸る先生に、「練習させて下さい!」ゆったりして、中々発言しない先生を急かすように夕聖はそう言った。 「ははっまいったなー、いいよ。一屋〜!!」先生は、そう大きい声で呼ぶと体格がっしりめなキャプテンマークをビブスの下に着けた人が駆け足でやってきた。
桜が咲かない春(6)
体育教官室に2人で向かう。 早くしないと、人がどんどん集まってきてしまう。そうしたら、入部届けが提出できるのが部活開始時刻になってしまう。入部届けを出して、今日から部活に参加したい俺たちは、なんとか部活開始時刻は間に合わせなければと体育教官室へ走っていた。「やべぇ!数プリ忘れた!!」 体育教官室に向かう途中の渡り廊下で、夕聖が言い出した。数プリは数Aの授業で今日出された課題プリントの事だ。 「明日提出じゃねぇからいいだろ!」次の授業明後日だぞと言いながら、先に走っていた夕聖に追いついた。 「ここじゃね?体育教官室」そう言いながら、ゆうせいが体育館前のドアを指さす。そこには、マッキーの太い方で、おそらく体育教官室と書かれた紙が貼られたドアがあった。恐らくというのは、字が汚い為汲み取って読んだからだ。それにしても、誰が書いたんだよこの字。「いくぞ」夕聖と俺はリュックを下ろしてドアの前の壁にもたれさせるように端に並べ、手に入部届けを持ってドアをノックした。 「失礼します。1年A組の湯浅夕聖でふ、」勢いよく言ったせいだろうか。夕聖は思いっきり噛んだ。俺は少し笑いそうになるのを堪えて、「1年A組の山田桜です。成田先生はいらっしゃいますか?」 そう言うと、若くて色黒な女の先生が「成田先生?今はいないかもー」と返してきた。間に合わなかったか、2人で残念に思っていると「どーした僕に用事かい?」後ろからメガネで細い先生に声をかけられた。「あ!成田先生!」よかった。まだ部活は始まってない。2人とも心の中でガッツポーズをした。 「俺たち入部届け出しに来ました1年A組の湯浅夕聖です。」 「1年A組の山田桜です。今日から自分たちも練習に参加したいのですが、」 お願いします!と二人で入部届けを出しながら頭を下げた。「いいけど…」そういう成田先生は少し笑っていた。 少し嫌な予感がしたのは、多分夕聖も同じだった。
桜が咲かない春(5)
印刷ミス?顧問が推薦したやつしか入れないとか?俺は、色々な考えが頭に浮かんだ。 サッカー部のページが無いことに夕聖も気がついたようで、ペラペラページをめくっては、眉をひそめて首を傾げている。 森先生曰く、 関東大会まで進出したサッカー部、女バス、男女バレー部はしおりに書かれていない。理由は、人数が十分足りているかららしい。 でも入らないで!!って言ってるわけじゃないから普通に仮入部期間に行けるから!入部しても全然いいからな!と、森先生は明るい声で言った。 部活動説明会が終わり帰りのHRが終わってから、俺と夕聖は体育教官室に向かった。 「兄ちゃんから聞いたんだけど、サッカー部の顧問は部活の最初体育教官室にいるらしい!だから場所よくわかんないけど、教官室行こうぜ!」と夕聖から聞いたのはついさっき、HRが終わった時だった。まずお前兄貴いたのか。というかこの高校なのかよ。とか聞きたいことはあったけど、とりあえず俺と夕聖はサッカー部と記入済みの入部届けを持って、体育教官室へ向かった。
桜が咲かない春(4)
「おうーー!おはよー」大きな口で欠伸をしながら、夕聖が電車に乗ってきた。 「おはよ」夕聖の欠伸が|伝染《うつ》ったのか、挨拶を返してから俺も欠伸をした。 今日は4月12日。昨日入学テストが終わり、今日は新入生歓迎会。今日から1週間 部活動体験、いわゆる仮入部期間に入る。 「今日部活動体験だよな?一緒に行かね!てかもう今日から本入部でいいのにな」夕聖は口をニッとして、笑顔でそう言う。「それな」俺も夕聖も、学力的な部分もあったが、サッカー部が強いからここを選んだ。こんな言い方は良くないかもしれないけど、サッカー部以外入る気は無いから、俺もその案に賛成だった。 とりあえず新歓が終わったら、顧問に入部届け貰いに行こうという結論が出たところで、学校の最寄り駅に着いた。 駅から歩いていると、岩崎さんと川田さんが前を歩いているところが見えた。歩く速さ的に、俺達が追いつくのは明らかだった。俺は声をかけるか悩んでいると、夕聖が無邪気に声をかけた。「おっはよーっす」2人は少しびっくりした様子だったが「おはよう!ゆう…湯浅君!」岩崎さんが、はにかみながらそう返した。夕聖は、ゆう君でいいよ別にー!と明るく返した。幼なじみが仲がいいって漫画だけの世界じゃないんだ。俺は少し驚いていると、「おはよー元気だね、朝から」そう笑いながら川田さんが言う。入学式の時の、凛としたかっこいい感じではなくて、どこにでもいる女子高校生って感じだ。なんやかんや4人で教室に向かう。 そこから階段を登って4階まであがり、1番奥まで廊下を進めばA組に着く。 岩崎さんが席に着くなり、A組遠すぎだよ!ね!さつきちゃん!と机の上にほっぺをつけて、手をだらーんと下にした状態でいう。「それ!本当にこの教室遠い、、靴箱からほぼ対角線上だもん。」「え対角線上っていう発言がもうなんか頭いいんだけど」笑いながらそう言う岩崎さんに川田さんはそんな事ないわと、茶色のスクールバックから筆箱を出しながら、笑って返す。 「でもほんとに遠いよなー」机から身を乗り出して、夕聖が会話に入る。確かにこの教室は、学年の中で昇降口から1番遠い。ほんとに位置最悪だーという岩崎さんの後ろの窓から見える桜はとても美しく散っている。「…でもさ」俺が会話に入ろうとした時 「おはようー!」たくさんの配布物を買い物かごに入れた森先生が入ってきた。「挨拶しよーうじゃあまだルーム長決まってないから、とりあえず1番の杉浦!お願いします!」先生指名された1番の杉浦正人は、メガネの男子で確か美術部希望って自己紹介で言っていたと思う。 あんまりそういう事したくなさそうなイメージだ。可哀想に、、と思っていると案の定「…起立…礼」ぼそぼそと彼は言った。「おはようございます」杉浦君の声が聞こえなかったからなのか、元々出す気がなかったのかクラスの挨拶は小さめだった。 「うんうん!ありがとう杉浦!」 「今日めっちゃ沢山配るものあるから、説明あとで先配るわ!」 森先生はそんなに気にした様子もなく、手紙やら1年生歓迎会のしおりをぱっぱっと配った。 そこには部活動の紹介も書かれていた。 サッカー部のページを見てみようと思い、ページをぱらぱらとめくる。次は、さっきよりゆっくりぱらぱらとめくる。もう1回1ページずつめくる。 …サッカー部と書かれたページが見当たらない。
桜が咲かない春(3)
生徒が全員揃い、席に着いた。しんと静まり返った教室。 ただ鳥のさえずりとか、誰かが椅子を少し引いた音とか、車の通っている音が教室に響いていた。窓が換気のために少し空いていて、心地よい風が吹いてくる。 教室内のみんな、僕を含め緊張したぴーんとした空気で担任が入ってくるのを待った。 少しして、担任が入ってきた。「はじめまして!自分は|森真《もりまこと》って言います。今日から1年間1Aの担任として頑張ります!よろしくお願いします!」明るくて20代くらいの若い男の先生だった。彼は黒板に自分の字を書いて、自分は去年から先生になり、今年で2年目だと言う。去年は3年生の副担任だったそうで、担任を持つのは今年が初めてらしい。ずっと笑顔で、感じ良さそうだった。サッカー部の副顧問らしい。とは言ってもまだまだ研修が多く、毎日部活には行けていないのが悩みだと言う。 少し話しすぎた!と森先生は自分の説明を終え、俺たちは今後の流れの説明を受け、入学式の為体育館に向かう。 校歌が流れ生徒会長の挨拶が終わり校長の話は想像より短めに終わり、心の中でガッツポーズをしていると、生徒代表の挨拶になった。新入生代表の挨拶で呼ばれたのは川田さんだった。新入生代表になるのは、首席の子だとみんな知っているから名前を呼ばれ、立ち上がった彼女を、みんなが見ている。 そんな沢山の視線が自分に集まる中、彼女はその視線などで同様する様子や緊張する様子は無く、堂々としていて、それでいて凛としていた。彼女はさらっと新入生代表の挨拶をこなし、その姿がとても綺麗で、かっこよかった。 なんやかんやで入学式が終わり、夕聖と一緒に帰ることになった。 家からの最寄り駅が、俺の最寄り駅の2駅前でほぼ帰り道が一緒だった。「明日は入学テストだって森先生言ってたけど、俺まじで受験終わってからなんも勉強してねーわやばいかな」夕聖は少しも気にしていないというような顔をしながらそう言った。 「合格発表の日に配られたワークが出題範囲だって言ってたし、高校の基礎の範囲だからまぁ取れなくても、これから授業で分かるようになればいいんじゃね?」俺はスマホで、以前、テスト範囲の書かれた紙を撮った写真を探し出して、ほらと夕聖に見せながらそう返す。 今日は夕聖と友達になれて良かった。とりあえずは安心だ。明日からの学校が少し楽しみで、夕聖と別れた後無意識に口元が緩む。 明日から、きっと見ること聞くこと全てが毎日初めてで楽しくなるだろう。
桜が咲かない春(2)
振り返ると、茶髪でボブの背が低い女子だった。 「んっと、ごめんだれ?」申し訳なさそうにパチンッと手を合わせてゆうせいが聞く。「私|岩崎陽菜《いわさきひな》だよ」「あ、え!まじか!|若小《わかしょう》の?!久しぶり!」名前を聞いて、すぐにピンと来たのかゆうせいに、彼女は小学校が同じで、途中で転校してしまった、元クラスメイトだと紹介された。 それを聞いて俺は、岩崎さん、小学校の時のクラスメイト後ろ姿だけでよくわかったな。と思ったけど、女子と話すの苦手だったから、ゆうせいが俺の名前紹介してくれたので、「よろしく」とだけ話した。 結局3人で教室向かい、入ると、まだ生徒は半分来てるか来てないかくらいだった。そして黒板にはられた座席表を見て名前を探す。「あ!俺窓側だ!」ゆうせいは自分の名前のところを指さして言った。 『湯浅 夕聖』こういう漢字で書くのか。いい名前だななんて思いながら自分の名前を探していると、俺より先に夕聖が見つけ、俺の隣だと教えてくれた。 俺の席は窓側の1番後ろで、右隣はゆうせいだった。 前はさっきの…岩崎さん。 「えめっちゃラッキーじゃん俺ら!さっき話したばっかで席近いとか!」夕聖はでかい声でそう言った。 「声でけぇ」俺は笑いながら口の前に指を立ててそういうと、夕聖はわりぃと静かに席に座った。既にその夕聖の行動に周りはくすくすと笑っている。その状況からして、夕聖は多分人気者ポジションのやつなんだろうな、と思っていると、岩崎さんの隣に黒髪ロングの女子が座った。 班活動をするなら4人だろうか、だとしたらこの女子と岩崎さんと夕聖と、俺の4人になるな。声かけてみるか。 「俺山田桜よろしくねえっと、川田さん?」黒板にはられた座席表で名前を確認しながら声をかけた。「よろしくね、山田君、そう川田皐月」彼女は笑顔でそう返した。 感じ良さそうでよかった。と俺は少し安心していると隣の夕聖がにやにやしながら、こそっと俺に「お前女子に声掛けれるタイプだったんだな。俺岩崎の時の感じからして、女子苦手なのかと思ってたわ。変な気使っちゃったじゃねーか」と言ってきた。「確かにそんなに得意じゃないけど、班活動とかで関わるだろうから。」というかこいつ気使えるんだなと若干失礼なことを考えながらそう返すと、なるほどなと納得したように夕聖は笑った。
桜が咲かない春
「おはよう!なぁネクタイさ、こっちとこっちどっちがええと思う?花ちゃんはこっちのピンク派らしいんやけど、、」もう髪型まで完璧にセットし終えていた父は、うすいピンクのネクタイとうすい青色のネクタイを持って、リビングで朝ごはんを食べていた俺に、楽しそうに聞いてきた。「別にどっちでも。てか本人より気合い入れるのやめてくんない?」口に入っていたご飯を飲み込んでから、俺は呆れながら父に言った。「何言うてんねん。大事な息子の入学式やぞ?ここで入れんといつ入れるんっちゅー話や。あかん俺が緊張してきた。」父はそう言いながら結局母が選んだ方のうすいピンク色のネクタイを結び、最終確認をするためか、洗面所へ戻って行った。「…ごちそうさまでした」朝ごはんを食べ終え、俺も制服に着替える。中学も学ランだったからあんまり変わらないけど、首元の校章を高校のものに付けかえるだけで、なんだか新しい制服な感じで新鮮だった。4月10日今日は俺の高校の入学式だ。 7時10分父と母と3人で家を出て、学校へ向かう。 バスに乗り、電車に乗り、駅から5分歩くと春校に着く。「やっぱり1時間てちょっと遠いね、大丈夫?」「母、俺高校生だよ?学校説明会だって一緒に行ったじゃん。大丈夫。」うちの母は少し過保護なところがある。俺はほっといてと、迷惑顔でそう言った。「せやな、歩くのは最初のバス停までの道5分と、駅から学校までの5分やし、こいつ体力ある方やん。もっと距離あっても良かった気するで俺。花ちゃんは優しすぎるねんなー」父は俺の冷ためな言葉のあと、その場を和ますためか、明るくそう言った。うちの家は両親がとにかく仲がいい。父が20歳、母が19歳の時に結婚し、2年後に兄がその3年後に俺が生まれた。だから次男の俺と同年代の子供がいる親の中で、歳をとってる方ではない。でも、もういい歳だろ。頼むから公共の場で名前ちゃん付けで呼び会うのやめてくれ。頼むから手を握って学校行こうとするのやめてくれ。恥ずかしすぎて死ねる。なんて小学校高学年から何回も言ってきたが無理だったので、諦めて少し2人から距離をとる。 春光ヶ丘高校(しゅんこうがおか)略して春校(しゅんこう)今日から俺が通うこの高校は、偏差値72でサッカー部が関東大会に出場している。 それ以外にも吹奏楽部、テニス部、女子バスケットボール部が結構強いらしい。 中学の入学式は、小学校が合併するから知ってる人が半分いたけど、今回は俺の中学から行くのは俺と、全然関わったことない女子1人だけ。 学校に着き、期待と不安で一杯な俺を満開の桜が迎え入れた。 校門に着くと先生らしき人から、クラスが書かれた紙を渡された。 両親と別れ、クラスに向かう。 「1年A組|山田 桜《やまだ おう》」自分の名前を見つけ教室へ向かう途中、昇降口で靴を仕舞っていると、声をかけられた。「A組だ!俺もだからクラスまで一緒に行こ!あ俺ゆあさゆうせいよろしく!」 ぐいぐい来るなこいつと思いながら、 「山田桜、よろしくな。」ゆあさゆうせいか、かっこいい名前だな。漢字どう書くんだろう。そんなことを考えながら、新品の学校指定の上履きに履き替えて、2人で教室にむかう。A組は4階でまぁまぁ遠い。 途中お互い元サッカー部で高校でもサッカーを続けようとしていること、最寄り駅が同じ事を知ってかなり盛り上がっていると、「ゆうくん!?」後ろから女子に声をかけられた。