実々

32 件の小説
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実々

はじめまして!実々(みみ)です。 ファンタジーも恋愛もどんなジャンルも大好きな中学生です。 小説書くの初心者なので暖かく見守ってください。

「またね」って言いたかった

後悔した事はないですか? 私は彼に「またね」って言えなかった事が一番後悔しています。 私にはずっと好きな人がいた。 だけど私達はただの友達。 特別な関係にはなれないと思い込んでいた。 「えっ転校?」 親の都合で私は転校する事になった。 それからは忙しかった。 断捨離を済ませ、段ボールに私物を詰めていく。 恋愛なんかしてる暇はなかった。 そんな中、彼は私に手紙をくれた。 『好きだよ』 短く、彼らしい少し雑な字で書かれたその一文を見た私は泣いていた。 そんな私から溢れた言葉は、 「遅すぎるよ」 私は彼に返事をしなかった。 私がこの学校に通う最終日。 私も泣いたし、友達も泣いた。 「今までありがとう」 最後の日まで私は彼としっかり話が出来なかった。 私が校門を潜り抜けた後、私は彼に無理矢理手紙を握らされた。 彼は泣き出しそうで、どこと無くすっきりとした表情だった。 『いつか、返事をもらえる日を待ってる。またな』 ずるい 彼の手紙にはそんなメッセージが書かれていた。 私だって彼に 「『またね』って言いたかった」

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「またね」って言いたかった

『第2回NSS決勝』 勇者様

「勇者様ー」 「ありがとうございます」 大きな人だかりの中心に居るのは、勇者様。 長い期間に渡り、世界を支配していた魔王を倒してくださったお方。 私も、人だかりの中に埋もれた一人である。 私は昔、勇者様に会った事がある。 昔住んでいた町が魔物に襲われた時。 逃げ遅れた私達を助けてくれたのが勇者様だった。 勇者様が剣を抜いた瞬間、魔物は切り刻まれて死んでいた。 結局村は廃村になってしまったが、勇者様のお陰で死人は驚くほど少なかった。 助かった人達は涙を流しながらお礼を言っていたが、私は一人だけ違う事を考えていた。 私は、勇者様にどうしても聞いてみたい事があった。 『勇者様は、どれくらいの命を奪ったのですか?』 魔物だって生き物だ。 敵だったけれど生きていた。 家族や恋人も居たかも知れない。 魔王は、人間の命を奪った。 勇者様は、魔物の命を奪った。 どちらが善でどちらが悪なのかは分からない。 結局の所同じなのかもしれない。 勇者様は、空に向かって剣を掲げた。 人々は歓声を上げる。 私にはその剣がが血で真っ赤に染まっているようにしか見えなかった。

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『第2回NSS決勝』 勇者様

第2回NSS 売れないカメラマン

カシャ 一心不乱にシャッターを押す。 売れないカメラマンである私に回ってきた、大きな仕事。 モデルの彼女を魅力を引き出すために工夫する。 私はこの場にいる誰よりも必死だ。 この撮影には、人生がかかっている。 ここで良い写真を撮らなければ、私の写真が評価される事は恐らくない。 カシャ だが、神様は私の味方をしてくれないらしい。 今日は晴れ予報だったが、風は吹き荒れ、分厚い雲も出てきた。 ゴロゴロ 雷も鳴り出した。 「終わったな」 気づけば涙が出ていた。だが、その涙の粒も風の勢いで飛んでいく。 「撮影は中止します」 誰かがそう叫んだ瞬間 ゴロゴロピシャーン カシャ 私の手が雷が落ちた驚きでボタンに触れ、シャッターを切る。 どんな写真が撮れたのか確認する暇もなく、その日の撮影は中止となった。 あの時撮った写真を見ることになったのはしばらくしてからだった。 整理していた時にたまたま見た写真は、私が撮った中でも一番と言える出来だった。 美しいモデル、映り込んだ私の涙、そして落ちた大きな落雷。 全てが写り込んだ写真だった。 この一枚の写真で、私の名前は爆発的に日本中に轟いた。

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第2回NSS   売れないカメラマン

悔しいけど「よかったね」 〜美織編〜

「共通女子走高跳び選手、橘志歩(たちばな しほ)」 「はい」 予想通りの結果に私、永田美織(ながた みおり)は心の中で溜息をついた。 この結果が発表された日、私は志歩に伝えた。 「よかったね」 (悔しいけど) 志歩は気まずそうな表情で、 「ありがとうございます」 と言っていた。 私の醜い感情も、表しきれない悔しさも全部全部伝わってたと思う。 私は改めて志歩に伝える。 「よかったね。頑張って」 表すことは一つだけ。 私は最後の大会に出ることができなかった。 美織は、小さな頃から運動が好きだった。 だけどそんな好きとは裏腹に身長が全く伸びず、お世辞にも運動に向いているとは、言えなかった。 そんな時、身長関係なく運動ができる部活が陸上部だと思った。 消去法のような理由で入った陸上部は思っていたよりも楽しかった。 美織の選んだ種目である走高跳びは才能が開花した訳でもなく、ただ他の人よりも良い記録というだけだったけど、それでもやっぱり楽しかった。 私が1年生の時までは。 2年生になると、志歩という名前の女の子が入って来た。 志歩は私よりも背が高く、才能があった。 私の方が志歩よりも記録が上だったのは1学期までで、2学期からは志歩の方が高く、尚且つ綺麗に跳んでいた。 大会に行っても私より上に志歩の名前がある。 不可解だった。 惨めだった。 そして、泣きたくなった。 3年生 正直言うと怖かった。 また、志歩のような天才が入ってくるかもしれない。 そう考えるとまた、涙が出て来そうになった。 入ってきた1年生は、奈乃花(なのか)といういつもニコニコしてる女の子だった。 控えめで、最初の頃は1メートル10センチも跳べていなかった。 奈乃花が入ってくると同時に、2年の男子である翔(かける)も高跳びを練習するようになった。 私と同じで身長が低く、特に秀でた才能もあまり無さそうだった。 私は奈乃花や、翔に深く同情し特別な才能なんか無かった自分と無意識に重ねていた。 奈乃花は、美織先輩と呼んでくれるかわいい後輩だった。 翔の、根が明るく裏表のない性格のおかげで練習の雰囲気は明るくなった。 二人のおかげで美織は息がしやすくなった気がした。 新しいメンバーでのスタートのおかげで、毎回抱いていた志歩に対する醜い感情も少しずつ感じなくなっていた。 そして、3年生最後の大会のメンバー選考の記録会。 美織は志歩に勝つ事を諦めていた。 練習でも1メートル40センチを軽く跳ぶ志歩と、やっと1メートル30センチを跳ぶ美織。 どちらが選手に選ばれるのかは、誰が考えても志歩になる。 そんな気が重かった記録会での志歩の記録は1メートル45センチ。 美織の記録は、1メートル30センチ。 ここまでは予想通りだった。 けれど美織の心を更に抉る事になった理由は、奈乃花と翔だった。 奈乃花は、本番で1メートル20センチを跳んだ。 翔はその上の25センチ。 まだ練習を始めて二ヶ月しか経っていないにも関わらず、美織がやっと2年生で跳べた記録を奈乃花と翔は跳んだのだった。 「美織先輩!跳べましたよ」 ニコニコ顔で報告してくる奈乃花は眩しい。 『よかったね』 簡単な5文字なのに何故か声に出すことができない。 「先輩?」 不思議そうな、奈乃花の声。 「よかったね」 ようやく言えた『よかったね』はカスカスで、自分で聞いていても気持ち悪くなるような醜い感情ばかりが乗った言葉になった。 奈乃花も何かを察したのか、もう何も言ってこなかった。 「共通女子走高跳び選手、橘志歩」 そして選手は私の予想通り志歩になり、男子の選手は、翔になった。 「いやぁ俺は正直消去法で選ばれたし、そこまで嬉しいとかはないんですけど初めての大きい大会はやっぱりワクワクしますね」 男子の走高跳びは、翔以外練習している選手が居ない。 消去法で選手に選ばれた翔が、今は憎たらしい。 私は頑張っても選手になれなかった。 翔は頑張らなくても選手になれた。 心底憎い。 『憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い』 「どうしたんですか?美織さん」 「よかったね。頑張って!」 奈乃花との似たような会話も思い出しつつ、早口で言い終わると、早足でその場を後にした。 自分がどんどん汚れていっている気がする。 奈乃花に、翔に、そして志歩に、みんなに八つ当たりして。 「最低だな」 一人の時は、言葉にするのも簡単だった。 大会当日 「志歩先輩、頑張ってください!」 いつも通りの愛嬌のあるニコニコ顔で志歩を応援する奈乃花は、いつもよりご機嫌だ。 誰が見ても機嫌が良いのは明らかだが、本人に伝えると動揺していたので、自分でも気づいていなかったのかもしれない。 翔も、自分の出番までは時間があったので、近くで応援している。 「志歩ファイトー」 あらゆる所から聞こえてくる志歩へ向かって応援する声。 きっとこの中で志歩を応援出来ていないのは私だけだろう。 志歩の跳ぶ番だ。 何センチかは、分からないけどかなり高い。 そんな高さを志歩は跳んだ。 辺りは興奮と熱気に包まれた。 志歩の記録は自己ベストを更新し、1メートル50センチ。 志歩は大会で、3位入賞を果たした。 「志歩ちゃんすごい!」 「おめでとうございます。志歩先輩」 帰ってきた志歩は、たくさんの人から、「おめでとう」と言ってもらっている。 それを私は離れた所からずっと見ていた。 「美織さん」 帰る直前、翔に声をかけられた。 「どうしたの?」 「志歩から伝言です」 言いにくそうであり、それでも期待が籠った目。 そんな瞳で私に 「『美織さんが、居てくれてよかったです。張り合っていける仲間って大事なんですね』って志歩は言ってましたよ」 「あー私もバカだな」 志歩が私のことをどう思っているかなんて考えもしなかった。 「ごめんね…」 頬を濡らして、私は泣いた。 「よかったね」 目の前には志歩がいる 悔しさも、羨ましさも、純粋な喜びも全てが入った一言だったと思う。 だが、あの日とは違った。 「もちろん悔しいけど」 私が前はギリギリで飲み込んだ言葉も伝えた。 「ありがとうございます」 そう、笑って言ってから何かを思い出したようにまた口を開く。 「本当に美織さんが居てくれてよかったです。張り合う仲間って大事なんですね」 恥ずかしそうに笑う志歩は選手発表の日よりも、1メートル50センチを跳んだ時よりも輝いていた気がした。

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悔しいけど「よかったね」 〜美織編〜

全部嘘で終わらせる

百合です 嫌いな人は読まないで! 「好きだよ」 「えっ?」 私の言葉に彼女は驚いている。 だけどそんな彼女に私はにっこりと笑いかけ、 「嘘に決まってるじゃん。もちろん友達としては大好きだよ」 「あーびっくりした」 彼女も笑う 私も笑う 彼女の純粋な笑顔とは真逆で、私の笑顔は不純。 諦めや、悲しみというものが浮かんでいる。 「なんか嫌な事あったの?」 彼女は私の微妙な表情を見抜く。 そんな所もやっぱり愛おしい。 「なんでもないよ」 言えるわけがない。 『あなたが大好きだけど好きになってもらえなくて辛い』 なんて 私は彼女が大好きだ。 性別や親友という関係すら超えて だけど 彼女は私のことが『親友として好き』だから私のこの恋心は 「えー嘘だー」 「好きだよ」 「?」 「もちろん嘘」 全部全部嘘で終わらせる

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全部嘘で終わらせる

視力(私の愚痴です見たくなかったら飛ばしてください)

私は生まれつき少し視力が弱い。 普通に生活を送る分にはあまり問題はない。 でも小さな不自由は、ずっと私にとってストレスとなっていた。 目が悪く、遠くからだと人を判別できないため手を振ってくれていたとしても、自分に振られているのかも分からないし、結果的に無視した事になってしまう。 球技系の運動も苦手。ボールを持っているのが敵か味方かの判別も付かないし、パスをもらっても敵にパスしてしまう事が多いからだ。 はっきり言って足手纏いになってしまうし、自分で言うのもどうかと思うけど元々運動神経はいい方なので、なんでも出来ると思われてみんなをガッカリさせてしまう。 そんな事を知らない人の方が多く、説明はしているけれど伝えても結果、気遣わせてしまって新しく出来た友達は少なかったし、今も上手く接する事ができない。 なんで視力が悪いんだろう すいません少し私の愚痴を聞かせてしまいました。 今話した事は全部私の事であり、実々という名前は私にとって声を聞く耳が大切だったから漢字を変えて実々という名前にしたんです。 めっちゃ語っちゃってすいません。 でもちょっと愚痴りたかったので愚痴らせてください!

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視力(私の愚痴です見たくなかったら飛ばしてください)

第7回N1 本音と建前

お題:『おもい違い』 私達は幼い頃から仲が良かった。 私は彼女の事を親友だと思っていたし、彼女も私の事を親友だと思っていると勝手に信じていた。 幼稚園に通っていた時、幼かった私達なりに意気投合し、一緒にお姫様ごっこやおままごとをして遊んだ記憶がある。 小学校に通っていた時、一緒に放課後遊んだり、宿題を一緒にしたりした。バカな私は算数を彼女に教えてもらいつつも一生懸命頭を使って頑張っていたと思う。 そして中学生 私の小学校は、仲が良い人同士はクラスが分けられる。もちろん私達も例外ではなくクラスが分かれてしまった。 「中学生になってもクラスが分かれてもずっと親友だよ。ずっと〇〇が一番だよ」 クラスが分かった時私は彼女にそう言った。 その時彼女は「うん」とも「ううん」とも捉えられる様な曖昧な返事をしていた。 けれどその時の私はあまり気にならなかった。 この関係が続くと信じて疑っていなかったからだ。 中学生になった 私は初め、クラスで友達を作ろうとしていなかった。休み時間になったら教室から出て廊下で彼女と話していたからだ。 話しかけてくれる子が居ても適当に話を終わらせ、廊下に出る。 それが私の中学生になった最初の一カ月の日常だった。 二カ月目に入ると彼女は廊下には来なくなった。 委員会の当番だったり、学級委員である彼女はいろんな用事があった。 彼女と話す事が少なくなった。 せめて、帰り道は一緒に帰りたかった私は彼女の部活が終わるのを待っていた。 それが二カ月目 「別に帰り道、待っていなくても良いよ」 彼女にそう切り出された三カ月目。 「ううん〇〇と一緒に帰りたいの」 なんでそんな事言うんだろう。 そう思いつつも返事を返す。 「ねぇ友達できた?」 そう聞く彼女は何故か少し苦しそうだった。 「大丈夫だよ。〇〇が居れば別に良い」 彼女は一瞬苦しそうな表情をした後、すぐに 「そっか」 と、いつかの会話を思い出す様な嬉しそうでもあり、しんどそうな曖昧な表情をしていた。 それが三カ月目 四カ月目 夏だった。 「あっ〇〇一緒に帰ろ…」 彼女は一緒に歩きていた友達と私の横を通り過ぎた。 気づかなかったのかもしれない。 「〇〇、〇〇」 彼女が振り向く事はなかった。 暑い中待っていたからではない汗が私の頬から流れ落ちるのを感じた。 夏休みに入った 相変わらず彼女が私に話しかける事はなかった。 バカな私にだって彼女に嫌われてしまった事くらいわかっていた。 何がダメだったんだろう 何が良くなかったんだろう ずっと仲良しだったはずなのに 新学期が始まった。 新学期が始まって変わった事は大きく二つ 一つ目は、私が廊下に出なくなったという事。 彼女と話せなくなったから、もう廊下に出る必要はなかった。 二つ目は、私に新しい友達が出来た事。 最初の方も話しかけてくれていた子だ。好きなキャラクターが同じで、意気投合した。 その子が言うには 「最初から友達になれそうだと思ってたけど、〇〇さんと一緒に居たからあんまり話しかけられなかった」 と言う 彼女を失った事で出来た友達も居たのだと私は不思議な気分になったのを覚えている。 そこから一年が経った。 彼女と話さなくなってから半年以上が経った事でもある。 最初こそは嫌われてしまって落ち込んでいたし、悲しくて泣きながら眠りについた事もあった。 でも今は嫌われてしまったけど仕方がないと思える様になった。 彼女が私を嫌いになった理由は謎のままだが、このままでもいいと思っている。 だけど私のそんな思いは裏切られるような事になった。 彼女に呼び出されたのだ。 久しぶりに話す彼女は、半年前と変わっていなかった。 唯一変わった事といえば彼女の表情が緊張で強張っていた事だ。 そのまま沈黙が続きさすがに何か話そうと思い、口を開いた。 「ごめんなさい」 だが私が話すより、彼女が謝る方が早かった。 「あのね、私、無視しちゃったから」 よく見ると彼女は、涙で顔が濡れてしまっていた。 「このままじゃ、友達が出来ないと、思って」 驚いた 「友達を、作って欲しくて、クラスでも笑っててほしかったの」 彼女は、私を嫌っていなかった その逆だった私の事が 「大好きだったから」 その一言を聞いた瞬間私は泣き出した。 「私も、いろいろごめんなさい。〇〇が私の事を嫌ってるって勝手に決めつけて、こんなに私の事を考えてくれてるって、何もわかってなくって、勝手に嫌になっちゃって」 私達はまた、涙を流した。 そして最後には笑っていた。 私はおもい違いをしていた。 彼女の気持ちを何もわかっていなかった 自分の気持ちだって、別に良いと強がっていた 私の中学校時代の1番の思い出である

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第7回N1   本音と建前

ガラクタ屋②

「それでは一週間に一度だけですけどこのお店に来てこの部屋を片付けてくれると嬉しいです!」 相変わらずニコニコ笑いながら説明をする店長は、ほっとした様子だ。 「いやぁそれにしてもよかったですよー。丁度、片付けるのがめんどくさいなぁと思っていた所でした」 「もちろん、店長も手伝ってくださいますよね!」 「ふぇ?」 そんな話をしている内に、空はもう暗くなって来たので大人しく帰ることにする。 「それではまた、一週間後に来てくださいねー」 元気に手を振る店長に見送られて、今日は店を後にした。 次の日、店に来ても当たり前かもしれないけど何も無かった。 ただ空き地が広がっていただけだった。 店長の言っていた一週間に一度しか現れないのは本当なのだろう。 少し落ち込みつつ一週間後を楽しみにしている自分に気づき思わず笑ってしまった。 ーあの時間がそんなに楽しかったんだ と気づいて 大人しく一週間待ち、店があった場所に向かうと空き地は店になっていた。 何もなかった事から夢だったんじゃないかと実は不安だった私はほっとしつつ店のドアを開ける。 「お待ちしていましたーえっと…まだ名前、聞いてませんでしたね!」 「愛海(あみ)です」 その時の私は満面の笑みだった。 その日から私はガラクタの山の片付けに取り掛かった。 異世界からのお客様は男の人や女の人、子供まで幅広い人が来店していた。 ガラクタが売れて行くのを見ると何故かとても嬉しくなる。 「愛海さんもだいぶ店に馴染みましたねーお部屋も綺麗になってきたし、万々歳ですよぉ」 手伝いなど一切せずにのんびりお茶を飲んでいた店長が話しかけてくる。 「それにしても人間界からのお客様って本当に少ないんですね。ここに来るようになってから一回も見た事ないですよ?」 ずっと疑問に思っていた事を聞いてみる。 「あーそれはですね。人間の方って魔法とか信じない人多いじゃないですかーだから元々魔法が存在する異世界の方が不思議なお店っていうのは信じられるんですぅ」 店長が不服そうに言い切った時 ギィぃ 「あれ?噂をすれば人間界からの扉ですねーどんな方でしょう?」 「ニャーオ」 「へ?」 お客様は、なんと猫だった。 「いやぁ僕もびっくりですよーもう何年もお店を経営しているのにこんな事は初めてですっ」 「私も猫が来るとは思っていませんでした」 猫好きなのかどこからか出してきた猫じゃらしで遊ぶ店長はいつもより楽しそうだ。 「水晶を持たせたらどうなるんでしょうね?」 「確かにそうですねぇ持たせてみますか?普通に商品を持って帰ったら面白いですねー」 などと面白半分で水晶を柔らかそうな肉球の上に置いてみる。 「映るんかい!」 思わず突っ込んでしまうくらい驚きの瞬間だった。 「普通にお客様だったんですねぇ迷い猫ではなく」 ニコニコと笑いながらそこに映し出された本を探しに最近私が片付けたエリアに入って行く。 お目当ての本は私が片付けただけあってすぐに見つかった。 本を背中に乗せてあげると猫は嬉しそうに尻尾を振りながら店から出て行った。 「あーあ、行っちゃいましたね…」 少し残念そうに猫を見送った店長がそう呟く。 「珍しいですね。店長がお客さんに執着するなんて」 一つの出会いこだわらないどちらかというと淡々とした性格の店長だからこそ猫一匹に残念そうにする店長が珍しかった。 「執着とは少し違うんですけどー昔、猫を飼っていたんです…大好きな家族と一緒に」 驚いた。 何度もこの店に通っていた私も店長の昔話を聞くのは初めてだったからだ。 「僕が大好きだった家族は、願いが叶わないままいなくなってしまったんですよ。だから僕はここで皆さんの願いを叶えるお店を開いたんです」 店長は一息つくと私の目をまっすぐ見て言った。 「ちょっと急ですけど、愛海さん僕の願いを叶えるお手伝いをして欲しいです」 「何をしたらいいんですか?」 気づいたら返事をしていた。 店長は嬉しそうに、そして少し覚悟を決めたように口を開いた。 「ありがとうございます。愛海さん、では…このお店を無くしてください」

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ガラクタ屋②

魔法をかけて

私に魔法をかけてください。 女の子として好きになってもらえたい そんな私の願いが叶う魔法をかけてください。 誰もいなくなった教室で私はうずくまっていた。手の中にあるラブレターは、くしゃくしゃになって涙で濡れている。 私の人生初の告白は告白を終える前に終わった。好きだったクラスメイトは彼女ができたらしい。 涙を拭いながら私は思う。 私に魔法をかけてください。 彼に好きになってもらえるようにしてください。 そう願った 「えっと…大丈夫?」 気づけばあまり話したことがない女の子が気まずそうに立っていた。 「聞くつもりじゃ無かったけど聞こえちゃったの」 無意識に考えていた事を声に出していたらしい。 恥ずかしく思いつつ、何か言いたそうな彼女の言葉を待つことにした。 「魔法は無いかもしれないけど魔法の言葉はあるよ。『大丈夫。きっと次は上手くいく』」 幼稚園児みたいな言葉だった。だけど今の私には深く突き刺さった。事情なんて何も知らない彼女の言葉に救われた気がした。 「じゃあね」と、手を振り教室から出て行った彼女に私は本当に魔法をかけられた気がした。 教室から出た時の私の表情は晴々としていたから

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魔法をかけて

トイレの花子さん誕生!

私が最後に見た景色は病院の白い天井だった。真っ白な天井と隣に座る両親や医者に見送られ、私は息を引き取った。 「は?」 次に目を覚ました時は両足が地面についていなかった。ぷかぷか宙に浮かんでいたのだ。 死んで幽霊になったのだから当たり前かもしれないが、私が伸ばしていた髪も短くなりおかっぱ。 服も真っ赤なスカートである。 何より今いる場所は 「なんでトイレ?」 なんだか嫌な予感がしてトイレにあった鏡を恐る恐る覗いてみると… 「花子さんじゃん!」 そう、簡単に言えば私はトイレの花子さんに転生したのだ。 「うぅ〜どうせ生まれ変わるなら人間が良かった。花子さんとか恐怖の象徴じゃん」 ため息を吐いても、もう花子さんであることに変わりはない。花子さんに生まれ変わらせた神様を恨みつつ仕方がないと諦める。 「あーあ、最悪」 投げやりに始まった私の花子さんの人生は幕を開けた。 「花子さん本当につまんない!」 花子さんが居る場所と言えば学校。もちろん私も学校の女子トイレに住み着いているが、学校の端っこのトイレなだけあってほとんど誰も来ないのである。 面白半分で来た人を脅かしてみたが、誰一人として私の存在に気づかずトイレを出て行った。 暇すぎて学校でも探検しようかと思ったが、見えない何かに阻まれてトイレから出る事はできなかった。 ただ、例外として夜の12:00〜12:59分の間は学校の中に限ってトイレから出ることができた。だが1時になると強制的にトイレに飛ばされた。理不尽な事上ないと、憤慨していたが何度やってもダメだったため、諦めた。その1時間での収穫はここが小学校だとわかったくらいだ。 花子さんになって早一週間。 トイレでは暇つぶしになるような物は何一つない。しかも喋り相手も1人も居ない。 花子さんライフ早々に萎えはじめている。 そもそも七不思議と言われている花子さんは、いつも何をして過ごしていたんだろう。噂通り呼び出されないと出て来られないのなら女子トイレをウロウロしている今の私よりも更に暇だったのだろう。 今私が「遊びましょう」と言われたらきっと飛んで跳ねて出ていくだろう。花子さんも頑張っていたんだと同調的な気持ちになりつつ、知りたくなかった花子さんの闇を知ってしまった気分で、いつも通り12時の探索(私が勝手に名前をつけただけ)に出かける。 ちなみにこの時間に、教室にあるの本や紙などをトイレに持ち込んで置いて暇を潰そうと考えた事もあったが、私がトイレに飛ばされる原理と同じなのか、何故か1時になると元の教室に戻ってしまうという不思議な現象を発見した。発見して悲しくなっただけだったが… 「んー何処へ行こっかなー」 トイレ以外の場所へ出られたら不思議とテンションが上がる。誰だってトイレに一日中居るのは嫌なはずだ。たとえ花子さんでも… 真っ赤なスカートにおかっぱ頭を揺らしながら、私は校舎の端っこの教室に入る。それなりに大きな小学校らしく、私が入る教室は今の所毎日違う。今日は音楽室らしい。ギターにピアノ、よくわからない楽器までが置かれている。教室の壁に貼られたベートーヴェンなどの写真?は怖いのはお約束だ。適当な楽器を弾いて楽しんでいたその時に事件は起きたのだった。 ギョロリ 最初は気のせいかと思った。 ギョロリ 見られている気がする。気持ち悪いのでそのまま音楽室を出て行こうとした時、私の後ろに一つの影ができた。 「えっ?」 「こんな真夜中に奇遇じゃな。新入りの怪異かえ?」 ベートーヴェンだった。壁に貼られているはずのベートーヴェンが何故か実体化して私の後ろに立っている。 「いやァァァァァァ」 理解が追いついた途端絶叫を残し、私は音楽室を超特急で出て行った。 行き先はもちろんトイレである。 ぜぇはぁぜぇはぁ 息を切らしながらトイレへ駆け込んだ私は、足が無くても全力疾走は疲れるんだという無意味な事を知ったと同時にベートーヴェンが動いたという事実がそこまで驚く事ではないことに今更気づいた。 だって私、花子さんだし別にこの学校に他にも怪異が居たっておかしくはない。 人間だった頃の恐怖もあり、逃げ出してしまったが貴重な話し相手になったかも知れないと考えると惜しい事をした。 時計を見るともう1時になりそうだから今日の所は諦めるとして、また明日音楽室に行ってみようと決意した。 長い長い長い長い1日を終えて、やっとやって来た12時。 廊下を進み、音楽室に向かう。 ギィ 「失礼しまーす。ベートーヴェンさん、いらっしゃいますか?」 居ると思いながら声をかけるのはそこまで怖くない。じっと壁の絵を見つめていると… 「なんだ、昨日逃げてった花子ではないか」 絵の中からベートーヴェンが出て来た。 「その…昨日は逃げてしまってすいません。初めてだったんです。自分以外のお化けを見るのが」 とって食われるような事はないと思いたいが、初対面の印象はあまり良くないので礼儀正しく見えるように敬語で話す。 「おぉーそうかそうか花子は初めてだったのか。そりゃビビって逃げ出すわな。ともかく初めましてじゃな。わしは見ての通りベートーヴェン。なんとでも呼んでくれ。お主は花子じゃろ?」 思ったより優しそうなおじいちゃんのイメージで安心しつつ、一応礼儀正しく名乗り返す。 「はじめまして、トイレの花子さんです。この学校の女子トイレに住んでいます。これからよろしくお願いします」 「おぉ、小さいのに立派じゃのぅ。この素直さ、人魚にも見習ってほしいわい」 「えっ?人魚が居るんですか!!」 人魚といえば小さい時に海に行けば一度は探す、小さな女の子達の憧れのプリンセスだ。もちろん私にも人魚姫になりたいと思っていた時期があった。そんな事もあって思わず聞き返してしまった。 「花子はプールにはまだ行っていないのか?夜中にあそこでバタバタ泳いでるぞい」 「えー会ってみたいなぁ」 「また明日にでも行ってみると良い。だが今夜は、年寄りの話に付き合っておくれ」 それからおじいちゃんと孫娘のような会話をした。ベートーヴェンの話は面白かったし、私はいつも暇をしている事や喋り相手が欲しい事を話すと、いつでもしゃべりに来ても良いと言ってくれた。 その夜は私はベートーヴェンの事をベートーヴェンのおじいちゃんと呼ぶようになるくらい親しくなった。 楽しい夜だったが、私だけじゃ無くみんないつも暇してるんじゃないかと疑いたくなった。 次の日は校舎の外から出てプールに向かった。 ベートーヴェンのおじいちゃんが言っていた事が本当なら、人魚はプールを泳いでいるらしい。相手が人魚という事もあり、実は結構楽しみにしている。 バシャバシャバシャバシャ プールに近づくと明らかに誰かが泳いでいるような音がする。 プールサイドに入り、水の中をよく見てみると上半身は綺麗な桃色の髪を長く伸ばした女の人。下半身は綺麗な鱗という古典的な人魚が泳いでいた。 「わぁ」 思わず声を上げると、人魚は私に気づいたらしく近寄って来た。 「ふーん何となく気配はしてたけどやっぱり増えたのね。その見た目からしてトイレの花子さん。正解でしょ」 近くで見るとやっぱり美人だなぁと思いつつも返事を返す。 「はい、トイレの花子さんです。ベートーヴェンのおじいちゃんから人魚さんが居るって聞いて来てみました」 「おじいちゃんにはもう会ったのね。まぁあの人のことだからあっちから声はかけたんだと思うけど。まぁ改めて私は人魚。人魚姫よ、よろしく花子さん…はよそよそしいわね。花と呼ぶわ、よろしく」 「よろしくお願いします」 「ねぇ花、私ずっと妹が欲しかったの!良かったらお姉ちゃんって呼んでくれない?」 顔から火が出るとはこの事なのか。私の顔は真っ赤っかだと思う。人魚姫をお姉ちゃんと呼んで良いのか 「おっお姉ちゃん、よろしくね」 真っ赤っかな顔で私はそう言った。し 「花が来てくれて良かったわ…この学校には私とおじいちゃんしか、怪異はいなかったのよ。おじいちゃんも良い人なんだけどよく対立しちゃうなのよね。それにたくさん居る方が楽しいし」 「お姉ちゃんとベートーヴェンのおじいちゃん以外、誰もいなかったんですか!?」 こういうのは七不思議があるのがお約束みたいに思っていたけど案外そうではないのかもしれない。 そして対立の部分は深く聞かないことに決めた。ベートーヴェンのおじいちゃんから聞いた話からしても、そこまで仲が良い訳ではないはずだ。 「そうなのよ、おじいちゃんだけだと暇で暇で仕方なかったの…プールなんか夏以外使わないから、誰も来ないし」 この人暇って言ったよ暇って!やっぱりみんな暇してるじゃんと心の中で思いながら、プールという最悪な場所に住んでいるお姉ちゃんに深く同情した。 トイレは、端っこだけど何人かは来てくれる。音楽室も音楽の授業でもちろん使う。 「だから花に時々来てもらって話し相手になって欲しいわ。ヒレだと陸地を上手く歩けないの」 「分かったよ、お姉ちゃん!」 こうして私はこの学園でおじいちゃんとお姉ちゃんという家族ができた。

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トイレの花子さん誕生!