鴉君。

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鴉君。

カァー。こんばんは、カラスです。 とある通信制高校に通う鳥頭です。 投稿も反応もウルトラ激遅です。がんばります。 自分の作品に一つもいいねを押さずにフォローしてくる人は信用してませんのでご了承下さい。 Twitterもやっております。絵を載せてるだけですが良ければ。

「不思議なお店」研究レポート 序論

2024年10月30日(水) 「不思議なお店」研究レポート 序論         冥界異世物研究所 所長         ゴースト/S/00 東雲玲 1.目的 人間界にて噂されている「不思議なお店」と呼ばれる特別な店舗達について調査する。 2.「不思議なお店」とは 一般的な店舗と違い、何が特別なモノを提供するとされている数店舗のことを指す。中には店舗の場所すら移り変わる場合もあり、またお金を取らない無償提供も多くある。 3.「不思議なお店」とその店長一覧 ・異世界カフェ 時ノ音累 ・ノゾミライ図書館 時ノ音狛 ・イフレコード 時ノ音和吉 ・思い出ケーキ屋 赤峰カナタ ・忘れられた雑貨屋 宙野あき ・キッカケお香屋 アナイス・ノーチラス ・ゴーストスイーツ ミニゴースト/S/35 幽霊 ・BAR:DROOM ニック・アンホルツ 怪異 ・贖罪レストラン 元カルラ・ベッカー 現ドロマ 地獄の住人 ・ジハンキ-ヨリソイ 不明 人間に近い何か ・宿屋【   】 不明 妖怪と見られる ・狂薬屋 不明 悪魔や邪神の類と見られる 4.研究動機 一覧の中にある「ゴーストスイーツ」を営むミニゴースト/S/35より「不思議なお店」の存在を知った。彼の話したことはどれも不可解なことばかりで、興味を持ち始めた。 5.方法 「不思議なお店」を運営する店長達へ話を聞き、何が目的か、なぜ店を開くことになったかなどを調査する。 時代が違う店舗の場合は、テレポートルームに設置されている時代移動装置を使用する。 ※ジハンキ-ヨリソイ、宿屋【  】、狂薬屋の店長は未だ正体が不明である為難易度や危険度が高い。特に狂薬屋はこちらへ害のある生物の可能性が高い為、聞き込みの際は細心の注意を払う必要がある。 危険だと感じた際は即刻その場を立ち去り、研究を断念することとする。

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「不思議なお店」研究レポート 序論

バケモノ秘密基地 おしゃべりなニア

今日のニンゲンは…… 「自分の居場所が分からない」ヒト。 お話し相手は…… 半分人間半分ゾンビの女の子、ニア。 ブルーハートイーターの温室へご案内。 二人とも、ごゆっくり。 ここ、良いとこでしょっ?このでっかい青いお花!なんだっけ、名前…確か、ぶるーはーなんちゃら…みたいな? とにかく、この花は周りの生き物のブルーな気持ちを食べてくれるって言われてるらしいよ!すごいよねっ!…このお花が、キミの嫌な気持ち食べてくれたらいいなぁって思って。 あ、ねぇねぇ!そのコーヒーってやつ、おいしい?ここの飲み物と食べ物はユウザお姉ちゃんが作ってくれてるんだけどね、うちもコーヒー飲んでみたいって言ったら“まだアナタには早いんじゃないかしら”って言われてさっ。 “おいしいけど、確かに君には苦いかも”?まじかぁ、残念。 あ、ごめん。うちのことばっかり話しすぎちゃった。えっと、キミは…「自分の居場所が分からない」ヒト、か。 そっか。居場所…うちも、前まで分からなかったな。うちね、なんか変なとこ…ジッケンシセツ?って所に居たんだけど、うちはなんか…シサクヒン?シッパイサク?らしくて、よく分かんないけど、生まれた時から嫌われてたなぁ。 そのジッケンシセツから捨てられて、それから色々なとこをウロウロしてさ。でもどこにも、うちを受け入れてくれる居場所はなかった。半分ゾンビなんだから、そりゃそうだよね。知ってはいたんだけどね…。 それでいつしか、ここに辿り着いてた。ここは、他の場所とは全然違ったんだ。ここには、バケモノしかいない。だから、半分ゾンビでもいい。それが、なんか、すごく…安心したんだっ。ここはうちがうちでいれる気がしてさっ。 “居場所”ってきっと、こういう場所のこと言うんだろうなぁって。自分が自分でいれる場所…かなっ。 そんな居場所が無い時って…すごく、嫌な気持ちになるよね。キミの気持ち、分かる気がするな。自分が認められない場所をさまよい続けるなんて、マッピラゴメン、だよねっ。自分を認めてくれる場所に行きたいに決まってるよねっ。 …えっと、話すのが嫌だったら全然言わなくて大丈夫なんだけどさ。キミのいる所って、どんなトコなの…?キミはずっと、それもとっても大きな、嫌な気持ちを背負ってるよね。キミをそんなにするトコだから、相当嫌なトコっていうのは分かるんだけど…。 「自分のことを何も知らない人が一部屋に三十人集まる場所」!? さささ、三十人!?うっそ…こわっ!!メチャンコ怖いトコにいるんだねっ!?この秘密基地だって、こんなに広くて一日10バケモノぐらいしか来ないよっ!?バケモノだからいいけど、キミの気持ちが分からないニンゲンが、しかも三十人!!それに、ここより狭いトコなんだよねっ!?えぇぇっ…ええぇぇっ!? それは…とってもキツいよね…?そんな場所に、毎日行かないといけないってこと…!? 「そこには一週間に5回行く、それに家もあんまり好きじゃ無い」 ニンゲン三十人部屋に、一週間に5回…しかもおうちに帰って来ても、そんなに居心地が良く無い…マジか。それ、すごくすごく、辛いじゃん…。 が、頑張ったんだね、すごく。キミは頑張り屋さんだよ…すごいよっ。うちじゃ絶対無理…よくここまで耐えれたねっ。そんなカンキョーじゃあ、居場所が欲しいとも思うよね…トーゼンだよっ…。 誰かを褒めたい時、ニンゲンは頭をナデナデするって聞いたんだっ。ナデナデ…こう、かな?あ、やばっ!ちょっと勢いありすぎたかなっ!?キミの髪の毛がボサボサになっちゃった!ごめんね!? …? ……!! キミって、笑うとカワイイんだねっ!笑った時のクシャッっていう顔、すごく似合ってるっ! …ねぇねぇ、もし、良かったらなんだけどさ。うちは…君の“居場所”に、なれるかなっ? うちの居場所は、ここなの。ここのみんなは、半分がゾンビでも、うちのことを認めてくれた。だからうちも、キミにとって、そんな“居場所”に…なれるのかなってさ。 「また来てもいいの?」って? も、ももももちろんだよっっ!来てっ!!いつでも来てっっっ!!うち、ここで待ってるっ!うちも、またキミとおしゃべりしたいっ! 「私も、君と話すの楽しかった」? やったっ!じゃあうちら、これから“トモダチ”だねっ!! 何か嫌になったら…いつでも来てねっ。待ってるよ! 今日のニンゲンは… 「自分の居場所を見つけた」ヒト。 お話し相手は… 「トモダチが増えた」、ニア。 ブルーハートイーターは、今日は何も食べていない。 何故なら自分が何かしなくとも、赤髪の少女がやってくれるから。

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バケモノ秘密基地 おしゃべりなニア

魔王城の階段

あぁ、またか。 大きく禍々しい扉を決意に満ち溢れた顔で開け放ち、僕に向かって歩いてきた。 来ないで、来ないでよ。もう、人間の悲鳴もモンスターの悲鳴も聞きたくないよ。 この段差をもっともっと高くして、この子を通せんぼできたらな。 僕は、魔王城の階段。城内の高低差を繋ぐ、勇者と魔王を繋ぐ…そんな階段。 僕は、この役割が嫌だ。何回も踏まれて体が痛い、とかそう言うことじゃない。生きていないから、痛覚はない。 ただ、心がある。だから、心が痛いんだ。 どうせ今僕の真上を歩くこの子だって、魔王に殺される。人間の悲痛な叫びがこの城内に木霊する。後々この子が殺されたを知ったこの子の家族が、復讐にやってくる。そしてまた、魔王に殺される。そうやって繰り返していく。 もう嫌なんだ、そんな悲しいループは。 「階段」 僕を呼ぶこの声は、さっきの扉だ。 「…また、なんだね」 「そうみたいだな」 僕たちは魔王の実験の失敗作。特に扉君は心が強く残っているらしいから、唯一人間やモンスターとお話ができるらしい。 「今日もお話、したの?」 「あぁ。だが、まるで聞かねぇ。ま、いつものことだけどな」 「そっか…そうだよね」 いつも強がっている扉君の声は、どこか悲しそうだった。 あの子が、僕を登り始めた。魔王のところへ向かっていく。死へと、向かっていく。 僕は、どうにかこの段差を高くできないかとむずむずした。ちょっと力んだりしてみたものの、モノである僕の体が変わるはずもなく。鮮やかなレッドカーペットが敷かれた登りやすい段差の僕を、あの子はぐんぐん進んでいった。あぁ、僕はやっぱり非力だ。まぁ、モノに力を求めるなと言われればそれまでだけど。それでも心はあるわけだから、結局悲しくなってしまう。 お願い、行かないで。お願いだよ、お願い…。 あの子が、僕を登り切った。扉君と違って僕はこの声すらも、あの子に届かない。まぁ話せたところで、扉君みたいにさらに虚しくなるのかもしれないけど。それでも…一度でいから、無視されてもいいから、この声を届けてみたかった。でもそれは叶わないって、分かってる。叶ったところであの子が進む事実が変わらないことも。 いよいよあの子の姿が見えなくなった。あぁ、またなんだな。僕はとっても、悲しくなった。目があったら泣きたい、そんな気持ちだ。 「ねぇ、扉君…あの子は、どんな子だったの?」 「お前…毎回それ聞くよな。だからいっつもそいつの悲鳴が聞こえてワンワン言ってんだろ?いい加減聞くの辞めたらどうだ、悲しくなるだけだぞ」 扉君はこんな言い方だけど、僕にうんざりしている訳じゃない。悲鳴が聞こえて毎回泣き言を呟く僕を心配しているんだ。確かに扉君は正しいことを言ってる。毎回その子に感情移入しちゃうから、毎回わーわーしちゃう。それは分かってる。 でも、でも… 「あの子が肉体的に死んでも、僕らが記憶していれば…なんか、生きてることになる気がして」 「んだそれ。死んだって事実は変わんねぇだろうが」 「そうなんだけど!そうなんだけど…でも…なんか、知らないよりかは知ってた方が、生きてそうな感じ。 扉君だってそうでしょ?悲しくなるなら話さなければいいのに、毎回そこに来た子に話しかける」 「…どうせ死ぬなら、な」 重い沈黙が続く。扉君は隠してるつもりなんだろうけど、僕には分かる。扉君も、目があったら泣きたい状態なんだ。僕と、同じだ。 「…お前さ」 扉君が一言、思いついたかのように呟いた。必死に隠してるけど、悲しみ疲れたような声をしていた。 「もしあいつが、魔王に勝ったらどうする?」 「えっ」 あの子が、魔王に、勝った、ら…? 「悪い、変な質問なのは分かってんだ。でも、ほんと何となくだけどよ…あいつ、他の奴らとは一味違う気がしてな」 それは…ちょっと僕も思う。何と言うか、背負ってる物が違うっていうか…とても、思い詰めた表情だった。真剣で、決意が固くて、でもどこか優しそうな声。今までの子は“絶対に倒す”っていう感じだったけど、今の子は…“絶対に救う”って感じ、かな…? 「…確かに、ちょっと違うかも」 「だろ?だからさ、もしかしたら…なんて馬鹿なこと考えちまう」 「そっか、分かるよ」 もし、あの子が魔王を倒したら…そうだな、あの子とちょっとでいいから、話してみたい。扉君を通してでもいいから、この思いを届けてみたいな。 「もしあの子が勝ったら…あの子と話してみたいな」 「…そうか」 「扉君は?」 「そうだな…とりあえず、ありがとうが言いてぇ。それから…贅沢かもしれねぇが、魔王城とは違う扉になりてぇな」 「あ、それ僕も!僕も、ここ以外の階段になりたいな」 「じゃあそんときは同じ施設にしてもらうか」 「うんっ!」 あの子が魔王を倒すかどうかもまだ分からないのに、僕は久しぶりに嬉しくなった。扉君は、まだ僕と一緒にいたいと思ってくれていたんだなって。 「ねぇ、扉君」 「ん?」 「これからも、なんなら来世も、友達になってくれる?」 変な質問なのは分かってる。でも、聞いておきたいんだ。今のところ、一緒にいたいと思う存在なんて扉君しか居なくて、唯一の心の拠り所なんだ。だから、これからも、来世も…。 「来世、か。…ま、行けたら行くよ」 「なにそれ!それ行かないやつじゃん!」 「しょうがねぇだろ…来世の話なんか分かるもんか」 「そういうことは置いといて!行きたいかどうかの話!」 「あー?もうしょーがねーなー…そりゃお前んとこ行きてぇよ」 「よしっ!言質取りました!もう一生忘れなーい!」 「あっ!てめぇ調子のるなァッ!」 この役割も、この場所も、大っ嫌いだ。 でも扉君と話せるのは、悪くない階段になれたと思うな。

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私のキッカケ

その日は、自室の隅で泣いておりましたわ。 男手一つで育てて下さったお父様に泣いている姿など見せられません故、誰にも気づかれぬよう静かに、ただ泣いておりました。 まぁ何か…嫌なことがあったのでしょう。その後の出来事が衝撃的すぎましたので、何故泣いていたかはよく覚えておりません。 髪留めを取りオウムちゃんを胸に当て、静かに泣いていました。 すると男性の声で、ふふっと微笑む声が聞こえたのです。一瞬お父様かと思いましたが、部屋のノックは聞こえませんでしたし、何よりお父様より若い声でした。当時の私は頭がぐちゃぐちゃでしたもので、よく分からないままとりあえず顔を上げました。 そこには、不思議な男性がいらっしゃいました。深い紫の長髪、病的なまでに白い肌、くたびれた白シャツに黒いセーター…まぁ正直に申し上げれば、なんて邪悪で怪しい方なんだと思いましたわ。 その方はこちらを見て微笑みながら、私の顔を覗き込むようにしゃがんでいました。 私はその怪しい姿を見て驚き、涙も拭かないまま後退りました。理解が追いつかない私を笑いながら、説明を始めました。 まず、自分を悪魔だと名乗りました。自分の魔法で、ここまでやって来たと。確かに悪魔の話はたまに耳に挟みましたが、最初はもちろん信じられませんでした。何故こんな所に、何故未成年の私に、しかもよりによって泣いている途中に…と、考えれば考えるほど分からなくなっていきました。 お名前は聞いたのですが、長くてよく覚えられませんでした。 アメ…メフィスト…フェ…やっぱり今でも思い出せません。ですので当時はとりあえず“悪魔様”とお呼びすることにしました。 次に、悪魔様が私に何の用なのかをお聞きしました。すると、悲しんでいたから、と悪魔様は答えました。ここだけ聞けば良い人なのかとも思うかもしれませんが、不気味に口角を上げ本当に悪魔のような笑みを浮かべていましたので、恐らく人間の不幸が好きなんだろうなと察しました。 そして悪魔様はポケットから一つの瓶を取り出しました。満点の星空のような鮮やかで美しい青色の液体が入っていたのを、よく覚えています。その瓶を私の目の前で見せ、そしてまた不気味な笑顔で悪魔様はこう言いました。 “君はこれから、どうなりたい?” そんなこと、急に聞かれても分かりません。私は一体、どうなりたいのでしょう。私は液体から目線を外し、黙りこくって考え込みました。 どう…どう、なりたい?何がしたい? 強く、なりたい?いや、特別になりたい…?何かを変える…キッカケ…そうだ、キッカケが欲しい…のかしら。 そんなことを考えていると、悪魔様は私の顎の下に手をかけ、私の顔を上げさせました。悪魔様の鮮やかで引き込まれる紫の瞳が、よく見えました。この時でしょうか…この方が、本当に悪魔だと悟ったのは。悪魔様は優しい声色で、私にこう囁きました。 “変わりたいんでしょ?” …お父様に、お前は思ってることが顔に出やすいぞと言われたことがありました。やっぱり私って、分かりやすいのでしょうか。悪魔様には、私の心などお見通しだったようです。悪魔様はきょとんとした私を置いて、話を続けました。 “大丈夫、もうこんな隅っこで泣くことなんてないよ。僕が変えてあげる” 悪魔様はもう一度あの瓶を見せ、蓋を開けました。…優しい、香りがしました。よく覚えています。あれは、花の香りだった気がします…液体の色もあいまって、アスターの花のようでした。 この方が、本当に、私を変えて下さるのでしょうか。理解が追いつかないまま、「変われる」という言葉だけが頭に…心に木霊し、私はただその液体を見つめていました。 そのまま私は、過去のことを思い出しました。お母様は…離婚して離れていきました。お父様だけが、私を守り続けてくれました。今までずっと、ずっと、お父様に守られっぱなしの人生でした。私も、お父様のように…立派で強い人になりたい。今度は誰かを守れるような、誰かの支えになれるような、そんなすごい人に…いつも憧れていました。 弱い私から強い私に変わりたい、ずっとそう思っていました。 その時、ハッと目が覚めました。 “嫌です!” 私はそう叫び、悪魔様の持っていた瓶を払いのけました。瓶は床に落ち割れ、液体が絨毯に染み込んでいきました。私は、少し息が荒くなりつつも、心を取り戻しました。 思い出したんです。…いや、やっと理解したんです。 “変わるのは、私です!” “変わらなきゃいけないのは、私なんです!” “誰かに変わらさせられては、私ではなくなるんです!!” いつもお父様に守られっぱなしでした。それではだめなんです。 誰かにやらされては、それは私ではない。 私は私のまま、変わらなくてはいけない。 少しずつでいい。 最初は、誰かに手伝ってもらえば良い。 ただ、少しずつでいいから、 自分の力で、変わらなきゃいけないんです。 それにやっと、気がついたんです。 “おやおや、1人で出来るのかな?僕のかわいいお嬢様” 悪魔様はからかうように私に聞きました。立ち上がった私を、しゃがんだまま頬に手を当て見上げていました。 “もちろん、1人でなんて出来ません…貴方の言うとおり、私は頼りっぱなしのお嬢様ですので。だから、私は貴方を…利用する予定です” 先ほどの液体…不思議な香りがしました。誰の心も変えてしまうような、そんな香りでした。あれを研究したら…あれを、人間を良い方向へ変える“キッカケ”になる香りに出来たら?私はそう考えました。 私は悪魔様の手を取り、無理やり立たせました。そして、悪魔様に手を差し出し、こう言いました。 “さっきの液体…一つだけお貸し頂けますか” “んー?不思議だね、自分で割ったのにまた欲しいのかい?” “だってあのままだと、貴方無理やり私に飲ませていたでしょう?私はあれを飲みたいわけではありませんゆえ” 悪魔様は、私の急なお願いにきょとんとしていました。…先ほど私を置いてけぼりで話続けた仕返しですわ。悪魔様は少し考えた後、またいつもの笑顔に戻りこう言いました。 “君はほんとに、不思議な子だねぇ。良いよ、1つあげる。何に使うのか、楽しみだなぁ” 私の生き悩む姿が楽しみなのでしょう。嫌な笑みを浮かべていました。私はその顔に少し怒りつつも悪魔様に言ってやりました。 “魔界か地獄かどこか知りませんが、見ていて下さいませ。私はこれとお父様の力を借りて、自分で変わって見せますわ。誰かの支えになるような、アナイス・ノーチラスに” 「あんた…強い子なんだね」 ルア様は、優しく微笑みかけながらこう言って下さいました。どこかの人の不幸大好き悪魔様とは大違いな、本当に優しい笑みでした。 ここは、「異世界コーヒー」というコーヒー屋さん。私の住む世界から何百年か後の未来にあるそうです。もちろん私がこんなタイムスリップなんてできるわけもなく…「未来にすごいイケメン君がいるから紹介してあげる」とか何とか言って、悪魔様…メフィスト様に無理やり連れて来られましたゆえ、隣にメフィスト様も座っていやがります。 「ありがとうございます、ルア様。私なりに、頑張ってみています。それに何より、お香を作るって楽しいんだなって分かりましたので」 「そうかい、なら良かったねぇ。ま、そこの悪魔さえいなけりゃもっと良かったんだが」 「そうですわね」 ルア様も、メフィスト様には嫌気がさしている様子です。冷たい目でメフィスト様を睨んでいましたので、私も真似しました。 「おやおや、2人してひどいなぁ。アナイスちゃんがこーんなに変わるキッカケを作ったのは僕なんだよ?」 メフィスト様はカウンターに片肘をつき頬に手を当て、からかうように笑いました。メフィスト様がこのポーズをしている時は、大体ろくなことをおっしゃいません。 「それは事実なんだけど、人の不幸を喜ぶような奴にお礼なんかしたくないさね」 「日頃の行いってやつでございますわね」 「あはは、ありがとう」 「褒めてねぇですわ」 全く、メフィスト様は本当に困った悪魔様でございます。ですがこのタイムスリップの力でルア様と出会えたのは、良かったなと思いますわ。 ルア様は、コーヒーに異世界のイメージを詰め込めるだけでなく、様々な面白いお話をして下さいます。私は特に、ルア様のご家族のお話が好きですわ。お茶目で元気なお姉様や、豪快で気の良いお祖父様のお話など、心が温まります。そのお二方も不思議なお店を開店しているらしく、今度またメフィスト様に連れて行って頂く予定です。 「あ、そうだ。二人に聞きたいことがあってね」 ルア様は長い髪を揺らし、思い出したかのように私たちに聞きました。 「二人のとこには来なかったかい?赤い髪の幽霊さん」 赤い髪の…幽霊!?ゆ、幽霊って、死んだ人の魂が彷徨いているみたいな、そういう未確認生物のことですわよね…?そんなもの、見たことありませんわ…。 「なにそれ、とっても面白そう!僕にも紹介して欲しいなぁ」 「私も存じ上げませんわ…」 「そうかい。じゃあ二人の番はまだなのかねぇ」 ルア様は少し驚いた様子でした。二人の番というのは、一体どういうことなのでしょうか。私達のもとへも、いずれその幽霊様がいらっしゃるのかしら。 「なんだかね、あたし達みたいな“不思議なお店”の者達を調査しているんだって言ってたんだ」 不思議なお店…その言い方だと、私達やルア様のご家族以外にもいくつかあるのでしょうか。どんなお店なのか、とっても気になりますわ。 「ほんっとに不思議な子でねぇ…あたしの後ろのこの壁からニュッと出て来て、その後ちょうどアナイスさんのいるその席に座って、そのままあたしに色々なこと聞いてきたんだ」 後ろから…ニュッ…!?そんなこと急にされたら驚きますわ。メフィスト様ですら前にいらっしゃったのに、後ろから声かけられたら飛び跳ねてしまいそうですわね。 「かわいい子だなぁ。早く会いたいよ」 「あんたのことっぽいことも話してたよ。悪魔だか邪神だか知らないけど、めんどくさそうだから一番最後に調査するってさ」 「実際めんどくさいですからね」 「シンプルな暴言ありがとうアナイスちゃん」 とにかく、私達のことを調査している幽霊様がいらっしゃると。なるほど、それは確かに楽しみかもしれませんわ。ルア様の様子を見る限り悪い方ではなさそうですし、何より幽霊なんて珍しい方とお会いできるとなるとドキドキします。 「まぁとりあえず、そういう子がいるんだよ。とても面白い子だから、楽しみにしてなね」 「はい。ありがとうございます、ルア様」 「楽しみ〜」 そういうことなら、幽霊様が来るまでにもっとお香を研究しなくては。あの時とは違う、少しずつ自分で変われるようになった私。悪魔様にも認めて頂けたのですから、今度は幽霊様にも見て頂きましょう。

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ゴーストスイーツ

ハジめましテ。 “ゴーストスイーツ”やサんへ、ヨウこソ。ぼクちんハ、どこニでモいるミニなゴーストでス。 にんゲんシャかいにおツカれなアナタに、マカフシギなゴーストスイーツをゴていキょうしマす。 おかネはツカメないノでいりマセん。 こちラは、“ナデテココ”でス。 アマズっぱいオレンジなジュースに、コリプニなナデテココがたっプりなのでス。 たべルとナニカがアナタのあたマをナデまス。ナデナデしまス。 だれカにほめラれたいトキにぜヒ、どうゾ。 こちラは、“アエルクリーム”でス。 つめタぁぁぁいアイスなクリームをチョコなおあジでおタノしみイタダけまス。 たべルとナニカとアエます。ナニカがナニかはヒミつなのでス。 だれカにアイたいトキにぜヒ、どうゾ。 こちラは、“ねるあめ”でス。 ソーダでシュわシュわなアメちャんを、ネってネってネりまくリましょウ。 たベルとふわぁぁっトねむクなりまス。ねむねむニなりまス。 ネれナイよルにぜヒ、どうゾ。 こちラは、“モドレール”でス。 マドーレヌってしっテまス?フランスはっしょーのヤキがしでス。バターのカオリがイイカンジなのでス。 たベルと、イッシュンだけアナタのごセンゾのキオクがみレまス。ナツかしクなリたいトキにぜヒ、どうゾ。 どうでス?マカフシギでオモしろイでしョ? これゼンブ、ぼクちんのオリジナルでス。ぼクちんのちイさなテでツクるのハ、タイへんでしタ。 ぼクちんタちミニなゴーストは、イツでもアナタのミカタなのでス。それヲおしエたかッタのでス。デモ、ミニなゴーストにんゲんシャかいにデれまセン。ビッグなゴーストはデれるケド、ぼクちんはミニなのデ。 デモ、ドーしてモ、ドーしてモ、にんゲんにアイたイだっタのでス。セメて、にんゲんとチョコっとでモかかわリたいなッテおもっタのでス。 そんなコンナでサマヨっていたラ、とあるビックなゴーストサマにであッタのでス。あかガミで、ハクイをキてて、ヒきコマれるヨウなミズのイロをしたヒトミをモッた、フシギなオかたデした。 そのゴーストサマに、ソウダンしタのでス。“にんゲんにアいタイのでス”って。ソウしたラ、このおミセをテイアンしてクレて!フタリでアンをダしあッテ、コウしてカンセイしたノでス!! これデ…にんゲんに、アエル。ソウおもウと、とッテも、わくわクしましタ。だれカのやくニたてルかもっテ、おもっテ。 …にんゲんさン、ボクちんは、あなタのオやくニたてテいまスか? すこシでも、あなタを、シアワセなキモチに…できマしたカ? …そウ、でスカ?ほんと? ウ、う、うれしイでス!ぼクちんノ“ゆめ”ガ…カナいましタ!! もっトあなタとオナハシしたいケド…あなタにんゲん、ぼクちんゴースト。そろソロぼクちんは、レイカイにカエらないとナノでス。 まタ、アエます。きっト。だかラ、だかラ… まってテくだサイね。

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贖罪レストラン

あなたの罪を告白なさい。 私はただ、聞き入れましょう。 あなたに記憶深い料理を食し、 その背中に背負う罪を自覚し、 そしてまた生きなさい。 ここは贖罪レストラン、料理への支払いをもって贖罪とします。 「何度も盗みを働いた大泥棒」 あなたの贖罪の余地は“兄の優しさ”。少しだけ塩っけのあるおにぎり。飢えに苦しんでいた時。兄様はあなたにこのおにぎりを差し出した。その礼がしたくて、あなたは食べ物を盗み始めた。 兄様の本当の願いを、見極めなさい。 「何人も騙した大詐欺師」 あなたの贖罪の余地は“社会の厳しさ”。友のくれた飴。 騙され貶され見限られ、大切な物を失った。 騙さなければ生きられないことを知り、あなたは詐欺を始めた。 自分と奴等を見比べ、罪を数えなさい。 「いくつもの物を壊した暴れ者」 あなたの贖罪の余地は“悲しみの狂気”。母の作ったシチュー。 大切な家族、それが住む家、数秒で燃え広がる赤。 全てを燃やされ、狂気に侵され、全てを燃やした。 あの頃の暖かい家庭を、思い出しなさい。 「何人も殺した殺人鬼」 あなたの贖罪の余地は“異常な環境”。初めて飲んだ血。 あなたは生まれた時から異常だった。犯罪は常識だった。当たり前、むしろ名誉だと思い、殺しを続けた。 …命の重さを…知りなさい…。 ………………………………… あ、え?あ、申し訳ありません。何かありましたか? “命の重さを〜のあたりから上の空だった”? そう…ですか。すみません。“殺し”という罪に対して、少し思うところがありまして。 …私の愛した人は、誰よりも罪深い悪魔だった。あの人が裏であんなにも罪を重ねていただなんて、当時の私は考えもしなかった。 彼の罪を初めて知ったのが、殺人でした。嗚呼、何故、何故…。 “あんたの思い出話なんか知らない”? あぁ、そうですよね。そうでした。 でも、最後まで聞いてはくれるのですね。やはりあなたは、贖罪の余地が十分あります。今日は、支払いをする気になりましたか? …まぁそうだろうと思いました。ではまた、いらして下さい。 あなたが贖罪する気になるまで、私はあなたに料理をふるまい続けます。

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若き月の女王ルナの日記

  −ルナの女王日記− G月a日 今日からこの月の国の女王になった。お母様が持病で体が衰弱してきたから、私が少し早めに継ぐ。私はまだまだ未熟だけど、私にできることを精一杯やるつもり。女王になるにはまだ早すぎるという意見もあるけれど、そんなことじゃ私はめげない。いつかお母様にも見劣らないかっこいい女王になって、この大好きな月の国をもっと素敵な場所にするんだ。 そのためにまず、日記を書くことにした。一日の振り返りは大事だって、お父様が言ってたから。その日あった事、それをして感じた事。ポジティブなことを書くといいらしい。毎日頑張ろう。 G月b日 今日は国民の皆さんにご挨拶した。お気に入りの服を着たんだ。本当なら女王はロングスカートなんだけど、私は動きにくいから違うものにしてもらった。これは動きやすいし可愛いし、とても好き。私の服を最初見た国民の皆さんはとても驚いたけれど、“それも似合っている”と褒めてくれた!とってもとっても、嬉しかった!私の個性をちゃんと見てくれた気がしたから。 まだ私を認められない人たちも少なからずいるみたいだけど、それはこれから信用を取り戻していくつもり。口だけじゃない、月の国をもっと素敵にする。明日から本格的に始動だ。 G月c日 今日は、ノートとペンを持って国中を歩き回った。この月の国はどこをもっと改善できるか、私はもう一度知る必要があるから。途中水筒に入れた天月川の水でしっかり水分補給をしながら、国民の方にお話を聞いたり重要施設を回ったりした。 通りすがりのおばあさんが、お疲れ様とアメちゃんをくれた!しかも私の大好きな月サイダー味!なんで私の好物を知っているんだろうと思って聞いたら、ただの勘だよと言われた。やっぱり長年生きてきた人達は違うなぁとつくづく思った。その日は猛暑日でとても疲れていたけれど、あのアメちゃんのおかげで頑張れた。 G月c日 今日は星見滝へ向かった。水が綺麗で空を見上げればたくさんの星も見える、私のお気に入りスポットだ。でも最近来れてなくて…昨日久しぶりに行ったら少し雑草が増えていて、こんなに綺麗な景色なのに草ボーボーなのはもったいないと思って、草むしりをした。付いてきてくれた執事さんに“女王は命令するだけで、自分でやらなくても良いのですよ”と言われたけれど、私はそうは思わない。もっと自分から行動しないと、女王がやらないなら国民だって付いて来ない。口じゃなくて行動で示さないと。やがて執事さんも諦めて、一緒に草むしりを手伝ってくれた。 G月d日 今日は水が詰まっているという水道を調査した。詰まってるとは言ってもどこで詰まったか分からず立ち往生していたらしい。私は勇気を振り絞って、浮遊魔法で詰まっているという大きな水道管へ入っていった。薄暗くてジメジメしていて、とても怖かった…。頑張って飛んで、詰まりの原因を見つけた。ごみがたくさん詰まっていたんだ。ごみを引っ張って、詰まりを治した。もちろん引っ張った瞬間大量水がこっちへ向かって来て大変だった。頑張って最速で飛んで、ギリギリ水道管を抜けられた。怖かったけど、アクション映画みたいでちょっと楽しかった。 G月e日 今日は夜空街道のゴミ拾いをした。夜空街道は、夜になると道に埋め込まれたライトが光って上も下も夜空になる人気のスポット。観光客が多くてとっても嬉しいけれど、ごみが道に落ちていることがたまにある。道も空と同じように綺麗に澄んだ星空にするために、日が沈む前に頑張ってごみを拾った。 すると色んな人々が集まって、ゴミ拾いを手伝ってくれた!地元の人が多かったけれど、観光客の人でも手伝ってくれる優しい人もいて、みんなの心の暖かさを感じた。とっても嬉しかった! やっぱり、月の国はいいな。 G月f日 今日は比較的ゆっくりできる日だった。自室で本を読んだり、絵を描いたりした。月の国のために動き回るのも好きだけど、こういうゆっくりできる時間も好きだ。 途中で、自室に執事さんが来てくれた。なんだろうと思ったら、たくさんのメッセージが貼られた寄せ書きを私にくれた!城下町の幼稚園児さんが、私に向けて作ってくれたものらしい。「げんきなじょうおうさまがすき」「おはなしたのしい」「おようふくかっこいい」など、たくさんの心温まるメッセージが詰め込められていた。私を批判する声もあった分、この寄せ書きが本当に嬉しかった。 G月g日 私が月の国の女王になってから、一週間が経った。私自身はまだまだ未熟で、私を認めない声も残っている。でもこの一週間で、私を見直してくれたという声もあった!少なくとも、最初よりかは批判の声は少なくなっているはず。たかが一週間だけど、私なりに頑張って良かったと思った。 今日はお母様の部屋へ行った。お母様は自室で本を読んでいた。お母様は前より元気が無さそうだったけど、私が来て嬉しそうにしてくれた。そして私を見つめて、一つの助言をした。その言葉は、初代月の王が遺した月の国に伝わる名言だった。 「自分の道は自分しか歩めない。まっすぐ、自分の道を歩みなさい。自分の北極星を見つけ、自分の足で歩むのだ」

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若き月の女王ルナの日記

忘れられた雑貨屋

あら、あらあら! こんにちは。ようこそ“忘れられた雑貨屋”へ。 私は「宙野あき」と申します。 …ふふ、そうね。 あ、ごめんなさい。私、この雑貨達とお話できるんです。今この時計さんが“とても緊張しているお客さんだね”って。 まぁほら、もっとお部屋に入りなんせ。お外は寒いでしょうから。蝋燭ちゃんも、くしゃみしてるわ。 ふふ、モノの多さにびっくりしました?そう、これらが“忘れられた雑貨”達です。こんなにたくさんの素敵なモノに囲まれて嬉しいけれど、こんなにたくさんの素敵なモノが持ち主様に忘れられてしまっているということなのです…。少し、切ないですよね。 だから私達、ここで待ってるんです。元の持ち主様が、迎えにきてくれるのを。ここに辿り着いたのですから、あなたもきっと、この中の誰かの持ち主様だわ。 少々お待ち下さいませ。みんなから、あなたのことを覚えているか聞いてみますね。 うん、うん、うん…あら!あなたなの!そう、そうなのね…! 覚えているかしら?この子は…あなたがまだ、とっても小さな子供だった頃。お誕生日プレゼントでお迎えした、うさぎのぬいぐるみ「うーちゃん」です。 あなたは、ずっとずっと、この子を大切にしてくれていたのですよね。この子から聞いたわ、寝る時もお出かけの時も、ずっと抱えて遊んでくれたって。 でもある日…中学生になったあの日。あまりにあなたがこの子を大切にする姿をみてあなたのお父様は…あなたからこの子を取り上げてしまった。小学校と違い中学校は、努力の量で大きな差が出る場所。これからはこのうさぎに頼らず、自分の力で成長しなさい、と。 お父様の言うことは、決して間違いではありません。しかし、モノを大切にしていただけのあなたに落ち度があったとも思えない。誰も悪くない、悲しい出来事でしたね。 それからあなたはうーちゃんのことは忘れて…いいえ、忘れようとしながら。あなたは勉強や部活に努力した、そうなのですね。 …思い出して、くれたみたいね。 この子もあなたのこと、とっても大切に思っていたのですよ。だからあなたとお別れするときは、この毛糸の目から水が染み出してしまいそうだったと言ってしましたわ。 あぁ…二人とも、会えて良かった。さぁどうぞ…お持ちください。 …うん、うん…似合ってる…似合ってますわ。良かった、本当に良かった…。 …え?さっきより元気がない、ですって? そう、そうですね…そうかもしれません。うーちゃんは、元はあなたのもの。それはもちろん、分かっています。でも私も、この子とたくさんお話ししてきたが故…少し、お別れが悲しいのです。 ご、ごめんなさい。せっかくあるべき人に戻るというのに、こんな姿を見せてしまっては…私も、まだまだね。 さぁどうぞ、私になど構わず…お行き下さい。あなたも、うーちゃんも…どうか、お元気で…。 …え?また、うーちゃんを連れてここに来る…って? い、いいのですか?また、うーちゃんの顔を見れるのですか?またうーちゃんの楽しいお話を…聞かせて頂けるのですか? あぁ…嬉しい。とっても嬉しいです、嬉しいです!今までたくさんの子を送り出して来たけれど、そんなことを言ってくれたのは…あなたが初めてです。 また会えるなら…もうくよくよしていられません。こんなに優しくしてもらったのだから、私もしっかりしなくては。 ありがとうございました、うーちゃんの持ち主様。また、お会いしましょう。ここでいつでも、お待ちしております。

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バケモノ秘密基地へのご招待

人間の窮屈な生活に、お疲れではないでしょうか?狭くて、理不尽だらけで、投げ出してしまいそうになっていないでしょうか? そんな時、もしかしたらあなたの前に“階段”が現れるかも知れません。下への階段です。その階段は、我々の秘密基地へと繋がっています。もしお時間があれば、来てみてください。おいしい飲み物やおやつをご用意してお待ちしております。 普段は見かけない動物と触れ合ったり、世にも珍しい植物を見たり、見たことも聞いたこともないバケモノとお喋りしたり…たくさんのバケモノな体験が待っています。 半分ゾンビの明るい女の子、ニア。 インコの化身でみんなのお姉さん、ユウザ。 内気で臆病な狼男、ガラン。 そして僕…秘密基地のリーダー、ルクス。 他にも、日々様々なバケモノ達が遊びに来ます。大丈夫、理不尽なニンゲンなんて一人もいません。バケモノだけの楽しい空間で、素敵な時間を過ごしませんか? もちろん、オカネはいりません。我々バケモノ一同、皆様と楽しく遊べる日を心待ちにしております。                 バケモノ秘密基地への招待状                         文・ルクス                         絵・ニア

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バケモノ秘密基地へのご招待

殺人鬼クリザンの日常 大晦日編

十二月三十一日(日) クリザンはテレビをつけ、夕飯を食べていた。年越しだろうがクリザンはそうめん一択。蕎麦なんぞクリザンにとっては邪道だ。 大晦日となるとやはりバラエティ番組が多い。クリザンは「あの騒がしい感じが無理」という理由で、バラエティ番組が嫌いだ。クリザンは眉をひそめながらリモコンを押し続け、やっとニュース番組を見つけた。 “次のニュースです。今年社会現象を巻き起こした謎の人物、殺人鬼クリザン。今までに起こした事件をまとめました。” 「なぁっ…!?」 やっとまともな番組を見れると安心していた所に不意を突かれてしまった。クリザンは妙な声を上げ、即座にテレビを消した。 いらんことをするんじゃない!事件はたったの二つなんだからみんな覚えてるだろ! クリザンは誰もいないリビングで一人テレビに向かって歯を食いしばった。 やっぱりこんな時期にテレビをつけるんじゃなかった。クリザンは少し疲れながらも、気を取り直してそうめんをすすった。 …クリザンは幼い頃、年末はいつも兄と市場へ行っていた。正月の為の買い出しだ。親に頼まれたものを買い、ついでにバレないように自分達の好きなものも買った。エビなら小さいので、親に見つからずに食べることができる。そんな兄のアイデアから生まれた。行きつけの鮮魚売りのおじさんに、レシートを分けてもらうよう頼んだのだ。クリザンはいつまで経っても、兄のいたずらな笑顔が忘れられなかった。親のことをとても辛く感じる毎日だったが、兄がいれば生きていけた。 そんな兄は、今どこで、何をしているのだろう。クリザンは、兄のことを忘れた日はない。

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