ネコ2号
13 件の小説私の幸せ
最初は静かで真面目そうな人だなと思っていた。 でもそれは見かけだけで、初めて会話をした時 あなたは太陽のように明るくて 温かい話し方をする人だと知った。 眼鏡がとても似合っていて 音楽が好きで 何事にも一生懸命取り組んでいる そんなあなたに、いつしか私は惹かれていました。 できればもっと、あなたの傍にいたい。 いつまでも話していたい。 あなたの弾く演奏をいつまでも聴いていたい。 一緒に笑い合ってみたい。 そんなことを願っているだけで、私は一歩も動くことができない。 今以上の関係になりたいけれど、今の関係が崩れてしまうのではないか不安なんです。 あなたも私のことを好きだったら 私のことを目で追いかけていたら 両思いだったら 自分が動かなければ何も変わらないのに そんな淡い夢が現実になっていたらとばかり考えてしまう。 あなたのキラキラとした姿を眺めているだけでは 心が張り裂けてしまいそうになる。 あなたの傍にいたくても、その勇気が出ない自分に悔しさを感じてしまいます。 それでも私はあなたが生きているだけで幸せです。 私にとっての幸せはあなたによって一つづつ丁寧に積まれているんです。 いつも私に幸せをくださりありがとうございます。 あなたの夢、影で密かに応援しています。
ヘンゼルとグレーテルとクマさん
ヘンゼルとグレーテルは両親に森へと連れられ、そのまま置いて行かれてしまった。ヘンゼルは帰り道が分かるように、森へ行く途中、パンをちぎって道に捨てた。 「グレーテル。パンをたどって帰ろう!」 そう言ってヘンゼルは妹のグレーテルと一緒に森を降りようとした。 しかし… パンをたどっていくと、なにやら大きいぬいぐるみのようなものがパンを拾っては食べていたのだ。 ヘンゼルはそれを見て怒って言った。 「おい!パンを食べないでおくれ!」 するとぬいぐるみはヘンゼルの声に気付いた様子で、ゆっくりと後ろを振り返った。 それを見てヘンゼルとグレーテルは驚いた。 それはとても大きなクマだった。 「おいらだってお腹が空いているんだ。食糧を分けてくれよ。」 そう言ってクマはおんおんと泣いた。 「クマさん。お腹が空いているの?どうしてかしら?」 グレーテルはクマに近づいて聞いた。 「今年はおいらの大好物のドングリが大不作だったんだよ。」 そう言ってクマは涙を拭いた。 「そうか。グレーテル、今は地球温暖化が進んでいるんだよ。ドングリはその影響で成長できなかったんだ。今の気温では暑すぎてしまって、ドングリが実らなかったんだよ。」 ヘンゼルはそうグレーテルに言ったが、グレーテルはまだ幼かったため、難しいことはよく分からなかった。 「おいら、このままだとお腹が空いて冬眠できないよ。」 「お兄ちゃん。このままだとクマさんがかわいそうだわ。でも、私たちにはどうすることもできないわね…」 ヘンゼルはそう言って涙を浮かべた。 「ん?なんだか甘い香りがしないか?」 突然、クマがそう言った。そして、2人と1頭は甘い香りがする方へと歩いていった。 徐々に歩いていくに連れ、甘い香りは強くなっていった。 すると、甘い香りの先に家のようなものが見えた。 「まぁ!素敵だわ!!きっとお菓子で出来ているんだわ!」 グレーテルはそう言って甘い香りのする家に走っていった。 「おーい!待っておくれよ!」 クマも後に続いて走っていった。 クマは家の屋根を鷲掴みし、なんと二口で平らげてしまった。 「まぁ!クマさん凄いわ!私も負けていられない!」 グレーテルも負けじとほっぺいっぱいにクッキーを詰め込んだ。 「すごい…きっと誰かの作品とかそういう類いのやつっぽいけどお腹が空いたから仕方ないよね」 そう言ってヘンゼルも一緒になって家を食べた。 「ん?おい!お前誰だ?」 またもや突然クマが木に向かって話しかけた。 すると木の後ろから老婆が出てきたではないか。 「お前さん。わしの家はうまかったかい?」 そう言って老婆はドアを食べているクマに話しかけた。 「あら!これおばあさんのお家だったの?ごめんなさい。」 グレーテルは申し訳なさそうに言った。 家は跡形もなくなくなっており、そのほとんどをクマが平らげてしまった。 「おいばあさん。おいらまだお腹が空いているんだ。食べ物をおくれ。」 クマはそう言って老婆にねだった。 老婆はクマを見ても驚きもせずにクマを見つめた。どうやら老婆は目が悪くてクマだと分かっていない様子だった。 「わしの家を全て食ったのはお前が初めてだ。今度はわしがお前を食べる番じゃ!」 そう言って老婆はクマを殺しにかかったがクマは突進してくる老婆をひょいっと持ち上げた。 「おいらのために食糧になってくれるのか!優しいばあさんだ。」 そう言ってクマはペロリと老婆を飲み込んでしまった。 ヘンゼルとグレーテルは何が起きたか分からず口をあんぐりと開けて固まった。 「おまえさんたち。おいらに食糧をたくさんくれてありがとう。お礼に森で拾ったお金をあげるよ。人間がゴミを捨てによく森へ来るんだ。そのときにゴミと一緒にお金が混ざっていることがあるんだよ。」 そう言ってクマは2人の手のひらには収まりきらないお金をたくさんくれた。 「クマさん!ありがとう!また春に会おうね!」 そう言って2人はクマに別れを告げ、家へと帰っていったとさ。 めでたしめでたし。
手のひら惑星 3話
*1話2話の続きです! 3話 チュンチュンチュン… 朝日が部屋いっぱいを照らし、目が覚めた。 (もしかしたら今日の夜、惑星へ行けるのかもしれない。お父さんに会えるかもしれない。) そんな希望をどこかに隠したまま、私は学校へ行った。 登校中、挨拶とともに賑やかな笑い声や話し声が聞こえてくる。 そんな声は私の惑星の妄想によってブラックホールへ吸い込まれていくかのように消えていく。 いつも通り授業を受けて、給食を食べて、いつもと同じ場所を掃除する。 私のつまらない日常を名もなき惑星が照らしてくれる。 (ハシゴって結局なんなんだろう…!宇宙への扉ってどんなだろう…!) 私にとって今日は父がいなくなってからの私の人生のなかで最もワクワクした日と言っても過言ではないほどに私はいてもたってもいられずにいた。 「おーい!守川ー!ボケッとすんな授業中だぞー!」 先生が私になん度も呼ぶ声が耳に入らないほどに惑星に入り浸っていたようだ。 「す、すみません。今何の問題ですか。」 「いや、朗読してもらおうと思ったんだけど…」 私は顔が熱くなるのを感じ、急いで数学の教科書の上に国語の教科書を出した。 「おい、どうしたんだよ。」 そう言って後ろの席から坂本 希(さかもとのぞむ)が心配そうな声をかけてきた。 「あ、うん。考え事してたんだ。」 「なんか今日、すごい楽しそう。なんかあった?」 私は彼に言われるまで、自分が終始ずっと口元が上がっていることに気が付かなかった。 「うん!すっごくいいことが起きるの。」 「それって俺に話せないこと?」 「きっと話しても信じてくれない。」 「それはわからないよ」 希がそう言ったとき、先生がこちらをキッと見てきたため、話は中断された。 「それでさ。結局何が起きるの?」 帰り道、希は私の後を追いかけて言った。 「お父さんに会いに惑星へ行くの。」 彼は私が話すまで何度も聞くだろうと思ったため、正直に話した。 彼は眉間に皺を寄せて驚いた顔をしたあと、真剣な顔をして言った。 「歌の言うこと信じるよ。だけどそれは危険だと思う。宇宙空間は未知のものがたくさんあるんだ。」 希が思っていたよりも、あっさり話を信じてくれたため嬉しかった。 「うん。危険はあるよ。だけど、それよりも私はこのワクワクを抑えきれないの。未知だからこそ、この目で確かめに行きたい。」 希は黙ったままだった。そして何かを決心したかのような眼を向けた。 「俺、父親が死んだ時の歌から笑顔が消えて、見ててすごく辛かった。」 「私のお父さんは死んでなんかない…」 私はそう言ったが、希は聞こえなかったかのように話を続けた。 「でも、今日の歌は前の父親の話を楽しそうに話してたいつもの歌に戻ってて俺、すごい嬉しくて」 彼はそう言って私の目を数秒見つめた後言った。 「俺、歌が好きなんだ。楽しみにまっすぐ進む歌を尊敬してた。だからこそ、歌が惑星へ行くのを止めたくはない。だけど歌が危険な目にあっては欲しくないんだ。」 希の目は次第に涙で溢れかえっていた。 まさか告白されるとは思わず、私は驚いたが、冷静になって言った。 「私もね、自分の好きなことにまっすぐ進むお父さんが大好きなの。私にとってお父さんは人生の中で欠けて欲しくない一部でもある。だから、希くんの気持ちには応えられない。」 「やっぱり歌のその考え方好きだな。」 希はそう言って笑った。 「あと、これだけは言わせて。どんな状態でも私は私だから。いつもの私なんてものは存在しない。その時の私がどんなにはしゃいでて、どんなに落ち込んでても。」 そう言って私は希に別れを告げた。 to be continued…
手のひら惑星 2話
1話あらすじ 父の居場所を探るべく、守川歌はホシという謎の男の家に訪れた。ホシは現在父がいるであろう「名前のない惑星」への行き方を知っていると言う。歌は父を見つけるためにホシに家へ案内されるがまま着いていくことにした。 2. 「ここが俺の研究室だ」 ホシがそう言ってドアを開けた。 「わぁ…」 研究室には今まで見たことがないような興味深い置き物やキラキラと輝く石などが飾られており、まるで宝箱のようだった。 「ここで惑星について調べているのですか?」 「そうさ。今は惑星へ行くためのハシゴを作っているんだよ」 「ハシゴを…?」 そう言ってホシは机の上にハシゴを置いた。 そのハシゴは想像していた通りの足場が幾つかある木で作られたハシゴであった。しかし、惑星へ行くには無理があるように思えた。 「あの…私の父もこのハシゴで惑星へ行ったんですか?」 私は訝しげにホシを見つめた。 「ああ。ただ、嬢ちゃんの父ちゃんが使ったハシゴはもう使えないんだよ。」 「なぜですか?」 「そのハシゴは惑星への扉が開いて数日経った後に姿を消したんだ。」 「扉…?」 「まぁ簡単に言うとな、ハシゴを登ると扉があるんだ。ハシゴは俺らが行きたい惑星の扉まで連れてってくれるのさ。そして、その扉はハシゴを立てることで現れる。」 「ハシゴは登ってる時に倒れないのですか?」 「ああ。このハシゴはな、扉の到達点にいる者にしか取ることはできないんだ。だから扉に誰かがいない限り途中で倒れることはない。」 「つまり、私の父は自らハシゴを取ったということですか?」 「そうだったらいいが。」 ホシはボサボサした髪をかき上げて少々意味ありげなことを言った。 「父のいる惑星には既に誰かいると言うのですか?」 「まだ研究が浅い惑星だから生き物がいるかもしれない。だが、もしそうならば、俺らもその惑星に行ったら帰ってはこれないだろうな」 「『惑星へ行くためのハシゴ』はどうやって作るんですか?」 少しの沈黙が続いた後、私は気がついたらそう口走っていた。ホシは少し驚いた様子だったがすぐにニヤリと笑って言った。 「それは簡単さ。ハシゴは恒星の光によって特殊な力が与えられる。そのためにはハシゴを一晩俺の家の屋上に置いとけばよいっちゅうわけ。」 「恒星の光で扉が開く…」 そんな簡単に惑星へ行けるのだろうか。私は未だにホシの言うことを信じることができなかった。 「よし!ハシゴは一晩置いとくから嬢ちゃんはさっさと帰りな!明日は平日だぜ?」 ふと時計を見ると時刻は18時を回っていた。中学生であった私にとってそれは一日の終わりを告げるものであった。 「また明日来ます。」 「きーつけて帰んな。」 そう言ってホシは玄関まで見送ってくれた。 to be continued…
思い
ある人は言う 「障がいがある人は大変だ」と。 私はその意見に対して、確かにそうであると思う。一方で全部が全部、大変に感じているわけではないとも思う。 障害を持つ人はその障がいがあったからこそ、その人の人生がある。 障害があるからこそ、その人独自の世界を見ることができる。 それは障がいがなくても同じことが言える。 ニンゲンという個体は同じでも、歩んできた道のりは違うのである。 松尾芭蕉は言った。 「松のことは松に習え」と。 松ではないニンゲンが松の気持ちが分かるはずがない。 そしてそれは障がい者にしても同じことが言える。 つまり、障がい者が大変だと思っていることは障がい者にしか分からないのである。 私は少しでも多くの人が一人一人の意見を大切にして欲しいと思う。
手のひら惑星 1話
私の父はこの世の全てを知りたがるような少し変わった冒険家だった。しかし、私は自分の好きなことをどこまでも追求する父が好きであり、いつしかそれは尊敬にかわっていた。 そんな父はいってらっしゃいという私のかけた言葉と共に帰ってこなくなってしまった。 私は父が今でもどこかで冒険を続けているに違いないと思っていた。というより、そう思いたかったのかもしれない。 そして私は父の居場所の手がかりはないのか探すべく、父から入るなと言われていた父の書斎の鍵を開けた。 物語の始まりはここからであった。 書斎の埃が気管に入り私は咽せた。 書斎には森や山、海や川、宇宙、銀河など様々な書類が山積みになって並べてあり、まるで小さな図書館のようだった。 その中でも、まだあまり埃を被っていない本を見つけ、本に付いていた少量の埃を手で拭った。 「名前のない惑星…?」 私はその本のページをめくるも、次第にその手は止まっていた。 その本には何も書かれていなかった。 「なに、この本…」 ふと私は、この星に父がいるのではないかと心のどこかで強く思った。 そして私はまた本をパラパラとめくった。 すると、めくったページの中から一枚の名刺が落ちた。 「謎の天体を探す…迷子の天体探索所…ホシ サガシ…?何これ誰?」 私は名刺に他に何か記載されていないかと名刺を裏返した。すると、名刺の所持者であろう人の住所が手書きで書かれていた。 「え、近所じゃん…」 私は本と名刺だけを持ち、家を飛び出した。 「急に来ちゃったけど…まあいいか」 私は呼吸を整えつつインターホンを押した。 「んお?こんちゃ!俺に何かようか?」 するとドアから出てきたのはモジャモジャ頭で瓶底眼鏡をかけた細身の男だった。見た目的に30代後半だろうか。陽気な口調と名刺の適当なペンネームからしてこの男が名刺の人物で間違いないようだ。 「あの、私、守川康夫の娘の守川歌です。」 「おお!康夫のね!まあ上がんな嬢ちゃん。」 ホシは私に家へ入るようにとドアを大きく開いた。 「いや、私はただ、父の居所を知ればそれでいいんです。」 私はホシを拒んで言った。 「…そうかい。」 ホシは私が抱きしめている本に目をやりながらそう言った。 そしてホシは最初の陽気さを忘れ、どこか果てしない場所を見つめているかのような目をした。 「あいつぁちょっと冒険バカだったからなぁ。俺は止めたんだぜ?」 「………どういうことですか?」 「あいつは誰もが研究をしたがらない惑星に興味持っちまってな。その惑星について詳しい俺の所へ来よって、気づいたときにはそいつの姿はもうなかったよ。」 ホシはドアに肘をつきながらそう話した。 「つまり、私の父は今その惑星にいるんですか…?」 ホシは数秒の沈黙の後、頷いた。 「ありがとうございます。」 私は深々とお辞儀をしてホシに背を向けて走り去ろうとした。 「おい、嬢ちゃん。まさかその惑星に行こうとしてるんじゃあねえだろうな?」 ホシはどこか楽しげにニヤリと笑って言った。 「行く手段あるんですか!?」 私は目を大きく見開いてそう聞き返した。 正直私は行こうとしていなかったため、ホシの言葉に驚いた。確かに、この男によって私の父はその惑星にいる。つまり、普遍的な繋がりによって惑星へ行くことができるのではないか。 「その好奇心旺盛な目は父親譲りだな」 ホシは私の真剣な顔を見て笑った。 「もし嬢ちゃんが父親に会いたいっちゅーならついてきな。だが、安全の保証はしねぇ」 するとホシは私を家の中へ案内した。 Continued
一人一人の世界
彼は私に昔体験した話をよく聞かせてくれた。 滝修行をしたときに、上から魚が降ってきた話 滝修行をしたときに、溺れかけた話 滝修行をしたときに、河童のようなものを見た話 一見同じ話に聞こえるが、少し違う。 いつしか私はそんな彼の物語の虜になっていた。 しかし、彼はいつも昔のことばかりで最近のことは話さない。 なぜなら彼は認知症患者の1人であったからだ。 彼らは自分の中で出来事を作り変え、まるでその事が起きたかのように語る。 したがって、同じ内容に感じるが少し違うのである。 また、彼らは一人一人の自分の世界を持っているため話す物語は様々であり、またそこが実に興味深いと感じる。 今日も私は彼らの冒険話を楽しみにしている。
探検家と見知らぬ生物
皆さんは「ネコ」という言葉を聞いて何を思い浮かべますか。 ネコそのもののカタチ、ネコの鳴き声、耳やヒゲなどの特徴的な部位、あるいは「猫」という漢字を思い浮かべるでしょうか。 このように皆さんが「ネコ」に対して何かを思い浮かべる事ができるのは「ネコ」という物体に名前があるからだと感じます。そして、名前は言語が生まれたから存在するのです。 そう考えたところで、もし、世界に言語が生まれなかった場合、そして名前をつけるという風潮がなかった場合、どうなるのでしょうか。 これはまだ名前がないとある惑星のお話です。 ◯月×日、世界を旅する探検家の私は世界だけでは物足りず、とある惑星に降り立った。 この惑星は地球以外で唯一水がある惑星であり、植物も生い茂っていた。しかし、研究データはなく、誰もこの惑星を知らずにいた。 惑星に着いた私は考えなしにこの地を歩いた。 ガサガサ… すると茂みから物音がした。私より先にこの惑星に踏み入れた人間はいないはず…。そう思いつつ、息を呑んで茂みの方に顔を向ける。 ガサガサ… 生い茂る植物の間から地球では見たこともない生物と出会った。 そいつには顔がなかった。それとも顔が見えなかったのだろうか。その生き物には二本の足と二本の腕がついていた。体は胞子と例えた方がよさそうなふわふわとした見た目で少し黄色く見える。というかどこから食べ物を食すのかすら疑問である。 私はそいつをNo.1と名付けることにした。 No.1は私の顔を見て動かない。 「こんにちは」 私はNo.1に挨拶をした。 「コ、ココ、コ」 するとNo.1はどこからか声を出したのだ。私はこれには驚いた。 「こんにちは」 私はまた挨拶を復唱する。 「こんにちは」 No.1は今度ははっきりと言った。 するとじっとしていたNo.1が急に私の手を握り、どこかへ案内するかのように引っ張っていった。 No.1の手はまるでふわふわとした毛布に包み込まれるかのような暖かさと安心感があった。 No.1に案内されて着いたところは川だった。 川の周りには光る花が一面に広がっていた。 「花綺麗だね」 私は花を指差しながらNo.1にわかりやすい言葉で話しかける。 「花綺麗だね」 No.1は今度は間違えずに、いや完全に日本語を話していた。No. 1の言語の発達スピードは尋常ではなかった。 「…凄い」 私は驚きのあまり声を漏らした。 「凄い、凄い、凄い!」 No.1は褒めの言葉と分かっているかのようにキャッキャキャッキャと飛び跳ねて言った。 「花綺麗だね凄い、綺麗凄い、花凄い」 今度は学んだ言葉を繋げて話していた。 「ああ君は凄いよ。君は天才さ。」 私は微笑みながらそう言った。私はまるで子どもに言葉を教えているかのような感覚にあった。 「君凄い。天才。」 No.1は徐々に使える言葉を増やしていった。 何日が経っただろう。 No. 1は会話ができるようになった。 会話ができてからのNo. 1は毎日をとても楽しく過ごしているように見えた。 ある日には私に素敵な木の実を見せてくれたり、またある日には私を素敵な場所へと案内してくれた。 私の寿命が尽きるまで、No. 1は私を楽しませてくれた。 私が深い眠りについた頃、No. 1はニコニコしていた。 人間は人が「死ぬ」と「悲しい」という言葉が生まれるであろう。しかし例外は認める。 私はNo.1に死を教えていなかった。これは私にとって唯一の心残りとなった。私はNo.1をこの地にたった独り残すことになるのだ。私が一生動かないことをNo.1は知る事ができるのだろうか。 そしてNo. 1がそれを死と呼ぶことを知る日は来るのだろうか。 ×月◯日、私の旅は終わりを迎える。
出会い
僕にはずっと前から思いを寄せている子がいる。 そいつと出会ったのは小学生の頃だろうか。 僕はいつもの公園へ行き、いつものブランコに乗ろうと心を躍らせながら公園へ急いだ。 するとどこからか誰かの声が聞こえてきたのだ。その声は公園に近づくにつれ次第に大きくなっていった。 そこには独りで泣いている男の子がいた。 僕はその姿に酷く心を打たれてしまった。 つまり僕のハートを掴まれたのだ。 これが恋ってやつなのかと当時は思った。 だが今考えると早く声をかけてやれと言ってやりたい。 僕は何秒か経った後、そいつに声をかけた。 しかしそいつは泣いてばかりで全然わからない。 気づけば時計の針は五を指していた。 僕はお母さんに怒られることを前提にそいつを家に連れていった。 お母さんはそいつを見てとてもびっくりした顔をしていたが、呆れたようにため息をつき僕のとった行動を許してくれた。 お母さんはそいつの親が公園へまた探しに来ているかもしれないと言い公園へ行ってくれたがそいつの親の姿はどこにもなく、結局交番へ電話をすることにした。 しかし、そいつの親が見つかる事はなく月日が経つばかりだった。 行くあてもないそいつは親が見つかるまで僕の家で共に暮らすことになった。 そいつにとっちゃ嫌かもしれないが僕にとってはすごく嬉しかったのを覚えている。 そして僕はそいつを何がなんでも幸せにしたいと思うようになった。 と言った感じで僕とそいつにはそんな思い出があるのだ。 だがそいつは僕と目が合っても興味無さそうにあくびをする。 僕の気持ちを知らずに。しかし誰がなんと言おうと僕はそんな彼が大好きだ。 そして今日もまたそいつはニャーと鳴きながら尻尾を立てて僕の手をめがけてスリスリしてくる。
正体不明の黒い影
「あそこのアパート、絶対何かいるよ…」 仕事終わり、同僚と一緒に職場を出た私は身震いをした。幽霊は視えないが何か感じ取ることはできるのである。 「もしかして幽霊?ごめんだけど私信じてない。そんなことよりコンビニで新作のスイーツが出たって広告で見たから行こうよ!」 同僚はアパートなど気にもせずコンビニへ走っていった。 「ちょっ!待ってよ…!」 仕事終わりとは思えない元気の良さに唖然としつつ私は同僚を追った。 ドンッ 「痛いよ!急に止まらないで!」 私は同僚の背中にぶつかった。 しかしそれは同僚ではなかった。 それは190センチはあるであろう黒い塊のようなもので、人型にも見えた。そしてそれはぶつかった衝撃と共に霧のように消え、跡形もなく姿を晦ました。 「おーい!置いてっちゃうぞー!」 私は呆然とし、次第に目の前が暗くなるのを感じた。 「…か?…ますか?…お名前…ますか?」 微かに自分を呼ぶ声がし、目を開ける。 「意識が戻りました!!!」 看護師の方が叫んだ。 どうやら私は意識を失っていたらしい。医者には熱中症と診断されたが、私は最後に見た謎の影のようなものが心残りのまま今日は入院することになった。 翌朝、同僚が私の退院に合わせて迎えにきてくれた。その後、たった半日の入院であったが、退院祝いとして2人でカフェに行くことにした。 「昨日何があったか分からないけど、とにかく元気になったみたいで安心したよ!」 同僚はカプチーノを飲んでそう言った。 「昨日のあれは絶対幽れ…」 幽霊だったと言おうとした途端、同僚は私の口元に人差し指を近づけた。 「それ以上言わないで。」 その時の同僚はいつもの快活な同僚と違い、どこか闇を纏っているようだった。 すると、同僚は鞄から携帯を取り出しフリックし始めた。 ピコンッ 突如私の携帯が鳴り、見てみると目の前にいる同僚からであった。 私は同僚の意図がわからないまま同僚からのメッセージを開く。 そこに打たれた文字を見て私は思わず驚愕した。 『あなたは以前から幽霊に取り憑かれている』 終 同僚は生まれつき第六感が優れている人であった。 幽霊が視えると言うと、幽霊はその人に近寄ってくるため視えることは話してはいけない、と祖母から言われ続けていた。 しかし、仕事場で自分よりは劣るが霊感のある「私」と出会ったのであった。 ※このお話はフィクションです。