榊原 霞
11 件の小説孤独の亡霊
※この話は、実体験を基にしたフィクションです。 「返信早く欲しい…」 バキバキバキ、というカッターの刃を出す音とともに、一人目の君は僕を脅した。 「寂しい、寂しいよ、離れないって約束する?」 やまないメッセージ、そして突き放し。 二人目の君は僕を試した。 「ねえ、見て!切ってみたんだけど!君がいないと私には価値があると思えないよ」 悲痛な声とともに、三人目の君は僕にすがった。 「ねえ、君に嫌われると思うと気が狂いそうなんだ」 電話口の声はすでに限界を迎え、四人目の君は僕に執着した。 「ねえ、君が居ないと消えてしまいそうだからここに居て?消えるよ?消えてもいいんだね?」 生きている意味を見失った、五人目の君は自身の命まで僕に託し居場所をくらました。 僕は、人にとても依存されやすい人間である。 関わっている人が突然闇を見せ始める。 理由はずうっとわからない。 ただ、僕が唯一わかることは、 彼らは光に誘われてやってくること、僕に依存して居なくなった人たちはみな、また亡霊になるということ。 誰にも必要とされず、自分を愛せず堕ちていく。 必要としてくれる人間を探して彷徨う、亡霊になる。視える人間にだけとり憑いて悪さをする、亡霊である。 今は依存されるような、誰かの光になれたようなそんな僕も、元亡霊である。 昔、僕の依存先だった彼女のことは、「先生」と呼んでいた。 「先生、彼氏にDVされて辛いです」 「先生、お願いだからいなくならないでください」 「先生、嫌わないで」 光を追って、必死に彼女に縋った。髪も湿って目やにだらけの無様な格好で、部屋も荒れ放題、酷い有様で。 「大丈夫。君は、誰に依存しなくても、君は君を愛せるよ。」 二年の間、僕の依存先で居てくれた彼女は、そう言い残して消えた。 それからというもの自分を愛するというのがなんなのか、ずっとわからないまま、引きこもりをやめ働き始め数年が過ぎた。 ただ、ずっとずっと、何年経っても先生の言ったことが離れずにいた。気づいたら、誰にも過度に依存することなどなくなっていた。 なぜなのかはわからない。でもきっと、あの先生の言葉があったから。 今までの亡霊たちも、きっと亡霊を卒業していることだろう。 僕は、あなたになりたかった。 僕は、あなたになれただろうか。
小学生に戻りたい
あんなにおいしいわかめご飯は無かった。 あんなにおいしいカレーも、ミネストローネも、塩ゆでボイルキャベツも、揚げパンも、冷凍がまだ溶けていないゼリーも、みんなが飽きて残しがちだったコッペパンも。 大人になって、食べものが美味しくなくなってしまった。それはきっと、ひとりで食べているからだと思う。 今日もまた、カップ麺で済ませてそれでいいと思っているけど。 本当は、本当は。 みんなと一緒においしい給食が食べたいな。 なんて、小学生に戻ってみる。 おいしかったなぁ。
歳下の君(いじめ表現あり)
5歳下の君は、いつもこう言う。 「誰かを助けられる人になりたいんだ!」 「いっぱいいっぱいにならないように、辛い時は私に吐き出していいからね」と返す。 「わかったよ。他のお友達が聞いてくれるから!大丈夫だって!」 へえ、他の友達なんだ。 心にグルグルと渦巻く真っ黒なとぐろを見てしまえば、この子が5年後どうなるかなんて明らかだ。 「誰かを助けられる人になりたいんだ!」 私が5年前、高校生だった頃。 入学早々、意気揚々と言い放ち、初っ端から始まったクラスのいじめを止めたのだ。いじめっ子は私に牙を剥き、大量のLINEが来て、私の上履きを隠し、SNSで私の大量の悪口を書き込んだ。 幼馴染も、小中高一緒のクラスメイトも、誰も味方なんてしてくれなかった。 「ハァ…ハァ…心臓が、痛い。鼓動が…早い」 店に行くと何故か早くなる鼓動。過呼吸で倒れた。家の中でも頻脈、失神するまで呼吸を続けた。 「精神疾患なんてそんなもん無いわよ」と少し前まで言っていた母親は、流石におかしいと思ったのか急いで心療内科に電話を掛け、過呼吸のまま初診で病院に駆け込んだ。 「パニック障害ですね」 診断まで時間はほぼ掛からなかった。 そこから増えていく薬、薬、薬。 いつ治るんだろう。1、2、3年と時が経った頃。 鼓動は、あまり揺らがなくなった。寛解である。 現在 「あー。だるー。あんたの問題でしょ。勝手にして」 私は冷たい人間になっていた。人との境界線を超えないよう、必死に必死に、「お節介」を堪えていた。 でも、君が来てからは。 「誰かを助けられる人になりたいんだ!」 頭に大量の血が上る。 「わっっかんないよなぁ!!! 未来でお前がどうなるかなんて!!! い、今でさえ、お前は自分のことでいっぱいいっぱいな癖によ!! 助けるなんて馬鹿なことすんなよ!! うぅ…ぐす」 携帯の電源を落としてから独りの部屋で大声で叫び、泣く。 それでも。 助ける君は、きっと正しい。 そんな君を、私は。変えようとはしない。 そっと見守る。 あの時私は、独りになりたくなかったから。 「何があっても、私だけは味方だからね」 そう返事をして、携帯の電源を切った。
羨望
小説家の卵である親友は、無駄がない。 承認欲求も低く見てもらえなくたって動じない。 私はこんなにも動じているというのに。 本人は殴り書きの駄文だと言っているけれど、彼女の小説には才しかなく文豪の悲観や不憫、空想を書いた文学そのものに見える。 歌しか取り柄がないと、歌というものに執着し、自己顕示欲ばかりで、能力に固執する私なんかより、もっと上の、どこか悟ったようなその姿勢が輝いて見える。 私は今日も咳で歌えない。ないものねだりばかりしている私は、このままだときっと歌手の卵としての命を落とすだろう。 君から得られる何かを、必死に探して今日もこうやって文章に起こしては淘汰されていく感情たちは、ちゃんと歌になってくれるのだろうか。
自己紹介
榊原 霞と申します。 根暗です。心の中は霞んでおり、光はあまりありません。 書く話も前向きでは無いことが多いです。 ボーイズラブの漫画や宗教学、音楽、小児向けの怪談、様々な疾患の本ばかり読むくせに、文学小説はほぼ読んだことがなく、 学生の頃の教科書でしか読んだことがありません。 なので、まるで中学生のような小説ばかりだと思います。 でもそれでいいんです。 幼心は忘れたくありませんから。 私は、幼い頃は外に出た時の横柄な自分と独りの時の消極的な自分の二面性、いわゆる躁的防衛に苦しんできました。 今は、良い子を無意識に演じてしまう過剰適応に苦しんでいます。 今も昔も仮面で生きているのです。 複雑性PTSDもあり、フラッシュバックに苛まれ負の感情で死にたくなることもしばしば。 ですが、私はストレスを文章にしてぶつけることにより改善されることがあります。 ストレスを原動力にし、創作が出来るならマイナスをプラスに変えられるんです。 そんな思いで小説を書いている自分ですが、ご興味があれば読んでいただけると嬉しいです。 ここまで長々とお付き合いさせてしまいましたね。読んでくださった方、ありがとうございます。
バレンタインなんてクソ喰らえ
今日はバレンタインだ。作る相手も居らず、所謂非リア充の私は「リア充イベント」と呼んでいる。 「チョコではなく茶色い別のものを投げつけてやろうか。」 と言いながら、街をゆくカップルを睨みつけ殺意の目を向けた。 自分へのご褒美だと独りで作ったチョコトリュフは、なんだか塩の味がした。
救済[メリバBL]
俺らの出会いは夏だった。 学校の屋上。フェンスを軽々と乗り越えその外に立ち何かを考えているあいつと、俺は一緒に落ちたいと思ったんだ。 最後に目標を立てて幸せなことをして、二人でここから落ちようと決めた。 俺らは生憎金がない。 幸せなことなんて限られていた。 美術部員で独り残って絵を描いているお前のことを知ってから、帰宅部だった俺も美術部に入り絵を一緒に描くことにしたのだった。 「お前、めちゃくちゃ奇抜な絵描くんだな」 「そうでもないよ。僕の描いたこれは【救済】ってタイトルなんだけどね」 赤と黒と黄色で彩られている。上からは陽のようなものが差し込み、一枚花びらが千切れた二輪の赤い花のコントラストに黒が塗り重ねられていてどこか毒々しくて。 「これ、どういう意味なんだ?」 俺はメッセージ性を読み取れなかった。 「さあね」 俺も何か描いてみる。元々絵が好きで机の端に絵を描いては消してを繰り返していたから、苦手ではなかった。 何日も、何日も二人で絵を描いた。 「君の絵は、なんだか何もかもが美化されているようだね」 お前の似顔絵だった。 「いや、お前元々端正な顔立ちだろ」 この時に恋をしていたなんて知らずにいれば、俺は不幸なままだっただろう。 ある日の放課後。 「ねえ、そろそろ死のうよ」 二人で屋上に行った。案外フェンスはすぐ乗り越えられた。 横に並ぶ。 「ねえ、最後に言い残したことがあるんだけど」 人生で初めてキスをされた。 「ずっと、初めて見た時から、好きだったよ。じゃあね」 背中を押された。 ドシャ 君の真っ赤な片足はもげ、夕陽が差し、コンクリートの黒がとても綺麗だ。 僕は、君の死に様が見たかった。 「まるで僕の絵みたいじゃないか」 でも、一輪足りない。 君の少し左を目掛けて飛び降りた。
霊媒師
俺は霊媒師だ。 「こんにちは、よろしくお願いします」 女は目の前の座布団の上にちょこんと座る。 「私は、死んだ彼氏を追って死んだのですが、逝けません」 俺は人間ではなくなった、もう死んでしまった魂のみを扱う霊媒師だ。 また今日も客が来るはずだ。 椅子の上に立ち、縄を首にかける。 「いけません!」 勝手に女が部屋に入ってきた。1年前に祓ったはずのあの人じゃないか。 「いけません!いけません!」 そんなことはわかっている。もう、終わらせてくれ。 「逝けません。」 立ち眩み椅子から落ちる。 皆の分まで生きたいと、思いながらも その分逝きたくて、毎日こんな日々を過ごしている。 でも、逝けないなら。 俺は鬱屈した部屋から飛び出した。
僕の吸血鬼 [BL]
僕は、吸血鬼を飼っている。 ある日の帰り道、血をくれとハラヘリ吸血鬼に言われるがまま、僕は腕を差し出したのだった。だって、ツラが良かったんだもん。 今日も彼は血をねだる。腹が減ったと。 はいはい、と指を彼の口に入れて八重歯にぶっ刺した。 彼は皆には見えていないようだった。 彼は血を与えるにつれ、「お腹すいた」以外の言葉を話すようになった。 「なあ、今日は楽しかったか」 「少し、辛そうに見えるぞ」 「よしよし、俺がなぐさめるから」 僕は日が経つごとに、彼に惹かれていく。 「好きだ」 彼にそう言われたのは、僕の心が彼を想う気持ちで一杯で溢れてしまったときだった。 「でも、君は何者なの」 口をついて出た言葉だった。 「俺は、お前自身だ」 男が男を好きなんておかしい あいつ自傷してるってよ 血が好きなんじゃないの あいつ、吸血鬼? 元クラスメイトの誰かさん達の言葉が、頭の中で巡った。 蘇った。隠していた僕の吸血鬼がまた死んで、蘇った。 その時、もう彼は居なかった。 ああ、今日も血が美味しい。 僕は好血症と同性愛者を隠さなくなった。 「おはよう。今日も元気だな」 あの吸血鬼に似た彼が、今は僕の隣にいる。 ありがとう、僕の吸血鬼。 彼を噛む快感に溺れながら、僕はまた血の味に堕ちていくのだった。
貪欲
私は、貪欲な人間だ。 人間には、食欲、性欲、睡眠欲、知識欲、金銭欲、物欲などの沢山の種類の欲がある。 毎日ご飯は三杯おかわりするし、彼氏なんぞいないが自慰には励むし、十時間も寝るし、金や物が欲しくて無理してでも働くしポイ活はするし。 ただ、問題なのが知識欲。 この世の全てを知りたい、あわよくばあの世のことまで知りたいというくらいかなり知識欲の強い私。仕事のあとに時間が余れば本を倒れるまで読み漁って、絵を倒れるまで描いて、小説を倒れるまで読むそんな毎日。最近、食事や睡眠が疎かになっていた。 昔からこうだったわけではない。 一度失敗してしまったことを反芻して、もしタイムリープできたら知識欲でどうにかしよう。という魂胆である。 タイムリープする方法の本も読まねば。 あの宗教の本も。妖怪の絵も描かねば。 いつの間にか、寝なくなっていた。 仕事も辞めてしまっていた。 貯金も少なくなっていった。 誰とも話さなくなった。 ぱやぱやぱや ふにゃー ほげー 変な声しか出なくなっていた。 誰か助けてくれ。 ある日。SNS上で「神絵師」と言われるユーザーを見つけてしまった。 よし、できたぞと今までの作品を見る。 膝から落ちて落胆し年甲斐もなく泣きわめき続け反射でそのまま胃液を嘔吐した。 「あば…あばあばばばば」 これが、知識欲の多い人間の作ったものなの? ただのゴミじゃないか。 幸せそうなリア充にでもぶつけてやりたい。 この部屋はゴミ溜めじゃないか。 上手い人なんぞいくらでもいるじゃないか。 自分が気持ち悪くて仕方がない。 私は、ただの「自己顕示欲」が強かっただけの不幸な人間だった。 消えかけそうな自分を、どうにか生きていようと、踏ん張ってはいるのだが。 「神絵師」の投稿には、 「結局自己満足」 と書かれていた。