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5 件の小説第6回N1 「 想い出 」
DOUTORの塩キャラメルコーヒーの後味が いつかの日にリカと飲んだトリスに似ていた。 僕の人生、第1章の終盤。 そして、第2章が始まるまでの短く濃い時間。 頭を銃で撃ち抜かれたような激しい衝撃を感じたあの日。 平凡な日常の中、初めて感じた熱い視線に導かれ 突如として現れたビーナスに僕は恋をした。 もう見慣れてしまった錆がこびり付きスプレーで書かれた落書きまみれの河川敷沿いの橋の下に1人座り込む僕。 左を見れば無造作に広がった雑草達と虫の住処。 右を見れば不法投棄されたゴミ達が夕陽に照らされている。 目の前には音を立てて荒く流れる 羨ましい程に透き通った綺麗な河。 いつもと変わらない景色に安堵を覚え倒れ込むように寝転ぶ。 視線の先にあるのは橋の裏側。 どうやって書いたのかも分からない下品な言葉と暴言。 こんな物を書く為に無駄な動力を使っていると考えたら鼻で笑えてくる。 「 馬鹿みたいだ 」 誰の耳にも届かないような僕の妬みの言葉が目の前の河へと 吸い込まれて行く。 本当は自分も馬鹿みたいな落書きをして笑って喜んで騒いでみたいんだと分かっている。分かっているけど分からないふりをする。 自分の弱さと本音を認めることの出来ない自分を恨めしく思ってしまう。 途端にこんなことを考えている自分が恥ずかしくなり 別の事を考えようと瞼を下ろす。 バンッ 突然、目の前の河から水の弾ける大きな音が鳴った。 驚いて飛び起きた僕の目の前には水飛沫の跡と腹を抱えて笑う 河の上に浮く少女。 何が起きたのか未だに理解出来ない脳みそとは反対に 勝手に身体が動いてしまう。 河の少女に向かって歩みを進める僕。 水が膝辺りに差し掛かってきた。それでも僕の歩みは止まらない。 脳が僕の行動に追いついて来た頃には暴れる河に流されて行く少女を追いかけていた。 僕を気にする事のない少女は抵抗もせずに河に流される。 暫く水を掻き分けて少女を追い続け、ようやく手首を掴んだ頃には僕はびしょ濡れで息も上がっていた。 何をしているんだろう。 こんなのただの不審者と変わらないじゃないか。 余計な思考が頭をよぎる。 だが、僕の心配とは裏腹に手首を掴まれた少女は驚く様子もなく僕に視線を向け怪しむ様子もなく明るい笑顔を浮かべ 「 はじめまして、こんにちは。びしょ濡れのお兄さん 」 と言い放った。 全身を駆け廻る衝撃と衝動。 ムラなく焼けた小麦色の肌に似合う白いワンピース。 水に濡れて艶の現れたストレートの黒髪と小さな顔に並ぶ 大きな二重の瞳と小さな鼻。美しい弧を描く口。 こんなに整った美しい顔を僕は見たことが無かった。 「 どうしたの?私の顔がそんなに変? 」 唖然として君の顔を見つめる僕に変わらず笑顔を向ける少女。 「 ぁ、嫌、違う。君の顔は綺麗だよ。違う。そうじゃなくて、違うって言うのは君の顔が綺麗じゃないってことじゃなくて、 」 慌てておかしな事を口走る僕を大きな口を開けて笑う君も絵画のように美しかった。 「 とりあえず先に河から出よう 」 赤裸々に頬が染め上がる僕が君の手を引いて河岸へと戻る。 「 ありがとう。びしょ濡れのお兄さん 」 悪戯な笑みを浮かべていた少女は河岸に寝転び僕に視線を向けてとっておきの笑顔を見せてくれた。 その笑顔を見た途端、僕と君が出逢う為にこの世界は出来たんだと本気で思った。 愛おしい。この謎めいた少女がこの上ない程に愛おしい。 この子に触れたい。 抱きしめたい。 この子のことを知りたい。 知って僕だけの物にしたい。 この子の五感も思考も行動も全て管理したい。 殺してしまいたい。 そんな衝動が全身を駆け巡る。 まずはこの子について何か知らなければ。言葉を選び、彼女を不快にさせないように慎重に口を開いた。 「 ねぇ、名前教えてよ。 僕はかなた 」 「 君が付けて。名前 」 「 どうして? 」 「 どうしてだろうね 」 「 もしかしてだけど、名前無いの? 」 「 君が付けてくれないなら無いかもしれないね 」 溢れ出す笑みが止まらない。僕が名前を付けるなら、この少女は僕の物になったと同然じゃないか。 幸せを噛み締め、僕は彼女に 「 リカ 」 と名付けた。 「 平凡。もっと考えてよ 」 文句を言われても変えるつもりは更々無かった。リカも嬉しそうな顔をしていたから。 暫く静かな空間が続き、辺りが暗くなって来た頃にぶおう、ぶおう、とヒキガエルが低い声で呻き始める。 「 ねえ、帰らなくていいの? 」 リカが寂しそうに眉を下げながら僕に聞いてくる。本当に愛おしい。僕のことを求めているんだ。 「 どうせ家に誰もいないし。リカこそ平気なの? 」 「 私、家無いからさ 」 勝利を確信した。彼女は、否、リカは僕を求めている。 家が無いなんて普通は言えないだろう。 僕の家に泊まりたいんだ。純粋なリカは僕に好意を持っている。そう思えるだけで幸せだった。 だが、ここで油断は禁物だ。リカがYESとしか答えないように僕は出来るだけ不快感を与えないようにしなければならない。 「 家、使ってもいいよ 」 「 いいの? 」 「 もちろん。お風呂使うだけとかでも良いけど 」 「 ううん、泊まらせて 」 リカは安心したような笑みを浮かべていた。愛おしい。 可愛い可愛い僕のリカ。半日経たない程度の時間で僕をここまで必死にさせるリカ。なんて罪な少女なんだろう。 けれど、僕がリカの罪を許そう。何故か?彼女は僕以外にこの美しい容姿を見られることは永遠に無いから。 「 もう寒いから早く帰ろう 」 「 うん 」 鈴虫の悲鳴がヒキガエルの呻き声に混ざり始めた頃、僕達はこれから2人きりの愛の巣となる場所へと歩き出した。 遠さがる悲鳴と呻き声。代わりに響くのはリカと僕の足音。 少し歩いたところに少し古びた不気味な僕のマンションが見えた。 「 此処だよ 」 リカは嫌な顔ひとつせずに中へと入り階段を駆け上って行く。リカが僕の部屋へと入る。リカが僕の部屋の空気を吸っている。嗚呼、なんて幸せなんだろう。 「 お邪魔します 」 「 どーぞ。掃除しとくから風呂行ってきて 」 「 はーい 」 純粋無垢なリカは何も怪しむことなく一直線に風呂場へと向かった。僕は急いで部屋を片付け、リカのために物置部屋を整理して布団を運び込んだ。 風呂場からシャワーの流れる音が鳴り響く。リカが僕の浴室を使っている。考えるだけで興奮して鼻血が出てしまった。 慌てて鼻にティッシュを詰め込み、押し入れから睡眠薬を取り出してポケットにしまう。リビングへと戻りコップに水を注ぐ。その中に薬を入れたらあっというまに溶けた。 シャワーの音が止み、リカの声が聞こえる。 「 服かしてーーー 」 「 ドアの前に置いとく 」 僕の服を彼女が着るだなんて幸せ極まりない。小さくガッツポーズをしながら風呂場に僕の服を置いてリビングへと戻った。リカが出てくるのを待ちながら、これからの2人の生活を思い浮かべる。嗚呼、勝手に口角が上がってしまう。きっと彼女も幸せだろう。 「 ただいま 」 リカが僕の服を着てリビングに入る。小柄な彼女には少し大きい僕のTシャツ。なんとも言えない色っぽさが僕の背徳感を刺激する。 「 おかえり 」 水を彼女に渡して1度視線を逸らす。これ以上見ているとリカが眠る前に手を出してしまいそうだから。 パリン、とコップが割れる音がした。 咄嗟に振り返ると僕の目の前にはガラスの破片が突き付けられた。何が起きたのかが分からない。唖然としたまた目線を上げると先程とは違う魅力のある歪んだ恍惚の笑みを浮かべるリカがいた。 「 何びっくりしてるの? 」 リカがガラスの破片で僕の頬をなぞる。 スーッと痛みと寒気が走り頬から血がダラダラと流れる。 恐怖で声も出せず身体も動かない。怖いのか。僕は彼女が。愛おしいはずなのに恐怖を覚えてしまう。どうしてだろう。考えている間にも僕の体には次々と傷が増える。 最初は頬。その後に腹。そして足、腕、首。最初は薄い切り傷だった物が段々と深くなってくる。 徐々に痛みも強くなってくる。リカはどうして僕にこんな仕打ちをするのだろう。 喉に鋭い痛みが走る。声が出ない。 脹脛の裏に鋭い痛みが走る。足に力が入らない。 頬に鋭い痛みが走る。口が開きっぱなしだ。 リカが何か言っている。僕には聞こえない。 段々と意識が遠のいて視界が霞む。 リカの顔が近付いた所で僕の心臓の鼓動は完全に止まり、 僕の肉体が動くことは永遠に無かった。 ︎︎ 終 リカと名付けられた少女の人生は世にも不幸だ。 ついにやった。この醜い男を。遂に殺せた。 どれ程にこの時を待っていただろうか。何度こいつを殺す想像をしただろうか。これで死んだ姉、リカにも示しがつく。この男は最後まで気持ち悪い奴だった。自分で殺した愛する恋人の名を易易と人に付けるのだから。 この男と交際を始めてから私の姉は体に傷が目立っていた。 「 彼は私を愛しているの。けれど、愛し方が分からないのよ 」 いつも姉はそう言っていた。今でも同じことを言うだろう。 交際を始めて半年、姉とあの男は突如として姿を消した。 2人の住んでいたアパートは荒れ果て、血がそこら中にへばりついていて見るに堪えない姿になっていた。 姉は殺された。 どうして無理にでも別れさせなかったのだろう。後悔が私を蝕む。どうにかしてあの男を捕まえなければ。捕まえずとも見付けて彼奴を殺さなければ。 その責任感に駆られ私はここまで来た。 目的は果たした。けれど何か物足りない。どうしてだろう。この男は姉の死体を何処にやったのだろう。この男は死ぬ前に姉とおなじ苦しみを味わっていないじゃないか。死体がまだ原型を留めている。許せない。許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね 直後、私は成人男性の拳ほどの木鉢を持っていた。無意識に台所から持ってきてしまっていたのだろうか。 このままではこの男がただ殺された哀れな人間として終わってしまう。私の姉が殺されたという事実は私しか知らない。私の大切な姉が。私のリカが。なんとかしなければと思った時、私は木鉢を振り下ろした。何度も何度も何度も振り下ろした。正気に戻った時には死体はぐにゃぐにゃしていて熟れたトマトのように潰れた顔と頭は脳みそや眼球が飛び出て砕けた骨が見えて気持ち悪かった。けれど、初めて達成感を感じた。此奴はこんなに醜くて見るに堪えない姿形で発見されると思うと姉の未練も果たされた気がした。その後私は警察に電話を掛け自分から出た声とは思えないほどに狂気的な甲高い笑い声を上げて私は自分の首をナイフで切り刻んだ。 外では遠くから鳴り響くパトカーのサイレンの音と通り過ぎるトラックの排気音が薄暗い空へと溶けていた。
魅了
歩幅が小さいほど男が息を止めて視線を集める
あなた
情熱 涙は音もなく流れるけれど 赤裸々に頬を濡らし心まで溶かし始めるだろう。 壊れてしまうくらいに抱き締めて欲しかったけれど 思い出に笑われて足跡も傷跡を隠す。 燃え盛る業火の谷間が待っていたけれど 守りたかったのは貴方。 代わり映えのない明日を願う。 貴方以外何もいらない。 貴方以外の問題は取るに足らない。 多くは望まないから どうか どうか 神様お願い。 1日の終わりに胸を撫で下ろす。 この胸を頼りにしている人がいる。 くよくよ弱っている場合ではない。 日々重なるただの日数が特別になる。 貴方と歩む世界は息を飲むほどに美しかった。 人寄せぬ荒野の真ん中。 甘くとろけてしまう接物を交わしたのは 貴方
お花見
花が咲いた 僕の涙と君の新鮮な真っ赤な血液の混ざった水溜まりに 花の屍がどんどん降り積もる。 醜い僕の本当の姿と愛しい君を犯す赤い液体を覆い尽くすように花弁が落ちる。 透けて見える水溜まりの色は未だ赤みを帯びていて 全てが見えないふりをしたくて。 君の事なんか知らなかった事にしたくて。 優しく僕を見守る瞳も愛の言葉を囁くと紅色に染る頬も 喧嘩をする度に1つずつ増えた耳のピアスも全て全て蹴散らすようにその場を離れ走り出した。 君から逃げたいのに脳裏に蘇るはにかんだ笑顔。 夕陽に照らされ同じ人間とは思えない程に美しく僕の目に映る君が口ずさんだワンフレーズが耳の中に閉じ篭る。 「走り出せ 地球は大きいから 」 地球が大きくたって君の呪縛からは逃れられない。 「抱き締めろ 命は短い 」 どれだけ抱き締めてもこれ程に短いなら足りるはずがない 「 君の涙を夢を愛を待っている 広い世界が待っている 」 涙も夢も愛も君が居ないなら僕から現れることは無い。 どれだけ広い世界が在ろうと微塵たりとも興味が湧かない 嗚呼、君はなんて皮肉を謳っていたんだ。 何かから逃げ続け走り込んだ先は立ち入り禁止の表札の 掲げられたかつての2人の隠れ家。 フェンスを乗り越えホコリ舞う廃墟の階段をかけ登り 屋上へと一直線に向かう。 懐かしい景色の広がる2人だけの世界に独り立ち尽くし 真実を認めないと主張するように弱々しい叫び声を上げた 椎名林檎 「 孤独のあかつき 」
人生
子供の頃に見た弾け飛ぶ空から降り注ぐ飴玉 大人になって気付いた汚水からできたストレスの雨玉 子供の頃に考えた好きな人とのラブストーリー 大人になって見た愛する人の穢らわしいライフストーリー 子供の頃に認めた変えることの出来ない事実 大人になって信じることをやめた認めがたい事実 結局、人生は夢だらけ