花火玉。 海月様の一味 犬?(海月さまについて行きますっ‼︎)
50 件の小説花火玉。 海月様の一味 犬?(海月さまについて行きますっ‼︎)
小説作家が夢のバリバリ中学一年生男児! 小学校四年から六年まで「縦式」使ってました! ここにきて、これに切り替えることに! よろしくおねがいします! 夢のため、率直な感想がガンガン欲しいです! それと同時に、みなさんと親密な関係を築けることを願います! 追記 始めたのは2025年4月27日
十二月三十二日 〜君は私たちの中にいる
一章 止まった時間 コッチ、コッチ、コッチ、コッチ……時計の針は動けども、時はまるで止まったまま。あの時から、ずっと。 「タクヤくん。私……ずっと、ずっと前からあなたが好きでした。付き合って……くれませんか?」 これは、三月に私達が付き合った日。 「るるは変わんねーな」 これは、水族館の初デートのとき。 「るる。これ、付けてくれないかな?俺からのプレゼントだ」 これは、お揃いの指輪を買ったあの日。 「さよなら。今までありがとう。るる」 これは……三日前のクリスマスイブの日、だった。あのとき……なんで、タクヤは泣いたの?なんで、タクヤは私の目を見なかったの?なんで、それだけ残して私の前から消えたの? ねぇ、なんで?私、何かしたのかな。 あんなに、私たち仲良かったのに。疑問で頭が埋め尽くされてる中、電話がかかってくる。 その電話を私は無視した。どんな内容でも、今の私でも苦痛だ。そして、今日は眠りにつく。 はずだった。 ドン、ドンドンと誰かが私の家の扉を叩くんだ。 それがあまりにも続くから、渋々扉を開けた。 「エリ、電話出ないし心配だから……来ちゃった」 そこに居たのは、友達のリオ。全く意味が分からずに、私は呆然としていた。 「一体……なんで?リオちゃん」 「タクヤがあんたをフったのは、本心じゃなかったから。私は、それをエリに伝えなくちゃって」 タクヤ。私の……元彼。そのためだけにここへ来たのか?それを伝えるだけに。しかも、それ…… 「意味わかんない。リオちゃん何言ってんの?」 「あんたがタクヤにフラれた、って聞いて私はタクヤに問い詰めたの。だってありえないから。あんたらが何にもなしに別れるなんて。そしたら、あいつ、私にだけ吐いてくれたよ。 エリのことは好きだったし、結婚もしっかり考えてたって言ってた。でも、できないって…… あんたはこんな終わり方望んでないでしょ?なら……行ってこい、今」 ふぅ、とやり切ったような顔をしたリオ。そんなリオとは正反対に、私は困惑に満ちていた。 「……リオちゃん、ありがと」 まだ理解したわけでもないし、リオがなんて言っているかなんてちっともわからない。でも、一つだけわかった事がある。それは、迷ってる場合じゃない、行かなければならないという事だ。 「場所は?」 私の問いに、リオはこう答えた。 「知らない」 と。 まぁ、半分わかってた。タクヤの事だ。こうなることを悟って、言うだけ言って逃げたんだろう。 「あいつの逃げそうな場所ならわかってる」 そう言って、私は午後十一時に馳せた。その時にはもうそれまでの迷いは脳から剥がれていた。まるで、撒かれていた油に火花がかかったかのように、私の心は灯った。燃えた。 「いけ、るる……!」 キィ……ガチャリ。そんな音がしたことから、リオは私の家の中にかろうじて入ったのだろう。 ……リオ、ありがとう。 ……切り替えよう。まずは、心当たりのある場所をピックアップしてみようか。 一つ目は、私たちが付き合った体育館裏。 二つ目は、水族館。初デートのとき。 三つ目は、お揃いの指輪を買ったあの店。 そして……私たちが別れた、クリスマスイブ。あのツリーのあったところ。 さざーん、ざざーん、と波打っている音にせかされてる気がして、地面を蹴る足に力をさらに加える。 「タクヤ……」 体育館裏……シロ。 水族館……シロ。 あの店……シロ。 となると、あそこしかない。 噴水の近くだ。耐えろ、私。耐えろ、私の足。幸か不幸か痛みがとっくに分からなくなった足。 そして、公園に着いた。もう日付は変わっただろうか。それとも、とっくに一時を超えているのだろうか。わからない。とにかく暗い夜の中、無我夢中で歩いた。 そして……見つけた。 「タクヤ!」 声をかけ、肩を掴む……つもりだった。私がタクヤの手を掴むことはなかった。そこで……タクヤは、倒れたんだ。 「……たく、や?え?やだ、どっきり?いや、わらえないから。あのね。わたし……えりちゃんにはなしきいて……ねぇ、どうしたの?たくや……ねぇ、おきてよ」 ぽつり、ぽつりと水が降ってくる。それはあっという間に周りの音をかき消した。 そして触れた手は……熱が溶けていく、そんな気がした。 誰が通報したのか、救急車のサイレンがどこか遠くに聞こえる。 あっという間に、取り残された。救急車に同行もさせてくれなかった。髪の毛は濡れて、力の入っていない手のひらには、その代わりに、と渡された病院の住所と電話番号が書かれている紙が一切れ。 なんにも頭は追いつかない。ただ、ふらふらっと足が動いて。手が救急車のライトに重なった。 ふら、ふら、と歩みを進めていた私の足は、痛みも疲れも忘れて走り出していた。 「あの!今ここに、緊急搬送された男の人……どこですか⁉︎」 書かれていた病院の受付に走り、私はそう聞いた。 「え?あ、その……申し訳ないのですが、勝手に通すわけには……」 突然びしょ濡れの女が来て困惑しか浮かばないナースの前に、一人の男の人が立つ。 「通せ」 くぐもった声。重低音を響かせて白衣を着たその人のネームカードには……タクヤと同じ苗字……「三滝 圭吾」と書かれていた。 「……帝嶺るるさんでお間違い無いですか?」 「はい」 「い、院長⁉︎」 「彼女は例外だ。面識こそないが、息子がよく話す。写真だって見せてくれた。私にはわかる」 「さぁ、早く!」そう言って手を差し伸べて、奥へ奥へと誘う。 「た、タクヤは……大丈夫、ですか?」 私の一言に圭吾さんは驚愕の顔色を見せた。 「……話して、いなかったのか」 話して、いなかった……その単語から、私はなんとなく、察してしまった。ただ、それが嘘であることを願って、「それは、なんですか?」と尋ねる。 帰ってきた答えは、一番聞きたく無い答え……「病気のこと」だった。 そこから聞いた記憶はつぎはぎで、ショックを受けたことばかりが脳に焼き印が押されていた。 一つ目……タクヤは、前例が一つしかない病にかかっている。名前は、幻眠病…… 二つ目……幻眠病は、三つのステージに分かれている。第一ステージは、幻を少し見るようになる。第二ステージは徐々に眠る時間が長くなり、突然眠りに落ちることが出てくる。第三ステージは……生きたまま永遠に眠り続ける。 三つ目……第二ステージに到達した途中で、第三ステージ突入のタイミングがわかる……タクヤは、来年の正月辺りがそうなる……そう、言われていた。 リオの言う事は、本当だった。タクヤは、私が悲しまないよう、胸を割く思いで告げたんだ。なのに、私は…… ガラス越しで見る彼は、本当にただ眠っていた。ただ、それがずっと覚めないんじゃないか、って。それだけが心配で、私は病室の中でしばらくいた。ただ、いくら院長の家族の元カノとはいえ、これ以上は居させられない、と私は外にほっぽり出された。仕方がないけどね。 今、私はなにを感じているのだろう。 タクヤが病人だと言うことに絶望を抱いているのだろうか。それとも、私を嫌いになったわけではないと言う安心感?もしくは生きていて良かったと言う安堵か。もしかしたら現状が理解できずに困惑しているのかも知れない。 そんな感情をくしゃくしゃにして心の器に入っている。まるでゴミ箱だ。 でも、くしゃくしゃな感情一つ一つが私に話しかけていた。「これで良かったのか」って。「生きていて嬉しいとは思わないのか」って。 とりあえず私は家に帰った。扉を開くと、そこにはぐちゃぐちゃに脱き捨てられたリオの靴があった。 もしかして、と思って私の部屋を覗くと、ベッドの上に横たわっているリオがいた。 私はクスッと笑い、そっと手を洗う。そして、ソファに毛布を広げ、眠った。 ***** 「……リ……エリ!」 誰かの声で私は目を覚ます。なぜか、背中の裏は硬かった。なぜか、布団はとても薄かった。起き上がって目を開いて、思い出した。 ここは、ソファの上だと言うこと。 リオが家で一泊したと言うこと。 タクヤは幻眠病だったと。 「おはよ、リオ」 「……良かった。とりあえずは大丈夫なのね」 そう言われて、私はきょとんとする。 「なんでそう思うの?」 「気付いてなかった?昨日からエリったら、私を「リオちゃん」なんて呼ぶんだもの。でも、今はリオって言ってた。だから、大丈夫だって」 そうなっていたのか……いや、それにしても……大丈夫、か。そうなんだろうか。拓也が生きてて、私を嫌いになったわけではない、と言う点では大丈夫だ。でも、幻眠病……あの存在に「大丈夫」とは言えない。 「……なんか、あった?」 何かを察したのか、リオがそんなことを口にする。 「あぁ……ね。情報量多かったよ。私、あれからタクヤを見つけたんだ」 「なんだ、良かったじゃん」 「いや、それがそうでもなくって、肩を掴もうとした途端、どさっと倒れてね」 「はぁ⁉︎タクヤ、大丈夫なの⁉︎」 リオはそれを言った途端、あっ、と口を抑えた。私にそれを言うのはやめたほうがいい、と気遣ったのだろうか。 「……どう言うことか、聞かせてもらっても?」 「うん。タクヤは、病気だったんだよね。病名は幻眠病って言って、前例は一つしかない。発症して始めは幻を少し見るようになる。次に、徐々に眠る時間が長くなり、突然眠りに落ちることが出てくる。最終的には……生きたまま永遠に眠り続けるって。今タクヤは二つ目の第二ステージらしいね」 リオは唖然としている。きっと昨日の私もこんな感じだったのだろう。どうだ、リオ。心のゴミ箱はどんな具合だ?なんて聞きたくなってしまう。ただ、この状況で明るくそんなことを言う、なんて余裕はない。 どうしようもないんだけどね。 「なんて言うか……そりゃ、信じらんないね。笑い飛ばしたいけど、全然面白くないし、笑えないし……」 「そ、それを言いたかったの」 「……とりあえず、ご飯食って病院行ってみる?」 「そうだね」 そして今朝はとりあえずパンにジャムを塗って、コンビニのサラダを食べた。そして、病院に向かう。 ***** 「そういえば、ここの院長さん、タクヤの父さんだったんだよ」 「あれ、そうだったの?こりゃまた想定外。にしても……大丈夫?その幻眠病とかいうヤツ、寝る時間長くなるんでしょ?なら、今も寝てたり……」 「大丈夫だ。タクヤは今起きている」 二人で話していると、目の前に圭吾さんがいた。 「圭吾さん!いつの間に……」 「病室は三〇五九号室……そこのエレベーターを三階に登って、案内板を見たらわかると思うよ。タクヤに今日来るかもとは伝えてある」 そう言って受付の奥へと進んで行った。あっという間だった。 「……院長って、忙しいんだね」 「ね。ってか、あの人がタクヤの父さん?」 「うん。圭吾さんだって。さ、行こ」 エレベーターの中にも、しっかりと消毒液の……病院の匂いがする。そうして、三階に辿り着く。病室までの道はまるでホテルみたいで、シンプルだけどいくつもの廊下があった。 そうして私は病室に立つ。 ノックをして、中に入ると、目を見開いたタクヤがいた。 「エリーーリオまでーー」 窓から暖かい日差しが入り込んでも、ここは異様に寒かった。 「その……聞いたんだ、幻眠病だって」 「……!そう、か。そうだよな。親父が言った事、嘘だったらいいな、って思ってたけど、そんなわけないか」 元気で明るく私を包んで導いてくれたタクヤが、今ではこんなに頼りなく見えてしまうのは、なぜだろうか。 「その……さ。今って、何年?」 「……は?なに言ってんだ、エリ。二〇二六年だろ?」 「でしょ?なら、五日後は十二月三十二日だね」 「……いやいや、一月一日だって。なに言ってんだよ、お前。マジで」 「私は、本気だし、正気だよ」 このタイミングで、空気を読んだのかリオはこの場を去った。 「被告人」 「っえ?俺?なんで」 「静かに。被告人」 困惑と動揺を浮かべながら、とりあえず口は閉じてくれた。 「あなたは、彼女に自分の病気を隠し、自分の気持ちを殺してまで別れたという大罪をおかしました。よって。あなたに罰を与えます」 「ちょ、なにを……」 「判決、有罪!タクヤは、最低でも後一カ月生き残って彼女と思い出を作らないと、地獄まで追い回すぞの刑に処す!」 無理矢理だっただろうか。それとも可笑しかったろうか。でも、そんな事は関係ない。私は本当に心配して、お互い本気で傷ついた。それで理由は十分だ。 「……そう、かもな。でも。俺は別にエリに隠していたんじゃない。親父に隠されてたんだよ」 「……圭吾さん、に?」 「ああ。親父はここの院長だ。だから、すこーし流れに乗せて検査を繰り返したりして、俺が幻眠病だって知った。らしいよ。 でも、親父は医者としての義務を怠った……そう言ってた。俺に、その事を報告してなかったんだ。 それについて気になって、俺は二〇日に問い詰めたら……話してくれた。だからかな。俺が別れよう、って言った」 衝撃の真実。でも、改めて考えてみれば当たり前かも知れない。 その少し前にお揃いの指輪を買った。その時にもう知っていたなら、私を悲しませまいと言わなかった事だろう、と思った。 「あ、別に親父が悪いわけじゃないんだよ。あ、いや……医者としては悪いんだろうけど、あの時俺は怒ったけど……俺が親父の立場でもそうしてたと思う」 そこからしばらく沈黙が走った。そして空気を破るようにリオがやってきた。 「よ、話終わった?」 「あ、うん」 流れでイエスと言ってしまったが、本当はまだだ。 「ちらっと聞こえてたんだけどさ。一ヶ月?つまり、一月までって事?」 「あ、うん」 なんだ、結局聴いてたんだ…… 「ふぅん……ねね、二人とも知ってた?十二月ってね、本当は三十二日から時間で言うと三十日、ずーっと十二月三十二日なんだよ?」 どこにも真実はない。ただ、そこにあるのは希望だった。 「……へぇ、それは知らなかった。つまり俺は、最低でもあと一ヶ月分は軽く生きれるわけだ」 「そ。だから、今までギクシャクしてた分も、これからの分も……全部、取り返せ!二人とも!」 そしてリオは両手を私とタクヤに向ける。 「ほーら、手。出せよ。タクヤも、エリも」 そう言われ、私は引っ張られたように右手をリオの左手に、左手をタクヤの右手に合わせた。 ぎゅっと握ってそこにできたのは、小さな円。この手のおかげで、私たちは今おんなじ血が巡っているように感じた。私の右手から、リオの左手に。リオの右手から、タクヤの左手に。タクヤの右手から、私の左手に。 まさに、一心同体。その状態は、面会時間が終わるまで続いていた。 一ヶ月後 そこから私たちは、一ヶ月、生き残った。 でも、タクヤは十二月三十二日最終日に眠ってしまった。心臓は動いてる。完全に冷たくなったわけじゃないけど、二十九度あたりをうろうろしている。 三年後 とうとう、タクヤが目を覚ました。一瞬、一瞬だけ。 「タクヤ!」 私は必死に叫んだ。そして、タクヤは、両腕を差し出してこう言った。 「俺の体は……先に向こういってっけど……あの時の、忘れんなよ? ……俺は、お前らの中で……見てるから……」 そして、目を閉じ、今度こそ永遠の眠りについた。 正直、起きないと思っていた。だから、最後に会話ができて嬉しかった。私の手を自分で握ってくれて嬉しかった。でも……今度こそ、0%。もう、あんな事はないのか、と思うと、こう……心が空っぽになった気がした。 でも、その時に、違和感があった。空っぽな空に、太陽があった。光があった。熱があった。 「ーータクヤ、いった通り……そこにいてくれるんだね……見てくれてるんだよね?ありがとう。もう、大丈夫。大丈夫だから……」 そして、私はタクヤの体にさよならを告げた。 エピローグ 五年後 「ねぇ、エリ」 「何?」 「もう、あれから五年だよ?あっという間じゃない?私たち、もう二十八歳っていう……」 唐突にそう言われ、返事に戸惑った。 「まぁ……そうとも言えるよね。でも、私は今、結構幸せだったりするよ?」 「それ、私も」 自分でも不思議なくらいの幸せ。タクヤの体はたしかに消えてしまったのに、私の心にそれは焼きつかれたままなのに、それを全部ひっくり返すような幸せ。 「あれから私たちは同居してるし……最初は大変だったよね。朝ごはんはパンにするか米にするかー、とか」 「あー、ね。あの時は大変だったけど……なんだろうね。胸の中のタクヤが、私たちと話して一緒に暮らしてる気がするんだよ。病気かな?」 「私も。でも、病気なら治らないで欲しいかな。タクヤのことは残念だし、悲しいけど……魂は半分に分かれて私とリオに宿ってる。つまり、二人そろえば、三人揃う、ってことなんだよね」 懐かしむようにそう言って、なんとなく私は右手を差し出した。 「リオ」 「わかってる」 そして私の右手はリオの左手に結ばれ、私の左手は私の胸に吸い込まれる。リオの右手は、リオの胸に吸い込まれる。 そうしたら、あの時の感覚が戻るんだ。小さな円になった時の。 「タクヤとの思い出は、取り返した。そして、今日が何日か……わかるでしょ?」 「十二月三十二日、でしょ?」 「せーかい!」 そうして、私たち「三人」の声が心からも、口からも放たれた。 血が、世界を超えて巡った。 幻覚かも知れないけど、確かに私とリオの間に……一瞬だけ、あの時のタクヤが笑っていた。 fin.
『リセッター』
中村 裕樹 様 皆様。こんなことなければ良かった、こうすればこうはならなかった、と後悔が溜まった生活をしていませんか? 弊社ではこの後悔を無くす「リセッター」というものを開発しました。 悔やんでいる過去に何度でも戻り、やり直せるという機能性を持っています。ですが……これはまだ未完成の試作品にすぎません。 そのため、弊社では予測のつかない副作用が起きる可能性があります。 ※この手紙•品物が届いたあなたは、他言することはできません。 ※元犯罪者であるあなたを匿うのはなぜか、考えないようにしてください。 ユタラネ•プルーインズ社 より ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー この手紙が届いてから三日。俺は家の中でうずくまっていた。 「過去をーーやり直せる?」 なら、俺が選ぶのはあの時だ。 ***** 「お前……母親を助けたいなら、銃を運べ」 「……それで、母さんは助かるのか?」 「ああ。約束しよう。その代わり、お前は今から俺の人形だ」 「……やってやろうじゃないか」 「決まりだ」 ***** あの時に、俺は戻ってみせる。あの、犯罪劇の始まりに。 カチっと音がして、奇妙な感覚に陥る。例えるなら……そう。幽体離脱とでも言おうか。自分の体は現在にいるのに、心が…「熱」が俺を離れていく。 そしてーー 「もってあと三ヶ月でしょう。直す術はありますが……二〇〇万円、必要になります」 「……そう、ですか」 母親と医師が会話している。 あの時の、会話に…… とりあえず、俺は前回と同じように対応した。 でも、もう俺はあそこに行かない。ふつうに帰路について、ふつうに生活していればいい。 そして、電車に揺られていると、意識が遠くなった。 目が覚めれば、そこは俺の家……じゃなかった。 公園の一角。尻の下にはダンボール。理解するのには時間がかかった。 「まさか……」 銀行に入っているお金全部はたいて手術を施し……ろくに生活できずに、ホームレスになったのか? 「くそっ……!リセッターなんて……リセッターなんて……‼︎」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 読者 様 これはファンタジーでしょうか?それとも架空のことでしょうか? ……さぁ、どうでしょう。次はあなたの元へこの手紙をお送り致します。 正しい使い方をして、幸せになり、そして……悔いのないよう、ここを去るように。 さて、今回あなたにこのような商品を授けさせていただきます。 今までの後悔を無くすおまじない……ただ、これは試作段階。どのような副作用が出ても……弊社は責任を負いません。 この商品の名は…… 『リセッター』
僕が愛した殺人犯
一日目 出会い 「轍、コイツはお前が見ろ」 そう同僚の瀬戸に言われ、一つの牢屋の前に来た。 「あなたが、私の看守か」 そう言ったのは、一人の女性。30歳程だろうか。 美人だな、と思いつつ、なめられないようにキリッとした調子で「そうだ、笹ヶ谷轍という。よろしく」 「ご丁寧にどうも。私は長戸絵美だ」 「轍、見た目に惑わされるな。お前も知ってるだろうが、コイツは人間を5人も殺した死刑囚だ」 「し、知ってるさ」 そう、知ってた。……見惚れて忘れてたけど。 「それじゃ、俺はここを出る……そうそう、そのボタンのことだ。死刑執行までしばらくあるが、もしもの時はそれを押せ。電気が牢屋中に流れるようになってる。誘惑してくるようだったら……わかるな?」 「そう、か」 ーーこんな掌に乗る小さな赤いボタンで。僕は、人を殺せてしまうんだ。俺は、看守であり、処刑人だから。 カツーン、カツーン、カツーン、と靴が立てる音は次第に遠くなっていった。 「ねぇ、長戸さん。私、どこで死ぬの?どこへ向かってるの?」 「……ここ、北の一角……斬首の台地」 「あなた、優しいのね」 「やめてくれ」 ゆらゆらと揺れる船の中。僕は、頭がいっぱいだった。 「僕はこんなボタン、押したくないんだ」 「……そう、ね。まぁ、誰だってそうか。私だって……いや、なんでもない」 「……パン、まだいるか?」 「いいの?」 「ほれ」 そう言って僕のパンを分け与える。 ……本当に、君がやったの? そんな疑問を押し殺して、俺はパンをかじった。 二日目 心に刺す鎖 キィ、キィ、と船が揺られている。 僕は、囚人はみんな悪いやつだ、生きてちゃダメなやつだって考えていた。 でも、本当にそうなのかな。絵美も、実はそんなに…… 「轍さん?」 「……どうか、した?」 「それ、こっちのセリフ。なんか今日変だよ」 「そう、かな」 「うん。風邪引いた?」 「いや、なんでもない」 窓から入る月光に照らされた彼女を見て、僕は確信した。 僕は、好きになってしまったんだろう。 皮肉なことに。もう、あと二日で死ぬのに。 知りたくないことを知った。それな気がして、僕は羽ペンで左手に小さくこう書いた。「忘れろ」と。 こんなの、忘れられるわけない。むしろ、このせいで忘れられなくなるかもしれない。でも、僕はこう思った。「これは、僕自身との戦いだ。好きになったのは僕の罪。本当はこんな感情を抱いてはいけないんだ」と。そう思うと、さっき書いたことは僕の心への戒めの鎖になっているのかもしれない。 三日目 私が死んだら 「ねぇ、看守さん」 「何?」 「これ、私が死んだら看守さんが持ってて」 そう言って差し出したのは、イルカのガラス細工。 「なんでだよ」 「私の宝物だから」 そう言われて、何も言えなくなってしまう。 そんな中、僕は交渉を持ちかけた。 「なら、僕の質問に答えて」 「わかった」 「君はーー長戸絵美は、本当に人を殺したのか?」 「っ……!」 それは、数秒の沈黙。それが、僕にとっての立派な答えだった。 「待ってて」 そう言って、僕は……俺はこの席を立ち、同僚の元へ「代わってくれ」と頼み込んだ。 「別にいいぜ。でも、どうしてだ」 「あの子は無実だ。それを証明するために事件の詳細をもう一度知りたい」 「……お前が言うんだ。そうなんだろ。わかった。あいつは俺が見る」 「約束だぞ」 「もちろんだ」 そう言って、ガラス細工は受け取らずに、俺はパソコンに身を乗り出した。 「それは、今は貰えない。それをもらったら、俺とーーいや、なんでもない」 「ねぇ、看守さん」 「……何?」 「助けて」 涙を流して心から懇願する姿。あれこそ、彼女の本当の姿だ。 「絶対、助ける」 カタタ、タタタ、タン、カタ、カタタタ…… 最終日 処刑人なんて、大嫌いだ 「完成、したぞ!」 港に着く直前の直前。俺たちは船を降り、斬首の台地へと向かう準備をしていた。 「これを見てください」 「なんだ、これは」 上司はそう言った。 「彼女の無実を証明する資料です」 「……君には期待していたんだがな。轍」 「これは、受け取れない」 「なぜです!彼女は人を殺してなんかいない!なのに……なんでこんな仕打ちを受けなければいけないのですか⁉︎」 「馬鹿者!」 胸が焼けるような激痛。ぐつぐつと煮えくり帰った腹。これが、怒りなんだ。 そんなことをこんな時に考えてしまう自分が嫌いだ。 「お前の気持ちはわかる!だがな……!俺たち看守は……『処刑人』は!裁判と!政治に!従わなくちゃ、いけないんだ……!」 そう言った看守長の瞳からは、涙がボロボロと崩れるように流れていた。 そこで、隣にいた男……身なりからして、ヨーロッパのお偉いさんだろうか……が、こう言った。 「……お主の名はなんという」 「……!はっ。我が名は笹ヶ谷轍と申します」 「……お前が、あの死刑囚を殺せ」 「……は?」 唐突で、死ぬほど、いや死ぬより嫌な命令。 そんな命令を下した当の本人はーー笑っていた。 「でも、俺は……!」 「殺せ」 「あの人は!」 「殺せ!何度言わせればいいのだ?俺はコイツにガキを殺されたんだよ」 「それは、嘘だ!俺の作った資りょ……」 「嘘じゃない。というか、そんなのどうでもいいんだ。殺せよ。その銃を持って‼︎さぁ、さあ‼︎」 俺たちがそう言っている間に、長戸さんは十字架に括られてしまった。 「さぁ、轍!引き金を引け!」 「無理で……」 パァン!という音がどこからか……いや、俺の手元から聞こえた。 「……嘘、だろ」 あの男の家来らしき男が俺の指を押して、引き金をーー引いてしまった。 「あり……と、わだ……さん」 血を吐きながら。彼女はそう言い残し、がくっとうなだれた。 キーン、カラカラ…… 音を立てて俺の足元にーー血飛沫がかかったイルカのガラス細工が転がってくる。 十年後 まだ死ねない ヒュオォ、と雪が悲鳴をあげ続ける。 そんな中、俺は十年変わらず、あそこへ向かった。 「長戸さん。もう、あれから十年だ」 俺は、処刑人を辞めた。 彼女が死んだ北の斬首の丘に住んでいる。そして、墓を作った。勝手にだけど、悪いとは思わなかった。 そして、首に下げたイルカのガラス細工をそっと墓にかけた。 「あなたが生きていたら、俺と結婚して欲しかった。なんて言っても……誰も、何にも言ってはくれないか」 そう言ってさぁ、家に帰ろうとした時だ。振り向けばーーあの時の君がいた。 「ーー長戸、さん?」 向こうも丸い目で俺を見つめる。 「長戸、絵美さんだよね?」 「……!いえ、私はーー、長戸絵美の、娘です。名を長戸刹那と言います」 そこからしばらく、吹雪の音だけが響いた。 「そう、か。はは、そうだよな。会えるわけないんだ。長戸さんには」 「あなたが、笹ヶ谷轍さんですか」 「そうだが……その名を、どこで?」 「瀬戸圭吾という看守……あなたの元同僚から聞きました。あなたに伝えたいことがありまして」 「その前に、こちらからいいですか?」 彼女の親族にもしも会ったら絶対に伝えたかった言葉。それが、俺にはあった。 「どうぞ」 「……助けると誓ったのに、彼女を、長戸さんを助けられずに終わってしまったこと、本当に申し訳ございません」 「いえ、気にしてないと言えば嘘になりますが……尽力して助けようとしていたと、瀬戸さんから。だから、ありがとう、と伝えたくて」 それは、俺を励ます嘘だったのかもしれない。 なんにしろ、俺は今刹那さんに救われた。 「どうぞ、彼女の……長戸絵美さんの墓です」 木を十字にして石で周りを囲んだだけの拙い墓。そんな墓に、刹那さんはただ歩み寄り、雪の上に正座して手を合わせーー涙を、流していた。 「瀬戸さんがあなたと少しの間、看守を変わっていたでしょう?」 立ち上がった刹那さんはそう言った。 「はい、そうですが?」 「母は、彼にこう言ったそうなんです。『もうすぐ私は死んでしまうのに。なんで、轍さんを好きになってしまったんだろう。もしも私が生きていたら、あの人と再婚したいな』と……」 その言葉は、俺を十年ぶりに泣かせる言葉だった。 「遅すぎるよ、絵美……!わかった、わかったよ……!でも、今はまだそっちには行けないんだ。俺は、そっちに行くまで……娘さんの面倒でも見ておくよ……!」 ズッと鼻を啜る音が聞こえたら、それは刹那さんからだった。 「ありがと。義父さん……!」 「当たり前だ」 そうして、たった三日間のせいで氷漬けになった俺の時間は再び動き出した。
🎆第一回S2グランプリ結果発表🎇
まず、ご参加いただいた皆様へ。 まさかここまで参加者が集まるとは思ってもおらず、嬉しい誤算となりました。どの作品も丹精込めて作られた素晴らしいものばかりで、甲乙つけ難かったのですが……悩みに悩んで結果がとうとう出ました。 それでは、結果に移りたいと思います。尚、上位3名のみの点数を明かしたいと思います。 ※ ネタバレを含む感想があるので、気になる方はスキップしたり他の参加者の作品を読んでからこちらをご覧いただくことをお勧めいたします 第三位 高梁ガニ 様 あいびぃ 様(同率) 51点 (高梁ガニ 様) しっかりとウォルターが「生は、渡されるものだ。死は、終わりじゃない。次に託すための、静かな合図だよ」と明記していて、強いインパクトを与えてくれました! さらに、隠れて光を人生に例えているのでは?と思い、そこも評価させていただきました。 (あいびぃ 様) 事前に「共犯」と言う一作の続きと聞いて、それも評価対象として入れました。 「生きながらに死んでいる」のセリフから、「息をしていて歩いて食べて寝るだけでは生きていると言い切れない」と伝えたかったのかな、と思いました。 意思や希望を持って動くなら、それは「生きて」いて、それらを抱いていない人は「死んでいる」と言うのが、あいびぃ様の考え方なのかな、と推察させていただきました。 (お二方) 極めて珍しい同率三位となりましたが、どちらもインパクトが強く、死と生の考え方を強く認識できました。ありがとうございました! 第二位 中二高二病 様 52点 この一作では、死、生、死と生の三つの章に分かれていて、死の章では生を怖く感じ、死の章では生を強く感じる……そして、最後の死と生の章ではそのことがまとめられている。整っていて、しかも黒髪の子を「死ぬ人」主人公を「生きる人」と真逆の二人を繋げたのも面白いと思いました。 死ぬことと生きることは実は隣り合わせで死に近しい時に生を、生に近しい時に死を恐れるという考えを上手く表していると思い、この順位となりました! それでは、第一回S2グランプリの優勝者を発表したいと思います。 第一位は…… 叶夢衣緒。/海月様の猫 様です‼︎ 53点 まず最初に、一つ、個人的に感想を伝えさせていただきます。 ……一体どれだけ自分を泣かせるんですか?最高すぎです。 ……はい。死にたいけど生きてる主人公に、生きたいけど生きられないみつき……この二人、最初こそ暖かくって希望の物語だな、と思ったら春の夜のみつきのセリフにグッと心を動かされました。 生きることは、とても残酷な現実でもあるな……とさえ感じました。生きることと死ぬことは表裏一体……中二高二病様の死と生.kと似たことなのかもしれませんが、伝えたいことは全く違うんだろうな、と考えました。 あまりここで憶測を書いてもアレなのでここまでにしておきますが、改めて。本当におめでとうございます!🎉 (この次のページにて次回以降の相談があります。可能な方はご回答ください) 今回のように審査員がゼロとなる事態が次回も起こる可能性があると思い、自分は二つの案を考えてみました。ご覧ください。 Aパターン 今回と同じスタイルで続行 Bパターン 審査員と自分、参加者が一人100点ずつを配点するスタイル(自分以外に配点) ちょっとしたアンケートですが、回答していただけると幸いです。この度は、わざわざご参加いただきありがとうございました。
アカとシロ
プシ、ゴキュゴキュ…薄暗い部屋に、紅白歌合戦と共にビールを飲む音が響く。 紅白初出場の「鷹馬」というアーティストは、俺が前から好きだったアーティスト。白組で出ている。 「紅組なんて、ぶっとばしてしまえ」 赤色は、嫌いだ。先週死んだ「アカ」を思い出す。 アカは可愛い猫だった。保護猫で、赤茶色をしていた。その時、保護犬ももらったんだよなぁ。 「寂しいよなぁ、シロぉ……」 くぅん……と大人しく返事を返す。 「今日はなぁ。縁起がいい日なんだ。だから、俺たちがたっぷり笑って、天国にいるアカも笑わせてやろう」 すっかり酔い潰れた大の男に、雪のように白い犬のシロ。それとは別に、おでんとお酒が乗せられたお盆がある。 「アカは、見えなくてもきっといる。俺たちは、あいつの分まで幸せになって、あっちに行った時に自慢してやろう」 そう言って、またビールを一缶開けた。
地球という名の監獄 第六章 白のガーベラ
違和感が津波のように押し寄せるけど、何もヒントがない。思いつかない。 そして……月奈さんが消えたという情報。 わからないことだらけで、はぁ、とため息が出る。 こんな日曜には、したくなかった。 そう思って、ふらりと外に出る。きっと、おれの顔は今、恐怖と疲れに染まっていることだろう。 母さんにも、驚きの顔を向けられた。 話しかけられると面倒なので、さっさと外に出る。 すると、ひやりと冷たい風が目の前を走った。 「……!タツナミ、くん」 詰まり気味に俺の名前を呼んだのは、レン兄。月奈さんの彼氏。 最初こそは「天才役者」と聞いてビビったり気を使ったりしたが、意気投合して今では兄弟のように仲がいい。 「レン兄……」 「……月奈の話は、聞いたかい」 その話題が出て、ただでさえ暗かった空気が鉛のように重っ苦しくなる。 「…………トウカから」 「……そうか」 煌々と輝く太陽とは裏腹に、レン兄の顔と瞳には、光が宿っていなかった。 その代わりに、闇が宿っている。こんなレン兄は初めて見た。 その手には、三本の花。名前は忘れてしまった。 「その花、なんて言うんです?」 この空気がイヤで、レン兄の手にある何色にも染まっていない純白な三本の花を見つめて、そう尋ねた。 「ガーベラ」 あぁ、ガーベラか。 「いいんです?三本で」 「いいも何も、三本以外に選択肢にあると思うかい?」 「……いえ」 三本の白いガーベラ。 白色には希望とか、そんな感じの明るい意味がある。 そして、三本という数字の意味は、「私はあなたを愛しています」だ。 不器用でまっすぐなレン兄らしい色と数。 でも、この花のように何色にも染まっていなかったレン兄の瞳には、影が差した。純白に気高く咲いていた一本の花は、黒く、黒く、染まり始めている。 それに気がついて、背筋が凍った。 それからは、精一杯会話を繋げようとしたけど、二人とも一文言い終えると、しんと静まる。 それを繰り返していたら、いつのまにか月奈さんの病室の前まで来ていた。 「え?」 唐突に抑えきれなかった声が漏れると、レン兄はきょとんとしてこちらを伺う。 「ど、どうしたんだい?タツナミくん」 「月奈さんは行方不明にって——」 今度は、レン兄がきょとんとする番だった。 「そうだけど」 「じゃあ、なんで」 「ああ、そこだけ聞いていたんだ」 納得したようにレン兄が呟いて、話を続けた。 「月奈は、さっき病室に現れたんだ。何事もなかったように」 「えぇ⁉︎……まぁ、なら良かっ——」 「でも」 切羽詰まった苦しい声。心をどこかに落としてしまったかのような哀しい目。俺は思わず固唾を飲んだ。 「容態が、悪化した」 「……え?」 「じ、じゃあ、今治療を——」 「してない」 ……は? 「おいおいおいおい!は?何してんだよ、ヤブ医者め……!」 「……いや、仕方がないんだ。病名も治療法も見つかってないんだから。やりようがないんだ」 「でも……!」 そう言って、ハッとする。こんな状態の月奈さんをみてレン兄が俺より悲しまないはずがない。 レン兄は、行き場のない怒りをしっかりと封印してるんだ…! ……何をやってんだ、おれは。 「ああ、いや……タツナミくんが気にすることじゃない」 そう言って、三本のガーベラを花瓶に活けた。 ……でも、そうじゃないだろ。月奈さんは。いつもレン兄を揶揄って、笑って、幸せそうだった。 なのに。 なのに。 レン兄がそんな顔をしてなんになるっていうんだ……! 空気を察したのか、レン兄が「帰ろうか」と手を差し伸べ、俺は何も言わずにその手を取る。 でも、いいのか。レン兄の隣が俺で。 いいわけないよな。 ここは、月奈さんの居場所だ。 それなのに、その手を取ってしまう自分が嫌いだ。 「……ねぇ」 「何、レン兄」 「……いや、なんでも無い」 俺が何かを言う前に、レン兄は話題を変えた。 「そういえば、最近トウカの様子が変なんだ」 これが終わったら追求してやろうと思ったが、その気は失せた。 「そりゃ、月奈さんが行方不明になって戻ってきたと思ったら容態が悪化したんだ。おかしくならないわけがない姉じゃないか。それも大好きな」 そう言った俺に、レン兄は「違う」と返した。 「逆なんだ」 「ぎ、逆……?」 「そう。逆。何か物忘れがあったり、ポヤポヤした雰囲気がなかったり、とか。そんなことが、まるでない。 逆に、キッチリとして冷静、いや残酷とか冷酷が似合う瞳になった」 あのトウカが、冷酷で残酷な瞳をしていた。 それを聞いただけで、きゅうっと胸が綱引きの綱で思いっきり縛られたように苦しくなる。 「トウカ、いまそんな感じなんだ……」 さっきまでは気が付かなかったが、きっと今おれはからっぽになったんだろう。 トウカという大事で大好きな親友をなくしてしまいそうで。 「やっぱり、タツナミくんはトウカのことが好きなんだね」 「そりゃ、ほっとけないだろ。あいつ。しかも今そんな感じなんだろ?なら尚更だ。それに……」 「違う」 今までのことが嘘のように瞳に熱と力がこもった。 「君は、トウカのことを恋愛対象として好きだ。違う?」 言われてみて、心を綺麗に射抜かれたような気にさえなった。 「行ってあげなよ」 俺は無言で頷いて、レン兄に言葉をかけた。 小さかったけれど、聞こえたかな。そう思って足を止めると、後ろには優しく微笑むレン兄が寂しげに、それでいて吹っ切れたように立っていた。 「ありがとう」 もう一度、俺はその言葉を繰り返して、駆け出した。 目の奥から、つつつ、と涙が頬を伝って、弾ける。その途端、俺は人差し指の爪くらい大きな涙をぼろぼろこぼした。でも、俺はその涙を止めることができなかった。
開拓者
いやだ。生きたくない。でも、死にたくない。怖い。 俺はどうすればいい?どう変わればいい? ただ恐れるだけの弱者で。 とても大事なところで猫かぶって嘘をつく。 俺は、なんで生きてんだ? 俺に生きる価値なんてあるのか? そんなことを考えてても、結局馬鹿馬鹿しくなって周りの空気を読んでは適当に返してる。 「今日も、いいことなかった。とりあえず勉強しようか?いや、でもめんどくさい。てか、塾だるい」と言ったことばかりを考える。 ダメ人間というレッテルをいくつも貼られたこの体で、一体何ができるというのだろうか。 でも、変わらなくちゃいけない。人は、人生を開拓し続けなければならない。 不器用で、自分に勝てない弱者でも。 もがいて、もがいて……世界で一番幸せな男になりたい。 人間関係を築くのが苦手。 めっちゃネガティブ 猫かぶり デカいくせに照れ屋で泣き虫 恋愛ものそれなりに書いてるくせに恋愛に弱い で? だから何? それで終わりたくないんだよ。 だから。 俺は、ただ一つ持っている「ハングリー精神」で人生を開拓する。
これが「リアリティ」
ぽつりぽつりと点のように灯る街灯。照らされた一部が、赤く染まる。 「狂ってる……!」 そういうのは、酔いが覚めた哀れなサラリーマン。彼の目に、僕はどう映っているのかな。 腕と胴がなき別れになった今、どう思っているのかな。 どくどくと血が流れる気分は、一体どんなだろう? 「ねぇ、今、どんな気持ち……?ねぇ、お・と・う・さ・ん?」 彼の目から光が消える間際、僕はそう尋ねる。ただ、返答はなく、「あ、あぁ、ぁ……」とただ怯えていただけだ。 こんな時、サスペンスドラマのように誰かが解決するか?いや、しない。あんなゲテモノ、「リアリティ」がないんだよ。 恐怖に染まり、絶望に染まり、黒を残して死ぬ……それこそが、人間としての美学だ。 「昨夜、広島県広島市の路地にて殺人事件が発生し、警察はーー」 「あら、ここのすぐ近くじゃない」 彼女は、テレビにそう返す。彼女は、その被害者が僕の父さんだと知らない。 「おう、元気してたか!」 ニカッと笑ってこっちにくる親友。この人も、知らない。 次は、どっちの鳴き声を聞いたらいいかな。どっちの方がいい鳴き声を出すのかな。 ここを去るとき、いったいどんな瞳をしているのかな……?いや、ならいっそどっちも試してみようか? これこそが、真の「リアリティ」であり、人間の本性……! 二人がテレビを見ている中、ポケットに忍ばせたナイフをそっと持ってくる。 「ねぇ二人とも……」 「ちょっと、死んでみてよ」 次の日、二人の遺体と一人の快楽殺人者が発見されたという。それを発見した警察官は、いったいどうしたのだろうか。決まっている。 人生を、諦めた
命の鼓動
トクン、トクン。 この心臓が生きている事を告げている。 イノチって、何? 生きるための魂か?宇宙の神秘か? 答えは未知。 昔から生き物は、「自分の種族を未来に残す」ために進化してきた。 偶然か?はたまた神の気まぐれか? 自分は、「イノチ」が生まれてくるのは「生まれてくるべき使命があるから」だと思っている。 でも、その最初のイノチは、何を考えたのだろうか。 孤独だったのかもしれない。自由だったかもしれない。 もしかしたら、感情を持たずに消えいってしまったのだろうか。 「イノチ」とは、欠陥品だ。 たかが一瞬。一瞬で、イノチの灯火は消え去ってしまう。その一瞬に、どれだけの人がどれだけの時間を費やしたかも知らずに。 イノチは、いずれ来る時のために。託された使命を託している。それもまた使命だから。 ただただ、何のために「生きよう」としているのかもわからない。 そう。 わからないんだ。 この世の中には謎が多すぎる。そんな俺も、トクン、トクン。 使命を果たすのは俺が生きている時か?それとも使命はまた託されるのか? トクン トクン この音は、使命に対する覚悟に対する表れとも言える。 なにせこれは、生きている証。イノチの鼓動なのだから……
目立ちたがり屋の未希葉さん
みんなが無邪気に楽しむ休み時間。 はぁ、と椅子の上でため息を吐いても、何かを言っててくれる人はいない。 「私だって、女子高生だもん」 たん、たたたん、とスマホをタイプする音だけが私の耳に届く。 新作、何を書こう。何をテーマにしよう。そんなことが頭を巡る。。 私だって、目立ちたい。楽しみたい。もっと、「J☆K☆」したい。でも、私は学校では空気。何かをする勇気がないまま、ただただそこら辺をふよふよと浮いている。 だから、私はこのNoveleeで輝く。目立つ。楽しむ。 私には、小説と音楽しかないんだ。私に、ネタを。私に、小説を。私に、自信を。 何も持ってない私は、また大した覚悟も持たずに「募集」をかける。 そんな時、ピロン!と通知が鳴る。ただ、それは正直大してほしくもない通知。「〇〇さんが…」と新作のお知らせだけだった。 キハミという私の名前をもじったアカウントネームが、いつのまにか本当の私になっているようにさえ思えてくる。 「美希葉さん」 唐突に声をかけられ、私だと理解するのに時間がかかる。 「え、私?」 その相手は、最近隣になったえっと…藤田さんだっけ。 「そうそう。それ、小説?」 ……しまった。 これは私の最重要機密情報。これを知られたらハブられて、J☆K☆する余裕なんて無くなってしまっ…… 「すご!てかそれってもしかしてNovelee⁉︎実は私も……」 そう言って見せられた画面は、最近私とSNS上で友達になった「べほいみ」さんだった。 「べ、べほいみ⁉︎私、キハミ(旧→キトリ)なんだけど」 「え、キハミさん⁉︎すっごい偶然」 こんな「⁉︎」が飛び交っているこの会話も、この空気に見事に溶け込んでいた。 「藤田さん、いいよね。あんなに作品読まれて。いいねされて。コメントされて。輝いてて」 流れで言った言葉が、私を縛り付ける。何を言ってるんだ、ただの嫉妬心だろう。そう、後悔する。 「あー……未希葉ちゃん、もしかして「目立ちたい、輝きたい」って思ってない?」 「んなっ……」 なんでわかるの?と言いたかったが、最初の「な」が変な「んなっ」になり、言葉が詰まる。 「だって、私がそう「だった」から」 「なんで過去形なの?」 「えっとね。私も実は、そう思っていた時って平均1いいね0コメントだったんだよね。でも、最近はちょっと違う」 そうか、変わったんだ。べほいみは。藤田さんは。そう、なんとなく察した。 「目立つことは実はただの称号で、結果。「私はこれが書きたい!」と思ったものを丹精込めて書いたもの。その時初めて、輝けるんじゃない?」 がつん、と……まるで、岩が私の頭目掛けて落ちてきたかのような痛みが走る。 「ありがと、藤田」 藤田と話したこの一瞬だけ、「未希葉」でいれた。この一瞬だけ、満たされた。そして、何よりも、私を縛っていた鎖から助けてくれた。 そう。「目立つこと」「輝くこと」は、あくまでも結果。目的じゃない。何にも解決していないはずなのに、妙に心がすっきりする。 私、書きたい。この一瞬を。 私が…………絶対に書きたい一瞬なんだ。 そして、今。久しぶりに魂を込めてとん、とん、とタイプして、とたた、と消す。それだけの作業だけど、私にとっては今までの何より大切なことなんだ。