実々
37 件の小説当たり前
夜寝る時は毎日思う。 明日が来なければどれだけ幸せなんだろう。 朝起きる時は必ず感じる。 辛い、怖い、息苦しさ。 夜に布団に入って寝る。 朝は布団から起き上がる。 これだけの当たり前の動作なのに私には辛くて、明日にも、これからにも全く希望が持てない。 いじめられた訳でもない。 虐待を受けた訳でもない。 私は恵まれている。 なのになんで毎日がこんなに苦しいんだろう
生意気な子
「ねぇ、おねーさん」 「は?」 「風邪ひくよ?頭大丈夫?」 初対面で私の事を馬鹿にしてきたのは見た事のない少女だった。 雨の中傘もささずに公園のベンチに座り込む私が、少女には奇行に映ったのかもしれない。 必死で自分を納得させ、怒りを封じ込める私を他所に少女は私の横にちょこんと座り込んだ。 「おねーさん風邪ひいちゃうよ?私みたいにカッパ着ればいいのに…カッパも、もしかして傘も知らないの?」 「……」 「そっかー、じゃあ仕方ないね。私が教えてあげる。これはねーカッパ!雨を防げるの」 「………」 「傘もね、一緒だよ。でもね私はカッパの方が…」 「うるさいなぁ」 急に声を出した私にびっくりしたのか少女は、びくりと肩を振るわせる。 「あのね、お姉さん今元気ないの。分かる?あんたの話に付き合ってる暇はないの。どっか行って」 拒絶だった。 いい年した大人が小さな少女相手にここまで言うのは大人気ないと、分かっていながら止められなかった。 「…」 泣いちゃったかな? 急に黙り込んだ少女を見ると流石に言い過ぎたかと、不安になる。 「言い過ぎた…」 「んー、まぁおねーさんが元気ないのは分かってたけど子供にここまで言っちゃって、大人気ないんだぁ」 ケラケラと笑う少女に毒を抜かれた気分になる。 だけどすぐにまた馬鹿にされた事に気づき、頭に血が昇ってきた。 「あんたねぇ」 「良いよ、怒っても」 「は?」 「おねーさんずっと悲しそうだもんね。泣きそうだよ。だからね、私にぜーんぶ喋って!」 なぜだろう ずっと目の前にいたはずの少女は、私よりずっと大人に見えて、私の目には涙が溜まっていた。 勝手に口は動いていて、さっき会ったばかりだというのにこれまでの事を全て話していた。 気づいた時には雨が上がり、心が軽くなっていた。 「またねー」 雨が上がると少女は、スキップをしながら公園を出て行った。 「生意気な子…ありがとう」 小さく呟いた私の表情は、きっとキラキラ輝いていた。
フィルター越しに見える世界
授業参観や発表会。 これは、フィルターを通して見た世界。 いつもはふざけてるのに特別な日だけは良い子を演じている。 親の期待を演じる日。 親がその日、見ているのはフィルターを通して見た子供。 いつもは仲がいいあの子も、いつも笑顔な友達も、本当の心は誰も知らない。 私が、自分のフィルターで見たみんなだから。 私の事も誰も分からない。 助けてって叫んでも、涙を流しても言わないと分からない。 分かってもらえない。 そんな世界は辛いけど、分からなくて良かったかも知れない。 弱い所は知らなくていい。 完璧な女の子 それが私だから。
天才の彼女と秀才の僕
学年2位 誰もが羨ましがるこの順位が、自分には到底納得できるものなんかではなかった。 昔から勉強は好きだった。 やっているだけで褒めてもらえたし、成績が良いと皆んなから敬われる。 中学では学年1位しか取った事が無かった。 努力次第でどんどん点数は上がっていったから、この時の自分は信じていた。 『自分が天才なんだと』 高校に入ってからも、学年1位という称号は保たれるままだと思っていた。 だけどすぐに絶望した。 高校に入って初めてのテストで俺は489点だった。 自分でも十分だと思っていた点数で、順位を見た途端言葉を失った。 1位だと思っていた。 たった11点落としただけだったのに順位は2位だった。 後で聞いた話、1位は隣のクラスの女の子だったらしい。 彼女は498点という学校でも異例な点数を叩き出していた。 次のテストは、彼女の点数がまぐれだったと信じてひたすら勉強した。 だけど結果は変わらなかった。 次も次もその次も順位はずっと2位。 3位の生徒とも点数はあまり変わらず、自分の事が天才だと思っていたあの時の僕がバカらしくなった。 自暴自棄になって全く勉強せずに挑んだテストが1度だけあった。 自分が天才なんだと信じたかったから、何もせずに良い点数が取れることを証明したかった。 結果は言わずもがな、散々だった。 TOP20にすら届かなかった。 そこでやっと気づいた。 自分は天才じゃない。 秀才型の人間だという事に 不満はない、文句もない。 だけど思ってしまった 神様はどうして僕を天才にしてくれなかったんだと 彼女と同じくらいの頭脳をどうして生まれ持たせてくれなかったのだろうと
タイムカプセル
「よし、入れ忘れは無いな」 「全部入れましたー」 私を含めた31人の声と、先生の土を掘る音だけが放課後のが校庭に響いている。 卒業式が終わった今日、私達は式できた綺麗な服を汚さないように校庭で土を掘っていた。 タイムカプセル それを埋める提案をしたのは私たちのクラスを3年も受け持ってくれた、担任の古谷先生だった。 私の学校は、田舎で人数も少ないため6年間クラスメイトの顔ぶれはほとんど変わらない。 小学4年生の時から担任になった古谷先生。 先生が担任になった時から私たちのクラスはずっと同じメンバーだった。 そんなメンバーでの最後の思い出であるタイムカプセルは、私達が大人になった20歳にあげる予定だ。 「埋めていくぞー」 力自慢の男子も埋めるのを手伝い、あっという間に私たちのタイムカプセルは埋まってしまった。 「次開けるのは8年後か」 「生きてるかな?」 「不謹慎すぎるだろ」 いつものバカみたいなやり取りも今日で終わってしまうと思うと全く実感が湧いてこない。 埋めてくれた男子の正装には、土が付いてしまっていて慌てている。 いつも場を盛り上げてくれていた彼女は、そんな男子を揶揄っている。 苦笑いしている私の親友。 そして大声で笑っている古谷先生。 いつも当たり前に見ていた光景が明日からは見えなくなると思えば無性に寂しさが込み上げてきた。 「それじゃあ解散だ」 埋め終わった後、古谷先生は校庭に響き渡るくらいの大きな声でそう宣言した。 「うっ、うぇ………」 隣に居る親友が嗚咽を溢した。 それにつられるかのようにほとんどクラスのみんなが泣き出した。 「そつ…卒業したくないっ、」 「古谷っ、先生にも…会えなくなっちゃう」 私達は顔がぐちゃぐちゃになるまで泣き続けた。 そのくらい、この学校が、このクラスが、古谷先生が大好きだったから。 みんなの嗚咽が小さくなった時、古谷先生は呆れ返った表情をしていた。 「バカだなぁ、タイムカプセルを埋めたんだからまた会えるじゃないか。このメンバーで。先生はその為にタイムカプセルを提案したんだぞ。気づいてなかったのか?」 「え?」 それからは皆んなで笑い合った。 今埋めたタイムカプセルを忘れていた自分達がバカらしくなったからだ。 「それじゃあまた8年後だな。改めて、解散!」 古谷先生の挨拶で皆んなバラバラな方向へ帰っていく。 私も8年後を楽しみに、そしてみんなと再会した時に成長した姿が見せられるようにスキップをしながら自分の家へ帰っていった。
「またね」って言いたかった
後悔した事はないですか? 私は彼に「またね」って言えなかった事が一番後悔しています。 私にはずっと好きな人がいた。 だけど私達はただの友達。 特別な関係にはなれないと思い込んでいた。 「えっ転校?」 親の都合で私は転校する事になった。 それからは忙しかった。 断捨離を済ませ、段ボールに私物を詰めていく。 恋愛なんかしてる暇はなかった。 そんな中、彼は私に手紙をくれた。 『好きだよ』 短く、彼らしい少し雑な字で書かれたその一文を見た私は泣いていた。 そんな私から溢れた言葉は、 「遅すぎるよ」 私は彼に返事をしなかった。 私がこの学校に通う最終日。 私も泣いたし、友達も泣いた。 「今までありがとう」 最後の日まで私は彼としっかり話が出来なかった。 私が校門を潜り抜けた後、私は彼に無理矢理手紙を握らされた。 彼は泣き出しそうで、どこと無くすっきりとした表情だった。 『いつか、返事をもらえる日を待ってる。またな』 ずるい 彼の手紙にはそんなメッセージが書かれていた。 私だって彼に 「『またね』って言いたかった」
『第2回NSS決勝』 勇者様
「勇者様ー」 「ありがとうございます」 大きな人だかりの中心に居るのは、勇者様。 長い期間に渡り、世界を支配していた魔王を倒してくださったお方。 私も、人だかりの中に埋もれた一人である。 私は昔、勇者様に会った事がある。 昔住んでいた町が魔物に襲われた時。 逃げ遅れた私達を助けてくれたのが勇者様だった。 勇者様が剣を抜いた瞬間、魔物は切り刻まれて死んでいた。 結局村は廃村になってしまったが、勇者様のお陰で死人は驚くほど少なかった。 助かった人達は涙を流しながらお礼を言っていたが、私は一人だけ違う事を考えていた。 私は、勇者様にどうしても聞いてみたい事があった。 『勇者様は、どれくらいの命を奪ったのですか?』 魔物だって生き物だ。 敵だったけれど生きていた。 家族や恋人も居たかも知れない。 魔王は、人間の命を奪った。 勇者様は、魔物の命を奪った。 どちらが善でどちらが悪なのかは分からない。 結局の所同じなのかもしれない。 勇者様は、空に向かって剣を掲げた。 人々は歓声を上げる。 私にはその剣がが血で真っ赤に染まっているようにしか見えなかった。
第2回NSS 売れないカメラマン
カシャ 一心不乱にシャッターを押す。 売れないカメラマンである私に回ってきた、大きな仕事。 モデルの彼女を魅力を引き出すために工夫する。 私はこの場にいる誰よりも必死だ。 この撮影には、人生がかかっている。 ここで良い写真を撮らなければ、私の写真が評価される事は恐らくない。 カシャ だが、神様は私の味方をしてくれないらしい。 今日は晴れ予報だったが、風は吹き荒れ、分厚い雲も出てきた。 ゴロゴロ 雷も鳴り出した。 「終わったな」 気づけば涙が出ていた。だが、その涙の粒も風の勢いで飛んでいく。 「撮影は中止します」 誰かがそう叫んだ瞬間 ゴロゴロピシャーン カシャ 私の手が雷が落ちた驚きでボタンに触れ、シャッターを切る。 どんな写真が撮れたのか確認する暇もなく、その日の撮影は中止となった。 あの時撮った写真を見ることになったのはしばらくしてからだった。 整理していた時にたまたま見た写真は、私が撮った中でも一番と言える出来だった。 美しいモデル、映り込んだ私の涙、そして落ちた大きな落雷。 全てが写り込んだ写真だった。 この一枚の写真で、私の名前は爆発的に日本中に轟いた。
悔しいけど「よかったね」 〜美織編〜
「共通女子走高跳び選手、橘志歩(たちばな しほ)」 「はい」 予想通りの結果に私、永田美織(ながた みおり)は心の中で溜息をついた。 この結果が発表された日、私は志歩に伝えた。 「よかったね」 (悔しいけど) 志歩は気まずそうな表情で、 「ありがとうございます」 と言っていた。 私の醜い感情も、表しきれない悔しさも全部全部伝わってたと思う。 私は改めて志歩に伝える。 「よかったね。頑張って」 表すことは一つだけ。 私は最後の大会に出ることができなかった。 美織は、小さな頃から運動が好きだった。 だけどそんな好きとは裏腹に身長が全く伸びず、お世辞にも運動に向いているとは、言えなかった。 そんな時、身長関係なく運動ができる部活が陸上部だと思った。 消去法のような理由で入った陸上部は思っていたよりも楽しかった。 美織の選んだ種目である走高跳びは才能が開花した訳でもなく、ただ他の人よりも良い記録というだけだったけど、それでもやっぱり楽しかった。 私が1年生の時までは。 2年生になると、志歩という名前の女の子が入って来た。 志歩は私よりも背が高く、才能があった。 私の方が志歩よりも記録が上だったのは1学期までで、2学期からは志歩の方が高く、尚且つ綺麗に跳んでいた。 大会に行っても私より上に志歩の名前がある。 不可解だった。 惨めだった。 そして、泣きたくなった。 3年生 正直言うと怖かった。 また、志歩のような天才が入ってくるかもしれない。 そう考えるとまた、涙が出て来そうになった。 入ってきた1年生は、奈乃花(なのか)といういつもニコニコしてる女の子だった。 控えめで、最初の頃は1メートル10センチも跳べていなかった。 奈乃花が入ってくると同時に、2年の男子である翔(かける)も高跳びを練習するようになった。 私と同じで身長が低く、特に秀でた才能もあまり無さそうだった。 私は奈乃花や、翔に深く同情し特別な才能なんか無かった自分と無意識に重ねていた。 奈乃花は、美織先輩と呼んでくれるかわいい後輩だった。 翔の、根が明るく裏表のない性格のおかげで練習の雰囲気は明るくなった。 二人のおかげで美織は息がしやすくなった気がした。 新しいメンバーでのスタートのおかげで、毎回抱いていた志歩に対する醜い感情も少しずつ感じなくなっていた。 そして、3年生最後の大会のメンバー選考の記録会。 美織は志歩に勝つ事を諦めていた。 練習でも1メートル40センチを軽く跳ぶ志歩と、やっと1メートル30センチを跳ぶ美織。 どちらが選手に選ばれるのかは、誰が考えても志歩になる。 そんな気が重かった記録会での志歩の記録は1メートル45センチ。 美織の記録は、1メートル30センチ。 ここまでは予想通りだった。 けれど美織の心を更に抉る事になった理由は、奈乃花と翔だった。 奈乃花は、本番で1メートル20センチを跳んだ。 翔はその上の25センチ。 まだ練習を始めて二ヶ月しか経っていないにも関わらず、美織がやっと2年生で跳べた記録を奈乃花と翔は跳んだのだった。 「美織先輩!跳べましたよ」 ニコニコ顔で報告してくる奈乃花は眩しい。 『よかったね』 簡単な5文字なのに何故か声に出すことができない。 「先輩?」 不思議そうな、奈乃花の声。 「よかったね」 ようやく言えた『よかったね』はカスカスで、自分で聞いていても気持ち悪くなるような醜い感情ばかりが乗った言葉になった。 奈乃花も何かを察したのか、もう何も言ってこなかった。 「共通女子走高跳び選手、橘志歩」 そして選手は私の予想通り志歩になり、男子の選手は、翔になった。 「いやぁ俺は正直消去法で選ばれたし、そこまで嬉しいとかはないんですけど初めての大きい大会はやっぱりワクワクしますね」 男子の走高跳びは、翔以外練習している選手が居ない。 消去法で選手に選ばれた翔が、今は憎たらしい。 私は頑張っても選手になれなかった。 翔は頑張らなくても選手になれた。 心底憎い。 『憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い』 「どうしたんですか?美織さん」 「よかったね。頑張って!」 奈乃花との似たような会話も思い出しつつ、早口で言い終わると、早足でその場を後にした。 自分がどんどん汚れていっている気がする。 奈乃花に、翔に、そして志歩に、みんなに八つ当たりして。 「最低だな」 一人の時は、言葉にするのも簡単だった。 大会当日 「志歩先輩、頑張ってください!」 いつも通りの愛嬌のあるニコニコ顔で志歩を応援する奈乃花は、いつもよりご機嫌だ。 誰が見ても機嫌が良いのは明らかだが、本人に伝えると動揺していたので、自分でも気づいていなかったのかもしれない。 翔も、自分の出番までは時間があったので、近くで応援している。 「志歩ファイトー」 あらゆる所から聞こえてくる志歩へ向かって応援する声。 きっとこの中で志歩を応援出来ていないのは私だけだろう。 志歩の跳ぶ番だ。 何センチかは、分からないけどかなり高い。 そんな高さを志歩は跳んだ。 辺りは興奮と熱気に包まれた。 志歩の記録は自己ベストを更新し、1メートル50センチ。 志歩は大会で、3位入賞を果たした。 「志歩ちゃんすごい!」 「おめでとうございます。志歩先輩」 帰ってきた志歩は、たくさんの人から、「おめでとう」と言ってもらっている。 それを私は離れた所からずっと見ていた。 「美織さん」 帰る直前、翔に声をかけられた。 「どうしたの?」 「志歩から伝言です」 言いにくそうであり、それでも期待が籠った目。 そんな瞳で私に 「『美織さんが、居てくれてよかったです。張り合っていける仲間って大事なんですね』って志歩は言ってましたよ」 「あー私もバカだな」 志歩が私のことをどう思っているかなんて考えもしなかった。 「ごめんね…」 頬を濡らして、私は泣いた。 「よかったね」 目の前には志歩がいる 悔しさも、羨ましさも、純粋な喜びも全てが入った一言だったと思う。 だが、あの日とは違った。 「もちろん悔しいけど」 私が前はギリギリで飲み込んだ言葉も伝えた。 「ありがとうございます」 そう、笑って言ってから何かを思い出したようにまた口を開く。 「本当に美織さんが居てくれてよかったです。張り合う仲間って大事なんですね」 恥ずかしそうに笑う志歩は選手発表の日よりも、1メートル50センチを跳んだ時よりも輝いていた気がした。
全部嘘で終わらせる
百合です 嫌いな人は読まないで! 「好きだよ」 「えっ?」 私の言葉に彼女は驚いている。 だけどそんな彼女に私はにっこりと笑いかけ、 「嘘に決まってるじゃん。もちろん友達としては大好きだよ」 「あーびっくりした」 彼女も笑う 私も笑う 彼女の純粋な笑顔とは真逆で、私の笑顔は不純。 諦めや、悲しみというものが浮かんでいる。 「なんか嫌な事あったの?」 彼女は私の微妙な表情を見抜く。 そんな所もやっぱり愛おしい。 「なんでもないよ」 言えるわけがない。 『あなたが大好きだけど好きになってもらえなくて辛い』 なんて 私は彼女が大好きだ。 性別や親友という関係すら超えて だけど 彼女は私のことが『親友として好き』だから私のこの恋心は 「えー嘘だー」 「好きだよ」 「?」 「もちろん嘘」 全部全部嘘で終わらせる