ゆーくん
17 件の小説アンリッテン・ストーリー
第四話 朝に滲む影 最後の一撃が部屋の空気を震わせた。 黒い影のような魔物は、ウィリアムの目の前で身体を大きく歪める。 その輪郭が揺らぎ、まるで文章の行間に流し込まれたインクのように崩れ始めた。 黒い粒子が宙に散る。 いや、それは粒子ではなかった。 文字だ。 読めないはずの文字列が、部屋の中をふわりと漂っている。 意味を持たない単語の破片。 途切れた文章。 消えかけた物語の残骸。 それらはしばらく空中を漂ったあと、ゆっくりと白い天井へ溶けるように消えていった。 静寂。 ウィリアムはその場で荒く息を吐いた。 胸が上下するたびに、肺の奥が焼けるように痛む。 部屋の中はひどい有様だった。 机は横倒しになり、本棚から落ちた本が床一面に散らばっている。 破れたノートのページが風もないのに微かに揺れ、カーテンには鋭い爪で裂かれたような跡が残っていた。 壁には深い傷。 ベッドのシーツにも黒い染みが広がっている。 そして、床には赤い雫。 自分の血だ。 ウィリアムは右腕を押さえた。 シャツの袖が裂け、その下の皮膚に鋭い傷が走っている。 じわりと痛みが広がった。 「……本当に、何なんだよ」 誰に向けたでもない呟きが漏れる。 視線の先。 床に落ちた赤い本が目に入った。 さっきまで確かに握っていたはずのそれは、何事もなかったかのように静かに横たわっている。 ウィリアムはふらつきながらそれを拾い上げた。 その瞬間。 ぱら…… 白紙の頁が、ひとりでにめくられた。 ウィリアムの指が止まる。 風はない。 なのに頁は止まらず、ゆっくり、ゆっくりと先へ進んでいく。 まるで何かを見せようとするように。 視界が揺れた。 足元が急に遠くなる。 「……っ」 身体から力が抜けた。 本を抱えたまま、そのまま床へ崩れ落ちる。 最後に見えたのは、白紙だったはずの頁に一瞬だけ滲んだ青黒い海の色だった。 ――海だった。 けれど、それを海と呼んでいいのか、ウィリアムには分からなかった。 足元には深い青。 見上げれば、そこにも同じ青が広がっている。 上も下も、左右すら曖昧で、まるで世界そのものが水の中に沈んでいるようだった。 波の音はない。 風もない。 ただ静寂だけが、どこまでも続いている。 自分が立っているのか、浮かんでいるのかすら分からない。 そのときだった。 目の前――いや、下だったのかもしれない。 青黒い世界の向こうを、巨大な影がゆっくりと横切った。 息が止まる。 それは鯨のように見えた。 だが、鯨という言葉では到底足りない。 山よりも大きく、海そのものを押し流すような巨体。 マッコウクジラにも似た頭部の輪郭が、闇の中にぼんやりと浮かぶ。 その影は音もなく通り過ぎていく。 あまりにも巨大すぎて、全貌が見えない。 尾が見えた頃には、頭部はすでに遥か遠くへ消えていた。 世界そのものが、その存在の一部のようだった。 やがて、暗い水の奥で、一つの目が開く。 巨大な瞳。 深海よりも深い青。 その目は、静かにウィリアムを見つめていた。 そして、涙が一滴、ゆっくりと零れ落ちる。 透明な雫。 それが目の前を通り過ぎた瞬間、ウィリアムは息を呑んだ。 涙の中に景色が見えた。 宇宙だった。 無数の星々。 銀河が渦を巻き、光の帯が果てしなく広がっている。 その中を、まるで物語の頁のように無数の世界が浮かんでいた。 街。 大学。 図書館。 知らない城。 海賊船。 童話の森。 すべてが一滴の涙の中に閉じ込められている。 その雫が闇の海へ落ちた瞬間、波紋が広がる。 波紋は文字となり、言葉となり、無限の物語へと変わっていく。 ウィリアムはただ見つめることしかできなかった。 巨大な影が、今度はゆっくりとこちらへ向きを変える。 近づいてくる。 世界が揺れる。 青黒い海そのものが呼吸しているようだった。 そして次の瞬間。 ――世界が揺れた。 青黒い海が、まるで巨大な心臓の鼓動のように脈打つ。 巨大な鯨のような影が、ゆっくりとこちらへ向きを変えた。 その瞳の奥には、まだ星々が揺れている。 ウィリアムの胸が締めつけられる。 逃げなければならない。 そう思うのに、身体は動かない。 足元も、空も、海も、すべてが溶け合い、境界を失っていく。 涙の波紋が無数の文字へ変わり、ウィリアムの周囲を取り巻いた。 文字は言葉になり、文章になり、頁となる。 無限の物語の断片が彼の視界を埋め尽くす。 その中心で、巨大な影だけが静かに見つめていた。 そして―― はっと目を覚ました。 胸が大きく上下している。 呼吸が浅い。 ウィリアムはしばらく天井を見つめたまま動けなかった。 夢。 ……今のは、夢だったはずだ。 だが、心臓の鼓動はまだ速いまま。 右腕にじくりと痛みが走り、ようやく意識が現実へ戻る。 視線を部屋の中へ向けた。 昨夜の戦いの痕跡は、そのまま残っている。 横倒しになった机。 床に散らばる本。 裂けたカーテン。 壁に残る鋭い爪痕。 そして、自分のシャツにこびりついた血の跡。 夢ではなかった。 ウィリアムはゆっくりと身体を起こした。 枕元には、赤い本が静かに置かれている。 表紙は昨夜と変わらず、どこか冷たい光沢を帯びていた。 だが白紙の頁を開いても、そこには何も書かれていない。 まるで昨夜の出来事すべてを知らないふりをしているようだった。 階下から、微かに食器の触れ合う音が聞こえる。 カチャ、と陶器が鳴る。 コーヒーの香りが、扉の隙間から薄く漂ってきた。 ウィリアムはベッドから足を下ろし、傷んだ腕を軽く押さえながら立ち上がった。 足元に散らばる本を避け、部屋の扉へ向かう。 ドアノブに手をかけた瞬間、ほんの一瞬だけ脳裏にあの巨大な瞳がよぎった。 深海のような青。 その中に映る星々。 そして涙。 ウィリアムは小さく息を吐き、扉を開ける。 木製の階段を一段ずつ下りるたび、現実の音が少しずつ戻ってくる。 階下のダイニングには、朝の柔らかな光が差し込んでいた。 窓辺のテーブルに、一人の男が座っている。 新聞を片手に、湯気の立つマグカップを傍らに置いたその姿。 父――エドワード・テイラー。 彼はページをめくる手を止めずに言った。 「おはよう、ウィリアム。……随分と寝苦しそうだったな」 その声は穏やかだった。 だが、なぜか夢の中で聞いた“頁をめくる音”と重なって聞こえた。 第五話に続く
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第三話 夜の扉 図書館の奥で響いた、古い木材が軋むような音。 ウィリアムは思わず息を呑んだ。 赤い表紙の本は、まだ淡い金色の光を放っている。 ページは開かれていないはずなのに、その隙間から微かな風が吹き出していた。 まるで、本の中に空間そのものが存在しているかのように。 「……何なんだ、これ」 隣でルーカスが小さく呟く。 だが、黒髪の女性――セレスは静かに立ち上がった。 その視線は、ウィリアムへ向けられている。 正確には、彼の“奥”を見ているようだった。 「今夜、最初の扉が開きます」 彼女の声は静かだった。 だが、その言葉は冷たい水のように胸へ落ちていく。 「扉?」 ウィリアムが問い返す。 セレスは小さく頷いた。 「あなたが立つべき舞台への入口です」 図書館を出た頃には、すでに空は赤く染まり始めていた。 夕暮れの大学は昼とは違う顔を見せる。 長く伸びた影。 風に揺れる木々。 遠くで聞こえるトランペットの音。 エレナの練習だろうか。 その音だけが、不思議と心を落ち着かせた。 夜。 帰宅したウィリアムは、部屋の机に赤い本を置いた。 タイトルのない本。 それなのに、見つめていると妙な圧迫感がある。 ページを開こうとした、その瞬間。 部屋の明かりがふっと消えた。 「……っ」 停電? そう思った直後、窓の外に違和感を覚える。 街灯が一つも点いていない。 いや、それだけじゃない。 外の街並みそのものが、歪んでいた。 道路がねじれ、建物の輪郭が波打っている。 まるで世界が紙の上で溶けているようだった。 ドンッ―― 玄関の向こうで、重い音が鳴る。 誰かが扉を叩いている。 いや、“誰か”ではない。 もっと重く、獣じみた音。 木製の扉がわずかにひび割れる。 その隙間から、黒い影が滲み出してきた。 人の形をしているが、人ではない。 目だけが赤く光っている。 「……ノア」 なぜか、その名前が頭に浮かんだ。 次の瞬間、黒い影は、床を滑るようにして部屋へ入り込んできた。 人の形をしている。 だが輪郭は安定していない。 煙のように揺らぎ、インクを水に垂らしたように滲んでいる。 赤い目だけが、異様なほど鮮明だった。 ギィ……。 玄関の扉が、勝手に閉じる。 逃げ道が塞がれた。 ウィリアムは思わず一歩後ろへ下がる。 心臓の鼓動が早い。 汗が首筋を伝う。 けれど足はまだ動く。 恐怖で固まるほどではない。 むしろ――どこか懐かしい感覚があった。 まるで、こういう“異常”をどこかで知っているような。 影が一歩、前へ出る。 床板に黒い染みが広がっていく。 その中から、さらにいくつもの手が這い出してきた。 人間の手ではない。 指が長く、節が異様に曲がっている。 「……っ!」 ウィリアムは机を蹴って距離を取る。 次の瞬間、影の腕が机を薙ぎ払った。 木片が飛び散る。 赤い本が宙へ舞った。 その本が、空中で開く。 白紙だったページに、黒い文字が浮かび上がる。 【主役は、ここで倒れるべきではない】 瞬間。 時間が、止まった。 飛び散った木片も。 襲いかかる影の腕も。 空中で開いた本のページさえも。 すべてが静止する。 ウィリアムだけが動けた。 息を呑みながら、ゆっくりと周囲を見渡す。 世界そのものが凍りついたような静寂。 だが彼の目には、それだけではないものが見えていた。 空間に、細い線が走っている。 まるで見えないページの境界線。 部屋の壁にも、床にも、影の身体にも。 すべてに“継ぎ目”がある。 ウィリアムの口から、無意識に言葉がこぼれた。 「……そこか」 右手をゆっくりと持ち上げる。 指先が、その黒い影の胸元に走る一本の線へ触れた。 次の瞬間。 空間ごと、その線が裂けた。 ――ビシッ。 ガラスが割れるような音。 影の身体に亀裂が走る。 赤い目が大きく見開かれた。 時間が再び動き出す。 影は断末魔もなく、黒いインクの飛沫となって四散した。 静寂。 荒れ果てた部屋の中で、ウィリアムだけが立ち尽くしていた。 自分の右手を見つめる。 今、何をした? 理解できない。 だが確かに、自分の意思で“裂いた”。 その時。 窓の外、向かいの屋根の上に、一人の男の影が立っていた。 長いコートを風になびかせ、こちらを見下ろしている。 顔は闇に隠れて見えない。 だが、その視線だけが鋭く突き刺さる。 そして低い声が夜風に混じって響いた。 「やはり……目覚めたか」 その声に、ウィリアムの胸がざわつく。 この気配。 この圧迫感。 なぜか、名前だけが頭に浮かぶ。 ノア。 第四話に続く
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第二話 午後の継ぎ目 昼休みが終わり、大学には午後の穏やかな空気が流れていた。 窓から差し込む陽光は朝よりも柔らかく、廊下の床に長い影を落としている。 エレナはトランペットケースを抱え、音楽棟へ向かって歩いていた。 「放課後、少し練習があるの」 そう言って小さく手を振る。 ウィリアムも軽く手を上げて見送った。 その背中が角を曲がって見えなくなった時、不意に後ろから肩を叩かれる。 「よぉ、ウィリアム」 振り向くと、茶髪の青年がにやりと笑っていた。 ルーカス・グレイ。 同じ文学部に所属する先輩であり、数少ない気の置けない相手だ。 どこか軽い雰囲気をまとっているが、その目は時折、人の内側を見透かすような鋭さを帯びる。 「また難しい顔してるな。午前の講義からずっとだぞ」 「そんなに分かりやすい?」 「そりゃな。お前、考え事してる時すぐ眉間にしわ寄るし」 ルーカスは肩をすくめて笑った。 ウィリアムもつられて少しだけ口元を緩める。 さっきから続いていた胸のざわめきが、ほんの少しだけ和らいだ気がした。 「そういえばさ」 ルーカスは廊下の窓から中庭を見下ろしながら、ふと思い出したように言った。 「最近、大学で変な噂があるの知ってるか?」 「変な噂?」 「図書館の奥に、“白紙の本”があるって話」 その言葉に、ウィリアムの心臓が一瞬跳ねる。 白紙。 昼休みに舞い落ちたあの紙が脳裏をよぎる。 「誰が開いても何も書かれてないのに、ある人には文字が見えるらしい」 ルーカスは少し声を落とした。 「しかも、その文字を読んだやつは、その日の夜に奇妙な夢を見るんだってさ」 ウィリアムは無意識に唾を飲み込んだ。 偶然、とは思えなかった。 「……図書館、行ってみる」 そう言うと、ルーカスはにやりと笑った。 「やっぱり食いついたな。じゃ、俺も付き合う」 ーーアルデン大学の図書館は、本館とは別に旧館が存在する。 石造りの重厚な建物で、昼間でもどこか薄暗い。 扉を開けると、紙と木の混ざった独特の匂いが鼻をくすぐった。 高い天井まで続く本棚が幾重にも並び、その奥は影に沈んでいる。 まるで迷宮のようだった。 「……なんか、ここだけ時間が止まってるみたいだな」ルーカスが珍しく小さな声で呟く。 ウィリアムも同じことを感じていた。 空気が妙に重い。 外の世界とは切り離されたような感覚。 奥へ進んでいくと、一つの机が見えた。 そこに、一人の女性が座っていた。 長い黒髪。 白いブラウス。 静かに本を読んでいるその姿は、まるで最初からそこにいたかのように自然だった。 彼女はゆっくりと顔を上げる。 その瞳は不思議なほど澄んでいて、深い夜の色をしていた。 「……あなたが、ウィリアム・テイラーね」 ウィリアムは足を止めた。 「どうして僕の名前を」 女性は答えず、机の上の一冊をそっと差し出した。 赤い表紙の古びた本。 だがタイトルは書かれていない。 真っ白だった。 「これは、あなたのための本」 その声は静かで、どこか夢の中のように遠い。 ルーカスが横で息を呑む。 「……マジかよ。本当にあったのか」 ウィリアムは恐る恐る本に手を伸ばした。 指先が表紙に触れた、その瞬間。 白紙だった表紙に、黒いインクが滲むように文字が浮かび上がる。 【第二の幕が、まもなく開く】 図書館の奥で、何かがきしむ音がした。 第三話に続く
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第一話 白紙の朝 朝の街は、まだ完全には目を覚ましていなかった。 薄い雲の隙間から差し込む陽光が、石畳の歩道を淡く照らしている。 道路沿いに並ぶレンガ造りの建物の窓には、昨夜の雨粒がまだいくつか残っていて、光を受けて小さく瞬いていた。 通りを行き交う人々は、それぞれの朝を抱えている。 コーヒーを片手に足早に歩く会社員。 制服姿で笑い合う高校生たち。 開店準備に追われる書店の店主。 街は静かに、けれど確かに動いていた。 その喧騒の向こうに、街の中心部を見下ろすように建つ巨大な時計塔がある。 その麓に広がるのが―― アルデン大学。 蔦の絡まる外壁。高くそびえる尖塔。大理石の階段を上り下りする学生たち。 正門をくぐるたび、誰もが一度は思う。 ここは学び舎でありながら、どこか現実離れしている、と。 中庭では噴水の水音が響き、風に揺れる木々の葉が朝の光を受けてきらめいていた。 その中庭を、一人の青年が静かに歩いていた。 くしゃくしゃの黒髪を朝の風に揺らしながら、肩に鞄をかけたまま石畳を進む。 ウィリアム・テイラー。 二十一歳。アルデン大学に通う、ごく普通の大学生。 少なくとも、周囲からはそう見えていた。 噴水の前を通り過ぎると、水面に揺れる自分の姿がふと目に入る。 少し眠たげな目、整ってはいるがどこか無造作な髪。昨夜も遅くまで本を読んでいたせいで、少し寝不足気味だ。 彼は軽く息を吐き、講義棟へ向かった。 石造りの廊下には朝の光が差し込み、窓から入る風が掲示板の紙をかすかに揺らしている。 何も変わらない、いつもの朝。 そう思った、その時だった。 廊下の窓ガラスに映る景色が、一瞬だけずれた。 中庭の噴水の位置が、ほんのわずかに違う。 歩いていた学生の影が、一拍遅れて動いたように見えた。 ウィリアムは足を止める。 瞬きを一つ。 次の瞬間には、すべて元通りになっていた。 「……気のせいか」 小さく呟いて歩き出す。 けれど胸の奥には、言いようのない違和感が残ったままだった。 午前の講義は淡々と進んでいった。 教授の声、黒板を叩くチョークの音、ページをめくる音。 いつもの日常。 だがウィリアムは、どうにも集中できなかった。 視界の端で、時計の秒針が一瞬止まったように見える。 まただ。 ここ数日、こうした“ずれ”が増えている。 世界のどこかに、目には見えない継ぎ目があるような感覚。 それを言葉にすることはできない。 だが確かに、この世界には何かがある。 昼休みの鐘が鳴る。 教室がざわめきに包まれる中、ウィリアムが席を立とうとした時、隣から静かな声がした。 「ウィリアム」 振り向くと、そこにはエレナが立っていた。 銀色の髪が窓から差し込む光を受けて柔らかく輝いている。 その手には、小さなランチボックス。 「よかったら、一緒に食べない?」 ウィリアムは少しだけ驚いたが、すぐに頷いた。 「……ああ、いいよ」 二人は中庭のベンチに腰を下ろした。 噴水の水音が心地よく響き、木漏れ日が石畳に揺れている。 エレナはランチボックスを開き、小さく整えられたサンドイッチを取り出した。 「手作り?」 「うん。朝、少し早く起きて作ったの」 「すごいな」 そう言うと、エレナは少し嬉しそうに微笑んだ。 しばらく穏やかな時間が流れた後、遠くの音楽棟から高く澄んだ音色が響いてきた。 トランペットだ。 真っ直ぐ空へ伸びていくような、美しい音。 エレナの目が少しだけ輝く。 「……私、音楽サークルに入ってるの」 「へぇ」 「一番好きなのはトランペット」 その言葉に、ウィリアムは自然と耳を傾けた。 「強くて、でも優しくもできる音が好きなの」 エレナの声は、その音色を思い出しているように柔らかかった。 その時、風がふわりと吹き抜ける。 一枚の白い紙が、どこからともなく舞い落ちてきた。 ウィリアムの足元へ、ひらりと。 彼がそれを拾い上げる。 何も書かれていない。 真っ白な紙。 ――だが次の瞬間。 黒い文字が、滲むように浮かび上がった。 【主役はまだ、舞台を降りるべきではない】 ウィリアムの呼吸が止まる。 隣のエレナが、その紙を静かに見つめていた。
宇宙の旅 第八話
宇宙の旅 第八話 異星の者達 荒野の世界、灰色の古代都市風の街の道を歩いていた二人。 「本当に何もないなぁ…」デービットはコートに両手を入れ周りを見渡しながら歩いていた。 ケビンも周囲を警戒しながら横を歩いていた。 「またさっきみたいなやつが出てもおかしくないんだ。ヴィルドームは星の中でも危険な部類だ。いつ何時、何が起こるかわからない…」そう言って、デービットより前を歩き出した。 「まぁ、そうだけどさ…ワクワクもするんだ。」そう言い無邪気な笑みを浮かべる。 デービットの好奇心旺盛さにケビンは呆れていたが、そこがデービットの良さの一つと思っている。 数十分歩き続け、景色が一向に変わらない灰色の世界。 その時、隣の建物からゴドン!という大きな音がした。 デービットたちはバッ!と振り向いた。 建物から出てきたのは、完全に灰色の肌で人間に近いこの星の生命体だろう。 隠れていた個体が出てきたのだ。 一人、また一人と出てきた。 デービットを両手を高く上げた。 「僕たちは敵じゃない!決して危害を加えたりしない!」そう叫ぶが、彼方は聞く耳を持たない、というよりかは、聞こえていないに近い、彼らは知性が低く人間の言葉を理解できるわけじゃない。 その時、一斉に勢いよくデービットとケビンに向かって走ってきた。 デービットたちは驚き逃げた。 互いに同じぐらいのスピード、ケビンは走りながら腰に巻いてるベルトに手を置きピストル型のレーザー銃を取り出そうとしたが、走っている勢いと疲れでまともに取れなかった。 その時、デービットが奥に洞穴があるのを見つけケビンに向こうの洞穴に隠れようと言い、カバンの中を漁った。 カバンから取り出したものは二つの手のひらサイズの機械的な円盤。 デービットはそれを一枚洞穴の方に投げた。 そして、ケビンの肩に手を置きデービットは1メートル先の地面にもう一枚投げて付けた。 デービットがそれを踏んだ瞬間、青白い光が円状に放たれデービットとケビンを囲った。 それが高速で回転し、目の前が真っ白になった。 次に二人が目を開けたら、そこは洞穴の中だった。 「うぅ……洞穴の中、か」ケビンは右手を頭に当てながら言う。 デービットは洞穴の壁にもたれた。 「ああ、テレポーテーション。あの円盤の機能だ。使用できるのは一度きりだからニードロたちはおってこれない…」そう言って周りを見た。 その時、コトッと小さな石が転がる音がした。 二人はその方向を振り返ると、暗闇の奥でゆっくりと近寄る影が一つ。 「誰だ!」ケビンそう叫び、腰につけていたレーザー銃を取り出し暗闇に向ける。 そして、出てきたのはボロボロの灰色の軍服を着た。 ーー人間だった。 第九話に続く
モンスター・バトル 第五話「試験」パート3
廊下を進み、ロビーのような場所に出た。ロビーの中にある円柱の柱の周りをぐるっと一周する形であるベンチ、そのベンチに座っていたのは佐藤だった。 「おはよう、どうだった?」佐藤は立ち上がり笑顔で黒瀬に近づいた。 「良い部屋ですね。家具を揃えるのが大変ですけどね。」黒瀬は苦 笑いで答えた。 「さて、急で悪いけど。そろそろ行こうか」佐藤はそう言い、黒瀬の肩に手を置いた。 「どこにですか?」黒瀬は聞いた。 「ん?もちろん、闘技場さ、これから君の実力を見させてもらおう。」佐藤はそう言い、先にビルの外に出て行った。 黒瀬も後を追い、外に出た。 数分後、黒瀬の目の前には凄まじい広さの白い砂だけの広場だった。 見た目は古代ローマの円形競技場、コロッセオに近い。 「す、すごい…今からここで戦うんですか?」黒瀬は佐藤の方を向き質問した。 「もちろん。これが最初の相手だ。選手には事前に相手の情報−−戦い方や能力以外の情報−−全てが知らされる。」そう言って一枚の紙を渡してきた。 黒瀬はその紙をじっと見つめた。写真には灰色のパーカー、ウルフカットの黒髪、黒い瞳、無表情な顔、黒瀬は思い出した。 今朝、廊下で見た男の特徴にピッタリ当てはまる。 名前は。 「白兼…仁…(しろがね じん)?この人が最初の相手…」黒瀬は白兼が言っていたことを思い出した。 『見るからに、弱い』その言葉が黒瀬の頭の中で鳴り響く、そして力強くこぶしをにぎり、誓った。 「俺、絶対勝ちます!」そう言って、奥の部屋に入って行った。 佐藤は腕を組み黒瀬のその後ろ姿を暖かい目で見守った。 「いたんですか」佐藤はそう言い後ろを振り返った。 そこには無表情で腕を組んでいる二條の姿があった。 「佐藤、お前は黒瀬をどう思う。」二條は静かにそう言って闘技場内を見渡せる窓に近寄った。 「二條さんが連れてきた子だ。信用してますよ。それに、時間制限なんて関係ないんでしょ?」佐藤がそう言うと、二條は目を細めた。 「ああ…一目でわかった。黒瀬には…秘められた最強の潜在能力がある…。今はまだ殴り蹴りしか使えないが、これからどんどん強くなる。私の目に狂いはない…」そう言って、観客席に向かった。 佐藤はふーん?とした顔をし、二條の隣の席に座った。 そして数十分が経ち、闘技場の手前の入り口から黒瀬が入ってきた。黒瀬は観客席を見渡す。 心臓がドキドキ鳴り響き、緊張が走り汗が出る。 そして、反対側の入り口からも相手がやってくる。 白兼仁(しろがね じん)、黒瀬の対戦相手だ。 「お前は、本当に俺に勝つ気か?その心をへし折ってやる。」白兼はそう言い、パーカーのポケットから一つのものを取り出した。 黒瀬は目を細め取り出したものを見た。 青と銀の装飾の丸い物体に糸がくっついているもの。 ヨーヨーだった。 白兼はヨーヨーをクルクルと指で回し、引き伸ばす行為を何度かして止めた。 観客席がざわめいた。 そして、試合のゴングが鳴り響く、黒瀬が構えた。 だが、白兼は−−消えた。 次の瞬間、黒瀬の背中に衝撃が1秒、襲った。 黒瀬が振り返ったと同時に黒瀬の顔に何度も高速でヨーヨーがぶつかった。 なんと、白兼は始まったと同時に黒瀬の背後に移動していた。 「は、速い…!」黒瀬は攻撃に耐えながらも、後退してしまう。 その間にもヨーヨーを当て、引き戻すという行為を約3秒の間に20回も連続で繰り返した。 黒瀬は振り絞り、拳を白兼の顔めがけ放った。 だが一瞬で避けられ、腹に蹴りを入れられた。 「ぐは…!」黒瀬は苦しみ、腹を抑えた。 「遅えな。黒瀬晴翔、感極まって殺しちゃいそうなほど、弱い」白兼はそう言い放ち、ヨーヨーを回し、その遠心力を利用し強烈な一撃を黒瀬の顔にぶつけた。 黒瀬は右回りで1メートルほど吹き飛び、鼻血、唇から血が流れ、顔には大量の青痰ができ、膝をついた。 「はぁ…はぁ…なんて…強さだ」黒瀬は荒い息を出し疲れ果てていたが、持ち堪え立ち上がった。 「まだやるのか?諦めろよ、弱者が!」白兼は高速で黒瀬の周りを走り、ヨーヨーを伸ばした。 黒瀬の体にヨーヨーの糸が巻き付かれ、体が引っ張られた。 「この糸はそこらの糸と違って、頑丈なんだよ!人一人耐えられる!」そう言い、黒瀬を振り回して闘技場の壁に黒瀬を飛ばした。 ドゴンッ!と黒瀬の背中が壁にぶち当たり、唾を吐いた。 「がは!」と苦しみ、地面に落ちた。 地面に腕をつき、立ちあがろうとするが全身の痛みで上手く力が入らない。 白兼は黒瀬の目の前に来て、ヨーヨーを回した。 「やっぱり、お前は俺に勝てない、辞退しろよ黒瀬。お前には無理なんだ」白兼はそう言い、勢いよくヨーヨーを黒瀬に放つ。 だが、黒瀬はガシッとヨーヨーを左手で掴んだ。 そして、バキッ!と鳴らし、ヨーヨーを破壊した。 「…わかってるよ。俺は弱い、能力なんてないし格闘もできるわけじゃない…でも、お前なんかに負けてちゃ、人間でいることもできねぇ…」そして勢いよく立ち上がり白兼が反応するよりも前に白兼の頭を掴んだ。 そしてヨーヨーを粉砕した方の拳を握りしめ、本気というリミッターが外れ、その拳を白兼に勢いよく放った。 その拳は白兼の顔に命中し、勢いよく宙に吹き飛んだ。 観客席で観ていた二條は、キリッとした目で「ふっ…」と鳴らし目を閉じた。 佐藤も笑い、輝いた瞳を黒瀬に向けた。 ドサっと地面に倒れた白兼、何が起こったのか理解できなかった。 「…ぐは…何が… 何故、お前にそんな力が…」 「ただ…俺はお前だけには負けたくないって気持ちが、お前の気持ちより強かっただけだ。」黒瀬はそう言い、白兼に手を伸ばした。 「な、なにを…」白兼は黒瀬が何をしているのか理解できなかったが、少し間を置き黒瀬の手をとった。 そして、立ち上がり。 「お前…やるじゃないか…」白兼はそう言い、立ち去ろうとした。 その瞬間、ドーン!という激しい爆発音が鳴り響く、黒瀬たちは闘技場の壁を見た。 そこには壁を突き破って侵入してきたレイク、全長20メートルのロボ族だった。 ロボ族は機械音を鳴らしながら観客席を見渡した。 「僕がやりましょうか?」と佐藤は二條に聞いたが、二條は無言で前に出て、刀を握り「10%…」と呟き、観客席から勢いよく飛び上がってロボ族目掛けて刀を抜いた。 二條の腕半分が赤い亀裂模様が走った。 ロボ族はピピピ!と激しく音を鳴らし白いレーザーを放った。 だが、二條は空中体を捻りレーザーを避けた。 そして、そのレーザーに足を乗せさらに飛び上がりロボ族に落下。 そして−−ザンッ!と音を立て、着地、カチャッと刀を収めた瞬間、ドーン!とロボ族が切断された部分が地面に落ちた。 ロボ族は全体的に光が消え、機能停止し地面に倒れた。 そして二條は立ち上がり、黒瀬たちの方を向き。 「試験は中止だ」そう言った。 第六話に続く
モンスター・バトル 第四話「試験」パート2
あの後、二條は黒瀬を佐藤に任せ、組織の案内を任せた。 二人は二條に会釈して別れた。 佐藤と黒瀬は横並びに白い廊下を進んでいた。 二人が横に並んだら二人の身長差が明確に違うことがわかる。 佐藤が黒瀬より5センチ高い、黒瀬の身長が173cmだから佐藤は178cmということになる。 佐藤はフンフンと鼻歌を歌いながら何気なく歩いていると。 「今はどこに向かっているんですか?」黒瀬は佐藤の方を見て静かに聞いた。 「うん?うーん、一通りの案内は終わったし、あとは君の部屋かな?」 「部屋?」 「大学で言う寮だと思ってくれ。君、二條さんの話によると両親共にいないんだろ?だからここで暮らすことになる。」佐藤はそう答え、立ち止まった。 黒瀬も立ち止まり横を見た。 そこには人一人分の茶色い引きタイプの扉があった。 「ここが、俺の部屋?」黒瀬は扉の縁の線を目でなぞりながら言った。 「正解、部屋の広さは1LDKすごく快適さ。さぁ、入って」佐藤はそう言い扉を開けた。 「すごい……!」黒瀬は、目を見開いた。 広い部屋、茶色の木製の床、白い壁、緑色のカーテンが付いている窓、肉眼でもわかるほどピカピカ輝いていて、黒瀬の目は輝いた。 そして部屋に入り、周りを見渡した。 佐藤は扉を開けた状態に、縁にもたれかかっていた。 「お気に召したかな?黒瀬くん。」 「はい!ありがとうございます。」 佐藤はニッと口角を上げ、部屋に入った。 佐藤は黒瀬の方を見つめて。 「明日は気を引き締めてね。二條さんも言ってただろうけど十二騎士の内9人が集めた人たちと戦うことになる。下手したら全身骨折する可能性だってあるよ?それは相手次第さ、じゃ、また明日」佐藤はそう言い部屋を出て行った。 扉が閉まり、黒瀬はまだ家具がない部屋の真ん中に佇んでいた。 シーンとした空間に一人、黒瀬は床に胡座をかいた。 「明日…か、なんで僕がこんなことに、あの獣族と出会わなければこんなことには……。」と考えていた黒瀬だったか。 「いや、もっとポジティブに考えよう…。あの獣族と遭遇して、まるで奇跡のように二條さんとも出会えた。これは僕のチャレンジでもある。全てのレイクを倒してやる…」そう心で思った黒瀬、立ち上がり寝室の方に向かい扉を開けた。 ベッドを見つけた。 おそらく元からあるものなのだろうと思い、そのベッドに寝転がり今日は寝ることにした。 翌日、「うぅん…」と唸り、目をこすりながら起きた黒瀬。 髪をくしゃくしゃと荒く撫で、ベッドから降りる。 ため息をつき、洗面台に行き顔を洗った。 扉を開けリビングに向かった。 まだソファもテレビもないリビングを見て、どうしよかなと一瞬思ったが、すぐに考えるのをやめで口に向かって茶色の扉を開けて廊下に出た。 眠そうに歩く黒瀬の前に−−一人の男が現れた。 「誰だ…?」黒瀬はそう呟き、鋭い目で見つめた。 その男は灰色のパーカーにフードを深くかぶって顔が見えなかった。 「お前も俺と同じスカウトされた人間か?調べたが、一回戦目は俺とお前の戦いらしい、まっ、よろしくな?だが勝つのは俺だ。見るからにお前、弱いからな」男はそう言い、歩き去った。 黒瀬は「やなやつだな…」と呟き、進んだ。 だが黒瀬は知らない。 あの男が−− 自分より遥かに強いことを。 第五話に続く
モンスター・バトル 第三話「試験」パート1
黒瀬は二條莉亜という名前の迷彩柄のズボンに黒色のタンクトップを着た腰に刀をかけている女性の後ろについていっていると、二條莉亜は対レイク殲滅機関という組織の人間であり、地球に存在しているレイクという化け物を討伐している。 その組織の中でも、最も強い部隊「十二騎士」と呼ばれる12人の強者の中の一人が、今黒瀬の前を歩いている女、二條莉亜だ。 「あの、今はどこに向かってんですか?」黒瀬は二條に、聞いた。 「レアの本部だ…。お前はそこで試験を受けてもらう…」二條は低い声で言った。 「試験?」 「ああ、だが安心しろ…勝っても負けても組織には入れる…」二條はそう歩きながらそう言う。 「『勝っても負けても』って、どう言う意味ですか…?」黒瀬は二條の後についていきながら不安気に聞いた。 「十二騎士の内、私を含めた9人の十二騎士が集めたお前のようにスカウトされた者同士を戦わせ、勝敗でどの仕事に就くかを決めるんだ。酷い負けようだったら現場調査人かレイクの死体処理がかりになるならな…」二條は真っ直ぐ前のみを見ながら言った。 黒瀬の心臓は緊張で鼓動が大きくなった。 何故自分がこんなことをしなくてはならないのかと思いつつ、二條を見て聞いた。 「その逆は……どうなるんですか?つまり…最高な勝ち方をすればって意味です」黒瀬は冷や汗をかきながら言った。 「危険度のある任務に行かされる…。それか…」 「それか?」 「十二騎士になれる可能性もある…」二條の代わりようよない眼差し、真っ直ぐ前を見ていた目が一瞬地面を見た。 「試験で?!そんなことがあるんですか?」黒瀬は二條の言葉に驚きを隠せずに聞いた。 「いや…基本あり得ない…今の十二騎士は一人を除き高い危険度のある任務に何度も生き延びて強くなった者がなれる。言わば称号…そう簡単になれるわけじゃない…」二條は落ち着いた声で言った。 黒瀬はその言葉で一番気になったことを聞いた。 「その"たった一人を除き"の一人は、誰なんですか?」黒瀬は二條に聞いた。 「詳しくはない……名前だけなら知っている。常翔勝(じょうしょうまさる)と言う名前だ。基本的に十二騎士はあまり人前に出ない。私のように上層部が直接命令してスカウトなら別だがな。それに加え十二騎士最強の男だ。そう簡単に姿を現すことはしない……」二條はそう言った瞬間に立ち止まった。 黒瀬も二條の後ろで止まり、前を見た。 二人の目の前には、巨大なビルが建っていた。 いくら黒瀬でも一目でわかった。 ここが対レイク殲滅機関−−レアの本部だった。 黒瀬はそのビルのデカさに圧倒されて言葉が出なかった。 かろうじて濁点の付いた「あ」を絞り出していた。 二條は黒瀬の様子をチラッと見て、ため息をついた。 「驚くのも無理はない…だが、ここで驚いていたら中に入った時死ぬぞ、本当に」二條はそう言い、ビルの入り口に近づく、ウィーンと自動ドアが開き、二條は中に入って行った。 黒瀬も急いで後を追い、中に入った。 その瞬間、黒瀬の目に飛び込んできたのは、黒いビジネススーツを着ていて、刀を背中や腰に装備している人、銃を堂々と持っている人が20人ほどいた。 全員が気ままに会話していた。 黒瀬は不思議そうな顔で周りを見渡した。 明るく平和そうな風景で、争いの面影も無かった。 「この人たちは…?」黒瀬は二條の方を見て聞いた。 二條は周りを見て、答えた。 「この組織の戦闘員たちだ。まぁ、わかりやすく言えば一般部隊、そこまで危険度が高くない任務に派遣される奴らだ。」二條はそう言い、一人の男に近づいた。 「久しぶりだな、元気にしてたか?」二條は近づいた男にそう聞いた。 「はい!二條さんのおかげで楽しく暮らせてますよ」男はそう笑顔で答えた。 男の腰には刀が装備されていた。 「この人は?」黒瀬は二條の隣に近づき聞いた。 「佐藤正雄(さとうまさお)、私の弟子だ」二條は黒瀬の方を向き答えた。 「"元"弟子です。今はもうあなたより強いですよ?」佐藤はそう答えた。 黒瀬は驚き、二條の方を向いた。 「嘘は吐かないんじゃなかったのか?虚言癖が治ってないぞ」二條はため息をつき言った。 「すいませんね〜。でも、いずれは本当に超えてみせますよ」佐藤は満面な笑みでそう答えた。 そして、佐藤は黒瀬の方を向き、目を見開いた。 「まさか、二條さん時間内に間に合ったんですか?時間内にスカウトできるなんて…」佐藤はそう呟き、黒瀬に近づいた。 「時間内にって、どういう意味ですか…?」黒瀬はとにかく誰でもいいから答えを言って欲しいように言った。 「スカウトの期限は今日までだったんだ。二條さんは気難しくてね。自分が認めた者にしか話しかけない」佐藤は自慢げに答えた。 黒瀬は何故自慢げなのだろうと思いつつ、二條の方を見て聞いた。 「なんで僕を…」 「私だって人間だ。時間がなくなっていけば焦るんだ。」二條は目を瞑りながらそう言い、カチャッと、刀の位置を調整した。 「貴女が焦ったことなんてないでしょ」佐藤はそう静かに呟いた。 「君名前は?」 「く、黒瀬晴翔です。」 「黒瀬くんね。よろしく、じゃ、明日…君の実力を魅せてもらうよ?楽しみだ。」佐藤は不的な笑みを溢しながら言った。 黒瀬は思わずゴクンと唾を飲み込んだ。 第四話に続く
モンスター・バトル 第二話「煌めく刃」
今、黒瀬の前にいるのはレイクという化け物、その中の獣族と呼ばれる種族のレイクだ。 猪のような外見だが、本物とは圧倒的な違いが多々あった。 皮膚や毛は紫色で、口の両端には鋭く大きな牙、体長は約1メートルほど、獣のように唸っている。 黒瀬は驚き素早く後退した。 冷や汗を流しながらも、レイクから目を離さずにゆっくりとさらに後ろに下がる。 レイクは後ろ足を地面に擦らせる行動を何回かし、前屈みになった。 その体制はまるで黒瀬に向かって突進をする準備が完了したようだった。 黒瀬は前屈みになったレイクを見て、急いでここから逃げなくてはと思った。 だが一歩でも動けば勢いよくレイクが突進し、最低でも全身複雑骨折は避けられないだろう。 「どうすれば……」黒瀬はそう呟き、すぐに逃げられる体制になろうとした。 その瞬間、レイクの目が煌めき勢いよく襲ってきた。 「うわっ!」と黒瀬は叫び両腕を顔の前に持ってきて、目を瞑った。 だが、その瞬間「キンッ!」と言う金属音が当たり一面に響いた。 黒瀬はその音に驚き、勢いよく地面に座り込んだ。 そしてゆっくりと目を開けた。 黒瀬の目の前にいたのは、迷彩柄のズボンに黒いタンクトップを着た髪の長い女性が立っていた。 その女性の右手には刀が持たれていた。 女性は肩越しに黒瀬を見た。 キリッとしたその目、瞳は赤く、宝石のように輝いているように見えた。 「一般人か……下がっていろ…」女性はそう言うと、刀を回しながらゆっくりとレイクに近づいた。 レイクをよく見ると、顔には切り傷があり、右側の牙が綺麗に切断されていた。 レイクは怯み、後ろに後退していた。 「逃すわけないだろ……」女性はそう言うと、一瞬にしてレイクの背後に周った。 レイクが驚き瞬時に振り返ったが、完全に振り向く前にレイクの体は左右に真っ二つされた。 レイクの死体が地面に倒れた。 女性が刀に付いたレイクの血を振り落とし、ゆっくりと冴に戻した。 そして女性は黒瀬に近づき、無理やり黒瀬を立たせた。 「うわっ…!」黒瀬は女性に引っ張られた衝撃で前に転けそうになったが耐えた。 膝に手をつき荒い息を立てながら女性の方を見た。 「あ…ありがとうございます……!」黒瀬は女性にお礼を言った。 女性は黒瀬の感謝の言葉を無視し、林の奥を見つめていた。 「あの……」黒瀬は女性を呼ぶが。 「喋るな、まだ終わってない」女性はそう言い、後ろに下がった。 黒瀬も下がり、女性より2メートルほど離れた距離行った。 そして林がガサゴソとなり、二体、三体と次々にさっき女性が倒したレイクと同種と思われる化け物が現れた。 「ちっ…やはり群れだったか…これだから獣族は面倒なんだ…」女性はそう呟き、刀を抜いてレイクに近づいた。 女性は約1秒にしてレイク二体を真っ二つにした。 そして次々と斬り倒していくが、倒す数よりも林から現れるレイクの増えるスピードの方が早かった。 女性はそれを見て、ため息をつき刀を冴に戻した。 そして、目を瞑りこう言った。 「1%…」と、黒瀬には言葉の理解はできなかった。 だが女性の手に小さいが赤色のヒビのような模様がついた瞬間、女性は音もなく刀を冴から素早く出し左から右に空を斬った。 静かな時間が5秒続いた。 だがその5秒が経った瞬間、約9体はいたレイクが上下に斬られていた。あたり一面がレイクの血の海と化した。 女性の手から模様が消え、刀を冴に戻した。 「はぁ……」女性はそうため息をつき、目を瞑った。 「よし、もういない…気配がしない」女性はそう言った。 黒瀬は今の出来事に理解が追いつかなかった。 「あの、あなたは……」黒瀬は女性に聞いた。 「私の名は、二條莉亜(にじょうりあ)……『Lake Extermination Agency(対レイク殲滅機関)』通常レアの人間だ…」女性はそう言った。 レア……黒瀬はその組織の名を聞いたことがあった。 いや、知らない人はいないだろう、この世をレイクから救う組織、その組織の人間は対レイクの戦闘訓練を受けている強者ばかり、刀や銃などの武器を使用するものがほとんど、だが組織の中には能力を持った者もいると言う、そしてその組織の中で最も強い戦力を持った部隊が存在する。 それは「十二騎士」と呼ばれる12人の強者、黒瀬はその十二騎士の中の一人を友達から聞いたことがあった。 「二條莉亜」そう、今黒瀬の目の前にいる者こそが十二騎士の一人、二條莉亜だったのだ。 二條は黒瀬に近づき、睨みながら言った。 「上層部から、組織の人数不足をどうにかしろと言われていてな…適当なやつを連れてくればいいと言われた。だから来い…名前は何だ」二條はそう言って、黒瀬の目を見つめた。 「黒瀬晴翔…です」黒瀬は真剣な眼差しで言った。 「黒瀬…か、わかった。よし…黒瀬、ついてこい…」そう言い黒瀬は二條の後について行った。 第三話に続く
モンスター・バトル 第一話「偶然の遭遇」
現在、2026年6月8日午前9時、なんの変哲もない街に一人の黒いパーカーを着た男が歩いていた。 名は黒瀬晴翔、年齢15歳の高校生である。 今、学校は化け物の襲来によって破壊されており復興作業により長期休校となっている。 化け物とは、この地球に人間・動物、どれにも似つかない存在だ。 街に出たり森に出たり海に出たり、出現する場所は限定されていない。 化け物はまとめてレイクと呼ばれており、そのレイクにも種類がある。 その種類とは「族」と呼ばれている。 まず「獣族」獣族とは地球に生息する動物の見た目に酷似ているレイクだ。 本物の動物とは違う部分もあり、皮膚の変色、体の大きさ、はたまた能力がある獣族もいる。 獣族に関しては個体によっては普通の一般人でも勝てる奴もいる。 次に「ロボ族」ロボ族は名前の通りロボットのようにメカメカしい見た目をしたレイク、個体によって姿形が違く、人型のもいれば動物、魚、昆虫のような姿のロボ族もいる。 大きさも個体差がありビルレベルのもいれば人型でも昆虫レベルの大きさのロボ族もいる。 次に「レイ族」これは獣族、ロボ族、どちらのレイクにも似つかず、異形な姿のレイクの名前。 大きさも個体差があり、能力を持っているレイ族も少なくない。 そして「悪魔族」人間が「悪魔」と一瞬でわかるような姿をしている。力も悪魔的でレイク同士であれば力差はあるだろうが、人間にとってはどの個体も脅威になるものばかりなのが悪魔族である。 そして最後に「神族」神秘的、神々しい姿をしているレイク、力も神のようなまさに人間がチートと言っていいような力であり、個体差はあるが強いものだと一体で地球を滅ぼすことが可能と言われているほど。 これがレイク、個体によっては知性があり会話も可能。だが、それゆえに危険なこともある。それは、レイク同士の共同。 レイクは元来、仲間や協力関係というわけではなく、縄張り争いや単なる力比べで自然界どこでも戦う生物でもある。 だが知性のあるレイク同士がお互いの目的のため行動を共にするチームなども稀に存在する。 もちろんそんなこと黒瀬が知ってるわけもなく、ましてやレイクという存在も知ってるが詳しくない高校生だ。 「はぁ、暇だなぁ、友達にも会えてないからマジで…」黒瀬はそんなことを呟きなが歩道を歩いていた。 歩いている場所は、視界の左側には一軒家が点々と並んでいて、右側にはガードレールで剥がれているがその奥には草木が生い茂っていた。 何も考えずに自然の方向を見つめていた。 その瞬間、バサっと草が生い茂っている場所が鳴った。 黒瀬は反射的にその方向を見た。 そして中から出てきたのは、1メートルほどの大きさの猪だった。 だがただの猪ではなかった。 毛は少量で、皮膚は紫色の猪の形をした何かだった。 そう、この生物こそがレイク、獣族だ。 第二話に続く