ピコゴン
9 件の小説天国と地獄2
僕の仕事は死者を選別することだ。 天国と地獄。そのどちらに行くかを決めるのが 僕らの存在意義である。今日も僕は死者が部屋に来るのを待っている。 「お疲れ様です」 待っていると、後ろの方から声が聞こえた。 その声には聞き覚えがあった。 「おぉ〜、Bか、おつかれ〜」 僕たちには名前がない。だから、アルファベットで番号が付けられている。 「Dさん、今日何人送りました?」 「僕?僕は今日50人だね。君は?」 「私は86人ですよぉ。もう、最近死人の数が多くて嫌になります」 「しょうがないでしょう。死んだ人間は全員ここを通過するんだから。」 「にしたって多いですよ。 それに、死因が他殺の人が多い。 ここ最近、なにかあったのかな??」 「さぁ?」 そうやって雑談をしていると、扉の先から気配がしだした。 「あ、ほら。次の人来たから、君も職場に戻りなよ」 「はーい。じゃあ、頑張ってください」 そう言い、Bは手をひらひらとさせながら消えていった。 「・・・・・・あの?」 「あぁ、はいはい。どうぞお入りください」 そういうと、一人の男が入ってきた。 高身長で優しそうな顔つきをしている。 体の外傷は少ないように見えるが、全体的に少し左側へひしゃげていた。 その様子から、車から何かに轢かれたのだろうと資料を見ずとも分かった。 「では、お座りください」 そういうと彼は申し訳なさそうに椅子へ座った。その様子は会社の面接にでもきているようだ。 「リラックスしてくださいね。では、まず名前を教えてもらえますか?」 「はい、えー私は樋口と言います。」 「樋口さん、・・・はい、わかりました。 では次にここの説明をしていきます」 「あぁいや、ここの説明は来るまでに聞きました。」 「聞いた?それは誰に・・・」 「受付?みたいなところにいた女性です」 僕は心の中でまたあいつかと思った。 その女性というのはFといい、人間に興味があり、よく人間と話し込んでいるのを見掛ける。 本来は人間との過度なかかわりあいは禁止されているので、少し心配になる。このままでは 違反で消滅してしまうのではないかと。 「・・・?あ、あのー」 「ああ、すみません。では説明は省かせてもらいます。」 •・・・・・・・・・・・・・・ 「では、あなたの生前の頃にした善行と、悪行についてお聞かせ願います」 「へぇ、悪行と善行ですか。悪行悪行・・・ ・・・・・・・・・・・・ ・・・あ、あ〜ありますあります。」 そういうと男は喋り出した。 「あれは小学校のころでしたね。夏休みでした。 あの頃は裏山で珍しい柄のセミがいるという噂があったんですよ。そして、私はそのセミを捕まえてやろうと精一杯探したんです。でも、結局見つからなかったんですけどね。 それでもう悔しくて悔しくて、どうしたかっていうと、嘘ついたんですよ。 学校で珍しい柄のセミを捕まえたって。 それで、一躍有名になりましてね。見せてくれと頼んでくるやつもいたり、家にまで押しかけたりするやつもいたりでですね。まぁ大変でしたよ。あれ以来、嘘をつくのはやめようと思ったんですよねぇ。・・・あ、以上です。」 「・・・・・・・・・・・」 僕は資料に目を通す。確かに、目立った悪行をしていなかった。 「・・・はい、ありがとうございます では次に、善行について教えてもらえますか?」 「はい、それがね、とっておきがあるんですよ。 それは俺が死ぬ前なんですけども、 一人の命を救ったんですよ。 「その日は私、会社の帰りでして。とぼとぼと歩いて帰っていたんですよ。そんな時、ふと前を見てみると、赤信号なのに車道を渡ろうとしている少年を見つけまして。車がそこに突っ込んできてるんです。 その時、体が勝手に動いたと言うかなんというか、とにかく助けないとって思いまして、私も飛び出したんですよ。それで、その子を突き飛ばして、助けてあげたんです。」 「・・・・・・・・・」 「まぁそのせいで私が死んでしまったんですが・・・でも後悔はありませんでした。」 「・・・それはなぜですか?」 「私は、死んだように仕事をして、死んだような生活をしていて。今思い返してもくだらない生活でした。私は、しょうもない人生をおくってきていたんですよ。 でも、あの子を助ける瞬間、今までのしょうもない人生が変わった気がしたんです。 どれだけ面白くない人生でも、その人生があったからあの子を助けられたんだと、思ったんです。 生きている意味があったんだと、そう思えたんです。だから、後悔はしていません」 「・・・・・・・なるほど、ありがとうございました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「では、最後に選別の結果を言い渡します。 あなたは1人の少年を救った。その他、目立った悪行もない。よって、天国行きです。」 「あぁ、よかったです。安心しました」 「では、この書類をもって、次の部屋へ進んでください」 「・・・あの、少し頼まれてくれませんか?」 「はい、なんでしょう」 「私が救ったあの子がここに来た時に、私のことを伝えてはくれないでしょうか?私が死んだこと、君は悪くないと伝えて欲しいんです。」 「・・・・・・・・分かりました」 「よろしくお願いします。では・・・・」 そう言い残し、男は部屋を出ていった。 再び静寂が戻ってくる。 「・・・・・・・・・」 「・・・・・なんだ、らしくないじゃん」 また急に後ろから声が聞こえた。 「・・・・Fか」 「やっほー、来たよ」 Fは僕の前の、死人が座る椅子に腰掛けて足を組んでいる。そして、不敵な笑みを浮かべ、こちらの顔を覗き込む。 「Dちゃん、さっきの人との会話、盗み聞きしちゃった。らしくないじゃぁーん、頼みとか聞いちゃってさ」 「それは気まぐれだよ。」 「へぇー、まぁDちゃんもそう言う時もあるのかな。まぁいいや。でもさ、もう一個聞きたいことがあるんだけどさ、あの人の助けた男の子って・・・」 「いいんだよ、F。お上も一人一人の人間を確認してるわけじゃないんだ。さっきの彼を地獄行きにするのはあまりにも酷だ。」 「さっきの彼って・・・、樋口さんって言えばいいのに」 「名前で呼ぶわけにはいかない。僕たちと人間が過度に関わりあうことは違反だ。」 「別に名前呼びくらいいいじゃんか、お堅いなぁ。 ・・・・・まぁいいけど。じゃあね、」 そう言ってFは消えていった。 Fは私たちと違って人間に興味があるらしい。 一体なぜなのだろうか。私たちは仕事をするだけの存在。それ以上でも、以下でもないのだ。
天国と地獄
「次の方ー、どうぞー」 俺は今日も死んだ人の行く末の選択をしている。 簡単に言えば天国か地獄、どちらに死人を飛ばすかを決める仕事だ。 俺は手元のコーヒーをぐいっと飲み干し、次の死人がやってくるのを待つ。程なくして学生服を着た男性が入ってきた。 その男性の右腕は千切れていて、体のそこら中から血が滲んでいる。 俯いて、どこか寂しげのある顔もちで手前の椅子に座った。 「どうもー、じゃあ名前、教えてくれる?」 「・・・・・・・・・・・」 「あー、緊張しなくていいよ。地獄行きになる人間はそうそういないからさ。」 「・・・・・はい」 「よし、じゃあまずは説明からするね。 ここでは、君の生前のことを色々と聞いていく。 そして、そのうちにした善行、悪行を聞いて こちらで地獄に行くか、天国に行くかを判断する。判断としては、僕の独断じゃなく、ちゃんと規約に従ってするから、心配しないで」 「・・・・はい」 「じゃあ・・・まずは名前と自己紹介をお願いしようかな」 「・・・・・・・・」 少しの沈黙が続いた後、彼が口を開いた。 「・・・山崎透、高校2年です。 誕生日は10月4日。趣味は・・・・」 と、ありきたりな自己紹介を淡々としている。 痛々しい彼の体からは血が滴り落ちている。 「・・・・・と言った感じ、です」 「うん、ありがとう。じゃあ次に、死因を聞いていいかな?」 「・・・多分、自殺です」 「多分?」 「よくは覚えていないんです。でも、屋上から、飛び降りた気がするんです。」 「記憶がないと?」 「・・・・・・・・・」 「一応、こっちには君に関する資料があるんだけど・・・、君の死因は・・・」 「やめてください、聞きたくない。」 「・・・・・・・・。 ・・・・・・・・まぁ、いいか。」 彼の顔は初めよりも暗い顔になる。目線すらも合わせてくれはしない。 「じゃあ、今までで1番の悪行を教えて欲しい。 もちろん資料がある限り、嘘をついても意味はないよ。 本人から言わせるのにはこちらとしても意味があるんだ。例えば、その悪行に自覚があるのか、または・・・・」 「友達に、ひどいことを言いました。」 「・・・・・・・・・・」 こちらの話を遮って、彼は話続ける。 「1人の友達が、とても病んでいて、今にも死にそうだったんです。そんな彼に僕はひどく、つらく当たったんです。その時、僕も精神的に病んでいて、つらくて。 そんな中、自分だけがつらいかのように言う友達が許せなかったんです。だから、言ってしまったんです。「そんなにつらいなら死んでしまえ」と。」 「・・・なるほど、それが、君の1番の悪行だと」 「はい」 「ありがとう、じゃあ次に、善行について教えてくれる?」 「・・・・それに何の意味があるんですか?」 「天国に行くか、地獄に行くか、その判断材料にする。こちらとしても、君の全てを知っているわけではないからね。」 「・・・善行は、していません。 もういいでしょう。僕は、地獄行きだ。 それでいい」 「・・・・・・・・」 どうしようかな。このままでは、本当に地獄行きになってしまう。 本来では、我々は死人の生前に干渉することは許されない。 だが、彼は地獄に行くような人間ではない。 「・・・そうか。じゃあ、僕から言わせてもらうと、君は嘘をついているね。」 「嘘?」 「善行のことだ。君は、友達につらくあたったことを、ずっと後悔していた。もし、本当に死んでしまったらどうしよう。俺のせいだ。 それに、あれは本心じゃなかった。 謝りたい。そう思っただろう そして、君はその友達の家に行った。謝るために。・・・・でも、その時にはもう遅かった。 友達は首を吊っていた。」 「・・・・・・・・・・・」 「・・・・けれども、君はすぐに下ろして救急車を呼んだ。その結果、その友達は助かることができた。あと数分遅れていたら手遅れだったという。いまでも彼は、病院で入院している。」 「・・・・・・・・」 「でも、君は謝ることができずじまいだった。 助けてた後に、会いに行くのは恥ずかしかったのだろう?いやそれだけじゃなく、自分の心無い言葉で自殺をしようとしたなら、その原因は自分にあると感じたのかい?それで、何を言われるのか怖かったのかな?。」 「・・・・・・」 「だから、せめてもの思いで君は彼に花を贈るようになった。毎月、毎月。」 「そして、昨日の夜。君は花を贈るために病院へ行き、その屋上で星を見ていた。 そして君は・・・・・その友達に突き飛ばされて、落ちて死んだ。」 「・・・・・・・・」 「君の死んだ理由は他殺だったんだよ。」 「・・・・・・・・・あぁ、やはり、そうだったんだな。やっぱり、俺のことを恨んでいたから・・・・」 「そうだね」 「あいつが俺のことを恨んでいるのは百も承知だった。でも・・・やっぱり友達のままがよかった。あいつが俺のことを殺したなんて、 思いたくなかった。」 そういって、涙を流している。 「・・・・でも、善行なんて、していません」 「いや、その花が、善行なんだよ。」 「・・・え?」 「君は知らなかったと思うけど、彼にとって毎月贈られてくる花が、生きる希望になっていたんだ。もし君が贈っていることを知っていたら、 君が殺されることはなかっただろう。」 「・・・・・・・・・」 「君は一人の人間を生かすことをした。 それは紛れもない善行であり、よって君は 天国行きだ。」 「・・・・・・・・・・・」 「じゃあ、この書類をもって次の部屋へ移動してね」 「・・・・・・・あの、 ・・・・・もしあの時に、謝れていれば、花を贈っているのが俺だと知れば、 もう一度、友達に戻れたと思いますか?」 「・・・・・・・・・・・。 それは僕の知ったことじゃないけどね。 少なくとも、君は死ななかっただろうよ。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 私は人を殺した。 許せなかった。あいつが病室を横切るのが見えたから、衝動的に動いてしまった。 おそらく、私は捕まるだろう。 一体、誰が花を贈ってくれていたんだろうか。 もう、どうでもいいことだが。
ショートホラー 〜目が合った〜
あれは、俺が高校生の時だ。 俺の地元は田舎で、よく言ったらのどか、 悪く言えば何もない場所だった。あたりを見回してみても田んぼばかり。高校時代の俺はそんな景色ばかりでつまらなかった。 ある日、田んぼ道を自転車で走っていた。真夏でとても暑かった。片手で汗を拭いながら、家に帰ってる途中だった気がする。その時、ふと何かに見られている感覚がした。 ただ見られているだけじゃない、もっとじめっとしていて、不快感のある視線だった。 俺はその視線を確かめるようにあたりをキョロキョロと見渡した。 その時、周りの景色を見て変に緊張感があった。 普通なら、畑仕事をするばあさんとか、遠くに見える人影とかが見えるはずなのに、誰もいなかった。 だからこそ、「あれ」の存在が一際目に入った。 学生服をきた、田んぼに似つかわしくない男が 十メートルくらい先の田んぼに佇んでいた。 学生服はセーターにジャージを着込んでいた。 それが真夏の今とミスマッチでおかしかった。 俺は不意に自転車を止めて、それを注視した。 目が合った。 顔はよく見えなかったが、目だけが異様にぎらついていた。そして、その瞬間に学生服の男はニヤァと笑った。そして、こちらに近づいてきた。十メートルは離れているはずなのに、あいつの歩いている音が耳元で聞こえた。 ピチャピチャと。ゆっくり。 俺はやばいと思った。本能的に、あいつはこの世のものではないと思ったのかもしれない。 俺は自転車を漕ぎ出した。 俺は必死に漕いだ。早く家に帰らなくては。 自転車を漕いでいる途中もピチャピチャと水の跳ねる音が聞こえていた。 その後は、家に帰って、なにをしたのかははっきりと覚えていない。 その後も、その田んぼ道は通った。 もちろん怖かったが、その道が学校への最短の道であり、寝坊癖のある俺は通らなければ 遅れてしまうからだ。 だが、帰り道は違う道を通ることにした。 それ以来、やつを見ていない。 と思っていた。 いや、見ていないと思いたいだけだったのかもしれない。 やつは視界のどこにでも出てきた。 学校の教室から見えるグラウンドにいたり、 家の前にいたり、家のリビングの隅にいたり、 写真の中にいたり、俺の部屋にいたり、友達の家にいたり。どこかしこにも・・・・・・ もう無視できる範疇を超えていた。 だが、初めて会った時以来、目だけは合わさないようにしてきた。 視界に入っても、奴の目だけはみないようにしてきた。 でももう無理だ。我慢できない。もう終わりたい。無視できない。見たくない。見たくない。見たくない。見たくない。見たくない。見たくない。見たくない。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 目が合っ・・
ショートホラー 〜近所のまいくん〜
昔、小学生くらいの時のこと。クラスにはまいくんと呼ばれる男の子がいた。彼はクラスではよく浮いていて話しかけづらい印象があった。 でも、なんでかはあまり覚えてないけど、まいくんの家に遊びにいくことになったことがあった。 その日は曇り空だったのを覚えている。 俺はまいくんの家にいくまでの間で、家はマンションなのかと尋ねた。 まいくんは一軒家だといった。 そんな曖昧な話しかしていなかったのを覚えている。 家に着くと、ただの一軒家って感じで特におかしい点はなかった。 でも、おかしいことが起こったのは家の中でだった。 まず、家に入ると、なんだか生暖かい空気が流れてきて、嫌な気分になった。それに、妙に暗かった。 まいくんの部屋は2階だったので、階段を登って部屋へ向かった。 でも、部屋はそんなに変な感じじゃなかったんだ。普通の男の子の部屋って感じ。 だから、俺は安心した。 変なやつだからと言って、警戒しすぎだったかと反省していた。 それから、まいくんと二人でビデオゲームをしたのを覚えている。でも、ずっと生臭い匂いがしていた。 その後、俺はトイレに行くために、1階へと降りた。その時、一階のリビングの扉が半開きになっているのに気づいた。気づいてしまった。 親でもいるのだろうか。ならば、挨拶をしておかなければならないな、と思った。 だから俺はリビングの扉を開けて、部屋に入った。 そこに横長なテーブルが置かれており、そこの椅子には3人が座っていた。 部屋が暗いってのもあって、顔までは見えなかった。今になれば見なかったらよかったと後悔している。 俺は挨拶をしようと近づいた。それで気づいた。 その椅子に座っていたのは、大きい人形だった。 椅子に縛り付けられていて固定されており、 手にはナイフとフォークを持っている。そして、口は縫い目によって口角が上げられており、無理やり笑わされているかのようだった。 人形は女性、男性、小さい男の子をかたどった形をしていた。その様子は、まるで家族でご飯を楽しんでいるかのようだった。 俺はその不気味な3体の人形を見て、腰を抜かせてしまい前に倒れてしまった。 その拍子に人形の一体が縛られた椅子ごと俺に倒れ込んだ。その人形は妙に重かった。 まるで人間のように。 俺は怖くなって、少しの間動けなかった。 だが、上から階段を降りてくる音が聞こえてきてはっと正気に戻った。 ギシ、ギシと階段の軋む音が聞こえる。 俺は倒れ込んできた人形をどかして、立ち上がった。 まいくんが騒動を聞いて部屋から降りてきている。 俺は恐怖のあまり倒れてしまいそうだった。 なぜなら、言わなくても分かるだろう。 もし、この人形が人間だった物だとして、 まいくんがこの人形を作ったとして、 そう考えてたら、まいくんが恐ろしく感じてたまらなかった。 俺はまいくんが降りてくる前に、リビングの窓から抜け出し、そのまま裸足で家に帰った。 それ以来、まいくんは学校にくることはなかった。 あの時逃げていなかったら、俺は人形にされてしまっていたのだろうか。 ただの考えすぎな気もするが・・・・ でも、今でもあの日のことを夢に見る。
後悔は暗闇に 完結
俺が次に目を覚ましたのは病室だった。 俺が目を覚ました様子を見ていた看護師らしき女性は、慌てて部屋を出ていった。 話に聞くには、もう1週間も眠っていたらしい。 俺はあの日、酒によって工事中のマンホールへ転落した。そして、通りすがりの人によって助けられたようだ。 ・・・なんと間抜けなことだと頭を抱えた。 恥ずかしいのもそうだったが、なにより頭から転落したようで、頭部がズキズキと痛む。 しかし、命には別状もなく、後遺症の残るほどの傷ではないというのだから、よかった。 俺は夢の中でもマンホールに落ち、そして現実でも落ちていたと言うわけだ。 ・・・だが、おかげで自分の蓋をしていた記憶を思い出すことができた。あれは、走馬灯のようなものだったのだろうか。今となってはそれもわからない、なんとも不思議な体験だった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ それから3日後、俺はA介のいる病院にいる。 「・・・・・・・。・・・ふぅーー」 俺は大きくため息をつく。退院をしてからはA介のいる病院を探るため、高校時代に仲の良かった人たちに聞き回った。それで、ようやく入院している病院が見つかったのだ。 そして、俺は今病室の前まで来ている。 俺は、どうしてもA介に謝りたかった。 高校時代に見捨ててしまったこと。いじめを黙認したことに、後色々・・・ 俺はガラっと病室のドアを開けた。 そこには、ベットに座る1人の男がいた。 「・・・・・・・・A介、か?」 A介は確か寝たきりだと聞いていた。しかし、今目の前にいる男は座って窓の外を見ている。 そしてこちらに振り向いた。 顔立ちからして、その顔はA介だった。 歳をとっていても、分かる。 「・・・えーっと、どちら様ですか?」 俺はしばらくの間固まってしまった。 そして、涙していた。 起きていることに驚いたからではない。 A介の顔を見て、なんだか安心してしまった。 そして、謝りたいと言う気持ちが更に肥大した。 俺は泣きながら、A介に謝った。 A介はきょとんとした顔をしている。そして、泣いている俺にハンカチを取り出し、手渡そうとベットから身を乗り出す。 俺はまた、謝った。その時間が、何分か続いた。 俺が落ち着いた時には、A介は俺のことを思い出したようだった。 「君かぁ、久しぶり。元気だった??」 「ん、あ、あぁ。それなりに」 「そう。よかった」 「お前こそ、いつ起きたんだよ」 「えっとー、3ヶ月前くらい?なんだか、長い夢を見てたみたいだったよ」 「・・・そうか。よかったよ。お前が寝たきりだったら俺は・・・」 「ははっ、大袈裟だよ」 「大袈裟なんかじゃないだろ。もう8年も経ったんだから」 「それもそうか」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・俺は、ずっと謝りたかったんだ。お前に。お前がいじめられている時、助けてやれなかったこと。本当に、すまなかった。」 「・・・・うん。いいよ。 でも、ありがとう。わざわざ言いに来てくれて」 「・・・それだけじゃないんだ。」 俺は持ってきた袋から、2つの弁当を取り出す。そして、片方をA介に手渡した。 「約束、果たしにきたから。一緒に食べるぞ」 暖かい風が、窓から室内に吹き抜ける。それは、俺とA介の再会を歓迎しているようだった。 〜終わり〜
後悔は暗闇に4 筆がのって長くなっちった
A介のことを思い返していると、再び外から、 つまりマンホールの上の方から声が聞こえてくる。 前はバラバラに聞こえていた声は、今回はどうやら1人のようだ。 俺はもう一度声を出して助けを求めることにした。 「誰かいるのか!!助けてくれ!!!」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ しかし、返事は返ってこない。 またもや聞こえていないのか。俺は苛立ちもあり、壁を思いっきり蹴った。しかし、硬い壁に跳ね返され、足を痛めるだけであった。 「お前は助けなかったくせに、助けを求めるのか。なるほど現金なやつだ。A介は面倒事になれば見捨てた。でも自分が面倒なことになれば他人に助けを求める。ハハっ、とんだクソ野郎だな」 突然、マンホールの上から声が響いた。 その声は男のようだったが、聞き覚えはない。 というよりは、ボイスチェンジャーでも使っているかのように加工されているような声だ。 俺は反射的に声を出した。 「誰かいるんですね?お願いです。助けてください!」 俺の声が響く。続いて相手が喋り出す。 「まだ言うのか?なら言ってやろう。 俺にはお前を助けられない。俺じゃなく、他を頼ればいいだろう? ・・・聞き覚えはないか?お前がA介に放った言葉だ。これを聞いたA介はどう思っただろうな?お前が頼れる存在だったA介は絶望しただろうな。」 なぜ、こいつはA介と、俺のことを知っているんだ。それに、その話は俺とA介しか知らないはず。なぜならその話をしたのは屋上だったからだ。その場には2人しかいなかったはずだからだ。 「なぜお前がそれを知っている。もしかして、俺をここに閉じ込めたのはお前か?!」 俺は声を荒げる。 「・・・・だったらどうする?」 「お前は誰なんだ!なぜこんなことをする!」 「それを答える義理はないね。それに、お前は知っているはずだ。俺の存在を。ずっと蓋して隠していたはずだ。」 なにを言っているんだ。俺がこいつを知っている?しかし、思い当たる節はない。あるとすれば・・・ 「・・・A介、なのか??」 「・・・・・」 返事は返ってこない。 「・・・A介なんだろ?お前、俺を恨んでいたから。だから、俺をここに閉じ込めたんだろ?」 「・・・・・・」 それでも、返事が返ってこない。俺はだんだんと苛立ってきた。 「・・・A介は、お前に裏切られて、そして絶望し、屋上から飛び降りた。お前はその頃からずっっっっと後悔していた。あの頃に助けていれば、あの頃に話を聞いていれば・・・ってな。 そうだろ??」 またも相手は喋り出した。どうやらこっちの話は聞く気はないらしい。 「・・・だがその後悔も時が経てば忘れて、A介の存在も忘れて、のうのうと生きてきた。 A介を寝たきりにまで追い込んでおいて、忘れていた。 ・・・いや、A介の記憶を蓋して、ずっと忘れた気で生きてきた。違うか??」 「違うっ、俺はただ・・・」 「こうやって閉じ込められるまで忘れていただろうが。それも、閉じ込めた犯人だと勘違いして。がっかりだよ。まだ反省が足りないらしい。まだそこで後悔しておけ。 暗闇の中で・・・な。」 ・・・その後、声は聞こえてこなくなり、 またもや静寂が訪れた。 ・・・・・後悔、だと?? 確かに俺はA介が飛び降りた後、後悔をしていた。だが・・・忘れてしまっていた。 それは否定できない。 だが、先の声は誰だったのだろうか。 あいつが、俺を閉じ込めた犯人だろう。 一体、誰だ? 俺がそんなことを考えていると、また声が聞こえてきた。その声は・・・・聞き覚えのある声のように感じた。 「君、いつも僕と弁当を食べてくれるけど、なんでなの?君、友達も多いのに・・・」 その声は・・・A介だった。 俺はその声を聞いて再びA介を思い出す。 あれは、屋上で弁当を食べている時のことだった。 「君、いつも僕と弁当を食べてくれるけど、なんでなの?君、友達も多いのに・・・」 それは本当に疑問に思っている声だった。 「なんでって・・・、うーん、そうだなぁ。 ・・・友達だから?」 「え?なにそれ。じゃあ僕じゃなくてもいいんじゃない?」 「いや、そう言うわけじゃ・・・。ただ・・・俺が一緒に食べたいからだよ。てかそんなこと聞くなよな。友達なんだし、理由なんていらねぇよ。」 「えっ。・・・へへっ、ありがとう。」 「何照れてるだ気持ちわりぃ。さっさと食うぞ、A介。」 「・・・じゃあ、約束してよ。」 「・・・なんだよ。」 「また、一緒にここでご飯を食べよう。2人で」 「そりゃ当たり前だろ?さっさと食うぞ」 ・・・・そんな会話を思い出した。あの時のA介は、多分いじめられていたのだろう。俺の言葉が、A介の救いになっていたのかもしれない。 ・・・だが、いざいじめの話をされたら、俺は突き放してしまった。怖気付いてしまった。 どんな気持ちだっただろうか。俺に失望したかもしれない。 ・・・・もう、一緒にご飯食べなかったな。 約束やぶっちまったな。 俺は、心臓が破けそうな気持ちになった。A介の笑う顔が脳裏によぎる。 それと同時に、あのいじめられていた時の涙目の顔もよぎる。 自殺をしようとした時、飛び降りた時どんな顔をしていたのだろうか。そんなことを考える。 その度にしめつけられる。 この感情は、後悔、または同情。 俺はA介に酷いことをしたと、心底後悔している。 ここから出たら、ちゃんと謝ろう。 まだ寝たきりかもしれない。だったら、土産でも持っていってやろう。 そして、目が覚めたら・・・また一緒にご飯でも食べたいな。 その時、マンホールの蓋が開く音がした。 上を向くと、眩しい程の光が俺の目へと差し込む。 そこには、1人の人影が映っていた。 「・・・お前はA介を見捨てた。 ・・・だが悪人ってわけじゃない。悪いのはいじめていた奴らだ。だが、忘れないで欲しい。 A介がいたことを、見捨てたことを、 後悔して欲しい。今の俺は、そう思っている。」 人影が喋る。 あたりを見渡すと、苔などが生えていた壁、 風化していた壁、ドス黒い床は綺麗になっていた。 梯子もかけられている。登ることができそうだ。 俺は梯子に足をかけ、登り始めた。 登り切ったあっと、あたりを見渡すと、そこには無数のマンホールがある謎の空間が続いていた。そこには綺麗なマンホールだったり、汚いマンホールであったりとさまざまだ。 人影が喋り始める 「・・・ここはお前の頭の中だ。俺は、 ずっとここに閉じ込められていた。」 そう言って先ほどまでいたマンホールに指をさす。 「お前が忘れた記憶は、どんどん風化していく。 ついには蓋まで閉じてしまう。 ・・・お前はA介を忘れた。この穴はA介の 記憶だ。お前は忘れて蓋をした。いや、あえて忘れたくて蓋を閉めたんだ。」 「俺が・・・・・」 「そうだ。だが、忘れてやらないで欲しい。あいつにとって俺は、・・・・いや、おれにとってもA介は、かけがえのない友達なんだ」 人影だった人物の影が、取り払われていく。 その姿は・・・高校生だった俺自身だった。 そうか、こいつは俺の、高校生だったころの記憶なんだ。 ・・・だんだんとくらくらしてきた。 俺は地面へ倒れ込んだ。 そして、意識を手放した。
後悔は暗闇に3
高校1年生のころ、俺は仲がいい、よくつるんでいた連れが1人いた。名前はA介という。 A介はどちらかというとインキャと呼ばれるタイプで、表向きに見れば話しかけづらいやつだったと思う。学校でも、俺以外のやつと話しているところは全くみていなかった。 そもそも、存在感もなく周りから無視をされているようにも感じていた。 だが、俺と一緒にいる時には明るい笑顔をみせたり、よく話しかけてくる気のいいやつだった。俺にとっては数多い友達の内の1人という認識だったが、彼にとって俺はかけがえのない唯一の友達だったのかもしれない。そう思うと、やはり俺のやってしまったことに、胸を裂かれる気分がする。 それはA介と共に昼ごはんを食べている時だった。俺たちはよく学校の屋上で昼飯を食べていた。屋上はあまり人の寄り付かないところだったため、いつも昼時には俺とA介だけがいた。 しかし、人が寄り付かないのにも納得がいく。 俺たちの学校の屋上は、全く整備されておらず地面も汚かった。それに、柵も木製でボロボロで、いつ壊れてもおかしくないように見えた。 そういうこともあり、いつも2人ぼっちだった。 その時も俺とA介だけで、一緒に持ち寄った弁当を片手に、話し込んでいた。 そして、A介が突然悩みがあると言った。 A介「あの、さ。ちょっと、ぼ、僕の悩みを聞いてくれないか?」 俺は突然のことに少し戸惑ったが、話を聞いてやることにした。 A介「ぼ、僕、今ね、いじめられてるんだ。」 それは考えもしない返答だった。 なぜなら、そんな素振りも今まで見せていなかったからだ。確かに、クラスでは孤立しているなと思っていたが、まさかいじめられているとは思ってもみなかった。 誰に?と聞いてみたら、クラスの男3人組に、だと言う。 いじめの内容は、よくドラマとかであるようなものだった。 パシリにされたり、殴られたり蹴られたり、 教科書を隠されたり汚されたり。 他にも色々だった。それを、俺に打ち明けたのだった。 そして、俺に助けて欲しいと言ってきた。 頼れるのは、お前しかいないと、そう言ってきた。 そんなA介に、俺は心無いことを言ってしまったんだ。 「俺にはお前を助けられない」 「俺じゃなく、他のやつに頼ればいいだろ」 「正直そんなことを頼られるのは、迷惑だ」 あの時の俺は、心に余裕がなかったのだと思う。 人に頼られることは何度もあったが、そんなに重いものを助けられるほど、俺はできた人間じゃなかった。だから、突き放した。 それからは、屋上で一緒に昼飯を食うこともなくなった。そして、話すこともなくなっていった。A介はその後も教室ではずっと1人だった。 そんなある日、俺は特に用事もなく、学校をぶらついていた時があった。その時に、A介がいじめにあっている現場を目撃してしまった。 校舎裏で、3人グループの男子がA介を囲んでいた。そして、ケタケタと笑いながらA介のことを蹴っていた。蹴られる度にA介は苦しそうな声を出していた。目には涙も溜まっていた。 俺はそんなA介と目が合ってしまった。 その目は、心の底から助けて欲しいという目だった。 ・・・しかし、それでも俺は助けなかった。俺はA介から目を逸らし、静かにその場から去った。 もしも3人グループに見つかってしまったら、 俺もいじめられるかもしれない。 そう思ったからだ。恐れていたんだ。 それからは、A介は学校を休むことが増えるようになっていった。もちろんいじめられていたことが大きい原因だっただろうが、俺に裏切られたこともあっただろう。 俺は罪悪感に苛まれた。あの時に助けていたら、こんなことにはなっていなかったと思うと、より罪悪感を感じた。 その気持ちは、さらに加速することになる。 A介が屋上から飛び降りた。 放課後の学校、夕方に、柵を壊して飛び降りたらしい。 俺は罪悪感だけでなく、苛立ちさえも覚えた。 俺でなく、いじめを相談できる相談所などを頼ればよかったじゃないか。警察を頼ればよかったじゃないか。なんで俺なんかに相談したんだ!! そして、A介は一命は取り留めたが、寝たきりになってしまったらしい。 もしあいつが、目覚めていて、見捨てた俺を恨んでいるならば・・・ 俺を閉じ込めたのはA介ではないか。
後悔は暗闇に2
あれから数分が経ち、目が慣れてきた。 ここはマンホールの中だと気づいた。目が慣れて、周りが少しだけ見えるようになった今ならなお、ここがマンホールの中だとわかる。 だがなぜこんなところに?? 酔っ払った勢いで穴に落ちてしまったのだろうか。 ・・・いやそれならばおかしい。 なぜなら今、マンホールの蓋がしまっているからだ。俺が落ちた後に、誰かが閉めたのか? 落ちてしまったと仮定するならば、それしかあり得ない。 しかし、疑問はまだある。 このマンホールは、見た感じもう使われていないようだ。地面はどす黒く濁った色をしており、落ち葉が溜まって詰まってしまっている。 それに、壁も赤サビているところがあったり、 苔が生えているところもある。 少なくとも、街中にあるマンホールだとは 考えにくいほどまでに、整備されていないと 感じる。 しかし、そうなるとまたもやおかしい。 居酒屋で飲んでいたのだから、落ちるとしたら 街中のマンホールではないか。 それに、家も田舎というほどの場所じゃないし、帰り道でここまで廃れたマンホールは見たこともない。 となると、やはりおかしい。 考えてみて、1つの仮説を立てた。 誰かが俺のことを気絶させ、使われていない 廃れたマンホールへと落とし、蓋を閉めた。 そうなのではないか? 俺は考えを巡らせた。だとすれば誰が? 恨まれるようなことはしていない、と思う。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ いや、考えていてもしょうがない。 まずは、ここから抜け出すことを考えよう。 状況整理はそのあとだ。 俺は再び辺りを見回す。壁はコンクリートで、 なにもない。普通ならば、梯子でも取り付けられていそうなものだが、そんなものも見当たらない。 ・・・・・・いや、壊れてしまっているのだ。 よくみたら、丸い窪みのようなあとが平行に2点ついている。 おそらく使われていた頃には、 ここにハシゴでも取り付けられていたのだろう。 しかし、風化とともに朽ちて取れてしまった。 どちらにせよ、現状抜け出せそうな梯子も、 のぼれそうな土台もないということがわかった ふと上を見上げてみると、少しだけ月明かりがみえた。マンホールの溝から円状に光が漏れ出ている。 ・・・・・それに気づくのと同時に、かなりの高さがあることもわかった。 おそらく8、9メートルはあるだろう。 俺は再び絶望した。 それから数分が経った。その間も俺は脱出を試みていた。しかし、どうやっても上へ上がることはできそうになかった。俺はへたれ座った。 一体だれがこんなところに俺を閉じ込めたのだろうか。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・いや、1人心当たりがある。 俺のことを恨んでいるだろう人物を・・・ 彼ならば、俺にこのようなことをする理由がある。 なぜなら俺は、彼にしてはいけないことをしてしまった。 それは、俺が高校生の時のことだ・・・
後悔は暗闇に1
俺は気づくと真っ暗な空間にいた。 真っ暗っていうのは何も比喩的なものじゃなく、本当に見えないくらいの暗さだ。 なぜこんなところにいるのか、それは思い出せない。ただ、居酒屋で酔っ払っていたことは覚えている。それからはまったくだ、昔から酒癖の悪かった俺はよく記憶をなくすことだってあった。だが、今回のようなことは初めてだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 混乱していると、微かに人の声がすることに気づいた。 その声の主はバラバラのように思え、上の方から聞こえてくる。 俺は助けを求めるため、声をあげた。 「あの、誰かいますか??助けてください!」 俺の声が響き渡る。まるで風呂で声をだしたような、そんな感じに響いている。 しかし、返答は帰って来なかった。 俺は助けを呼べる手段として、スマホで助けを 呼ぶことを思いついた。俺はズボンの右ポケットに手を入れ、スマホがないか探った。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ しかし、探っても探っても出てこない。 普段なら右ポケットに入れているのに・・・ 酔った勢いで落としてしまったのだろうか。 となると、助けを呼ぶことも難しい。 そもそもここはどこなんだ? 俺は起き上がり座っていた体を持ち上げる。 地面は、じめじめとしていて少し濡れている。 起き上がる時に壁に手を置いた感触からは、 どうやら壁はコンクリートのようだ。ザラザラとしていて、風化しているように思える。俺は壁に手をつき、歩き出した。空間の様子を少しでも知るためだ。 ザラザラとした壁に手を置き、そしてスライドさせていく。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 少し歩いて、ようやくわかった。俺は円状に回っていた。つまり、この空間は円状になっている。扉や手すりなどもないように思えた。 完全な円。その中に、俺は囚われているようだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・ いや、俺はこの形状を知っている。 これは・・・・・・・・・・・・・・・ マンホールの中?