あや
3 件の小説あの頃君は
就職に失敗し、ラブホテルのバイトをはじめて早四年。しかし、二十六歳を目前にして、僕には危機感がなかった。 四年というと思っているより長い。高校の入学から卒業までより長いと考えると相当だし、大学生活と汚いティッシュを捨てるだけの生活が同じ長さだったと思うと恐怖すら感じる。 毎日朝ラブホに向かい、受付をし、順番が来たら清掃をするだけの単調な生活なので、まだ四ヶ月くらいかと思ったらもう四年も経っていた。 この四年間で得たものは殆ど何もなかった。かろうじで仕事仲間とは話せる位で、特に人脈が広がった訳でもない。 加齢と運動不足により、ただでさえ平均以下だった体力が大幅減しただけだ。 ある朝、ふとトイレで鏡を見ると自分が思っていた十倍くらい老けていることに気付いた。床屋に行く金がないので髪は伸び切っていて、顔はまだ肌荒れが残っていて不潔だ。というかシンプルに加齢により老けている。 太ったとか肌が荒れたとかそういうのだけでなく、年相応に老けた。殆ど成長も収穫もない空白の四年の中でも、ただ体だけはしっかりと時を刻み、臓器は生まれて以来寝て起きるたびにどんどん古くなる。 僕の何も生産しなかった四年間は、この臓器の古くなりように、この肌の老け込み具合に、この体力の減少度合いに相応しくなかった。 そうだ、自分はもう二十五歳なのだ。それもあとひと月で二十六歳になろうというアラサーだ。 二十五歳にもなっておじさんが何をしているのかと思いながら、職場に向かう。ホテルに来る若いカップル、特に高校を出たばかりくらいの初々しい者を見ると昔はその若さと輝きに嫉妬をしたものだが、今はそれもない。 どうせ二十歳やそこらの輝きを放っている彼も、二十代の後半になれば我々おじさん達のようになるのだ。人生とは短く虚しいもので、ただ一瞬輝くチャンスを逃しただけだと思えば、僕には何も惜しくなかった。 例え輝いていたとて、人生いつだって今が大事だ。どうせ老人になれば皆変わらん。古い記憶なんてのは薄れて、どんなに数十年前に淡い良い思いをしようが、そんなのは今の人生に何ももたらさないのだ。ただ今普通に生存して、最低限のプライドを保っていれば、人間として十分だと僕は考えるようになった。 そのような消極的でエナジーの枯渇した思想になったのはいつからだろうか。意外と最近な気がする。 そういえば先日掃除をしていると、六年ほど前の大学時代に書いた「夏休み計画表」で勉強や遊び、起業の予定を緻密に組み立てた紙が散らかった棚から出てきた。 一人暮らしをしているのにこんなことが起こるのは珍しい。いや、実家を出る時に学生の頃使っていたノートや書類一式を何の気まぐれか持っていったのだった。まだこういうのはあるかもしれない。 計画表とやらを見る。結局確かどれも頑張れずに、計画の一割も実行せず、夏休みの終わりにいつものように虚しく終わった思い出がある。 しかし、勉強も仕事も遊びも、あの頃ならまだ間に合ったはずである。今考えると十九歳というのは諦めるにはまだ早すぎた。確かに最善ではない。中学高校や小学校から努力している連中と比べたらキリがないが、まだあの時なら軌道修正できただろう。 僕はただ虚しくなるのだ。十九歳の僕は計画通りに努力できない己への葛藤、体力のなさに勿体無さや後悔を感じていたが、まだそこから立ち上がる最低限の魂は残っていた。まだ努力をしないなりに、努力をするための少しばかりの努力はしていた。しかし今はそれもないのだ。そしてそれがないことに焦りも後悔もさほど感じない自分に一番焦りと後悔、憎悪を感じるのだ。 いつから僕はこれほど弱くなったのだろうか。 十九歳というと、彼女を作る奴とか、サークルの人気者がいて、勉強が優秀な奴や部活のスターなど、華々しい奴が多かった。彼らはきっと今良い企業に進むなり、起業するなりしているはずだ。もう結婚している奴も何割かいるだろう。そんな奴らのことはこの際一旦置いておこう。 彼らとは違う、そんな人並みの努力する才能がなければこの若さにしてエネルギーも馬力もないことは諦めがついて久しい。問題なのは十九歳の僕と今の僕である。 六年前、十九歳の夏。あの頃の僕は自分自身を卑下して、周りに嫉妬していた。しかし、逆に言えば嫉妬をし、何か周りの奴を一泡吹かせてやろうという計画が、たとえそれを実行する努力がなかったとしても、体力がなかったとしても、確かにあったのである。確かに競争に勝って、誰よりも偉大になろうとする意志はあった。そこにエネルギーが他の者より少しばかり足らんだけであった。 それが今はエネルギーも格段に落ち、意志は真逆となった。 ただ生きていることに喜びを持とう。 気楽に生きよう。 聞こえは良いが、どこかでまだ自分は戦える、戦えたはずだ、とその生き方に疑問を呈する声が心の奥底から聞こえてくるのだ。 この気楽な生き方に徐々に納得を示しつつも、まだ微かに偉大になりたがる若いプライドが残っていた。まだ二十五歳、社会的には若く、社会的地位を諦めるには早すぎるという声が聞こえる。 しかし、そんな声を押し除けて怠惰な生活の豊かさを肯定するのが現実である。どこかで理想の成功者になり、大きな権力を持ち、影響力を持ち、世界のみんなに愛される世界的著名人になりたい、なんて夢を持ってみる。だがその数分後には、そんなのは夢で見れば良いやと思って寝るのである。 十九歳の頃、様々なコンプレックスに塗れていた自分。二十五歳、コンプレックスを持つ者にコンプレックスを持つ自分。 あの頃、自分は誰よりも人生に色がない、空虚な人生だと嘆いていた。確かにその通りだ。何をやっても続かず、努力もない、体力もない、どうしようとない学生だった。 そう言い聞かせても、心の奥底から確かに声が聞こえてくるのだ。 あの頃君は、輝いていた。 掃除をしていると、更にこんな紙が出てきた。 「将来の夢計画」 高校一年生のときに書いたもので、壮大で実現不可能だと今は思ってしまうようなことばかり書いてある。 十八歳 東京大学に進学。勉強をめっちゃ頑張って、アプリ開発の勉強もする。 結局、東大にも行けなかったし、落ちた大学で不貞腐れて全然勉強もしなかったので大学でも落ちこぼれたんだった。 十九歳 彼女ができて、バイトしたお金で色んなところに旅行する 合コンとかしたけど彼女は出来なかった。東大生とかがチヤホヤされてるのを見て、東大生に嫉妬をするだけだった。あと金持ちと高身長とイケメンに。 二十歳 データサイエンス学科に行って、アプリ開発に応用し、沢山お金を稼ぐ。 そもそもアプリアプリ言ってるけど、不貞腐れて何もしなかった。 二十一歳 ハーバード大学の院に進学し、データサイエンスの研究をする。 この時はもう院に行くことすら考えてなかった。 二十二歳 アプリ事業が成功し、安定した収入を得て実家を離れ、彼女と同棲する。 実家を離れたことだけはあっていた。追い出されただけだが。 二十三歳 最高の彼女と意気投合し、結婚する。 ラブホでバイト。 二十四歳 赤ちゃんが出来る。お金に余裕ができたので仕事は控えめにして、妻と二人でずっと子供の面倒見る。 ラブホでバイト。 二十五歳 アプリ事業の資金で豪邸を建てて、プールとかサッカー場を付ける。それにジムや映画館も。 ラブホでバイト。 何だか久しぶりに熱い感情が込み上げてきた。一度雫が溢れると、もう止まらなかった。 掃除なんかもうやめよう。古びた書棚を整理しても、目にホコリが入るだけ。僕はただそう思っただけだ。
魔法星人
私は二十四歳の普通の女。今日も早起きして満員電車を乗り継いで職場に向かう。 普通の女と言ってもそれなりに良い大学を出たエリートで、今は大手に勤めている。顔も自分で言うのもなんだけど中の上くらいで、スタイルも良い方だと思う。 生活には何ら困っていなかった。休日は大学時代の友達と集まってランチに行ったり、趣味のテニスをしたり。年収は並の女性の倍は貰っているし、愛想を振りまくのが上手いので上司のおじさん達にも気に入られている。 そんな私だが、一つだけ悩み事がある。それは、世の中にイイ男が少な過ぎること。 マッチングアプリをやってもマッチするのは大体ブサメン、会社で声をかけてくる男子もブサメン、ナンパしてくるキモ男もブサメン。 ああ、せめて私に釣り合うイケメン君がいないのかしら。それはたまにはいるけど、そういう時は実らなかったりするのよね。何せ分母が少ないから。 今日も会社で私にランチを誘うのは、鼻の下を伸ばした別の部署のジジイと冴えない童貞君だけ。ジジイは論外として、童貞君もイケメンだったら行ってあげても良かったんだけどな。奢ってくれるみたいだし。 でもあっさり断っちゃった。まあ仕方ないよね、不細工は生きる価値ないんだから。 平日だけど今日は定時で出れたので、会社の同期の友達と飲むことにした。会社を出て、女四人で居酒屋に集まり、やっと男の視線から解放された私達は本音をぶちまけた。 「ぶっちゃけみんなは男を何で選んでる?」 私が切り出した。お酒が入ってるので馬鹿っぽい質問も躊躇なくできた。 「私は年収とか会社とかかなあ。やっぱりある程度のところだと安心だし、そろそろ結婚も考えてるから」 安定志向の安子がまず無難に答えた。 「あーね。優子は?」 「私は性格かなあ、結局優しくて浮気しない男の子がいい。あと私が暗めだから明るい人だといいかも」 「えー、絶対嘘だー。性格とか言うのは建前じゃん。本気で言ってるの?」 優子はいつも綺麗事が大好き。 「うん。私クズなイケメンに沼っちゃうタイプだったから、もうそういうのはいいかなって」 「そっかー。で、洋子は?」 「私は趣味が合う人かな。登山とか旅行とかお出かけが好きだから、そういうのに付き合ってくれる人」 真面目な洋子は少し私に引き気味。清楚ぶらなくていいのに。 「なるほどね。私は普通に顔かな。結局顔が一番大事じゃない? 性格良かったり金あってもブサメンだったら無理なんだけど」 私は少しイラつきながら言った。 「あー、確かに一番大事かも」 安子が応じた。 「だよね? 結局そこだよね?」 私は安子に食いついた。久しぶりにまともな子と話せた。 「うん。お金とかもあると良いけど、お金あるイケメンもいるし」 「流石安子、分かってるね。みんな性格とか金とか言うけど、そういうのって後から何とかなるし、まあカッコよかったら許せるじゃん? でも顔は変えられないしねー」 そんなこんなで私は恋愛観について力説し、気付いたら家のソファで爆睡していた。時計を見るともう七時。急いで支度しなきゃ。 私は身支度を十分で済ませて家を出た。するとドアの前に不審な男が座り込んでいた。 「さあ、何にするんですか。そろそろ決めてくださいよ」 男は話しかけてきた。馴れ馴れしく話しかけてくるが私は知らないので、無視して出て行こうとした。すると男は私の腕を引っ張って止めた。 「何ですか、やめてください」 「あれ、あなた昨日のこと忘れちゃったんですか」 その瞬間、目が合うと、私はどことなくその鋭い目つきに既視感を覚えた。酔っていて記憶が飛んでしまったのか。私は必死に昨日のことを思い出そうとした。 えーっと、確か…… 〜昨日〜 「助けてくれえ、、、助けて、、、」 男の声が地面からした。私はもうすぐ家に着く所だったが、何だか心配だし不気味なので声のする所を見つけて助けることに。私は声がどこからするか少しウロウロした。 「おお、そこだそこ。そのマンホールをとってください!」 私が一つのマンホールの側に行くと声が大きくなったので、私はマンホールを持ち上げて男を助けた。すると泥水を被った汚い男が出てきた。下水道の変な臭いもしたが、目つきは鋭く、顔立ちは良い方だった。 「ありがとうございます。いやあ、先日の大洪水でマンホールがひっくり返ったときに吸い込まれてしまいまして」 男はかなりの痩せ型で背が高く、不気味な雰囲気を放っていた。 「どういたしまして。それじゃあ」 私は怖いので早く帰ることにした。すると男は着いてきた。 「いえいえ、これだけじゃあ帰れませんよ。何かお礼をしないと、、、。そうだ、一つ望みを叶えてあげましょう」 男は怪しい文言で私を引きつけようとした。 「いらないですよ。怪しすぎます。あなたは悪魔かなんかですか」 「悪魔だなんてとんでもない。私は魔法星からやってきた者でして。まあここでは宇宙人とでも言うんでしょうかね」 気の利いた冗談を聞いて私は楽しくなった。 「SFは好きよ。ありがとうね、面白い話を聞かせてくれて」 「いやいや、本当なんですよ。私は魔法に溢れた惑星からきた者で、魔法の一つくらいお礼にやって差し上げましょうということです」 「へー、じゃああなたは魔法使いってこと?」 私が冗談半分で聞くと、男は言葉を濁した。 「んーと、残念ながら魔法使いとまでは行かないんです。魔法星でも魔法使いと呼ばれるのは本当に優れた者だけでして」 「そうなのね。じゃああなたは魔法星人ってところかしら?」 私はアルコールが入っていたこともあり、少し信じてもいいかなと思った。 「ええ、その通り。魔法使いほど高度な魔法は扱えませんが、まあ並の奴なら。何をお望みでしょう?」 「んー、そうね。世界平和とかは?」 私は特に願い事が思いつかなかったので、聖人ぶった。 「それは地球の人類全体の?」 「うん」 「厳しいですね。地球では今も様々な戦争や国家間での無数の対立が起こっていると聞きます。私には無理だ」 「まあきついよね。じゃあいいわ」 「ああ、待ってください。それほど難しい魔法じゃなければ私もできるんです。このまま引き返すのは私の面子ってもんが……」 魔法星人が可哀想なほどグズグズしているので、私は明日までに何かを考えて答えてやることにした。 「今は思いつかないから、明日までに何か考えておくわ。待っててくれる?」 「ええ、勿論。承知しました」 魔法星人は満足げに微笑んだ。 そうだ、魔法星人だ。私は昨晩のことを思い出した。 「まだですか? 何か試しに行ってみてくださいよ」 私は頭をフル回転させた。会社に遅刻するのも面倒だが、何となくこの人のことを信じてみるのもありだと思ったのだ。アルコールがまだ抜けきっていないのかも知れない。 「えーっとじゃあ、私をお金持ちにしてみて。銀行口座に千億とか一兆とか入ってる状態にできる?」 「おや、その程度で良いんですか? 一つしか魔法の注文はできませんが、まあいいでしょう」 そう言われると何だか勿体無い気がしてきた。確かにこれはすごいチャンスかもしれないのだ。お金なんて何とかなる。もっとすごいことを頼まなくちゃ。 「待って、やっぱりそれはなしで。どうしようかな。あ、そうだ! 私を不老不死にしてみて」 「んー、それは難しいですね、、、」 「何でよ、魔法って言ったら不老不死くらい定番でしょう?」 「ええ、シンプルな魔法ではあるんですが、魔法使いしかそれは扱えないんです。あー、欲に負けていなければ出来たのに……」 「欲?」 私は魔法星人が何か面白いことを言い出しそうな気がした。 「はい。魔法星の男は三十歳まで童貞だと魔法使いになれるんです。しかし私は……あれは十七歳の時かな。誘惑に負けてしまって……」 「へえ、本当に面白いのね。地球にも全く同じ迷信があるわ。勿論冗談で言ってるだけだけどね」 「恐らく魔法星の者が言ったことを地球人が冗談として受け取って広まったんでしょうな。たまに魔法使いの話をする地球人を目にします」 「それにしても、残念。不老不死になれたら良かったわ。若い頃はお盛んだったの?」 「まあ、はい」 「無理はないわね。あなたよく見たらけっこうイケメンだし」 私は魔法星人の顔を覗き込んだ。 「とんでもないです。さあ、早くお決めになって」 私は再び考えた。不老不死も世界平和もだめ。何にしようかしら。何か足りないものもないし…… 私は魔法星人を一瞥した。そうそう、こいつ顔は良いのよね。魔法使いになれなかったことも納得のイケメン…… ん、イケメン? そうだわ、困ったことが一つあったんだった。 ブサメンが消える魔法。これなら行けるわ。 「一つ思いついたんだけど」 「おお、どんなのでしょう?」 「ブサメンを全部消して、女とイケメンだけの世界にして欲しいの。永久にね」 「ほお、イケメンしかいない世界ですか。それも永久に」 「そうね。不細工は生きる価値ないんだから、とりあえず今生きてる不細工な男は死刑で良いわ」 「思い切りましたね」 「これでお願いできる? 地球の人類全体にかける魔法だから、あなたにはちょっと難しい?」 「いえ、やってみましょう。舐めてもらっちゃあ困りますよ。これでも生粋の魔法星人ですから。引き受けました」 「え、できるの? かなりのイケメンしか残しちゃダメよ」 「勿論。明日にはその世界が出来上がってるでしょうな」 「すごい、ありがとう」 まだ半信半疑だが、私はそう言うしかなかった。 「これが私にとって最後の魔法になるな……」 男はそう呟くと、その場に確かな興奮と期待感だけを残してどこかに消えて行った。私はワクワクしながら出勤した。 会社にはまだブサメンがいた。さて、ここから明日までにどうやってブサメンが消え失せるのだろうか。昼になってもブサメンの男の子が私にランチを誘うので、あの魔法星人がインチキだったのかと思い始めた。 そう思っていたのも束の間、昼休みに衝撃的なニュースが飛び込んだ。 弁当を食べながら会社のテレビを観ていると、世界中で今日大量の男性が自殺しているというニュースが流れた。 「おいおい、今発見されてるだけで今日二億人も自殺したらしいぞ」 「ええ、世界人口って八十億くらいだよな? そんなことあるのか?」 「何これ怖い。なんかのミスだといいけど……」 会社の他の皆んなが驚きと恐怖で震える中、私は笑みを隠すのに必死だった。 魔法星人は本当にいたんだ。 それから忽ち自殺者は増えた。 赤ちゃんや老人ですら、顔が悪い者は突然死したみたい。まあ赤ちゃんは可哀想だけど、これから不細工に成長するくらいなら可愛いうちに死んだ方が絶対良いもんね。 イケメンだけが取り残され、多くの不細工が自殺を決行する流れに昼頃の人々は理解が追いついていなかったけど、理解が追いついた夜頃には人々の恐怖がピークに達した。みんなの恐怖が増すにつれ、私の幸福も増した。 世界中のビルから雨の様に数十億の不細工が舞い散る騒がしい一日は終わり、日付を跨ぐと自殺の風潮はピタリと止んだみたい。私は今にも外に飛び出したい気分だったけど、とりあえず眠って明日に備えた。 翌日、私はいつもよりしっかり化粧をして会社に向かった。電車の中は既に最高だった。世界中の不細工が全員死んだので、車内には女とイケメンしかいない。どこを見ても男はイケメン。しかも空いていて通勤し易い。 人生で一番快適な朝。逆に言うと今まで不細工は混雑を作る上に人様の視界を汚してたのね。そんな罪深い存在が綺麗にお掃除されて本当に良かった。 会社の童貞君もジジイも消えたから、イケメン君たちがその分の仕事を頑張ってくれてた。 仕事とかはやばいかなって思ったけど、流石魔法星人さん。何とかなるように魔法をかけてくれたのね。 「昨日の件があったから、仕事は大変だが、それはどこも同じだ。我が社も残った者で力を合わせて頑張ろう」 「「「はい!!」」」 私の仕事も増えちゃうかなって思ったけど、女性に負担がいかないように同じ部署の男の子が頑張ってくれた。イケメンは中身までイケメンなのね。 そして醍醐味は夜にあった。飲み会には勿論行ったんだけど、もう男子のレベルがインフレしてた。全員文句なしのイケメン。店の人も他の客も全員イケメン。こんな楽園があって良いのかしら。 それから私は最高の時代を過ごすことに。街を歩くどの男もイケメン。あの魔法星人には感謝してもしきれなかった。 周りの女の子は男子が減って恋愛が大変になっただの、彼氏が自殺して鬱とか言ってるけど、私は元々イケメンしか眼中になかったから関係ないもん。 そんなある日、合コンで一人の男性と出会った。スタイル抜群の高身長イケメンで、私と同じく大手に勤めてる。頭が良くて気が利く紳士で、歳は私より六つ上の三十歳。 「有紗さん、来週も良かったらデートしませんか?」 生き残ったイケメンな中でも別格の顔とスタイルで自信に溢れていた。 「是非したいです!」 それから私は悠さんと交際することになった。 「今日は有紗が行きたがってたディズニー行こうぜ」 「やったー!」 「今日はお家でゆっくりしよっか」 「うん!」 互いの家にお泊まりすることも増えた。お泊まりデートの時、私はそういうことを期待していたが、彼はしなかった。 ある日、私の家でお泊まりすることになった日。彼と一緒にベッドに座ってご飯を食べた。 「眠くなってきちゃった……」 私は彼にボディタッチをし、誘惑したが、彼はしようとしなかった。 「ちょっとそういうのは……」 「え?」 それどころか彼は拒んだ。 「私たち付き合ってるし、良くない?」 「いや、結婚してからじゃないとしないって決めててさ……」 私は驚いた。これだけの容姿を持ちながら、悠さんは結婚するまでやらないと言うのだ。 彼は色っぽい表情をして、目を軽く閉じて私に近づいた。 「え……?」 私も目を閉じて、唇と唇をくっ付けた。美味しい。 「……」 彼は何も言わずに恐ろしくカッコいい顔を遠ざけた。私は悠さんが抱いてくれるなら、死んでも良いと思った。 それから時が経ち、付き合ってから半年が経った。そろそろ結婚してもいい頃だと思ったが、彼の返答は冷たかった。 「結婚かあ、ダメだよ結婚は」 「何でよ」 私は抗議気味に言った。 「兎に角君とは無理なんだ。もしそれを提案するのならここで別れないといけない」 悠さんは何かを隠している様だった。私は気付いた。 「何でよ、なんで無理なのか教えてよ」 私が尋ねると長い沈黙が起こり、それから彼は喋り出した。 「半年前に出来た法律、覚えてる?」 「え? 何よ」 「イケメン以外の男子が生まれてはいけない法律だよ。世界共通でね。各国の要人が、イケメンだけになってしまった世界を維持しようとして作った悪法だよ」 私は思い出した。そう言えばそんなのがあった気がする。しかしそれは当たり前。ちゃんとイケメンだけの世界にする魔法が効いてる証拠だ。 「そうね、それがどうかしたの。悪法でもないと思うけど?」 私は甘えた声で尋ねた。 「言いにくいんだが、君がもし妊娠したら、それは……」 私はハッとした。その先を聞きたくなかった。 「ああ、いいわ、いいわ。大丈夫。私、あなたと別れるから」 悠さんは少し驚いた様な表情をしたが、それから黙って頷いた。彼は意地悪な笑顔でボソッと呟いた。 「不細工は生きる価値ないんだから、ね」 「えっ?」 私は思わず声が出た。もしかして彼は…… 半年間付き合った男の顔を、私は今までで一番真剣に見つめた。間違いない、魔法星人だ。会った時は下水道の中で汚れた姿をしていたから別人の様に美しい今の彼を見ても気付かなかったけど、確かにそうだった。 鋭い目も、細長い体躯も、痩せた頬もあの日のままだ。 「魔法星人でしょ、あなた」 「?」 魔法星人は黙ったまま。 私は自分を美人にする魔法をかけて貰おうと思った。 「ねえ、その……」 「なに?」 「私を美人にする魔法をかけてよ」 自分は可愛い方だと思ってたから、こんなお願いをするのは悔しいけど、背に腹だ。 自分で作ったイケメンだけの世界でイケメンと付き合ったら、不細工が生まれるから結婚できない? イケメンと結婚する為にこの世界を作ったのに、この世界のせいでイケメンと結婚できない?? そんな皮肉があるなんて溜まったもんじゃないわ! 魔法星人は寝ぼけた様な顔で答えた。 「魔法? 何のことだい、それは」 「とぼけないで。あなたは私が半年前に助けた魔法星人でしょ?」 「そうだよ」 何の躊躇もなく頷いたので私は逆にびっくりした。 「じゃあ魔法は使えるでしょ? 私を美人にしてよ。そしたら結婚できるし!」 「ええ、面倒くさいなあ……」 「何でよ、折角ここまで付き合ってきたのに?」 「もう魔法は使いたくないよ、疲れるし。魔法を使いたくないから地球に来たんだもん。あれが最後の魔法になるって言ったじゃん」 「そんなー! じゃあなんで私と半年も付き合ったの? そういうことも一回もしてないし、何目的だったの?」 「練習だよ。いきなり美人は難しいから、まずは余裕な所から地球の女の場数を重ねようと思ってね。徐々にレベル上げしていくつもりさ」 次々と魔法星人の口から放たれる衝撃的な発言に、私は悲しむ暇もなかった。 「でも、私は仮にもあなたの命の恩人でしょう? 魔法をもう一つ頂く権利はあるわ」 そう言ってから私は物凄く初歩的なことに気付いた。彼は魔法を使えるのだから、マンホールの下から出れない訳がない。つまりあれも私が助けたんじゃなくて私で遊ぶため…… 「いや、忘れてた。あなたは魔法星人だったわ。私には何の恩もないもんね」 「とんでもないよ。閉じ込められてたのは本当だし、有紗には感謝してるよ」 「でも、不細工を消したあんたが出れない訳ないでしょ?」 「俺は魔法星の落ちこぼれだからね。一度魔法を行使すると、体力を消耗するから数日は魔法が使えなくなるんだ」 「へえ、じゃあその前に魔法を使ってたのね」 「うん」 「どんな魔法を使ったの?」 私は会話を重ねるうちに落ち着いてきた。彼をもう好きでないと言ったら嘘になるし、鼓動が煩いのも事実だけど、少なくとも落ち着こうとした。 「んー、どんな魔法だと思う?」 彼は優しく微笑んで聞いてきた。こんな顔だけの奴にキュンとしてしまう自分が悔しい。 「分かんないよ、教えて」 「それはねー……」 「……」 「地球で最初に出会った女性と結ばれる魔法だよ」 「え……?」 「ロマンチックな魔法でしょ? だから俺らは何の偶然か、その後出会って今に至るんだ」 「へー、そういうことね」 私は窓の方を向いた。そこに映るいつもより醜い顔を私は睨みつけた。 「俺は生憎大洪水でマンホールに入っちゃってさ。魔法も使えないし、死ぬかと思ったよ」 「それなら尚更、もう一つ魔法をくれたって良いじゃない」 「俺は一つまでだと言ったよ。よく考えれば魔法一つあればなんだってできた。そこで美人にしてって頼めばお安い御用だったのにな」 「まあそうだけど」 「俺のその前の魔法があるから俺とも出会えたし」 「でもあなたの魔法、上手くいかなかったね。魔法しか取り柄がないのに失敗するんだ」 少し嫌味を言うくらいしか私には思いつかなかった。 「まあね。俺は落ちこぼれだからなあ、仕方ないよ」 「もっと出来の良い男を見つけるんだった。あんたじゃ私には釣り合わない。魔法使いじゃないと」 「確かにね。魔法使いとなら上手くいっただろう」 「どういう意味?」 「奴らは三十歳まで童貞だった連中だぜ? きっと君みたいなのでも好きになっちゃうさ。昼は君をランチに誘ったりなんかして……、あ、でもウブな童貞君はお断りか」 「もういいわ、帰って」 その言葉を待っていたと言わんばかりに魔法星人は荷物を素早くまとめて、ドアノブに手を伸ばした。 「次は魔法使いに出会えると良いな」 彼は背を向けて、一度も振り返ることなく、歩いて行った。私はその整った顔を拝むことはもう二度とないと悟った。 〜五十年後〜 「見ろよ、あの婆さん。さっきから道を歩きながら地面に耳を傾けて、様子がおかしいぜ」 「それな。魔法使いさーん、とか大声で連呼してるし、気狂いだ」 「ああ、あのババアね。あの人はこの辺では有名な街の変人よ。いつもあんな風にして魔法使いを探してるから、魔法おばさんって言われてるの」 「へえ、なんか気味が悪いな」 「そうか? 俺は面白かったけど」 「おいおい、そんな大きい声で言うと聞こえちゃうぜ」 私のことを馬鹿にする若僧が最近は多いけど、私は彼らが可哀想。魔法使いが本当にいることすら知らないんだもんね。 魔法使いを一人見つければこっちのもんだからね。若くて可愛い女の子にしてもらって、それで私は自由に優しいイケメンを選ぶんだから。 ブスに生まれただけで恋愛を諦めてる女を見ると、哀れで仕方がないわ。そういう子も魔法使いをたった一人見つければ良いだけなのに。 まあ、しょうがないか。不細工は生きる価値ないんだからね。 〜〜〜〜〜 私は静岡に住む父方の実家に帰省することになった。小学生になってはじめての帰省。私は百点のテストをいっぱい持って行った。 「ねえ、じいじ」 でも百点のテストより、じいじと話したいことがあった。 「なあに?」 じいじは皺を寄せて、愛らしく微笑んだ。 「じいじって魔法使えるんでしょー?」 「使えないさー」 じいじは笑いながら答える。 「うっそだー! パパが言ってたもん。パパが今魔法を少し使えるのも、じいじの遺伝なんだって!」 「ばあばの遺伝かもよ?」 「じーじだよ! ばあばも言ってた気がする!」 「えー、じいじ魔法なんか知らないぞ〜」 そう言ってじいじはゆっくり立ち上がり、自分の部屋に戻ろうとした。 「逃げないでよー」 私はじいじの背中を追いかけた。 「待って〜」 その大きな背中。背が高くて、がっちりしている背中…… じいじの背中を見た時、反射的に体が震えた。 どこか他で見たことある気がする。どこだったかな、、、夢だったっけ 私は少し怖かったけど、気にしないことにした。怖くなったので、私はパパの隣でお昼寝することにした。 夢の中にじいじに似てる男の人が出てきた。後ろ姿しか見えないけど、じいじそっくり。 「有紗、魔法を叶えたよ」 男の人は私に背を向けたまま、話しかけてきた。でも名前を間違えてるみたい。 「有紗って誰? 私、美月って言うんだけど」 「有紗、俺たちは愛で結ばれたね」 「だから有紗じゃない!」 「恋人ではなく、家族愛でね」 「何のこと?」 少し分かってしまいそうな気がして、私は湧き上がってくる記憶を必死に掻き消した。 「俺の魔法は叶ったみたいだ! 落ちこぼれは卒業さ」 変な夢だ。私は目を思っ切り瞑って、現実に戻ろうとした。 「美月ちゃん、おはよう」 起きると現実にも魔法星人がいた。 「じいじ、じいじってさ……」 「魔法? 何のことだい、それは」 「え、まだ私何も言ってないけど」 私がそう言うと、じいじは慌てて自分の部屋に戻った。
コールド
十六歳の冬の夜。僕は冷たい風を切り、冷えた顔に時折手をあてながら塾に向かっていたと思う。 その手には分厚い手袋がはめられていて、耳あてに覆われた耳にはイヤホンが。 マルーン5のコールドを聴きながらプラットフォームで電車を待つ僕は、この世界で一番イケていた。 僕はイントロから吸い込まれ、その瞬間世界の主人公になった。 ああ、なんて良い人生なんだ。切なくて哀愁漂う、でも輝いてる自分。 少なくとも三分五十秒はそうだったし、それからも余韻は続いた。 だがこのときの僕は少し特別だった。その余韻が三週間も続いた。自分が世界で一番幸せな人なんだと信じてやまなかった。 僕は塾に行く前に寄り道をして、塾の裏路地で電話をした。 愛しの人と数分電話をして、もう塾があるからと言って切った。 帰りも数分電話をして、もう電車に乗るからと言って切った。 自分から切れるカッコいい男。僕はそんな風に思っていた。 まだ切らないでよー あやの甘い声をいとも簡単に切って、僕は電車に乗った。 もしあの時に戻れるなら、僕はきっと終電まで電車には乗らないでいたと思う。 少し女の子に冷たくて、素っ気なくて、余裕があるふりをしているのがカッコいいと思って、僕はコールドを聴きながら家に帰った。 十六歳の僕にコールドは早すぎた。 僕は好きなのに好きじゃないふりをして、あやは好きなのに好きじゃないように振る舞うけど本当は好きなふりをした。 彼女は僕に吸いつくけど、ただの暇潰しで、僕が自分を好きなのを悟って可哀想だから好きなふりをしてくれていた。そしてそれも全部、浮気したときに明かした。 あやが急に音信不通になった日、僕はもう会えないと思った。 その冬、僕は重い風邪を引いていて、四十度の熱が出た。そのときあやは看病したいと言ってくれた。 彼女は僕に他の男がいるのをバレたとき、それは知り合ってまだ一週間のことだったが、僕のことを好きなふりをしていたと言った。そのときまでは。 でも僕が風邪で倒れているとき、彼女はもう他の男と破局していたし、恐らく僕のことを好きだったんだ。 あやは好きだと気付いて欲しそうなことは何回もしていた。それが不親切な優しさ故の嘘なのか、本当なのかは分からない。 僕は彼女がいなくなってから、彼女のあの頃の態度を何度も嘘だと考えた。その方が後悔が減るから。 でもどうしても僕にはあれが本心に思えてならない。少なくとも僕を拒否する前日まで好きだったとしか思えない。互いに恥ずかしがって好きだと言えなかったとしか思えないんだ。 そうとしか思えなくなったある日、それは既に彼女に会えなくなった日からかなり経つが、その日から急にコールドは切ないものになった。 それまでただカッコよくて、勇気付けられる曲が急に切なくなって、それは翌年の夏になってもそうだった。 あやが消えた理由は分かっていた。彼女の前にもう一人多く女性に出会っていれば。無理をしてでももう一回多く会っていれば。寝落ち通話を切る前にたった一言伝えていたら。 それから幾つかの季節が過ぎたある日、僕は友達と好きな曲の話をしていた。 「俺はブルーノマーズの24マジックかなー、聴いてみて」 彼は少し24マジックを流した。 「おお、いいね」 「お前は?」 「ジャスティンビーバーのソーリーかな」 「またそれかよー、他のはないの?」 「んー、これかな」 僕はマルーン5のコールドを流した。 「あー、いいね。これも」 「この曲ってさぁ……」 「ん?」 「この曲って切ないと思う?」 僕は少し冗談っぽく、しかし真顔で聞いた。 「いや、切ないとは思わん」 友達は笑って答えた。やっぱりこれが切ないのは彼女のお陰だったんだ。 それから季節は過ぎ、とうとうあやと出会ってから一年半ほど経った。僕は新宿で新しくできた彼女の由美と遊び歩いて春を満喫していた。 あやは確か新宿の美容の専門学校に行っているらしい。由美と付き合うまではあやを探そうとしていたが、今はもうそんな気にもならない。 あやと出会ったときは、この人しかいない、この子ほど自分に合う最高の人とはもう人生で二度と会えないと考えていた。だからもし手放したら、こんなに珍しい位の子を逃してしまうなんて永遠に後悔すると思っていた。 しかしそれから時が経ち、僕は色んな人に恋をして、その度に相手はそんなに好きじゃないのに一人で結婚することとか、永久に一緒にいることまで考えて、それでもどこかで関係が切れて、それからは恋愛にそこまでの情を持たないことに決めた。 決めた、というより最初は徐々にそうなったというのが正しく、別れた時の痛みを緩和するためにたかが恋人にそんなに重くならない様に、せいぜい数ヶ月付き合う程度の頭でいることにした。 そもそも十代の僕がそんなに重くなるのがおかしくて、周りの十代の恋愛は皆んなそんなものなのに、僕はそれまで恋愛経験がなかったから極端になっていた。カッコつけて洋楽を聴いて恋愛の全てを知ったかのように振る舞う当時の僕は、全てを知っているどころか他の誰よりも初心だったことを認めざるを得ない。 今、僕の横にいる由美も、別にあやを恋したときほど僕を狂わせない、普通の女の子だった。かといってそれが当時より退屈な訳ではなく、むしろ当時より関係が発展して新しいことだらけで彼女と一緒に知らないことを経験できる連続で充実していた。 たとえこんな関係で他の子と付き合えても、この傷は癒えない。そう思っていたあやに未練があった頃の自分を僕は嘲笑した。 何が傷は癒えない、だよ。そんなの付き合ってから言えって話だ。 当時の気持ちが嘘の様に、あやほどの刺激や狂わせぶり、非現実味のない普通の子でも、僕はあのときのことをどうでも良いと思える様になったのだ。 もう何の後悔もない、何の未練もない、何の執着もない。 他の子と付き合うだけでこうなるなんて不思議なくらいだ。 僕は由美とのデートの帰りに、久しぶりにマルーン5のコールドを聴くことにした。 もうあやへの固執も喪失感もなく、そんな僕にコールドはどんな気持ちを与えてくれるのか少し気持ちが華やいだ。 僕はイヤホンを付けて、コールドを流した。 吸い込まれる様なイントロに僕は魅せられる。 やっぱりコールドは切なかった。