『夢屋』

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『夢屋』

いらっしゃいませ。『夢屋』と申します。 当店では「少しだけ現実を離れて、非現実を味わうお手伝。」をモットーに、小説を書いています。(不定期です!) どうぞごゆっくりお過ごしください♪ (月夜の泡沫がメインの小説です!) 誤字あるかも!よろしくお願いします!

ふたりぼっちの終末日記

第五話 奈落都市  多層構造都市へ入ってから、五日が経っていた。 「……もうやだ。」 アメリアが完全に死んだ目で呟く。 「それ、三日前から聞いてる。」 ナツも疲れ切っていた。 この多層構造都市は相変わらず異常だった。 道が上下左右に入り乱れている。  地面だと思っていた場所が壁になり、天井だった場所が通路になっている。 崩壊のせいで構造そのものが歪み、人間の感覚では方向が分からなくなっていた。 しかも広い。 どこまで進んでも灰色の景色が続く。 「ナーちゃん、今どっち向いてる?」 「……北、だと思う。」 「“だと思う”多くない?」 「しょうがないでしょ!」 少し苛立った声になる。 疲労は確実に溜まっていた。 食料はまだある。 水も節約すれば持つ。 だが精神が削られる。 空が見えないだけで、人間はこんなにも不安になるのかと、ナツは何度も思った。 ウーくんを走らせ続け、さらに数時間。 その時だった。 「……あ。」 前方の通路が、完全に塞がっていた。 巨大な瓦礫。 崩れ落ちた鉄骨とコンクリートが積み重なり、道を埋め尽くしている。 「どうする?」 アメリアが真顔で言う。 「………」 ナツはウーくんを止め、瓦礫を見上げた。 登れなくはない。 だがウーくんを運ぶのは無理だ。 「迂回する?」 「……また迷うかも。」 「だよねぇ。」 2人の間に沈黙が流れる。  しばらく考え込んだあと、ナツがぽつりと言う。 「……壊す?」 「え?」 「ほら、この前拾ったダイナマイトがあるじゃん。」 アメリアの目が丸くなる。 「ナーちゃん、たまに脳筋になるよね。」 「ミアにだけは言われなくない。」 以前レーションを拾った物資の中に、それはあった。 ナツは念の為と取っておいたのだ。 本来は採掘用なのだろう。 危険だが、使えないことはない。 「まあ、他に方法ないか。」 アメリアが肩をすくめる。 二人は瓦礫の隙間に慎重にダイナマイトを設置した。 コードを伸ばし、安全な距離まで下がる。 「準備いい?」 「いつでもー」 ナツは小さく息を吸い、 起爆装置を押した。 『ドォォン!!』 爆音が都市全体に響き渡る。 衝撃で空気が震え、砂埃が舞い上がった。 「おお……」 瓦礫の一部が崩れ落ちる。 どうやら成功らしい。 「やったじゃんナーちゃん!」 「これなら通れ……」 その瞬間だった。 『ギ…ギギ………』 「……え?」 頭上から、嫌な音が響く。 爆発の衝撃で、周囲の巨大なボルトや接合部が緩んだらしい。 『バキッ! バキッ! ガンッ!』 ネジが弾け飛び、天井や通路が徐々に歪んでいく。 「ナーちゃん、これって…」 「下がるよ!」 「ちょ…!」 『バキン!!』 その時、足場がひしゃげて崩壊。 「うわあああああ!?」 ウーくんごと、二人の身体が宙へ放り出される。 崩れる鉄骨。 落ちていく瓦礫。 上下すら分からない暗闇。 ナツは咄嗟にハンドルへしがみついた。 「ナーちゃあああん!!」 「ミアぁぁぁ!!」 二人はこうして奈落へと落ちていった。  「……ぅ……」 最初に目を覚ましたのはナツだった。 身体中が痛い。 視界もぼやけている。 幸いにも、何かふかふかしたものの上に落ちたようだ。 「これは……苔?」 もし、この苔がなかったらと考えると恐ろしい。 「……ミア?」 「……んぇ?」 近くから気の抜けた声が返ってくる。 どうやら生きているらしい。 「よかった……」 ナツは安堵しながら身を起こす。 「いやぁ〜、酷い目にあったぁ。」 「……ごめん。」 「………まっ!二人して無事だしいいでしょ!」 「ミア……」 「よっし!切り替えるよ、ナーちゃん!一体ここはどこなん………」 そこでアメリアは一点を見つめたまま固まった。 「……ミア?」 「ナーちゃん……あーしたち、死んじゃったんじゃない?」 「え?」 ナツは、アメリアの目線の先を見た。 「……うわぁ。」 そこは、幻想的な空間だった。 巨大な空洞。 崩れた都市のさらに下。 天井いっぱいに、青白く光る苔が広がっている。 まるで星空だった。 淡い光が闇を照らし、静かな水面へ反射している。 周囲には、古びた建物の残骸。 沈みかけた道路。 崩壊した塔。 都市が、そのまま地下へ落ちたみたいだった。 「……綺麗。」 アメリアが呆然と呟く。 ナツも言葉を失っていた。  こんな場所が、この世界に残っているなんて思わなかった。 まるで理想郷、極楽にでもいるかの景色だ。 終わった世界の底。 誰にも知られず眠っていた、光る都市。 「……奈落都市だ。」 ナツは小さく呟く。 その声だけが、静かな地下世界へ溶けていった。 次回 第六話 植物

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ふたりぼっちの終末日記

フィナーレ

 誰もが、輝かしいフィナーレを望んでいる。 長い旅路の果てに拍手が鳴り響いて、涙を流しながら「よかったね」と笑い合う。 物語の主人公たちは困難を乗り越え、最後には幸せを掴む。 そんな終わり方を、きっと誰もが期待している。  私だってそうだ。 苦しみ続けた人には報われてほしいし、泣き続けた人には最後くらい笑っていてほしい。 積み重ねてきた時間が無意味だったなんて、そんな終わりは嫌だ。  だから人は、「ハッピーエンド」という言葉が好きなんだと思う。  でも、最近ずっと考えてしまう。 そのフィナーレの裏側には、一体誰がいるんだろうって。  例えば、誰かが夢を叶えた瞬間。 その席を目指していた別の誰かは、静かに夢を失っているのかもしれない。  誰かが愛されて幸せになった時、選ばれなかった誰かは、自分には価値がなかったのだと思ってしまうかもしれない。 勝者がいれば、敗者がいる。  そんな当たり前のことを、私は昔からどうしても綺麗に飲み込めなかった。  テレビの向こうでは、優勝した人が泣きながら笑っている。 その姿は確かに美しい。 だけど私は、映らない場所を考えてしまう。 あと一歩届かなかった人。 期待されながら失敗した人。   誰にも覚えられずに終わっていく人。 きっとその人たちにも人生があった。 努力した日々があった。 眠れない夜も、悔しさで震えた時間もあった。  なのにフィナーレでは、そういうものは簡単に切り捨てられてしまう。 まるで最初から存在していなかったみたいに。 物語は終わりを美しく描こうとする。 だって、その方が気持ちいいから。 見ている人も、読んでいる人も、救われた気持ちになれるから。  でも私は時々、その「救われた気持ち」が怖くなる。  綺麗な終わり方を見れば見るほど、そこから零れ落ちた人たちが見えなくなる気がするから。 フィナーレは、光が強すぎる。 強すぎる光は、影を濃くする。  誰かが「これで全部よかったんだ。」と言い切るたびに、私はその言葉に置いていかれた人を想像してしまう。 本当は、誰もが納得できる終わりなんて存在しないのかもしれない。 誰かの幸せは、別の誰かの諦めの上に立っていて。 誰かの歓声の裏では、声も出せずに俯いている人がいる。  それでも世界は、華やかなラストシーンを求め続ける。 きっとその方が前を向けるからだ。  ただ、私は、フィナーレそのものを否定したいわけじゃない。 救われる物語は必要だと思う。 苦しみの果てに幸せがあると信じられなければ、人は途中で歩けなくなる。 私は、忘れたくないだけなんだ。 その輝きの外側にいる人たちを。 拍手が鳴り終わった後、誰にも気づかれずに立ち去っていく人を。 「おめでとう。」の声に紛れて、自分の夢を静かに埋める人を。 きっと本当に優しいフィナーレって、全員が笑って終わることじゃない。 笑えなかった人の存在を、ちゃんと覚えていることなんじゃないかと思う。 世界はたぶん、そこまで綺麗じゃない。 誰かの物語が終わるたびに、別の誰かの何かが終わっている。 それでも人は、光に手を伸ばす。 きっと、それが間違いだとは思えないから。  だから今日もまた、どこかでフィナーレが鳴り響いている。 眩しいほど綺麗に。 そしてその裏で、誰にも知られないまま、静かに幕を閉じる人がいる。

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フィナーレ

ふたりぼっちの終末日記

第四話 露天風呂  北へ進み続けた先で。 二人の前に現れたのは、またしても“それ”だった。 「……うわぁ。」 アメリアは露骨に嫌そうな声を出す。 それは、巨大な壁。 いや、街そのものだ。 幾重にも積み重なった建築物が空を覆い隠す、多層構造都市。 崩れた高架。 絡み合う配管。 無数の建物が積み木みたいに重なり合い、地平線まで続いている。  まるで世界そのものがコンクリートになったみたいだった。 「またこれぇ……?」 アメリアがぐったりする。 ナツも同じ気持ちだった。 前に通った多層構造都市は抜けるだけで、七日かかった。 それに、太陽光で動くウーくんも、動かなくなる寸前だった。 正直、もう入りたくない。 「迂回できないかな。」 「できないかなぁ……」 ナツは双眼鏡を取り出し、辺りを見回してみた。 だが。 「……あ〜無理っぽい。」 ナツは眉をひそめた。 周囲は崩落地帯に囲まれたような形状をしており、まともなルートが存在しない。 遠回りしようにも、崩落地帯は危険すぎる。 「つまり?」 「……通るしかない。」 「終わった。」 アメリアが空を仰ぐ。 「ナーちゃん、あーし、学んだんだよ。」 「なに。」 「こういう場所って絶対ロクなことない。」 「それは本当にそう。」  結局。 二人は、多層構造都市へ足を踏み入れた。 中は相変わらず薄暗かった。 空は見えず、古びた照明だけが時々点滅している。 どこからか機械音が響き、遠くでは鉄骨の軋む音が聞こえた。 方向感覚はすぐ狂う。 似たような通路。 似たような瓦礫。 似たような景色。 時間の感覚まで曖昧になっていく。 「ナーちゃん。」 「なに。」 「今どっち向かってる?」 「……たぶん北。」 「“たぶん”かぁ。」 「しょうがないでしょ。」  二日が経った頃には、二人とも完全に疲れ切っていた。 「もうやだ……」 アメリアがウーくんのサイドカーに突っ伏す。 「お風呂入りたい……」 「贅沢言わない。」 「でもベタベタする〜」 確かに、汗と埃で気持ち悪い。  水は貴重だから、まともに身体も洗えていなかった。 「最後に入ったのっていつだっけ?」 「うーん、四週間ぐらい前じゃない?あーし、覚えてないよぉ。」  そんな時だった。 ふいに、二人の視界が開けた。 「あ。」 二人は同時に顔を上げた。 そこは都市の外壁が崩れた場所だった。 遠くまで景色が見える。 月光に照らされる雲海。 不覚にも、二人してその景色が綺麗だと思った。 「……高。」 ナツが呟く。 地上は遥か下だった。 落ちたら助かりそうにない。 「降りれそう?」 「無理そう。」 「ふへぇ〜。」 アメリアは手すり代わりの鉄骨に寄りかかった。 風の音が二人の方を撫で、目の前に広がる 月光で照らされる雲を流していく。 「困ったもんだ。」  ナツが腰の力を抜き瓦礫にもたれかかった、 その時だ。 『ポタン…』 「……ん?」 ナツの鼻先に、水滴が落ちた。 しかも、ぬるい。 見上げると、頭上には古びた配管が走っていた。 「ミア。」 「ん?」 「あれ……」 「……給湯管?」 「多分。」 『………』 二人は顔を見合わせニヤリと笑う。 アメリアはセーフティを外したライフルを構える。 「任せな。」 『バァン!』 乾いた銃声が響く。  次の瞬間。 『ゴォォォッ!!』 「うわっ!?」 配管が破裂し、大量のお湯が噴き出した。 白い湯気が一気に広がる。 「おおおお!?」 「温泉だぁ!」 アメリアがはしゃぐ。 ナツも思わず目を丸くした。 「ここまでとは……」 「嬉しい誤差だね!」 アメリアはその吹き出たお湯に触れる。 「ねぇ!ナーちゃん!さっきドラム缶あったよね!」 「あぁ、少し戻って持ってこようか。」 「久しぶりのお風呂だぁ!」  二人は急いで近くに転がっていたドラム缶を運び、お湯を溜め始めた。 ほんの十分ほどで、簡易風呂が完成した。 「……入る?」 「もちろん!」  服を脇へ置き、二人はそっと湯へ浸かる。 「……ぁぁ〜……」 アメリアが完全に溶けたような声を出す。 「生き返るぅ……」 「……ちょっと熱いけど、これは気持ちいな。」 ナツも珍しく素直に頷いた。 温かい。 それだけで、身体の疲れがほどけていく。 崩れた都市の高所。 灰色の世界。 その真ん中で。  二人だけの露天風呂から、白い湯気が静かに立ち上っていた。 「ナーちゃん。」 「んー?」 「ここ住む?」 「嫌だよ。」 「即答かよぉ〜。」 「だってまた迷うじゃん。」 「それはそう。」 二人は小さく笑う。  終わった世界の中で。 そんな笑い声だけが、ほんの少しだけ温かかった。 次回 第五話 奈落都市

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ふたりぼっちの終末日記

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 どうも、『夢屋』です! 先ほどに続けてご報告です! この度、アルファポリス、そして カクヨム にて、『ふたりぼっちの終末日記』の投稿を開始しました! 終末世界を旅する、ナツとミアの物語を、 それぞれのサイトでも楽しんでいただけたら嬉しいです! これからも『ふたりぼっちの終末日記』をよろしくお願いします!

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連載の投稿日について!

 どうも皆さん! お世話になっております、『夢屋』です! 『ふたりぼっちの終末日記』ですが、思っていたより多くの方に読んでいただけて、とても嬉しいです! そこで、皆さんにご報告がございます! この『ふたりぼっちの終末日記』の投稿日を、“終末”にちなんで、毎“週末”の土曜日か日曜日に一話、更新することに決定いたしました! (それ以外の短編に関しては、引き続き不定期です。) これからも、ナツとアメリアの旅をゆっくり見守っていただけると嬉しいです! 今後とも『ふたりぼっちの終末日記』をよろしくお願いいたします! あ! コメントなども受け付けておりますので、ご遠慮なくぅ〜。 活動の励みになります!

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連載の投稿日について!

ふたりぼっちの終末日記

第三話 馬?鹿?  物資輸送車で見つけたレーションのおかげで、ナツたちはどうにか食いつないでいた。 とはいえ、生活が豊かになったわけではない。 朝は固いレーション。 昼も、もちろんレーション。 夜も、だいたいレーション。 「……飽きた。」  サイドカーにぐったりと寝そべりながら、アメリアが死んだような声を出す。 「知ってる。」 ナツはハンドルを握ったまま短く返した。 荒れた道路をウーくんがゆっくり進む。 周囲には崩れた高架や、半分埋もれた建物。 空は白く濁り、風は乾いている。 二人は“都”があるとされる北を目指していた。 都がなんなのかはもちろん知らない。 でも、世界がこうなる前に暮らしていた『第七コロニー』の大人たちは言っていた。 『ナツ、アメリア、お前たちはここを出て、都を目指せ。生き残るにはそれしかない。』 だから二人は、ずっと北へ向かっている。 「ナーちゃん。」 「なに。」 「別のもの食べたい。」 いつものわがままだ。 アメリアは、いつものように適当に流されると思っていた。 その時。 「……まあ、それは分かる。」 ぽつりとナツから言葉が漏れた。 「……え!?」 「なんだよ。」 「今ナーちゃんが同意した!?」 「そんな驚く?」 「いやだっていつも“贅沢言わない”って言うじゃん。」 「……レーションだけは、さすがにキツい。」 ナツは小さくため息をつく。 栄養は取れる。 生きるだけなら十分だ。 でも、恐ろしいほど味気ない。  毎日同じ味ばかりだと、人間はだんだん心まで乾いていくものだ。 「肉食べたいなぁ……」 アメリアが空を見ながら呟く。 「焼いたやつ。ジュージューしてるやつ。」 「……そんな都合よく動物なんて…」 そこまで言いかけた時だった。 「……ん?」 ナツが目を細める。 遠く。  雪の積もる瓦礫の向こう側に、何かが動いているのが見えた。 「ミア。」 「見えてる。」 ナツはウーくんを止めた。 そして、二人は同時に身を乗り出す。 そこにいたのは、大きな四足歩行の生物だった。 細長い脚。 やや丸い胴体。 灰色っぽい体毛。 「……鹿かな?」 ナツが呟く。 「いや馬じゃね?」 アメリアは即座に反論する。 「小ちゃいけど、角あるよ。」 「でも顔長いじゃん。」 「鹿だって長いでしょ」 「えー?」 その生物は、まだこちらに気づいていない様子だった。 「やっぱり、鹿っぽいな……」 「絶対馬だって。あーしには分かる。」 「何その自信。」 「勘。」 「最悪。」 しばらく真面目に討論する二人。 終末世界とは思えないくらい、どうでもいい議論だった。 「じゃあさ。」 アメリアがニヤリと笑ってみせる。 「賭ける?」 「何を。」 「負けた方、水汲み一週間。」 「重い。」 「勝負の世界は厳しいのだよナーちゃん。」 「……じゃあ鹿。」 「馬!」 二人が言い合った、その時だった。 ふいに、生物がこちらを向く。 そして、 「あ。」 「……あー。」 その生物の首元。 そこに、青白く光る核が埋め込まれていた。 金属質のフレームも見えた。 「…なんだ。」 ナツが気の抜けた声を出す。 「人工生物か。」 「引き分けだね。」 アメリアはすっとライフルを構える。 さっきまでの議論が嘘みたいな動きだった。 『カチャリ』とセーフティが外れる。 「サポートいる?」 ナツは鉄パイプを構え、アメリアに聞く。 「いや、いい。」 『バァン!』 乾いた銃声が響く。 次の瞬間。 ライフルのバレルから、7.92mm×57mmモーゼル弾が回転しながら飛んでいき、人工生物の核を砕いた。 (バレルとは、弾丸が発射される際に通過する細長い円筒状の部品のこと。)  人工生物は、一瞬だけ身体を震わせその巨体をゆっくりと倒した。 「……相変わらず上手いね。」 ナツが感心したように言う。 アメリアはライフルを肩に担ぎ、得意げに笑った。 「ナーちゃん、あーしのこと、もっと褒めてもいいんだよ?」 「やだ。」 二人は人工生物へ近づく。 その亡骸は、生物と機械の中間みたいだった。 毛皮の下には肉と金属骨格が入り乱れている。 割れた核からは、淡い光が漏れていた。 気味が悪い。 でも、 「食べれるかな。」 「食べれるでしょ。」 この世界では、それが普通だった。 本物の動物なんて、ほとんど残っていない。 だから生存者は、人工生物でも食べる。 生きるためにはそれに慣れるしかないのだ。 「よーし。」 アメリアが腕を捲り気合を入れる。 「今日は久々の肉だー!」 「……ちゃんと焼いてね。」 「え?」 「え?じゃない。」 ナツは真顔で言った。 遠くの空には、灰色の雲。 壊れた世界は、今日も静かだった。 次回 第四話 露天風呂

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ふたりぼっちの終末日記

ふたりぼっちの終末日記

第二話 戦争  ウーくんのエンジン音が、乾いた大地に細く響いていた。 どこまでも続く瓦礫の道。 崩れた建物の骨組みが、まるで墓標みたいに突き刺さっている。 「ナーちゃんさ。」  サイドカーでだらけていたアメリアが、ふいに口を開く。 「戦争ってなんでするんだろうね。お腹膨れないと思うんだけど。」 それは、あまりにも気の抜けた疑問だった。 ナツは少しだけ考えてから、前を見たまま答える。 「……領土の主張とか、物資の確保とかじゃないかな…」 「ふーん。そうなのかぁ。」 アメリアは興味なさそうに空を見上げる。 「でもさ、そんなのさ。」 「うん。」 「結局、取り合うくらいなら分ければよくね?」 「……それができないから、戦争になるんでしょ。」 「人間ってめんどくさ。」 「あたしたちも人間じゃん。」 「え、あーしらは例外じゃね?」 「全然、違う。」  そんなやり取りをしていると、ナツの視界に何かが映った。 「……止まるね。」 ウーくんがゆっくりと減速する。 そこにあったのは横転した輸送車の残骸だった。 装甲はひしゃげ、タイヤは外れ、完全に役目を終えている。 「お、食料あるかな?」 アメリアが身を乗り出す。 「……あるかもしれない。」 二人は慎重に近づいた。 周囲に動く気配はない。 トラップもなさそうだ。 それに、人工生物の影も今のところは見えない。 『ガンッ!ギギギギィ……バコンッ!』 ナツがいつもの鉄パイプで車体の後部をこじ開ける。 「相変わらず、怖いよ。その開け方。」 「しょうがないでしょ。」 車内には大量の木箱が埃に塗れていた。 「……あ。」 「なになに!?」 木箱中を覗き込んだアメリアが、ぱっと顔を明るくする。 「当たりじゃんこれ!」 そこにはまだ無事な袋がいくつか残っていた。 水のボトル。 そしてレーションだ。 (レーションとは、軍隊において戦闘や訓練中に兵士へ支給される携帯用食料のこと。 カロリーメイト思い浮かべてもらったらOK。) 「助かった……」 ナツは小さく息をつく。 気づけば、アメリアはすでに箱を抱えていた。 「ナーちゃん、これチョコ味あるよ!」 「……ほんと?」 「ほらこれこれ!」 やたらテンションが高い。  やがて、二人は回収できる分だけウーくんに積み込んで、少し離れた場所で休むことにした。 風は弱く、空は灰色に濁っている。 とにかく静かな昼だった。  「じゃーん。」 アメリアがレーションを掲げる。 「本日のご飯、チョコ味でーす。」 「……最後に食べたの、いつだっけ。」 「覚えてない!」 「だよね。」 中には五つのレーションがギチギチに入っていた。 固いが、甘い匂いがする。 それだけで少しだけ、世界がマシになる気がした。 「いただきまーす。」 「……いただきます。」 二人は無言でかじる。 甘さが、ゆっくりと広がる。 「……美味しい。」 「幸せですなぁ。」 アメリアがにやっと笑う。  しばらくして… 箱の中身は、あっという間に減っていった。 「……これで、最後。」 ナツがぽつりと言う。 中にはレーションが一つだけ。 二人の間に、ほんの一瞬の静寂が流れる。 その次の瞬間だった。 『ひょいっ。』 アメリアがそれを奪い、口にくわえる。 「ちょ!」 『ガシャ。』  ライフルのボルトを弾く音が、冷たい空気を揺らした。 (ボルトとは、手動で操作することで弾薬の装填、排出を行う機構のこと。)  アメリアはレーションをくわえたまま、銃口をナツに向ける。 「動くな、これはあーしがもらう。」 「くっ…!ミア!」  その金色の瞳が、どこか楽しそうに細められる。 「ナーちゃん、あーし、わかったよ。」 「何が?」 「これが戦争ってやつだね。」 ナツは鉄パイプを構える。 冷たい風が二人の髪を揺らす。  次の瞬間。 『ブン!』 『カァン!!』 ナツの一撃が、ライフルを弾き飛ばした。 「いった!?」 アメリアの手からライフルが離れる。 そのまま、ナツはアメリアの懐に飛び込む。 『ドサッ。』 「うわっ!」 「っ……!」 そして、二人してその場に倒れ込んだ。 数秒の沈黙。 二人を地面に積もった冷たい雪が、包み込んでいた。  そして、 「……ミア。」 「なに?」 「もう一箱開けよ?」 「……そうだね。」 結局。 二人は普通にレーションをもう一箱開けた。 さっきの“戦争”なんて、なかったみたいに。 「やっぱこれ美味い。」 「さっきのは何だったの。」 「ノリ?」 「やめて。」 ナツは呆れながらも、少しだけ笑った。 世界は壊れている。 理由もなく、すべてが終わった。 でも、 こういう、どうでもいいやり取りだけは、 なぜか、まだ残っていた。 次回 第三話 馬?鹿?

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ふたりぼっちの終末日記

ふたりぼっちの終末日記

第一話 夜空  瓦礫を踏む乾いた音が、静かな夜にやけに大きく響いた。 「……やっと、出れた。」 ハンドルを握ったまま、ナツはぽつりと呟いた。 その視線の先にはどこまでも広がる夜空があった。 七日ぶりに見る、本物の夜空だ。 「うわ〜……」  サイドカーでだらりと身体を預けていたアメリアが、のそのそと起き上がる。 「ナーちゃん、星めっちゃあるね。」 「……うん。」 短く返すナツの声は、どこか柔らかかった。  『多層構造都市』かつて人類が作り上げた、巨大な避難都市。 幾重にも重なったコンクリートの層が空を覆い、光も風も、そして“外”の気配さえも遮断する場所だ。 そこに入ったのは、アメリアの一言だった。 『あれ?ここ近道じゃね?』 軽い調子で言ったくせに、あの都市の中は最悪だった。 崩れた通路、落ちかけた天井、暴走したままの機械。 そして何より、あの閉塞感。 どこを見ても、灰色。 どこへ行っても、何もかにも終わっている。 空がないだけで、こんなにも世界は違って見えるのかと、ナツは思い知らされた。 「いや〜でもさぁ。」 アメリアがぐっと背伸びする。 「こうして外出れたわけだし、一件落着だねぇ。」 「……あのね。」 ナツはため息をつく。 「七日も迷ったの、誰のせいだと思ってるの?」 「え、ナーちゃん?」 「ミア。」 「はいごめんなさい。」 その声には、いつもと同じで反省の色がない。 ナツは小さく肩を落とし、それでも少しだけ口元を緩めた。 ……こうやって、いつも通りに戻れるなら。 それでいいのかもしれない。 「ねえ、ナーちゃん。」 アメリアがふいに空を指さす。 「あれ、流れ星じゃね?」 「え?」 ナツが顔を上げる。 けれど、それはもうなかった。 「……見えなかった。」 「マジ?あーしには見えたよ、たぶん。」 「“たぶん”って何。」 「いやだって一瞬だったし。」 くすくすと笑うアメリアを見て、ナツは少しだけむくれる。 「……じゃあ、願い事した?」 「え、してない。」 「は?」 「だって願う暇なくね?」 「……それはそうだけど。」 ナツも思わず苦笑する。 静かな夜だった。 風はほとんどない。 遠くで崩れる瓦礫の音も、今は聞こえない。 ただ、世界が終わったあとの“静けさ”だけが広がっている。 ウーくん(サイドカー付きのバイク)のエンジン音だけが、小さく夜を切り裂いていた。 「さーて。」 アメリアが背もたれにぐっと寄りかかる。 「今日はここで野宿する?」 「そうだね。もう暗いし。」 「おっけー。じゃあ。あーしが、ご飯担当ね。」 「……食材あるの?」 「ない!」 「ミア。」 「はい。」 ナツは額を押さえる。 「……備蓄は、あとどれくらい?」 「えっとねー……二日?」 「……はぁ。」 ナツは、短く息を吐く。 でも、それでも。 「まあ、なんとかなるか。」 ナツはそう言った。 星空の下で。 壊れた世界の中で。 それでも、二人は進んでいく。 理由なんて、もうよく分からない。 ただ、止まらないだけだ。 「ナーちゃん。」 「なに?」 「さっきの流れ星さ。」 「うん。」 「願い事、今からでもいいと思う?」 ナツは少しだけ考えて、 そして、 「……いいんじゃない?」 そう答えた。 「じゃあさ。」 アメリアは目を閉じる。 「明日も、楽しく生きれますように……あと、ご飯ください。」 それは、あまりにも雑で、 でも、あまりにも真っ当な願いだった。 ナツは少しだけ笑って、 同じように目を閉じる。 明日も、ミアと一緒にいられますように。 「ナーちゃん、何お願いしたの?」 「教えない。」 「えぇ〜。」 夜空は、ただ静かに広がっていた。  世界は、終末を迎えた。 理由も、救いも、何ひとつ残さずに。 戦争の果てに崩壊した文明。 瓦礫に覆われた都市。 水も草も乏しい、静まり返った世界。 そこに残ったのは、 人間を遥かに超える存在“人工生物”と、 わずかに生き延びた人類だけ。 そんな終末を旅するのは、二人の少女。 冷静だけど少し不器用なナツと、 気ままで食いしん坊な相棒アメリア。 錆びた道を、ボロボロなサイドカー付きバイクの「ウーくん」で進みながら、 彼女たちは“都”を目指す。 それが何なのかも分からないまま、 ただ、かつて大人に言われた言葉を信じて。 出会いと別れ。 脅威と安らぎ。 そして、終わったはずの世界に残された“役割”。 これは、終末を生きる二人の、静かで確かな旅の記録だ。 次回 第二話 戦争

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ふたりぼっちの終末日記

ふたりぼっちの終末日記 予告編

 どうも、みなさん『夢屋』です。 先日は『Real :Lost Feel』の件でお騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした。 やはりデータの復旧は叶わず、本作については一度、制作を打ち切るという判断に至りました。楽しみにしてくださっていた方々には、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。 その代わりと言ってはなんですが、新たに、 『ふたりぼっちの終末日記』 を連載することにしました。 この作品は、私が『夢屋』として活動する以前、さらに『月夜の泡沫』を制作するよりも前に書いていた物語です。ずっと投稿はせず、自分の中にしまっていた作品を、今の自分でもう一度、しっかりと向き合いながら作り直していきます。 終わってしまった世界で、ふたりの少女がただゆったりと『都』と呼ばれる場所を目指して旅をする…そんな、派手さはないけれど、心に残る物語にしていきたいと思います。 これから改めて、この作品を大切に紡いでいきますので、よければ見守っていただけると嬉しいです。 どうぞ、よろしくお願いします。

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ふたりぼっちの終末日記 予告編

絶望…

 どうも……『夢屋』です。 皆様にお伝えしなければならないことがあります。 先ほどご報告させていただいた新連載『Real:Lost Feel』ですが、連載開始前にして、打ち切りとなる可能性がございます。 理由は、私の不注意です。 私はとあるアプリで本作の設定を管理していたのですが、先ほど誤って『Real:Lost Feel』に関する設定資料、そして表紙用に準備していた画像データを、すべて削除してしまいました。 現時点で復旧の目処は立っておらず、作品の一からの再構築が必要な状況です。 楽しみにしてくださっていた方がいらっしゃいましたら、本当に申し訳ありません。 ただ、このまま終わらせるか、もう一度作り直すかは、まだ決めていません。 自分の中でも整理をつけた上で、改めてご報告させていただきます。 二ヶ月かけて練った設定と12枚にわたる表紙たちが……

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