晴薪
14 件の小説あなたが気づいていないだけ。
夏が嫌い。 あれほど恋焦がれ、待ち望んでいた夏。 そんな夏がもう終わろうとしている。 2年半付き合った人と別れた。 いや、振られたとでも言おうか。 あの人は酷い人だった。 あの人の家で遊んで、それから帰る途中のこと。 「一回きりだから」 と、彼は私が拒み続けてきたキスをしてきた。 何度断っても折れないから、ついに私が折れたのだ。 そして。 “一回きり”は、キスだけじゃなくて。 この関係にまで含みをはらんだ言い方だった。 それがわかったのは別れを切り出されてからだ。 私が悪いの? 何がいけなかったの。 困惑して涙で溢れる私に、あの人はこう言った。 頑固なくせに面倒くさがって、諦めがいいから冷たい反応。 これは私があの人にしたらしい態度だった。 やった本人は気付けないって、それって本当だったんだね。 私はいつも気づくのが遅い。 あの人は寂しかったんだ。 “そういうこと”だって私が拒み続けていた。 私が悪かったんだね。 でも、私の気持ちも無視なんだね。 あの人はいつもそう。 優しいふりしてる。 優しいふりして棘を持ってる。 最後にキスをしたのだって、そういうことでしょ? 欲ばかりで。 気が合わなくたって、 理解しようと話し合いをすれば一緒にいられるなんて 詭弁だったんだ。 どうしようもなく。 引き摺るのはみっともないし、やめにするね。 だってほらあの人が言ったから。 変に諦めがいいって。 夏も終わるしもういいよ。
嘘
嘘をつかれるとこの先何もできない気がしてどうもモヤモヤする。 嘘つかれたっていいって思うしかない。 私は嘘をつく人間だから。 それは回り回って自分に返ってくるんだってそう思ってればいい。 私は私のことを見下すよ。 正しく生きることもできないのに、 相手にそれを強要するなんて。 私は昔から嘘をつかない人間だってそう思っていた。 言い聞かせてた。 思い返すとどうだろう。 思い出せないことはいくつもある。 でも嘘をついた数が多いことは覚えてる。 用はないけど早く帰りたいから用があると言って帰る。とか、 母にバレたくなくて誤魔化した貯金金額とか。 最低な人間だと思う。 その場をしのぐためについた嘘ほど低俗な言葉はない。 気づけてない私にむしゃくしゃする。 醜くても美しいって言われたい。 今の私は醜いだけの人狼だ。
春憂
ひらりと風に舞う花弁を目だけで追いかける。 自由に舞う花弁は、重力に負けて下に落ちる。 それは嫌気がさすほど儚く美しかった。 この花が散る頃に、貴方はもうここを去る。 言いたかったことを言おうとして、結局言葉は出なかった。 これは胸の内にしまっておいた方が良い。 どうせ季節も通り過ぎていく。 この悲しみも、通り過ぎていく。 でも真っ直ぐ先にいる貴方は髪を靡かせて。 忘れさせてくれない。 見惚れてしまった。 心が動いてしまった。 貴方のことを追いかけても追いつかなかった。 嗚呼、これが恋か。知りたくもなかった。 数年経てば笑い話になるだろうか。 淡い恋に期待していた、あの懐かしい日々に思い焦がれる。 あの日、靡かせた髪を何気なくかきあげた貴方をみて時間が止まったと思った。 嗚呼、哀しい。 私が望む春は、もう来ないのだと知った。
ものを好きであればあるほど
焼かれたように心が痛くて 死んでしまいたいくらい辛い そんな夜が必ずしも誰にだってあった。 それでも生きてるあなたが素晴らしい、なんて そんな言葉にいつも心を病んでいた。 狭さの中で苦しんだ結果、 生きていることが美化されたこの世界において 私は邪魔な存在になった。 死んでしまいたかったのだ。 「逃げてもいい」。そんな言葉の通りにしたせいで私は哀れにも 自分の首を絞めて生きてきた。 それに気付けずいつも苦しさを感じていた。哀れすぎる。 人の言葉を鵜呑みにしてきた私には確実に思うことがある。 厳しいことを言う自覚はある。でも、 逃げることは根本的な問題解決には至らないのだ。 昔の私のように悩んでいる人には苦だろう。 どうかこの言葉を鵜呑みにしないで欲しい。 逃げてもいいとは思う。 ただその結果私は苦しんだ。 ならどうするべきか? 今でも答えはわからない。 でも最近は悩んでいても、苦しいと感じることはほぼないに等しい 生活を送っている気がする。 なぜそうなれたのか?逃げることは間違いなのか?否。 人の悩みの根底のほとんどは「無知」からなっているだろう。 例えば、人間関係なら“相手のことを知らないから”。 勉強なら“わからない、理解できないから”。 あとは…どうだろう、 悩むのは他人と比べたりする暇があるからではないのか。 そんな暇があればゲームしたりだとか、 趣味の何かをしたりだとか、 色々したらいいのにと思う。 結論、私的には悩みに対する“逃げ”はいつか苦悩をもたらすが、 悩んだ末の自己嫌悪に対する“逃げ”は大いに有りなのではないかと思う。 自己嫌悪は人間の感情で一番の敵である。 私はそう思って生きている。 私の人生を、今生きているのだから感謝せずにはいられない。 何でもかんでも愛してやろうじゃないか。
気分を上げるために
春休みに入って特に用事もなく、 一週間が過ぎようとしていた。 普段はやらないネイルを足に塗ってみたりした。 母から借りたそれは私の好きな色とは真逆の色。 「私には似合わない色。」と、ぽつり独り言を溢した。 これでは自慢の白い肌がなぜか黒く見えてしまう。 少し変わろうと決意してやったのに。 真っ赤なネイルを塗ってみたい。 逆に浮いてしまうかな。 でも自分の足なんて家族以外の誰にも見られないし。 ぐずぐず考えているうちに少しずつだが気に入ってきた。 こうして少しずつ自分を好きになっていけばいい。
花も枯れる頃に
私が人を好きになって、 微炭酸のように淡い恋をして、 愛を知って、愛を取りこぼしたのはいつだっけ。 春は嫌いだ。 私が恋をしたのは桜の下だった。 ぶかぶかの制服を着たあなたによく似合う季節だから。 彼には5年恋をした。 彼とは4年付き合った。 告白したのは私からだっけ。 月が綺麗ですね、なんて 月も出きっていない夕方に告白して。 彼と別れる時の彼の表情は、 なぜか怒ってたな。 私から別れを切り出した。 付き合ってから、 名前を呼んでくれたのは一度だけ。 手を繋いだのは、 王様ゲームなんて悪ふざけの一回だけ。 そういえば、付き合いだしてから 彼は変わったな。 私が生きてきた中で これ以上の人はいないと、 絶対に手放したくないと思ったのは あなただけだった。 私があなたを離したのは、 私といるせいで変わっていくあなたを見て、 私じゃダメだって思ったから。 私今でもあなたを忘れられない。 優しくて、可愛くて、かっこいくて。 だから独占欲強いって言われちゃうのかな。 私、寂しいよ。 咲き誇った桜が散ってしまうのが寂しいの。 あなたがもうそばにいないことも、 桜が咲き誇っている間はあなたを忘れられないことも。 その全てが寂しいの。 私が忘れたくても、あなたはもう忘れてるかもしれない。 桜の花が枯れる頃には、私はあなたを忘れられてるのかな。
ないものねだり
私が羨ましい、 と思う時は大抵周りが見えなくなっている時である。 この話は、他人と比べてしまう人にオススメしたい。 羨ましいとは、他人の能力や状態を見た時にその他人に対して自分もそうだったらいいのにと願う、または妬ましく思うことを指す。 例を挙げてみる。 ・ある一方はお金に恵まれているが、 人間関係に恵まれていない。 ・ある一方は人間関係に恵まれているが、 お金に恵まれていない。 両者が相手を良く思っていなければ お互いに相手を羨み、 悪化まですると妬んで関係を拒んでいくだろう。 前者が後者に対して文句を言うなら、 「あいつは頼られ尊敬される人なのに不幸せだという」などと。 後者が前者に対して文句を言うなら、 「あの子はお金があって幸せなのに不幸な顔をする」など。 冷静な人や、勘の鋭い人はここで気づくだろう。 何かが抜けてはいないか? では気づかなかった人のために抜けているものを挙げる。 こうは思わないだろうか? ある一部の人間はお金にも人間関係にも恵まれている。 またはお金にも人間関係にも両方にも“恵まれない” 人間がいると。 私はどの環境に当てはまるだろうか。 ふと忘れていたことを思い出した。 比べる相手によってその環境は変わるのだ。 普通という概念はこの時、存在し得ないのだ。 私はいつも疑問に思うのだ。 こんな簡単なことに気づけなくて、 私は暇さえあれば人を羨ましいと思う。 羨ましいと思うことが悪いとは言わない。 競争心があるということは諦めてはいないということで、 人として真っ当に生きているのだと思う。 ただ、それが原因で自分の視野が狭くなるのは大きな大問題だ。 今の若人は人と比べて優劣をつけ、 劣等感が増えて辛くなる若者が多いと感じる。 他人と比べて視野が狭くなって周りが見えなくなるのは、それは寂しいことだ。 そんなときどうするべきか。 ここで私は答えを出さない。 いや、出せないのだ。 そんな答えがわかっていたら、 私がこうして文字を起こしている必要はないからだ。 答えではなく助言をするとしたら、 「迷って、とにかく悩んで、人として真っ当に生きろ」と言うだろう。 本当に報われている人は、 この話を最後まで読まないと思う。 ここまで興味を示して読んでくださった方には頭が上がりませんが。 ないものねだりは視野さえ広ければとことん悩めばいいのだと思う。
淡く脆く、それでいて。
自転車のカゴにふたつのラムネと鞄。 蒸し暑い中、木陰に座る。 そして、たまに吹く風に目を細める。 暑さに下を向いてばかりの私は、 君の声に顔を上げる。 君はいつも通り笑っている。 今の君を知るのは私だけだと嬉しくなった。 差し出されたラムネをぐいっと飲む。 少し生温い炭酸が身体に染みる。 それはそれでいいのかも、なんて赦してしまう。 君とならどこまでも行ける気がした。 わかっていた、行く場所も意味のない行動にも終わりが来ることを。 ずっと続きそうな夏に、されるがまま目を瞑る。 毎日変わりゆく世界。 気づいたら明日になっている朝。 なのに、ここだけは時間が退屈に流れている。 だから終わりが来ることに何故か悲しくなって。 手放すときに、想像することが怖くなった。
home
故郷に帰ってきた時、必ず2番目に思い出すのは あの煙草のにおいだった。 中学を卒業して県外の私立高校に進学し、寮生活にも慣れた頃、 初めて実家に帰った。久しぶりに見た玄関の家族写真には気にも 留めず、母に挨拶をする。 「母さん、帰ってきたよー」 「あら、ずいぶん早く着いたのね。今ご飯支度してるからすぐ お風呂に入っておいで。今日はあんたの好きなハンバーグよ」 「ワンっ」 「うわっ…ルル、また大きくなった?」 ルル、とは家で飼っている犬である。考えなしに飛び込んでくるルルと流れ作業のように風呂を促す母に、安心した。 今まで気付かぬうちに張り詰めていた糸が緩んだように安心していた。 懐かしいと感じたのだ。 中学の頃は過干渉に感じた母の愛がうざったくて、高校に進学したつもりでいた。何もかも知らない環境だからこそ自分のありのままを確立できる気がした。だが現実はそうじゃなかった。 意外と脆くできた私の内側はあまり耐えられなくて、すぐ疲れてしまうし寮母さんに迷惑はかけるし学校では友達とも揉めることもあって何かとうまくいかなかった。それを心の内から明かせる家族は近くにいなくて相談もしにくかったのだ。 そんな母は今、ここに居る。 その事実が嬉しかった。 高校は知らない人がいるからこそ環境に甘えきった私の心を 律し、もう1人の人間であると自覚できると思っていた。 でも、知らない人は自分とは家庭環境も何もかも違うのだ。 ふとした自分の当たり前が他の人とは合わなくて疲れてしまっていた。 さっさと疲れをとってしまおうと考えて脱衣所に入る。 そしてふと漂う煙草のにおいに自然と手が止まる。 懐かしいな、と思ったのは帰ってきた時から2度目だった。 この煙草のにおいは風呂場の換気口を伝ってかおるのだ。 下の階のお兄さんがいつも吸っている煙草なのだろう。 ここで昔の私ならくさいだとか、副流煙だとかで色々思っていたのだろうが…今の私には迷惑だと感じず、むしろ安心してしまうにおいになってしまっていた。 未成年である私が思うのはいただけないだろうが、これが私の思い出の一部になってしまっているのだ。私の居場所のひとつになってしまっているのだ。 同時に自分が大人になっている気がして落ち込んでしまう。 それでも、いつもむさ苦しく感じる母やたばこは、 この日から特別なものに変わった。
依存していく
愛されたいから尽くしていた。 重みが違うから嫉妬した。 愛していたいからそばにいた。 貴方の全てを欲しがっているのに、 くれない貴方は駆け引き上手ね。 ゆらゆらと揺れる恋に手を伸ばす度に、 届いてない気持ちに気づく。 もどかしくていらいらしてしまう。 つれない貴方を愛しています。 自分らしくいる貴方。 いつも道の先には貴方がいたものね。 貴方の揺れる髪が好き。 優しく微笑むときにできるえくぼが好き。 笑う時に細くなる目が好き。 いつになったら振り向いてくれるのだろう。 振り向いて仕舞えば私は飽きるだろうか。 運命の人だと思えたのは貴方だけだと思ったの。 大切が故に貴方の人生を独り占めしたいの。