エヴァンゲリオン

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エヴァンゲリオン

スキルの代償

10年前、ある町にスキル持ちの男の子が産まれた。その男の子は困っている人とその人がいる場所を即座にみつけ、どんな困り事も対処可能なスキルを持っていた。 しかし、そのスキルには大きな代償があった。 困っている人を助ければ助けるほど、少年の寿命が削られていくのだ。 それを知ったのは、彼が8歳のとき。 助けた人々の笑顔を見るたびに体が衰えていくことに気づき、彼は初めて恐怖を覚えた。 それでも少年は助けることをやめなかった。 「誰かが苦しんでいるのを見ている方が、もっと苦しいから」 そう言って笑う少年の姿は、町の人々にとって“英雄”のようだった。 だが10年後―― 町は再び大きな災厄に襲われる。 少年はすでに17歳。スキルの代償で、体は限界に近づいていた。 10年後──。 町を突如として、巨大な“黒い霧”が包み込んだ。 触れたもの全てを腐らせ、人も建物も飲み込んでいく。 誰も近づくことすらできず、町は絶望に覆われた。 そんな中、ひとりの少年が霧の中へ足を踏み入れる。 あの日助けた子どもも、笑顔を取り戻した老人も、みんなが彼の名を叫んだ。 「行っちゃダメだ!」 「お前がいなくなったら、誰が……!」 少年は振り返り、弱々しい笑みを浮かべた。 「もう、十分だよ。これで最後にしよう。」 彼の体はすでに限界だった。 スキルを使うたびに血のような光が彼の体を蝕み、心臓は小刻みに震えていた。 それでも、少年は手を広げ、空に願う。 「この町の“未来”を……守らせてください。」 次の瞬間、眩い光が空を裂き、黒い霧を貫いた。 爆音と共に、霧は消え、空が晴れ渡る。 町に再び光が差し込んだとき、少年の姿は、もうそこにはなかった。 残されたのは、彼がいつも首から下げていた小さなペンダント。 その中には、彼が助けた人々から贈られた“感謝の言葉”が刻まれていた。 人々は涙を流し、空を見上げた。 「ありがとう……」 「君がいたから、私たちは生きてる。」 その日、町にはひとつの伝説が残った。 “困っている人の声が聞こえるとき、風が優しく吹く。  それはあの少年が、今も見守ってくれている証だ。”

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第⑦話 ドタバタ特訓!すらすらと分からないの極意

今日は木曜日。次の歴史の授業は来週の月曜日だ。 それまでに――4人は互いの「立ち回り」を練習することに決めていた。 放課後、誰もいない教室に集まる三英傑と光輝。机を並べ、いざ“特訓”開始である。 「よし、まずはワシからやってみよう」 胸を張ったのは延永だった。教師役を買って出た秀義が、わざとらしく質問を投げかける。 「織田信長が山を焼き討ちにした出来事、今は何と呼ばれている?」 延永は腕を組み、むむっと考え込む。 「えーと……その、あれじゃろう……“山焼き大作戦”!」 「そんな授業ないわ!」 秀義と光輝が同時に突っ込む。 続いて家安の番。 「えっと……えっと……その……」 首をかしげて考え込む姿は自然だが、長すぎる。五分経っても答えが出てこない。 「家安殿!それは“分からない演技”じゃなくて本当に分かってないだけじゃ!」 延永が爆笑する。 光輝も負けじと挑戦する。 「そうですね……あれは“比叡山焼き討ち”ですね」 と正しく答えた後、わざとらしく慌てて付け足す。 「あっ……いや、間違えました。“比叡……山焼きそば”?」 三英傑は一瞬ぽかんとしたが、次の瞬間爆笑した。 「お主も演技下手すぎるわ!」 ドタバタの練習は続いた。 延永は大げさに頭を抱え、秀義は考え込むフリが演劇のように派手すぎる。 光輝は逆に「間違えよう」とするとぎこちなくなり、どう見ても不自然だ。 笑いの絶えない空気の中、家安が真面目な顔でまとめに入った。 「……まあ良い。今は失敗しておけ。本番は来週の月曜じゃ。笑いながら工夫を重ねれば、きっと自然にできるようになる」 三人は顔を見合わせ、うなずいた。 それぞれの方法を教え合いながら、少しずつ呼吸が合っていく――。 だがその時、窓の外を歩くクラスメイトの影がちらりと映った。 光輝は小さく呟く。 「……誰かに見られていたかもしれませんね」 練習は楽しい。だが、彼らを待つ次の月曜日は――決して笑ってばかりではいられないかもしれなかった。

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第⑦話 ドタバタ特訓!すらすらと分からないの極意

第⑥話 歩み寄る四人

屋上に漂う空気は重かった。 小田延永と豊富秀義は、なおも明智光輝を睨みつけていた。光輝もまた視線を逸らさず、言葉を返す。 「……あなたたちは、間違えることばかり考えすぎです。あまり不自然に答えを外し続ければ、逆に疑われますよ」 「それでも、すらすら答えるよりは――」延永が言いかけたその瞬間、 「やめよ!」 得側家安が鋭く声を張った。 風が三人の間を吹き抜ける。家安は一歩前に出て、三人の間に立った。 「延永、秀義。光輝。お主らが争っても仕方あるまい。今は仲間同士で疑い合う時ではないぞ」 延永は舌打ちをし、秀義も腕を組んだまま黙り込む。 光輝も少し表情を和らげ、深く息を吐いた。 「……そうですね。僕も言い過ぎました。ですが、もう僕が“答えられる”ことはクラスメイトや教師に知れ渡っています。だからといって全部すらすら話すわけじゃない。まだ取り返せます」 「取り返せる……?」秀義が眉をひそめる。 光輝は頷いた。 「ええ。たとえば僕が答える時は、意図的に“分からないふり”や“考えている間”を作れば自然になる。その方法を僕が教えます」 延永と秀義は顔を見合わせた。 延永が小さく笑みを浮かべる。 「なるほどな。ならば逆に、わしらが“間違える演技”をどう自然に見せるか……それはわしらが教えてやろう」 秀義も頷き、少し肩の力を抜く。 「確かに、光輝の答え方には無駄がない。そこに少し“人間味”を混ぜるのは、悪くない策じゃ」 家安は安心したように口元を緩めた。 「ようやく分かり合えたか。互いに補い合えば、誰にも怪しまれずに済む。昔の戦のように勝ち負けを競うのではなく、今は“共に生きる”ための知恵を出すべきじゃ」 延永と秀義は顔を見合わせ、光輝も小さく笑った。 屋上の重苦しい空気は消え、代わりに奇妙な安堵が広がる。 ――戦国を駆け抜けた者たちが、今は現世で協力する。 その初めての一歩が、ここで踏み出された。

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第⑥話 歩み寄る四人

第⑤話 対立する考え方

歴史の授業が終わり、休み時間に入った。 延永、秀義、家安は互いに視線を交わし、ひそかに光輝を呼び出した。 そして4人は、屋上へと向かう。 風が吹き抜ける中、延永が口を開いた。 「光秀……お前、何故あんなにすらすら答えた? あれでは逆に怪しまれる。疑われると思わんのか?」 光輝は少し首をかしげ、にやりと笑った。 「どういうことですか? 延永さん……いえ、“信長様”。」 秀義が思わず声を荒げる。 「バカ者! ワシらはかつての戦国武将じゃぞ? しかも名もほとんど同じ! あんな調子で答えていたら、正体が露見してしまう!」 しかし光輝は落ち着いたまま、視線を3人に巡らせる。 「ふむ……確かに、そうかもしれません。ですが、あなたがたほど“わざとらしく間違える”のも不自然ではありませんか? “歴史が苦手”と見せたい気持ちは分かりますが……あまりにも下手すぎる」 家安が小さく口を開いた。 「確かに……無知を装うにも、限度があるかもしれませぬな」 光輝は軽く笑った。 「そうです。“バランス”が大事なんですよ。疑われず、しかし核心には触れない。答えるべきところは答え、隠すべきことは隠す。それが、この現世を生き抜く術でしょう」 延永と秀義は顔を見合わせた。 三英傑と光輝――再び歴史を背負う者たちの考え方は、ここで大きくぶつかり合おうとしていた。

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第⑤話 対立する考え方

第④話 歴史の授業

ー三英傑編ー 授業中、教師が問いかける。 「小田延永。織田信長が比叡山を焼き討ちにした出来事は、今はどう呼ばれているか、答えてみろ」 延永は一瞬迷ったが、あえて間違える。 「……えっと、“山の戦い”……とかでしょうか?」 教室に笑いが起こり、教師は呆れたように言う。 「違う。“比叡山焼き討ち”だ。基本中の基本だぞ」 続けて、秀義も家安も当てられた。二人もまた、わざと間違える。 「すみません、自分たち歴史は苦手で……」 三人はそう説明し、場を取り繕った。 だが教室には、一人だけ、真っ直ぐに答える者がいた。 ー明智光輝編ー 「明智。次は君だ」 教師に呼ばれた光輝は、すっと立ち上がり、迷いなく答える。 「はい。豊臣秀吉が行った“太閤検地”は、全国の土地を調査して石高制を確立し、年貢の徴収を安定させるための政策です」 その堂々とした口調に、クラスは静まり返る。教師は頷き、満足げに言った。 「よくできたな。教科書の一節を丸暗記したようだ」 光輝は微笑んだ。その視線の先にいたのは、延永たち三人だった。 (……君たちこそ、本当は一番よく知っているはずだろう?)

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第④話 歴史の授業

第五章 後編 「沈黙を破る決意」

花咲家の居間には、白い花で飾られた小さな祭壇が置かれていた。 その中央にある写真の中で、花咲琴音はやさしく微笑んでいる。 しかし、彼女のその笑顔はもう戻ってはこない。 香の煙がゆらりと立ち昇り、静まり返った空気をさらに重くする。 真奈美は畳の上に正座しながら、手を合わせたまま小さく震えていた。 ――どうして、もっと話しておかなかったんだろう。 「おばあちゃん、私……まだ、聞きたいこと、いっぱいあったのに……」 涙が一粒、頬を伝って畳に落ちる。 背後で母が嗚咽を漏らし、父は俯いたまま動かない。 家族全員が、それぞれの沈黙の中で琴音の不在を受け止めていた。 そんな中、少し離れた廊下の壁に寄りかかっていたのは竹田真武だった。 彼はこの家の悲しみに踏み込みすぎないように距離をとりつつ、しかし視線を逸らさなかった。 ――家族じゃない俺が、ここで泣くのは違う。でも……。 真武の胸の奥には、説明できない焦燥感が渦巻いていた。 琴音はただの優しい祖母ではない。この家とネット世界を結ぶ“何か”を知っていた。 その糸口が、彼女と共に消えてしまったのだ。 ◇ その夜。 真奈美は自室で、電源を落としたままの端末を見つめていた。 あの仮想世界――「OS」のことを思うと、心がざわつく。 祖母が亡くなる少し前、彼女は意味深な言葉を残していた。 『真奈美……“影”に気をつけなさい。あれは……人じゃない』 ――影。 真奈美は端末を開き、深く息を吸い込む。 画面が光を帯び、白い仮想空間が広がった瞬間、視界の隅に黒いノイズが走った。 「……また、出た」 真奈美は息を呑む。 それは、輪郭を持たない“影”。 まるでデータの塊が、意思を持って蠢いているようだった。 〈……花咲……〉 耳の奥に、ざらついた声が響いた。 文字にすらならない断片が、ノイズ混じりに流れ込む。 次の瞬間、視界が強制的に暗転した―― 「真奈美!」 現実世界に戻った真奈美は、ドアの向こうから真武の声を聞いた。 彼が部屋に飛び込んできたとき、彼女は額に汗を浮かべ、呼吸を乱していた。 「……ごめん、ちょっと……やばかった」 「何があった?」 「“影”……あいつ、こっちに……来ようとしてる……」 真武の胸に冷たいものが走る。 ――やはり、ただのプログラムじゃない。 “影”は、ネットの中だけの存在じゃなくなりつつある。 ◇ 夜更け。 花咲家の縁側で、真武はひとり、闇に向かって息を吐いた。 線香の匂いがまだ残る夜風が頬を撫でる。 ――琴音さん、あんたの言葉、ようやく分かったよ。 “影”は、誰かが作った人工知能でも、ウイルスでもない。 もっと、人に近い――いや、人そのものを飲み込む“意思”だ。 真奈美を守る。 花咲家を守る。 そして、この世界を守る。 真武はゆっくりと拳を握り締めた。 その眼差しに迷いはない。 喪失の悲しみが、彼に火を灯したのだ。 「……逃げない。次は、俺が前に出る」 夜空に浮かぶ月を見上げながら、真武は静かに誓った。 ――“影”との決戦は、もう避けられない。

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第五章 後編  「沈黙を破る決意」

第五章 前編 敵の影がより濃くなる

花咲家の広い居間に、沈黙が重くのしかかっていた。 病床に伏していた祖母・琴音の呼吸は、次第に弱々しくなり――やがて止まった。 「……おばあちゃん……」 真奈美の声は震えていた。 家族三十人の中には、医師であり院長を務める人物もいた。 彼はすぐに脈を確かめ、深く首を振る。 「……静かに、眠るように逝かれたよ」 涙と嗚咽が広がる中、竹田真武は立ち尽くしていた。琴音は常に家族をまとめる柱のような存在だった。その笑顔、優しい言葉。もう二度と聞けないと思うと、胸が締めつけられる。 だが、その悲しみの裏で――ネット世界には異変が広がっていた。 真武のパソコンに映る画面。白い無限の空間に、黒いノイズのような“影”が広がり始めていたのだ。 「……まただ。昨日よりも濃く、広がっている……」 モニター越しに見えるのは、OZに似た仮想空間。その秩序を壊すかのように、影が飲み込んでいく。 「琴音おばあちゃんを失ったばかりなのに……俺たちを試すのか……」 真武は歯を食いしばり、拳を握る。 家族の中には悲しみに沈む者、そして真武の隣で静かに寄り添う真奈美がいた。 「真武……私たちは乗り越えなきゃいけない。おばあちゃんも、それを望んでるはず」 ――琴音の死。 ――迫る敵の影。 花咲家を支える「絆」と「試練」は、さらに深く、重く交錯し始めていた。 後編に続く

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第五章 前編 敵の影がより濃くなる

第四章 後編

花咲家の広間には、30人の家族が集まっていた。 机の上にはずらりと並ぶノートPCやタブレット、スマートフォン。小さな子どもから年配の祖父母まで、それぞれが端末を操作し、OZの異変に対応している。 「真武、こっちはデータ転送が遅れてる!確認して!」 「こっちもログがどんどん流れてくる!処理落ちしそうだ!」 次々に飛び交う声。 その中心で、竹田真武は額に汗を滲ませながらキーボードを叩いていた。 ――だが、その指は時折止まってしまう。 (本当に……俺で大丈夫なのか……?) 彼の胸に渦巻く不安は消えなかった。 OZでの混乱は拡大し続け、花咲家の力をもってしても追いつかないほどだ。 「……俺なんかじゃ、みんなを守れないかもしれない」 真武が呟いたとき、横で画面を覗き込んでいた花咲真奈美が、静かに言った。 「大丈夫だよ、真武くん。……だって、ひとりじゃないでしょ」 その言葉に、彼はハッとした。 周囲を見渡せば、家族全員が真剣な眼差しで端末を操作し、彼を支えている。 その姿が、胸の奥に小さな光をともした。 「……そうだ。ひとりじゃない」 彼は再び画面に向かい、キーを叩く。 同時に花咲家の面々が連携し、次々と小さなトラブルを封じていく。 パズルのピースがはまるように、バラバラだった作業が一つの大きな流れへとまとまっていくのを、真武は感じた。 だが、その時――。 突如、OZのシステムに強烈なエラーメッセージが走った。 《警告:侵入プログラム検出》 真武の画面が赤く染まり、無数のコードが暴走するように流れ込んでくる。 「くそっ……こいつ、外部からの攻撃だ!」 「なにっ!?」と誰かが声をあげる。 室内の空気が張り詰めた。 「全員、データを分散させろ!一か所に集めると突破される!」 真武の叫びに応じて、家族たちは即座に端末を操作する。 その一糸乱れぬ連携は、まるで一つの巨大な生き物のようだった。 「まだ押される……!でも、俺たちなら……!」 必死の攻防の末、真武は侵入プログラムの流れを見抜き、封じ込めるルートを見つけ出した。 最後のキーを叩いた瞬間、真っ赤だった画面が一転して青白く落ち着きを取り戻す。 「……止まった!」 広間に歓声が上がる。 真武は椅子の背にもたれ、大きく息を吐いた。 (……まだ始まったばかりだ。これからもっと強い敵が来る。でも……俺は逃げない) その瞳に宿ったのは、不安ではなく覚悟だった。 こうして、花咲家と真武の最初の大きな戦いは幕を閉じた。 だが、この静けさが長く続かないことを、彼らはまだ知らなかった――。 第5話に続く

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第四章 後編

第四章「迫りくる影」前編

竹田真武は、花咲家の広い居間で一人PC画面を見つめていた。 無限に広がるネットの世界――OZのような仮想空間。 そこに生じた“わずかな乱れ”が、頭から離れなかった。 「……やっぱり、何かがおかしい」 画面に浮かぶデータの波。 花咲家の子供たちが騒ぐ声を背に、真武の心だけがどこか緊張に包まれていた。 花咲真奈美がそっと隣に座る。 「また考えごと? 夏休みなんだから、少しは休まないと」 その声は優しいが、真武には届いていないようだった。 彼の目には、赤く点滅するエラーの文字。 「システムエラー:不明な侵入を検知しました」 それは、ただのバグなのか、それとも――。 真武は息を呑んだ。 だが、この時はまだ気づいていなかった。 その“異変”が、花咲家の30人全員を巻き込む大きな試練の幕開けになることを。 後編に続く

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第四章「迫りくる影」前編

第三章:家族の絆と秘密

花咲家での生活にも、少しずつ慣れてきた真武。 朝は早く、食卓はにぎやかで、誰かが必ず笑っている。 人混みが苦手だった自分が、いつの間にか家族の輪に混ざっていることに気づき、心のどこかがくすぐったくなる。 ─祖母・琴音の病─ ある夜、廊下を歩いていると、ふすまの隙間から咳き込む音が聞こえた。 そっと覗くと、祖母・琴音が布団の上で肩を震わせていた。 傍らには真奈美が付き添っている。 「おばあちゃん、薬飲もう?」 「いいのよ。大丈夫、大丈夫…」 しかし、真武はその声に力がないことを感じ取った。 真奈美の目はわずかに潤み、気づかれないようにうつむく。 その晩、真奈美から真武は打ち明けられる。 「…おばあちゃん、もう長くないの。医者からは“この夏が山場”って…」 真武は言葉を失った。 いつも微笑みを絶やさない祖母が、そんな状態だったなんて。 ─古いネットワーク─ 数日後、夕食後の片付けを手伝っていると、真奈美の叔父・大輔が声をかけてきた。 「お前、パソコン得意なんだってな。ちょっと来てくれ」 案内されたのは、母屋の奥にある蔵のような部屋。 中には古びたサーバーラックとケーブルが所狭しと並び、ファンの音が低く唸っている。 「これが、花咲家が代々守ってきた“家族ネット”だ」 「…家族ネット?」 「遠く離れた親戚とも繋がるために、おじいちゃんたちが昔作ったシステムだ。  でも今は、政府や町のネットとも深くリンクしていて、もしここが止まれば…色々と困ったことになる」 真武は端末に手を伸ばし、古いOSと独特なプログラムを見て驚いた。 「…すごい。こんな古いのに、まだ現役で動いてるなんて」 「だが、最近外部からのアクセスが増えていてな。真奈美に頼まれて、お前にも見てもらおうと思ったんだ」 ─不穏な兆し─ その夜、真武はログを調べた。 数日前から海外IPからの不審なアクセスが繰り返されている。 しかも、そのパターンは少しずつ増加していた。 翌日、庭先で子供たちが笑いながら花火をしている光景を見ながら、真武の心は重かった。 この平和な日々が、もしこの“家族ネット”のせいで壊される日が来るとしたら――。 そして彼は、まだ知らなかった。 この小さな兆しが、数日後に訪れる大きな危機の前触れであることを。 第4章に続く

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第三章:家族の絆と秘密