てまきまき
14 件の小説氷が飲み込んでしまう前に。
半年前、地球は大きく姿を変えた。 青と緑、所々茶の色で彩られた美しい惑星 地球は今や見るも無惨な青色の 氷の惑星に変わり果ててしまった。 突如始まった第4氷期はビルに埋め尽くされた街も、木々で溢れる森林も等しく氷の中に 埋め込んで行った。 100億人ほどあった人口も今や その半数以下だろう。 凍てつくような寒さは日を追うごとに 厳しくなっていく。 暖房や電気等のインフラも機能しなくなった。 今日か明日にでも僕は死ぬのだろう。 覚悟を決め家の外に出る。 そこに広がっていたのは真っ白な世界だった。 電柱は崩れそこに雪が積もっている。 ビルも白い氷雪になすすべなく飲まれている。 だがそのどれでもなく僕の目を奪ったのは 交差点の真ん中で歌っている少女だった。 セーラー服だろうか。半袖の少女は 凍てつく風に肌を赤らめながらも 笑顔で歌っている。 僕は彼女を見て家の外に出て本当に良かったと感じた。 何も変わらない退屈な日々。 そんな日々の果てに死ぬのよりもよっぽど 幸せだ。 僕もコートを脱ぎパーカー姿で彼女の元へ向かう。 彼女は僕に気付きこの世界には似合わないほど暖かな笑顔で僕を迎えてくれた。 互いに何も喋らずに手を取る。 ダンスなんて踊ったことはないが 氷の惑星の中心で僕らは思うように踊る。 大体一曲を踊り終えた後には彼女は動かなくなっていた。 もう彼女を溶かし眠りを覚ますものなど この世界に存在しないであろう。 彼女を抱きしめて僕も後を追うように眠る。 愛すらも凍らせてしまうこの氷の惑星で 僕は眠る前に確かな暖かさを感じた。
CD
まるで壊れかけたCDのように 生きる気力が出ては失っていく。 そんな人生を送るうちに 僕のCDは音が出ない方が多くなっていった。 いつしか出る音もノイズ混じりの 汚い音になった。 いつか完全にその音が出なくなる前に 誰かディスクを拭いてくれる人は 現れるのだろうか。
禁断の果実
人類の一番の罪はなんだろうか。 僕は知能を発達させたことだと思う。 人類は頭が良くなりすぎたんだ。 だからなぜ生きているのかなんて考える 人間が出てくる。 きっとこの世はバカの方が幸せなのだ。 ダンゴムシが明日のご飯を気にすることがない ように。 悩むだけの脳がない方が幸せなんだろう。 僕はそういう意味で全く人間である。 バカなふりをしているのか 本当にバカなのかすらも もうとっくに忘れてしまった。
8月の蜃気楼
第一話 おはよう夏。 あの雲はどうやってできたのだろうかそしてどこに行くのだろうか、 遠い海からやってきたのだろうか。 この街に雨をもたらしそのまま去っていきどこともわからない人のいない場所で消えていくのだろうか。7月とはいえクーラーがなくてはかなり暑い。 垂れる汗。教師の声。 ふと窓を見る。少しだけ空いた窓。窓の向こうには 誰かの夏空がある。その夏への隙間から生ぬるい風が僕の頬を撫でた。夏の匂いがした。 「ーぉぃ、 ーおい、安、聞いてんのか?」 「あ、」 授業中だった。 「おい安、お前京松先の授業でぼーっとするとか勇者すぎるだろ」 「いや違げぇんだって、この暑さが悪いだろ。 先生たちだけ職員室でクーラーで涼みやがって。」 「確かにななんで俺らの高校だけクーラーつけないんだろうな。今時だいぶ珍しいよな。」 今更かもしれないが僕の名前は安田友春だ。 花の高校二年生というものの、部活もとくにしてないしこのままつまらない青春を過ごしてくんだろう。俺が今話してるのは水野隼人でサッカー部 いわゆる陽キャってやつだ。 「でもまぁ暑いと、悪いことばかりじゃないぜ。 ほら見てみろよクラスの女子の制服透けてるだろ。 制服ってここが最高なんだよな」 隼人が少し笑いながら言う、 「ちょっと隼人まじで最低だわ。そんなこと思ってたの?信じられない。」 と横から女子が入り込んできた。 彼女は吉原美優、隼人の幼馴染だ。 高校に入ってからと言うもの、この3人で遊ぶことがかなり多い。僕は中学3年生にこの街、島原市にやってきたのだが、転校して右も左もわからない僕にとてもよくしてくれた。 「それにしても友春、京松先生の授業で怒られてたよね。珍しい、なんかあったの?」 「美優まで言わんといてよ。ただ熱くてぼーってしとっただけって。」 「あーだから春樹のあんな下品な話になったんね。 ほんと隼人最低」 そんな会話をする。 「それより早く食堂いこーぜ」 そんな隼人の言葉で4時間目だったことに気がつき ドアを開ける。 足を踏み出した時だった。足の下に思いもよらない、感覚があることに気付いた時には遅かった。 「痛っ。」足を挫いた僕はバランスを崩し前に倒れ込んだ。足元を見る。踏んだのはどうやら上靴らしい。「おい、大丈夫か安!」 「大丈夫、それよりもなんか上靴落ちてたんやけど。」 「まじやんこれ誰の?」 「これってさ、あれじゃない?今噂になってるうちの高校の8不思議みたいなやつ。」美優が言う。 「何それ?」 「確かにそんな話あったな、安、知らねーの?まぁ確かに噂になってるのは先輩たちの間だけどさ、 うちの高校にある8不思議みたいなのに上靴がどうたら見たいなのあったわ、」隼人がフォローする、 確かに先輩に知り合いがいない僕が知らないのも納得だ。 「それより、なんで8不思議なの?普通は7不思議じゃない?」 「私もわからんのよ。なんか7個はちゃんとあるけど、8個目は誰も知らない的なやつよ。」 「じゃぁ7不思議じゃん」 「だから知らないんやって。どーせ、先輩が7不思議だとインパクトないからとか言う理由で8不思議にしたんやろ。」 「それよりさ、この苗字って例の転校生の靴ちゃうん?」 上靴にはー神谷と書かれている。 神谷 結衣。1ヶ月前に来た転校生だ。 なんでも転校初日で10人に告白され全員を、こっ酷く振ったとかなんとか。噂ではすごい可愛いらしい。 「安が踏んだんだし、安が返しにいったがえんじゃね?」 まぁ確かに踏んでしまったのは僕だし。汚れを軽く落として彼女に届けに行こう。 まぁ、、なんで上靴が片方だけ落ちてるんだ。 「それよりも8不思議の上靴の話ってどんなん?」 「んー私もあんまわからんのやけど、なんか教室の前に名前のない上靴が落ちてるみたいなやつやった気がする。まぁでもこの靴は神谷さんのやし、全然8不思議でもなんでもないんやけどね」 笑って美優が言う。 「そんな話なんや。まぁ、神谷さんに返してくるから先食堂行っとって。神谷さんって2組よな?」 「そーなんか先に頼んどこうか?、安が来る頃にはめっちゃ並んでそーやし。メニューなんがいい?」 「じゃあうどんで。」 隼人と美優と別れ向かいの塔に行く。 僕の学校は4階建てで、1年生は3階である。 クラスは5組あるが、1,2組は向かい側の塔で残りの3から5組はこっち側の塔である。 4階建てといっても4階部分にあるの音楽室や視聴覚室だけであり、特にあるものもない。 向かいの塔に行くために廊下を歩く。 向かいの塔には3階から行くことができない。 と言うのも、渡り廊下がないのである。全く不思議だ。渡り廊下がないのも例の8不思議かなんかなのだろうか。 向かい校舎に行くために階段を降りようとした時だった。上靴が落ちていた。 それはかなりボロく少し破れている。上級生のだろうか。だが不思議なことに名前がない。僕は1日に2度も上靴の落とし物を見たことがなかったし、例の8不思議の話を聞いた後だったので、気味悪く思い、その上靴には触らなかった。 2組についた。廊下の窓は全開で蒸し暑い校内には 涼やかな風が吹き込んでくる。 汗を拭い、ドアを開ける。 「なぁ神谷さんっている?」 2組にあまり知り合いはいないがかろうじていた顔見知りに声をかける。 「んー今おらんわ。もしかしてお前も告白?」 「ちゃうわ、なんか上靴落ちてたから返そうと思っただけ。それより、どこにおりそうかわかる?」 「んー図書室じゃね?あの人教室でもいつも本読んでるし、そーいや教室でご飯食べてるの見たことないな。」 「おーありがとう。行ってみるわ。」 人見知りなのだろうか。まぁ、、とはいえ一階にある図書室まで歩くことになった。 ただ歩くだけとはいえ、7月の校内はかなり蒸し暑く、歩くだけでも汗が毛穴から滲み出てくる。 はぁ最悪だ。こんなことなら上靴をそのままにして食堂に行けばよかった。 そう思いながら階段に差し掛かった時だった。 さっき踊り場にあった上靴がなくなっていた。 「気味悪‥」 そう思いながら早足で図書室に向かった。 ドアを開ける。 そこには彼女の姿があった。 「ーーたのかい。」 彼女がこぼした一言は窓から吹き込んできた風にかき消された。 「え、えっーと、上靴落ちてたんですけど‥」 「僕の上靴見つけてくれたんだ。」 「神谷さんですよね?」 「そう、僕が神谷だ。よろしくね。」 彼女は笑いかけてきた。 これは1日に10人告白されたと言う話にも納得の 可愛さである。彼女は無意識にしているのだろうか。罪深い。彼女の顔は可愛いと言うよりかはむしろかっこいいと言うような感じで、男性のみならず女性にもモテそうな顔である。この顔がこんなに可愛い笑顔を見るもんだから、そりゃあ男は落ちるだろう。 「じゃあ、ご飯食べるんで、さよならっ」 珍しく人見知りしてたどたどになりながら言う。 「待って、少し話さない?」 「え?」 少し日が刺す図書室。電気は付いておらず、 ここはどうやら太陽からの直接の放射を免れているらしく、他の場所よりは涼しい。窓からは少し強い風が時折吹き込んでいる。 僕はひょんなことから学年一の美人と世間話することになった。 「安田友春くんだよね?」 「そうですが、なんで名前を知ってるんですか? もしかして全員の名前を?」 「いや、そーゆーわけじゃないけど、たまたま覚えてたんだ。まぁ覚えようと思えれば覚えれるけど。」 「そういえばこの間の中間テスト1位でしたよね? 容量いんですね」 「敬語なんていいから、タメ口で話そうよ。」 「じゃあ、、よろしくね、?」 すごくドキッとする、、彼女と一緒にいるのは心臓に悪い。こんなところを隼人に見られたら童貞過ぎだろとかいって馬鹿にされるんだろう。 僕だって普通の女子なら普通に話せるのに。 「よろしく。春って呼んでいい?」 「えっあぁ大丈夫。」 距離のつめ方がすごい。、彼女は意識して僕や他の思春期の男の子で遊んでいるんだろうか。 「あっごめん。流石に馴れ馴れし過ぎた?」 「いや、大丈夫だよ。それよりなんで上靴がうちのクラスの前に?」 「僕もわからないんだけど。結構もの落としたりするから3時間目に美術室に行った時に落としたのかも。」 「それで気づかないって結構ドジなんだね。」 そういって笑う。 「流石に僕も気づいたけど、授業始まりそうだったから引き返さなかっただけだよ。あまりからかわないでよ。それに、君がこうして届けてくれたことだし。そうそう、君ちょっと予定ある?ちょっと手伝って欲しいことあるんだけど。」 「予定‥」 隼人との食堂の約束を思い出す。 携帯を取り出し、メールを送った。 "隼人ごめん。学年一の美人とお話ししなければいけないから食堂いけないわ、すまん、うどんは気合いで食ってくれ!"スタンプを送った。 「うん。予定ないよ。」 許せ隼人。金は返す。 「そっか、じゃあついてきて。」神谷さんの手伝いをすることになった。 「ねぇ春は8不思議って聞いたことがある?」 廊下を歩きながら話す。 「うんついさっき知ったんだけど‥上靴がどうとかのやつだよね?」 「そう。春はそーゆーの信じる?」 「信じないね。僕はそーゆーのは信じないかな、幽霊とか、UFOとか。」 「もし、、仮にさ、そーゆーのがいたらどーする。」 「んーどーするんだろ。幽霊とかは触れられない?とか聞くし逃げるんじゃないかな?」 「逃げる‥か。もし私がそーゆーのに襲われたら助けてね。」彼女は笑いながらそういった。 「それより神谷さん。どこに向かっているの?」 「音楽室だよ。」 「なんで?」 「実は私8不思議に興味があってそれを試したいんだ。、」 「音楽室の8不思議‥」 「誰もいない音楽室でピアノが聞こえる。誰が弾いているのかと思って覗き込むと誰もいない、、どこにでもある話だよ。」 「そんなことを試しにいくの?」 「そう大丈夫。きっとなるはずだからさ。」 彼女の不思議な自信に疑問を持ちつつも、音楽室についた。ドアを開ける。うちの学校は音楽選択の授業がないため少し埃っぽい。 少し咳き込んだ次の瞬間だった。 ピアノが鳴った。低い音だ。ピアノに目を向けると次はウィンドチャイムがなる。何者かがいると言うよりは勝手になったと言うような不思議な感じだ。呆気に取られていると、今度はガタンっとドア付近のベートーヴェンの肖像画が落ちてきた。 「やばい、春逃げるよっ」 そう言われて腕を引っ張られる。僕らは息を上げ、汗をかきながらも図書室に戻ってきた。 「まさか本当に8不思議に会えるとはね」 息を切らした神谷さんがそう言う。 「僕もまさか会えるとは思わなかったよ。てゆうか初めて音楽室に入ったんだけど、ベートーヴェン肖像画がドアの横にあるとは思わなかったよ。神谷さんも初めてだった?」汗を拭いながら言う。 「私も前言ったんだけどその時は閉まってたから、初めてだよ。それより8不思議って実在するんだね?」 そう言いながらお互いに話し合った、 「原因はなんだと思う?」 神谷さんが興奮していったときだった。 「おい安てめぇうどん食わせやがって」 そういってよく見知った声が部屋に入ってきた。 「ちょっと他の人がいたらどーすんのよ。静かにしないと。」 そういって隼人と美優が入ってきた。 「えっうそほんとに神谷さん?」 美優が戸惑っている。 「やぁどうも初めまして。」 こうして4人で先ほどのことについて話し合うことになった。 「えっまじ?安、早速8不思議にあったの?それに、神谷さんも‥」 さっきは童貞がどうとかで俺のことを馬鹿にしてくるかと思った陽キャの隼人も神谷さんの前ではめちゃくちゃ童貞であった。少し笑いそうになると隼人はどうやらそれに気づいたらしく、少し睨まれた。 「そうなんだ。僕もびっくりだよ。」 神谷さん学校そう言う、 「まじすか、ちょっと俺らで見にいってみますわ。行くぞ、美優、安」 「はぁふざけんな。幽霊になんで会いに行かなきゃいけないのよ。一人でいってなさい。」 「ごめん僕もいいかな」そう言う。 「じゃあ俺が確認してくるんで、神谷さんは待っててください。幽霊なんてやっつけてくるんで。」 そういって部屋を出ていく。 「窓空いてたといえ、埃っぽいから気をつけてねー」 神谷さんがそう言う。 ‥ 「それで、だけど。春は何が原因だと思う?幽霊とか信じないんだよね?」 「ちょっと待って春って友春のこと?」 「そうだよ。」 「ずいぶん仲良くなったのね、、春、、チッ」 なんだか舌打ちが聞こえたような気がしたが気のせいだろう。 「神谷さんは僕を試しているの?」 何かと原因を聞いてくる神谷さんだが、僕はもうとっくに原因を見つけていた。 「え?どーゆーこと?」 何も知らない美優が戸惑う。 「なんでそう思ったのか教えて欲しいな。」 神谷さんが微笑む。 「窓空いてたはやり過ぎだよ。」 「やり過ぎちゃった?」 「流石にね。」 笑い合う僕らを横目に美優がいう。 「ちょっとどーゆーこと?」 「あと音楽室なのも失敗かな?」 「まーそーだよね、他の8不思議にすればよかったなぁ」 そういって笑い合う。 「ちょっとどーゆーことか教えなさいよ!」 そういって美優が殴ってきた。 「痛いって、だから8不思議でもなんでもなく、全部神谷さんの悪ふざけってことだよ。」 「どーゆーこと?じゃあピアノは?ウィンドなんとかみたいなキラキラしたやつは?それに肖像画は、?」 「ピアノはネズミだろう。使われてない音楽室だし 人に驚いてネズミが弦の上を歩いたんだろう。 で、ウィンドチャイムは風で揺られて、 肖像画は神谷さんが落としたんだよ。」 「えっなんでそーなるの?」 「えーめんどくさいなぁ」 「いーから教えないよっ」 そういって殴ってくるので教えることにする。 「まず、あそこの音楽室は普段空いてないよね? 神谷さんも前に来た時閉まってたっていってたし、 今日に限って何の疑いもなく音楽室にいくなんておかしいなとおもったんだ。まるで空いてることがわかってるようだったからね。」 「確かに‥でも、空いてること知ってたんじゃないの?」 「点検があるから鍵は1日ごとに施錠されるし、 何よりも神谷さん自身が音楽室にくるのが初めてだっていってたしね。おかしいでしょ。」 「もう。春ってば僕にかまをかけたのかい?」 神谷さんが困ってそうにそういった。 「まぁそうだけど、何よりも入口からじゃ窓は全部閉まってたしね」 「それじゃ、ウィンドなんとかはならなくない?」 「そうなんだけど、窓は空いてたんだ。隣の音楽準備室のやつがね。だからそこからの風で鳴ったんだ。」 「なんで開いていたってわかるの?友春が見た窓は全部しまってたんでしょ?」 「まぁそうだけど。入った時に埃が舞ってたからね。 長く使われてないと、あまり埃が舞うこともないでしょ?」 「確かにっ」 「お見事。実は僕友達がいなくてね。あとでネタバラシするつもりだったとはいえ一緒に遊べる友達が欲しくてね。ごめんよ。ピアノもウィンドチャイムも肖像画も大正解だよ。」 「大丈夫だよ。」 「もし、君さえよかったら今度は純粋な8不思議を一緒に調べないかい?名無しの上靴にも会えた君ならきっと面白いことになりそうだ。」 「うんわかったよ調べよう。」 ガチャっとドアが開く。 「おい安、てめでのせいで見回りに来た京松先に怒られたじゃねーかふざけんな」 隼人が帰ってきて賑やかになる。 今日の授業も終わり、帰る。帰り道で隼人達と別れ ふと気がついた。 僕はいつ彼女に、神谷さんに名前のない上靴のことを話しただろうか。それにネズミがピアノを鳴らしたという答えに彼女は自信を持って正解だといっていた。そう考えると不思議な感じがしたが・ 今日は不思議なことばかりだった。 僕の夏はこれから楽しくなりそうだ。
僕の夏空
深い深い青。人に何色かと聞かれたなら僕は青春色以外にいい表す言葉を思いつかないだろう。 少しだけ開いた窓からはうだるような暑さが教室に入り込んでくる。教師の声、少しだけ遅れた授業内容。もうすぐ夏休みか、そんな考えを横目に窓の外を眺める。大きな大きな雲が青に浮かんでいる。何故だろう。何故。夏の雲はこんなにも綺麗なんだろう。大人になったらいつか思い出せなくなるんだろうか。そんなことをたまに思うと大人になるのが怖くなる。僕はこのまま青春らしいことをひとつもせずに大人になるのだろうか。 窓の外の大きな雲。その手前に細い線が入っている。その線はぐにゃぐにゃと不規則に存在し、その右の方はもう消えかかっていた。僕もいつかはこうなるんだろうか。そう思い窓から目を離す。 まもなく授業をちゃんと聞けと叩かれた。
金メダル
「ヒューヒュー。」 的に弓を向ける。 息が震える。ここはブエノスアイレス。アルゼンチンの夏はかなり暑い。むせかえるような炎天下だ。 観客の声援。まるで時間が止まったように長い。長い。ここで真ん中を決めなくてはいけない。 汗が頬を伝う感触がする。 限界まで張った弓を抑え矢を持つ手は震える。 集中だ。やるしかない。的を見つめる。 矢を放つ。 私が矢を放った時頭に浮かんだのは母のことだった。母は私の姿を見れずに死んでしまった。 天国にいる母はどう思っているのだろうか。 すごく迷惑をかけてきたな。 そんな思いをのせた矢はゆっくりとゆっくりと的へと、向かう。 「まっすぐに生きなさい。きっといつかうまくいくから。だからあなたの生きたいように。」 母の口癖はいつもそれだった。 スパンッ 的の真ん中、一番黄色の部分に矢はささる。 私は叫ぶ。声にならないそれは観客の歓声に消えていった。手を握りしめ強く振る。 母さんやったよ。母さんも見ているかな。 挑み続けて30年私の努力がついに実ったのだ。 「よくやったわね。」 そんな一言が観客の歓声に紛れているような気がした。
勇者
僕は何も知らなかった。世界にカースト制度があることも、親によって殺される子供がいることも、そう何も‥だ。 今と違いやつが、魔王がいた頃はもう少しまともだった。例え身分が低くても戦で功を上げれば貴族になれたし、何よりもそういった人がかなりいたおかげでカースト制度はほとんど存在しないも同然だった。だが平和になってみればどうだろう。 先の戦で功を上げた貴族達は身分を鼻にかけ民達を見下している。 子供も先の戦では大事な宝として重宝されたが今はその限りではない。 間違っていたのは僕なのだろうか。 そう考えると。 魔王の最後の言葉が思い出される。 「貴様でもないのか勇者よ‥」 僕にある力は世界を救うためのものなのだと改めて実感する。覚悟を決めた頃には光輝いていた聖剣の色は純然たる漆黒の見るも恐ろしい、禍々しい色と成り果てた。僕は、いや我は王城に行く。 これから世界を支配するのだ。
魔王
殺して殺して殺しきれないほど殺して、また殺して殺して殺してきた。 いくら世界のためとはいえ、私もやりすぎたのだろう。次は私の番だ。 「魔王覚悟しろ!お前を倒し世界に平和を取り戻してみせる。」 「そうか勇者よ。やれるもんならなぁ!」 勇者よ。私はお前のようなものが正直羨ましいのだ。きっと私を倒したとて、世界は何も変わらないのだ。差別に虐待。世界では誰かが必ずどこかで泣いているのだ。世界が平和になるためには絶対的な悪がいるのが一番いい。 「なぁ勇者よ。お前に世界のことが救えるのか。」 「?あぁお前を倒すだけだからな!」 …やはり今回の勇者も外れだ。 この勇者では私を倒したとて何も変わらないだろう。 「悪いな勇者よ…いや、全てが無駄だったのかもな」 ここで大人しく死のう。世界のことは無駄だ。 私が足掻くだけ無駄なのだ。 「さらばだ勇者よ。」 勇者が街に帰った時街は歓声に包まれた。
魔法少女の憂鬱
私の名前は美優 魔法少女だ。 「美優ー!ヴィランが来るよー早く変身してー!!」 この子は使い魔のクル。 「わかったわ。」 「水の精霊よ私に力を貸しなさいっ!」 「オッパッピー!」 「グフフフフ魔法少女よ貴様の変身を止める魔法を開発してやったぞ。グフフフフ」 「チッどうしてよ。オッパッピー! オッパッピー!どうしてよオッパッピー!!」 「チッ本当に厄介な敵ね!本気を出すしかないわ!」 「水の精霊、火の精霊、その他の微少な精霊達よ! 私に力を貸して! マジカルオッパッピー!!!」 「ばっ、馬鹿な変身妨害魔法を破っただと‥!」 「くらいなさい!悪しきヴィランよマジカルオッパッビーム」 「ぐわぁああああ」 時は変わり日本。 ある男は頭を抱えていた。 「クソォ、オッパッピーで飯は食えねぇ、やっぱ俺には小説の才能はねぇーわ!!」 やっぱりご飯を食べるには箸が一番である! こんな小説を書く私より皆さんはすごいんだ。 だから自信を持って投稿しよう!
葉緑体人間。
僕は死ぬことがない葉緑体人間だ。 体に入れた葉緑体は光合成を行い生きるために必要なエネルギーと日々細胞を新たに生み出し続けている。技術は知らぬ間に発展していき私が生まれた年から早くも60年が経つ。まぁ私は20代の見た目を保ち言葉だけが古臭くなっていくのだが。 私はある時考えた。おそらくこのまま一生死なないで世界が終わるその日まで、地球と共にあるのだろう。なんてつまらない人生なんだ。と。 そんなことを思いながら街を歩く。 「やぁグリーンさん元気かい?」 私は彼らの間で人気者である。なんでも私のこの緑色の肌は珍しいらしい。腕を上げて挨拶をする。 家に帰り首にネクタイをまわす。 私は植物が知性を持たない理由を知った。 きっと彼らに知恵の実を食べさせるのはよっぽど酷であるのだと神様は思ったのだろう。