大和滝

8 件の小説
Profile picture

大和滝

函館の高校生です。 趣味で書いていますが、是非どんどんコメントとか書いていってください。フォローされたら出来るだけ返そうと思います。 アルファポリスでも同じ名前で活動しています。そっちでは現在三つ作品を出しています。是非読んでみてください

EP8 決死の決断

 空気が冷たい。椿さんの表情は笑っている。でもピクリとも動かない。俺の返事待ちなのは明らかだが、俺もまだ適当な返事が思いつかない。急に一年以内に死ぬ宣言されて俺はなんと答えればいいのだろうか。マニュアルがあったなら今すぐに読みたい。  そんなかんな考えていると椿さんの目線が上に向いたり下唇を甘噛みしたりしだした。そろそろマズいのかもしれない。でも俺ならと思って言ってくれたことなのかもしれない。だったら下手な返事もできない。同情すればいいのか。それとも、気にしませんよって意思を出せばいいのか。でも、後者の方はどう出せばいいんだろう。『そうなんですね』は素っ気なさすぎる気がする。きっとまだ一分しか経っていない。なのに体感十分くらいだ。この沈黙と椿さんの仕草に俺は恐ろしさを感じて喉が締まる。  ビューン 「おっと」  急な突風に桜が揺れ、俺と椿さんの髪も#靡__なび__#いた。瞬間、黒っぽい何かが俺の視界を塞いだ。 「うわ!なんか目入った!土か?いった!」 「フフ、アハハハ!」  椿さんは土が目に入りパチパチまばたきをしている俺をみてケラケラ笑っている。 「ちょっと何わらってるんですか。土目に入ったら痛いんですよ。外出てなかったからわかんないかもしんないけど、まつ毛が入るなんかより、取れないし痛いんですからね!」  あ、俺もしかして今最低なこと言ったかも。 「すみません!悪気なくて、その…」 「もー、わかってるよそんなの」と椿さんは笑うことを一切やめずに許してくれた。 「ていうか、目瞑りながら謝られても反省の意が見られないよ。はい、目薬。まあ、一切怒ってないからいいんだけどさ」  「ありがとうございます。怒らないんですね、割と刺さる言葉なんじゃないかなって思うんですけど。外に出れなかった人にあれは」  椿さんから受け取った目薬を右目にさしてギュッと瞑った。そして数回まばたきをして痛みがひいたのを確認してから目薬を椿さんに返した。椿さんはポーチにしまいながら答えた。 「まあ、刺さるっちゃ刺さるけど、無理に同情されたり、適当な言葉を考えてだされてもなんか嫌だし。まあ、さっきまで君は考えてたみたいだけどね」 「う…」お見通しすぎて辛い…。 「まあ、わたしの走馬になら言えるかもって意思をキャッチしてくれたって点は、評価してあげる」 「はは、ありがたきお言葉です…」椿さんに対して完全に深読みしすぎた。彼女はだいぶいい加減だった。普通に今までのノリで話して欲しかったんだ。 「あ~あ、相馬のせいで逸れちゃったじゃん話題。戻していい?わたしが一年生きれないよって話に」 「あ、どうぞ」 「絶対に緊張しないでね」  そう言われたからなんだか気が抜けた。これは椿さんだからかな。 「わたしね、生まれつき肺に持病があったんだよね。で、それが厄介なやつでさ、ちょいちょい別の部位にもいくわけ。まあそれは初期に見つければチョチョイのチョイって治せるんだ。だけど、大元の肺はどうしようもなくて、現代の発達したって言われてる医療でも治せないんだって。でも先生は必ず治す手段を探し出すって言うんだ。だからわたしは、長い長い入院生活をとったんだ、自分はいずれ正常な身体になって、普通の生活を過ごせるって信じて」  現代の医療技術でも治せない病か。軽んじてるわけじゃないけど、辛いんだろうな。15年前くらいだったかな。世界の医療は大幅に発達した。今までも不治の病と呼ばれてたものや、後期の取り返しのつかない癌でさえ治せるものとなったんだ。でも、それについで現れたのが次のグレードの病だった。これらもまた、大変な病だとテレビではよく聞く。出始めの当時は、『上には上がある、治らない病気というのは無いが、この世からそう呼ばれる病気は消えない』という言葉を偉い医者が言ったのが各チャンネルで議論されたり、取り上げられたりしていたらしい。 「なのにさ、残酷だよね。わたしのこの病気は、心臓にきたんだ。正直心臓にきたのは3回目だったからこれも今まで通りすぐ治ると思った。なのに、わたしの病気は、わたしの中で成長して、進化した。今までの治療法じゃもう、治せないんだって。それからコイツはさ、日に日にわたしを蝕んでったんだ。苦しいものじゃないってのが救いだけど、結局治療法が見つからなくて、心臓、胃、肝臓が侵略されたんだ。先生は、わたしのお母さんになんて言ったと思う?」  正直予想ができてしまった。でも俺は恐る恐る聞いた。「なんて言ったんですか。」 「聞こえたんだよね。もう彼女の身体は治りません。余命もこの先どんどん縮まりますって。わたしその日の夜に、お母さんに退院したいって頼んだんだ。もう、最後だからって。最後の我儘を聞いてって。お母さん、泣いてた。泣きたいのはわたしだけどさ、泣いてる暇はわたしにはもう一時も残されてないから。治ると信じて失った時間をパーって使いたいんだ」  椿さんの笑顔は強がりなんかじゃない。今確信した。必死なんだ。最後の時間を生きるの必死なんだ。やりたいことをやりたくて彼女はウズウズしてるんだな。そういう思いが頭の中で飽和したのか俺はおかしなことを口に出していた。 「だったら、俺と、もっともっと遊びましょうよ。最期まで」

3
0
EP8 決死の決断

EP7 椿の告白

 午後2時ごろ、俺と椿さんはコンビニでたくさん買ったおにぎりやサンドウィッチ、ジュースなどを食べている。椿さんはとてもよく食べる。コンビニに行った時からはしゃいでたからきっと食べるのが大好きなんだろうな。 「このおにぎり美味しい!何これ…梅さくら?美味しすぎるよこれ。わたしの口の中で大革命起こしてるわ。」 「大袈裟すぎるでしょ。期間限定ってなってるけど、珍しい具でもないんだから。」  そういうと椿さんは目を見開いて「そうなの!?」とグイッと詰め寄ってきた。 「はい。毎年この3、4月くらいに期間限定で販売されてるおにぎりですけど、梅と桜デンプンの丁度いいマッチで春といえばのおにぎりですよ。逆にこれを知らないって相当時代遅れですよ?椿さん流行に乗ってそうなのに意外です。」  椿さんは感心して聞いて少し不思議そうにした。 「そうなんだ。ていうか走馬、わたしそんなイケイケ風に見えてたの?」 「え…だってその黄緑のニットって最近着てる人多いし、なんな髪型もウェーブかかってて、毛先にかけて茶色くなってってるからてっきりオシャレや流行の最先端進む系の女性かと思ってましたけど。」  うんうんと頷いているが、表情はなんだか微妙に見える。 「そっか~、走馬にはわたしはそんなふうに見えてたか~」  ため息を吐き、ニコッと口角を上げた椿さんは「わたしはそんな人間じゃないよ」と言う。  俺は『まさか~嘘でしょ』とでも言いたかった。だけど、朝の椿さんの話を思い出して俺は言葉をしまい、「そうなんですか」とだけ言った。 「うん。この服とか髪は全部、友達から椿っぽいよ。って感じで選んでもらったわたしじゃない格好だから。」  椿さんはニコニコしながら言ってるけど、すごく心の内がズキズキするセリフだ。 「じゃあ、どうしてお友達にコーディネートなんて…嫌なら自分で選べばいいのに。」  椿さんはその言葉に何を感じたのか、目を細めて斜め下に目線をやった。 「それはごもっともなんだけどね。わたし今の流行とか全然わからないんだ。だから外を歩くときに変な服装してたら嫌だから、友達に頼んだの。」  俺よりも流行に疎い。まさか、そんなことないだろ。だって椿さんは輝いている。俺なんかよりもずっと、ずっと。なのになんで自分を偽って周りに委ねているんだよ。 「なんで…だよ」 「え。」俺はうっかり本音を吐いてしまった。するとそれを聞いた椿さんは、一瞬悲しげな表情を見せ、また笑う。そして 「あ~やめだやめだ!まわりくどいね。正直に告白するよ。わたし、つい先日まで大病で入院してたんだ。だから外のことなーんにも知らないんだ。」  突然な告白に俺は唖然とした。そしてなんと声を掛ければいいかわからなかった。そんな俺に椿さんは辛くにこやかな声で追い討ちをかけた。  「わたし、あと一年も生きれないんだ。」

1
0
EP7 椿の告白

EP6 信頼と利害

 11:45  学校が終わって家へと帰る。新年度早々に遅刻するところだった。時間ギリギリに息を切らせて教室に入ったものだから結構目立ってしまっただろうな。いや、まあ別に一年の時はほぼ誰とも関わらなかったから、別にこれでいじられるってことはないな。そもそもクラスメートは俺の存在を知ってただろうか。そのくらい陰薄くしてたし、知らなくて当然の俺だ。  さて、この後はコンビニにでも寄ってから、もう一度椿さんのところに行ってみよう。どうしてだろう、今は椿さんともっと話しい。これは、ただ単純に楽しいってだけの理由じゃない気がする。椿さんの考えは俺の考えと何かが共鳴している。そんな感覚を朝に感じた。だからあの感覚をもう一度、いや何度も浴びれば、もしかしたら俺の思考の枠が拡がるかもしれない。それで俺の死生観がまとまるなら、たくさん話がしたい。これを利用と言うのだろうか。いや、利害の一致だと思いたい。  そんなことを思ったら、足がドンドン軽くなって、桜並木に俺は立っていた。  ソメイヨシノの間を通り草原の丘を進む。オオシマザクラの下へ行くが、椿さんの姿が見当たらない。どこにいったんだろう。今日はずっとここにいるって、朝言っていたんだけどな。丘の上から辺りをぐるっと回したのだが、それらしい人は見当たらない。ふぅ、と溜息をついて木にもたれかけてその場に座った。  そうだよなぁ。あんなの冗談にきまってるよな。どこに偶然話があった高校生と放課後また会おうって約束する大人がいるんだよ。あんなの適当な送り台詞だったんじゃないか。なーにが「利害の一致」だよ。そうだ、そもそもあっちには利得なんてない。こうなるのは当然だな。俺一人なんかはしゃいじゃってたんだな。 「馬鹿馬鹿しいな、俺」  背もたれをドンドン滑らせていたらついに視点は三分咲きの桜と少しの青だけになった。 「なーにが?」  ヌッと視点に紙の長い女性の顔がうつる。 「ウワァ!」  俺は飛び起きた。「おぉ」椿さんは手を挙げてリアクションをとった。 「おかえり」 「ただいまです。じゃなくて、どこいたんですか⁉︎」 「え、走馬と同じことしてたよ?」 「俺と同じこと?」 「うん。そこのあったかいとこで大の字で日向ぼっこ。あー、走馬は日陰ぼっこだねそこは、もしやインキャってやつだね?」  椿さんは#揶揄__からか__#って笑う。その様子には怒りよりも安堵を覚えた。 「あれ、突っかかってこないね。この短時間で急に大人になっちゃった?」 「いやいや、椿さんがいたことになんかホッとしてるんですよ。て、おかしいですね。朝会っただけの人とまた会えただけで嬉しいなんて。」  椿さんはそれに対して頷きながら「ほんと、おかしいよね。」と言う。 「おかしいよやっぱり。こんな知らないお姉さんの言葉を真に受けて、話にくるなんてさ~。わたしが悪いお姉さんだったらどうしてたのさ。」  割とちゃんとした説教に笑みがこぼれた。 「お姉さんか、まあ若いですものね。」 「ちょっとちょっと、皮肉でも言ったつもり?全然腹たつやつだよ。」 「さっきの仕返しです。まだまだ子供ですから。」  椿さんはしてやられた顔をして苦笑をした。 「それと、椿さんは悪いお姉さんじゃないってなんとなく思いましたから。自分の危機管理はできている方だと思います。」 「ん~、まあそれもそっか」  俺と椿さんは一息ついて座った。 「なんかお腹すいたね。」 「あ、コンビニ行きます?俺も昼まだなので。」 「コンビニ‼︎」椿さんは目を輝かせた。 「行こう!コンビニ!」 「あ、はい。」  俺と急にテンションのあがった椿さんは立ってコンビニに向かった。

1
0
EP6 信頼と利害

EP5 桜の本性

「へぇ~走馬って言うんだ。高校2年生ねぇ。いいなぁ~」  椿さんと話して10分くらいしか経っていないはずなのに、どうしてだろう、すごく楽しい。椿さんと俺は、観点がきっと近いんだろうか。とても考え一つ一つに納得ができてしまう。もしかしたら…椿さんになら、俺の知りたいことを話してみてもいいのかな…。  『アイツとは絶対無理だわ』  『アイツはサイコパスだから関わらない方がいいぜ』    そうだ。これは俺だけの問題なんだ。他言は厳禁。中学の頃このせいで痛い目見たじゃないか。何馬鹿なことしようとしてんだよ。いいんだ、椿さんはただの話の合う他人。自分のことをアレコレ言うなんてことしなくたっていいんだ。 「もしかして風邪ひいてる?」 「え?」急に顔を覗いてきたものだから思わずのけ反って、すっとんきょうな声を出してしまった。 「なんか、急に口角が落ちたような気するし、あと、辛そうだったよ。」 「椿さんって、メンタリストかなんかなんですか?」あまりにも明確な理由を述べられたため、左側の口角がひきつった。 「そんな大層すごいもんじゃないよ。でも、些細な気持ちの変化を感じ取るのが得意なんだ。わたし。」 「そうなんですか。でも大丈夫です。ちょっと寝不足なだけなので。」 「ふーん、そっかそっか。じゃあ今日はぐっすり寝た方がいいね。」 「そうします。」こんなふうに言われたけど、きっとこんな雑な嘘ではきっと騙せてはいないだろうな。あまり介入しない。椿さんもなんとなくわかっているのかもしれない。 「ねえ走馬、この木を見て走馬はどう思う?」 「木って、これのことですか?」 「そうそう。この大きいやつ」  この木は、椿さんが歌っていたところに一本だけポツンとたっている桜だった。 「周りには、たくさんの桜があるというのに、ここに一本だけたっている、なんだか寂しそうな気もします。」 「うんうん」 「でも、俺は桜の気持ちがわかるわけではないです。もしかしたら独りが好きなのかもしれない。孤高のソロアイドルだったりするかもしれない。」 「ソロアイドル?」  うっかり先ほどの自分のスターの例えでものを言ってしまい恥ずかしくなった。 「ああいや、これは俺のなんていうか、比喩で、桜はこの季節にとってのスターだなと思って。」  すると椿さんは相槌をとり、理解をしたのか、ふーんと返し笑みを浮かべた。 「面白いねそれ。だったらわたしもそれに便乗した考えを挙げていい?」 「ど、どうぞ」 「アイドルってキラキラしてるよね。わたしも子どもの頃夢見たよ。輝くステージでさ、フリフリの衣装着て踊って歌うキラキラアイドル。当時はお母さんにゲームコーナー連れてってもらってなんかアイドルにいろんなカードで服を着せてコーディネートするゲームやったもん」  ああ、あるよな。そういうの。 「そんくらいアイドルってのは偉大なんだよね。でもさ、知ってるかな、大きいものは大きさに比例して闇も大きくなる。実際アイドル業界のスキャンダルとか、蹴落とし合いって絶えないでしょ?アイドルって腹黒いんだよね。」 「は、はぁ。で、それは桜がアイドルと同じくらい腹黒いってことですか?」  俺はまだまだ椿さんの話が見えていない。 「走馬、この木の花弁をみてどう思う?」 「どうって、白くてキレイな桜ですけど。」 「だね~。じゃあ、あっちの並木たちと比べてみたら?」 「比べてみたら…あれ、なんか薄い…、他と比べて花の開花具合が遅い気がする。」 「そう!ザッツライト!!」日本語の後に英語バージョンも元気に言ってきた。 「この桜はね、オオシマザクラっていうんだ。あっちの桜たちはみんな知ってるソメイヨシノだけど、こっちは少し咲くのが遅い種類なんだ。」  そうか。だからあっちは五分咲きのとこ、これは三分咲きくらいなのか。 「この桜が満開になるのはね、大体あっちのソメイヨシノたちが葉桜になるあたりなんだ。ちょうど入れ替わりなんだよね。」 「なるほど、見事にバトンを受け渡すってわけですね。例えるなら、ソメイヨシノのグループがパフォーマンスを終え、オオシマザクラのソロに切り替わる。ステージをさらに盛り上げるのか。」 「そうだよね。上辺はね。さっきも言ったよね、アイドルは腹黒い。」  俺はその言葉の理由が今完全にわかりハッとした。 「オオシマザクラはソメイヨシノが散る時期にそれを塗りつぶすかのように、真の花形を飾るために遅くでる。本当の本当に自分だけを見させるために。もう、このステージは、彼女の独壇場なのだから。」  あまりにもグサッときたので、笑いが腹の中から込み上げてきた。それに釣られて椿さんも緩んで笑った。 「なーんてね~。こんな感じだったら面白いよね。花の世界。」 「ほんと、こんな時間に成人女性と高校二年生が何話してるんやら。」 「ね~。あ、そういえば走馬、こんな時間だけど、あんた大丈夫なの?」 「え?」と笑いながら椿さんの差し出した携帯を見ると、画面は7:40と表示されていた。身体中から血の気が引いていく。 「全然大丈夫じゃないです!」  走りだした俺に椿さんは大声で、言った。 「今日はずっとここにいるから!」  俺はそれをしっかりききとり、学校へ向かって全速力で走って去った。

2
0
EP5 桜の本性

EP4 似合う季節

 桜があまりにも綺麗で少し遅めのペースで歩いていたがそろそろ公園を抜ける。朝なので人はあまりいなく、健康のためかランニングをしているおじさんとすれ違う程度だ。  そんな時、急に右側の広場から女性の歌声がきこえてきて立ち止まり聴き入る人というのはあまりいない。なのに俺はどうしてこの声に今耳を澄まして、さらに近寄ろうとしているのだろう。時間に余裕はあるにしろ、誰かも知らないような女性の生歌。しかも楽器も鳴らしていないアカペラに興味が湧くなんて。  そう思いながら声をたどり、ついた場所は一本の桜の木がドシンとそびえ立つ少し盛り上がった場所だった。その木影と日当の境界線を行ったり来たり動きながら、スマホからイヤホンを繋げて歌っている。あまり歌を聴かないため、音程やらがどうなのかはからきしわからないが、彼女の歌声は力強く、とても高揚感のあるものだ。いつの間にか俺は、フリーダムに踊りながら歌う見ず知らずの女性に釘付けになっていた。  すると彼女は急に歌うのを止めて、こちらのほうへ近づき「惚れちゃった?」と笑顔で話しかけてきた。これに対して俺は思わず「うわぁ!え!違います!」と必死に答えてしまった。 「うわうわうわ、こんな美少女に笑顔で話しかけられてさぁ、うわぁ!は無しでしょ。化け物にでも見えたわけ?」 「あ、いえ。急に話しかけられてびっくりしただけで…すみません。」  彼女は右手を口元に当てて笑い出した。 「あはは。そんなマジレスしなくていいのに。面白いな~。」  急に大爆笑する彼女をみてるとさっきよりもなんだか恥ずかしくなったが、緊張は一気にほぐれてしまった。そして反抗したいという気持ちが出しゃばってきて「美少女って言いましたけど、俺より明らかに歳上ですよね。」とちょっと意地悪っぽく言ってみた。すると彼女は笑うのをピタリと止めて顔をあげた。 「へぇ~?君そういうこと言っちゃうんだ。女性に歳のことを出すとは最低だね?」  バックの桜のように急に大きく見えて、ラスボス感が垣間見えた。しかしそれはすぐにストンと消え「なーんてね。」と笑った。 「君高校生でしょ?正解。わたしもう二十一だもん。君から見たらおばさんでしょ。悔しいなぁ。君より背丈低いのに。あのね~実は五日前に誕生日迎えたばっかなんだよねぇ。春生まれなんだよ。よく友達にも春っぽい春っぽいって言われるんだ。」  急に自分の話をされて少し戸惑いはあるが、発端は自分かもしれないので聞いておくことにする。 「よくあるよね、~っぽいってセリフ。あれあんま好きじゃないんだよね。勝手に見た目とか雰囲気だけで話のダシにされるの。春っぽいってわたしよく言われるけど、わたし花粉症だし、寒がりだから微妙な春の気温苦手だから春ってそこまで好きじゃないんだよね。本当はわたし暑い夏が好きなんだよ。みんなわたしは夏が嫌いそうとか、日焼けをメチャクチャ予防しそうって勝手な偏見言うんだけど、全然違うからね?太陽だーいすき。」  俺は今何を聞かされてるんだろうと思いながら軽く返答をした。 「確かに自分と周りが思う自分が違うとなんかつっかえますよね。でも周りがそんなに自分の偏見を言い合うことで楽しんでいるのをみてると、なんか入りにくくなりますよね。そしていつの間にかその偏見がまとまってマジョリティ化してしまう。そうすると何故か自分がマイノリティ化して偏見に合わせに行ってしまう。自分を失う原因になっちゃうんですよね。」  と言うと彼女は瞳を見開き声を張った。 「そうなんだよね!君わかってるね!なんか嬉しいよわたし。これって気づいてない人が多いからなんか感動しちゃった。ありがとう。君とはもっともっと話がしたいな。」 「俺もえっと…あなた?と話していると楽しいです。」  なんて呼べばいいかわからず、割と失礼な呼び方をしてしまった。すると彼女は笑って言った。  「アハハ。やっぱ面白いね君。いいよいいよ、名前教えるよ。上野椿()うえのつばき。椿って呼びなよ。」

1
0
EP4 似合う季節

EP3 桜並木の祝い

 平日の登校時間は8:00。それに対して目覚めて身支度も全て完了している現在時刻は6:30。学校までの道のりは自転車で20分程度…今から出たら到着が6:50分か。早いな。  さて、どうしたものか。大体普段は7:40をめがけて朝起きて、身支度をして登校するのだが、本当に今日は早く起きすぎた。まさか年度始めの入学式の日の朝にこんな悩まされるとは思いもしなかった………ん?そうか、今日は入学式だ。入学式と始業式とあと新しいクラスでのホームルームくらいしか今日はないはずだ…授業がないから重い荷物でもない。だったら、歩くという手段もあるな。よし、今日は歩いて登校しよう。  茶色のリュックサックを背負って俺は遺影に向かって行ってきますと一声かけてから玄関にむかい、スニーカーを履きドアを開けて外に出たら、朝方の張り気味の空気を感じた。なんだか清々しい気持ちになれた気がする。俺はそのまま歩き出した。  歩いてから約5分ほど経つと、大きな公園の並木道路に入った。ここは四季の移り変わりが目でよく見える。夏は蝉の声や新緑が、秋は紅葉や公孫樹の葉が落ちる。冬は雪こそ降る方じゃないが、冷たい風と葉の落ちきった木々が冬を見せてくれる。そして今、春はやはり桜だ。まだ満開ではなく五分咲きってとこだろうな。  桜は大抵四から五月に咲く。毎年毎年その一瞬だけ輝きを見せる。決められた時期に出てきて、周りを釘付けにして、そしてすぐに帰っていく。その時はもう、他の花なんて人にとっては眼中にないのかもしれない。桜は花の世界におけるトップスターなのだろうか。とにかく俺には桜は輝くスターに見える。  そういえばこの時期は、入学、進学、入社、といったおめでたいことが多い気がする。また、こういうおめおめしい出来事と桜はよく似合う。もしかしたら桜は彼らを祝っているのだろうか。または彼らの新しい門出の出発に似合う演出をつけようとしているという考えもできる。いや、さっきのトップスター仮説で行くなら、そんなの関係なくただただ目立ちたいだけなのかもしれない。  でも本当に桜が彼らの門出を祝ってのものなのだったら、とても風流な花だと思う。俺は割とこのこっちの仮説のほうが好きだ。桜はきっと風流なことをしたがる、平安貴族のような花なんだと、俺は勝手に思っていたいな。まあ、祝うとしていても、桜自体が何に対して祝っているかは、一切わからない。祝うべきものの価値観ってのは人それぞれだから。だから、桜や他人と相容れないことだって仕方のないことなんだ。

1
0
EP3 桜並木の祝い

EP2 走馬の知りたいこと

朝食をとって、歯を磨いても時間に余裕があった。今日のように年度や新学期の始めの日は自然と早く目が覚める。よく新しいノートの最初のページは綺麗に字を書こうとする現象に確か名前があったのだけれど、なんて言ったっけな。まあ、それに似てるな。  さて、暇だな。今からいつも通り出ても、早すぎて教室に誰もいないだろうし、かといって家で朝から何かを行うという気もわかない。  実家から離れた学校に通うため、二階建ての団地の一部屋を借りて一人暮らしをしている。親からの仕送りはマメで衣食住はそこまで苦労はしていない。そのため、金は自分の死生観の研究に存分使える。このせいで小中学の頃は、頭がおかしいやら、サイコパスだ。などと言われて誰も近寄ってはこなかった。親でさえ、家に帰ってきて普通の子供のようにゲームをしたり、友達と遊びに出かけたりはせずに、無心に新聞紙を部屋に持っていき、あらゆる死を探して切り取って貼り、それについてノートに内容と自分のその記事についての感想等を書き留めているのを見て、俺には「すごい趣味ができたんだね」と言っていたが、俺がいないとこで父に対して「楓が死んでからきっと気が狂ったんだよ。病院に行くべきかねぇ」と言っていたのを俺は知っていた。まあそれもそうだろう。  だけど結局病院には連れて行かれず、今でもずっと続けている。だけど結局死ぬ時の心情や感覚というものは未だ知らない。ただ、死ぬ時に何を想うかはきっと人それぞれだと思う。飛び降り自殺、他殺、自然死…これら全てが同じ「死」というものではないと思う。つまり「死」というのはそのジャンルとしてまとめるにはあまりにも大きすぎるものなのではないかと仮定した。  苦しいもの、そうでないもの。俺はまだこの二つしか知らない。これ以上は展開ができない。どうすれば俺は自分の納得いく真理に辿り着くのかもわかっていない。それはきっとこの先も新聞を切り取る作業を続けて得られるものではない。   きっとなにか新しいことが必要なんだ…

1
0
EP2 走馬の知りたいこと

EP1 姉さんの呪い

  春だ。暖かい。だけどまだ朝は少し肌寒い。  今日から2年生なんだけど、特に変わらない。俺の心情は何も変わらない。  いつも通り目覚めて、階段を降り、姉さんの遺影に手を合わせる。 「姉さん、今日から俺高校2年生だよ。姉さん越しちゃったよ。」  俺の姉さん「川上楓」(かわかみかえで)は、いい人だった。優しい人だった。だけど、これが仇になって、死んだ。俺がちっちゃな頃に。  あの頃は優しいっていうのはプラスステータスだと思ってた。だけど、姉さんの死によってマイナスステータスなのだとよくわかった。  姉さんは見ず知らずのお婆さんを助けて死んだらしい。どのように死んだのかは俺には教えられなかった。だけど、誰かを助けた代わりに自分が死んじゃうなんて、元も子もないじゃないか。  だから、俺は大好きな優しい姉さんを「愚か」とも思ってしまう。  そして姉さんの死は俺に一つ、大きな爆弾を置いていった。  俺が生まれたとき姉さんは既に小学校を卒業して、中学生になっていた。姉さんは頭がよくて常に学年トップをとっていたらしい。  俺が6歳になった時だった。俺はふと姉さんに気になったことを聞いた 「ひとって死んだらどうなるの?」  これに姉さんは「お星様になるんだよ」とかみたいなことは言わずに、一緒にいろんな説を出して話し合ってくれた。そして最後に言った言葉は俺は忘れなかった。 「本当に謎だよね。死ってものは。死ぬ時に何を考えているとか、どんな感覚なのか。そんなの当の本人にしかわからないんだもん。こんなことに疑問を持てた走馬は天才だなぁ。姉さんは鼻が高いよ。あ、いいこと思いついた。私がお婆さんになって死にそうな時は、私の考えていることを走馬に全部隠さず教えてあげるよ。だからそれまで、走馬はその考えを捨てないでね。」  結局姉さんはこの俺にとっての呪言を残して、その1週間後に死んだ。  それ以来俺は、人の死について、なんでもいいから掴みたくてもがいている。  死は俺の呪いであり、活力……か。

1
0
EP1 姉さんの呪い