Left
21 件の小説花びら
やわらかな風が吹く。とても心地いい。 その風に乗って、桜の花びらも、悠々と空の端々に舞っていってしまう。 ねぇ。 花びらって、最後には何処へ向かうのかな。 ううん。足元に落っこちて、人や犬に踏まれてアスファルトにへばり付いた花びらも、いつかはその場からすっかり消えていってしまうでしょ。 だから、ね。結局、何処にいってしまうのかなぁ。 そんな。掃除されるだなんて浪漫のないこと言わないで。 なぜそんなことを聞くんだぁって? だって、寂しいじゃない。 誰にも目もくれられずに、人知れず居なくなるだなんて。 別れも告げずに。 とっても孤独じゃない。 私は、ね。道端で見つけた花びらを、いつも歩いて渡る道の隅っこに佇んでる花びらを見てるとね。 いつの間にか、愛着が湧いてしまうの。 まだいる。 今日もあった。 まだへばりついてるんだ。 すごく頑張ってるな。 今日もへばりついてて偉いね。 私も頑張らなくちゃ。 やけに蒸し暑かったな。 初めて、大切な存在がぱったり居なくなった日は。 街のみんなは、自ずと喧騒を作ってそこかしこに歩いていく。 人がひしめき合ってるこの社会で、あの子が居なくなったって事実はきっと、粉砂糖ほどのちいさな出来事。 私だけ。あの子の存在に気づいていたのは、私だけ。 ねぇ。 花びらって、いったい何処へいくのかな。 また、戻ってきてくれるのかな。 それだと、まだマシなんだけどね。 だから、ね。 あなたも、ひとりで何処かに行ったりしないで。 少なくとも、私だけは、あなたのことを知ってるつもりだから。 あの子は何も話さなかったけど、あなたは返事してくれるじゃない。 だから、あの子の分も言うから、あなたはあの子の分までお返事してね。 変なこと言っちゃうけど、そんなの諸々分かってくれるから… 私はあなたが大好きです。
木曜の不思議な人
お久しぶりでございます。 Leftです。 もう何ヶ月も更新していませんでした。 皆さん、覚えていらっしゃいましょうか? ボクもいよいよ高校2年生に進級し、学習なり課外活動なりと、ばたばた奔走している次第です。 ところで、このアプリ内にボクと同い年の方っていらっしゃるのでしょうかねぇ?今年度、同じように2年生になった方が。 近頃は呪術廻戦0の原作を買い、興奮しながら読みました。狗巻君推しになりました。 皆さんも、お勧めの漫画がありましたら教えてください。 さて、そろそろ本題といきましょう。 題にある通り、ボクは木曜日に不思議な男に出会しました。 まだ当時の記憶がハッキリしているくらい強烈で、夕べ夢にまでそのまま出てきたほどでした。 その奇態溢れるいきさつの一部始終を楽しんでいただければと思います。 最近、ボクは趣味で筋トレをしています。 具体的には、週2で放課後ジムに通っているという感じです。 初めは腕立てをするにも根気が要りましたが、一ヶ月経てば平気で10回はイケるくらい結果が付き出してきました。 昨日は友達と一緒にジムに通い、ダンベルを上げ下げしてきました。 その帰り道、「ザバス買おうぜ」と友達が言うので、最寄りのスーパーでプロテインを買って飲んでいました。 飲み終えて、さあ帰ろうとペダルをギュンと一漕ぎします。 すると、後ろからこう聞こえました。 「その自転車、ギア付きかね?」 んえ? さっきまで駐輪場には誰もいなかったのに、突然男の声がしたのです。 無視しようかと思いましたが、ボク達以外に人がいなかったので、振り向くしかありませんでした。 後ろを見ると、鼠色のつなぎを着た日焼けの無精髭男が、ボク達の姿を捉えていました。 もう定年間近、いや、もう過ぎているであろうその男はボク達に近づくなり、 「ギアやろ?その右(ハンドル)に付いとるの。」 と妙な質問を投げかけてきます。 「ん?え、あぁ。はい、そうですよ?」 「はい、そうっスそうっス。」 男の腹づもりを考えながら、ボク達は取り敢えずの返事を捻り出しました。 すると今度は、 「自転車立ち漕ぎやろ?あんたら。」 とボク達に聞きました。 やっぱり男の魂胆は解りません。 「まあ、しますね。」 「するっスね。」 また、意味の分からないまま、ボク達は(以下略)。 質問ばかりして、一体何をしたいんだろうこの髭は。 そう思っていると、ようやく男は真意ととれる目的を言い出しました。 「坂、あるやろ?坂で立ち漕ぎで疲れんように走るには、ギアを上手く減速さすんや。」 なるほど合点だ、とやっとボク達も男の心うちを知れて安心しました。 「あのなぁ、ギアを減速さすにはコツがあってな…。ペチャクチャペチャクチャ…」 なんでも、坂道でのギアの落とし方は、歩くスピードと同じ速さで下げていくと楽な走行が出来るという旨の話でした。 しかも、男はこの走法で往復160キロのサイクリングを達成したこともあるそうです。 ちゃっかり武勇伝を挟むな。 今思えば、男の自論を聞いている内に、だんだんと男の熱がヒートアップしていたように感じます。 すると歯止めの効かなくなった男が、 「ペダル、手で漕いでみ。」 そんなことを言いました。 あい?そういう風に言いそうになりそうなのを、咄嗟に喉に押し込みます。 ほれ早うと言わんばかりの男の目配せに、ボクは“ハァ、ハイハイしゃあないね”と言わんばかりに従ってしまいました。 乾いた土が被った汚いペダルにがっちり手を付け、 ジーコ、ジーコ… ジーコ、ジーコ… …はあ、何やってんだろう。自分。 スーパーの駐輪場にひざまづいて、足でなく手でペダルを漕ぐ自分の姿を、友達と見知らぬ人間に見下ろされなくちゃあならないのか。 駐車場のみんなに見えるんだってば。 すごく滑稽なんだろーなぁ。 それでもって男が、 「今ギアを一つ減速さしたぞ。どうだどうだ。」 なんて合いの手を加えるもんですから、もう堪ったもんじゃありません。 「あぁ!分かります分かりますー。」 内心は帰りたくてたまりたせん。 「そうやろ。ほれ今度は一つ重なったぞ。笑」 じゃかァしい。せめて笑うな。 そして男が飛ばしたその火の粉は友達にも飛び移り…。 「ほれ、お前も。」 「え、俺もっスか?」 ボクはやっと解放された気分になり、すっくと地面を踏み直しました。 あぁ、いいなあ立ち上がることは。 そういう感情に浸りつつ左に振り向くと、 ジーコ、ジーコ… ジーコ、ジーコ… 「どうだねどうだね。軽いやろ。」 「あぁ〜軽くなったっスねぇ〜。」 予想が付いた光景と友達の感情がこもってない言葉に、ぶっと笑いを抑えました。 すると、ボク達の後ろに、中背の人影が見えました。そして…、 キャンっ! 少し小さい柴犬を連れていました。 「おぉ〜やっぱりお前か〜!」 「おお、久しぶりだのぉ〜」 柴犬を連れた準高年の男が先に言葉を口にし、それに続いてギア男が反応します。 新たなキャラクターに、ボク達は戸惑わざるを得ません。 ギア男が柴男を指差してこう言ってました。 「こいつも、よく自転車で走っとるんだよー。」 どうやら、2人は知り合いのようです。 それからギア男は友達の自転車講習からすっぽ抜けて、柴犬と、じゃれあい始めました。 「よーしよしよしよしよし、わしゃしゃしゃしゃしゃ…。」 ワフっワフっ 「ふふふふ…。ふふふふふ。」 2人と1匹だけの空間。2人と1匹だけの世界。 それを見兼ねた友達が 「帰ろ、帰ろかえろ…?もう俺ら用済みだよ。」 とボソリと呟いてくれたので、ちゃちゃーっと自転車にまたがり、その場を離れようとしました。 「「ありあとございャしたーっ!」」 一応豆知識教えてもらったので、お礼とお辞儀をして帰ります。 そして最後にギア男が、 「ちゃんとギア使えよーーーー!!!」 なんと帰り道の僕たちに向けて叫びました。 最後の最後までうるさかった……。 小っ恥ずかしい思いをしながら、ボク達はスーパーを離れることができました…。 さあ、いかがでしたでしょうか? 中々いない奇人との遭遇。やらされる苦行。唐突の新メンバー。…。 この5分間の強烈な実話は、Noveleeに久しぶりに投稿するしかないだろうと思い、この日記を書きました。 スーパーの敷地内から出ると、友達と笑いながら「何だったんだあのおっちゃん笑笑」「立ち漕ぎがどうとか知らないよー笑」 と回想浸っていたのを覚えています。 まあ、本当はボク一切立ち漕ぎ出来ないんだけどね。 皆さんも、初対面の人物には、奇行に走らせないようにしましょう。 長文になり、申し訳ございません。 それでは、また次の作品まで、さようなら。
辰
男は唐突にぴくつき、机で赤くなった顔を上げた。 真正面の時計は、長針と短針が今にも抱き合おうとしている。 おっとこんな時間か、と男はつぶやき、やや慌て気味に炬燵から脚を出した。 付けっぱなしにしていたテレビから、期待のこもったオーディエンスの騒めきと、かなり興奮した番組司会者のカウントダウンが聴こえる。 さぁみなさんご一緒にっ、せィのー一〇、九、八、七、 男は足の親指を人差し指に乗ってたりしている。 いかにも忙しない感情が滲み出ていた。 六、五、四、三、二ィ、 一… 近所の寺から一発目の除夜の鐘が鳴る。 ぼわあんというかぽああんという風な音が、この冷め切った空気にに溶け込んでゆくように感じた。 それを聞こえたと同時に、男が足に力を込めて、すぐさまにぐっと下へ押し付けた。 ふわああ。 と宙へ浮いている。一瞬だけぼさぼさの髪の毛が無重力に放たれたような感覚に襲われた。 ずんと床が鳴る。 そこにはふふんと少し満足げに佇む男の姿があった。 すると、男はテレビの方を見る。 わあーーっ、明けまして、おめでとうございます!二〇二四年がいま幕を開けました! テレビの向こう側には、これ見よがしに赤と白の紙吹雪が舞い上がって、カラフルなスポットライトに照らされる生放送のスタジオがあった。 類を見ない大盛り上がりを見せ、陰がないくらいの歓声が部屋に充満した。 あれ。スゲェ盛り上がっちゃってるじゃん。 意図せず溢してしまった。 一人照明の下で意気揚々と跳ね上がった独身男性の角部屋と、あのスタジオの景色。一体どちらが虚しいのだろう。答は理不尽なほどに決定している。 例えると、長針と短針のロマンスを妨害して走り去ってやった後の秒針くらい悲惨だ。 何故いい歳こいた大人が、なに高校生みたいなことをやってみせたんだろう。別に見せる相手などいないのだが。 いそいそと男は炬燵に脚を突っ込むと、器の冷えた蕎麦を啜る。 かまぼこはそこへ沈み、つゆまで冷めている。 その蕎麦は少し粉っぽい味がした。 すると、テレビから更に歓声が湧く。会場のスクリーンに、巨大なドラゴンが現れたのだ。 かなり緻密なみてくれで、ちょっとばかり神秘さを兼ね備えたドラゴンだ。 今年は辰年か。 別に生まれ年って訳ではなかったが、ほろっと口から出してみた。 この男、実は名前をタツキと名乗るのだが、正に辰の字がその名前に使われているのだ。 別に生まれ年って訳ではなかったが、ほつりと心が嬉しくなれた。 今朝は早起きして、長らく行っていなかった初日の出を見に行こうと思った。そして、今年こそ、女性との縁が実るように、と輝く太陽に祈ろうと強く決心するのだった。 もう、こんな寂しい自分とオサラバ出来るように。
僕のあだ名
僕にはあだ名がある。 それは最近、友達に突然名付けられたものだ。 最初、僕はなんでやねんって思った。 この文章は、どのような経緯を経てそんなツッコみたくなるようなあだ名になってしまったかを説明するエッセイだ。 8月も終わりに差し掛かったある日、僕は学校へ行った。 その日は周りの学校より少し早い始業式で、いきなり三教科のテストを行うハードデイだったのだ。 焦って勉強して、何とかテストの問題に食らいつくことが出来たという次第だ。 我ながら情けなく思ってしまった。 下校時、友達と話していると、ある話題が飛び出して来た。 「おい、明日の花火大会行こうや」 そう、この日の翌日は花火大会があり、それはそれは華美な花火が何百発も打ち上げられるのだ。 懐かしい。その祭りは小二以来訪れていないので行ってみたくなった。 「いいねそれ。一緒に行こう」 「行くに決まってんじゃん!」 「うん、決定」 トントン拍子で話が決まり、翌日、会場近くのゲーセンで落ち合うことでその日は別れた。 そして、僕が学校の後向かったのは、散髪屋だ。 「こんにちは〜」 「はーいいらっしゃい。またこの前みたいにする?」 「お願いね」 僕がお願いした“この前みたい”というのは、スポーツ刈りの事だ。 以前より、僕は髪型を変えることを密かな目標にしているのだ。具体的な髪型は伏せておくが。 今回のは、髪を伸ばすための準備のような感じである。 まあ、二学期からちゃんと勉強していこうという決意表明みたいなこともあったのだが。 髪型が変わると、やはり新鮮な心持ちになる。 これが似合うかどうかは見る人次第だが、少なくとも昔の芋っぽい感じは抜けてくるからだ。 しかし、少し厳つい雰囲気になってしまったか。 そして花火大会当日。 待ち合わせ場所のゲーセンに少し早く着いたので、メダルゲームをして待つことにした。 それから30分ほどジャラジャラとプッシャー機で無双していると、そろそろ集合の時刻が近づいてきた。 すると、友達からあるメールが送られてきた。 ポッ 『どこ?』 お? 何処どこのゲーセンって言われたので、ちゃんと集合つもりだが、まさか違うとこだったりしたか? シュポ 『⬜︎⬜︎のゲームセンター』 万が一ってこともあるからなと思っていると、メールが返ってきた。 しかしそれは、僕にとって驚愕の文章だった。 『いるよ』 「……はい?」 困惑しきった。 おんなじ場所にいて、それほど広くないスペースで見つける事が出来ないなんて。 そんなことあるかね? 取り敢えず言葉を返そうとキーボードで文字を打つ。 すると、右の方の通路からある集団がザワザワしながら近づいてくる。 妙に聞き覚えのある声ばっかりだ。 つい昨日聞いたような声が……。 「あっ、〇〇や!」 「ほんまや!」 そう、前日約束していた友達だ。 気付いていなかったが、僕がメダルゲームに夢中になっている時に、一回ゲーセンをぐるりと一周していたらしい。 それでもお互い存在に気づいていなかったのだ。 それもそのはず。 僕は髪型が大幅に変わったので別人と間違われていたからだ。 「髪型変わってるじゃん笑笑笑」 「お前、中町JPやん笑笑」 はい、タイトル回収完了です。 初めて聞いた時、本当になんじゃそれってなりました。 いつも僕は眼鏡であの髪型も相まって、余計その友達にはそう見えたのでしょう。 服もしまむらで買った服だし。 …それは関係無いか。 あと後日談と言っては何ですが、お祭り終了後にインスタグラムを開いてみたら、 “中町JP”と書かれた僕のパンチングマシンの動画がストーリーに挙げられていました。 よりによって、よろけた場面だけのところを。 許さんぞ。 夜のテンションで書いたのでとても駄文ですが、最後まで読んで頂きありがとうございました。 それでは、バイバイ。
無ジョウを生きる
少年は喚き泣いていた。 大切にしていたトラックのおもちゃが壊れてしまったからだ。 見れば、床一面にトラックの部品が散らばっており、タイヤは部屋の奥へ転がっている。 少年は荷台部分だったプラスチックの破片を、さも大事そうに握っていて離さなかった。 “また、デパートで新しいのを買おうな。” 父親はそう少年を慰めるのだが、頭を乱暴に振って言うことを聞かない素振りをする。 まるで、“もう欲しくない”と訴えるように。 それから少年は、持っていたおもちゃに全く手をつけなくなったという−−−。 少年がおもちゃで遊ばなくなって数週間が経った頃、それは日常生活に影響を及ぼしつつあった。 保育園では、以前はともだちと一緒になって遊んでいたのに、急に一人で居たがるようになったらしい。 トイレの中で一人泣いている事が度々あるという連絡も受けていた。 家でもいつも何かに怯えて、子供部屋よりリビングにいることが多くなった。 そして好きなアニメ番組を見ていると、決まって親のほうへ抱き着いてくるのだ。 おもちゃのコマーシャルだった。 少年はいつも、みんなは元気でいいなと羨ましがる毎日を送っていた。 ある日、少年はリビングで高熱を出してしまった。ストレスが過度に達したのだ。 寝る時でさえ苦しそうな表情を浮かべているのはもう日常茶飯と化していたが、今回は取り分け不愉快な顔をしていた。 “気が付きましたか?ボク” 何もない、ふんわり宙に浮いているような空間。 誰かがぼくにに話しかけてると、少年は感じ取れた。 “あぁ、これ程までやつれてしまって…” 少年の痩せこけた体型を見て、同情混じりの嘆きをあげる。 誰なの、何なんだろう。こわいこわい。 姿の見えない声の主に、少年は怯えてしまっている。 それを確認するなり、声の主は少年を諭すように喋った。 “そう怖がることはありません。ワタシは、ボクを救いに訪れたのです” スク、い? 何のことか分からず少年は不意に復唱する。 声の主は話を続けた。 “そう。ボクはこの間、トラックのおもちゃを落として壊してしまいましたね?” 子供ながらに、少年はハッとなった。 あっと声をあげ、その瞬間に少年の脳内に当時の色々な光景がフラッシュバックする。 無理をして大きなトラックを持ち上げようとした場面。 思わず手が滑ってトラックが床へ叩きつけられる場面。 タイヤが転がって壁の近くで倒れた場面。 荷台だった破片どうしをくっ付けても元に戻らなかった場面。 焦燥感と恐怖で目の前がぐしゃぐしゃになっていく場面……。 涙が溜まり、また少年の視界がぐしゃぐしゃになる。 “ほら、まさにそれです。” 主は、待っていたと言わんばかりの反応をみせる。 “ボクはトラックを壊してしまったとき、トラック自身が喋ったように思えたでしょう? 痛いよ って。” 俯きがちの少年の顔がバッと正面を向く。 どうして分かったのというような、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。 “他のおもちゃで遊んでうっかり壊してしまうのが怖かった。 痛いよ と言われて遊べなくなるのが切なかった。だから、子供部屋に行くのもおともだちとおもちゃで遊ぶのもいやだったんでしょう?” なぜそんな事を知っているのかとも思ったが、この際そんなこと関係ない。 少年は鼻をずびずびと啜りつつ、ウンと頷く。 そしてその瞬間、ビュンとひと吹きの向かい風が巻き起こった。 思わず目をつぶってしまったが、少年が目を開けると、辺りは何もない空間からひとつの世界が広がっていた。 下に引っ張られるような感覚で、少年は降りていくのだった。 足はゆっくりと、地面に近づいていく。 うまく着地すると、少年はびっくりして足元を見下ろした。 地面がいつも遊んでいた四角いブロックだったからだ。 よく見れば、ここ一帯の全てのものがブロックで出来ているじゃないか。 近くに生えている木も、そこら辺の石も、緩やかに流れる小川も、全ておもちゃなのだ。 少年はあまりの光景にしばらく見入っていると、後ろの方になにかがいる気がした。 振り返ると、忽ち少年は呆気にとられた顔をする。 「やあ。」 トラックのおもちゃだ。 あの時、手が滑って壊してしまったトラックのおもちゃが、今目の前にいる。 嬉しくなって、走り向かって抱きしめた。 「キミは、僕を壊してしまって寂しいと思ってたんだね。」 トラックの言葉に、少年はウンウンと何回も頷く。 堪えていた涙まで出てきてしまった。 「だけどね、この世界はね、僕たちおもちゃは絶対に壊れないんだよ。だから痛いって思う事も、キミの目の前から消えちゃう事もないんだよ。」 えっ、と声が漏れ出た。 トラックのおもちゃと、また一緒に遊べるの? ほかのおもちゃも、無くなることはないの? ほんとう?ほんとう⁉︎ 泣き顔が、満面の笑みに変わる。少年にとっては最高の世界だ。 「うん!一緒に行こう、みんな待ってるよ!」 “さあ、行きましょう。ワタシたちだけの夢の世界へ!” 少年はトラックのおもちゃと、どこまでもどこまでも駆けていくのだった。 ……… …… … 長い長い夢を観た気分で、少年は目が覚めた。 体温は平熱に戻っていて、吐き気もなく、食欲もかつての頃と同等である。 すると、突然少年は目を見開いた。 壊れた筈のトラックが元に戻っている! すぐさま駆け寄って確認すると、あの時のまま、荷台も何もかもくっ付いている。 少年はもっと嬉しくなって、病み上がりでありながらもその日は一日中トラックで遊び続けた。 その日を境に、少年はトラウマを克服したように子供部屋に行くようになり、テレビも普通に見るようになった。 保育園のともだちとも一緒に遊び、もう、一人トイレで泣き出すような事もなくなったそうだ。 数十年後 某県⬜︎⬜︎刑務所内 スーツ姿の男が二人、真剣な面持ちで所内を歩く。 「所長。これを。」 「ああ、悪い。」 一人の若い男が、所長と呼ばれる男へ一枚の紙を手渡す。 その紙の内容を、所長はぶつぶつ呟いた。 「犯行内容は殺人。先月末、親戚宅にて友人に逆上し、殴打の末刺殺…か。」 「遺体には十二ヶ所の痣、そして三ヶ所の刺し傷があったらしいです。」 張り詰めた空気に、カツカツと床を踏み鳴らす音が響き渡る。 「しかし、この罪人は第一審で裁判が終えたのか。普通なら抵抗するはずだが、不思議だ…。」 「ええ、ぼくも疑問に思いました。何故こんなに判決をすんなり受け入れられるのかと。その答えは、その紙に記載されてあります。こちらをご覧下さい。」 部下は、紙のある一部分を指差す。 「これは、罪人の精神鑑定の結果です。まず、この絵を見て下さい。所長はこの絵をどう思われますか。」 そこには、長方形の枠の中に、雲、飛行機、三台の車、信号、そして一人の頭足人間が描かれていた。 所長は、顔をしかめて口を開く。 「…実に、子供が描いたような雰囲気があるな。」 「そこです。白紙に自由にかけと指示された後にこの絵を描いたそうなのですが、とても幼児的なんです。」 まるで未就学児が描いたような、幼稚じみた絵なのだ。 部下は話を続ける。 「“罪人は責任能力が極めて低いが、五才児程度の善悪の理解はあるため、心神耗弱者と定める”と、この紙に書かれています。これでも十分精神に異常があると言えますが、それを裏づける証拠がこの事件にまだ残っているんです。」 「それは、一体なんだね。」 「罪人の友人の遺体です。」 「遺体に、罪人の幼児性が隠されているというのか?」 「はい。…遺体には、三ヶ所の刺し傷があったことは、先程申したことは覚えていますか?」 「ああ。それがどうしたんだ?」 少しの沈黙の後、部下は息を吐いて言葉を発した。 「…その刺し傷は、刃物で刺したような傷ではなかったそうです。」 「何⁉︎」 「聞いた話によると、プラスチックの破片でぶっすり刺されていたようです。」 「………。」 ある程度歩いた後、二人は扉を開けて入った。 その扉には古びたフォントで、“監獄”と書かれていた。 「…その紙の一番下に記載されている文章を、読んでみてください。」 「………、 “罪人は五才頃、当時お気に入りだった車の玩具を壊してしまったショックにより、数週間心を病んでいた。 某日、過度のストレスで高熱を出し、すぐに平熱に戻るも、そのまま取っておいたバラバラの玩具に近寄り、“治った”と言って一日をその我楽多に費やす。 その後、“おもちゃの世界では壊れない”などと言い張ってだんだん玩具の扱いが乱雑になり、すぐに破壊してしまうようになる。それが原因で保育園の同級生が遊びに誘う事も少なくなった。 小学生に進級しても、学校に通わず、既に壊れてしまった玩具の破片で一人遊びをやめない息子に両親は精神疾患を発症し、罪人が小学六年生のときに夜逃げすることになる。 以降は親戚の夫婦に引き取られ、面倒を見てもらうようになるが、噂として近所の住民から敬遠されるようになった為、嫌気が差した親戚は罪人を二階の一室に閉じ込め、粗末な食事だけを提供する事にする。” …………。」 右奥にある一つの受刑者室から、ぶーん、ぶーんとはしゃぐ男の声が聴こえる。 その声のする部屋に、二人はどんどん近づいていく。 そしてある部屋で、男二人は立ち止まった。 「わァー、ひこうきはたかくとんでるぞ〜。ぶいーん、キャっキャっキャっ…」 両翼が折れ、胴体だけの飛行機のおもちゃを片手に遊ぶ、あの時以上に痩せこけた“元”少年の姿が鉄格子の向こうにあった。 「人の無情さから逃れるために無常の世界を生きる、悲しき子供という訳か……。」 「ええ……。」 二人の同情の視線を向けられようと、“元”少年は飛行機を手放すことをやめなかった。 “元”少年の頬を流れる水滴は、汗なのか涙なのかは分からないのだった。
もう二度とやらない
そんな言葉を発したのは5時間目の後の休み時間のことである。 現国の準備をしていると、後ろからゴトンと大きな音が鳴ってきた。 直様ふり向くと、友達が机に向かってなにかを放っているようだった。 ペットボトルだ。 机にペットボトルを放り、水の重さで立たせようとしている。 しかもその友達は、ペットボトル垂直チャレンジの逆を、すなわちキャップを足にして立たせようとしていたのだ。 “そんなこと出来るん〜?” “いや、一回できたことあるよ” そう、彼は一度逆さまペットボトルを成功させたことがあり、僕もそれを目撃していた。 今回もやってくれるかと思っていたが、これが中々成功しない。 出来たかと感じたとき、みんな一瞬オっと口から息が溢れるが、机でキャップが滑って横に倒れてしまうのだ。 気付けばクラスメイトと数人でそれを見守っていた。 “んァー惜しいねぇ〜” そんな歯痒い様子を見ていた別の友達は、何を思ったか、 “よし、いったれ〇〇(僕のあだ名)!” と、僕を逆垂直のチャレンジャーに指名しやがったのである。 “あぁ、うん。分かった。” その時は何も抵抗はなかったので、僕は言われるがままにそれに乗ってしまった。 そして、案外いけるだろうというでたらめな自信もあった。 中身が少々泡立ったペットボトルの尻を持ち、放るタイミングを待つ。 数秒し、自分にしかわからない“今だ”という言葉を聞いて初めて手を上に振った。 スナップの効いた良い手だった、と思う。 そのままヒョンヒョンとペットボトルが上がり、そのまま机に着地成功する。 そして“おぉ〜”というあまり感心のない歓声が聞こえてくる。 はずだった。 ペットボトルは上に上がらず、横の友達の方へ吹っ飛んでいって、“うわぁぁっ”という悲鳴をあげさせてしまった。 挙句の果てには床にペチョーンと情けない音を立てて、ペットボトルは倒れた。 ゴトンなどの重く響く音ではない。ペチョーン、だ。 ここでちゃんと立ちでもすれば、まだ救いはあったはずなのに。 周りには、肩を揺らして笑っている友達の姿があった。 恥ずかしさを紛らわすために、 “もう二度とやらない” と言ってみた。 一人の友達が声を出して笑ってくれた。 真顔よりこっちの方がまだマシだ。 やっぱり、調子に乗るものではないと思った。 あと、水はいろはす派だ。 ー終わりー
またね。
ねえ ん? 次はいつ会えるの 知ーらん どこでまたすれ違うのかな 山奥とかだったりして そん時はどんなカッコだろ? おそらく透明人間 見つけられないってこと? きっとわかんないよ 絶対わかる その自信や如何に おめかしして振り向かせるから ちがう人だったらどうする? あわあわする 飽きるまでやってな 飽きないからやってる それはまた何故 だってまたあなたに会いたいから でもオレはもう君に会えないよ それでも絶対会う 会えたらいいな たらればなんかじゃない そっか うん 会えるかな そんなのきまってるよ ああ、ーーー 会うよ、絶対 うん、約束 あ、もう小指触れられないや ありがとうね お互いさまだよ もっと一緒に居たかったよ それもお互いさま また会おうね うん、 またね。
国道の脇走ったらUSJ並に怖かった話
お久しぶりです、Leftです。 忙しいもので、全然投稿できていません。 学生は中間テストがあり、単語やら一次不等式やらを覚えるために四苦八苦しています。 そんなことはさておき、久々の今回は日記です。 今日の昼ごろ、友達二人と“ご飯食べに行こうよ”と約束していたので、自転車で行きました。 少しの遠出だったので、少し馴染みのない所も通っていきます。 気づけば塀の間道から国道の端にいました。 すると、前方にトラック一台が荷物を出すために停まってます。 僕たちは右側の端を走っていたので、そのまま国道に出るかたちで避けました。 トラックを避けて視界がばっと開けた次の瞬間。 軽トラがエンジンを爆鳴らしし、こちらの方向にギュンギュン迫ってきます。 こーいつはやばい、急いでハンドルを傾けてまた脇道に戻りました。 そして直線に走るように、下手にペダルを踏まずにピシッと、早くすれ違って! バヒュゥーン… ブロロォ… うぉお荷台に手かすったかと思ったぁ〜…。 セーフ。 軽トラが通り過ぎたとき、“今の怖かったね〜”って会話が始まりました。 “ホント、下手なUSJより怖い(?)” “なんじゃそりゃ笑” “変なことはいいから早く行こう” “オッケー、何食べようかな〜…。” 無事ご飯屋さんに着き、仲良く食事にありつけたというわけです。 テスト勉強で疲れた気持ち、たまにはこんな時間もいいよね。 まあタイトル回収も済んだ事ですので、此処らでおいとまさせて頂きます。 それでは、バイバイ。
誰もいない駅
山側からホームへ、春らしからぬ涼しい風が吹いてくる。 ほどよく鳥肌が立つ。 空を見ると、白というか鼠色というか、筆舌尽くし難い雲が立ち込めている。 明日はきっと雨だと、言葉にせず自分に伝えた。 “えェ一番ホーム〇〇線△△行き、まもなく発車致しまァす” 唐突のアナウンスに少しびっくりする。 そして、向こう正面に止まっていた電車がモーターを唸らせる。 ゆっくり、ゆっくり、電車は進み始める。 すると、車窓の中に居る幼い少年がこちらを見ていることに気付いた。 その少年は、ただただじっと見ている。 先ほど、私が仰天した場面が密かに目に留まったのかと思い、顔を熱くする。 そのまま電車は山のほうへ、見えなくなった。 ブゥゥーン… ぱきりという音がした後、こんどは背後の自動販売機が唸り始める。 それ以外、何も聞こえない。 いや、雑音は聞こえてはいるけれど、山からの向かい風がそう思わせているに違いない。 風にのってやってくる、竹の匂い。 青臭い中に清涼感のある、そんな匂い。 春ではあるけど、青々とする山と、どこか夏を思わせる。 あぁ、このまま淀んだ空ごと流してくれないかな。 そう、ふっと漏らしかける。 しかし、口をつむった。 自分がアホらしくなったからだ。 何故かこう、浪漫や詩的なことを口にするのは、どうも自分らしくない。 こそばゆいやら、照れくさいやら…。 先ほどの少年の件も相まって、にやりと笑みが顔に出た。 誰もいない駅。 その中にぽつりと、錆びたベンチに座る私。 普通ならば、どうということないひとフィルム。 それがどうにも淡いのだ。 風には、物も人も爽やかにさせる、そういった力があるのかもしれない。 まだ、この体験をやめたくない。 もう少し、入り浸ってもいいだろう。 そう思い、私はそのまま自動販売機の唸りを聴いていた。
何だかいいなと思ったシチュエーション
「それでクラスのやつがね?“お前それはアホだわ”だってさ。あ〜おもろい。」 「………。」 隣で喋ってる男子は、私の彼氏。 小さな時からの幼馴染で、私からすると腐れ縁のような感じ。 話はそこそこ面白いけれど、ファッションに興味ないし、賑やかで少しうるさい。 静かな自分とは正反対。 だから、本当はあまり好きじゃなかった。 だけどね、ある事がきっかけで、私の気持ちが変化していった。 十月ごろだったっけな。 その日は珍しく雨が降って、バス停でバス待ってたら、あと一時間ぐらいで次が来るって。 辺りも暗くなってきて、雨が地面に当たる音が大きくなってくる。 もうどうしようもなくなって、ちょっと涙目になってた。 その時助けてくれたのは、そう、コイツ。 土砂降りだったのに、雨曝しで駆けつけてくれて。 傘持ってるなら使えって言ったけど、“それはもう三の次”って言ってて。 本当なのって聞いたら、“ゴメン実は忘れてた”だってさ。 正直すぎて思わず笑った。 灰色の、部屋着みたいなゆるいズボンに、チャックを閉めてないままのジャンバー。 そしてクロックスのスリッパ。 ダサいって思ってた格好なのに、その時はさ。 ヒーローみたいでカッコいいなって、心のどっかで呟いたんだ。 「そのあと職員室に呼び出し食らって、…て、聞いてんのかよ。俺の話。」 「全っっったく聞いてなかった。」 「おい何だよそれ。そんな言い方ないだろー?」 「ふふふ、ごめんって。」