エヴァンゲリオン

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エヴァンゲリオン

第4話 桐口恵の初の外出

田桐利男は、桐口恵に外の世界を見せてあげたいと考えていた。 屋敷の中だけで過ごす日々。 窓越しに空を眺めるだけの恵の姿が、どうしても頭から離れなかった。 ――少しだけでいい。 ――門の外を、見るだけでも。 そう決めて、この日。 利男は桐口恵の両親に、恐る恐る切り出した。 「……あの、お願いがあるんです」 突然の申し出に、二人は顔を見合わせた。 「恵ちゃんを、少しだけ外に連れて行ってもいいですか」 静かな沈黙。 利男は思わず背筋を伸ばす。 「もちろん、遠くへは行きません。  メイドさんにも一緒についてもらいます。  門の外を、見るだけで……」 その言葉に、母親はゆっくりと目を伏せた。 そして、母親は答えた。 「分かりました。ただし、条件があります。メイドの命令にはしっかり従う事。恵とは屋敷に戻るまで手を繋いでいること。大人を見かけたら気づかれる前に避けること。この3つをしっかり守ってくれるなら、構いませんよ。」

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第4話 桐口恵の初の外出

第3話 桐口恵の秘密

今日も田桐利男は桐口家に遊びに来た。屋敷を探検してる途中で、恵が質問をしてきた。 「ねえ、利男兄ちゃん。」 「なんだ?」 「屋敷の外ってどうなってるの?」 「え?外に出たこと無いのか?」 「うん……」 メイドの1人が恵についてかわりに話し始める。 メイドの一人が、そっと恵の前に出た。 「お嬢様は……外に出られたことがありません」 利男は思わず、その言葉を聞き返した。 「……一度も、ですか?」 メイドは小さく頷いた。 「はい。生まれてから、ずっとこの屋敷の中で過ごされています」 利男は、恵の方を見た。 恵は人形を胸に抱いたまま、少しだけ視線を落としていた。 「だってね……」 恵は小さな声で言った。 「お外は、あぶないって言われてるの」 「危ない?」 「うん。わるい人がいるの。恵を、つれていっちゃうかもって」 その言葉は、まるで大人から教えられた言葉を、 そのままなぞっているようだった。 利男は、胸の奥がきゅっと締め付けられるのを感じた。 「……じゃあ、学校とか、公園とか……」 「がっこう?」 恵はきょとんと首を傾げた。 「それ、どんなところなの?」 その瞬間、利男ははっきりと理解した。 恵は知らないのだ。 屋敷の外の世界を。 当たり前の日常を。 「……楽しいところだよ」 そう答えながら、利男は言葉を選んだ。 「友だちがいて、走り回れて、たまにケンカもして……」 「でも、だいたい楽しい」 恵は目を輝かせた。 「へえ……」 「ねえ利男兄ちゃん。私もいつか、見られるかな?」 その問いに、利男はすぐ答えられなかった。 メイドが、やんわりと口を挟む。 「お嬢様。今日はこのくらいにしておきましょう」 恵は少し不満そうにしながらも、こくんと頷いた。 「……わかった。」 その日の帰り道。 利男は、屋敷を振り返った。 高い塀。 重たい門。 中にいるのは、幽霊ではない。 けれど―― 「……幽霊屋敷、か」 利男は呟いた。 この屋敷は、 恵を守る場所であり、 同時に――恵を閉じ込める場所でもある。 そう気づいてしまった時、 利男の中で、何かが静かに動き始めていた。

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第3話 桐口恵の秘密

第2話 幽霊屋敷と言われる理由

今日は日曜日。 田桐利男は、約束通り桐口家を訪れていた。 門をくぐると、前回と同じように手入れの行き届いた庭が広がっている。 相変わらず「幽霊屋敷」と呼ばれている理由が分からない。 インターホンを押すと、すぐに扉が開いた。 「いらっしゃいませ、利男様」 メイドの一人が、丁寧に頭を下げる。 「こんにちは……お邪魔します」 少し緊張しながら中に入ると、廊下の奥からぱたぱたと足音が聞こえた。 「利男兄ちゃん!」 恵が人形を抱えたまま走ってくる。 「今日も来てくれたの!ありがとう!」 「今日は暇だから、遊びたくなっちゃった。」 恵の母親と父親もやってきた。 「利男さん、来てくれてありがとうね。」 「いえ。暇な日は遊びに来させてください。…あ。」 田桐利男はふと、何かに気が付いたように止まった。 「そういえば、お嬢様の事はなんとお呼びすれば……?恵ちゃん、とお呼びしても大丈夫でしょうか?」 母親は一瞬きょとんとしたあと、ふっと優しく微笑んだ。 「ええ、もちろん。恵ちゃん、と呼んであげてください。」 「ほんと!? えへへ、嬉しい!」 恵は嬉しそうに人形をぎゅっと抱き直した。 「じゃあ、恵ちゃん。今日は何して遊ぶ?」 そう聞くと、恵は少し考えるように首を傾げた。 「うーん……今日はね、お屋敷探検しようかな。」 「探検?」 利男が聞き返すと、恵はこくんと頷いた。 「このお家、広いの。行ったことないところも、いっぱいあるの」 そう言って、恵は利男の手を引いた。 「こっち!」 メイドたちは止める様子もなく、少し距離を取って後ろについてくる。 両親も特に口を出さなかった。 廊下を進むにつれて、だんだんと空気がひんやりしてくる。 窓はあるのに、どこか薄暗い。 「……この先、あんまり使ってないの?」 利男がそう尋ねると、 恵は不思議そうに首を傾げた。 「いつも、ここなの」 その言い方が、少しだけ引っかかった。 階段を上がり、さらに奥へ。 古い絵画が並ぶ廊下に出たときだった。 ――ひそ。 誰かが、笑ったような音がした。 「……今、何か聞こえなかった?」 利男が足を止めると、 恵はきょとんとした顔で利男を見上げた。 「え? 何も聞こえないよ?」 その瞬間、背後のメイドの一人が、わずかに視線を逸らした。 利男は気のせいだと思おうとした。 だが、胸の奥がざわつく。 絵画の一枚。 知らないはずの人物の目が、こちらを見ている気がした。 「利男兄ちゃん?」 恵の声で我に返る。 「どうしたの? 顔、ちょっとこわいよ?」 「……いや、なんでもない」 そう答えながらも、利男は確信し始めていた。 この屋敷は、ただ大きいだけじゃない。 そして―― 「幽霊屋敷」と呼ばれる理由は、 噂だけじゃない何かが、確かにここにある。 恵は何も知らない。 いや、知らないままでいるように守られているのかもしれない。 利男は、恵の小さな手の温もりを感じながら、 この屋敷に、また来ることになる予感を強くしていた。

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第2話 幽霊屋敷と言われる理由

第1話 幽霊屋敷の噂

中学校に転校してきたその日、 田桐利男は、妙な噂を耳にした。 「この学校の近くにさ、幽霊屋敷があるんだって」 昼休み、教室の隅で誰かがそう言うと、何人かが顔をしかめた。 夜になると子供の声が聞こえるだとか、 近づいた人間は二度と行かなくなるだとか。 話はどんどん大げさになっていく。 ――どうせ、よくある話だ。 利男はそう思った。 思ったはずだった。 けれど、放課後。 気がつけば彼は、学校から少し離れた場所に立っていた。 古い門。 高い塀。 その奥に見える、大きな屋敷。 噂の「幽霊屋敷」だった。 確かに、雰囲気はある。 だが、荒れ果てているわけではない。 庭は手入れされ、雑草も少ない。 「……普通じゃん」 誰に言うでもなく呟き、利男は門を開いた。 少し軋む音がしたが、それだけだった。 玄関前で立ち止まり、少し迷ってから、 インターホンを押す。 ――出なかったら帰ろう。 そう決めた直後、 中から落ち着いた女性の声が聞こえた。 「はい、どなたでしょう?」 幽霊じゃない。 その事実に、利男は一瞬拍子抜けした。 「えっと……近くの中学校に転校してきた、田桐です」 ほどなくして扉が開き、 上品な雰囲気の女性が姿を現した。 「まあ、ご丁寧に。どうぞお入りください」 そう言われるまま、利男は屋敷の中へ足を踏み入れた。 広い。 想像していた以上に、広かった。 高そうな調度品。 磨かれた床。 ここが「幽霊屋敷」と呼ばれているのが不思議なくらいだ。 その時だった。 「わぁ〜!その人だぁれ〜?」 甲高く、明るい声。 廊下の奥から、小さな女の子が走ってきた。 腕には、布で作られた人形をぎゅっと抱えている。 「こら、恵。走らないの」 女性がそう言うと、女の子はぴたりと止まった。 「こちら、桐口恵。私たちの娘です」 「私は恵。よろしく!」 恵はにこっと笑い、利男を見上げた。 「あなたは?」 「え、あ……田桐利男」 そう答えると、 恵は人形を抱いたまま、楽しそうに言った。 「利男さんなの。ふーん」 その後ろから、メイド服を着た女性が二人現れ、 さらに少し遅れて、立派な身なりの男性もやって来た。 どうやら、この屋敷は本当に金持ちの家らしい。 その日、利男は恵としばらく遊んだ。 絵を描いたり、積み木をしたり。 恵は終始楽しそうで、 「また遊ぶ?」 「つぎは、これしよう」 と、無邪気に話しかけてきた。 帰る時間になると、 恵の両親は利男に丁寧に頭を下げた。 「また来てあげてください。恵も喜びますから」 玄関を出る直前、 恵が小さな声で言った。 「また来てくれるの?」 利男は、少し迷ってから頷いた。 「うん。また来るよ」 門を出て振り返ると、 屋敷は夕暮れの中に静かに立っていた。 ――幽霊屋敷、ね。 利男はそう思いながら、 なぜか胸の奥が、少しだけざわつくのを感じていた。

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第1話 幽霊屋敷の噂

第十六章 タクミの勇気の1歩

今日も再びマスミと公園に遊びに来ていた。公園には既にいつもの子達が遊んでいた。マスミも加わったが、タクミはいつも通りベンチに座って眺めていた。 タクミはマスミ達を見ながら考えていた。 (なぜ、他人と関わるのが怖いのかは分からない……でも…だからといってこのままでいいのかな……) タクミはしばらく考えた。 (……よし!) タクミは心に決め、昨日話しかけてくれた獣人の男の子に向かっていった。 「あ……あの…僕も、混ざっていいかな……?」 皆が笑顔で迎えてくれた。 「勿論だよ!」 「ようこそ、タクミ君!」 マスミは笑顔でタクミに抱きついた。 「タクミ!遂に来れたね!お姉ちゃん、嬉しいよ!」 こうして、タクミは今日からみんなで遊ぶことになった。

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第十六章 タクミの勇気の1歩

第十五章 他人との関わり

タクミは今日もマスミと共に公園に来ていた。タクミは前日同様、公園のベンチに座った状態だった。 そんなタクミに、一人の獣耳の男の子が近づいてきた。 「今日は一緒に遊ばないか?」 タクミは答える。 「…えっと……ごめん、他人と関わるの、まだ苦手だから……」 「そっか。まあ、無理には連れていかないから、参加したくなったら何時でも来るといい。」 「……うん。ありがとう。」 マスミは2人のやりとりを遠くから微笑みながら見つめていた。

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第十五章 他人との関わり

第十四章 触れ合いの時間

タクミは今日、リリアに勧められてマスミと一緒に公園に来ていた。 しかしタクミは、他人との触れ合いがまだ苦手なのか、公園のベンチに座り、皆が楽しそうに遊んでいる様子を眺めていることしかできなかった。 笑い声。 走り回る足音。 砂を踏みしめる音。 どれも嫌ではない。 けれど、自分からその輪の中に入っていく勇気は、まだなかった。 マスミは他の子と遊びながらも、何度もベンチの方へ視線を向けていた。 ブランコを押しても、鬼ごっこで走っても、心のどこかでタクミの存在が気にかかる。 (無理に引っ張り出すのは違うよね……) そう思い、マスミは遊びの輪を抜けて、タクミの隣に腰を下ろした。 「楽しいよ。でも、ここで見てるのも悪くないよね」 そう言って、タクミと同じ方向を見つめる。 タクミは小さく頷いた。 「……うん」 その時だった。 少し離れた場所から、見覚えのある獣耳の子がこちらを見ていた。 第十三章で、ほんの一瞬だけ目が合ったあの子だ。 その子は少し迷うように立ち止まり、それから小さく手を振った。 マスミが気づき、タクミを見る。 「……あの子、タクミに挨拶してるみたい」 タクミの胸が、きゅっと小さく鳴った。 怖い。 でも――逃げたいほどじゃない。 タクミは、ゆっくりと手を持ち上げた。 ほんの少しだけ、指先を動かす。 それだけだったが、相手の顔がぱっと明るくなった。 「……できた」 タクミは小さく呟いた。 マスミは、その声を聞いて微笑んだ。 「うん。ちゃんとできてたよ」 その日、タクミは遊びに混ざることはなかった。 名前を聞くことも、言葉を交わすこともなかった。 けれど、確かに一歩踏み出した。 公園のベンチで並んで座る二人の影は、 少しだけ、近づいていた。

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第十四章 触れ合いの時間

もしも宅配業者として黒の組織がやってきたら……!?

前編 シェリーとジンの取引 今日も宮野志保は灰原哀として阿笠博士の家で研究をしていた。休憩に地下から上がって行くと、宅配業者がやって来た。 「宅配便でーす。」 阿笠博士は、言った。 「スマンが哀くん、代わりに出てくれんか。」 「分かったわ。」 灰原哀が玄関に行くと、 「久しぶりだな、シェリー。」 黒の組織、ジンとウォッカだった。 「な、なんの事かしら?人違いじゃ無いですか?」 「下手な演技はよせ。もうネタはあがってんだよ。」 「うっ!」 灰原はジンに掴まれてしまった。 「まさかホントに縮んでいるとは。驚きやしたね、アニキ。」 「どうしたんじゃ?哀くん。」 阿笠博士が心配そうにやって来る。 それと同時にウォッカが拳銃を構える。 「やめて!」 灰原が叫んでも2人はやめようとはしない。 「やめてって言ってるでしょ!彼は無関係よ!」 ジンは灰原に目を向ける。 「なら、取引といこうじゃねぇか。」 「……何よ?」 「工藤新一。お前ならこの名前を知ってるハズだ。」 灰原はギクッとした。 「……知らないわよ。そんな名前……。」 「工藤新一が今、何処にいるかを教えれば、そこの男は助けてやる。」 (……っ!) 「……分かった。教えるわ。」(きっと工藤くんなら逃げ切れるでしょう。) 灰原はポルシェ356Aに乗り、ジンとウォッカと共に毛利探偵事務所に向かった。 後編 工藤新一と3人の黒の組織 「シェリー、お前が工藤新一を呼べ。」 ジンに命令され、シェリーは聞く。 「どうして、私なの?」 「俺が呼び出すより、お前が呼び出す方がいいからだ。」 「……分かったわ。」 灰原はコナンの携帯に電話を掛けた。 「もしもし。」 『おう、灰原か。どうした?』 「ちょっと悪いんだけど、出てきてくれないかしら?」 「え?お前が上がってくりゃいいじゃん。」 「えっと……ふたりで話がしたいから。」 「ちっ。わぁったよ。」 コナンは携帯を切り、降りてきた。 「なっ!」 灰原哀がジンとウォッカといる事にコナンは驚いた。 「どういうことだ灰原!!」 『ガシッ!』 途端にジンに掴まれ、持ち上げられてしまった。 「久しぶりだなぁ、工藤新一。いや、今は江戸川コナンか。」 「コナン君?どうしたの?」 さっき掴まれた時に大きな音が鳴ったため、毛利蘭と毛利小五郎が降りてきた。 「ったく、外で騒ぐなようるせぇな。」 コナンが掴まれてるところを見て、毛利蘭も毛利小五郎も目を丸めた。 「そこの男!コナン君から手を離しなさい!」 蘭の鋭い声が夜に響く。 ジンは一瞬だけ視線を向け、鼻で笑った。 「……ほう。ガキの保護者か?」 「何言ってやがる。コナンは俺の居候だ。警察を呼ぶぞ!」 毛利小五郎が強気に言い放つが、ウォッカは静かに拳銃を構えた。 「……っ!」 蘭と小五郎の動きが止まる。 「動くな。次は引き金だ」 コナンはジンに掴まれたまま、必死に叫ぶ。 「おっちゃん!蘭!早く逃げろ!コイツらには絶対勝てない!だから早く逃げろ!」 毛利小五郎は叫び返す。 「バカヤロー!俺は探偵だ!例えガキでも困ったやつを放っておけるか!」 蘭も叫び返す。 「そうよ!コナン君はもう私たちの家族なのよ!コナン君を置いて逃げるわけ無いじゃない!」 「頼む蘭!今の俺には何も出来ない!お前に逃げて欲しいんだ!俺のことを家族と思ってくれてるなら、最後の願いを聞いてくれ!頼む!」 ジンは呆れたように言う。 「くだらねぇ。このガキの正体も知らねぇクセに家族ごっこはやめろ。」 毛利蘭は言い返す。 「コナン君に正体も何も無いわ。コナン君はコナン君よ!」 ジンは言い返す。 「この世に『江戸川コナン』というガキは存在しねぇ。コイツは高校生探偵工藤新一だ。そして俺はコイツを消す為に来た。」 一瞬、世界が止まったように感じられた。 「……え?」 蘭の声が、震える。 「な、なに言って……そんなの……」 毛利小五郎も言葉を失い、コナンを見つめる。 「コナンが……工藤、新一……?」 コナンは歯を食いしばった。 (くそ……最悪の形でバレた……!) 「デタラメよ!」 蘭が一歩踏み出す。 「コナン君は、ここに来てからずっと――」 ウォッカの銃口が、蘭に向けられる。 「それ以上喋るな」 「……っ!」 コナンは叫んだ。 「やめろ!蘭に手を出すな!!」 ジンは楽しそうに笑う。 「名探偵らしい反応じゃねぇか。」 そして、ジンは灰原に視線を向けた。 「なぁ、シェリー。答え合わせだ」 灰原哀は、拳を強く握りしめていた。 「……」 「コイツが工藤新一で、間違いねぇな?」 沈黙。 その沈黙が、何よりも雄弁だった。 「灰原……?」 コナンが彼女を見つめる。 灰原は、ゆっくりと顔を上げた。 「……ええ」 その一言に、蘭の膝がわずかに揺れた。 「そんな……」 「でも――」 灰原は続ける。 「彼は“江戸川コナン”として生きてきた。それは事実よ」 ジンは肩をすくめる。 「過程はどうでもいい。結果だけで十分だ」 ジンはコナンの首元に力を込める。 「これで役者は揃った。ここで消せば――」 「やめなさい!!」 蘭が叫び、無意識に駆け出す。 その瞬間―― パンッ! 銃声が夜に響いた。 ウォッカの銃弾は、蘭の足元の地面を撃ち抜いた。 「次は外さねぇぞ」 蘭は、その場に立ち尽くす。 「……新一……なの?」 コナンは、目を閉じた。 「……わりぃ、蘭」 それだけで、十分だった。 蘭の目から、大粒の涙が溢れる。 「……生きてたのね……ずっと……」 毛利小五郎は、震える拳を握りしめる。 「……ガキ……いや、新一」 その時―― 「……いい加減にしなさい」 低く、しかし確かな声が響いた。 灰原哀だった。 「ジン。約束が違うわ」 「ほう?」 「“工藤新一を呼び出せば、他の人間には手を出さない”って言った」 ジンは、ニヤリと笑う。 「確かに言ったな」 「なら――」 灰原は一歩前に出る。 「あなたたちはここで引いて。工藤新一は――私が連れて行く」 空気が、凍りついた。 「……なに?」 ウォッカが息を呑む。 コナンが叫ぶ。 「灰原!何言って――」 「黙って!」 灰原は振り向かずに言った。 「これは……私の責任よ」 ジンは、じっと彼女を見つめ、やがて低く笑った。 「……相変わらずだな、シェリー」 「いいだろう」 ジンは、コナンを地面に放り投げた。 「今夜は引いてやる」 「だが――」 ジンは振り返り、最後に言い残す。 「次は“宅配”じゃ済まねぇ。覚悟しとけよ、工藤新一」 ポルシェ356Aは、闇の中へ消えていった。 番外編 ――なぜ、江戸川コナンになったのか 夜更けの毛利探偵事務所。 雨戸は閉められ、部屋の灯りは一つだけ。 蘭の部屋に、 毛利小五郎、毛利蘭、そして――江戸川コナンが座っていた。 重苦しい沈黙。 最初に口を開いたのは、蘭だった。 「……新一」 その呼び方に、コナンの肩がわずかに震える。 「どうして……どうして、姿が変わってしまったの?」 「どうして……今まで、何も言ってくれなかったの?」 コナンは下を向いたまま、しばらく黙っていた。 やがて、小さく息を吸う。 「……話すよ」 眼鏡を外し、真正面から蘭を見た。 「全部」 毛利小五郎も黙って腕を組る。 「……あの日」 新一の声は、少し掠れていた。 「蘭と遊園地に行った日、覚えてるか?」 蘭は静かに頷く。 「黒ずくめの男たちを見た。怪しい取引をしてた」 「夢中で追って……後ろから殴られた」 新一は、喉を鳴らす。 「……目が覚めた時、俺は薬を飲まされてた」 蘭の指先が、ぎゅっとシーツを掴む。 「毒薬……のはずだった」 「でも――」 新一は自分の手を見る。 「死ななかった。代わりに、体が……子供になった」 沈黙。 時計の秒針だけが、やけに大きく響く。 「それが……コナン君?」 蘭の声は震えていた。 「……ああ」 新一は、苦しそうに笑った。 「最初はパニックだったよ。元に戻れるかも分からない」 「でも、俺はまだ生きてる」 「もし俺が工藤新一だってバレたら……」 新一は、蘭を見る。 「俺に関係している人達にも被害が及ぶ。」 「……っ」 「だから隠した」 「子供として生きる方が、まだマシだった」 毛利小五郎が低く唸る。 「……一人で、背負いやがって」 「すみません……おじさん」 「謝るな」 小五郎は顔を背ける。 「……だが、殴りたい気分だ」 「守るなら、守るって言え。家族なんだろ」 新一は、目を伏せた。 「……怖かったんだ」 「言った瞬間、全部壊れる気がして」 蘭の目から、涙がこぼれ落ちる。 「……バカ」 「ほんとに、バカ新一……」 蘭は立ち上がり、新一の前に膝をついた。 そして―― そっと、彼を抱きしめる。 「……生きててくれて、よかった」 新一の目が、大きく見開かれる。 「……蘭」 「姿が変わっても……」 蘭は、震える声で言った。 「新一は、新一よ」 「逃げなくていい。隠れなくていい」 「……一人で戦わなくていい」 新一の目から、初めて涙が溢れた。 「……ごめん」 「……ありがとう」 毛利小五郎は、深くため息をつく。 「やれやれ……」 「とんでもない事件に巻き込まれたもんだな」 そして、真剣な目で言った。 「だが覚えとけ、新一」 「お前は、もう一人じゃねぇ」 夜は、まだ深い。 だがその部屋には、 確かに――家族の灯りが灯っていた。

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もしも宅配業者として黒の組織がやってきたら……!?

第十三章 出会い

今日はタツヤが仕事に出かけている。リリア、マスミ、タクミの3人は食材を買う為に出かけている。 店から出た後、近くの公園で遊んでいる5人の獣人の子たちが見えた。 「マスミ、行かなくていいの?」 リリアが聞くと、マスミは答える。 「うん。しばらくはタクミと遊んであげたいから。」 少し辛そうだが、実に姉らしい返事をしていた。 公園を見るタクミ。5人の知らない子が楽しそうに遊んでいる。 その中の一人と、ほんの一瞬だけ目が合った。 相手はにこっと笑ったが、タクミは思わずマスミの服をぎゅっと掴んだ。 「どうしたの?」 マスミが聞いてもタクミは首を振るだけ。何も答えない。 マスミはタクミの小さな手を見つめ、そっと握り返した。 「大丈夫だよ。ここにいるから。」 その言葉に、タクミは少しだけ肩の力を抜いた。 公園では、獣人の子どもたちが笑いながら走り回っている。 転んで、笑って、また走る。 それはとても当たり前で、楽しそうな光景だった。 タクミは自分でも不思議に思った。 今はただ見ているだけなのに、胸が少しだけざわつく。 すると、さきほど目が合った獣人の子が、こちらを指さして何かを仲間に話した。 そして、ゆっくりとこちらに近づいてくる。 マスミはその様子に気づき、さりげなくタクミの前に立った。 「……?」 タクミは、姉の背中越しに、その子を見つめていた。 ――この出会いが、 これからのタクミの世界を、少しずつ広げていくことを、 まだ誰も知らなかった。

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第十三章 出会い

第十二章 いまを生きるということ

タクミがはっきりと話せるようになって、もう一ヶ月が経った。 最近では単語だけでなく、短いながらも会話らしいやり取りができるようになってきている。 「マスミ、あそぼ」 そう言って姉の服の裾を引っ張るタクミの姿に、家族は自然と笑顔になる。 マスミは少し照れながらも、しゃがみ込んで目線を合わせた。 「いいよ。何して遊ぶ?」 「つみき!」 そのやり取りを見ていたリリアは、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。 以前まで感じていた、言葉にできない違和感や不安は、いつの間にか薄れていた。 夜。 布団に入ったタクミは、静かに天井を見つめていた。 以前は、眠るたびに前世の記憶がよみがえってきた。 暗い教室、嘲笑、孤独。 ――黒田悟という名の人生。 しかし今は、もう夢に出てこない。 扉の向こうから、タツヤとリリアの話し声が聞こえる。 マスミの笑い声も混じっている。 タクミは小さく息を吸い、目を閉じた。 布団は柔らかく、暖かかった。そこには、確かに家族の温もりがあった。タクミは幸せを感じながら眠りに落ちた。 過去の「黒田悟」という人物は、もうどこにもいない。 ここにいるのは、家族に愛され、未来を歩いていく―― この世界の「タクミ」だけだった。

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第十二章 いまを生きるということ