アヤっちゅ
7 件の小説アヤっちゅ
思いついたら書く精神なので、頻繁に投稿するわけではありません。人間より動物や虫が主役のストーリーが好きなので、そういったものを書こうと思います。 令和7年4月5日:追記「なんだか人間がメインの小説も書きたくなったので、人間と動物がテーマの小説を書いていきます」
プロローグ*番外編*『一日を宝に』
彼女——柊光希〈ひいらぎ みつき〉さんは、教室の片隅で静かに本を読んでいた。その表情はどこか遠くを見つめているようで、周囲の喧騒とはまるで無縁の世界にいるようだ。 俺にとって、その瞬間は時間が止まったかのように感じられる。〝あの日〟から光希さんの存在に惹かれ、心臓が高鳴る。どうにかして話をしたい、そんな思いが胸の中で渦巻いていた。 だが、光希さんに近づく勇気が出ない。 しかし「今日こそは」と声をかける決意を固め、近づく。何度も光希さんの方を見つめ、勇気を出して声をかけようとするも、口を開く前に何度もためらってしまう。 光希さんは本に夢中で、俺のことも周囲の騒がしさも全く気にしていない様子だった。 (やっぱり、声をかけるのはやめようかな……) そう思いながらも「頑張れ」と自分に言い聞かせて立ち上がり、光希さんのもとに近づき、軽く咳払いをしてから声をかけた。 「すみません、何を読んでいるんですか?」 光希さんは驚いた表情を浮かべ、俺を見上げた。紫水晶のように澄んだ瞳も、ふわりと揺れる亜麻色の髪も美しい。 「あ、これは」 光希さんは言葉を詰まらせ、あたふたしている。その姿がなんとも可愛らしく、胸が高鳴った。 「えっと、これは【花技師さんの日常】という小説です。少し前に友達から借りて、読んでいるんです」 太陽みたいに眩しい笑顔で教えてくれた。その笑顔を崩したくないという思いから、自然と会話が弾む。お互いのことを話し、気になる本や共通の趣味を見つけ、時間はすぐに過ぎていった。 「話せて楽しかったです。ありがとうございました」 光希さんは照れたように言った。ちなみに俺は耳を赤らめ、それを悟されないよう気丈に振る舞ってお礼を口にする。 「いいえ、こちらこそ」 俺達は笑い合いながら、教室の中で特別な空間を共有した。 再び授業が始まる前、口元を手で隠し、恥ずかしくて言えなかった本音をそっと呟く。 「楽しかったのは、俺もだよ」 今日話しかけたことを決して後悔せず、この出来事は俺にとって大切な思い出となることを確信したのだった。
プロローグ*後編*『なんてことない?』
扉を激しく開け、怒鳴るように「逃げろ」と声をかけてきたのは、見覚えのある源〈みなもと〉先輩だった。 源先輩の声かけにより、クラスメイトが事の重大さを理解したのか一気にパニックを起こし、教室を走り去っていく。慌てているのは当たり前で、鞄を持たずに外へ向かうのがほとんどだけど、後から鞄を持っていく生徒もいた。 その様子を見ていると、真紀が手を繋ぎ、神妙な顔つきでぼそっと話しかけてくる。 「遥。これ、多分ドッキリじゃないと思う……。う、ウチらも逃げよう!」 「……そ、そうだね。とりあえず……逃げよう」 まだ現実を受け入れたくない思いから「とりあえず」なんて曖昧な言葉を無意識に口にしていた。外に行けば、しばらくするとどこからか『ドッキリでした〜!』と誰かがやってくるだろう。かなり悪質なドッキリだし、腹が立つので絶対にクレームを入れてやると思いながら廊下に出た。 私と違って真紀はあの化け物が本物だと信じているのか、自分の鞄と私の鞄を持ち、廊下を走っている途中で私の鞄を渡してくる。 たまに目に入る凄惨な光景や血の匂いさえ、よくできているなと思わず感心してしまうほどにリアル。中には血生臭さかグロテスクな物を見たせいか吐いている人がいれば、箒を使って化け物を叩く人もいた。もう充分でしょ、この酷いドッキリを早く中止してほしいと苛立つ。そんな思いを抱き、ようやく玄関前に着いた。急いでローファーを履いたり、シューズのまま外に出るたくさんの生徒や教師数名がいる。 「うわっ! ちょ、これヤバくない?」 真紀が引き攣った顔で私を見つめた。 運動場でもゾンビに似た化け物が周囲の人を食い殺している様子で、逃げ惑う人々が溢れており、校門の外からでもこの学校とは無関係の人達も騒いでいる。大規模なドッキリか、もしくは季節外れのハロウィンといった雰囲気だ。 「大丈夫だよ、真紀。ドッキリに決まってるよ。ね? こんな……こんな漫画か映画みたいな状況、あるわけないって」 歯を食いしばるように叫び、俯く。 (早く誰か来てよ。『ドッキリだ』って言ってよ!) 「遥!」 真紀が私の手を繋いで校門の外に向かって走る。振り向くと化け物がすぐ近くにいた。もし真紀がいなかったら——手を繋いでくれなかったら……その先を想像し、とうとう認めてしまった。 これは、あの化け物は、紛れもない現実だと。 奇跡的に人気がない公園にあるドーム型遊具の中に隠れ、鞄の中から水筒を取り出して麦茶を飲み、息を整える。 真紀はスマホを使っていることから、圏外にはなっていないようだ。そのことにひとまず安堵した。 でも、外から聞こえる騒音と悲鳴ですぐ現実に引き戻される。 「これからどうする? なんか、SNSだとみんな、ウチらと同じ状況みたいだけど」 真紀がスマホの画面を見せてきて、そこには『なんかゾンビみたいな化け物に友達が噛まれた!』と写真付きで投稿されたものや『某県民だけど、日本中こうなってんの?』『海外はどんな感じ? 日本だけ?』と情報を求めるようなコメントがちらほらある。 「遥、とりあえず家に帰ろう。スマホは圏外になってないし、何かあったら連絡してさ」 家。その言葉を聞いて、真っ先にお母さんのことを思い出す。 (お母さん……お願い、無事でいて) 父親がいない家で育ち、女手ひとつで育ててくれた、私のたった一人の大切な家族。どうか無事でいてほしい。 泣きたい気持ちはあるが、真紀だって家族のことを心配しているからこそ「家に帰ろう」という提案をしたのだろう。泣き言なんて言えず、弱気な態度も見せられなかった。 「真紀。……うん、そうだね。一旦家に帰ろう。私も連絡する。気をつけてね」 「もちろん!」 真紀はすごい。 こんな恐ろしい状況になっても、笑顔を絶やさないのだから。 真紀は鞄の中からカッターナイフを取り、カチカチと刃を出して構えるように握った。 「遥はなんか武器あるの?」 「ぶ、武器って……」 あったとしても使う勇気はない。相手が人間ではないにしても、生き物をそうそう殺す度胸なんてないに決まっている。 でもないよりマシかと鞄の中を漁る。そこで見つけた武器らしい物といえば、少し錆びている大きめの鋏くらいだ。 「あって良かったね」 果たして本当に良かったのだろうか。 そもそも普通に暮らしてきたから武器が使えるなんて状況はなかったし、どんな危機的状況だったとしても私はきっと使えないだろうとさえ思っている。 (私、もうここで餓死しようかな) つい悲観的な妄想をしてしまった。これから先が思いやられる。暗い顔をしてしまったが、それでもしっかりしろと首を振る。 「遥、怖いよね。私も怖いんだけど」 「! ご、ごめん真紀。別に私だけが怖いわけじゃないのに……私、なんてことを考えちゃったんだろうね」 「あ……! えっと、ごめん遥。ウチ、また変な言い方して。ち、違うの、ウチが言いたいのはね、別に怖がってもいいと思うっていうか……いや、怖がったらそれこそ危なくて、死んじゃうかもっていうか……その……」 「つまり……怖がっても生き残ろう、的なことを言いたいの?」 「そ、そうそう! 上手く言えないけど、そんな感じ」 真紀なりに、私を励ましたつもりなんだろう。それが嬉しくて、頬が自然と緩む。 「ありがとう、真紀。ちょっとだけ気が楽になったよ」 この先、どんなことがあっても、私達は——友達だよね。
プロローグ*中編*『なんてことない?』
木野先生こと木野清〈きの きよし〉。 木野先生は今まさに教卓の前にいる、私達の担任教師だ。数学を受け持っており、銀縁の眼鏡がトレードマーク、更に三十路で独身とは思えないほど綺麗な容姿をしているからか、女子からの人気が特に高い。 ……「ミステリアスな雰囲気が素敵」とか言っていた気がする。 でも正直、ミステリアスかは分からない。 木野先生は誰にでも分け隔てなく接するし、少なくとも他の先生方と違って、真紀を含め生徒を差別するような人じゃない。ふと思い返せば一週間くらい前、真紀となにか話しているところを見たけど、険悪なムードには見えなかった。 (……もしかして私の知らないところで、何かトラブルがあったのかな?) 真紀をチラ見すると、さっきまでの嫌そうな顔はなく、とはいえ笑顔でもなく、眉を少し寄せているだけで真顔だった。 どこか睨んでいるように見えるのは気のせいだろうか。 (もしかしたら話って長いかもしれないし、昼休みの時、ゆっくり聞こうっと) そんなこんなで、一限目の授業が始まった。 (一限目は数学か。木野先生の説明は分かりやすいけど、やっぱり朝から数学は憂鬱だなぁ) 「えー、ここはこうして……これは引っかけ問題になるから、気をつけるように」 教科書を盾にしてあくびをする授業も、黒板に書かれている数式をノートに写す作業も、問題を解くために頭を動かすのも、いつも通りの日常。 授業が始まってからあと数分で五十分になる頃。 (……?) 甲高い音が聞こえた。黒板にチョークか爪で引っ掻いたような、キーキーという耳障りな音。聞き慣れた足音も。 最初は気のせいかなと思う程度の小さな音が、だんだん大きくなっている。更に叫び声が響き、周りがざわついたところで木野先生が「なんだ?」と廊下に出ようとした次の瞬間、廊下を走っている教師を男子が後ろから引き止めるように両手を伸ばした姿が窓から見え……いや、肌の色や雰囲気がおかしい男子が怯えている教師の肩をグッと強く掴んで、首を噛んでいるのが見えた。 その後の出来事は、男子が教師を覆い被さるように倒れたため、直接見ることはできなかった……が、扉越しから聞こえる物音で嫌な想像をしてしまう。 教師の激痛に悶える声、肉を引きちぎる不愉快な音、男子の咀嚼音、非現実的な光景。あまりにも突然で理不尽な状況だった。 いつか読んだ小説には「時が止まる」という表現があり、それがどういう意味なのか、当時は理解できなかったが——。 たった今、その意味を理解した。 しかも、それが「あ」という簡単な一言で片付けられる。なんて呆気ないんだろう。 「きゃあーーー‼︎」 この教室にいる誰かが叫んだ。未だにまともな思考ができていないからか、その悲鳴が男なのか女なのかが分からない。 放心状態になるのは、生まれて初めてだった。 でも、壁に掛けてある時計をふと見て、まるでその悲鳴が静かな教室ときちんとした授業の終わりを告げる〝チャイム〟みたいだ。——なんて、場違いにもほどがある考えをする。 「遥!」 馴染み深い凛とした綺麗な声で名前を呼ばれた。 声の持ち主は、真紀だ。 ようやく我に返ることができ、全て夢でありますようにと、夢なら覚めてと自分の腕をつねる。 (……痛い) それでもまだ信じることができず、今度は扉の窓ガラスから廊下の光景を見た。そこにいたのは、男子に——まるで、ゾンビのような男子に首を噛まれた教師が倒れている。その首の傷口からは血が溢れ出ており、隙間から骨が見え、もう死んでいるのは明らかだ。わずかに漂う血生臭さで気分が悪くなる。 人間の歯は尖っているわけでもないのに、傷跡はまるで獣に食い荒らされているようだった。 「こ、これあれだろ、ドッキリだろ?」 クラスメイトの雪村くんが無理矢理作った、ぎこちない笑顔で震えながら「ふざけんなよ」と木野先生に話しかける。ドッキリだとしたら、発案者は趣味が悪いにもほどがある。 「! ……い、いや……私は、何も……っ」 いつも冷静かつクールな木野先生が、あんなにも動揺している姿を見るのは初めてだ。お世辞や演技をするという行為を好まないこともあり、三ヶ月という短い付き合いでも嘘を吐いてないことは、クラス中のみんなが理解できた。 「——おい、何してるお前ら! 早く逃げろ‼︎」
プロローグ*前編*『なんてことない?』
どうして、どうして、こんなことになってしまったんだろうと、朝霧遥〈あさぎり はるか〉は携帯のバイブレーションで揺れるようにガタガタと体を震わせ、今にも叫び出しそうな口を手で押さえつけていた。 (何でこんなことになったの⁉︎ 何なのよ、あの訳の分からない〝化け物〟は……!) 遥は起床から今に至るまでの出来事を思い出していた。 【視点:朝霧遥〈あさぎり はるか〉】 今時珍しいかもしれない、使い古した目覚まし時計が鳴り響くところから、私の一日が始まる。 週の真ん中、水曜日の朝。日光がカーテンの隙間から差し込み、不思議と気持ち良く目が覚めた。背伸びをした後リビングに行くと、お母さんがトーストの上に目玉焼きを乗せており、焼きたての香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。 「おはよう、お母さん」 「おはよう、遥。お弁当はもう作ってあるから、忘れないでね」 机の上にはピンクの布に包まれている弁当箱がある。 「……ん。いただきます」 軽い返事をして、温かい料理を食べた。 (塩コショウで目玉焼きがしょっぱい) 約二十分ほどで食べ終わった。その後は歯磨きや洗顔、学校の制服に着替えるなど身支度もする。そして、昨日のうちに終わらせた授業に必要な物の中にも弁当箱を入れた。 玄関でローファーを履いていると、お母さんが久しぶりに見送りにきた。 ついこの間まで反抗期だったから、なんだか気まずく感じる。 「いってらっしゃい」 「い、いってきます」 お母さんははっきりと「いってらっしゃい」と言ったのに、私はなんだか恥ずかしくて返事がぎこちなかった。反抗期の時は「いってきます」なんて言わなかったから……。 でもこれといって変わったことはなく、ごく普通の家庭のやりとりだと思う。 そうして私は、学校へ向かおうと扉を開けた。 いつものように見慣れた道路と建物を少しぼーっと眺めながら、歩く。するといつの間にか校門に着いて、教室に入る。 「おっはよー、遥! ねぇね、昨日の宿題やってる?」 椅子に座って早々、肩を叩かれた。 その相手は日焼けした肌と長い金髪を左の側頭部に結んで垂らしている、いわゆるサイドテールが特徴的な女子。派手な見た目で、まさにザ・ギャルといった感じ。 「その言い方、さては宿題しなかったね? 真紀」 私の幼馴染兼親友の萩原真紀〈はぎわら まき〉。軽薄そうでみんなに誤解されるような言動がしばしば目立つ。実際、宿題はたまにだけど忘れるわ校則違反を気にせず制服は着崩しで派手な化粧をするわで、ちょっとした問題児。宿題するのを忘れた時は、必ず私に「宿題写させて〜」と言わんばかりの視線を向けてくる。 そんな真紀は困ったちゃんだけど、一緒にいると楽しいし、複雑な家庭の事情で勉強をする時間があまりないことはなんとなく理解している。苦労しているのだ。 でも真紀は決して弱音も泣き言も吐かないし、いつも明るくて、クラスの中ではなんだかんだ一緒にいることが多い。 「……仕方ないね。ただし明日は絶対やりなよ。なんか木野先生、怪しんでるような気がするんだよね」 「え、うわっマジで! ウチさ、あの先生嫌いなんだよねー。だからあんまし関わりたくないんだけど」 「……何かあったの?」 「実はね」 次の瞬間、朝礼が始まるチャイムが鳴ってしまった。 (なんてタイミングなの……) 真紀は話したかったようで、名残惜しそうにしぶしぶといった様子で自分の席に座った。 (あっ! そういえば宿題、写してあげられなかったな) 後悔するも後の祭り、と同時にさっき真紀が木野先生に対して「嫌い」と言ったことが気になった。世渡り上手でフレンドリー、誰にでも懐く真紀。先生方とは折り合いが悪そうに見えるが、信頼〝は〟されている。
待っているから
とある大きな港町に、マツリという黒猫がいました。彼女はリツとミキという兄妹に飼われ、毎日幸せに過ごしています。 ある日、リツとミキがいつものように友人達と海で遊びに出かけるため、マツリは長い尻尾をゆらゆらと動かして、見送りました。その表情は穏やかで晴れ晴れとしています。 ミキが「いってくるね、マツリ。良い子にしててね」と元気に手を振ります。 リツが「土産に美味い魚持ってきてやるからな」と頭をぽんぽんと撫でます。 マツリは極楽気分で目を細め、喉をゴロゴロ鳴らしました。 カチ、カチ、カチ。時計の針が進む音を子守唄にしてソファーに寝転びました。 しばらくうとうとして、いつの間にか眠っていたらしく、気がついたら夕方になっています。いつもならもうとっくにリツとミキが帰ってくる時間なのに、その気配すらありません。 マツリはどうしたのかなとそわそわして、家の中を探索するように歩きました。寂しげに小さく鳴いても帰ってくることはなく、不安は募るばかりです。 時間は過ぎていき、そろそろ陽が沈みそうになる頃。近くから砂利と草を踏みつけ歩く音が聞こえてきました。 しかし、それがミキとリツの足音ではないことがすぐに分かりました。毎日、毎日聞いているのだから当然です。聞き間違えるはずがありません。 マツリは金色の瞳を微かに揺らして、ドアの前に行きます。 得体の知れない人物に警戒し、漆黒の毛を逆立たせ、シャアッ! と。威嚇をしました。 ガチャリ。鍵を開けると共にドアが開かれます。 「……マツリ」 現れたのは、涙を流したことで目が腫れているコウタでした。 コウタはリツの友達で、時々家に遊びに来てはマツリをこれでもかと可愛がっています。そのことでマツリは警戒心を解き、友達のコウタが来たことによる安心感からコウタの足元に擦り寄っていきました。 ただひとつ、マツリは疑問に思ったことがあります。 「……マツリ」 コウタは覇気のない顔で、今にでも消えてしまいそうな細い声で、再び、大切な親友の愛猫を呼びます。 言葉は通じなくとも、周りの気配に敏感だったマツリは只事ではないことを感じ取っていました。 ――帰らない家族。尋常じゃない様子の友達。 ドクドクと、心臓の音が頭の中に響きます。何を考えているのか、何を想像しているのか、とんでもないことが起きる予感……。 何かあったのか、違うと、まさか、そんなはずないと、縋るようにコウタを見上げます。 「リツとミキちゃんが……いないんだ。どこにも。海で……なんか……っ、いつの間にか、いなくなって……! 探したけど全然、見つからなくて……‼︎ こんなこと、考えたくねーけどっ」 堰を切ったように泣き叫ぶコウタ。 マツリは訳が分からず、唖然とします。 種族が違うのだから、言語が違うのだから、何を言っているのかは理解できません。理解できなかったとしても、リツとミキが大好きだったからそんなことを気にしたことはありませんでした。 今、この時までは…………。 ふと、ドアが開けっぱなしであることに気づきます。 マツリは走ってドアの先にある外へ向かった。 「待て! 行くな……」 コウタがマツリを呼び止めますが、マツリは無視をします。 この時のマツリは、たとえ言語が理解できても同じことをしただろうなと考え、これまでの日常を思い返しました。 リツとミキを見送った後、いつも窓から海に行く様子を微笑ましく見ていました。 リツとミキの家から海は近かったので、道のりは分かりました。 ――もしかしたら迷子になってしまったのかもしれない。心配だわ。早く見つけて、家まで送ってあげないと! ついに海に辿り着いたマツリ。心地よく吹かれた潮風とは裏腹に、人集りでなんだか騒がしいなと思いました。 そして、海からリツとミキの匂いがしたように感じます。 家の床とは違う、硬くてごつごつした物である、岩にぴょんと移動しました。その岩の目の前に海があったからです。 ――この海の中に家族がいる。 マツリは、本能的にそう思いました。 ――まだ遊んでいるみたいね。 すっと丁寧な動作をして座り、見送った時のように長い尻尾をゆらゆらと動かします。 ――大丈夫……私の家族は帰ってくる。いつもみたいに美味しいご飯を持ってきて、一緒に寝て、明日はまた出かけて、また見送るの。かけがえのない愛しい日常が、また始まる。 そう信じて、疑うことは決してありません。 ――〝待っているから〟。 陽が沈んだことで夜になり、暗い空に浮かぶ金色の満月がこんなにも美しいはずなのに、こんなにも心を奪われているのに、儚さと切なさを表したように仄かな光を纏っています。 それは、マツリの瞳とよく似ていました……。 《あとがき》 いかがでしたでしょうか? ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。なんだか完全にバッドエンドですね……。苦手な方は申し訳ないです。 ちなみにですが、なぜミキとリツが溺死してしまったのかといいますと、ミキの心臓が止まってしまったからです。心臓突然死というもので、リツはミキの異変に気づいて助けようとしました。 そして、ミキを抱えて陸へ泳ごうととしましたが、筋疲労により足がつってしまい、まともに泳ぐことができず、ミキを抱えた状態でそのまま沈んだというものです。 この時、コウタはマツリの為に釣りをしていたので、リツとミキとは別行動をしていました。 コウタは一生、罪悪感に苛まれて苦しむでしょう。 しかし、マツリを引き取り、心の拠り所にして生きていきます。大切な親友の愛猫は、忘形見も同然なのですから……。 次は怖いものを書きたいと思っていますが、正直、本当に書くのかは分かりません。 それでは皆さん、また次の作品で会いましょう!
自己紹介
なんだか皆さんの作品を見る限り、自己紹介をしている方がいらっしゃるので私も自己紹介をしますね。 名前:アヤっちゅ 性別:女です 好きなもの:家族と友達、サラダ、もふもふした動物、アニメ 嫌いなもの:辛いもの、動物に酷いことをする人 趣味:読書と映画鑑賞(特にホラー系) 長所:想像力が豊か(母曰く「頭の中がファンタジー」) 短所:思い込みが激しい(主に被害妄想) ※編集が多いです。 ※絵が下手なので、画像はAIを利用します。 ※他にもなにか聞きたいことがあれば聞いてください。答えられる範囲で答えます。
美しい虹
自然豊かなとある森。 湖に映る一頭の蝶、ウルはため息を吐きました。なぜなら、自分の翅がちっとも美しくないからです。他の蝶は鮮やかな紫色や夕陽のようなオレンジ色だというのに、自分だけ灰色が混ざった水色。 まるで雨雲みたいだと、明るい色ではない翅を、どうしても好きになれませんでした。 しかし、一度決められた姿を変えるというのは難しいことなので、ウルはどうすることもできません。 ウルはそう思うと、またため息が出てしまいました。 「そんなに悲しそうな顔をして、どうしたの? ウル」 声をかけてきたのは、友達のリンでした。 リンはウルが憧れるような、晴天を思い浮かべる蒼い翅をもっています。 「リンはいいよね。綺麗な翅をもっているから。羨ましいな」 「また、翅のことで悩んでいるの? ウルも綺麗な翅をもっているじゃないか」 「お世辞はやめて」 リンの翅は、ウルだけでなく他の蝶も『美しい』と褒めていた。それに比べて、ウルはリン以外の蝶に『翅が美しい』などと褒められたことがないのです。 ウルはリンを見ているうちに、どんどん自信がなくなっていきました。 それでもリンは話を続けます。 「お世辞じゃないよ。ウルの翅、雨が降ってくる雲の色じゃないか。僕は雨が好きだから、ウルの翅も大好きだよ」 「でも他の蝶は雨が嫌いじゃない。空は飛べないし、太陽がないからとても寒いよ。雨は嫌い。だから、この翅の色も、大嫌い」 「でも雨は僕達が生きていくために必要なものだよ。〝恵みの雨〟っていうだろ?」 ウルはリンの言葉を聞いて、驚きました。 リンの真剣な顔を見ると、思ったことをそのまま言っているように感じます。 「それに、たとえ翅の色が変わったとしても、それでウルの評価が変わるわけじゃないよ。僕はウルが優しいから友達になったんだから。ウルは翅も心も美しいよ。もっと自信をもって」 ウルはリンの話を聞いていると、さっきまでずっしりと重かった心がだんだん軽くなってきたような気がしました。 リンは話を続けます。 「果物は皮をむいたら中身だけ取って、外側は捨てるだろ。それと同じさ。相手の性格を知れば、見た目なんてどうでもよくなるんだよ」 そう言われた時、ウルは大きな衝撃を受けました。今まであんなにも嫌っていた翅の色が急にきらきらして見えます。頭はすっきりして気持ちが穏やかになってきました。 「リン。ありがとう。なんか元気が出たよ」 ウルは、はにかんだように感謝を伝えると、リンは笑顔で『どういたしまして』と答えました。 それからウルはリンの言葉に救われ、自分の翅を悪く思うことはなく、長所として好きになりました。 もう二度と、翅を嫌うことはないでしょう。 「ウルの心は、まるで〝美しい虹〟だね。悲しくて雨が降っていたのに、僕が励ましたら晴れて、温かい太陽が出て……虹がかかる」 《おまけ》 ①ウルが翅の色で悩み悲しくなる→雨が降る ②リンがウルを励ます→晴れになる ③ウルの翅がきらきらして見える→温かい太陽が出る ④ウルは翅の色が大好きになった→美しい虹がかかる 《もしよく分からないのなら教えてください。書き直すかコメントで伝えます》