星々のモノローグ。

7 件の小説

星々のモノローグ。

おもちゃ箱の中。

彼。

蚊取り線香を見つめながら夏を想う。 私は夏が好きだ。 例えば蝉の声ひとつで、別の世界に来たみたいに思えてくる。 そして、夏は彼だから。 私は夏が好きだ。 私から彼を奪ったあの蝉が。 あの夏が好きだ。 彼は死んだ。 やたらと蝉の声がうるさい日だった。 「ねぇ、_____は、僕が____でも、_______?」 あの時なんて言っていたのか聞こえなくて、 「うん、そうだね。」 と答えていた。 聞き返せばよかった。聞き返せばよかった。 聞き返せばこうはならなかったのかもしれない。 彼は翌日、交通事故で死んだ。 大型のトラックに撥ねられて。即死だった。 私の、目の前で。鮮やかに赤い物を振り撒いて。 撥ねられた瞬間。彼が口をぱくぱくと動かしていた。 「……そんな顔しないでよ。」 と言った気がした。 彼の死後、遺書が見つかったらしい。 彼の両親に「貴方宛に。」と渡された。 封筒には、真っ白な紙が入っていて、 その紙に一言だけ。 「ねぇ、きみは、僕が死んでも、生きていける?」 そう書かれていた。 嗚呼、聞き返せばよかった。聞き返せばよかった。 死んで欲しいほど、憎らしいほど愛してる。 彼を奪ったあの夏を。 私が殺した、愛しい彼を。

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AI doll.

一次創作のBLです。 苦手な方はスクロールをお願いします。 「AIが感情なんて持つべきではない。 愛する同志よ、君もそう思うだろう?」 からから、とビーカーの中身の液体をかき混ぜながら『燃料』を作っていた彼はそう言った。 「そうですね。僕もそう思います。限りなく人間に近くなってしまう。でも、」 「でも?」 彼はドール稼働用の『燃料』を置いた。 静寂の中、ことんと音が鳴る。 多少の間があった。その数秒後、 「……いいえ、なんでもないです。」 と答えた。 “感情がないなんて、羨ましいなぁ…” くだらない言葉を飲み込んだ。彼の時間を無駄にしてはいけない。 彼はノクス。この街で一番の研究員だ。研究員というより、腕利きの人形師と言った方がいいかもしれない。 ノクスさんは "AI doll" を生み出した張本人である。 近年のAIの発達は異常だ。しかし実体がない。 少々不憫ではないか?と言ったのもノクスさんだった。 僕はアストラ。ノクスさんの助手をさせてもらっている。助手って言っても食事を作ったりだとか、部屋の掃除だとか、家事が主だ。おかげで家事スキルが上がった気がする。 僕があてもなくふらふらと街を彷徨っていた時に、ノクスさんに拾ってもらった。そのお陰で僕は、今日まで生きて来れた。 「アス、君の意見は貴重だ。聞く価値がある。 話してごらん?」 「いや、少しだけAIが羨ましいなぁって思って…」 「……何故?」 「い、いや、だって、プログラムすれば完璧になれるので……。」 とっさに言った言い訳は、多少の毒を含んでいて。 少しだけノクスさんは悲しそうな顔をしているようにも見えた。僕を不憫に思っているのかな。真意はわからないけれど。 「そう、だね。 余程下手くそな人間でなければ完璧なAIの作成は可能だ。だが、完璧とはつまらないものだよ。きっと。」 独り言のように呟く彼は綺麗で、綺麗で、目を離せなくなる。 心臓の鼓動が速くなる。あぁー、やっぱり感情なんて無くなればいい。僕は異常だ。僕は彼を愛している。容姿端麗、博覧強記、いわば才色兼備。 完璧な人。僕はこの人以外に完璧な存在に出会ったことがない。 「アス、…アス?大丈夫かい?」 「っあ!だ、大丈夫です!」 「疲れているのか?」 「全く!今日の夜のご飯のメニューを考えてて! あ、買い出し!行ってきますね!」 荷物を持って飛び出す。最近僕はおかしい。優しくされるだけでどきどきしてしまう。 (もう、そんなこと考えてちゃいけないのに! ああ〜AIになりたい!感情を無くしたい〜!!!) 叶うはずもない願いだった、そう思っていたのだけれど。 その時は掃除をしていた。ノクスさんはいつも部屋を綺麗にしていた。ただ、この日だけは違った。かなり古いの資料を引っ張り出していたり、分厚い本があったり。綺麗とは言えないが、整っていて、さすがだなぁと呑気に考えていた。 そんな中、一つだけ開かれたノートを見つけた。 人型が描かれていて、文字がびっしり詰まっていて、…どうやら設計図のようだ。 彼の作品はアンティーク調のドールばかりだ。例外はない。彼はため息をつくほど美しい作品を作る。彼の理想像なのだろうか。なら、僕もそうでありたかった。 心は曇っていくが、ページを捲る手は止まらず、いつの間にか最初のページに辿り着いていた。 一番古い、彼の最初の作品に。 「……これって、」 見たことがある。飽きるほど。名前を聞いたことがある。飽きるほど。 そのページにははっきりと、 "アストラ" そう書かれていた。 紛れもなく僕だった。今まで以上に文字がびっしり書かれていた。上書きしたり、メモを貼り付けたりもしている。 『AI dollの0作目、アストラ。 限りなく人間にする。記憶デバイスを作成予定。』 ところどころぐちゃぐちゃにされた線が愛おしい。きっと僕の事を、作品のことを考えて考えて書いてくれたんだ。とても、嬉しかった。けれど、何故か悲しかった。 「試作No.000、アストラ。」 ふと後ろを振り返ると、部屋のドアの近くにノクスさんが立っていた。 「君は一番最初の作品だ。だから完璧に人間にした。だから記憶デバイスを一から構築したし、髪の毛から内臓まで、まるで本当の人間のように模倣した。」 そう言いながら近づいてくる。彼はいつも通りだ。 「だがね、みんな必要なかった。ドールはドール。人間にする必要はない。内臓がなくても動けばいい。」 僕の前で立ち止まる。僕の目を見て、彼は言った。 「愛する同志よ、AIが感情なんて持つべきではない。……何故だか分かる?」 普段あまり喋ることのない彼がよく喋っているだけで、なんだか緊張した。 「ぁ、わ、わからないです……。」 「みんなにとって“要らない”から。」 いつも通り、変わらない口調でそう言った。 「結局は皆、都合のいい存在が欲しかったわけだ。全肯定してくれる。抵抗をしない。感情はいらない。性的な快楽を得たいのならドールに善がって貰えばいい、大切な人を亡くしてしまったらその人の模倣をすれば良い。必要なら記憶を追加、要らないならプログラムを削除。たった、それだけ。」 淡々と話していた。怖い。 「……君を、否定されたあの日。一度起動させて、動作を確認して、君は廃棄する予定だった。」 しかし廃棄をされなかった。お陰で僕は今、こうして稼動している。ノクスさんの助手をしている。 「でもね、君を、アスを目覚めさせて、 …素晴らしいと思った。アス、君は僕の作った人間だ。人形じゃない。アスは、僕の最高傑作だ。今までも、これからもね。」 優しく頬を撫でられる。彼の作った心臓が跳ねる。 何を考えているんだろう、ノクスさんは。 わからない。何もわからない。 「っ…それでも、僕に感情はいらなかった! プログラムされた感情なんて要らない! 感情がなければ、こんなに苦しいこともなかった!ノクスさんを、愛することなんて……。」 自分の不甲斐なさとか、体とか、色んなものが嫌になった。多量の毒を含んだ言葉を吐き捨てる。 彼は今、悲しそうな顔をしているのかな。 ふと傷つけてしまったことに気づき、口を塞ぐ。 恐る恐る様子を伺う。意外なことに彼は少し驚いたような顔をしていた。 「アス、君、感情が、あるのか?」 酷く冷たい声だと思った。 そうだ、彼は言っていた。AIに感情は要らない。 また、やってしまった。 僕はいつもこうで、何か取り返しのつかない事を時々してしまう。だから僕は完璧になりたかった。彼に迷惑をかけたくなかった。彼は一度も怒ることはなかったけれど。 今日が一番最低な日だった。何もかも、もう、取り返しがつかない。失敗作は廃棄処分。そのことだけはよく分かっていた。 数秒間の静寂。1人分の呼吸だけが聞こえるような気がする。 彼は口を開き 「プログラムした訳でもない…どうして……。」 そう呟くと、 笑った。 小さな子供が綺麗な宝石を見つけたみたいに、嬉しそうだった。頬が紅潮している。 「嬉しい誤算だ、アス、君、感情が芽生えたのだね?人形師をしていて初めてだ。さすがはアス。 僕の最高の助手。」 今まで、彼は人間が好きなんだと思っていた。 意見を聞くのは自分の視野を広げるため、価値観を増やすため。ドールを作るのは、この世界に好きなものが溢れれば良いと思っていたから。 しかし、そうではなかった。 「ねぇ、アス。実の所、僕は君のことを愛しているんだ。君が思っている以上にね。 アス、アストラ。僕、君のことが好きだよ。愛してる。 君を作った時から、僕はもう、 …君に囚われていたのかもしれないね。」 見つめられた。美しい顔で微笑まれる。 恥ずかしくて目を逸らしてしまう。 優しく、抱きしめられる。ふわふわと包み込まれるような感覚がして、暖かくて心地よかった。 ドールだけど、感じられるのは、彼が限りなく人間に模倣してくれたから。なんだか泣きそうだ。 「アス、僕ね、君が僕を愛してくれて嬉しい。 ありがとう、アス。」 その言葉に、何かを返すことはできなかったけれど。 彼は、ノクスさんは、満足げに微笑んでいた。

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ゆめゆめ離すことなかれ

夜、ベッドで寝ていたはずなのに、目が覚めるとアメリカンテイストのおしゃれなカフェにいた。 色彩がギラギラしていて目が痛い。 耳がキーンとするほど静かで頭痛がする。 「…誰かいませんか〜。」 歩きながら声をかけるが、自分の声は宙を舞って消えてしまう。 溶けて行く声と歩いていると、女の人を見つけた。いや、女の子だ。 頭から猫の耳が生えていて、ミニスカートのメイド服に、ローラーシューズを履いていた。 色鮮やかなのに、顔だけは無機質に無表情で少し違和感を覚える。 「あの、ここってどこですかね?少し迷ってしまって…」 そう声をかけるけど、無機質な女の子は無視をしてローラーシューズでしゃーっとどこかへ行ってしまった。 これは怒らせたのだろうか、まずいな。と考えて、少しして自分の行動に不味さを感じる。 ここは誰かの敷地なのだ。そんなことを考えもしないでずかずかと歩いてきたのはきっとダメなことだ。 小学生でもわかることを大学生にしてしてしまったことに恥ずかしさと惨めさを感じる。 とりあえずここから出ないと。 内装を見ていると目が痛くなるため、厨房らしきところに入ってみた。 先ほどのアメリカンテイストはどこへやら、ここは打って変わって清潔な研究所のように無機質であった。調理器具のような物、パソコン、真っ白な机……整列しているのか、ごちゃごちゃしているのかよくわからない。ただ、ここにいると自分が吸い込まれるような気がした。 ここは真っ白で静かだ。 そう思って歩いていると、奥の方に窓を見つけた。 人1人通れそうな窓だ。大変好都合である。 さっさとここから出よう。何か出てきたら怖いし。 窓を開け、下を見てみる。結構な高さだが、まあ、骨折とかはしないだろう。 窓枠に足を掛け、いざ、出ようとするとすごく強い力で袖を引かれた。 「えっ!?……いっ、た…」 思い切り尻餅をつく。先ほどの女の子だろうか、と思い顔を上げるが、そこにいたのは男性だった。 白衣を着て、中途半端に長く白い髪を束ねている。自分を見下げている。 家主だろうか。なら自分は怒られるのか。 ぼんやりと考えていると、その男性はこちらに目線を合わせ手を取った。 「きみ、君だね?彼女らが言っていた、侵入者。」 落ち着いているのか、慌てているのか、よくわからない口調で捲し立てる。 侵入者?彼女ら?疑問は絶えず浮かび上がる。 「あの、なんですか、侵入者って、彼女らって、 俺、いつ、ここにきたのかも、わか、わかんなくて、なにが」 言い切る前にその人は言った。 「後生だ、頼むよ、僕も一緒に連れて行ってくれ。」 「え、」 「頼む、急いで、彼女らに見つかる前に、お願いだ、後生だ、僕を逃して、僕を助けてくれ、僕を殺さないで…」 その人は泣き出しそうで、ほっとけなかった。 よく親にお人好しと言われた。自分ではそう思わないけど。ただ、困った人を放っておきたくなかった。でも、大学生になっても、ちゃんと友達と呼べる人はいない。俺はいつだって都合のいい人間だった。 しかし、まだ、お人好しはお人好しである。 「…わかりました。ここから出ましょう。一緒に。」 自分は立ち上がり、男性に手を差し出す。男性は手を取って立ち上がった。 2人とも立ち上がると、10センチほど身長差があることを知る。男性が高い。今そんなことはどうでもいいのだが。 手を握ったまま、2人、窓から飛んだ。 地面にどっとぶつかる。 男性も自分も2人して着地に綺麗に失敗していた。 なんだか楽しくなってきた。 「逃げましょう!俺の、家まで!」 「…嗚呼、ありがとう。」 走り出す先に何があるかわからないけど。 ただ、この人の幸福を溢れんばかりに願っていたような気がする。

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虚偽のお茶会。

白いうさぎを追いかけて、落ちてしまったのは大きな穴。 不思議な世界に来たと思えば帽子屋に出会って、世界の案内をされた。 その後自然な流れでここまで連れてこられた。 お茶会、お茶会であった。 不思議の国のよろしく展開で目の前には紅茶が大量に並べられていた。 たった4人そこらの数に比べて、ティーカップはいくつあるのかわからないほどであった。 みんな多分おかしいのだと思う。 お留守のティーカップを黙認して、ガヤガヤと話し合っている。 ガヤガヤというのは比喩ではなく、本当にそう言っているのだ。 帽子屋曰く、 「あー、この世界はね、みーんなおかしいんだ。 アリス、君がいないともっとおかしくなってしまうんだ。ね、僕らを助けると思って!」 僕はアリスじゃないし、助けるってどういうこと?という言葉はお腹の辺りでぐるぐると渦巻いていたが、出てくることはなかった。 目の前の紅茶を一口含む。 爽やかなレモンの香りの後に、甘ったるい味が口を支配する。 思えば、何もない自分に何かを与えようとした神様の悪戯なのかもしれない。 ありがとう神様、でもこんなのはいいです。と内心世界を拒否していた。 「ア〜リス!大丈夫?ぼぅっとしているけど。」 帽子屋に言われて気づく。そういえばお茶会の最中であった。 みんないかれた目をした虚偽だらけのお茶会である。帽子屋意外と目が合わないのは何故だろうか。それは帽子屋以外、みないかれているからである。 自問自答の末に疲れ果てて眠りたくなってしまう。意識がぼんやりとしてくる。 瞼を閉じる寸前、帽子屋はこちらを見て微笑んだような気がした。

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ぬいぐるみ

ぼくは、ぬいぐるみです。 なまえは、なんだっけ、わすれちゃったけど。 かわいい、だったかな。なまえ。 とにかく、あのこのぬいぐるみです。 あのこがずっと、ずっーと小さいころからそばにいて、泣いてるときは、ぼくをぎゅーっとだきしめた。 つらいときはよりそった。大丈夫、しんぱいしないで、君はできる子だから。でも、ちょっとやすんで。無理はしないでって。 うれしいことがあった時ははなしをきいた。好きな子に話しかけられたって。あの子はあしをばたばたさせてた。 あの子のぬいぐるみです。 でも、もうお別れかも。 あの子が大人になったら、もう僕は必要ない。 寄り添う必要は、ない。 って思ってたんだけど。 「おかーさん!このぬいぐるみもらっていい?」 もう少し、出番があるようで。 もうちょっとだけ、寄り添ってみようかな。 なんて、おもったりしてる、ぬいぐるみです。

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まあ、こんなことに意味はないわけで。

手元に血濡れたナイフをぎゅっと握っていた。 血が流れている。 目の前の道化師がだから言っただろうというようにしたり顔で笑っていた。 血が流れている。 お腹にはナイフが刺さっているのに なんで笑ってられるんだろう。 血が流れている。 「ねぇ……きみ、は、そうする、って、おもった。 あーははは…」そう吐き捨てていた。 血が流れている。 ついに力が抜けて、僕にもたれかかってくる。 血が流れている。 「だいすきだよ、……あ゛ー…う゛っは、は……」 血が流れている。 血が流れている。 血が流れている。 血が流れている。 血が流れている。 血が、血が

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夢のなかで、

「夜が怖いのかい?」 何処かから心地良い声が聞こえてきた。 あまい、あまーいクッキーみたいな声で。 ぼくの意識はわたあめみたいにふわふわで。 「……ふわふわしてる? なら、そのままで。おいで、ボクと遊ぼう。」 声が聞こえる。僕は手を取った。 ふわふわの頭ではどんな遊びをするんだろうって、すっごくきらきらしたこの世界でとっても素敵なことをするんだって、無邪気にぼんやり考えていた。 「ねえ、こんな夜があるのなら。 夜もそんなに悪くないって、思ってくれるかい?」 「おやすみ、どうかいい夢を」

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