星野 竜介

38 件の小説
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星野 竜介

(ほしの りゅうすけ) 小説家目指してます。ジャンル色々で、不定期で書いてます! フォロー是非とも、いいね頂けたら嬉しいです。コメント頂けたら最高です😊

煙を吸えばいいのに。 凍えて眠ればいいのに。 毒を飲まされればいいのに。 水に呑まれ溺れればいいのに。 隕石が落ちてこればいいのに。 血が止まらなくなればいいのに。 足を滑らせて落ちればいいのに。 大爆発に巻き込まれればいいのに。 工事中の鉄骨が落ちてこればいいのに。 死に至る心臓発作が起こればいいのに。 横断歩道を歩いていて、突然車が猛スピードで突っ込めばいいのに。 銀行でお金を下ろしている時に、強盗が現れて人質に取られ、見せしめに撃たれればいいのに。 餅を喉に詰まらせて死ねばいいのに。 思いもよらない死を望み、この現状から抜け出そうとする。 それは、全て受動的であり、何かを望むだけで、動こうともしない。 だから一生抜け出せない。変われない。良くならない。むしろ、苦しみ続ける。死にながら生き続ける。殺されながら生き続ける。自分を殺しながら生き続ける。 そして、もしその時が訪れたらその生をあれほど捨てたがっていた生を懇願する。 人間は醜い生き物だ。 人間は愚かな生き物だ。 人間は滑稽な生き物だ。 自分が思っている以上に。 それに気付こうともできない。 ほら、また餅を詰まらせて誰かが死んだ。 それは、あなたや私にだって起こり得るんだ。 他人事じゃない。 じゃあどうするか。 どうも出来ないんだ。実は。 どうも出来ないことを受け入れることしか、出来ない。 忘れればいい。 自分の愚かさも他人の愚かさも、全て忘れて許そう。 そして、突然終わるかもしれない生を、突然現れる死の時まで楽しもう。 愚かでいいんだ。 醜くていいんだ。 滑稽でいいんだ。 自分自身を、貫いていけ。 餅のように、粘り強く。

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俺は新卒で入って4年働いた会社をつい最近辞めた。 理由は、いろいろある。社会人ともなると色々あるのだ。 それについて深く話つもりは無い。もう、俺は前へと進んでいるから。 職なしになって、自由な時間が増えた。社会に出てからというもの、平穏で落ち着いた毎日はほとんど無かった。それが今では、腐るほど時間も心の余裕もある。社会人では動きたくなくても働いて、一日を使い果たさなければならなかった。しかし、今は一日を使い果たさなくてもいいし、無駄にすら使っても良い。 俺は気ままに散歩に出かけることにした。時間的制約がないことが、日中の心地よい陽あたりを浴びのんびりと歩くことがどれほど気持ち良いかをここ最近で知った。 日本に生まれ、四季を感じ、平和を感じる。 こんなにも世界は明るくて優しくて、暖かいもので溢れていたのかと発見する。 それは、アスファルトに咲いたたんぽぽだったり、公園で遊ぶ子供たちの声だったり、道端でくつろぐ猫の姿だったりする。 僕は猫をみつけ話しかけた。 君は今、幸せかい? 猫は言った。 ああ、幸せさ。暑い日も寒い日もあるけれど、ご飯に困る日もあるけれど、野良猫仲間がいて、餌をくれる人がいるから。 僕は感心した。 自分が、いままでどれだけ幸せだったのか、そして今どれだけ幸せなのかを実感させられる。 嫌なことは無いの? 僕はまた聞いた。 あるさ。猫同士で喧嘩した時とか。それこそ猫の仲間が車に轢かれて死んでしまった時とか、病気で亡くなった時とか。 それは、悲しいし、最悪だね。 でも、僕たちにはそれが日常だから。受け入れているんだ。 なるほどなぁ。 俺が仕事を辞めた理由。色々あるって言ったけど、単純に仕事が嫌になったからだ。職場の人間関係、仕事ないよう全てに嫌気がさした。 でも、振り返れば悪いことばかりではなかったはずだ。 猫たちは、自分たちの境遇を受け入れていた。いいこともあれば悪いこともあると。 そして、幸せに生きていた。 俺はもう、職を失った立場だけど、過去は取り戻せないけれど。 でも、思い出は変えられる。 だから、これから一歩をしっかり、少しづつ、踏み出していこうと思った。 またね、猫さん。 うん。また話そうね。 いつか、俺も猫のように幸せに自分を語れる日を夢見て、今日の太陽を見上げた。

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スピーカーから聞こえたものの正体

PCのスピーカーから、ブツブツと途切れたノイズ音が突如として鳴り始めた。 僕は思わずビクリとした。 PCの電源はおろか、電源スイッチすら切ってある。 でもブツブツ音は鳴り止まない。それどころか、次第に音は大きくなっていく。 僕は怖くなって、部屋から出ようとしたその時だった。 ブツブツが突然止まり、静寂が訪れる。 ああ、なにかの故障だったのか。そう胸を撫で下ろそうとしたその時だった。 耳鳴りに似たキーーーーーーーーーーっという高い音が耳を劈いた。 あまりの刺激に僕は耳を塞いでしまう。 とりあえず部屋から出た。 部屋から出て、家族にその事を話すと、皆で僕の部屋に押し入った。 しかし、もう、あのブツブツとしたノイズ音も、耳鳴りのような高い音も聞こえなくなっていた。 本当に鳴っていたのか?気の所為じゃないか? 家族は口を揃えて僕を疑ったが、僕は本当なんだの一点張りで主張するしか無かった。 しかし、信じて貰えず、家族は部屋を出ていってしまった。 シンと静まり返った変わらぬ僕の部屋。僕は何も映らないPCのモニターを見つめながら首を傾げた。 その時だった。 「家族に話したのね……ぜぇったいに許さないからあ」 僕は腰を抜かした。 その女の声は、PCから発せられていた。 家族に話したのね……ここまでは穏やかな声色だった。上品な、和をも感じさせる声。 しかし、その後は、表現もしたくないような怨念と怨嗟が血混じりになったような声。 今思えば…… あの耳鳴りのような、キーーーーーーーーーっと言う高い音。 彼女の、叫び声だったんでは無いだろうか……??

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ロック

「あ~ロックー、ロックー、私のロックは、いりませんか~?今ならタダで私のロックを与えられますよぉ!」 駅の中にあるスーパーの前の、何も無い空間で、その声はいつも響いている。このスペースは私たちの場所。私たちの拠点だ。 私は、そこへ迎う寄り道で、何となく河川敷の高架下に行き、思いつきの歌詞を即興で歌っている。 「あぁーロッキンバン、私は生まれたてからロッキバーン!地面から生まれたダイヤの原石、ロッカーバーン!孤独に生まれ、孤独に死にゆく、ロックバンガー!これが私の生きる道」 大声で歌いながら歩いていると、いつの間にか高架下に着いていることがわかった。 私が、いつものように即座に拠点に行かず、少しの寄り道をして、こうして大きな声で歌を歌っているのは、あの嫌なことを少しでも掻き消したいからなのかもしれない。あともう少しの辛抱で無くなるのだと考えると気が楽になった。 歌を散々歌い尽くした後、私は本来の目的地である駅内にあるスーパー前の広場に行くことにした。 道の途中に、夏の日差しを全面に受けた校舎があった。今頃、学校ではこの暑さの中、授業が繰り広げられている。同じ教室で、同じ教科、同じ教師、同じ生徒。何もかも同じ日常。私は、そんな退屈な囚われた日常が嫌いだった。いつも休んで街をふらつく。それこそロックだろう。でも全く、よくこんな暑い日にあの暑い校舎の暑い教室で、むさ苦しい空間の中、授業なんて受けれるなと思った。まあ、私もこの暑さの中外に出て、黒いレザーパンツを履き、長袖のロゴTを着ているから、彼らからしたら私の方が異常なのかもしれないけど。はっきり言って、最高な私に、この最低な街は相応しくないと思った。この街は何かも型にはまっていて、街全体が雁字搦めになっている雰囲気がある。最高にロックじゃないこの街が、最高にロックな存在の私は嫌いなのだ。ここの空気を吸ってたら、私のロックが穢される。そして、いつの間にか埋もれ、消されていく。粉々になった鉄くずや黒ずんだ埃の混ざった空気がこの街には流れている。私にはそう感じた。例え、その町の誰かが私のことを鉄くずや埃扱いしたとしても私はそれを気にもとめないだろう。私はダイヤの原石なのだ。この街にもきっと私と同じダイヤの原石はいるはずなのに、鉄くずの中に埋もれてしまって見えないか、埃をかぶって黒ずんで、ただの石のように見えているだけだ。 「おー、ロックちゃん!」 駅の中にあるスーパーの空きスペース、寂れた何も無いコンクリートの空間に私たちの拠点はある。 そこに、一人、私に手を振るおじさんがいた。 「アレ、もう終わっちゃった?」 「今ちょうど終わって戻って来たところだよ」 そう笑顔で、おじさんは答えた。アレというのは、私たちの拠点で行っているロックンロール活動だ。活動目的は、ロックの仲間を集め、私たちのロックを教授させること。活動内容としては、自由に遊び、話し、そして歌う。その姿を見せて、参加者を集うのだ。 「そっかァ、参加できなくてごめんっ!」 「いやぁいいよお。ロックちゃんは自由なのが一番だし」 「へへ、おじさんありがと」 このおじさんは、私のロックな仲間、一号だ。名前は知らないが、一応あだ名はある。あだ名は、テグさん。手癖の悪いテグさんと覚えれば簡単に覚えられた。結局、私はおじさんと呼んでしまうことが多いけど。 「それより、ロックちゃん、このお弁当食べる?」 「うわ!美味そう!これ高いやつじゃん!」 「うん。近所のスーパーでね仕入れてきたんだ」 「おじさん、仕入れると言うより、くすねるでしょ」 「あはは、ロックちゃん、それはしーっだよ」 「まあ、いつもの事だしねー。今問題になってる食品ロスへの貢献だね」 テグさんのロックなことは、こんなところだ。毎日毎日、自分のために、私のために、人を欺いて、色んなものに手を出して、消費して、それで満足する。世間一般的な表現で言ったら、テグさんは、盗みを働いている。私はおじさんの手は喜んでいると思う。誰かの為に盗みを働くおじさんの手はとても幸せなのだ。なんで彼はこんなにも素敵なのに奥さんと娘に捨てられたのかが不思議でならない。捨てられるべきは彼の他にもっとあったはずで、彼を含め、捨てられるべきものでないはずの物が捨てられてしまうのがこの街なのだ。 「あ、テグさんに、ロックちゃん」 「やっくんじゃん!」 「おう、ヤクさん、どうだいヤクさんも食べるかい?」 「お、今日もテグさん弁当出店してるね。店長ひとつ頂くよ」 そう言われ、テグさんは、しゃがみこんで服に皺をつくり、パンパンになったビニール袋に手を入れる。そこからまた盗んだであろう弁当を取りだした。 今はもうお昼すぎで、私は貰った弁当を夕食に当てることにしたがやっくんは、貰った途端に性急に食べ始めた。その食べ方は、獰猛な獣が死んだ獲物を貪り食う様子に似ていた。 私がやっくんと呼ぶこの男は、身長が高く痩せていて、顔が青白く痩せこけている20代後半の少し猫背なお兄さんだ。テグさんはヤクさんと呼ぶ。彼は、見た目通りに、気力のない感じでいつも気だるそうにしている。でも話してみたら、とても気さくでいい人であり、大抵の冗談を理解して話を合わせる頭の回転の良さも持ち合わせている。 「ロックちゃん、一本どう?」 「私、タバコ吸わないんだよね」 「そっか、残念」 「じゃあこれは?」 そう言って彼は小さな袋を私に差し出してきた。その袋の中には白い粉が入っている。 「やっくん、面白い冗談だね」 「うーん、もうちょっとウケると思ったんだけどね」 「やっくんそれは、ネタになる人が言うとウケるんだよ」 「アハハ、そっか~」 彼は、薬物乱用者だ。覚せい剤、大麻、MDMAなど名の知れたものを沢山使う。だから体もボロボロで廃人のような見た目をしているのだ。たまに幻覚とか幻聴を見たり聞いたりもするらしい。でも彼は決して他人に害を与える人間では無いことを私は数ヶ月間、関わって知っている。むしろ、彼は見た目以上にユーモアのある人間であり、自虐ネタで人を楽しませる。そんな彼が私は好きだった。もちろんLOVEではなくLIKEの方だが。好きな理由はもちろん彼がロックだからである。 ロックな私とロックな彼ら二人が駅近くのスーパー裏で、新たなロックな人材を見つける、そんなような毎日を私は続けていて、そして、満たされていた。私の居場所はここだと思った。 私は毎日学校を休んで、このロックな活動を2人と続けていた。なかなか、ロックな人材は簡単には見つからない。それでも、この活動はしているだけで楽しく、いい気晴らしになった。それだけで意味があったと思う。本来なら、ロックな人材集めも気晴らし程度に、軽くやればいい。でも最近の私はどこかこん詰めているところがあった。それは私らしくなかった。きっとそうなってしまう理由は、私がやらなければならないある事のせいだ。それをやるために、ロックな人材発見活動は休むようになっていった。 「あれ、今日もロックちゃん来ないね」 「そうだねぇ...最近のロックちゃん。ちょっとおかしいよねぇ...」 「なにかあったのかねぇ」 最近は、ほとんど顔を出せていないから彼らがそう言う会話をしているかもしれないとふと思い浮かんだ。今日も、私は、彼ら二人の元へ行かず、やるべき事をするために、廃工場へ向かった。 廃工場の錆びれた重々しい雰囲気と、独特な匂いに包まれた空間に足を踏み入れると、私がやらなければならない事に関する最重要人物達がいた。 「はぁ、おい、てめえ。こんなことをして、ただで済むと思うなよ」 「響歌、こんなこといつまで続けるつもりだ」 私がやるべき事をやる相手は3人いて、口枷を剥すと、2人は威勢よく叫んだ。1人は黙ったままだった。 「私の気が済むまでは続けるつもりだよ」 「お前はまたあんな目にあいたいようね」 と、3人目が口を開いた。威勢が良くないが故に、重く威圧するかのような声だった。 「あんな目にか、それは君たちの方じゃないかな」 「はぁ?誰がてめぇなんぞに」 「まずは、威勢のいい君から行くね」「君にはそうだな... グラムロックが似合いそうだ」 そう言って私は、威勢のいい一人のクラスメイトの女を拘束台へと連れていき、拘束具と目隠しとタオルを用意した。 「右腕、左腕、右足、左足。それぞれ別の拷問をする。その拷問で一番痛いと感じる所を叫んでね。叫ばないと一生その拷問は終わらないから」 これは、奴らがそうしたようなものだ。それをそっくりそのまま返しているだけ。奴らもそのようにどれが相手にとっていちばん苦痛なのかを試し、様々な方法でいたぶり、その反応を楽しんでいた。そして、一番ウケが良かったものを、反応が大きかったものを続けようとした。 「右足!右足いいぃぃぃい!!!」 「右足ね、じゃあ右足の拷問を全ての胴体にしよう」 「それが終わったら、次は一番痛い指で試そうか?でも今度は嘘をつくかもしれないから痛くない指とかでも楽しそうだよね」 人間の身体的苦痛は、精神的苦痛にもなる。でも私の拷問は精神的苦痛から身体的苦痛へとなり、身体的苦痛から精神的苦痛へと循環するようになっている。つまり、抜け出せない地獄の循環であり、最高にロックな精神的苦痛の与え方だ。 「じゃあ次は君だ」 「私?ねえ響歌。もうやめてよこんなこと」 「やめないよ。言ったでしょ。私の気が済むまでやめないって」 「このクソ女、私が下手に出たからって調子に乗るなよ」 「本性を出すのが早いよ。これだから裏切り者は」 裏切り者は裏切られた者の気持ちを理解することが到底できない。でも、私はそんな身勝手なやつのことを許せなかった。だから彼女の友人を呼んだ。いやもっと端的に言えば、彼女が友人だと思い込んでいた人達だ。 「なによ、あんた達」 「ごめんね。静香。私達、、本当は、アンタのことなんて友達と思ったこともないし、無理に付き合ってただけで、本当はクソほど面倒くさくて、死ぬほど嫌いだったんだよ」 彼女にとっては、友情物語が崩れ、友人から罵詈雑言をあびせられ、そして今まで裏切られていたことに気づく。その言葉一つ一つの鋭いトゲが、彼女の心に刺さっていく。悪い言葉は吐けば吐くほどどんどん出てきて、それがひとつの旋律のようになる。その旋律は速く、激しく、そして鋭く尖っていて、とてもロックなものだった。この言葉の群れこそ、プログレッシブロックの音源そのものかもしれない。裏切り者が最後に裏切られ、自分の過ちに気づくという展開の歌詞も最高にロックだろう。 「プログレッシブロックの音源は流さなくてもいっか。次行こう」 「最後は取っておきの君だ。君には身体的苦痛も精神的苦痛もあまり効かないだろうから。とっておきの方法をとらせてもらうよ」 「何をする気?」 「君には、新しいロック、オルタナティヴロックを奏でてもらう」 「はぁ、なによ、それ」 「簡単に言えば、君は、私に従うだけ。それだけでいい」 かつて、貴方が私を思いどおりに操ったように、私も貴方を思い通りに操り、貴方は私無しでは生きていけなくなる。いじめは、こうでないと。いじめは、相手の嫌なことをするだけじゃない。相手と切っても離れない主従関係を結び、自分の思うがままに操り、一生目の前に光が見えない地獄を見させ、それを楽しむことなのだ。相手への嫉妬を引き起こす原因は、プライドの高さ。そして相手を見下す傲慢さ。私を下に見ていたということ。そんな私のおかげで生かされている状況は、プライドの高いものにとって相当な屈辱だろう。 やるべき事が終わり、私はロックロールに参加できるようになった。 私は、やるべきことを終えると、ふと私と彼ら2人の違いに気づいた。彼ら2人は私と同じようにロックな人材ではある。テグさんは、手癖が悪く、常習的に盗みを働いているし、やっくんは、薬物中毒者だ。だが、それまで。私ほどロックでは無い。私はロックの信念の元、やるべき事をやり、彼らと違って他人を傷つけた。私と彼らは違うのだと、そう思った。しかしそれは違うと思い知らされる出来事が今後、起こることになる。 いつもの活動中、テグさんが席を外した。何やら急の電話のようだった。私もその後トイレに行こうとして席を外し、ちょうどそのトイレ近くでテグさんは電話をしていた。元奥さんだろうかと思っていたが、そうではなさそうな雰囲気の内容だった。電話相手の声は聞こえないので、テグさんのワードで判断するしかなかったが、テグさんは計画、実行、罰など何やら意味深な言葉を口にしていた。テグさんも私と同じロックを持っているのかもしれないと思い始めていると、今度はやっくんがその片鱗を見せた。やっくんは、見ての通り薬物中毒者で、薬物を扱っている悪い奴らとつるんでいた。そいつらがたまに、ここへ来てやっくんに変な絡みをしていた。やっくんに薬を押し付けるのではなく、なにやら話し込んでいるようだった。まるで悪巧みでもするように会話が意気投合していて、やっくんがまるで加害者のようだった。 私は2人のプライドベートを一切知らない。それは2人にとってもそうで、私のプライベートなことは一切言っていない。関与する気もなかったが、ロックのことであれば違う。 私は2人の後をつけて見ようと思ったこともあったが、後をつけたところで、そのような活動をしているところに遭遇できるかは分からないし、むしろその可能性は低く、この活動がない日にしていると思ったので、問い質すことにした。 「テグさん、やっくん。二人に話がある」 これは、賭けでもあった。まだ確信をもてたわけじゃなかったからだ。 私は自分のことから話し、相手へ打ち明けさせる展開へと持って行こうと思った。 「私、実は二人に言っていないロックな活動を一人でしているの。それを打つ明けようと思う」 私がそう言ってこれまで行ってきたロックを淡々と話し始めた。二人は最初どうしたのという面食らった感じだったが、私の真剣な話のトーンにどんどんとひたっていき、静かに頷きながら聞くようになっていた。 「ロックちゃんは、それを話して、私たちに何をして欲しいんだい?」 私が話終えると、テグさんがそう言ってくれた。テグさんは本当に話の理解が早くて良い。 「つまるところ、2人にも私に言っていないロックな秘密を打ち明けて欲しいんだ」 「それは、どうして?悩みの共有かい?」 「悩みの共有とは、また違うんだよ。ただ私は興味があって、知りたいだけなんだ。私のロックとどう違うのか。二人のロックを否定するつもりもないし、干渉するつもりもない」 「そうか、なら話すよ」 「やっくん、いいのかい?」 「テグさん、大丈夫だよ。それにロックちゃんのあんな決意見せられたら黙っていられない」 「分かった。じゃあ、私から話すよ」 「私は、妻と離婚したと言っていたよね。あの原因は妻の家庭内暴力だったんだ。私にはもちろん、娘にも、暴力を振るうことがあって、それで私は妻と離婚した。でも、妻はそれを隠蔽し、離婚は全て私の身勝手な行動を原因にしたんだ。それが私は許せなかった。でも何も出来なかった。私には力が無かったから」 「でも、力を得たんだよね。そうじゃないと、今の状態には至れてない」 「そうなんだ。古くからの知り合いで児童相談所の職員をやっている友人がいてね。無理やりの頼みで、そのような家庭内暴力を受けている可能性のある子の住所を教えて貰っている。そして、保護しようと活動しているんだ」 「でも、それは個人情報的にまずいんじゃ?」 「ああそうだよ。私は、犯罪者だ。黙っていて済まないね。でもそれだけじゃないんだ。私は、その無責任な親たちを連れて、説教をした後、それでも改心しなければ、同じような目に遭わせていたんだ」 「テグさんは、なんでそんなことしたの?」 「最初は正義気取りだったかもしれない。でも、段々と変わって言って、今では娯楽としてそういうことをしているんだ。きっとあの時できなかったことを、妻にしてやりたかったことを、散々他の人で出来るその楽しさにハマっていった。正義気取りなんてもってのほかだ。私はただの悪人で罪人で、愉快犯なんだ」 「それがテグさんのロックだったんだね」 テグさんのロックを例えるときっと、ポップロックだろう。愉快犯のテグさんには愉快なリズムがピッタリだ。 私は震え涙を零しながら話すテグさんに手を差し伸べた。ロックを持つものだからこそできる行動だと私は、そう自分で思った。心の底から勇気を出して話してくれたテグさんに寄り添った。 少し経ち、テグさんも落ち着いてくると、気まずそうにやっくんが話しだした。 「次は僕か。テグさんの後だとしょぼすぎて拍子抜けしちゃうかもしんないけど、簡潔に言うと、僕は、精神疾患を持った若者たちに、薬物を勧めてた。いやもっと分かりやすく言うと、所謂、メンヘラみたいな連中に薬物を飲ませて、幻想を見させてあげたり、時にはオーバードーズさせたんだ」 「オーバードーズって、死ぬんじゃないの?」 「死ぬ時もあるし、だいたい後遺症が残るだろうね。でも、オーバードーズさせる子は 死を望んだ子だけだよ」 「なんで、そんなことをしようと思ったの?」 「僕の親は、僕の存在をいなかったことにした。つまりはネグレクトと言うやつでね。一日中空腹で死ぬそうな時もあった。そして精神も病んだ。そんな時には、何もやる気が起きず、死を渇望することか、何かに依存して空腹を忘れることしか出来なかった。そんな想いをしている人たちを僕は救いたいし、させている人たちを地獄に落としたい。どちらも実現できるのが薬物だと思ってやっていた」 「やっくんは、薬物のことをどう考えてるの?」 「薬物は、とても都合のいい夢だと考えてる。辛い現実から逃げて、幸せな幻想を見させてくれるものさ」 「それがやっくんのロックなんだ」 やっくんのロックを例えると、サイケデリックロックだろう、幻想的な音楽が薬物中毒者が幻想を追いかけるということにピッタリだ。 「でも、二人は同じ仲間がいたんだよね?どう集めたの?」 「最近はネットが流行ってるからそこでかな」 ネットか。それもいいなと思った。私たちのロックな仲間を集めるサイトを創るのも楽しそうだ。そこでやる活動をまとめる。サイトがめんどくさかったらSNSでもいい。いつかじゃなくて、今やろうと思った。私はこの日から活動の最中に写真を撮り、それを説明文と共にロックンロール専用SNSを立ち上げて投稿した。反応もあり、まだ出会ったことの無い私たちの仲間たちは確かにいるという感覚があった。 互いのロックを知り、よりロックンロール活動へ、団結が深まったような気がした。その矢先、ついに初めてのロックな新しい仲間が見つかった。それは商店街を練り歩きながら、食べ歩きをしたり、買い物をしたりした後、宣伝歌を歌った後だった。 「あの、私もやりたいです」 と、私と歳が同じくらいの風貌の女の子が唐突にそう言った。 彼女は真面目そうな見た目をしていて、とても私たちに似合わさなさそうだと思った。でも、ここに来たからには、何かしらロックな事情があるだろうし、ないとしてもロックな自身に変わりたいと思っているはずだ。 「よーし、じゃあ君も今日から私たちのロックな仲間だ!私はロック。よろしくね」 私はそう言って受け入れた。彼女はあのSNSを見て、私たちの活動を知ったらしい。あのSNSはやはり効果があったのだ。わざわざ創った甲斐があった。 「僕はみんなからやっくんって呼ばれてる。由来については、お察しの通りだよ。よろしくね」 「私はテグっていうあだ名があるよ。手癖が悪いからテグって由来なんだけど、ロックちゃんにはおじさんって呼ばれてるからおじさんでもいいからね」 私に連なって、やっくんやテグさんが彼女に自己紹介をした。ちょうどいい機会だと思った。 「こんな感じで活動のメンバーにはみんなあだ名がついてるんだけど、君にはなんのあだ名がいいかなあ。なんかよばれてるあだなとかある?出来れば、中々ない特徴的なあだ名で」 「特に、ないですけど、、」 彼女は気まずそうに黒縁のメガネを触りながらそう言った。 「じゃあ特徴で決めるか、なんか他の人には無いものある?」 「特徴なら、私は眼鏡をしているのでそれかと」 眼鏡か、たしかに彼女はオシャレな黒縁メガネをしている。素人目だがとても高そうに見えた。眼鏡っ子だから略してメガちゃん。私の脳ではこれが精一杯の思いつきだった。 「じゃあ、まだ仮だけどメガちゃんでいい?」 「メガちゃん。可愛くていいんじゃない?」 「うん。私も彼女によく似合っていると思うよ」 彼女よりも、彼ら2人が早く反応した。彼らがいいと言っても当人がダメと言うならダメだろう。しかし、彼女はその2人に押し流されるかのようにこのあだ名を受け入れた。 「じゃあ、それで、、お願いします」 後にメガちゃんから聞いた話だと、外見のメガネが特徴というのは、とてもメガネに拘るっているかららしい。なんでも、お気に入りのメガネを何十個も持っていて、集めるのが趣味だという。気分によってメガネを変えるのだ。これはメガネコレクターといえる。結構ロックな一面が見えて嬉しい気持ちになった。 メガちゃんが入ってから数日が経ち、今日は初めてメガちゃんが、ロックンロール活動に参加する日だった。私とは数回SNSでやり取りをしたから慣れてきているとは思うが、まだやっくんとテグさんとはあの日に自己紹介を交わしただけだ。緊張もあるだろう。メガちゃんは、初めての私たちとの活動に緊張していたが、それは直ぐに解かれていった。なぜなら、今日のロックンロール活動の舞台はゲームセンターだからだ。 「あ、ここよく来たことある」 メガちゃんがそう小さく呟いた。このゲームセンターは錆びれた商店街内にある小さな古めかしいゲームセンターだ。とはいえ、人はよくいるものだ。住宅街が近いからというのもそうだがここでしか出来ないレトロゲームが多くマニアからも人気なのである。 「そうなの?家から近いの?」 「うん。飯嶋中学校からも近いし、帰りに寄る生徒も結構いる。私はしてないけど」 「メガちゃん飯嶋中なんだ。私は粟原中 」 「あーあの...」 「そう、あの」 「ていうかさあ、歳同じ?中ガッコ3年?」 「はい」 「それならさぁ、敬語なんて捨ててタメ語でこれからは行こうよ」 「はい。ああ、うん」 ぎこちない返事だったが、少し嬉しそうな顔をしたメガちゃんを見れて、私は満足した。 「テグさんとやっくんは年上の男だから同年代の女の子が来てくれて嬉しいよ」 「あーうん。それは良かった」 彼女と会話した後、テグさんとやっくんが先にやっていたメダルゲームに参加した。メガちゃんの演奏担当は何がいいかを話し合いながら。私は、古めかしい、ボールを落として穴を埋めていく埋まれば埋まるほど良いメダルゲームをやった。この埋め込まれたネジなどが内蔵された磁石によって影響され、ボールの落ちる位置が操作されるという仕掛けの噂のせいで前より純粋に楽しめなくなったが。それでも同じ所にボールが2つ溜まるとボールが全部落ちてしまう儚さとその時に感じる残念さは変わらなかった。メガちゃんの元に同年代の制服姿の女の子3人組が寄ってきた。 「近藤、こんなとこで何してんの?」 私に一瞥もせず、ただメガちゃんだけを睨み眼で、見下ろして、見下していた。 「そこの一緒にいるダサい女は誰?アンタなんかに友達いたんだ?」 私を指さし、顔を小さく上下させて、嘲笑した。 「すみません、連れさん。私たちと近藤さんはこれから予定があるので、借りていきます」 「その予定に私も付き合っていい?」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私はその時初めて思った。この人は、普通の人じゃない。怖い人なんだって。それまでは、とても優しくそして信頼出来て、私に新しい世界を見せてくれる革命家のような存在だと思っていた。彼女の存在が今までの人生の中で一番光輝いて見えたのだ。 私の人生は暗闇ばかりだった。小学校の頃から虐められ、それが中学でも続いた。親に相談したり、いじめっ子に刃向かったりしようと決意した日もあったけど、私には無理だった。なぜなら、私は弱い。そして、心の痛みの分かる真人間だったからだ。 私が思う真人間は、世間一般的で、大抵の人と同じように人の痛みが分かり、大抵の人と同じように少し自分勝手なところがある。そういう人間だ。真人間じゃない人は、人の痛みが分からなかったり、エゴイストで自分勝手すぎる人間だったりすると勝手に思っていた。私をいじめていた3人はこれに当てはまっていた。真人間の大衆達は、いじめに加担せず見て見ぬふりをするか、自分がいじめの対象にならないよういじめに同調するかだ。真人間でない人間じゃない限り、わざわざいじめの第一人者、主犯格になろうとしない。いじめられる側の対応も、そのように真人間かそうじゃないかで別れると思う。私は真人間だから、歯向か得ず、ただ従うままだった。何度も、歯向かおうと決意したことはあった。でも、結局実行には、移せなかった。私はその後の展開に恐怖したのだ。やり返されるかもしれない。まず、上手く歯向かう自身もなかった。ただ悩みもがき、苦しみながら、針が敷かれたレールの上を血だらけになりながら進むしか無かったのだ。 彼女、ロックちゃんは、そんなレールから脱線していた。彼女の目は、私の目とは違った。真っ直ぐな瞳なのに、その瞳は目の前の事実を捉えていない。そんな不思議な目。彼女は、レールから脱線した道無き道を、我が道を作っていた。そんな生き方は到底、常識人にできる事じゃない。彼女が、私のいじめっ子たちに歯向かった時、彼女はそちら側だと悟った。彼女は、私をいじめたいじめっ子と同じ真人間ではないのだと。そう思った瞬間に、彼女への憧れは恐れと変わっていた。彼女自身を恐怖するのではなく、彼女が何かやらかすのでは無いかという恐れだ。私がいじめっ子達に従わざるおえなかったのは、いじめっ子達の異常さが私を動けなくしたから。私がロックちゃんとロックちゃんの活動に憧れたのは、ロックちゃんの異常性に私が惚れたからだ。私たちは彼女達の思考が理解できなかった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 結局女3人組はメガちゃんと少し話したあと直ぐに去っていった。私はただそれを見つめるだけだったが、相手はかなりそれを意識していた。彼女たちが去った後、私はメガちゃんに、聞いた。 「あの子たち、メガちゃんをいじめてるんでしょ?いいのあのままで」 「うん、、、私がどうすることも出来ないし」 そう言って俯く彼女のために、なんとかしてあげたかった。彼女は私の仲間だからだ。メガちゃんには前を向いて欲しかった。 「私なら、どうにかしてあげられるよ」 そう私は口に出ていた。しかし、そういった直後、メガちゃんは、顔を恐怖に歪ませた。 「やめて!!!」 それは明らかな拒絶の声だった。 「どうしたの?」 悲鳴を上げた彼女に驚き、私は恐る恐るそう言った。 「怖いの、、、」 「何が?復讐することが?」 「いいえ、それもそうだけど。あなたも怖い」 彼女は淡々と震えた声でそう言う。私が怖いとはどういうことだろう。 「私は、メガちゃんの味方だし、君救うために行動したいの」 「あなたが、いい人だってことは分かってる」 「でも、復讐をしようとしているから。まだ出会って間もない私のためにそんな行動が出来るなんて理解できないの」 「なら、今から私に着いてきて欲しい。私のことを理解して貰いたいから」 「どこへ連れていく気なの?」 「大丈夫、見て欲しいものがあるだけ、メガちゃんは何もしなくていいから」 そう言って、彼女は私を廃工場へ連れていった。あの、私が断罪したいじめっ子達がいる場所だ。彼女はさらに私のことを怖がるかもしれない。それでも、理解して貰うにはこの方法しかなかった。 「なによ、これ」 「これが私の復讐だよ」 「酷い。酷いよ。復讐しても何も起こらないただ悲しくなるだけだよ」 「メガちゃん。それは違う」 「これを見ても、なにも私は、理解できない。ロックちゃん、あなたは何を考えてるの?」 「私は、ただ自分の道を真っ直ぐと進みたいだけ。その方法が、彼女達に復讐することだった」 「そんなのおかしい!復讐することで前に進む?進めるわけがない」 「進めるよ。復讐しなかったら、一生嫌な思い出を引きずったまま、その過去に怯える道を進まなきゃいけない。そしていつか足を止めてしまう」 メガちゃんは少し黙ってから、まだなお、否定した。 「復讐する道の方が茨道だよ」 「茨道でもいいんだよ。綺麗な道を苦しみながら進むよりは」 「復讐は何も生まない。残るのは後悔だけ。その一般論を覆す。それが私の復讐。それが私のロックなの」 「復讐した子達への罪の意識は無いの?」 「私は、彼女達がしてきたことをそっくりそのまま返すだけ。同じ痛みを味わってもらう。これでリセット。だから私が罪を感じる必要もないし、相手が罪を感じる必要も無いの」 「ロックちゃんは強い人だね」 メガちゃんは声を絞り出すようにそう言った。その声はとても掠れていた。 「メガちゃんも強くなるために、君を虐めた彼女たちに復讐しよう」 「私には、、出来ないよ」 「大丈夫。私が見本を見せるから」 私は励ますように、そして諭すようにそう言った。メガちゃんの目は、まだ濁っているように見える。いつか、私はこの目を透き通った目にしたいと思った。私と同じような目に。 今日は、私は新曲を歌いながら、メガちゃんのいじめっ子に復讐を果たしに来た。 「路上の下に埋められた沢山の砂粒はー、無数の足に踏まれ続け、息を止めてしまう。本来の居場所を求め、防波堤の向こうへ、連れて行き、そして還る。その時には、結晶さ。縛られた籠の中、道の途中投げ出され、そのまま忘れ去られる。された方は忘れない。した方は覚えてもいない。人の悪はとても穢れている。そんな心を持った人々へと、私のロックを響かせたい。貴方の眠れるロックを見つけたい。きっとそれが実現した街は秀麗だ」 これからも私の |復讐《ロック》は続いていく。 「ロックちゃん今日はどこへ活動しに行く?」 テグさんがそう聞き、私は笑顔で答えた。 「うーん、人はもう結構集まったし、街を壊しに!」

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ある夏の日の思い出

夏の終わりに、「なつのせいかつ」に今年の夏休みの思い出を振り返っていた。 僕が季節の中で、夏が一番好きだ。 その理由は単純で、夏休みがあるからだ。 僕は小学5年生で、友達もいるけど、学校は嫌いだった。 この理由も単純で、毎日朝起きるのが嫌だ。そして、勉強するのが嫌だからだ。 そんな日常に、いきなり現れる天国のような日々が、夏休みなのだ! プール・海、夏祭り、甲子園、虫取りに、夏の特番、ホラー番組。 どのイベントも好きで、夏が一番、風物詩を感じられる。 例えば、海でスイカ割りの後に食べるスイカとか、海の帰り道にうるさく鳴く蝉の声とか、夏祭りに行ってみれば、花火の中、ラムネを飲んだりかき氷を食べたり、金魚すくいをしたり。家にいても、風鈴の音がなり、その中で流しそうめんを食べるのも、暑くて団扇を仰いだり、扇風機の前で声を出して宇宙人の物真似をするのも風物だ。 そんなよくある夏休みの一日で、僕は特に印象に残ってる日があった。 それは、山の奥にあるおばあちゃんの家に家族で行くことになったある日だ。 毎年夏休みに、おばあちゃんの家に数日ほど泊まって過ごすのは変わらないが、今年は初めていとこが来ることになっているらしいことを両親が話している時に小耳に挟んだ。 それもあってか、僕はいつもより少しワクワクしていた。 長い凸凹とした山道を父親の運転する車が進む中、僕は後部座席で寝転びながら揺られていた。 「そろそろ着くぞー」 父親の声に僕は飛び起き、窓の外を見た。一面、木。ほんとに田舎だなと思った。 おばあちゃんの家に着き、玄関に入ると、独特の木の家の匂いがする。この匂いは、他の場所では一度も嗅いだことの無いおばあちゃん家特有のものだった。そしてこの匂いを嗅ぐと僕は子供ながらにして懐かしい気持ちになるのだった。 いとこ達は、もう着いていて、玄関から 廊下を抜けて、居間に行くと何やら騒がしかった。 その騒がしさは、いとこのお母さんといとこ達が何やら言い合いをしているからだった。 僕は、おばあちゃんやおじいちゃんと挨拶をして、それに続いて、お父さんとお母さんが話をしているところを静かに聞いていた。だから、いとこがどんな感じなのか何を言い合いしているのかとかは分からなかった。 一悶着着いて、いとこのお母さんやお父さんがこちらに挨拶をしに来た。 その時に、初めて、僕はいとこと対面した。 いとこは二人いた。僕より年上そうな女の子と、僕より少し年下っぽい男の子。 「陽太、実は今日はいとこも来てて、伊織ちゃんと翔太郎くんだ。仲良くしような」 お父さんは、そう言って僕にいとこを紹介した。 多分お父さんは、僕が少し人見知りなことを知っててやった事だろう。 相当なお節介の父親だから、いおりちゃんやしょうたろうくんにも僕と仲良くしてやってくれと念を押していた。 あとは大人の会話が展開されていくことは予定調和であったから、お父さんは、僕といとこの2人で遊びに行きなと勧めてきた。 僕は、父の足の陰に隠れていたが、父親に背中を押されて、二人の目の前に出された。 そこで僕の顔は赤くなり、何も言えなかったけど、それを見て、いおりちゃんは気を使ってくれたのか、口を開いた。 「じゃあ、2階の漫画部屋、行く?」 「う、うん」 夏休み、ギラギラと太陽が照り付ける中、絶好の行楽日和に、おばあちゃん家の漫画部屋(お父さんやいとこのお母さんの子供部屋)で僕達は古い漫画を読んでいた。 「姉ちゃん、これ全部読んでいいの?」 「読んでいいけど、汚しちゃダメだからね」 「やったー!!」 いおりちゃんは静かに漫画を読んでいて、しょうたろうくんは、部屋の中をウロウロしながら漫画を読み、面白いところがあったら声を出して笑い、いおりちゃんに漫画を見せていた。いおりちゃんの読む漫画は少女漫画でしょうたろうくんは子供向けのギャグ漫画だった。 僕は、どの漫画を読むかずっと悩んでいた。古い漫画はあまり読んだことが無く、初めて見るものばかりで、種類も多かったのでどれを読んでいいか分からなかった。 「ようたくんって、何年生なの?」 「え、小5だよ」 いおりちゃんのいきなりの問いに僕はびくりとしながら答えた。 「あー、私の一個下で、しょうたろうの三個上か」 いおりちゃんとしょうたろうくんは四歳差だとそこで初めて知った。 「学校で何か部活入ってる?」 「いや、特に。そっちは?」 「私も、入ってない」 「陽太くんの学校では何が流行ってるの?」 「うーん、僕流行りに疎いし、、、」 「そっか」 「そっちの学校は何が流行ってるの?」 「今はやってるのは交換日記かな」 「交換日記か、、やった事ないな」 「ねえねえ漫画読まないの?」 「うん」 「どうして?」 「えっと、古いのばかりでどれを読んでいいのか」 「あー、確かに。私のおすすめは、」 「姉ちゃん姉ちゃん、コレ見てよ〜」 いおりちゃんが何かを言おうとしたその時、しょうたろうくんが再び自分の読んでいた漫画を見せた。 「もう、さっき見たよこれ」 「えー違うって!これまた別のページ」 「同じような展開ばっかりだね、それ」 「言われてみればそうかも。なんか飽きたなー漫画」 僕が、漫画を読む前にしょうたろうくんはもう飽き飽きとしていた。 「うーん。確かにね」 「なんか別のことやろうよー、別の遊び!」 「うーん、、、陽太くん、何かある?」 「えっと、、鬼ごっことか?」 僕は、急に聞かれてふと思いついた鬼ごっこを適当に言った。 「鬼ごっこかー!いいなーそれ」 しょうたろうくんはテンションが上がり、心を躍らせてそう言った。それとは対照的にいおりちゃんは浮かない顔をしていた。 「私、運動苦手なんだよね、、」 「そうなんだ、、じゃあどうしよう」 「えー、姉ちゃん!たまには運動しないとダメだよ!運動不足〜」 しょうたろうくんはそう言って、いおりちゃんの服の裾を掴んで引っ張っていた。 「えー、、もうしょうがないなあ。だから引っ張らないで」 結局、観念したといったような表情でいおりちゃんも鬼ごっこに参加することとなった。 おばあちゃんの家の大きな庭には、鬼ごっこができるスペースが十分にあって、家庭菜園をしている畑や物置小屋など、鬼をまくための障害物もあった。 「畑の中には入っちゃダメだからねしょうたろう」 「はーい。で、誰が鬼やる?」 「じゃんけんでいいんじゃない?負けた人が鬼で」 「いいと思う」 僕はいおりちゃんの提案に同意した。しょうたろうくんもそれに同意していた。 「ジャーンケーン、ぽん」 「あ、負けちゃった」 「あー姉ちゃん、言い出しっぺなのに負けたー!」 いおりちゃんはちょきをだして、僕としょうたろうくんはぐーだった。 「じゃあ10数えるから逃げてね」 しょうたろうくんと僕は逆方向に散った。 僕は物置小屋がある方に、しょうたろうくんは畑がある方へと逃げた。物置小屋のある方は、畑が無い分逃げるスペースが広かったからだ。 10つ数えたいおりちゃんは真っ先にしょうたろうくんのいる方に向かった。僕は物置小屋に身を隠しながら2人の様子を眺めていた。しょうたろうくんはすばしっこくギリギリのところでいおりちゃんを躱していた。 それを繰り返して、いおりちゃんはしょうたろうくんを捕まえきれなかった。 「もう、、無理」 「姉ちゃん、もうバテたの?」 「しょうちゃんが、すばしっこすぎるからよ!」 僕は楽しそうに追いかけあっている、二人を見て、ここで一人で見ているのではなく、その追いかけあいに参加したい気持ちになった。 自然と足は前へ、二人の元へ駆け寄っていた。 「あ、陽太くん」 「二人がたのしそうにしてるからついでてきちゃった」 「隙あり!」 そうやって無防備になっていると、疲れて手を膝に着いていたいおりちゃんが俊敏な動きで僕にタッチした。 「うわーやられた」 「やべー!逃げろ〜」 僕は、しょうたろうくんを追いかけることにした。 しょうたろうくんはさっき見た通りすばしっこかったけど、さすがに僕の方が年齢的にも運動能力は高く、少し追いかけたところでタッチすることが出来た。 「陽太兄ちゃん速いよ〜。姉ちゃんとは、大違い。さすがだな!」 「もうしょうたろうったら!」 「姉ちゃん、次は僕が鬼だからね!おりゃー!」 「うわっ、早っ」 「いえーいタッチ」 「もう、私疲れたなー、、」 「ええ〜まだ僕遊び足らないよー」 「じゃあ、僕が鬼やろうか?い、いおりちゃんは休んでて」 「やったー!」 「陽太!ありがとう」 鬼ごっこを繰り返し、僕らは疲れきってようやく鬼ごっこを終えることとした。 「二人ともお疲れ様」 「あー、疲れたー楽しかったー」 「さすがに僕も疲れたかな」 「でも、陽太、速かったよ。なにかスポーツでもやってるの?」 「一応、野球」 「えーすごい!しょうたろうも野球好きだし、合うかもね!というか陽太って呼び捨てにしちゃったけどいい?」 「全然いいよ」 「あと、さっきはありがとうね。鬼代わってくれて」 「改まってどうしたの?お礼ならさっきも受けたし」 「さっきの事じゃなくて、最初の時。わざとでしょ。私がタッチできたの」 いおりちゃんは僕のことを全て見透かしたようにそう言った。 「陽太って優しいね!」 いおりちゃんはそう続けた。僕は照れて頷くことしか出来なかった。 「しょうたろうも、陽太を見習いなさい!」 「なんか姉ちゃん、お母さんみたーい」 しょうたろうくんといおりちゃんは、互いに茶化し合いながらじゃれあっていた。 その後僕達は、休憩を取りながら漫画部屋にいた時とは大違いに会話に花を咲かせた。 学校の事だったり、趣味の話だったり。さっき思い浮かばなかったことが、自然と思い浮かび、言葉にすることが出来た。それは、2人と打ち解け合えた証拠だった。しょうたろうくんとは野球の話で盛り上がった。 そうしているうちに夜になっていた。 僕達は父親に声をかけられ、居間へと戻らされた。 「花火あるから、最後にこれやってくか?」 「うん、やる」 特に、花火がやりたかったわけじゃない。別れを先延ばしにして、もう少し、ふたりと遊びたかったからだ。 僕達は、袋に入った数本の花火セットと水の入ったバケツを持って、庭へと出た。 昼とはまた違った庭に見えた。辺りは暗く、家の明かりだけが頼りだった。 父親がライターの火をカチカチと着けて、その火で、花火に火をつける。 色鮮やかな火花が、その暗闇を彩っていく。僕の花火は青色で、いおりちゃんが黄色、しょうたろうくんが緑だった。 一通り勢いのある花火を何度も楽しんで、残るは線香花火だけになっていた。 あれだけ大きな花火セットだったのにな。 「線香花火対決しよう!」 しょうたろうくんがそう言って、線香花火をみんなに配り始めた。誰の線香花火が一番長く燃えているかの勝負らしい。 線香花火がパチパチと燃え始め、何輪もの花が一斉に開花するかのように、火花を散らしていた。 それまで談笑していた親達も綺麗だねと言って、線香花火に釘付けになっていた。 「あー、僕の線香花火消えちゃった」 しょうたろうくんはそう言って残念がった。 「しょうたろうの負けー。残るは私と陽太君のだけだね」 「うん」 僕は頷いて、ずっと自分の線香花火を見つめていた。 この線香花火が一生消えなければいいのにと思った。 でも、僕の思いとは裏腹に線香花火に終わりが来た。結局、いおりちゃんの線香花火が一番長く燃えていた。 「あー姉ちゃんの勝ちだー」 そうしょうたろうくんが言って、大人っぽいいおりちゃんも手を挙げて喜んでいた。 「陽太くん悔しい?」 「いや、悔しくは無いけど」 僕はいおりちゃんの問いにそう言葉を濁して答える。 僕が納得いかない表情を浮かべたのはどう願ってもこの時間が永遠に続くことはない事へのものだった。 「じゃあ笑顔で、お別れだね」 「えーもう?」 「またいつか会えるかな」 「会えるよきっと!」 「じゃあみんなでまた会う約束しようよ」 しょうたろうくんがそう言って、みんなで指切りげんまんをした。 「おーいもうそろそろ帰るぞー」 父親がそう言って僕を呼び寄せた。 「じゃ、いおりちゃん、しょうたろうくんまたね」 「陽太くんまたね!」 「陽太兄ちゃんまた遊ぼうぜー!」 「うん!」 僕達は最後まで見えなくなるまで手を振りあっていた。 「お前たちいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」 父親は僕たちの一連のやりとりを見てそうそう言った。 「ふふ、ナイショだよ」 僕はそう答えた。 帰り道、僕は父が運転する隣の助手席でウトウトしていると、父親がそれに気づかず、僕に話しかけてきた。 「それにしても、線香花火風情あったな。やっぱり線香花火がいちばん綺麗だな」 「うん。まぁそうだけど、すぐ消えちゃうからなあ」 「何言ってんだ。陽太。すぐに消えるから綺麗なんだろ」 「そういうもんかなぁ」 「そういうもんなんだよ。いろんな物事ってな」 「まあでも少しわかる気がするよ」 僕はそう言って、あの二人の顔を思い浮かべていた。

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ある夏の日の思い出

から傘お化け

夏休みが終わりに近づいていたが、日傘が必要なほどのギラギラとした光線銃を浴びせるような日差しが強い日が続いていた。 今日も同じように炭酸飲料を飲みながら、連中と街を歩き、白い壁を見つけては、スプレーで落書きした。 公園に行き、石を拾って、遊具に落書きした的に当てる遊びや、缶けりなど幼稚な遊びをするのはこの歳になっても楽しかった。 「おい、力哉。お前また缶強く蹴りすぎただろ、もう潰れてんぞ」 「あーあーごめんごめん。俺、力の加減できねえからよお」 「ったく相変わらずだよなぁ。力哉お前、小学校の頃も何個鉛筆折ったっけ。それに今もシャーペン使えないんだろ?」 「俺にシャーペンは合わねえからな。あんな細い芯すぐ折れちまう。まあ鉛筆でも折れる時は折れるけどな」 「はは、さすが力の力哉だな。俺は小学校低学年からずっと同じ筆箱だぜ?俺を見習えよ」 「それはすげぇな。俺には到底無理だ」 俺は昔っからすぐものを壊してしまう物持ちの悪いタイプだった。力哉という名前通りに力も強かったが、ただ力が強いだけでなく、扱い方も乱暴で、母親には金がかかる子だとよく怒られる。だから、同じ筆箱をいつまでも使ってる物持ちの良いダチのような、愛用の物を持ってる奴の気は分からなかった。 今日も遊び尽くして、一日が終わった。夏休みの日々がどんどんと失われていく。この絶望感といえば、他に表しようがない。 俺の場合、夏休みの宿題を最後まで溜め込むタイプであり、ラストを締め飾る強敵と言えば、読書感想文だった。 中学生にもなって、読書感想文をかかなきゃいけねぇのは本当に面倒だった。 今日も、連中は遊ぶみたいだったが、俺は図書館へ行くこととした。 俺はこういう所が生真面目な性格だなと思う。多分俺以外の連中はみんなやらずに後で先行にこっぴどく叱られるんだろう。俺はそれがだるいのだ。 図書館で本を読んで、作文用紙に適当に書きなぐったあと、俺は図書館を出ようとした。 外を見るとさっきまで晴れていた天気が急転し、土砂降りの雨となっていた。まさに夕立というやつだ。 俺は傘を持ってきていなかった。でも濡れたくもなかった。そこで俺は、図書館の傘立てを見た。そこに立てかけてあったのは黄土色の傘、一本だけだった。 俺はその傘を手に取り、図書館を後にした。 土砂降りの雨の中、俺は盗んだ傘を差して歩いていた。 傘は開きにくく傘の中棒や受骨部分の金属が錆びていたし、布に小さな穴がところどころ空いていた。 古い傘なんだろうと思った。 家に着き、家の門を傘を閉じずに強引に抜けようとすると、門の棒の端に傘の布が引っかかり、そこが破けてしまった。 「あーあ」 小さな穴が出来ていたところにちょうど引っかかったのだろう。その穴が大きく破け、使い物にならなくなってしまった。 長く使われていた古い傘、そして盗んだものであるから、俺は少しの罪悪感を感じたが、家の庭にある物置の茂みにその傘を放り投げて、家の中に入った。 次の日の朝は快晴だった。 こんな気持ちのいい晴れの日には俺は、家の庭へと出て、軽くストレッチするのが朝の日課となっていた。 俺の家の庭は広く軽くキャッチボール出来るようなスペースがある。今は草が鬱蒼と生えていて出来ないし、スペースも取られているがそれでも広い庭だった。 俺は庭をストレッチしながら歩き回っていると、昨日傘を捨てた物置の近くの茂みが揺れ、ガサガサと音がした。 俺はその音に身を屈ませ、ゆっくりと近づくと、急にその草の茂みから何かが飛び出して、俺はその拍子で、後ろに尻もちを着いてしまった。 「っつ、、いってぇ」 「いやあー驚かせて済まないね」 「うわあああああああああああああ」 俺は顔を上げた途端に絶叫した。 昨日捨てた傘の柄の部分に一本足が生え、その足は下駄を履いていて、傘の布から手が飛び出し、ひとつの目玉も付いていて、そして舌が長く垂れ下がっていた。 これが妖怪アニメでよく見るあの、から傘小僧、から傘お化けというやつかと頭の中で理解したが、それが俺の目の前に現れ、俺に向かって喋っているというこの摩訶不思議な状況に頭の処理は追いつかなかった。 まず、この奇妙な妖怪という存在がこの世に存在していたことに俺は驚愕した。 「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。それとも僕が怖いのかい?」 「ああ、怖いよ。お前妖怪か?ホントにいるんだな妖怪なんて」 「ああいるよ、こうして君の前に立ってるしね」 「なんで出てきたんだよ、俺の前に」 から傘お化けは、俯いて、目を閉じ、少し黙ってから、急に目をパッと開き、言った。 「お前を食べてしまうためだ」 声色を変わり、ドスの効いた悪魔のような声だった。 「え?」 俺を睨み、そして、不気味なステップをしながら近づいてくる。 だらんと垂れた長い舌が左右に揺れ、目の前の食事を見て、舌なめずりするかのようだった。 そして、俺はついに追い込まれ、尻もちをつき、地を這いながら後退する。 ズボンで砂を引きずりながら、何歩が下がったら、家の壁にぶつかった。 もう、逃げ場は無い。やばい。やられる。 から傘お化けはそんな俺を見て、ニヤリと笑ったような表情をし、俺に手を伸ばした。 「やめろ!やめろ!!くるなあああああああ」 その伸びた手が、俺の顔を触れようとして、俺は目をぎゅっと瞑る。 しかし、顔に触れる直前で、その手がピタッと止まった。 「ま、冗談なんだけどね」 「は、、、?」 から傘お化けは、そう言って舌を閉まってから、ぺろっとだしてお茶目に笑った。 「ただ君を驚かせたいだけだよ、、、いやあいい表情してたなあ、最高」 「くそ、、なんなんだよガチでビビったじゃねえか」 「はぁ〜満足満足、、それじゃ僕ちょっと疲れたから、もう行くね」 「あ、おい!」 から傘お化けはそう言って、踵を返して、茂みの奥深くへと消えていった。 その後、その茂みをそーっと覗いてみると、あの特徴的な壊れた傘だけが、茂みの中に落ちていた。マジでなんだったんだよ、、、俺を驚かしたいだけだったのか、、、?本当に?? 翌日、俺は昨日の出来事がずっと頭の中に残っていた。奴は何のために俺の前に現れたのだろう。そしてあの光景は本当に現実だったのか、訳が分からなかった。 しかし、その疑問は今日でハッキリすることとなった。 今日もあの、庭に行けば、、あいつはいるのだろうか、、、そんなことを今日一日、考えながら学校で過ごすこととなっていた。俺はあのから傘お化けのことで頭がいっぱいだった。 そのせいか俺は、リュックを持ちそのまま乱暴に、そして乱雑に教科書や文房具類を入れると、「痛っ!」という声が聞こえた。 「え?」 俺は周囲をを見渡すが、母親は台所にいて、父親はもう仕事へ出かけていたので家にはいない。テレビも消えていたし、そんな声聞こえるわけがなかった。 その時は空耳だと思って、俺は靴の踵を踏んで、家を出た。 「ちゃんと履いてよ。癖になるし、痛いんだよ」 学校へ向かい、歩いている時、そうハッキリと耳に聞こえて、俺はビクッと肩をあげる。 その声は、俺の足元から聞こえてきた。 「ねぇ、聞いてる?」 靴は、目玉を出してこっちを見ながらそういった。 俺は思わず、靴を脱ぎ、その場に尻もちを着く。 周囲を歩いていた人が、全員が俺の方を向き、驚いた顔をしていた。 やはり、あのから傘お化けと同じで俺以外の人間は見えていないし、聞こえていない。 校舎に入り、俺は、靴を慌てて靴箱にしまい上履きに履き替える。いつもなら踵を踏んでいるが踏まなかった。 教室のドアを開け、席に着き、教科書や筆箱などを机の上にぶちまける。 俺はその声の多さと、視線の多さに気がおかしくなりそうだった。 「なんだよ、これ。気持ち悪い。やめろ、やめてくれえええええええええええええええ」 家に帰り、俺は閉じこもったが、全ての物が俺に喋りかけてくるので、いてもたっても居られず、俺はアイツの仕業だと思い、真意を確かめに行くことにした。 俺が庭に行くとやはり、一つ目の不気味でありながら、少し滑稽に、踊るように一本足でけんけんを踏んでいるあいつが居た。 「やあ、昨日ぶりだね。」 「おい、お前の仕業か?」 「ん?なんのこと?」 「とぼけるんじゃない。俺の身の回りの物が全て生きてるんだよ」 「ああ、その事か」 「君には、物にも痛みがあることを知って欲しかったんだ」 「つまり、物を乱暴に扱ってた俺へ対しての戒めってことか?」 「戒めというよりも、願いを込めただけさ。僕は」 「願いというより、呪いだな」 「受け取り方は君次第だよ...」 そう言ってから傘お化けは唐突に姿を消し、残ったのは何の変哲もない壊れた傘だけだった。 俺はその傘を拾い上げ、自室まで持っていくと、ガムテープや裁縫道具、布などを引っ張り出して、その傘を修理した。 その日からだ。俺は、から傘お化けを全く見なくなった。 そして、周りの生きていた物達も、段々と姿を消していき、普通の物へと戻っていった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「ねぇねぇ、聞いた?あの近所のやんちゃ少年。今ではすっかり大人しくなってるらしいわよ」 「ホントなのそれ?あの子、学校でも外でもすごいやんちゃしてたって噂だけど」 「ところがどっこい。学校でも真面目に授業を受けるようになって、外でもやんちゃ連中とつるむのを辞めたそうよ?」 「へぇ、そうなの。何かあったのかしらね…」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 俺は、数ヶ月ぶりにあの図書館へと足を運んでいた。 その日は雨で、傘を持って出かけた。 すっかりと怪奇現象も終わり、今差している傘も今ではなんの変哲もないものに感じる。 図書館について、雨粒を振り払ってからら、傘を閉じる。そして俺はそのまま傘おきにその傘を置いて、図書館の本を数時間読んだ後、俺はその場を後にすることにした。 図書室を出ようとしたときに、俺の傘がないことに気づいた。 置いた場所は何となく覚えていたし、あの特徴的な柄の傘だ。忘れるはずがない。 他の人が間違いて持っていったのだと思い、途方に暮れ、辺りをキョロキョロと見渡すと、図書館の入口から出て行こうとする男の後ろ姿が見えた。その男は俺の傘を持っていた。 「あ、あの!」 俺は、思わず彼の肩を叩き、それが自分のものであることを主張した。 「はい?」 男は肩を叩かれたにも関わらず、振り返らずにそう言う。 「その傘、僕のなんですよ」 「え?、あー、これ。すみません。間違えました。前無くした傘によく似ていたものでね」 男はなおを振り返らず、手に持っていた傘を持ち上げてそう言った。 俺は、彼の声色に違和感を覚えた。 彼は傘を見ていたので、顔はよく見えなかった。 そして、彼は急に、こちらを向いて言った。 「力哉君、その傘、今は、大事に使ってもらってるようで、良かったですよ」 彼の一つの目を見て、その言葉を聞いた瞬間に、図書館の自動ドアが開き、雨風の音が漏れる。 体中が総毛立って、ゾワッと身震いした後、身体が固まり、指一本も動かせなかった。 肝を冷やすとは、まさにこういうことを言うのだろうなと思った。

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から傘お化け

久しぶりにエッセイを書いていこうと思います

おはようございます、こんにちは、こんばんは、初めまして星野 竜介です。 何ヶ月ぶりかのエッセーというか日記なんですけど、たまにはこういうのも悪くは無いですよね。 唐突になんですが、皆さんの名前、ペンネームというのでしょうか。それはどうやって決めてますか? 由来がある人が多いとは思いますが、何となくで決めている人もいるかもしれません。 もし良かったら、コメント欄でペンネームの由来について教えて頂けたら嬉しいです✨️ ちなみに僕の星野 竜介の由来なんですけど、自分の好きなスポーツであり、趣味である野球にちなんだ名前にしています。 単純な由来で、星野は、一番好きな野球選手に星という名前が付いていたこと(遠藤一星元選手)と野は野球の野だからです。 竜介は、中日ドラゴンズファンだから竜介です。 ね?単純でしょう。 でもいずれかは、この星野 竜介という名前を変えたいなと考えています。確かに僕は野球が好きなんですけど、ただ好きなものを名前にしただけなんですよね。 そうじゃなくて、もっと自分の色を出した名前か小説に関係して、こういう想いを大事にして行きたいという文字を入れた名前にしていきたいんです。 内容も決めず、思いついたことをここまで書いてしまって、なんのオチも抑揚もない面白みにかけるペンネームの話でしたが、皆さんのペンネームに対する想いも聞いてみたいなと思いました! それでは、またどこかで👋 (ちなみにサムネは最近行った赤レンガ倉庫を撮った写真です)

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久しぶりにエッセイを書いていこうと思います

紫陽花の花言葉とともに

今日は六月の何日、何曜日だろうか。 何日も同じような激しい雨が続き、今日も雨が降っていた。 そんな日に私は、一人でカフェに来ていた。 紅茶を飲みながら、思い耽って外を眺めると、店のガラス張り越しに、カフェの花壇に綺麗に咲いている紫陽花の花が見えた。 赤、青、紫と鮮やかに彩られた三色の紫陽花に私は、見入っていた。率直に綺麗だと思った。でも私は紫陽花という花を到底、好きにはなれなかった。 というのも、紫陽花を綺麗だが、怖い花であると認識してしまったからである。 私は、幼い頃、自由研究で色々な花の花言葉とその特徴について調べていた。 紫陽花を調べると、食中毒になる麻痺毒があるとされ、花言葉は「移り気」、「浮気」、「無常」というネガティブな意味があった。 それを私はずっと覚えていて、ある時、紫陽花が嫌いになった。そのある時は、今から二週間ほど前のことだった。 私はいつもの様に彼とデートをしていた。街を歩き、買い物をして、休憩にカフェでくつろぐ。いつもの様にとは、こんなルーティーンだ。 でも彼は、いつもの様子では無かった。どこかソワソワとして、時計や携帯を何度も見ていた。 あの時も、今私がいるカフェに、2人で入っていた。 飲み物を注文して、少し経った後に、事件は起こった。 「佑太くん」 彼氏の名前が綺麗な声で呼ばれ、彼が後ろを振り向いた。 私もその方向を見ると、背の高いスラッとしたモデルのような美しい女性が立っていた。背が低く地味な私とは正反対の見た目をしていた。 「どういうこと?」 私が自然と口に出た言葉だった。 彼は困惑し、相手の女も困惑していた。 私は2人に目もくれず、彼がなにか言い訳をして私にしがみつこうとしたが、それを振り払ってその場を去った。 飲みかけのアイスティーだけがその場に残っていた。 私は、その後正式に彼氏と別れた。 彼の言い分としては、私と冷めていた時にあの美人な女性に言い寄られ、目移りしてしまい、まんまとハニートラップにかかったらしかった。 私は、それを聞いてひとつも同情しようとは思わなかった。目移りしてしまったのは仕方ない。だが、私にそれを隠し通して、今までずっと嘘をついていたのが許せなかった。 私はその浮気を引きづっていたから、今こうして綺麗な紫陽花を見て、一人、憂いているのである。 紫陽花の花言葉を知らなければ、良かったのにと思う。そうすればこの綺麗な花を嫌いにならず、私は好きになっていただろう。 紫陽花を見ながら、花言葉を改めて思い返す。移り気、浮気、無常。なぜ、人は浮気をしてしまうのだろう。私は到底理解が出来なかった。私の浮気の知識はトレンディドラマでしかない。そこでの浮気は、人生の巡り合わせでたまたま運命的にそうなってしまうような描かれ方をする。でも、現実の浮気はそうでは無いと思っている。結局、浮気をする人は、恋人に冷め、恋人を捨てようとするが捨てる勇気も無く、逃げで浮気をするのだと私は解釈した。それが一番相手を傷つけるとも知らず、人の思いを考えられない最低人間のすることである。何度も会っていたなら尚更、浮気された方の気持ちを考えて何処かで踏みとどまるべきである。例え、トレンディドラマのような運命的な出会いをしたとしてもだ。 一途な、私が馬鹿みたいだ。確かにあの美女とは真逆で、地味で背も低く、オシャレでも無いかもしれない。でも、私は、誰よりも彼を思っていたのだ。 そこで、私はある事を思い出した。 紫陽花には色別の花言葉があるということを。 花壇には植えられていなかった、緑の紫陽花の花言葉にはひたむきな愛、白の紫陽花の花言葉には一途な愛がある。 まさに私に相応しい花言葉だと思った。 紫陽花を一括りにして、嫌いになっていた私が馬鹿らしくなった。 私は、カフェを後にして、緑と白の紫陽花を探しに行くことにした。 私が後にしたカフェにはあの時のアイスティーとは違い、まだほんのりと暖かい飲みかけの紅茶が残されていた。

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紫陽花の花言葉とともに

夢店屋 case5 (最終話)

将来の夢が叶う確率は、六人に一人というデータがある。確率で表すと16.6%であり、数字だけ見ると多いように感じる。だが、それがその人の本当の夢なのかどうかは分からないのだ。小学校の頃に本当になりたいと思った夢も、現実味がなければ、中学高校と、現実的な夢へと変わる。それは本当に夢と呼べるのだろうか。たとえその夢を叶えた後も、人間の夢は終わらない。しかし、大人になるに連れて、人間の夢は、より現実的になり、小さくなっていく。 僕ら二人のような人間はその、一般的な人間の傾向には当てはまらなかったようだ。 僕らは小学生の夢をいつまでも見続けているのだ。僕はもう諦めてしまったが、彼女はまだ、夢への希望を捨ててはいなかった。 「夢を見てもらう前に、一つだけ注意事項があります」 「注意事項?」 「ええ、夢を見せる代わりに、お代としてあなたのいちばん大切なものを頂きます」 「ふぅん。別にそんなことどうだっていい」 「そうですか」 彼女はいてもたってもいられないような、とにかく早く夢が見たいという様子だった。 「では、本題に入りましょう。今からいくつかの質問をします。これは夢を見るにあたって重要な質問なので、真剣に正直に答えてください」 「はい」 「あなたは、なぜ夢店屋を利用しようと思ったんですか?」 「復讐を果たした結果が見たいからです」 「復讐?」 「はい」 「復讐っていうのは、何の、誰へ対する?」 「私の、家族を奪ったものへ対してのその復讐です」 「あなたは、それ以来ずっと復讐を夢見てきたと?」 「はい」 「分かりました。では、今から始めたいと思います」 僕はそう言って、ドリームマシンの準備をした。 彼女はヘッドセットを頭に着けて、ベットに寝転んだ。 彼女は、ゆっくりと目を閉じて、眠りにつくのだった。 復讐。 ある日、目覚めた朝、私は何故かこのひとつの単語が思い浮かんだ。 私の生活からは無縁の言葉だった。これまでに人を恨んだことも、恨まれたこともおそらく無い。 平々凡々と平和に暮らしてきて14歳になった。 テストが近いから、復習という単語と間違えたのかもしれないと思ったけれど、ハッキリと復讐の文字は私の脳内に刻まれていた。 そんなことは気にせず、私はいつもの日常を過ごした。 はずだった。 その日は、普通に学校に通い、家に帰ってきた。 自宅のドアを開ける、いつもは、帰宅のドアを開け閉めする音に気づき、家族がおかえりと挨拶する。 それが今日は無い。 出かける時は、いつも何かしら母は言うものだ。 私は不安になってリビングの扉を急いであげた。 電気は付いてなくて暗い。誰もいないリビング。私は嫌な予感がして、指に汗を滲ませながら、照明のスイッチに触れた。 電気をつけた瞬間、私は驚愕した。 最初は、脳の処理が追いつかず、そこに何があるか分からなかった。 家族団欒のリビングにそれがあることが違和感しかなく、異様な雰囲気を演出していた。 リビングの真ん中に、縄が吊るされ、その近くには椅子がひとつある。縄には首がかかっており、その人体の手と足はぶらんと垂れ下がっていた。 私が、母が首を吊って死んでいることを理解した時には、私はその場で崩れ落ちて、意識を失っていた。 私は目を覚ました後、警察に通報した。 母を自殺に追いやった何かが私には分からなかった。 母は、私には一切悩みなどは見せなかった。私の前ではいつも明るく振舞っていたが、それは嘘だったのだろうか。 私は、その真相を確かめるために、今日一日の流れを思い出すことにした。 母は、朝、私が出かける前に、いつものように朝食を作ってくれて、そのまま私を送り出した。 それは何の変哲もない、朝の日常の光景だっただろう。母は私の前では何一つとしておかしな様子を見せなかった。母は私よりも早く起きるから、その前に何かがあったのかもしれないが、それは確かめようがない。少なくとも私の前では、いつもの母だった。 私が学校に行ってる間は、母はどう過ごすのだろうかと考えを巡らせてみた。 掃除、洗濯、夕ご飯の準備。一般的な家事をこなして、暇な時間はドラマを見て過ごす。 これが私の知る限りの母のルーティーンだ。 母の推定死亡時刻は、午後3時ごろ。母は2時頃に、お昼ご飯を食べ終わり、いつもドラマを見ていると私は知っていた。 現場検証が終わった我が家でビデオをつけてみる。母はいつもリアルタイムでドラマを見るのではなく、録画をして暇な時間にまとめてみるタイプだった。 月曜9時からのドラマが録画されていて、事件当日の今日は火曜日であり、その録画ビデオにはnewの文字がなかった。 つまり、母は、今日もいつもの様に午後2時頃、自殺する直前にドラマを見ていたということになる。 ここで出てくる当然の疑問は、今日自殺をする人間が、ドラマを見るだろうかというものだった。しかも死ぬ直前に。 不可解なことはこれだけではなかった。母はどうも、午前中に買い物に出かけていたようなのだ。 警察の調べにより、母の財布からレシートが見つかった。 そのレシートの内容には、生活必需品のティッシュペーパーやトイレットペーパー、カップラーメンなどの食品が記載されており、なんら主婦の買い物に変わりはなかった。 自殺を図る前にこのような買い物をするのだろうか? 私の中の疑念は膨れ上がっていき、私は母は自殺ではなく、他殺ではあるという方向へと向かっていった。 この不可解な点は警察も疑問であり、自殺と他殺の両面で捜査されることとなった。 私には学校へ通っていたというアリバイがあり疑われる余地もなかった。 真っ先に疑われたのは、父だった。 父は単身赴任で、大阪で一人で暮らしていた。私たちのために必死に働いてくれているのだと思っていた。 だが、警察の調べで、父は既に企業にリストラされていたらしい。そして職を探して転々としていたということが警察の調べでわかった。娘の私にはそれは知らされておらず、母と父との間だけの秘密だったらしい。おそらく、私を心配させないためだろう。 事件当日、母は父と何度も電話をしていたことが母の携帯電話の履歴からわかっていた。 そして父は多額の借金を抱えているという事実も判明した。リストラを受けた後、悪徳商法をしている悪徳業者に引っかかり、借金を抱えた。簡単に言えば、うまい話に騙されたのだ。また母に保険金がかかっていることもわかった。父がその借金返済に当てるために、母を保険金殺人として殺害したのでないかという仮説が出ていたが、私は違うと思った。父は少なくともそんな事をする人では無いと思った。 結局、私の想像通りに、実際、父はその日は大阪にいたというアリバイが証明された。 では、誰が母を殺したのだろうか。 私はそれを直感で、導き出した。それは誰でも、自然に導き出せる答えだったかもしれない。 おそらく犯人は、父が多額の借金を抱える原因を作った相手である。 父は騙されたのだ。リストラされ、職を転々とする中で、色々な繋がりが増えた。そこで出会った悪人に、まんまと上手い話をされ釣られた。 それを相談しなかった父にも罪はある。 だがあくまで父は被害者だった。 私は、黒幕を暴くため警察と協力することになった。 もちろん父もだ。 父が犯人発見の一番のキーマンであり、父の情報が鍵を握っていた。 父の携帯には、犯人候補と思われる人物の履歴が3人ほど残っていた。 1人目は、父が職探しをしている時にたまたま出会い、仲良くなり、職探しを共にした男。父をうまい話でたらし込んで、多額の借金をしてしまうきっかけを作った張本人。名前は野田と言うらしい 2人目は、借金元の悪徳業者野取締役。名前は、上野というらしい。 3人目は、その取引の仲介人だった。桜井という名前の男だ。 警察の捜査が進む中、その3人の中で、東京へと来た男が1人居た。 それは1人目の野田という男だった。 男は、うまい話で父を騙し、一緒に騙されるフリをして契約にこぎつけた言わば仕掛け人だ。 さらに分かったことがある。 そいつは、父とおなじ会社で働いていていたのだ。 父とそいつの関係性は父が上司、男が部下であり、そこでの因縁が事件を起こしたのではないかという仮説が出てきていた。 警察の調べでわかった通り、もうこの男が母を殺した犯人だということは明白だった。 あとは、警察に任せて、奴が処罰を受けるのを待つのみだった。 私は一刻も早く、こいつに報いが起きて欲しいと思っていた。 しかし、私が思い描くような結果には至らなかった。奴は証拠不十分として、裁判で無罪判決を受けたのだ。 証人として私も壇上に立ち、演説したがそれは無意味だった。 警察や司法を頼った私が馬鹿だった。 彼らは私の想いなんてどうでもいいのである。彼らにとってはこれもよくある1つの些細な事件に過ぎないのだろう。事件がどんな結果に至ろうとも一件略着が着けばいいのである。 私は、警察や司法にもう頼らないと誓った別に、私のために行動してくれないのならば、一人で行動するのみである。 そこで私は、初めて気づいた。 私の心の中に、無念や寂しさ、悲しみだけでなく、犯人達に復讐心が芽生えていることを。 その私の復讐心が、一人で誰の力も借りず、行動することを駆り立てた。 私は、無罪になった野田への殺人計画を考え始めた。 私は、野田を殺害する方法を一日中練り続けた。その結果、たどり着いた答えは毒殺だった。 私は女性であり、力もないことからそれが一番の方法であると考えた。 しかし毒をどのように手に入れ、そしてどう奴に接近するかが問題だ。 毒は、薬品よりも生物毒を選ぶことにした。薬品は手に入れることは難しいが、生物毒ならトリカブトなどが入手できるだろう。 どのように接近するかについては、警察とのコネがある。接近できるチャンスは必ず訪れるであろう。特に裁判の再審を求めることが出来ればそこで必ず奴と出会える。 私はその機会を待ち、ついに訪れた。 それは警察を介してではなく、野田個人からの機会だった。父を食事に誘ったのだ。 野田には、容疑者でありながら、無罪を勝ち取ると、父と会おうとする薄情さがあり、とんでもない奴だと思った。 私はその食事会について行くつもりだ。 奴とは容疑者が拘留されている場所で、面談して以来だった。 奴が食事をとる時、こっそりと水をすり替えて私はトリカブト毒入りの水にした。 奴はそれに気づかず、水を一気に飲み干した。 その水が口から喉へそして胃へと流し込まれていく様に、私は釘付けだった。 奴は首を傾げ、苦いと言って数秒間止まった。 様子がおかしくなり、毒が回ったのか、喉元を押え苦しみ始めた。 最終的には、泡を吹いて倒れた。 周りにいた誰もが、野田に駆け寄り心配していた。 私を含めて。でも、その心配の様子の裏で、私は、ほくそ笑んでいた。 私は復讐を果たしたのだ。 奴が苦しみ、もがきながら死んでいく様は、滑稽で、憐れで、無様で痛快だった。 私は何度も奴の死に様を思い出しては、快感を覚えた。 私にもやれば、出来るのだと思った。 だが数日経つとその快感を薄れていった。 味のしなくなったガムのように、一度もう快感を感じれないと思ってしまうとすっきりと晴れ晴れとした心は一瞬にして消えうせ、、曇り始める。 私は、やつを殺した犯人だと疑われている。だから曇っているのか。そういう訳では無い。 ただ気分が晴れなかった。達成感に満たされていたが、それも終わり、私の心には、何も残らなかった。 私は、まだ復讐が全て終わったいないからそういう気持ちになるのだと思った。 野田だけじゃない。私の家族を追い詰めた人間はあの組織の人間達もだ。同類なのである。 そいつらが報いを受けなければ、私の復讐心はまだ満たされないと思った。 私は、組織の内部へと潜入した。ただの清掃員として。 この世にナイフを持った清掃員は私しか居ないだろう。 容疑者として、上がっていた組織の人間の2人。名前は確か、上野と桜井。 櫻井は、契約者で、上野は、その最高幹部。 私は先ず、桜井を探すことにした。顔はしっかりと覚えていた。 警察との捜査で、二人の写真付きの資料を見ていたからだ。おそらく、悪徳業者の企業として、警察も目を付けていたのだろう。 私が清掃員としてその組織のビルで働き始めてから1週間程がたった時、ようやくチャンスは訪れた。 しかもまとめてだ。 あの契約者、桜井と組織の幹部である上野の二人が談笑しながら歩いていて、オフィス内のトイレへと入っていったのだ。 私は、咄嗟にナイフを取りだし、男子トイレへ入っていたふたりの後をつけ、 後ろから一人の男の心臓にナイフを突き刺した。おそらく桜井だろう。 桜井はうがああと大きな声を上げてその場に倒れた。奴は、もう動かなくなっていた。 もう一人の男は気が動転し、私に許しを乞うていたが、関係ない。 私は、奴らを殺した。 三人を殺した罪に問われた私の刑は、懲役二十年だった。強い恨みと悲しみから刑は軽くなったものの、私にはそんなことどうでもよかった。 それよりも、心に何も残らなかったということだ。それが何よりも残念だった。全ての復讐を果たせば、私の復讐心を満たし、大きな幸福に変わると思った。無念の母の想いを晴らし、全てをやり遂げた私を誇れる自尊心が身につくと思った。でも、結局残ったのは、何もかも失った虚しみと悲しみだけだったのだ。 それを感じたことが、この人生において、一番の不幸だった。 その不幸を感じながら、私はじわじわと弱っていき、獄中で死亡した。 「おはようございます」 「うぅ、、ここは?」 「ここは夢店屋の店内ですよ」 「店内か、、、そうか、私、夢を」 「えぇ。現実と思ってしまうほどリアリティのある夢ですから」 「私の大事なものを奪うの言っていましたよね」 「はい」 「それはなんなのですか?」 「ずばり言うと、あなたのいちばん大切なものは、復讐心でした」 「やはり」 「心当たりがあったんですね」 「まぁ、あの事件から私はずっとそれに駆られてましたから」 「心の中で少しホッとしてるんじゃないですか?」 「そうですね。よく分かりませんが、今はとっても穏やかな気分なんです」 「でも、復讐心が消えた私にはもう生きる活力源も何も無い」 「なるほど」 「せめてあの夢みたいに、復讐を果たしてそして全て取り返しがつかなくなっても、罪を償うというやることがあった方が良かったのかもしれない」 「それは極論だと思いますよ」 「そうでしょうか」 「あなたが刑務所に入って懲役を受けること以外にもあなたの使命はまだあります」 「ほんとですか?」 「はい。それを見つけてないだけなんですよ」 「復讐心に駆られて、願望をそれだけにしてしまったから、それ以外の夢を見つけられなかった。でもこれから見つけていけばいい」 「あなたは、私と働いて、色々な人に夢をさせましょう。そしてあなたの夢を見つけていきましょう」 「、、、、あなたって不思議で冷たい方だと思っていました」 「ミステリアスでクールな印象ってことですね、悪くないです」 彼はそう言って自慢げな態度を取った。 最初の仕事モード?の様子とは打って変わっておちゃらけた態度だった。 「ふふ、意外と優しい人なんですね」 「さあどうでしょう。僕は他人の夢にしか興味ありませんから。夢の後押しのためならどんな人にも手を差し伸べます。そういう人間なんです」 「へぇ、おかしな人ね」 私はそう言って、くすりと笑った。 夢。それは、人間であれば誰もが抱くもの。 夢。それは、人間であれば誰もが見るもの。 その夢は、どんな夢であっても、とても儚く、そして美しいものである。 その夢が叶わないものであったとしても、ここでは、夢を通して体験出来る。 今日も私は、夢を通して、誰かの夢を彼と見る。 そうして、いずれ、私の夢が見つかるようにと夢見て。

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夢店屋case4

この店で働き始めてから、3年ほどが経ち、僕はこれまでに色々な客の夢を見てきた。自殺を夢見る自殺未遂少女の本当の夢、就活で劣等感に囚われ、ニートとなった男の欲望を描いた夢、教師という職業を愛し、生徒のことを陰ながら考えいたしがない教師の夢など様々だ。 多種多様で人それぞれの夢は、最初は僕を楽しませた。それでも、3年も続けていれば、人の欲望はある程度パターン化されていて、同じような欲望が増えていき、退屈になった。 僕のこの退屈を、誰か消し去ってくれないだろうか。 そう考えているある日だった。 いきなり、夢店屋の扉が開いた。僕は驚いた。今日は、予約が入っていない日。店に誰も来ないはずだ。 扉を開けて、出てきたのは見知らぬ僕よりも少し年上の女性だった。 「今日、予約されてましたっけ?」 「いえ、、見かけたものでつい入ってしまったんです」 見かけたと、彼女は言ったが、この夢店屋は森の奥深く、何も無いところにある。そんな場所に来ること自体おかしかった。 「ここら辺で、何してたんですか?」 「いえ、特に何も。それよりも、今日やってるんですか?この店」 「今日は定休日ですけど、、」 「そうですか、なら明日は?」 「いや明日も定休日ですね。予約入ってないんで」 「予約入らないと休むんですか?それって結構経済的に厳しくないの?」 「うん。大丈夫」 「ふーん」 「...分かったよ。せっかく来てもらったし、いいですよ」 「良かった。私は絶対に叶えた夢がありますから」 なぜだか分からないが、僕は自分の過去を思い出していた。 忘れていたが、僕は、彼女のようだったことを思い出した。 あの頃の僕は、欲望に駆られ、全ての頂点を追い求めた。ある物に才能を持ち、それを天職として活躍する人はひと握りだが、少なからずいる。しかし、万物の才能を持ち、それを全て発揮している人間はこの世には一人もいない。僕はそんな人になりたかったのだ。プロスポーツ選手になるのなら、プロ野球選手、プロサッカー選手、プロバスケ選手、プロバレー選手、プロ水泳選手、プロゴルファー、全てのスポーツの選手となり、そこで頂点を取る。スポーツだけじゃない、勉学、芸術、あらゆる分野において1位になるために過ごしてきた。 実際、上手くいっていたと思う。でも、人間は進路を迫られ、どうしてもひとつの道を歩まされる。 そこで僕の叶わない願望は生まれた。 僕はある闇市のようなフリーマーケットで、ある男と出会った。なぜ闇市というような場所にいるかというと、この時の僕は、人生に絶望し、この人生を変えてくれるような物に出会いたかったからだ。つまりは、寂しい心の埋め合わせをするためにこのような場所に出向いていた。 一人の商人の男との出会い。それは運命の出会いだった。 こんな僕に、男はある商品を売った。 お金だけはあったから、ドリームマシンと言われた重々しい機械を僕は、買った。 男は言った。この機械を使うのはいいが、忠告だけはしておく。この機械を使う代償として、自分のいちばん大切なものをその機械に食われる、と。 僕は、家に帰り、自分の研究室でこの機械を使った。忠告なんてどうでもよかった。それよりも僕は夢を叶えることに必死だったのだ。 僕はドリームマシンを起動し、ベッドに寝そべり、ヘッドセットを耳に当てた。 すると、意識は夢の中へと消えていった。 僕は、他の人よりも、過ごす時間が多くなっていた。分かりやすく言うと、普通の人が一日24時間あるのなら、僕には一日240時間あるようなものだった。 毎日僕は、いろいろな人生を過ごすことが出来た。 一日に僕は、様々な人生を送った。パイロットとして空を駆け巡れば、作家として様々な物語を綴り、夜はプロ野球選手としてナイターゲームに出場した。次の日は、YouTuberとして生配信を行い、毎回最多同時再生回数を更新する。昼には、俳優としてテレビドラマの撮影だ。夜はシンガーソングライターとして新曲の作成をする。また次の日は、起業した企業の社長として指揮を振るい、教師として教壇に立てば、消防士として人々を救った。またまた次の日は、医師として患者を見て、パティシエとしてお菓子を作り、裁判官として刑を言い渡した。他にも動物園の飼育員やピアニスト、漫画家、サッカー選手、プログラマー、研究者、マジシャン、探偵、宇宙飛行士、映画監督、料理人、アナウンサー、デザイナー、ギタリスト、通訳者、科学者など色々な仕事に就いた。 そして全てのプロフェッショナルとなり、世界から注目された。色々な人に慕われ、崇められた。その分野に引退したあとも、各分野で教え子を育て指導者として活躍した。 僕の野望が叶った瞬間だった。 朝起きると、僕は、本来の普通の僕に戻っていた。 普通に戻ってしまったことに落胆したが、本当に自分があのような経験を、夢の中でできたことはとてもいいものだと感じた。それに、このマシンは夢の中と言えども、本当に過去にあったかのようにリアルで鮮明な映像が脳裏に過ぎるのだ。 代償もあると言っていた。それは何なのだろう。よく分からないが、僕はその日は何もやる気がしなかった。夢を見て、疲れたのだろうと思った。 しかし、何日経っても、僕の意欲は無いままだった。こんなことは初めてだった。僕はいつ何時でも、野望に満ち溢れ、何かを成すために、必死だった。それが無理だった時でも、何か暇を解消させるような目新しいものを探した。その気が全く起こらないのだ。そこで僕は気づいた。このドリームマシンが奪った大切なもの、それは僕の野望だと。 僕は、人としての欲望、野望、夢を失った。そんな僕は、考えたんだ。人の夢を見ることで、自分の欲望のようにすればいいのではと。つまりは、欲望の押しつけだ。自分では叶わないことに、夢を後押しという名義で、他人の夢に乗っかろうとする。そして自分の夢であるかのようにするのだ。そこにはなんの責任も問われないし、夢が叶ったらそれは両者にとって好都合だ。 僕は夢店屋を始めることにした。こんな怪しい店に、人なんて来るのかと思ったこともあったが、そんな心配は必要なかったと気づいた。なぜなら、人間は、欲望のまま、自分の可能性を信じ、そしてそれが叶うことを誰もが夢を描いているのだ。 「なぜ、私にそんな話を?」 「ただの気まぐれだよ」 へえ、、とだけ言って頷いて彼女は、俯いた。 僕は、自分の過去を捨てて、他人の未来だけをこれからも取り入れていく。今日は休日だけど、これが僕の生きがいだから、彼女の夢を見ることにした。

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