エッセー『ポロンポロンと溢れ落ちる』
常に何かが怖かった。
ある時は死だったり、ある時は嘘をつくことだったり、ある時は忘れることだったり⋯。
私は酷く怖がりなのです。
とりわけ酷かったのが、忘れることの恐怖。
私は常にノートを持ち歩いて、自分から溢れ落ちる何かを、掬いとっては書き留めて、必死になっていました。
例えそれがどんなにくだらないことだとしても、忘れることが許せなかったのです。怖かったのです。
ポロンポロンと私から、音もなく何か大切なものが溢れ落ちて、永遠の渦の中に消え去ってゆくのが、悲しくて寂しくて、虚しくて、怖かったのです。
私は出来損ないですから、ものを忘れるのなんて一瞬でした。だから書いて書いて書いて⋯あの日の笑った景色の名前、凪いだ海の名前、知らぬ土地の名前⋯意味など最早持たぬその単語の羅列は、時を経て私の胸を酷く締め付けました。
悲しかったね?でもあの日のあなたに私は何もしてあげられないね?
遠い夏の日、ワンピースを風に揺らした麦わら帽子のあの子は、いつかの怖がりの私。こちらを向いてふっと笑う。小さな陰りと共に。
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カテゴリー: 日記・エッセー
投稿日時: 2025/5/30 15:39
最終編集日時: 2025/5/31 12:48
藤咲 ふみ(6/29夜新作アップ)
はじめまして。クラゲとクジラが好きな成人済の女です。基本的に木曜日に小説を更新しています♪「窓辺のしぇりー」の名前でXにも存在しております🫢夜書いた文章は朝には読み返します。短いけど読み応えのあるギュッとした、自分が素敵だと思える世界を置いていきます😌よろしくお願いいたします☘いいね♡、優しいコメントくださるととても喜びます!
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start:2024.5.24