エッセー『ポロンポロンと溢れ落ちる』

エッセー『ポロンポロンと溢れ落ちる』
常に何かが怖かった。 ある時は死だったり、ある時は嘘をつくことだったり、ある時は忘れることだったり⋯。 私は酷く怖がりなのです。 とりわけ酷かったのが、忘れることの恐怖。 私は常にノートを持ち歩いて、自分から溢れ落ちる何かを、掬いとっては書き留めて、必死になっていました。 例えそれがどんなにくだらないことだとしても、忘れることが許せなかったのです。怖かったのです。 ポロンポロンと私から、音もなく何か大切なものが溢れ落ちて、永遠の渦の中に消え去ってゆくのが、悲しくて寂しくて、虚しくて、怖かったのです。 私は出来損ないですから、ものを忘れるのなんて一瞬でした。だから書いて書いて書いて⋯あの日の笑った景色の名前、凪いだ海の名前、知らぬ土地の名前⋯意味など最早持たぬその単語の羅列は、時を経て私の胸を酷く締め付けました。 悲しかったね?でもあの日のあなたに私は何もしてあげられないね? 遠い夏の日、ワンピースを風に揺らした麦わら帽子のあの子は、いつかの怖がりの私。こちらを向いてふっと笑う。小さな陰りと共に。
藤咲 ふみ(6/29夜新作アップ)
藤咲 ふみ(6/29夜新作アップ)
はじめまして。クラゲとクジラが好きな成人済の女です。基本的に木曜日に小説を更新しています♪「窓辺のしぇりー」の名前でXにも存在しております🫢夜書いた文章は朝には読み返します。短いけど読み応えのあるギュッとした、自分が素敵だと思える世界を置いていきます😌よろしくお願いいたします☘いいね♡、優しいコメントくださるととても喜びます! ※表紙のイラストはAIアプリで作成したものを使用するか、フリーイラスト等をお借りしております。 ※ここに上げている作品の全ての著作権は、私のものとさせて頂きます。二次使用など何かご入用の際は一言お声掛け下さいますようにお願申し上げます。(お断りなく一部でもご使用された場合は通報などの措置をとらせて頂きます。) start:2024.5.24