エヴァンゲリオン
49 件の小説第4章 後編
花咲家の広間には、30人の家族が集まっていた。 机の上にはずらりと並ぶノートPCやタブレット、スマートフォン。小さな子どもから年配の祖父母まで、それぞれが端末を操作し、OZの異変に対応している。 「真武、こっちはデータ転送が遅れてる!確認して!」 「こっちもログがどんどん流れてくる!処理落ちしそうだ!」 次々に飛び交う声。 その中心で、竹田真武は額に汗を滲ませながらキーボードを叩いていた。 ――だが、その指は時折止まってしまう。 (本当に……俺で大丈夫なのか……?) 彼の胸に渦巻く不安は消えなかった。 OZでの混乱は拡大し続け、花咲家の力をもってしても追いつかないほどだ。 「……俺なんかじゃ、みんなを守れないかもしれない」 真武が呟いたとき、横で画面を覗き込んでいた花咲真奈美が、静かに言った。 「大丈夫だよ、真武くん。……だって、ひとりじゃないでしょ」 その言葉に、彼はハッとした。 周囲を見渡せば、家族全員が真剣な眼差しで端末を操作し、彼を支えている。 その姿が、胸の奥に小さな光をともした。 「……そうだ。ひとりじゃない」 彼は再び画面に向かい、キーを叩く。 同時に花咲家の面々が連携し、次々と小さなトラブルを封じていく。 パズルのピースがはまるように、バラバラだった作業が一つの大きな流れへとまとまっていくのを、真武は感じた。 だが、その時――。 突如、OZのシステムに強烈なエラーメッセージが走った。 《警告:侵入プログラム検出》 真武の画面が赤く染まり、無数のコードが暴走するように流れ込んでくる。 「くそっ……こいつ、外部からの攻撃だ!」 「なにっ!?」と誰かが声をあげる。 室内の空気が張り詰めた。 「全員、データを分散させろ!一か所に集めると突破される!」 真武の叫びに応じて、家族たちは即座に端末を操作する。 その一糸乱れぬ連携は、まるで一つの巨大な生き物のようだった。 「まだ押される……!でも、俺たちなら……!」 必死の攻防の末、真武は侵入プログラムの流れを見抜き、封じ込めるルートを見つけ出した。 最後のキーを叩いた瞬間、真っ赤だった画面が一転して青白く落ち着きを取り戻す。 「……止まった!」 広間に歓声が上がる。 真武は椅子の背にもたれ、大きく息を吐いた。 (……まだ始まったばかりだ。これからもっと強い敵が来る。でも……俺は逃げない) その瞳に宿ったのは、不安ではなく覚悟だった。 こうして、花咲家と真武の最初の大きな戦いは幕を閉じた。 だが、この静けさが長く続かないことを、彼らはまだ知らなかった――。 第5話に続く
第4章「迫りくる影」前編
竹田真武は、花咲家の広い居間で一人PC画面を見つめていた。 無限に広がるネットの世界――OZのような仮想空間。 そこに生じた“わずかな乱れ”が、頭から離れなかった。 「……やっぱり、何かがおかしい」 画面に浮かぶデータの波。 花咲家の子供たちが騒ぐ声を背に、真武の心だけがどこか緊張に包まれていた。 花咲真奈美がそっと隣に座る。 「また考えごと? 夏休みなんだから、少しは休まないと」 その声は優しいが、真武には届いていないようだった。 彼の目には、赤く点滅するエラーの文字。 「システムエラー:不明な侵入を検知しました」 それは、ただのバグなのか、それとも――。 真武は息を呑んだ。 だが、この時はまだ気づいていなかった。 その“異変”が、花咲家の30人全員を巻き込む大きな試練の幕開けになることを。 後編に続く
第三章:家族の絆と秘密
花咲家での生活にも、少しずつ慣れてきた真武。 朝は早く、食卓はにぎやかで、誰かが必ず笑っている。 人混みが苦手だった自分が、いつの間にか家族の輪に混ざっていることに気づき、心のどこかがくすぐったくなる。 ─祖母・琴音の病─ ある夜、廊下を歩いていると、ふすまの隙間から咳き込む音が聞こえた。 そっと覗くと、祖母・琴音が布団の上で肩を震わせていた。 傍らには真奈美が付き添っている。 「おばあちゃん、薬飲もう?」 「いいのよ。大丈夫、大丈夫…」 しかし、真武はその声に力がないことを感じ取った。 真奈美の目はわずかに潤み、気づかれないようにうつむく。 その晩、真奈美から真武は打ち明けられる。 「…おばあちゃん、もう長くないの。医者からは“この夏が山場”って…」 真武は言葉を失った。 いつも微笑みを絶やさない祖母が、そんな状態だったなんて。 ─古いネットワーク─ 数日後、夕食後の片付けを手伝っていると、真奈美の叔父・大輔が声をかけてきた。 「お前、パソコン得意なんだってな。ちょっと来てくれ」 案内されたのは、母屋の奥にある蔵のような部屋。 中には古びたサーバーラックとケーブルが所狭しと並び、ファンの音が低く唸っている。 「これが、花咲家が代々守ってきた“家族ネット”だ」 「…家族ネット?」 「遠く離れた親戚とも繋がるために、おじいちゃんたちが昔作ったシステムだ。 でも今は、政府や町のネットとも深くリンクしていて、もしここが止まれば…色々と困ったことになる」 真武は端末に手を伸ばし、古いOSと独特なプログラムを見て驚いた。 「…すごい。こんな古いのに、まだ現役で動いてるなんて」 「だが、最近外部からのアクセスが増えていてな。真奈美に頼まれて、お前にも見てもらおうと思ったんだ」 ─不穏な兆し─ その夜、真武はログを調べた。 数日前から海外IPからの不審なアクセスが繰り返されている。 しかも、そのパターンは少しずつ増加していた。 翌日、庭先で子供たちが笑いながら花火をしている光景を見ながら、真武の心は重かった。 この平和な日々が、もしこの“家族ネット”のせいで壊される日が来るとしたら――。 そして彼は、まだ知らなかった。 この小さな兆しが、数日後に訪れる大きな危機の前触れであることを。 第4章に続く
第2話「回復薬と告白のあと」
俺は結局、優香の真剣な瞳に押し切られる形で、ベッドに腰を下ろした。 その横で優香は机の上に並べた小瓶やら薬草やらを、手際よく混ぜ合わせている。 透明だった液体が、淡い緑色に変わっていくのが不思議で、つい見入ってしまった。 「…何見てるのよ。」 「いや、すげぇなって思って。」 「ふふん、もっと褒めてもいいのよ?」 優香はどこか嬉しそうに微笑みながら、最後に小さな瓶を差し出した。 「はい、完成。これを飲めば、膝の傷も一晩で治るわ。」 「サンキュー。」 俺は瓶のふたを開け、一口で飲み干す。 ……甘い。薬っぽさはほとんどなく、むしろスポーツドリンクに近い味だ。 「どう?まずくなかったでしょ?」 「まぁな。てか、これホントに効くんだよな?」 「信じなさいよ、錬金術師を。」 そう言って優香は、俺の膝に軽く手を置いた。 なぜだろう、その仕草だけで心臓が跳ねた。 「…広斗。」 「ん?」 「さっきの告白、本気だから。」 その言葉にまた顔が熱くなる。 俺は慌てて視線を逸らしたが、優香の方はまるで勝ち誇った猫みたいな顔をしていた。 ──こうして、保健室でのやり取りは終わったはずだった。 だが、この日を境に、俺と優香の距離は確実に変わっていくことになる。 それは、錬金術と恋が同じくらい不思議で、同じくらい厄介だと知る日々の始まりだった。 〜続く〜
第二章:三十人家族の夏
真武が真奈美と一緒に降り立ったのは、山と田んぼに囲まれた小さな駅だった。 改札を抜けると、真奈美の家族と思しき人々がずらりと並んでいる。 幼い子供から、おばあちゃん世代まで――ざっと数えても二十人以上。 「まなみーっ!」 小さな女の子が駆け寄り、真奈美の首に飛びついた。 「ただいま、ひなた!」と真奈美は笑い、少女を抱き上げる。 その光景に、真武は一歩引いた。 ――多すぎる。人の数が。 こんなに大勢に囲まれるのは初めてで、胸がざわつく。 「真奈美ちゃん、その子が…?」 柔らかな笑顔の中年女性が近づいてきた。 「あ、はい! 学校の後輩で、パソコンが得意な竹田真武くんです」 「お世話になります~!」 真武は思わず頭を下げた。すると次から次へと家族が名乗ってくる。 「俺は従兄の涼介!」 「おばちゃんの咲枝です!」 「ボクは海斗!」 「この子はまだ生まれたばかりなの」 …人数が多すぎて、名前を覚える余裕はゼロだった。 ─花咲家本家─ 家までは車で15分ほど。 古風な木造の大きな家が、広い庭と共に姿を現した。 真武は息を呑む――まるで時代劇のセットのような立派な門構えだ。 「さあ、上がって上がって!」 玄関で迎えたのは、真奈美の祖母・琴音だった。 白髪をきっちりと結い上げ、着物姿がよく似合う女性だ。 「よく来てくれましたね、真武くん」 低く、温かな声。その笑顔に、緊張が少しだけほぐれる。 ─初めての夕食─ 夕食の時間。 長い座卓には、これでもかというほど料理が並んでいた。煮物、焼き魚、天ぷら、山菜のおひたし…。 「いただきます!」の声が響き、一斉に箸が動く。 「真武くん、唐揚げ食べる?」 「お味噌汁おかわりあるよ!」 「この漬物はうちの畑の野菜なんだ」 次々と差し出される料理。 真武は戸惑いながらも一口――驚くほど美味しい。 ふと顔を上げると、みんなが笑っていた。 こんな温かい食卓は、生まれて初めてだった。 ─夜の出来事─ 食後、真奈美に案内されて離れの部屋へ向かう途中、真武はふと廊下から庭を見た。 そこには月明かりに照らされ、静かに座る琴音の姿。 小さく咳き込み、胸に手を当てている。 「…おばあちゃん、大丈夫?」 真奈美が駆け寄る。琴音は笑顔で首を振った。 「少し疲れただけですよ」 けれど、その笑顔がどこか儚げで、真武の胸に不安が広がった。 こうして、にぎやかな花咲家での夏が、静かに始まった。 第3章に続く
第1章:出会いのきっかけ
――これは、ある夏の、ちょっとだけ不思議で、すごく大切な物語。 1年生の竹田真武は、静かな少年だった。クラスの輪にうまく入れず、昼休みはいつも図書室。スマホとイヤホンが親友で、他人に心を開くことはなかった。 そんな彼の目の前に、突然現れたのが、花咲真奈美だった。 「ねえ、ちょっとだけ時間ある?」 驚いた。学校一の人気者。クラスも違う。接点なんて一度もなかったはずの彼女が、なぜ自分に声をかけてくるのか。 「き、君……俺に何か……?」 「うん。お願いがあるの。お盆に、うちの田舎に一緒に帰省してほしいの」 「……は?」 真奈美は笑っていた。優しくて、でもどこか本気の瞳で。 「困っててね、私の実家。ネットの専門家が必要なんだけど、誰も来れなくて。君がこの前、ITコンテストに出てたって聞いて、頼りにできるかもって思って」 「いや、無理だって……俺、人と関わるの苦手だし」 「でも、一度だけでいいから。お願い」 真武はその場で即答できなかった。けれど、彼の心の奥で、何かが動き出していた。 自分に頼ってくれる人がいる。 自分の力が、誰かの役に立つかもしれない。 数日後、真武は小さなキャリーバッグを引いて、新幹線のホームに立っていた。 その隣には、嬉しそうに笑う花咲真奈美の姿。 「じゃあ、行こっか。家族のみんな、待ってるから」 そして、彼の人生を変える夏が、静かに始まった――。 第2章に続く
女子だけのランチタイム
昼休みのチャイムが鳴ると、俺の心臓は少し早くなっていた。 「よーし、高国ちゃん、行こっ!」 真純が俺の腕を軽く引っ張る。俺は一瞬ためらったが、すぐに覚悟を決めて立ち上がった。 石井がこちらをチラッと見た。その視線には、ちょっとした寂しさと、何か言いたげな気配があった。でも俺は、今は行くべきだと感じていた。 教室の隅、窓際の一角に女子だけのグループが集まっていた。 「あ、真純〜、こっちこっち〜!」 「今日は高国ちゃんも一緒だよ。よろしくねー!」 俺が近づくと、女子たちは最初こそ少し緊張したような顔をしていたが、すぐに笑顔で迎えてくれた。 「へぇ〜、ほんとに可愛くなったね〜!」 「今の髪型、すっごく似合ってる!自分でやったの?」 「お弁当は手作り派?それともコンビニ?」 質問の嵐に、俺は少し圧倒されながらも、なんとか受け答えをしていく。 なんというか、男子のノリとは全然違う空気だ。テンポも早いし、話題もコロコロ変わる。でも―― (悪くないかも) そう思い始めた時、ふとした一言が飛び出した。 「そういえば高国ちゃんって、石井くんと仲良いよね〜」 「やっぱ気になってるの?ああいうタイプ好きだったり〜?」 「へっ!?」 俺は思わず声を上げてしまった。 真純はニヤリと笑いながら、俺の耳元でささやく。 「女子の世界はね、ちょっとしたことでも“恋バナ”になるんだよ?」 俺はその場で顔が真っ赤になったことを自覚した。 “女子”としての新たな世界、まだまだ俺は入り口に立ったばかりだ――。 つづく
女子の世界に踏み出した日
あの日曜日の出来事から2日が経った。火曜日の朝。俺は少しずつだけど、女子の生活に慣れてきた――気がする。 今日は登校中、近所の小学生に「お姉ちゃん可愛いね」と言われて戸惑った。つい「いや、俺、男子だから」って返しそうになったけど、ぐっとこらえた。心はまだ男のままだが、見た目はどう見ても女子だ。もう、そういう細かい反応にも気をつけなくちゃいけない。 学校に着くと、いつものように石井が教室の前で待っていた。 「おはよ、高国……って、お前、また髪型変えたのか?」 「うん、昨日真純にアドバイスもらってな。三つ編みも似合うかもって言われて、ちょっと試してみた。」 「……似合ってる。めちゃくちゃ。」 「お、おう。ありがと…」 また顔が熱くなる。慣れない褒め言葉に、俺はまだどう反応すればいいのか分からない。 するとその時、真純がひょいっと現れた。 「おはよー高国ちゃん♡ 今日の髪型、いい感じじゃん!ほら、やっぱ女子の意見は大事でしょ?」 「まあな。参考になってるよ。」 「よし!それじゃ、今日の昼休み、一緒に女子グループに混ざってお弁当食べよ?女子の世界も体験しなきゃでしょ?」 「えっ、俺が女子グループに混ざるのか?」 「そう!男子とはもう慣れてるでしょ?今度は女子としての人間関係を学ぶ時間!」 石井が少し不満そうな顔をしたけど、俺はうなずいた。 「わかった。じゃあ、昼に行くよ。」 そして―― この日、俺は初めて“女子”として、女子だけの空間に足を踏み入れることになる。 知らなかった世界が、そこには広がっていた。
第❶話 選ばれし四人目の適格者 後編
スズT.K2はエントリープラグの中でまだ気を失っていた。T.K2は夢の中で碇シンジと話をしていたのだ。 (……任せるって、何を? 俺は……何もできてないのに) だが次の瞬間―― 「――ギギギギ……!」 装甲が軋む音と共に、初号機がゆっくりと立ち上がる。沈黙していたエヴァ初号機の両目が、怪しく再び発光した。 「――グォオオオオオォォォオオオ!!」 凄まじい咆哮が戦場に響き渡った。まるで怒りそのものが形を持ったかのように。 「エヴァ初号機、再起動! 自ら顎部拘束具を引きちぎりました!」 ミサトが驚愕の声を上げる。「なにっ……!?」 リツコが青ざめた表情でつぶやく。「そんな……シンクログラフはマイナスのままなのよ?動けるはず……まさか…暴走!?」 「使徒に向かって急速接近!」日向の声が響く。 使徒は即座に反応し、A.T.フィールドを最大展開。しかし、初号機は立ち止まらない。まるで見えない壁を“力”でこじ開けるかのように、両腕を広げて突っ込んでいく。 マヤ「A.T.フィールド貫通! な、なんで!?」 リツコ「信じられない……初号機が、無理やり使徒のA.T.フィールドをこじ開けてる…!?」 初号機は拳を固め、物理的にその見えない障壁をこじ開け、突き破った。フィールドは砕け散り、使徒の核心が露わになる。 初号機は使徒の核心部に執拗に攻撃を叩き込んだ。その甲斐あってようやく使徒は殲滅された。初号機の後ろには十字架の白い光が残されていた。
日本人形は女の子を護りたい
⚠️注意⚠️これはただの物語で、誰かから聞いた話というわけではありません。 第1話:コトンという音 ▊●県А市。セミの鳴き声が少しずつ弱まり、夏の終わりが近づいていた。 「おやすみ、真穂」 「……うん、おやすみ、お母さん」 部屋の明かりが消され、静寂が降りた。 ベッドの隅には、赤い着物をまとった日本人形が座っている。白い肌に黒髪、ガラスのような瞳。真穂が11歳の誕生日に母から贈られたものだった。 けれど最近、その人形に違和感を覚えていた。 ――コトン。 まただ。 夜中、ふとした瞬間に「何かが落ちる音」が聞こえる。 最初は風のせいだと思っていた。窓も閉まっているし、ネズミなんて出る家でもない。けれど、音のたびに目を覚ますと、人形の位置が少し変わっている気がした。 (気のせいだよ……きっと) そう言い聞かせながら布団をかぶるが、心臓は早鐘を打っていた。 ――コトン。 「……っ!」 今度ははっきり聞こえた。 しかもすぐ近くで。 意を決して布団から顔を出す。月明かりが部屋に差し込み、ぼんやりと見えるその姿―― 人形は、さっきよりも少しだけ真穂の枕元に近づいていた。 第2話:帰ってくる人形 「……もうイヤ!」 翌朝、真穂は人形を抱えてゴミ捨て場へ向かった。誰もいないうちに、そっと燃えないゴミ用の箱の奥にそれを入れる。顔を見ないようにしながら。 「ごめんね……でも、怖いの」 そう呟いて帰宅し、学校へ向かった。だが―― 夕方、学校から戻った真穂が部屋に入った瞬間、息を飲んだ。 あの人形が、ベッドの上にちょこんと座っていたのだ。 (捨てた、よね……!?) 怖さと混乱で動けなくなる真穂。その日から、人形との“1週間”が始まっていた。 第3話:笑っていたはずの顔 かつては笑顔に見えた人形の顔。今はなぜか、少しだけ悲しそうに見える。 真穂は怖いながらも、目をそらせなくなっていた。何かを訴えかけている気がするのだ。 夜中、また「コトン」と音がした。起きて見ると、人形がうつむいていた。 「どうして……戻ってきたの?」 問いかけても、当然返事はない。 しかし、どこかで知っているような気がした。この人形は、かつての親友――優奈に似ている。 第4話:夢の中の友達 その夜、真穂は不思議な夢を見た。 校庭のブランコに、優奈が座っていた。2年前に交通事故で亡くなった、あの親友が。 「真穂、気をつけて。悲劇が……くるよ」 目を覚ますと、涙が頬を伝っていた。あれは、ただの夢じゃない。 人形が、優奈が、自分に何かを伝えようとしている――そう思えてならなかった。 第5話:迫る影 その日から、奇妙な出来事が続く。 階段で足を踏み外しそうになったり、自転車にひかれかけたり。事故未遂が何度も起こる。 だが、そのたびに―― 人形が、近くにいた。 そして、どれも本当に危ない瞬間に助かっていた。 まるで“誰か”が身代わりになっていたかのように。 第6話:人形の涙 ある夜、真穂は人形の顔をまじまじと見つめた。 ――そのとき。 人形の目元に、小さな水の粒があった。 涙だった。 「……優奈、なの?」 真穂の声が震える。 返事はなかった。でも、確かに“そこにいる”と感じた。 第7話:信じてくれる人 学校の図書室で、不思議な女性の司書に出会う。 「君、人形に守られているわね。あの子、強い想いでそこにいる」 初対面なのに、司書は真穂のことをすべて知っているようだった。 「悲劇を回避するには、“場所”を離れること。あの家にいては、救えない」 司書の言葉に、真穂は決意する。 第8話:悲劇の日 それは、1週間後の金曜日だった。 母は夜勤。真穂は一人、留守番していた。 司書の言葉を思い出し、家を出ようとした瞬間―― 天井から突然、重たい本棚が倒れてきた。 「危ないっ!!」 人形が、飛び込んできた――ように見えた。 本棚は寸前で止まったが、人形の胴が砕けていた。 第9話:犠牲 真穂は泣きながら、割れた人形を抱きしめる。 「どうして……どうしてこんなことに……!」 ガラスの瞳は、もう何も映していない。 けれど、その手には真穂の髪の毛を掴んでいた。 「あなたを離さない」 その意思がそこにあった。 優奈は、命をかけて真穂を守ったのだ。 第10話:消えたはずの友達 翌日、真穂は司書のもとを訪れた。 「あの人形……優奈だったんですか?」 司書は頷いた。 「彼女は、魂を形にして、君のそばにいたの。過去の約束を、守るために」 真穂は思い出す。 「“ずっといっしょだよ”……」 2年前、優奈と交わした、最後の言葉。 第11話:守ってくれてありがとう 家に戻ると、割れたはずの人形は、いつもの場所に戻っていた。 しかし―― もう動かない。音も出ない。何も変わらない。 「ありがとう……優奈。ずっと、怖がってごめんね……」 真穂はそっと人形を抱きしめ、涙を流した。 その夜、人形の顔は、少しだけ“笑って”いたように見えた。 最終話:祈りと再会 真穂は今も、人形を大切にしている。 夜、何度も夢を見る。そこにはいつも、笑顔の優奈がいる。 「もう大丈夫だよ、真穂」 ある日、優奈の夢の中の声がこう言った。 「私、これでお別れ。でもね、これからはあなたが、誰かを守ってあげて」 目が覚めると、人形はもう動かない。ただ、微笑んでいた。 真穂はそっと祈る。 「私も、誰かの“人形”になれるように――」