親愛なる眠れぬあなたへ 0話

親愛なる眠れぬあなたへ 0話
吾輩は、猫である。命はもう無い。 吾輩は生前、港町を彷徨う誇り高き野良であった。しかしあの強風の日、勢い余り海に落ち、そのままポックり逝ってしまったのである。 そして今。吾輩は生きていた時を含めてもなお1番と言えるほどに狼狽している。 それは、目が覚めると青暗い空、そして見渡す限りの海の上で、自分が浮いていたからである。 海で死んだからとはいえ、流石にこんな場所に放り投げられても、どうしたものか。浮いているから平気と分かっていても、自分が死んだ深く暗い深淵を見せられるのは、気分が良いものでは無い。 しかし、こんな場所で突っ立っていても仕方がない。何か行動を起こさなくては。 しかし走り出そうにも、この辺り一面の暗い青ではどこへ行こうにも変わらない。何か目標はないかと、辺りを見渡した。 すると、何やら建物が見えた。木造の一軒家…いや、あの規模は“小屋”と呼称した方が良いか。 その小屋は、このどこまでも続く大海原の上に、ただ一つぽつんと浮かんでいた。本当に、船のように浮かんでいるのだ。どこにも陸地など無く、ただ水だけの世界に小屋が浮かんでいるのみである。 人が住むには少しばかり小さく見えるが、しっかりと明かりが灯っている。誰か人間が…あそこにいるのか?いやしかし、こんな大海原に人間が住まうとは思えない。仮に今の吾輩のように海の上を浮かんでいられるとして、あの量の木材や明かりを調達するなど不可能だ。
ピリカ
ピリカ
元「鴉君。」です。 諸事情により改名しました、お久しぶりです。 新シリーズ始めてます、良ければ。