藤咲 ふみ(次回4/3日更新)

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藤咲 ふみ(次回4/3日更新)

はじめまして。クラゲとクジラが好きな成人済の女です。基本的に毎週木曜日に小説を更新しています♪「窓辺のしぇりー」の名前でXにも存在しております🫢夜書いた文章は朝には読み返します。短いけど読み応えのあるギュッとした、自分が素敵だと思える世界を置いていきます😌よろしくお願いいたします☘いいね♡、優しいコメントくださるととても喜びます! ※表紙のイラストはAIアプリで作成したものを使用するか、フリーイラスト等をお借りしております。 ※ここに上げている作品の全ての著作権は、私のものとさせて頂きます。二次使用など何かご入用の際は一言お声掛け下さいますようにお願申し上げます。(お断りなく一部でもご使用された場合は通報などの措置をとらせて頂きます。) start:2024.5.24

光の奇跡

俺は死神だ。 真っ黒なローブに銀色のカマ、かり取った魂の数なんてもう覚えていない。 そんな俺は普通の人間には見えないはずだった。そう、はずだったんだ。 「ねぇ、あなたなんでそんな暗い顔してるの?」 小さな女のガキが突然話しかけてきた。 俺は慌てて、魂回収者名簿を見た。けれどそこにそのガキの名前はなかった。 じゃあなんで 「お前に俺が、見えんだよ?」 ガキは不思議そうな顔をして、摘んだばかりなんだろう花を一つ取ると、俺の目の前に差し出した。 「なんか分かんないけど⋯暗い顔してる人にはお花、あげるね!」 そのガキはそう言うと、どこかへ走って行った。 「なんだあのガキ?花なんていらねぇよ⋯」 俺はその花を、手の中であっという間に枯らした。 午後、俺の姿は病院にあった。 もうすぐ魂を回収する対象が入院する病室に、俺はやって来た。 死神は魂を回収する前に幾つかやることがある。 一つ目は死の事前告知。 二つ目は対象者の最後の願いを叶えること。 三つ目は対象者の輪廻転生の手伝いをすること。 正直言って、どれも面倒くさい。でも死神の世界でそれらは全て大切なことと決められている。きちんとこなさなければ。 「邪魔するぜ⋯!」 一人きりで窓の外を眺めていた対象者に、そっと声をかけた。 すると対象者は柔らかい長い髪をフワリとなびかせて、振り返ると、俺に笑いかけた。 「あら、あなたはもしかして⋯死神さん?」 正直面食らった。こんなにもあっさり俺を、死神を認める人間がいるなんて今まで体験したことがなかったから。 「怖くないのか?」 俺の質問に対象者は 「怖いわよ⋯でも、ちょっと安心しちゃった!死ぬ時一人じゃないんだって思ったから⋯死神さんは死ぬ時一緒にいてくれるんでしょ?」 優しく笑う対象者に、何故か変な感情が沸いた。 テーブルを見ると、花が飾ってあった。それは 「さっきのガキの、持ってた花だ!」 愛おしそうにその花を愛でる対象者を見て俺はハッキリ理解した。その対象者が、さっきのガキの母親なんだと。 だからって、なんなんだ?何か変わることがあるのか? 「お花、綺麗でしょ?死神さんにも一つあげる!」 対象者はガキと同じだった。同じ顔で笑って、俺に花を渡してきた。 それに何かを思い出す気がした。お花どうぞって⋯昔にも誰かに、こんな風に 「俺はいつから⋯死神なんだ?」 それから対象者の最後の願いが、あのガキの幸せに生きてゆくことだということを知った。そしてそれを叶えることが俺の勤めだとも知った。 ガキは相変わらず俺を見ると、摘んだ花を一輪渡してきた。 「やめろ!俺はお前から母さんを奪うやつだぞ!」 それでもガキは無邪気に俺に花を渡してきた。 その度に俺はないはずのいつかの記憶を思い出した。笑顔で花をくれる女の子。笑顔で受け取る自分。 「どうして俺は、死神になった?」 そんなある日、対象者の死亡予定日、病院が火事になった。 俺は慌てて病院に飛び込んだ。魂を回収しないと!その前に、ガキを助けないと! その時、燃え盛る炎の中、思い出した。 俺は生まれ変わる前、貧しい子供だった。でも好きな女の子がいた。そんなある日村が、火事になった。それで好きな子を助けて、その代わりに俺は死んで⋯その子を助けるためなら 「なんだってします!悪魔にだって、死神にだってなります!」 花を配る子だった。笑顔で花を、配る素敵な子だった。あぁ、涙が止まらない。 前世を思い出した死神は、死神ではいられなくなる。早く魂を回収しないと⋯最後の魂を回収しないと!せめて俺が消える前に⋯あの美しい人の魂をこの炎の中から⋯! 段々足が、消えてきた。それでもカマを杖に必死に炎の中を歩いた。 そして対象者をやっと見つけた。ガキも一緒だった。 「死神さん!私はいいからこの子を、お願い!」 俺はその言葉に頷いて、美しい対象者の魂にそっと最後の死神のカマをかけた。 「ありがとう、死神さん!」 魂だけになった対象者は、優しく微笑んでいた。 俺はそれを見送ると、残りの力で、ガキを抱き上げると 「お前は幸せになれ!いいな、母さんの最後の願いだ!」 ガキは泣きながら大きく頷く。 「よし、いい子だ!走れ!まだ間に合う!大人が待ってるからこの大きな廊下を全力で走るんだ!」 ガキは大きな瞳で俺を見つめて 「あなたは?あなたは行かないの?一緒に行こうよ?」 と手を引いた。 でも、俺はもう足がなかった。 だから 「ごめんな、俺は、ここまでだ⋯必ず、幸せになれよ!」 笑ったのなんて、生きていた頃ぶりだったから上手くできたか分からなかったけど、きっと大丈夫だろう。 ガキは泣きながら、俺の手を離して走っていった。 そうだ、それでいいんだ。 段々体の感覚がなくなってゆく。もう俺は消えるのかと思った。 それなら最後に、美しい奇跡を、見せてやりたいと思った。こんなちんけな死神でも見せられる美しい奇跡⋯。 やがて火が消えた病院。そこから、ふわりふわりと、美しい幻のような、蛍のような光が溢れ出す。 火事の野次馬をしていた人々はそれに見入る。 「わー、綺麗!それに⋯なんか懐かしい光!」 それは俺が今までに集めた魂の欠片たち。 「自由に還って、いったらいいさ、愛おしい人の元へ⋯」 その言葉を最後に、俺はキラリと消えた。 「わー、綺麗綺麗!」 消える刹那、俺はガキの声を聞いた。 「ねぇ、今お母さんがいた気がする!」 あぁ、その光にも、地面に咲く花にも、お前の母さんはいる。お前の母さんは花になるって言ってたからな。 だからこれからも花を愛して生きてくれ。 その日の晩の花畑は、光の奇跡に歌うように一等美しく咲いていた。 俺はそれを愛おしいあの子と一緒に、空から眺めていた。

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光の奇跡

桜のような君の幸せを

「忘れないから、君も忘れないで?」 いつかの君は、そう言って春の中を柔らかく走って行った。 舞う桜の花、優しい陽だまり、ねぇもう一度だけ 「振り返って?」 もうすぐ孫が生まれる。娘が楽しそうに笑っていた。 「桜が咲く頃に、生まれるから⋯名前は桜にしようかな?」 その名に心が、ふわりと揺れた。 忘れたことなんてなかった。 あの頃の君を、忘れたことなんて一度もなかった。春によく映えるその名前の君を。 娘が僕の隣りを離れ妻の元に歩いて行った。 僕は一人、想い出の世界に残された。 幻の桜が舞う美しい街、君は綺麗にショパンを弾く女の子だった。 僕らはひょんなことから出会った。放課後の高校、ひとりでに鳴る寂しげなピアノの音色に誘われて扉を開けた音楽室。そこに君はいた。 「ショパンはお好き?悲しいけれどとても綺麗よ?」 そう微笑んだ君に、僕は見とれた。 多分一目惚れ。 音楽の知識なんて何も無かった僕だけど、君のピアノが美しいことだけはハッキリと分かった。 君の名前は、春に咲く美しい薄桃色の花の名前だった。 君はその花のように可憐で美しかった。 ピアノを撫でる美しいしなやかな指も、長いまつ毛も、ほんのり染まる桃色の頬も、全てが柔らかく美しかった。 僕らはいつか幸せになれると思っていた。思っていれば、幸せになれると、思い続けていた。 けれど美しい桜の花の咲いた頃、君は僕に言った。 高校を出たら、親が決めた相手とお見合いをして結婚をすると。 それは 「君の幸せなの?」 僕の問に君は寂しそうに微笑んで 「人はいつか死ぬわ。私もあなたも、いつかは死ぬわ。だから、忘れないでね?私と生きていたこと。」 桜の花びらの雨の中、君がくるりと踊るように回る。 「忘れないから、君も忘れないで?」 君はそう言うと、春の中を柔らかく走って行った。 舞う桜の花、優しい陽だまり、ねぇもう一度だけ 「振り返って?」 でも君はもう振り返らない。 僕が走って追いかければ良かったのだけど、何故か金縛りにあったように足が動かなくて⋯僕はその場に座り込んだ。 涙が止まらなかった。 桜の花びらと、僕の涙が、次から次にこぼれ落ちた。 春、僕は大切な人を永遠の中に見失った。 それでも人生は続いた。 君がいなくなった後の人生で、僕はどこか君に似た妻と結婚をした。勿論、忘れられない君のことは永遠の秘密だ。 そして子供も生まれ、僕は今中々に幸せなやってるよ。 でも桜が咲く度に、僕は君を想い出した。 君もどこかで 「幸せに生きているのかな?」 あの頃の幻の桜に手を伸ばす。ショパンの悲しげな、でも美しい音色が聴こえてくる。 あー、忘れないよ、君と生きたこと、君と生きた季節。 どうか幸せになっていておくれよ⋯。そう思いながら、僕はあの頃の幻の桜をひとひら手に取って、そっと空に返した。

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桜のような君の幸せを

白馬に乗った君

「多田(ただ)とだけは結婚したくない!」 そう言い放ったのは、もう何年前のことだろう? けれど多田は何故か毎年律儀にバレンタインチョコをくれる。しかも手作り。 「男のくせに、何よ!女の私より可愛いことしやがって!」 その言葉に多田は 「結構自信作なんだ!食べてくれよ!」 と微笑む。 なんかその笑顔がやけに爽やかで余計に⋯ 「ムカつく!」 多田の足を思い切り踏んずけてやった。 「いたっ⋯こら、乱暴は良くない!暴力反対!」 多田の呑気な声が響く。 私はそれを無視して、でもちゃっかりチョコは持って、走って家に帰った。 因みに多田の手作りチョコは本当に 「なにこれウマっ!あいつパティシエ目指した方がいいな!」 って独り言言うくらい美味しかった。 でも多田にはそれは秘密にした。だって⋯多田だもん。 多田との出会いは保育園の頃に遡る。 あの頃白馬に乗った王子様が迎えに来てくれることを夢見ていた可愛い女のだった私は、何がきっかけか多田と出会って、友達になって、で 「高校生の今に至るっと⋯」 周りの女子は結構多田推しが多い。冷静に考えたらそうかって思う。だって多田、意外と背、高いし、顔も爽やかでイケメン?な方だし⋯あと 「優しいよね⋯」 でも私は多田とは 「絶対結婚したくない!」 なんでかって?それは⋯分かんないけど⋯なんか多田とはいい友達のままでいたい気がするんだ。ふざけて遊べる、楽しい友達。 だから多田、お願いだから 「私を好きにならないで?」 その時目が合った多田が私に手を振って笑う。 私はそれに中指を立てた。 「バーカ!」 それでも多田は笑っていた。 何よ、多田って本当に 「なんなのよあんた!?」 それに多田は笑って 「立てる指、足りてないぞー」 とピースして見せた。 私はそれになんかすごい腹が立った。 多田のやつ⋯いつかあの天然優男、滅茶苦茶怒らせてやる! 何故か変な決心をした。 そんなある日、休日に仲間内みんなで遊園地に来た。なんかそこに多田もいた。 「なんで多田いるの?」 その質問に親友の子が 「ほら、多田くんに片想いしてる子がいるって知らない?あの子?さり気なくくっ付けてあげようと思って⋯協力してあげよ!」 あー、そういうことかって思った。ならお安い御用だ!多田よ、サッサっとその子とくっ付くがいい! みんなで遊園地を回りながら、私達はそれとなくその子と多田を隣同士にしてみたり色々した。 でもイマイチ手応えはなかった。 そのうち辺りは暗くなりだし、私がお手洗い行っている間に、多田はなんかちゃっかりメリーゴーランドに乗っていた。 「うわ、ウケる!」 笑った拍子に、足元の小石に躓いて転んだ。 別に痛くはなかったのだけど、その時思い出した。私が多田と結婚したくない理由。それは保育園の頃の遠足。メリーゴーランド、何故か一人で取り残された私は、ボンヤリみんなが回って来るのを見つめていた。でも一人メリーゴーランドに乗れなかったのが段々悲しくなった私は、遂に泣き出して⋯それを見た保育園児の多田が止まったメリーゴーランドから飛び降りて走って私の手を掴んで言ったんだ。 「僕がもう一回、一緒に乗ってあげる!だって、僕、君の王子様になりたいから!」 その時多田は紛れもなく、白馬に乗った王子様だった。メリーゴーランドっていう物理的にも、私の心的にも。 多田に手を引かれて乗ったメリーゴーランドは、本当に 「楽しかったな⋯」 でもあんまりにも素敵だったから、多田とは結婚したくないって思ったんだ。だって、夢を見ていたいじゃない?どんな童話もそう。ハッピーエンドの先は美しくないって、知っていたから。だから、あの瞬間だけが 「欲しかったんだよねきっと⋯」 ねぇ白馬に乗った多田?多田はいつまでも変わらないでいてくれる? その時、音楽の止まったメリーゴーランドから多田が私の方に駆け寄って来る。 「どうした?転んだの?怪我は?」 心配そうな多田の顔に、私は笑っちゃった。 「何笑ってんの?真剣に聞いてるのに?」 多田が少し怒ってる。 「ごめんごめん⋯なんかさ、白馬に乗った多田が迎えに来たなって思って⋯そしたら笑えた!怪我してないよ、大丈夫!」 立ち上がろうとしたら、足を少し捻っていたみたいで、よろけた。 それを多田がすかさず抱き上げてくれた。 でもさ、でもさ、この格好⋯ 「恥ずかしいからやめてよ、多田!」 でも多田はニコニコ笑って、私を離さない。 「いいよ、足痛いでしょ?このまま、このまま!」 呑気に喋る多田は、ゆっくり歩き出す。 ねぇ、多田?多田は私のこと、好き? それは聞かないで、そっと多田のほっぺたにキスをした。 「バ、バレンタインのお返し!何日か前、ホワイトディだったでしょ?」 多田も私も、顔を真っ赤にして、少し黙った後、多田が嬉しそうに呟いた。 「来年は、口に貰えるようにもっと頑張ろうかな?」 それに私は多田のことを叩きながら 「勝手にしたら、バーカ!」 と微笑んだ。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 最後までお読み下さりありがとうございました! 来週の投稿はお休みとさせて頂きます。 次回は3/27日(木)にお会いしましょう! 皆さんも適度にお休み、して下さいね!

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白馬に乗った君

青いバラ

花のたくさん咲く丘に、一輪の一等美しい青いバラが咲いていました。そのバラは他の花からも一目置かれる程美しく、特別な存在でした。けれどそのバラはそれを鼻にかけることもせず、他の花の美しさを褒めました。 「君は鮮やかな赤い色が素敵だね!」 「君は柔らかな桃色がチャーミングだね!」 「君は華やかな黄色が見ているだけで幸せになれるね!」 その青いバラは褒めるのが上手で、みんなの人気者でした。 けれどそんな平和な丘にある日、少しづつ変化が訪れます。 少しづつ、花達が枯れだしたのです。 それに花達は嘆きながらも、自分達の運命を受け入れます。 「仕方がないさ、寿命は誰にでもあるものだから⋯」 けれど不思議なことに、青いバラだけは一向に枯れることはありませんでした。 それに青いバラも他の花達も気付きました。青いバラは作り物の花なのだと。 けれど誰もそれを責めませんでした。だって、青いバラは一等美しく、一等優しかったのですから。 それからも丘の花達は次々に枯れてゆきました。 その度に青いバラは悲しみました。仲間を失い、それでも尚一輪生き続けることに、悲しみました。 そして遂に、丘の最後の花が枯れました。青いバラは本当に一輪きりになりました。それでも青いバラは生き続けなければなりませんでした。それが堪らなく悲しかった青いバラは、そっとその身から雫を零しました。 やがて春が来ました。 また丘には花がたくさん咲きました。 青いバラはそれがとても嬉しくて、咲いた花とすぐに仲良くなりました。 けれどまた咲いた花は枯れてしまいます。青いバラはまた仲間との別れを迎えました。 青いバラは、それにまた酷く悲しみ、自分も一緒に枯れることができたのならどれだけ幸せかと思いました。けれど青いバラは作り物の花。それは叶わぬ、夢でした。 そうして青いバラは、丘で幾度も幾度も大切な仲間を見送りました。 その度に胸を痛めて、悲しみの雫を常に流すようになりました。 それでも青いバラは、仲間を作り、見送りました。 青いバラは誰もが憧れる永遠を持っていたのです。その代わりに、その儚さも知っていました。 そんなある日、青いバラの永遠は、一人の無邪気な少女の手で終わりを迎えました。 少女が青いバラを摘み取ったのです。 青いバラは、静かに微笑みました。 「さようなら、みんな。ありがとう、僕はこれで幸せだよ!」 青いバラの最後は、とても美しかったと、花達は言いました。 永遠とは美しいものだったのか?辛いだけのものだったのかは、その青いバラにしかもう分かりません。

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青いバラ

官能小説家の君

その官能小説は、とても艶やかで、美しく、時に悩ましく⋯僕はもうそれの虜だった。 僕はしがない編集者だ。 そんな僕がその小説に出会ったのは、ネットに投稿された小説を見て回って、良さそうな人に声をかける⋯いわゆるネットパトロールをしている時だった。 なんだか浮世離れしたその雰囲気と、『肉球推し太郎』なんていう名前のマッチしてなさに、まず目がいった。 それで何気なく作品を読んだ。そしたらびっくりする位の本格的な官能小説で、ドキリとした。でも不思議なことに不快感はなく、読めば読む程に世界に引き込まれた。 文章が美しく整っていて、いやらしさがなく、いやらしいシーンですら素敵な瞬間に昇華させているその作品に、僕は虜になって、この作品はイケる!と確信した!そして、その世にも不思議な『肉球推し太郎』さんという名の人に、メッセージを入れた。あなたの小説を、本にしたいと。 僕の属している出版社は幸いにして大手で、名が知れているからだろう、『肉球推し太郎』さんからはすぐに返信があった。 僕らはすぐに編集部近くのカフェで待ち合わせをして、詳細を話すことになった。 僕は先にカフェに着いて待っていた。 どんな人が来るだろうか?大人の男の人?いや、あの文章の感じは⋯線の細い綺麗な女性だろうか? 様々な妄想が頭を駆け巡った。 と、そこへ制服姿の可愛らしい女の子が顔を真っ赤にして僕を見つめていた。 ん?なんでこの子、僕のこと見てるんだ?この席、何か先約でもあったのかな? するとその子は恥ずかしそうにスクールバッグで顔を隠しながら言った。 「あの⋯○○出版の方ですか?私⋯に、肉球推し太郎と、申します!」 なんだ、肉球推し太郎さんか⋯って⋯ 「えー!き、君が肉球推し太郎さん?じょ、女子高生だったの?」 そう、あのエロい⋯じゃなかった、あのなんとも艶やかな文章を綴っていたのは、可愛らしい女子高生だったのだ! 「あの⋯恥かしいので⋯あんまり、見ないで、下さい⋯」 女子高生⋯いや、肉球推し太郎さんは恥ずかしそうに、顔を赤らめていた。 それから僕らは色々なことを話して、決めて、本を一緒に作っていくことになった。 ただし、肉球推し太郎さんが女子高生なことは勿論、女の子なことも、世間には秘密。 そうしてできあがった本『月花露』はあっという間に爆発的ヒット。官能小説ながら、美し過ぎる描写力に、女性のファンもたくさんついた。 それに恥ずかしがり屋の肉球推し太郎さんも、とても喜んでいた。 それから何作か官能小説を出した頃、肉球推し太郎さんが、あることを言った。 「あの、私⋯純愛小説を書きたいんですけど⋯ダメ、ですか?」 それは、突然の申し出だった。でも、これだけ名前も売れたことだし、ファンもできたんだ、あの官能小説家の純愛小説⋯食いつく人は多いだろう!僕はそれを許可した。 もうその頃には、僕は彼女の作品を愛していた。いや、恋をしていたと言った方が、正しいだろうか? そして間もなく彼女が上げてきた原稿は、一人の編集者に出会い恋をする作家の女性の物語だった。 文章は官能小説の頃と変らず美しく、淀みがなく、ため息が出る。 でも、これは世の中には出せないなって思った。だってこれ 「君の、ラブレターでしょ?」 僕は照れながら、そこまで野暮じゃない自分をちょっと悔やんだ。 肉球推し太郎さんはそれに真っ赤になりながら、下を向いた。 なんだよ?普段あんなにセクシーな文章書いてくるせに、中身はちゃんと女子高生だな? 「もっと大人になってから、素敵な恋をしなさい!」 僕は彼女の頭を原稿用紙ではたくと、それ以来もう彼女と一緒に仕事をすることはなかった。 それから随分と時は流れた。 僕は今フリーの編集者になった。 その僕の元に、今日も原稿を持ち込む人がやって来た。 それは懐かしい 「まだ変な名前で官能小説書いてるの?」 その問いに彼女は、照れくさそうに、笑った。 そうして僕らはまた一緒に本を作るようにった。 今度はただの作家と編集者ではなく、愛おしい作家の彼女とその編集者として。 だって僕は 「彼女の文章に恋をしていたのはそうだけれど、彼女自身にも恋をしていたのだから⋯!」 今日も彼女の書いた文章は美しい。そして、彼女もとても 「美しい。」

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官能小説家の君

あの声優

俺は色々なキャラクターに声を当てた声優だ。その中には世界的に人気なキャラクターもたくさんいる。そんな俺は今日、不慮の事故で、死んだ。 俺は幽霊になって、テレビニュースをワクワクして見つめた。生前あんなにたくさんの人気キャラクターの声を担当したんだ、きっとお悔やみの特集が組まれることだろう! ところがニュースキャスターは淡々と俺の死のニュースを読むと、サラリと次のニュースにうつってしまった。 おいおい嘘だろ?あの国民的人気キャラクターの声だって担当した俺が死んだんだぞ!もっと騒げよ? けれどどこのチャンネルも、同じような感じで、ニュースでサラリと俺の死は扱われ、すぐに流された。 俺はショックだった。みんな俺の死に悲しんでくれると思ってた。でも 「悲しむどころか、関心すらなしかよ⋯」 俺は悲しみながら、一人馴染みのスタジオに向かった。 毎週のように声優として、アニメーションに声という名の命を吹き込んでいた思い出のアフレコスタジオ。 そこで俺は色々なことを思い返しながら、かつての仲間を見つめた。 と、そこには見覚えのない新人が一人立っていた。 「君も突然のことで重圧かもしれないけど⋯あいつの代わりに、頑張って新しい風、吹かせてな!」 プロデューサーが、押すそのこの子台本には、俺が長年務めた役名が書かれていた。 「もう、新しい声優、決まってるんだ⋯」 俺はそれに、仕方がないんだけど、寂しくなった。 時はなにがあっても動いた。死んだ人間を待つことはなかった。 そんな中、俺の通夜と告別式が行われた。 俺はそれをどこか他人事のように眺めていた。 みんな涙を流して、別れを惜しんでくれた。 祭壇は俺の生前の出演作で彩られ、美しかった。それがとても、嬉しかった。 俺とずっと仕事を一緒にしてきてくれたプロデューサーが、後は若い者に任せて、安らかに眠ってな!と言った時は、まだ誰にも俺の役はやんないよ!って言ってやりたかった。 でも、そんなことは無理だった。だって俺、もう死んでんだもん。 そうしてしめやかに幕を閉じた別れの儀式の後、まだ成仏できない俺は、俺のお別れの会にも顔を出した。 有難いことに、そのお別れの会には、たくさんのファンの子達が集まってくれていた。 それに俺は、誇らしくなる。 それと同時に、寂しくなった。 「もっとこの世で、仕事したかったな⋯」 その時一人の女の子が、膝を折って泣き崩れた。 俺はその子の元へ駆け寄り、そっと耳元で 「そんなに泣かないで、俺が死んでも、声は永遠に残るよ!」 と笑顔で囁いた。 するとその子は、その声が聞こえたようで、顔を上げて、周りを見回しながら涙を流して叫んだ。 「そうですね!そうよ、私が忘れなければ永遠に残るわ!愛してますターナー様!」 立ち上がって微笑むその子の口から出た名前は、やっぱり俺の名前ではなくて、俺の演じたキャラクターの名前だったけれど⋯まぁ、いいかって、思った。 「これが俺の、生きた証か!」 そう言って笑った俺は、いよいよ空に登ってゆく。次に生まれ変わるなら、声優になるのはやめておこう。次は俺がキチンと俺って、みんなに認識されるような、生身の俺自身として勝負できるような、そんな世界で戦うような、ヤツになろうって決めたものの、でもきっとまた声優になるんだろうなーなんて思いながら⋯青く澄んだ空の一筋の光に、なった。

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あの声優

ハッピーバレンタイン!

「浮かない顔してるね?これ、あげる?」 あなたはそう言って、可愛らしい包みのチョコをくれた。 恋に落ちるのなんて、あっという間なんだって、思った。 でも知ってた。あなたが私をなんとも思ってないこと。 だってあなたは私の通う大学の教授で、私はただの生徒だから。 でも包みをあけて口に入れたそのチョコレートは、確かに甘い、恋の味がした。 その日から、私はあなたが 「好きだった⋯」 家は息が詰まるほど空気が淀んでいた。 「またお母さんとお父さん、喧嘩したんだ⋯」 もういっそ別れてしまえばいいのに、二人は何故かそれを選ばない。 家の空気が最低だ。 私は割れたお皿とかを尻目に、自分の部屋に引きこもった。 一人部屋の中で今日も教授のことを考えた。歳はきっと私より十歳位上。困ると眉毛を下げる癖がなんか可愛い教授は、いつも誰にも優しい。 知っていた。叶わない恋だってこと、知っていた。でも、夢見るくらい 「いいでしょ?」 時計を見るとそろそろバイトの時間が迫っていた。 「あーあ、私また、汚くなっちゃう⋯」 そう言いながら、私は支度をして家を出た。 夜の繁華街に、私の姿はあった。 いけないって知ってた。だけど仕方なかった。だってお金、ちゃんと家に入れないと、父親に何されるか分からないから。だから私はこうして今夜も法律スレスレの夜の店に立つ。 その時一人の男の人が私の手を握った。 「なんですか?今伺いますからちょっと待ってて下さいね?」 顔を上げた瞬間、私は固まった。だってそこに居たのは、チョコレートくれた教授だったから。 嫌だ!こんな姿の私、教授にだけは 「見られたくない!」 私は教授の手を振り切って走ろうとした。でも教授は私の手を離さなかった。 「君が浮かない顔してたのは、こんなことしてるから?さっき店の前で君に似た子を見て入ってきたんだ⋯そしたら本当に君だったから驚いたよ!ねぇ、質問に答えて?」 教授の質問に、涙が溢れた。 やめて欲しかった。私のこと中途半端に助けようとするの、やめて欲しかった。どうせどうせ 「あなたには何もできないくせに!」 キッと教授を睨みつけた私は、走ってその場から逃げた。 惨めで惨めで、たまらなかった。 好きな人にそんな姿を見られたことが、好きな人にそんなことを言ってしまった自分が、惨めで惨めで、たまらなかった。 一人店の裏口で泣いていると、教授がそっと話しかけて来た。 「お店の人に話してきたよ。申し訳ないけど、もう君との契約を破棄して欲しいって。こんなところで働いてたらダメだよ?分かるよね?」 それに私は怒りが込み上げまる。そんなの、そんなの 「私が一番よく分かってる!でも無理なの、お金が必要なの!なんでそんな勝手なことするの?」 それに教授は 「なんとなく気付いてるから大丈夫。バイトなら僕の手伝いをしたらいい。ちゃんとお金払うよ!教授の手伝いはいい時給が出るよ!だから⋯ね?一緒に帰ろう?」 私はその言葉に、涙が溢れた。溢れて溢れて、止まらなくなった。 それに教授は困って眉毛を下げていた。そして 「あー、どうしようかな⋯とりあえずチョコレートいる?ほらさ、今日って、バレンタインらしいから⋯はい、ハッピーバレンタイン!」 照れくさそうにそっと可愛らしい包みのチョコレートを私に渡した教授は、とても優しく、勇敢な王子様のようだった。 それから一年程が経った。私は教授の手伝いのバイトをしている。 でも教授には自分の想いを伝えてはいない。きっと届かないことを知っているから。だからこの想いは、私だけの秘密だ。 でもね、今日くらい少し教授に分けてあげる、ちょっぴり切ない私の片想い。バレンタインディの今日くらいらチョコレートに添えてそっとあなたに 「教授、ハッピーバレンタイン!」 私の弾む声と笑顔に、教授も微笑む。そして笑顔でとびきり可愛い箱に入ったチョコレートを受け取ると、ありがとう!と言ってくれる。 でもそれだけ。 私の教授への片想いは、誰にも渡さない。永遠に、私だけの宝物だ。

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ハッピーバレンタイン!

まちがいさがし

「ここのファミレス、お子様メニューの裏にほら、まちがいさがしあるんだよね⋯私これ、結構好き⋯!」 そう言いながら、突然まちがいさがしを始めた私を、君は笑って見つめていたっけな⋯。 「線香花火って自分で作れるって知ってた?」 京訛りの独特の尻上がりのイントネーションのあなたは、真冬にそんな不思議なことを言った。 あなたはとても愉快なひとだった。ギターと歌が得意。そして、話すのも大好き。 「知らないよ?線香花火ってあのまんま売ってるものじゃないの?」 それにあなたは楽しそうに 「どこやったかな⋯夏祭りでな、出店が出はるんよ。そこで線香花火が売ってて、手作りできるんよ!」 それに私は 「へー、ほんとかなー?」 なんて笑いながら、まだまだ寒い冬の澄んだ夜空を眺めた。 「今日はあんまり星、見えへんな?残念。俺星好きなんよ。」 その言葉に私は、心の中でそっと丸をつけた。 なんの丸かって?それはね、昔の彼と同じの丸。 私は今隣りにいる人と、昔の彼とで『まちがいさがし』をしているんだ。 あー、ここは同じ、ここは違う⋯丸丸⋯って。 無意味だって知ってた。そんなことしても昔の彼が帰ってくることはないのは知ってた。でもどうしても、昔の彼の面影を、今隣りにいる彼に求めてしまうんだ。 音楽が好きなことも、歌が上手いことも、話が上手いことも、全部丸。同じ。でも 「それって、本当に同じ?」 私は立ち止まって、途端に悲しくなった。 あの頃の、昔の彼とよく乗った観覧車がもう取り壊されたとニュースで見た時、私達の想い出も一緒に壊されたと思った。でも、おかしいな、全部全部、私の心に残っていた。 夏の日に風に吹かれながらイタズラっぽく笑った君は、私に言った。 「お前さ、綺麗なもの見る度に泣くなよ?」 あー、遠くなってゆく。それでもちゃんと、欠片になっても私の中に、残っている。君は私の、大切な一欠片。 愛おしかった。もう手は握れないけど、もう二人で抱き合ったりできないけど、もうファミレスのまちがいさがしをすることもないけれど⋯君は私の、大切な一欠片で、大きな欠損。 「どうしたん?」 ふと少し先で、あなたが心配そうに笑っていた。 あー、冬なんだなと、思った。夏はいつかに通り過ぎてしまった。 この『まちがいさがし』はもうやめにしないといけないなって、思った。だって、誰も幸せになれないから。私もあなたも、きっと不幸になってしまう。 私はゆっくりと先ゆくあなたの横に追いつくと、そっと笑って言った。 「なんでもないよ。ただね、『まちがいさがし』をやめようと思っただけ。あなたは⋯素敵な人と線香花火を作りに行ってね?どこかのお祭り!楽しそう!」 その言葉に、冬の白い息を吐きながらあなたが言う。 「一緒に行こ!楽しいよきっと!どこかちゃんと調べるし ?なぁ?」 私はその言葉に、やっぱり白い息を吐きながら、少し寂しい顔をして答えた。 「ううん、私は行けない。ごめんね。あなたと一緒にいるの、楽しかった。でも、あなたといると、私『まちがいさがし』をやめられないの⋯だから、ごめんなさい!幸せになってね!」 そこまで言って立ち去ろうとした。街灯がチラチラと今にも切れそうだった。 「なんで?なんでダメなん?俺はなんでも、一緒にいたいよ?なんで俺じゃあかんの?」 それに私は涙を堪えて笑って 「あなたが似すぎてるから!昔の彼に、似すぎてるから!だから比べちゃうの!それが辛いの⋯『まちがいさがし』しちゃって辛いの!自分勝手でごめんね!あなたは何も悪くないよ!そのままでいてね!きっと幸せになれるから⋯今まで一緒にいてくれてありがとう!」 笑顔の私は何も言えないあなたを置き去りにして、駆け出す。 途中で、足がもつれて転んだ。近くにファミレスがあった。想い出した。 あの時いつまでもファミレスのまちがいさがしをやってた私を、君は笑って見つめてたっけ。 涙が溢れた。 「なくならないで⋯いなくならないで⋯」 想い出の君に手を伸ばした。 けれど季節は今冬で、伸ばした手の先はどんどん冷たくなっていった。 君と過ごしたあの夏の日は、遠い幻。 私はゆっくり立ち上がって、今度は昔の君と『まちがいさがし』しない恋をしようと、冬の星のない夜空に誓った。

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まちがいさがし

ミュージシャン

「ねぇ、昨日のネロのテレビ生歌唱最高だったよね!」 学校に着くなり、友達が私に言った。 「うん!もう最高すぎて、録画何回も見ちゃった!」 私も笑顔で返す。 ネロと言うのは、私達の好きなミュージシャンだ。歌が素敵なのも勿論、顔もとっても素敵なんだ。 アッシュグレーのサラサラの髪に、どこか憂いのある鈍色の瞳⋯囁くように歌う彼は、とびきり素敵なミュージシャンだ! 彼の歌は、失恋ソングが多い。だから世間では『失恋ソングの神様』なんて言われてる。その容姿も相まって、人気は急上昇中で、今注目のアーティストって言われてる。 でも彼は自分をミュージシャンと呼ぶ。なんでかそれがしっくりくるらしい。だからファンはみんな彼をアーティストではなく、ミュージシャンと呼ぶ。 そんな彼にハマったのは、随分と昔のことだ。彼がまだ全然無名の頃。とあるひとつの曲が、突然買い物してたら流れてきて、そのあまりの美しさに、虜になった。私は歌詞を覚えて、家に帰って必死になってその曲の歌詞を動画サイトで検索して、見つけ出した時には、とてもキラキラした宝石を掘り当てた気分になった! その時から、ネロの曲は全部全部、私の宝物! それから友達にもネロの魅力を一生懸命アピールしたけど⋯みんななんか暗いって、相手にしてくれなかった。 それでも私は、ネロの曲を大切に聴いていた。 そんなある日、大物歌手がネロのPRをしたことがきっかけで、ネロは瞬く間に売れっ子になった。 今までネロに見向きもしなかった子達まで、手のひらを返す様に、ネロネロって、騒ぎ出した。 「みんな現金なんだから⋯!」 私はため息をついたけど、みんながネロの魅力に気付いてくれたのは、素直に嬉しかった。 そして今、ネロはテレビで単独生歌唱をするまでになった。 どんどん大きくなってくネロに、嬉しさもあったけど、寂しさもあった。最初は私だけの 「宝物だったのにな⋯」 って。 でも、ファンとしてはネロが売れたことを素直に祝わないとと、思った。 まだ売れていない時代に、ネロのライブに行って、一緒に撮って貰った想い出のチェキは、今でも大切な宝物。 もう二度と、ネロとチェキなんて撮れないんだろうなと思うと、ちょっぴり悲しいけれど。 あっ、メルマガ来た!ネロから!新曲出るらしい!どんなのかな? 私はベッドに寝転んで、ワクワクした。 そして売れてない頃のネロとの想い出を振り返る。 少ない人数の握手会、何度も並んで顔覚えられちゃって、最後の方笑われたなとか。その時の笑ったネロ、素敵だったなとか。その時ネロ、私のお財布の心配してくれたなとか。いつか絶対に素敵なミュージシャンになるねって、約束してくれたな、とか⋯ねぇ、ネロ、まだあなたは私を覚えていますか? ネロが新曲を出した。それは一人の、ミュージシャンを追いかける女の子の歌だった。 「君とはもう会えないんだよね?僕がミュージシャンだから⋯でも君はいつも僕を見つけてくれているかい?それなら伝えさせておくれ、この胸いっぱいの愛の言葉を、このメロディに乗せて。でもさよならさ、いつかの君。もう会えないね⋯。僕がいつかミュージシャンじゃなくなるその日まで、さようならさ⋯」 私はこれはもしかしたら 「私のこと?」 って思って、泣いた。 きっとそう思って泣いている人、いっぱいいると思うけど、勘違いでも、それでも良かった。 ありがとう、さようならを、ありがとう、ネロ。 これからも、私はあなたを 「見つめてるよ!」 その次の日、やっぱり友達がネロの新曲最高に泣けるねって言ってきた。 だから私は言った。 「うん、泣けすぎて、もう幸せ!」 私はこれからもネロに、憧れのミュージシャンにずっと変わらず愛を注いでゆくんだろうと、そう思った。

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ミュージシャン

降り積もる雪はあなたの愛

あなたの生まれた街は 「真っ白な雪が良く似合う街でした。」 あなたの面影を辿って訪れたその土地で、一面に輝く白い雪に、一雫の涙を零した。 ほんの少し、寄りかかりたかっただけだった。あなたはとても、優しい人だったから。 あなたは私の会社の先輩で、私の良き理解者だった。 パワハラ上司に散々な目に遭わされた時にも、あなたが私の傍にいて、支えになってくれた。 「なーに、辛気臭い顔してんだよ?これでも飲んで元気出せ!」 あなたが笑顔でくれた温かいミルクココアは、本当に優しい味がした。 それは私の恋心の味だった。 でもね、あなたには恋人がいた。結婚目前だって、言ってた。 「お前も祝えよな!」 子供みたいに無邪気なあなたの笑顔が、胸を抉った。 祝福なんて、できなかった。だって私は、あなたが好きなんだから。 でも時は無常に流れ、あなたの結婚式は近付いた。 そんなある日、珍しく東京でも雪が降った日、あなたは仕事の休憩中に遠くを見つめながら私に言った。 「俺のさ、生まれた街は雪国だったんだ⋯」 あなたはボンヤリと、自分の小さな頃の話をした。好きだった遊びとか、好きだった女の子とか、その雪国の地名とか⋯そして最後にポツンと言った。 「俺、お前のこと好きだったよ。昔好きだった子に、似てたから。でも、それだけ。」 私はその言葉に、涙が溢れた。 もっと昔に、出会えていたら。結婚相手より先に出会えていたら 「先輩は、私を選んでくれた?」 その言葉はあなたには届かなかった。あなたはもう、休憩を終えて、出ていってしまった。 私はその後を追って、仕事に戻った。 それから数週間後、よく晴れた日、あなたはたくさんの人に祝福されて結婚式を挙げた。 その日のあなたは、とびきり素敵だった。 私は涙が止まらなかった。でもその涙は、感動の涙ってことにして誤魔化した。 あなたの隣りで、綺麗な雪のような純白のウェディングドレスを着ている花嫁さんが羨ましかった。 あそこに私が、いたかったな。 でもそれが叶わないのは、よく分かっていた。 あなたの結婚式から帰った後、私は溜まっていた有給を使って、あなたの生まれた雪国を訪れた。 どうしても 「あなたの面影を辿る旅をしたかったんだ。」 その街は、真っ白な雪が良く似合う、綺麗な街だった。 その雪の中で、私は涙を零して、微笑んだ。 「優しいあなたを、育んでくれてありがとうございます!」 雪はどこまでも純白で、汚れを知らない。それはまるで、どこまでも真っ直ぐなあなたの優しさのようだ。降り積もる雪は、決して手に入ることのない、あなたの愛のようでした。

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降り積もる雪はあなたの愛