蘭陵

22 件の小説
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蘭陵

主に詩を書いています。だいたい人が寝静まる頃、こっそり投稿しています。別で執筆活動も少ししております。

歌うたいのCコード

ピックで弦を弾いた 奏でた拙いメロディに不意に笑みが溢れて その夜を忘れられなかった ヘタクソなコード進行を聞いても それでも君は僕の音色が好きだと すぐ横で鼻歌とあくびをこぼした 陽が出てまた沈んで 部屋の電気を消してはつけて カーテンを開けては閉めた 道端の木々の色や 草花の色も移って たまにはその姿を消した 日々上達するこの手に自惚れて いつしか君を思い出せなくなったら きっと僕だけが子供のままで歌うんだ 君のために始めた歌うたい でも黒い夜の過去はいくつもあった それはきっとお互い様なんでしょ? どうして分かっていて止められない 悲しい、寂しい、切ないが 痛いほどに引き離される二人の末路さえ ほんとに君を思い出せなくなったら 今も初めて引いたあのコードを弾くのさ 6畳の部屋君を隣に弾いたCコード 明るかった、始まりの音 それでも君を思い出せなくなったら 僕はCmを弾こう

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歌うたいのCコード

望星のすすめ

夜、空を仰ぎ見れば 無窮に広がるその中に 幾つもの星々を見ることができる あれらは空に散りばめられた宝石や砂粒か またあの運河は神の垂らした乳の跡か 星々や、それらを結んだ星座 またそれらを含む銀河に渡るまで 夜空は今夜も私たちを夢中にさせるように 古来から多くの人々を見惚れさせてきた それらは神話を継承し もしくは常に多くの人々の記憶として存在した どことなく心震わすその景色は 時代を選ぶことなく崇高なものとしてあり続けた それはもしかすると この地球に限ったことでもないかもしれない 我々がこうして星を愛で、崇め 歌や文字を編むのと同じように 今、この時もどこかの星で 同じ星を見つめる目があるのかもしれない そして私たちと間接的に目を合わせて 星はその間を取り持つ存在になり得るのだとすると やはりその存在は偉大であるといえよう 古くは約5000年前 メソポタミアの羊飼いはその輝き同士を結んで そこに動物や人物の形を見出した これこそが星座という概念の始まりであり 以降、学者や、船乗りなどがさらにそれを拡大した また、夜空と時間は意外な接点を持っている 私たちが普段見ている夜空は 幾億年も昔の宇宙の姿であることを知っているだろうか 私たちのいる地球から最も近い星は ケンタウルス座にある赤色矮星の 「プロキシマ・ケンタウリ(Proxima Centauri)」 距離は約4.2光年である 1光年とは光の速さで1年間に進む距離の単位である つまり最も近い星であっても その光は地球に届くまで約4.2年かかる つまり観測者はその星の 4.2年前の姿を見ていることになる では最も遠くにある星は一体どれほど離れているのか まず二つの定義を設けるとしよう 一つは肉眼で見えるものの内という条件付きのもの もう一つは無条件とする 前者はカシオペヤ座V762で 地球から約1万6000光年離れているとされている 天体という大きな括りなら アンドロメダ銀河(M31)で 地球から約250万光年離れている また後者はエアレンデル(Earendel)で 地球から129億光年離れている さて、宇宙の壮大たるその輝きに魅せられる時 我々は同時に過去をも見つめているのである

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望星のすすめ

美麗的風景(愛すべき景色)

濃い霧も晴れて いつかその向こう岸も見えるだろうか 水面に揺れる月は いつかその下に泳ぐ魚たちも魅せるのだろうか 今私の目の前には 老いゆく村の姿があるのだ 長らくこの地とは決別していたが 理由もなくただ思い立ってまた戻ってきた 都市は行き交う人々の喧騒と 立ち並ぶビルの群れにより一層栄える一方 ここはあの頃から何も変わってはいない 元来ここは父の故郷だった 幼い頃は正月になると 家族総出で都会からはるばる出向いては 祖父母と新年を祝ったものだ しかし私も年頃になってから そのようなものは滅多になくなった あぁ 歳月の流れには何人も逆らえはしない 思い出の酸いも甘いも 気付かぬままそれら全てをここへ置いてきてしまった この山並みと そこに生える(映える)木々のように 私だって何も変わってはいないのだ 口ではここをど田舎だと蔑んでいても 心の奥底では都会の冷たさにうんざりしていた そして流離の憂いのみが残り 今だってかの山を仰いで 自然と目から涙を流しているのは 他でもない私なのだ 今宵またこの丘で星を見よう 少なくとも今だけはきっと 老いゆくこの村の行く末を見届けるべきだろう

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美麗的風景(愛すべき景色)

ヒヤシンス

街並みだけがうっすらと残った 僕の記憶の中に確かに君は居た 気品に満ちたしぐさと 春のうららかさを閉じ込めたような瞳に 僕が恋心を寄せたのもまた確かなことだった コーヒーの苦味だけが残った 僕の感覚すらも未だかつてのまま 純白が映えるカップと かつての君が愛してやまなかった黒い味に 僕も釣られてしまったのもまた確かなことだった 真冬の寒さだけがここに残った 僕の心の中に確かに君は居た 空になった恋心と めぐる四季が時の流れの無情さを知らせて 燃え尽きた運命の導線が崩れるのだった 記念日に君がくれたこの鉢の球根は いずれ美しい花をつけて また君を思い出させる これだけは捨てられなかった この命だけは捨てられなかった

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ヒヤシンス

恩恵の三つ栗

あるところに栗が三つ落ちていた。 そのそばには紙が置いてあり、 そこには以下のように書かれていた。 その栗は食べるとそれぞれ、 1:資金力 2:権力 3:腕力 を得ることができる。 しかし食べられるのは1つだけで、 2つ以上食べると死んでしまう。 また食べた後も、 その人にはどの栗を食べたのかが分からない。 そして、タチの悪いことに栗には紙に書かれていない重大な欠陥があった。 その栗の効果を信じなくなると、 その人は死んでしまうのだ。 あなたはそんな栗を食べたいだろうか? あるボクサーは1の栗を食べた。 その後あらゆる試合で勝ち、多くの資金を手に入れ、 人々から神だと讃えられた。 結果的には確かに莫大な資金を手に入れたが、 ボクサーには最後まで自分がどの栗を食べたのかが 分からなかった。 彼は結局、 あの三つの栗には効果など無いと思うようになり、 成功は自分のものだと思い込んでしまった。 ある画家は2の栗を食べた。 その後彼は今まで描いた全ての絵を売って、 貧しい人々へ寄付をした。 人々は彼の絵を敬い、 彼の絵はそれなりに売れた。 多くの人間に煽てられて、 彼は自らの行動に自信を持った。 自分の手で自らの力で貧しい人々を救っているのだと、 食べた栗など忘れて優越感を覚えた。 ある与党議員は3の栗を食べた。 彼はある国家で野党の議員とモメて殴り合いになった。 彼は相手をコテンパンにしたが、 国民からの評価は下がり、 余生を細々と過ごす羽目になった。 栗のことなどは忘れて自分は運の悪い人間だと思い込んだ。 その後彼らがどうなったかは想像に容易い。 人は皆傲慢な性質を持つ。 どれほど出来た人間でも、 成功は全て自らが作り出したのだと主張する。 ただ、何時も知らずの間に受けた施しというものは存在する。 真に賢い人間は、 何が恩で、何が悪かを明確に見極める。 そして受けた恩は決して忘れはしない。 それは恩がめぐるものであると信じて疑わないからである。

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サウダージ 序章

“私が死んだらその亡骸をどこか遠い海の底へ沈めて欲しいー。” “そして、それは君でなければならないー。” 28年前ー。 「知ってるか? 鉛筆一本で線を描ける距離は約56キロらしいぜ。」 彼は唐突に、 私へ向けてくだらない豆知識をひけらかした。 「ピンと来ないわ笑」 私は彼と話したくなかった。 当時の私はひきこもりがち、 彼らのような陽気な会話など得意ではなかった。 ただ彼を突き放すように、背を向けて言い放った。 そしてそのまま立ち去ろうとした。 まさかその選択を28年後までも後悔することになろうとは、 当時の私は思いもしなかった。 「オゾン層よりずっと上!」 私はドキッとした。 それは彼の答えそのものに驚いたのか、 はたまたその声量のためかはしれなかった。 確かなのは、 その場を離れたい一心の私の歩みを止めたという事実だった。 同時に私の未来の何かが変わる気がした。 先程から抽象的なことばかりで申し訳ない。 ただそれこそが、 この物語で最も重要な部分であることも理解しておいて欲しい。 もう過去に戻ることのできない、 悲痛な私の嘆きを聞いて欲しい。 この儚く曖昧な感情を理解できなければ、 きっとこの話は理解できない。 フィルムカメラのあの色味、 あの淡い、暖かな風景があの頃にはあった。

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サウダージ 序章

雲外蒼天

街を取り巻く空気がしっとりと冷たい 雨のひと降りした後の 人々の気配が戻った街の中 交差点や信号 路地裏に室外機 ゴミ箱と雨だまり 今日はどうも綺麗な気持ちになれない 街中の無骨で俗なものばかりを見てしまう 用心深く畳んだ傘を握りしめた私は 近くの民家の窓に健気に吊るされた てるてる坊主を見た ささやかな祈りも届いたのだろうか 依然街を覆い隠す暗い雲の小さな切れ間から さっと一筋の光が差して その窓だけを照らしていた 雨の香りと街の喧騒の中 何か美しいものを見た気がした 大人になって 小さな幸せを忘れていた 私はただその光景に呆然と立ち尽くし 図らずも顔に少しの笑みを浮かべてしまった そしてまた歩き出した 雲に覆われた暗い日だからこそ 繊細な光の奇跡も見えた 長いこと忘れていた 日常の小さな幸せは 皮肉にも 私の嫌いな雨が教えてくれた

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雲外蒼天

カノープスの雪解け

凍てつく北の大地 ひとりの旅人は雪に足を取られつつ 大きな一枚のマントで身体を抱えながら 霜だらけの顔だけを出して歩いてきた 彼は針葉樹林の前で立ち止まり そして大きく天を仰ぐようにして 麓から雪山を見た どうしてこんなに 近く迫ってくるように見えようか それは大きな風と雪の唸り声をあげて 人を近づけまいとするように 周りを吹雪で覆い隠して 神秘的なその頂を見せまいとしたのだった その旅人は寒さがどうでも良くなるほど 凄まじい恐怖を覚えたが とうとう決心を決めた顔つきをして 前を向いて針葉樹林へ進んで行った 私は少し離れた 丘上にある山小屋から彼を見ていた 毎朝食後に暖かなコーヒーをすすり 窓の外を眺めるのが日課だった 奥に見える雪山の名は「カノープス」と言い 春には雪解け水が小川をつくり 動物たちが姿を現す 夏には綺麗な花をたくさん咲かせ 秋には木々が紅や黄色に染まり イワナ、ニジマス、アユなどの美味い魚が釣れ 冬には荘厳な雪景色が美しかった だから私はこの山が好きだった しかしいつの頃からか この山は自殺の名所として姿を変えてしまった 特にこの冬の時期に 彼らはあの山頂を目指して小屋の前を通る そして今日もまた1人 私の前を過ぎていったのだ あれが「自殺山」の異名がついてからというもの その周りは吹雪が覆うようになった まるで自らを恥じているかのようであった 彼が針葉樹林に入ると吹雪が一段と激しくなって その姿が雪の中に飲み込まれていった 私は暖かなコーヒーを手にし 窓から目を離さなかった 彼が山に向かって歩みを進めるその姿には 何か覚悟のようなものが感じられた まるで決して戻れないと理解した上で歩いているかのように カノープスはもう長い間人々を試す場所となってしまっていた 自ら命を絶つ者 人生に行き詰まった者 そしてそれらを乗り越えられなかった者たちが 山の頂を目指してここを通り過ぎていった 私もまた彼らの姿を見守りながら 心の中で祈りを捧げる日々を送っていた だが今日の旅人は少し違った 彼が歩みを進める先には ただの「終わり」ではない何かが感じられた それは私が長年見てきた者たちにはない 何か強い意志のようなものだった 彼が雪山を登り始めたその時 私はふと自分の心の中で何かが揺れるのを感じた 彼の背中が遠ざかる中 何かとても古い記憶が蘇ってきた それは私がまだ若かった頃 最初にこの山に来た時のことだった ❄︎❄︎❄︎❄︎❄︎❄︎❄︎ 私はまだ若かった あの頃 私は都市の喧騒から逃れるように ただ一人でこの雪山に足を運んだ 何かを求めていたのかもしれない あるいはただ無心で 見知らぬ場所に自分を投げ出すことで 心の中に積もったものを洗い流したかったのかもしれない そして私は人生の中で大きな迷いを抱えていた 仕事も 家庭も 未来に対する希望も すべてが曖昧で空虚な日々が続いていた 人々の期待に応えなければならない 責任を持たなければならない そんなプレッシャーに押し潰されそうになっていた しかしどこかでそれを解放する場所を求めていた 偶然 この山のことを耳にしたのはそんな時だった 私が最初に来た時 雪山はどこまでも美しく 静かな場所だった 広がる白銀の世界に身を委ねるとすべての音が消え ただ雪が舞い 風が吹いていた 世界の中心に立っているような そんな気がした 誰にも邪魔されることなく ただ自分だけがそこにいる それが心地よかった 私は一人で山小屋を見つけ そのまま泊まり込むことにした 雪が降り続け山の静けさに包まれる中で 時間の流れさえも忘れた 外の吹雪がひどくなった日 私は窓から雪山を見つめながら まるでその山が 自分の心の奥底に隠れた何かを暴いていくような感覚を覚えた でもある時から 私は次第にこの山の持つ「暗い力」も感じるようになった この山はただ美しいだけではない 人々が追い詰められ 絶望を抱えてここに訪れる場所でもあった そのことを知ったとき 私は不安を感じるようになった この山は私にとっても避けられない 運命のようなものを示しているように思えた そして私はこの山小屋でひとり年を重ねていった 人々が来るたび私は彼らを見守り 心の中で祈る 山の力は私にとっても試練であり 何も言わずにその力に従うしかないのだと感じ始めていた あの最初の訪れから何年もの月日が経ち 今ではこの山のことを他人事のように語ることもなくなった それでもこの山には 私にとって不可解でありながらも 深い魅力があることを否定することはできない それがこの山に引き寄せられる者たちの 心情なのだろうか そして今 あの旅人が山に向かって歩き出した時 私はまた一度 この山が彼に何を見せ 何を教えるのか 見守ることになるのだ 私の手は微かに震え コーヒーの湯気が揺らめく中で再び窓を凝視した 吹雪の中 彼の姿はますます小さくなり やがて視界から消えていった だが私は確信していた この山が彼に何かを与えるか または彼が何かを山に与えるのか それを見届けるべきだという思いが強くなった その翌日の午後 風が静まり 雪の音だけが響き始めた 私は窓の外に目をやり またコーヒーを口に運んだ 今日は特に寒い けれど山の美しさには 少しだけでも温かさを感じられる気がした 「彼が戻ってくる時、きっと何かが変わる。」 そう信じて 私はもう一度目を閉じ 心の中で小さな祈りを捧げた 「お前の心も、ようやく雪解けのようだな。」            〜親愛なるカノープス〜 余談だが そのあと私も雪山へ登った 久しく雲一つなく晴れたいい日だった 頂に立つと雪に埋もれた絵を見つけた 淡い色彩で描かれた優しい絵だ あの山本来の良さを見出し よく描けていた あの旅人のものだろうか 私は彼のことが気になって その後かなり調べたが 彼の行方はわからないままだった ただしばらく経って 近くの村で娘を救ったある旅人の話を聞いた 彼はすでに故郷に戻ったらしいが 以前の生業は画家だったとか 今ではその娘と幸せな家庭を築いて 料理人になったとか 彼は雪山にぬくもりを与え 雪山は彼に幸せを与えた 私はこの2人に感謝しなければならない あるのどかな雪山の麓 その恩恵を預かって 私は今でもこの小屋で毎日コーヒーを啜っている

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カノープスの雪解け

ジョバンニのように

草原の静けさに包まれて 目を覚ますと 昼の疲れがまだ残る 本を開いたまま眠り込んでいたのだろう 風がそっと頁をめくっていたようだ 小川のせせらぎが耳に届き その水面に映る星々が まるで手のひらで掬えそうに感じた 星がうっすらと静かに揺れている ふと空を見上げると 満天の星が広がり その輝きはどこか手に届きそうで でも どれも遠すぎる 遠すぎる 手を伸ばしても あの星々は無限の彼方にあり どんなに願っても 人の一生では近づけないことが なんだかとても不思議で 同時に胸がひどく切なくなる 星の光が 遥か遠くの時間を越えて 今ここに届いている その輝きを感じるたび 自分もまた 無限の中に小さく生きていることを ただ静かに受け入れていた

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ジョバンニのように

うららかな日々

音色が咆哮を模しても 壮大な叫びは列仙のみが知った 瞳孔は狭窄して霞み 私はあまたの星座のなかに 忘れかけた日常の営みを見た 日々はうららかだった 雪解け小川も澄み渡れば まだ見ぬ青葉の色も脳裏に浮かんだ 日々はうららかだった もえた緑と謳歌す蝉の声 海のほとりではしゃぐ制服の君が見えた 日々はうららかだった ベージュの服が似合った姿を 青北がそっと吹いた 日々はうららかだった オリオンは高らかに唄い 君は仰ぎ無窮を指差した 私は確かにその日常に彼女と居た それを思い出してもなお 瞳から頬をつたる涙は 私の鼓動が最後のひと刻みを迎えるまで垂れた

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うららかな日々