エヴァンゲリオン
126 件の小説第6話「正美とマリアの計画」
白い精神世界。 「もう一回やってみよう」 「うん……!」 正美とマリアは、何度も“入れ替わり”の練習を繰り返していた。 深く潜る正美。 上へ向かうマリア。 少しずつ、少しずつ。 成功に近づいている実感があった。 ⸻ 「さっきの、あと少しだったね」 「うん! こんどはもっといけそう!」 マリアは笑う。 その笑顔を見て、正美は少しだけ目を細めた。 (……本当に、返せるかもしれない) ⸻ 現実世界。 正美は、その計画を国王と王妃に伝えた。 ⸻ 「……なるほど」 国王は腕を組み、深く考え込む。 「精神の“位置”を入れ替えることで、主導権を移す……か」 完全には理解できていない。 だが―― 「理にはかなっている」 「少なくとも、何もせぬよりはいい」 ⸻ 王妃は、祈るように手を握っていた。 「……マリアが……戻るのですね……?」 その問いに、正美は少しだけ迷い―― それでも答える。 「……可能性は、高いです」 王妃の目に、涙が浮かぶ。 「ありがとうございます……」 その言葉は、本心だった。 ⸻ 「だが」 国王が静かに口を開く。 「その場合、お主はどうなる」 空気が、止まる。 ⸻ 「……おそらく」 正美はゆっくりと答えた。 「私は……消えます」 「元々、死んだ身ですから」 「本来いるべき場所に戻る……のだと思います」 ⸻ 王妃が息を呑む。 「そんな……」 国王も、言葉を失った。 ⸻ 「……それでも、やるのか」 静かな問い。 正美は、迷わなかった。 「はい」 「これは……私が奪ってしまったものですから」 その覚悟に、国王は目を細める。 「……そうか」 それ以上は、何も言わなかった。 ⸻ その日の夜。 精神世界。 ⸻ 「ねえ、まさみ」 マリアがぽつりと聞く。 「なに?」 「まさみは……わたしにからだをかえしたあと……どうなるの?」 正美は、一瞬だけ言葉に詰まった。 (……来たか) 避けては通れない問い。 ⸻ 「……多分ね」 できるだけ優しく、言葉を選ぶ。 「天国に行くと思うよ」 「てんごく……?」 「死んだ人が行く場所」 「安心できる場所、かな」 ⸻ マリアは少し考えて―― そして、顔を上げる。 「じゃあ……」 「からだをかえしたら……」 「おわかれになっちゃうの?」 ⸻ その言葉は、まっすぐだった。 正美の胸に、深く刺さる。 ⸻ 「……うん」 否定は、しなかった。 できなかった。 ⸻ しばらく、沈黙。 白い空間が、やけに広く感じる。 ⸻ 「……やだ」 小さな声。 「え……?」 「やだよ……」 マリアの目に、涙が浮かぶ。 「せっかく……いっぱいおはなししたのに……」 「ともだちに……なれたのに……」 ⸻ 正美は、何も言えなかった。 ただ、隣に座る。 ⸻ 「……わたし」 マリアは震える声で言う。 「まさみがいないの……やだ……」 ⸻ その言葉に。 正美の中で、何かが揺れる。 (……私は) 返すべきだ。 それが正しい。 でも―― (この子は……) ⸻ 正美は、ゆっくりとマリアの頭に手を伸ばした。 触れられるはずのない世界で、 それでも、そっと撫でる。 ⸻ 「……大丈夫だよ」 「え……?」 「きっと、忘れないから」 「マリアのこと」 ⸻ マリアは首を振る。 「ちがう……!」 「わすれたくないじゃなくて……」 「いっしょがいいの……!」 ⸻ その言葉に、正美は目を閉じた。 ⸻ この選択は、正しいのか。 それとも―― ⸻ 白い世界で、二人はただ座っていた。 答えの出ない問いを抱えたまま。
第5話「解決策の可能性」
白い精神世界。 今では、その空間に静けさはなかった。 「それでね、その本の続きが――」 「えー! うそ!」 マリアの声が弾む。 あれほど怯えていた少女は、もうそこにはいない。 正美の隣で、普通に笑っていた。 ⸻ 「……ねえ、マリア」 ふと、正美が真剣な声を出す。 「なに?」 「ちょっと……試したいことがあるの」 マリアは首をかしげる。 「ためしたいこと?」 正美は少しだけ視線を落とす。 「身体を……返せるかもしれない方法」 その言葉に、空気が変わった。 「ほんとに……?」 期待と不安が混ざった声。 「うん。でも……絶対じゃない」 正美は正直に言う。 「もしかしたら、うまくいかないかもしれないし……」 「逆に、もっと変なことになるかもしれない」 その言葉に、マリアは少しだけ黙った。 ⸻ 「……それでも」 小さく、でもはっきりと。 「やってみたい」 その目には、もう恐怖だけじゃなかった。 「わたし……ちゃんと、かえりたい」 ⸻ 正美はゆっくり頷く。 「……わかった」 そして、自分の考えを説明し始めた。 ⸻ 「この場所ってね、多分“深さ”があるの」 「ふかさ……?」 「うん。今ここは、中間くらい」 「で、私がもっと“奥”に行く」 「マリアが“外側”に近づく」 マリアは考え込む。 「じゃあ……」 「まさみが奥まで行って、わたしが上に行けば……」 「身体に戻れるかも?」 「そう」 正美は静かに頷いた。 ⸻ 「でもね」 少しだけ、声が重くなる。 「戻れなくなる可能性もある」 「え……?」 「私が奥に行きすぎて、戻れなくなるとか」 「マリアが途中で止まっちゃうとか」 「……最悪、どっちも動けなくなるかもしれない」 それは、賭けだった。 ⸻ マリアはしばらく黙っていた。 そして―― 「……やる」 迷いはなかった。 「まさみがいるなら、だいじょうぶ」 その言葉に、正美は少しだけ目を見開いた。 (……信じてるんだ) ⸻ 「……じゃあ、始めようか」 正美はゆっくり立ち上がる。 白い空間が、少しだけ歪む。 奥へ。 深く。 沈むように。 ⸻ 「マリアは、上に行くイメージ」 「うん……!」 マリアはぎゅっと拳を握る。 ⸻ 次の瞬間。 世界が動いた。 下へ引っ張られる感覚。 上へ押し上げられる感覚。 二つの意識が、すれ違う。 ⸻ 「……っ!」 正美の視界が暗くなる。 深く。深く。 沈んでいく。 (ここが……奥……?) ⸻ 一方で。 マリアの世界は明るくなっていく。 光。 音。 感覚。 (……からだ……!) ⸻ その瞬間。 ⸻ 現実世界。 ベッドの上で、マリアの身体がびくりと震えた。 閉じていた瞳が――ゆっくりと開く。 「……ぁ……」 小さな声。 それは―― 今までとは違う響きだった。 ⸻ 「……おかあ……さま……?」 涙が、自然とこぼれる。 (うごく……) (これ……わたしの……!) ⸻ だが、その直後。 ズキン――! 強烈な頭痛。 「……っ!」 視界が歪む。 体が、ぐらつく。 ⸻ 『……まさ……み……!』 マリアが叫ぶ。 だがその声は、完全ではない。 半分、重なっている。 ⸻ (……ダメだ) 奥で、正美が気づく。 (まだ……完全じゃない……!) ⸻ 次の瞬間。 意識が引き戻される。 強制的に。 ⸻ 「……はぁっ!!」 マリアの身体が大きく息を吸う。 瞳の色が、わずかに揺れる。 そして―― 静かに閉じた。 再び、精神世界。 「……っ……!」 マリアがその場に崩れる。 「いまの……!」 「……一瞬だけ、できた」 正美も息を乱していた。 ⸻ 「でも……」 「完全じゃない」 「うん……」 マリアも理解していた。 ⸻ それでも。 二人は、顔を見合わせる。 そして―― 少しだけ、笑った。 ⸻ 「……できるね」 「うん」 ⸻ それは、小さな一歩。 だが確実に―― “解決への可能性”だった。
第4話「正美とマリアの精神世界」
目を閉じると―― そこは、白い空間だった。 上下も、奥行きも曖昧な、ただ広がるだけの世界。 「……ここが」 正美は直感する。 (マリアの中……) 一歩、踏み出す。 足音はしない。 ただ、自分の存在だけが浮いているような感覚。 「……マリア?」 呼びかける。 返事はない。 だが、気配はある。 遠く。ほんのわずかに。 ⸻ 歩き続けると、やがて“それ”は見えた。 小さな背中。 膝を抱えて座り込む、幼い少女。 金色の髪が揺れている。 「……マリア」 少女の肩がびくりと震えた。 だが、振り向かない。 「……かえして」 小さな声。 「それ……わたしの……」 胸が痛む。 「……ごめん」 正美は、正直に言った。 言い訳はしない。 できない。 「でも……どうしたらいいか、わからないの」 ⸻ 沈黙。 マリアは顔を上げない。 「……やだ」 ぽつりと。 「あなた……こわい」 その一言は、刃みたいだった。 (……当然だよね) 正美は少し距離を取って座る。 近づきすぎないように。 「……じゃあ、ここで話すだけでもいい?」 返事はない。 でも、拒絶もない。 それだけで十分だった。 ⸻ それから――何度も、この場所に来た。 最初は一方的だった。 正美が話し、マリアは黙る。 やがて、 「……それ、なに?」 小さな質問が返ってくるようになった。 「これ? これはね、本っていうの」 「ほん……?」 「お話がいっぱい入ってるもの」 そんな、他愛もない会話。 ⸻ 少しずつ。 本当に少しずつ。 距離が縮まっていく。 ⸻ ある日。 マリアが、ぽつりと聞いた。 「……なんで……いるの?」 その質問に、正美は少しだけ考えた。 「……死んじゃったから」 「しんだ……?」 「うん。元の世界で」 マリアは、少しだけ顔を上げる。 「……さみしくないの?」 その問いに、正美は少し笑った。 「……さみしいよ」 「すごく」 その答えに、マリアは黙り込んだ。 ⸻ しばらくして。 小さな足音。 マリアが、少しだけ近づいてきた。 ほんの一歩。 でも、それは大きな変化だった。 「……あなた……なかないの?」 「え?」 「わたし……いっぱい、ないた」 正美は、少しだけ目を伏せる。 「……泣きたいけどね」 「泣く暇もなかった」 その言葉に、マリアはじっと正美を見つめた。 ⸻ 「……ねぇ」 初めて、自分から話しかけてきた。 「……おはなし……して」 正美は、少し驚いて―― そして、優しく頷いた。 「いいよ」 ⸻ 白い世界に、声が響く。 物語の話。 元の世界の話。 どうでもいいような話。 それでも、その時間は確かに温かかった。 ⸻ やがて。 マリアは、正美の隣に座るようになった。 まだ少し距離はある。 でも、もう背中を向けることはない。 ⸻ 「……まさみ」 小さな声で、名前を呼ばれる。 「なに?」 「……ちょっとだけ……いいよ」 「……え?」 「からだ……つかうの」 時間が止まったように感じた。 それは、許しではない。 でも――拒絶でもない。 ⸻ 正美は、ゆっくりと頷いた。 「……ありがとう」 その言葉に、マリアは小さく首を振った。 「……まだ……ぜんぶじゃないから」 ⸻ それでも。 確かに一歩、前に進んだ。 これは―― 奪った者と、奪われた者の物語。 そして。 少しずつ、共に生きる物語へと変わり始めていた。
第3話「国王からの頼み事」
翌朝。 まだ日が昇りきらない時間に、部屋の扉が静かに叩かれた。 「マリア様……いえ、正美様」 少しだけ言い直す声。 それが、現実を突きつけてくる。 「国王陛下がお呼びです」 「……わかりました」 ⸻ 玉座の間。 昨日と同じ場所。 だが、空気はまるで違っていた。 「来たか」 国王の声は、落ち着いているが重い。 「広田正美、と言ったな」 「……はい」 「マリアは今、どうしている」 一瞬、言葉に詰まる。 頭の奥に意識を向けると―― 静かだ。 『……すぅ……すぅ……』 小さな寝息のような感覚。 「……眠っています……」 「そうか……」 国王は目を閉じ、わずかに安堵したように息を吐いた。 ⸻ しばらくの沈黙の後。 「……頼みがある」 低く、しかしはっきりとした声。 正美は顔を上げる。 「解決策が見つかるまでの間――」 国王の視線が、まっすぐに突き刺さる。 「マリアの話し相手になってやってはくれぬか」 「……え……」 予想外の言葉だった。 「わたし、で……よろしいのですか……?」 思わずそう聞き返す。 すると国王は、わずかに首を振った。 「お主にしか、できぬ」 その一言は、重かった。 「マリアは今、暗闇の中にいるようなものだ」 「声は届いているのだろう?」 「……はい」 「ならば――その子を、一人にするな」 ⸻ 胸が、締め付けられる。 (私が……追いやったのに) 罪悪感が、言葉を鈍らせる。 「……わかり、ました……」 それでも、逃げることはできなかった。 「私が……話します」 ⸻ その時。 国王はもう一人へ視線を向けた。 「竹川ヒロミ」 「はい、陛下」 一歩前に出るメイド。 「お主はしばらくの間――」 一拍置いて、告げる。 「“マリアの専属”ではなく、“広田正美の専属メイド”に任ずる」 空気がわずかに張り詰める。 それは、立場の変化を意味していた。 「……かしこまりました」 ヒロミは深く頭を下げる。 しかしその瞳には、複雑な色が浮かんでいた。 主を失った悲しみと―― それでも仕えねばならない現実。 ⸻ 「正美」 国王が静かに呼ぶ。 「これは命令ではない」 「……え?」 「父としての、頼みだ」 その言葉に、正美は息を呑んだ。 「……必ず……守ります」 それは誓いだった。 誰に対してのものかは、もう分かっている。 ⸻ 部屋へ戻る途中。 ヒロミがぽつりと呟いた。 「……正美様」 「はい……?」 「マリア様は……優しいお方でした」 足が止まる。 「きっと……今も、そうです」 それだけ言って、ヒロミは前を向いた。 ⸻ 部屋に戻り、ベッドに座る。 静かな空間。 ゆっくりと目を閉じる。 「……マリア」 呼びかける。 返事はない。 それでも、もう一度。 「……聞こえてる?」 しばらくして―― 『……や……』 かすかな声。 消えそうなほど弱い、それでも確かな声。 正美は、そっと呟いた。 「……これから、話そう」 「たくさん」 それが、贖罪の始まりだった。
第2話「マリアの両親への告白」
頭の奥で、泣き声が止まらない。 『かえして……かえしてよぉ……!』 (……まだ、いる) 広田正美は理解していた。 完全に消えたわけではない。 この身体の“本来の持ち主”――真田マリアは、今もここにいる。 「……隠せない」 このまま何もなかったことにする? 無理だ。 言葉の違和感。 振る舞い。 思考。 2歳児ではあり得ないそれは、必ず露見する。 「……話すしかない」 正美はそう決断した。 ⸻ 王城の廊下。 マリア専属のメイドに抱えられながら、正美は玉座の間へと向かっていた。 「マリア様、本当に……大丈夫なのですか?」 不安げな声。 その意味を、正美は理解している。 (大丈夫じゃない。でも……) 「……おとうさま……おかあさまに……はなす……」 たどたどしい言葉。 だがその中身は、28歳の意志だった。 ⸻ 玉座の間。 国王と王妃は、突然の呼び出しに戸惑っていた。 「マリア? どうしたのだ」 優しい声。 それが、逆に胸に刺さる。 正美は、ゆっくりと口を開いた。 「……わたしは……マリアじゃ……ありません」 空気が凍りついた。 「……何を言っている?」 国王の声が低くなる。 「わたしは……ひろた……まさみ……」 途切れ途切れに、それでも必死に伝える。 事故。 死。 そして転生。 この身体に、もう一人いること。 全てを、隠さずに話した。 ⸻ 沈黙。 「……荒唐無稽だ」 国王が言い放つ。 当然だ。信じられる話ではない。 だが王妃は違った。 「……では……マリアは……?」 震える声。 その問いに、正美は答える。 「……います……なかで……ないてます……」 その瞬間、王妃の顔から血の気が引いた。 ⸻ 「証拠を示せ」 国王の目が鋭くなる。 試されている。 (当然だよね……) 正美は深く息を吸い―― 話し始めた。 マリアの好きな絵本。 お気に入りのぬいぐるみ。 怖がるもの。 眠る時の癖。 そして、昨日の出来事まで。 本来知り得ないはずの“すべて”。 「……なぜ、それを知っている」 国王の声がわずかに揺れる。 「……このからだに……あるから……」 王妃は、涙をこぼした。 「……本当に……マリアなのね……」 否定も、肯定もできない言葉だった。 ⸻ 再び沈黙が訪れる。 やがて国王は、ゆっくりと口を開いた。 「……理解はできぬ。だが、否定もできぬ」 そして、重々しく告げる。 「この件、外部に漏らすことは許さん」 メイドに視線を向ける。 「決して、誰にも話すな。王命だ」 「……は、はい!」 緊張に震えながら、メイドは頭を下げた。 ⸻ 「解決策を探る」 国王はそう宣言した。 「この状態が何であれ……マリアを救う方法は、必ずあるはずだ」 その言葉に、王妃は顔を覆って泣いた。 ⸻ 正美は、その光景を見つめていた。 (……私は) この家族を壊した。 奪ったのは、身体だけじゃない。 時間も、未来も、全部。 頭の奥で、小さな声がする。 『……ママ……』 正美は目を閉じた。 「……ごめんなさい」 その言葉は、誰に向けたものだったのか。 自分でも、わからなかった。
第1話「肉体の強奪」
仕事帰りの夜道。 広田正美は、いつものように研究資料のことを考えながら歩いていた。 次の瞬間――視界が白く弾けた。 強烈な衝撃。 ブレーキ音。 そして、すべてが途切れる。 ――死んだ。 その事実を理解する間もなく、意識がふっと浮かび上がった。 「……え?」 目を開けると、見知らぬ天井。 豪華な装飾。柔らかいベッド。自分の手を見ようとして――違和感に気づく。 小さい。 異様なほどに。 声を出そうとしても、 「……あ、ぁ……」 言葉にならない。 (なにこれ……!?) 混乱したその瞬間―― 『いやぁぁぁあああああ!!』 頭の中に、もう一つの“声”が響いた。 幼い少女の泣き叫ぶ声。 「なに……これ……誰……?」 『こわい、こわいよぉ……! ママ……!』 その声は、自分の意思とは無関係に響き続ける。 やがて、断片的な記憶が流れ込んできた。 ルーミア王国。 王城。 そして――「真田マリア」という名前。 (まさか……転生? それも……) 鏡に映った自分を見て、確信する。 金色の髪。 幼い顔。 ――二歳ほどの少女。 「……王女……?」 理解が追いつかない中、再び頭の中の声が叫ぶ。 『返して……それ、わたしのからだ……!』 その瞬間、正美ははっきりと感じた。 この身体には、もう一人“いる”。 (つまり……二重人格? いや、違う……) これは――本来の持ち主だ。 『いやだ、いやだ……! かえしてぇ……!』 必死に抗うように、内側から何かが押し返してくる。 だが。 「……落ち着いて」 無意識にそう呟いた瞬間、波が引くように抵抗が弱まった。 28年間積み重ねた意識と、2歳の幼い意識。 その差はあまりにも大きかった。 押し寄せる思考。 論理。 自己という輪郭。 それらすべてが、幼い魂を覆い尽くしていく。 『……や……』 声が、遠ざかる。 『……こわ……い……』 そして――静寂。 完全に“支配”した。 「……はぁ……はぁ……」 荒い呼吸だけが残る。 何が起きたのか、理解できない。 ただ一つだけ、確かなことがあった。 (……今の、私がやったの?) 自分は――誰かの身体を、奪った。 その事実だけが、重く胸にのしかかるのだった。
最終章 始まり
空が歪む。 再び現れる、“巨大な手”。 戦いは終わっていない。 「行くぞ」 メリオダスが言う。 全員が構える。 ニシンヒラゴは、少女の前に立つ。 「……大丈夫」 守るように。 少女は空を見る。 その“手”を。 そして思う。 (これは……ただの戦いじゃない) 物語は、ここから始まる。
第8章 もう一人
静寂。 だがその時。 後ろから、小さな足音。 振り返る。 そこにいたのは―― 見慣れない存在。 小柄な少女。 だが様子がおかしい。 「……誰だ?」 誰も知らない。 七つの大罪の仲間ではない。 その時。 ニシンヒラゴが前に出る。 「その子は……」 少しだけ、優しく。 「私が連れてきた」 全員が驚く。 「あの中に……いたのか?」 彼女は頷く。 「一人で……いた」 少女は何も言わない。 ただ、周囲を見ている。 まるで“観察するように”。
第7章 元の大きさ
その瞬間。 身体が元に戻る。 「……戻った……」 キングが呟く。 ディアンヌも、元の姿へ。 本拠地の中だけの異常だった。
第6章 脱出
空間が崩れる。 「逃げるぞ!!」 メリオダスが叫ぶ。 全員が走る。 小さな身体のまま。 出口へ。 そして―― 外へ飛び出した。