秋沼 文香
22 件の小説6話
夢だった建築会社で妹が働くことになった 憧れの場所に夢と希望を抱いて、一歩前へ足を踏み入れる。 「お姉ちゃん、私の企画通ったよ!」 「本当?良かったじゃん、お祝いに未花の好きな物たくさん作ってあげるね」 「やったー!オムライスとハンバーグとショートケーキと」 「もう、欲張るね」 夕飯は未花の好きな物を作り、ケーキも用意して、盛大にお祝いした 笑い合う二人、幸せな空間が二人を包む -建築会社- 「あの、私の企画がキャンセルされたってどういうことですか?」 「は?お前みたいな新人の企画が通るわけないだろ馬鹿じゃねーの?早く仕事戻れ」 「…はい」 納得が出来なかった、悔しくて未花は唇を強く噛んだ 今に始まったことじゃない、こういう暴言は以前から続いていた。宗一は息を吐くように未花に暴言を吐いたり、理不尽なことで叱っていた 未花の心は少しずつ削られていき、やがて笑顔も少なくなり、口数も減っていた。 「未花、最近元気なさそうだけど、なんかあった?」 「…何もないよ、私寝るね」 「あ、うん…」 未花の様子が気になる未希は未花の部屋へ向かいドアを叩いた。返事がない…嫌な予感を感じ、息を飲み込んだ。ドアを開けると未花が倒れていて、周りには白い玉の薬が散らばっていて、薬の瓶が二つ置いてあった。 「未花!」 未希は病院に電話をし、未花は病院へ運ばれた 意識不明の重体で目を覚ますかは分からない状態だ。 家に戻った未希は未花の部屋の机の上に置いてあった日記を読んだ 《建築会社に就職!頑張るぞ!》 キレイな字がページを巡ることに殴り書きのように汚くなっていく 《上司から嫌なこと言われた。下川宗一っていう人お姉ちゃんの彼氏さんのお父さんだからお姉ちゃんには秘密にしないとこれ知ったらお姉ちゃん絶対彼と別れるって言いそうだからお姉ちゃんには幸せになってほしい》 《大丈夫まだ笑えてる》 《私なんでこの仕事してるんだろ?もう分からないや》 《明日が怖い辛い死にたい》 《誰かに助けてほしい消えたい楽に死ねたらな…》 未希は日記を閉じ、未花の部屋を出た。 未希は宗一の行動を観察し、事件があったあの日、未希は歩道橋で宗一と言い争っていた 「白泉未花が自殺しました。どうしてか分かりますよね?」 「は?知らないよ」 「あなたのせいですよ」 「俺?普通に教育してやっただけだぞ?最近の若いやつは…話は終わりか?」 「死ね…」 白泉の口から無意識に出た言葉 「今なんて…」 気が付いた時には、下川宗一は階段の角に頭をぶつけ、そこから血が水のように流れ出ていた。開かれた目が白泉を責めてるようで、白泉の手が震え出した 暗闇の空には朧月が妖しく浮かんでいる。 白泉は鞄から鳥のストラップを取り外そうとするが、上手く外せない、なんとか外してその場から離れた。
5話
「昔話だけど、少しだけ聞いてくれない?」 勇は乙葉の方を向いてはいと答えた 「私ね、大好きな人を亡くしてるの、その人の分までがんばるって決意してるの、だからしっかりしないといけないでしょ?」 勇は乙葉から視線を外し、前を向いて答えた 「たまには笑ってもいいと思いますよ。乙葉さんがしっかりしてることは僕たちがちゃんと分かってますから」 乙葉のハンドルを握る手に力が入り、乙葉は俯き「ありがとう」と呟いた 車を止め、中へ入る。 ソファに座っていた未希の前に勇が立ち、その隣に乙葉が立っている。 勇はほんの少しの迷いから躊躇った後、未希の腕に手錠をはめた 「署で話そう」 未希が空を見上げるとあの頃と同じ朧月が浮かんでいた -取調室- 「歩道橋の階段から被害者の下川宗一を突き飛ばした。間違いないですか?」 未希は頷いた 「どうして突き飛ばしたんですか?」 「どうして?どうしてかな?どうしてだろうね?」 「何があったのか、説明してください」 「そんなこと言われてもな…なんて言えばいいかな?」 未希は乙葉の方を向いた 「私、この人と話したい、この人になら話せるかも」 乙葉と勇が席を変わったが、未希は話そうとしなかった。未希は少し笑いながら答える。 「勇くんが居ると話しにくいよ」 勇は仕方なく取調室から出ていき、未希と乙葉の二人だけになった 「どうして、被害者を突き飛ばしたんですか?」 「…私ね、妹がいるの」 「質問に答えてください」 「答えてるよ、ちゃんと話すから…」 乙葉は腕組をし話を聞いた 「妹ね、今入院中なの…明るくていい子だった、今は話すことも動くことも出来ない。自殺したの…」 「どうして、自殺したんですか?」 白泉は天井を見上げ、ゆっくり深呼吸をしてから話を続けた。
4話
五年前 「志乃、最近仕事どう?」 「楽しいよ、皆いい人だし、お姉ちゃんの方はどうなの?」 「私は普通かな…仕事なんて給料のためにやってるもんだから」 乙葉が所属してる捜査一課には岩澄や佳川が居た 乙葉は佳川によく懐いていた。 佳川も乙葉を妹のように可愛がっていた 一緒に昼飯を食べたり、世間話で笑いあったりしていた。 ショピングモールで刃物を持った男が暴れてると通報が入り、A班からD班に別れそれぞれの配置に着き男を確保する作戦だ 乙葉はA班で岩澄と同じ班だ 男の特徴は身長175cmぐらいで細身の体型、白い帽子を深く被り全身黒コーデ 一階の広場に居る四歳の娘を母親が抱き寄せていた。男は二人の親子の元へ刃物を振り下ろした 刺さったのは、母親でも娘でもなく、佳川のお腹だ。佳川は冷たい針が体の奥に届いたような痛みを感じ、刃物を抜かれた瞬間傷口をえぐられるような痛みに佳川は崩れ落ち、お腹を抑え倒れた。息をするだけでも痛みが走り、上手く呼吸が出来ない 男は驚きと動揺で尻もちをついた 周りの警察官の思考が一瞬停止し、すぐに仕事モードに切り替わる。 「落ち着いて行動してください!」 「おい!誰かこっち手伝え!」 「佳川、病院に連絡したから、もう少しだけ耐えてくれ」 周りの声が少しずつ遠のき、視界もボヤけていく 「各班に告げる。犯人確保」 無線から響く声は微かに震えていて、次の言葉を聞いた乙葉は岩澄の呼び止める声を無視して走り出した。 血を流して倒れている佳川の姿が見えた 「天音(あみ)さん!」 「…志乃…」 「すごい血…大丈夫ですか?どうしよ、血が止まらない、天音さんしっかりしてください!」 佳川は残りの力を振り絞り乙葉の頬に手を添えた 「大丈夫だから、仕事に戻って」 「嫌だ、こんな血出てるのに放っておけないよ」 「…仕事に私情を挟んだらダメよ、行きなさい…志乃…」 腕がだらんと落ち、目線もどこか遠くを見つめゆっくりと瞼が閉ざされた。 「天音さん?待ってよ!ねぇ、起きて、天音さん!」 時間が止まったような、世界が崩れたような感覚がした。 人目を気にせず、乙葉は佳川の胸に顔を押し当て子供のように泣いた 取調室で確保された男から岩澄が話を聞いていた。 どうしてあんなことをしたのか?岩澄が聞いたところ、人生に嫌気がさし、むしゃくしゃしてやった。自分も死のうと思っていたという身勝手な理由だった 「あの女の刑事がいきなり目の前に来た時は驚いたよ、ヒーロー気取りか知らないけどさ、あんなことしなければ死ななかったのに…余計なことしたせいで、あんたらのお仲間さん死んちゃいましたね!俺は悪くねーけどな!」 岩澄は唇を噛み男を睨みつける 乙葉の強く握った手も震えていた。 乙葉は椅子を蹴飛ばし男の胸ぐらを掴んだ 男はヘラヘラした顔で乙葉を見る 「なんだよ?」 「汚い口を閉じろ、死のうと思ってた?そう思うなら人を巻き込まず、勝手に一人で死ねば良かったのに!」 男は両手を上げ更に乙葉を挑発した 「警察がそんなこと言っていいのかよ?皆さーんこの人に死ねって言われましたー!」 「お前のせいで、天音さんは死んだんだよ!」 「やめろ!乙葉、冷静になれ!」 後日 佳川のデスクを乙葉が寂しげな目で見つめている 「乙葉、お前の好きなショートケーキ買ってきたぞ」 「ありがとうございます」 味がしない… 乙葉は一口だけで食べるのをやめた。 「岩澄さん、残り食べていいですよ」 「え、いいのか?」 「…はい」
3話
勇の肩を乙葉が叩いた。勇は振り返りなんですか?と聞く 「被疑者が分かった」 「…誰ですか?」 乙葉は少し間をおいてから答えた 「白泉未希」 聞き違いだろうか?下川はもう一度聞いた 答えは同じだ 「白泉は家に居る?今連絡取れる?」 勇の返事が一瞬遅れた 「待ってください、何かの間違いですよね?」 乙葉は呆れたようにため息を吐いた 「婚約者だから捕まえてほしくないの?仕事に私情を挟まないで」 「そんなこと分かってますよ!でも、どうしたらいいか分からない…冷静な乙葉さんには分からないですよね?」 「…白泉とは私が話を聞いてくる」 乙葉が立ち去ると廊下に居た岩澄に呼び止められ、乙葉は足を止めた。 「乙葉お前は正しい、だけど真面目過ぎる。自分を閉じ込めすぎてる」 「何が言いたいんですか?」 「昔のお前はこんなんじゃなかったのにな…あまり無理するな、いつか壊れるぞ」 乙葉は岩澄から視線を外した 「私の心は、もうとっくに壊れてますから」 乙葉は岩澄の前から立ち去った。岩澄は呼び止めることも追いかけることもせず、乙葉の背中を心配そうに見つめ、岩澄は勇の席に向かった 「乙葉のことで話がある」 岩澄の話を聞いた勇は乙葉のとこまで走り出し駐車場に居る乙葉に向かって叫んだ。 「僕も捜査に入れてください、何があっても未希とちゃんと向き合います」 乙葉は少し考えてから答えた 「乗って」 「はい!」 二人を乗せた車は夜の街を切り裂くように未希の元へ向かっていた。
2話
勇と未希が出会ったのは高校生の時 勇は未希の真っ直ぐで人柄の良さに惹かれた。 雑貨屋で見かけた白い鳥のストラップ、羽の部分に赤い糸でMと刺繍されていた。それを見た勇は未希のイニシャルであるMに運命を感じ、プレゼントすることにした。その隣には自分のイニシャルのYもあり、それも購入し店を出た。 明日これを未希に渡して告白する 勇は何度も頭の中でシミュレーションをした 「あ、これ…」 「え、ありがとう」 勇は心を落ち着かせるように息をした 「あのさ!白泉さんの事、す、好き!です…」 声が裏返った。頭の中では完璧だったのに 勇は恥ずかしくて耳たぶをいじった 未希の顔が見れなくて自分の足元を見つめる。 「付き合ってみますか?」 勇が顔を上げると、未希が少し口角を上げ上目遣いをしていた。頬も少し火照っている 「は、はい」 勇と未希が付き合って一週間もしないうちに、二人が付き合ってることはいろんな人の耳に届いていた。中学の頃はカップルを見ると揶揄う人も居たけど、高校ではそういう人は居なかった。むしろみんな勉強の事で頭がいっぱいらしく、他人の恋愛事情にはあまり関心がないのだろう 「下川くん、将来何になりたいとかある?」 「警察官」 「警察か…いいじゃん!かっこいい!なんで警察になりたいの?」 「えっと…四歳の頃、一人でおつかいに行って、道に迷った時に警察の人に助けてもらって、僕すごい泣いて、安心して、僕も誰かを助けられる人になりたいと思って」 「そうか、下川くんならなれるよ、私応援する。 じゃあさ、もし私が悪いことしたら、下川くんに捕まえてほしいな」 勇は驚いた顔でえ?と聞くと未希は揶揄うように笑い嘘だよと言い勇の背中を軽く叩いた
1話
きっと誰もが秘密を抱えている。 その秘密は永遠に自分の中の奥底に沈んだまま 誰に見つけてもらうことも気付いてもらうこともない だけど、大切な人との関係が壊れるぐらいなら、秘密は秘密のままでいいと未希は思った 「僕たち同棲して一年経つけど、そろそろ結婚とか考えてみない?」 その言葉を聞いた未希は少し微笑んでから、一瞬勇から視線を逸らした。未希は勇とは夫婦になれないと思ったから、だけどそれを話したら勇を傷付けると思い未希はなんともない顔をして答えた 「うん、そうだね」 未希はコップに水を半分入れ飲み干した 未希が勇にだけ言えない秘密、それは勇の父親を殺したこと 「下川くん、お父さんの事大丈夫?」 乙葉が心配そうに聞いた 勇は一言はいとだけ答えた。 被害者は下川宗一 歩道橋の階段から転落し死亡 現場から岩澄が戻ってきた 「目撃者から話を聞いたら、被害者と加害者が何やら言い争ってた様子だったらしい、それから、ストラップが落ちてた」 白い鳥の羽の部分にMのイニシャルが刺繍されたストラップを勇がじっと見つめた。 「下川くん、どうしたの?」 「あ、いえ、なんでもありません」 白い鳥のストラップ、勇が婚約者の未希にプレゼントした物と同じ物だ。同じ物を持ってる人なんて他にも居るだろうしこれだけでは未希を疑うことは出来ない、というよりも疑いたくない 本人に確認するのが怖い、もし本当に未希が犯人だったら……?勇の心は振り子のように揺らいでいた
鏡の世界
鏡を見て思う、鏡の世界はどうなっているのだろう?文字が左右逆さまになってるのかな? そんなことを考えていると身体が突然鏡の中へ吸い込まれた。 目を覚ますと私はベッドの上に居た いつもと変わったとこはない ここは私の部屋だ。鏡に吸い込まれた感じがしたけど、夢だったのだろうか? リビングに行くと誰も居らず、飼い犬のポチがスヤスヤと眠っていた 新聞も置いてないし、弁当の準備もしていない 「パパとママ寝てるのかな?」 顔を洗い、冷凍食品を温め弁当箱に詰めていく 「おはよう、花帆」 私の名前を呼んだこの女の人は誰だろう? 「どうしたの?」 「あ、いや、なんでもありません」 「何その喋り方、他人みたいじゃない」 他人みたい?つまりこの人は他人じゃない、この人は私のなんなの? 「…誰、ですか?」 「やだな、冗談はやめてよ」 「本当に誰ですか?なんで私の名前知ってるんですか?」 「本当にどうしたの?私はあなたのお姉ちゃん、小さい頃から一緒に居たじゃない」 小さい頃から… 確かに私には姉が居るけど、私の姉は重度の発達障害でまともに話したりすることが出来ない 「アルバム、見せてもらえますか?」 いいわよと言い、私の姉らしき人は二階に上がりアルバムを持ってきた。 開くと二人の少女が笑顔で写っていた 写真の隣には短い文が書かれていた。 《花菜七歳の誕生日》 《花帆小学校入学おめでとう! お姉ちゃんと一緒に登校》 《運動会のリレーで三位》 写真の少女は確かに私だ そういえばパパとママはまだ寝ているのだろうか 「花帆、そろそろ行かないと遅刻するんじゃない?」 時計を見て慌てて家を飛び出した。 焦っていて気付かなかったけど、その時に、いや、もっと前に気付いていたらと思うことになるとはこの時の私には思いもしなかっただろう 学校に着き教室に入る 「花帆ちゃんおはよう!遅刻ギリギリセーフだね」 「もしや寝坊?」 「あ、いや…お、おはよう…」 私に挨拶するなんて珍しい、それに名前だって、いつもは名字で呼ばれてるのに…お姉ちゃんのこともだけど、一体どうなっているのだろう? 「お、花帆おはよう、寝癖付いてるぞ」 隣の席の男子が揶揄うように言った いつもなら私と目が合うと舌打ちしてきたりするのに そういえば私の机キレイになってる 上靴も靴箱もキレイになってた 「あ、あのさ、なんか大掃除でもしたの?」 「してないけど、なんで?」 「わ、私の机キレイになってるから」 「元からこんなだったぞ」 元から?あの落書きは?悪口がたくさん書かれたあの落書きは? 「私の机にはキモイとか死ねとか、悪口がたくさん書かれてた」 「悪口?寝ぼけてんのか?」 頬を抓ると少し痛みを感じた。 夢じゃない、これは現実だ 奇妙な話だが私はパラレルワールドに迷い込んだらしい こっちの世界の私はいじめもなく、やさしい普通の姉が居る。このままずっとここに居たいと思った。私がずっと思っていた理想の世界 「皆席着いて、この前のテスト返すよ」 一人一人名前を呼ばれ、紙を取りに行く 私は大丈夫、だってここは理想の世界テストの点もいいはず!誇らしげな顔で紙を受け取り点数を見ると私の顔は一瞬で曇った 「数学5点、社会20点、理科35点、英語12点、国語38点、ひどい点だね、特に数学」 頭の悪さは変わらないんだな…世の中甘くないってことかな 「花帆〜?大丈夫?珍しい点数だね、ドンマイドンマイ」 「そういう高橋さんはどうなの?」 「私?私は、じゃーん!」 机に広げられたテスト用紙の点数を見ると私よりもいい点を取っていてほぼ満点に近い点だ 「みかって遊んでるように見えて頭はいいんだよね」 「失礼な、私だってちゃんとしてるもん」 テストの点が悪くても私にはやさしいクラスメイトが居て、やさしい姉も居る。ここの世界最高! 「霜月さん少しいい?」 「はい」 放課後私は担任の先生に呼び出しされた 「あなた、こっちの人じゃないでしょ?」 「あ、えっと」 「手遅れになる前に帰った方がいい」 「帰る?…先生どうしたんですか?」 「鏡の前に立って、元の世界に帰りたいと強く念じれば帰れるから、あなたはここに居るべきじゃない、早く帰りなさい」 返事だけをして教室を出ていた。 帰る、元の世界に、絶対に嫌だ あんなとこ絶対に帰りたくない だけど、この時先生の言うことを聞いておけば良かったと後悔することになるとは…… 「ただいま!」 と言ったと同時に何かが割れる音がした 次に飼い犬が吠える声と怒鳴り声がした、男の人の声だ 音がした方に行くとお姉ちゃんが大柄の男の人に殴られていた。姉の頬は腫れおでこから血が流れていた。 「花帆…」 男が私を見る 怖い…逃げたい、動けない、声が出ない 「花帆…おかえり」 大きな手が私の頬に触れる。男の手を振り払うと 男は私の頬を殴った どうなってるの、ここは私がずっと思っていた理想の世界じゃないの? 男はずっと吠えている飼い犬を蹴り飛ばし、犬は痛そうにクーンと鳴いた 勇気を振り絞って声を出した 「これ以上やるなら、警察呼びます」 声が震えていた、目にも涙が浮かんでいる 鍵が開く音がし、中に女の人が入ってきた だらしない格好だ、手にはコンビニの袋がぶら下げられている。 「お酒切らしたの?ほら一本買ってきたよ」 男は女から缶ビールを奪い取り早速飲み始めた 女は空になったお酒の瓶や缶を見て何杯飲むんだよと文句を言うとお前だって外で飲んでるだろと男が言い返した 「花帆、上行こう、ポチおいで」 リビングから二人の言い争う声と物が壊れる音が響いた。 なんなの、どうなってるの? 「花帆、大丈夫だからね、殴られたとこ痛くない?」 私は頷く事しか出来なかった。 震える身体をお姉ちゃんがやさしく抱きしめてくれている。ポチも隅の方で丸くなっている 「お姉ちゃん、パパとママいつもあんなだった?」 「そうだよ、花帆が五歳の頃からあんなだったよ、お父さんは酒癖悪くて暴力を振るうし、お母さんは家の事何もしないで遊んでばっかり…」 私は先生が言ってたことを思い出した 「手遅れになる前に帰った方がいい」 先生が言ってたのって、もしかしてこれのこと? 元の世界に帰ったらまだいじめられる お姉ちゃんだって、、だけど、あっちの世界にはやさしいパパとママが居て、学校に行く時挨拶してくれる近所のおばさん、違うクラスのたった一人の友達が居る 今思えば悪いことだけじゃないことに気付いた 帰りたい…元の世界に帰りたい 先生が言ってた、鏡の前に立って強く念じれば帰れるって 「お姉ちゃん、私、私帰るね!」 階段を下り洗面所の鏡の前に立ち強く帰りたいと念じた (お願いします、帰らせてくださいお願いします) 「ダメだ、帰れない…」 鏡を叩き帰らせてよ!と叫び続けた 後ろからお姉ちゃんの声が聞こえてきた 「いいじゃない、ずっとここに居れば、それにもう遅いわよあなたはずっとここから出られない」 「いや、お願い!帰らせて!」 「ママ、鏡の方から声しなかった?」 「気のせいじゃない?花帆怖いこと言わないでよ」 「ごめん」 「そういえば最近、テストの点良くなってるじゃない」 「それは花帆が頑張ってるからだよ、今日もお仕事行ってきます」 鏡の向こうの私がニヤッとした感じがしてゾッとした。 [完] 解説 最初らへんで鏡に吸い込まれた花帆は鏡の世界の花帆 ベッドで目を覚ました花帆が現実の花帆 つまり入れ替わり 理想の世界ではなく、逆の世界 人の性格や特徴が現実世界と逆になっている 元の世界に帰りなさいと言ってた先生は鏡の世界から帰れなくなり花帆が自分と同じ目にあっていることにすぐに気付き心配して帰るよう言った。 アルバムの文字が読めたのは鏡の中に閉じ込められたことに気付かれないようにするため アルバムの写真やメッセージは姉と姉の友達やおばあちゃんに協力してもらった 先生が言ってた帰る方法は都市伝説 帰る方法は不明 今ここにいるあなたは現実(ほんとう)のあなたですか?
香水
手首と首元にシュッと香水を付ける お花のいい香りがする。 誰かにやさしく包み込まれるような安心する香り この香水はお母さんから貰ったもの 空になった香水をお母さんの前に置いた そして、手を合わせて目を瞑った 「お母さん、いつも見守ってくれてありがとう、これからもよろしくね」
桜
小さな花が一つの大きな木に集まるように咲いている。今年もこの季節がやってきた いつも通る道がこの季節はなんだか特別に感じる ヒラヒラと桜の花びらが風に乗って地面に落ちる 地面は桜の絨毯のようにたくさんの花びらが散っていた 来年も満開の桜が見れますように
お花見
花見の定番といえば桜だろ 花を見ると書いて花見、なのに花見と言ったら桜 なんでか知ってるか?それはね、一番最初に桜を見た人がいるんだけどその人は桜の名前を知らずに、桜の事を花と言ってたんだ。 満開に咲いた綺麗な桜を見せたくて家族や友人に花を見に行こうと言って桜が咲いてる所に連れて行ったんだ。家族も友人も誰一人桜の名前を知らなくて、みんな綺麗な花が咲いてると大盛り上がり、そこから花見と言われるようになったんだよ 私の隣を歩く甥っ子が本当なの?と聞くと さあ、どうだろうね、今考えた作り話だからね、でも、もしかしたら本当かもよと答えた