リス
7 件の小説突然の…?
蓮華は巡回を終えて家に帰った。 「ただいま帰りました」 静かに、誰にも聞こえないようにそっと挨拶をして家の中に入る。とは言っても家に仕える使用人は聞いているので、挨拶が命と言う家族に『挨拶してないだろ!』などと言われても言い返せる。 と言うはずだったのだが、なんと今日は玄関で家族のお出迎えがあったのだ。なんとも言えぬ仕事から帰って来たサラリーマンのような気分になったが、とりあえず話しかけなければならない。あちらが好きで出迎えたのなら、あちらから話しかければ良いものだが、それをしないのが蓮華の家族である。 「今日は皆さんお揃いのようですね。…何か問題でもありましたか?」 とりあえず話しかける。 すると… 「いえ、、ね?」 “いえ、、ね?…………なんだよ!それだけで伝わると思ってんのかなコノヒト“ この、いえ、、ね?しか言わない母に腹が立ちながらも蓮華は質問をする。 「ご用件はなんでしょうか、父上?」 「………………………………」 1分いや、体感では10分とも感じられる長い長い家族との睨み合いを経て、ようやく父が口を開く。 「明日、術家の会合があるのを知っているな?」 「はい、もちろん…。」 「そのことなんだが………」 父にしては珍しく言葉に詰まっている。何かあったのだろうか? 「……………」 またまた長い沈黙を経て再び父が重い口を開く。 「明日の会合、急遽私はいけないことになってしまった。」 「…………え?…………」 「……………」 「だから、、、なんですか……?」 「察しの悪い子ね。」 母が言った。頼むから母には黙っていてほしい。 「……すみません……。」 「…………」 “何がなんでも自分では言わないつもりなのかな?“ 少し苛立ちながらも、自分の考えを話してみる。 「それはつまり、父上が出席できない代わりに私に出席してほしいと言うことでしょうか?」 「そういうことだ。」 “おお、父もこんなに速く応答できるのか!“なんで呑気にも思いながら、、 「急すぎでは?一体どんなご用事で?」 「……」 「それがだな、北にある雷零の街は知っているだろう?そこで謎の被害が多発していてな……急遽一番近い五城家が様子を見に行くことになってしまったのだ。だから、私とあとはこの二人を連れて明日雷零へ行くことにした。と言うわけで、残るお前が会合に出ろ。どうせ次期当主なのだから、何もおかしくないだろう?一番妥当だからな。」 「……」 “それはつまり?なんなんだ。別に父だけでいいじゃないか。どうせ母も弟も何もしないのだから。“ そしてふと思った。“別に雷零に行くのなら私でも良くないか“別に行く人が指名されている訳でもない。ならば私一人が行くので十分な気もする。 そんなことを思っていると、 「話はそれだけだ。」 そう言って3人は玄関から去った。母と弟は最後に嫌味な顔を残して。 「さあ、大変…どうしたらいいのよ?……明日って、、どう考えてもおかしいじゃない……。」
決着
体内の力の循環に意識を向けて集中し、 胸の前に出した手の中に力を貯める。 目の前の敵を倒すために必要な力加減で。その力の大きさに過不足のないように。少なすぎても倒せず、多すぎても無駄な力を使って自分が疲労するだけだ。 だからこそ、力配分は間違えないように。 “うん、十分…“ その瞬間、 −−ピカッッ! 目の前が真っ白になって目の前にいたはずのバケモノは跡形もなく消えている。 「ふう………………終わったか。」 蓮華がホッと息をついたところで周りの人々の意識が戻る。 「あ、れ?………何かいた、、よね?」 「なんか変に体が震えて…固まって…? あれ、なんでこんなとこで倒れてんのかな?………」 周りの混乱に紛れてその場から離れると 店の物陰に隠れて先ほどまでいた場所の様子を伺う。 「うん、問題なし……。」 そうして蓮華はまた巡回に戻る…。
人ならざるもの
少しの緊張と焦りでいつもより余計に冷や汗をかく。周りを守りながら、果たして自分はこの敵に勝てるのか…。このところ人ならざるものの相手をしていない蓮華は少し考えた。すると、 “”ドゴォォン!“” そんな蓮華を現実へと引き戻すように攻撃が開始された。 人ならざるものは人よりもかなり大きな力を持つ。 が、しかし。 蓮華にそんな心配は杞憂である。いくら本人が心配していても、保持する力の大きさは人ならざるものに負けずを取らず…というよりかは、ほとんどのバケモノを卓越した力をもっているので、罠や集団攻撃、体調不良など、よほどの想定外のことが起こらない限りは負けることがないのである。 というわけで、世間の皆さんからは “無敵の女王“” などと呼ばれている。 (本人は嫌がってるけど…)
巡回
そんなある日のことである。蓮華は街に出かけていた。この街は発展している。明るくて、賑やかで…少し歩いているだけでも楽しいのが時塔の街である。蓮華がそんなところで何をしているのかというと、買い物…と言いたいところだが、実は買い物ではない。巡回をしているのだ。この街にも警察はいる。それでも解決できない奇怪な問題がある。要するに妖怪や魔物といった人ならざるものが起こす問題だ。それは流石にただの一般人である警察が解決できるようなものではないため、それぞれの街を守る七つの術家がそれぞれの街を守るためにこまめに巡回しているのである。今日は蓮華が当番の日。当番の日は朝から翌日の明朝まで常に外に出て警戒している必要があるため、通っている学校は休んで良いことになっている。(実を言うと蓮華は大学1年生。同じ術家の人間にも術師であることを隠して通っている。) 「今日も平和かなぁ…」 そんなことを呟きながら、それでも周囲に気を配りつつ歩く。“人助けも仕事である“それが人とは異なる力を持った者の使命なのだ…という家訓があるくらい五城家は良い家だったのだ。それに則って、いや、則らずとも進んで人助けをするのが五城蓮華である。そんな時、 ““ドンっ““ 不意に後ろから鈍い音がした。 “なんだ?“ 慌てて後ろを振り返る。すると… 「有、どうしたの⁈ねえ!…ねえって」 8歳くらいの男の子が頭から血を流して道の真ん中で倒れており、それを見た母親と見られる女性が有という男の子に向かって必死に叫んでいる。迷う暇はない。蓮華は慌てて後ろに向かって駆け出す。 「どうしたんですか?」 蓮華が聞くと、 「歩いていたら急にこの子が倒れて…」 どうやら、この子はなんの前触れもなく倒れたようだ。 「とりあえず誰か救急車を呼んでください!」 そう言った瞬間、悪寒がした。鳥肌が立つような、一瞬で世界が変わったように空気が冷たく感じる。“何かいる…何かある…“直後、これが人ならざるものによる仕業であると確信した。迫り来る妖力、それに伴い空気がより張り詰める。 「皆さん塔の方へ逃げて下さい。今すぐ!」 慌てて声を上げた。しかし… 「何⁈」 周りにいた人間が逃げる間もなく倒れ始めたのだ。大きな妖力に当てられてなのか、近づく妖怪によるなんらかの力によるものなのか…。必死に考えを巡らせる。次の瞬間、大きな力の塊が蓮華の方に向かってきた。蓮華は冷静に妖結界を周囲に張る。“”キンッ“”鈍い音がして塊の正体が見える。それは、怨念のこもったようなドス黒い紫色のオーラを纏い、苦しむように激しく妖力を撒き散らしている。力を持たない一般人は一瞬で気を失うような大きな妖力…。蓮華はそれを見下すように真っ直ぐと見据え、攻撃の構えをする。
五城蓮華
五城蓮華は膨大な力を持った術師である。それは素晴らしいことであり、この國で五城として生きていくのにはとても良い。しかし、それが故に苦労することもある。 鳥の鳴き声、心地よい風の音、朝日の光…朝が来た…。蓮華にとって朝は良い時間とは言えない。 “身体が重い…頭が痛む…体が思うように動かない……“ 重い身体を無理やり起こして立ちあがる。 「今日は一段とひどいな…」 蓮華はぼそっと呟いた。 蓮華は大きな力を持っているため、そらが足枷となり特に寝起きは身体が動かしにくい。それというのも、寝ている間に前日にすり減らした力を自ら補給したり増やしたりしていて、まだ朝起きたばかりの時は力の制御が効かない場合が多いからだ。小さな力であればさほど制御に力はつかわないが、力が大きくなればなるほど制御にかける力も大きくなっていくのだ。いわゆるこれが比例ってやつかな。それが思った以上に辛い。最近は力もかなり増えたが、重ねた年数の分慣れてしまったため昔以上に大変ではない。まあ、それにしても大変だ。なんて言ったって朝だからね。 それから部屋の外に出る。日光をしっかり浴びることは術の質や精度、力の大きさや制御力、効率などすべてにつながってくるからだ。この朝日に助けられているとは言え、朝が嫌いな蓮華にとってはあまり嬉しくはないことである。決して陽が嫌いなわけではないが…… そして、朝食を食べるために居間へ行く。そこで待っているのは家族からの冷ややかな目線。出ていないはずのオーラが見えるくらい露骨に蓮華のことを嫌っていることがわかる。父は現当主であり蓮華ほどとまではいかないが、大きな力と技術を持っている。そのためか、他の家族よりかは蓮華への態度は良いものだ。問題は弟と母である。弟は明らかに蓮華のことを嫌っている。そんな弟のことが大好きな母は必ず弟側につく。(つまり、蓮華が嫌いってことね) 「おはようございます、皆様。今日も良いお天気でございますね。」 そんな挨拶をすませて自分の席に着く。毎日のことではあるがご飯の時間は空気が信じられないくらい重い。楽しい話の一つも出てこないのだ。蓮華はそんな空気が好きではない。 名家に生まれ、幸運にも強い力を持つ彼女にも悩みはあるのだ。 “あーあ。私も普通の家に生まれたかったなあ“ そう思う日は毎日である。次期当主としての重圧、周囲からの嫌悪の目線、権力を欲する者からの対応… 大きな力があっていいなあ、なんてみんな言うけど、そんなんがあっても普通に家族と楽しく暮らせないのであればごく普通の家に生まれた方がよかった。 蓮華は今日もそう思う。
紹介
この國には「一城」「二城」「三城」「四城」「五城」「六城」「七城」という七つの名家がある。この七つの家に共通するのは、術師の家系の本家であるということだ。國に居る術師は全てこれらの家系である。 そんな名家の中の一つ、五城家の娘である「五城蓮華」は現五城家の長女であり、次期当主の最有力候補であった。彼女はずば抜けて膨大すぎる力を持っており、黄昏の國の中では一番の力の持ち主だ。そんな彼女には一人の弟がいる。名は「蓮」という。姉弟揃って似たような名前をつけた両親の心境はわからないが、紛らわしいため二人とも名前で呼ばれるのは好きではない。そんな二人の仲は決して良いものとは言えない。いや、良いものであったという方が正しい。昔は仲も良い二人であったが現在では姉の才能を羨む弟が一方的に蓮華を毛嫌いしている。そのためか、蓮華も蓮に近づき難くなってしまい二人の仲は悪くなってしまった。悲しいことではあるがそれが現実である。
物語のはじまり
いつも通りの朝、目が覚めるととても憂鬱。朝日が妙に目障りで、起きるのが嫌だ。こんなのは毎日のこと。そう、私にとってはよくある話なのだ。 布団から出る。身体は妙に重い。 なぜなのか… そんなことははじめからわかりきっていることだ。 舞台は黄昏の國・時塔という街。古くから栄えるこの街にはある秘密が隠されている。 この世界には“術“というものが存在する。“術“とは、普通の人間は持たない、ごく僅かな人間にだけ操ることができる特別な力のこと。これからの話はその“術“を操ることができる家系に生まれた、ある一人の少女の物語である。