浅沼

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浅沼

キミがいないセカイが地獄なら

第1章 ハジマリ 第5話 左腕を止血してもらったワンダだったが、まだ状況を読み込めずにいた。痛みよりも混乱が先に来て、興奮のボルテージは上がっていた。 「ソルネットじいさん!どうしてこの村はっ!」 「しっ…」 ハッとして周りを見た。獣はいつの間にか人と成り視界も鮮明になった。 「ごめん…」 「お主が混乱するのも不思議では無い。なぜならわしもなぜ襲われたかわからんのじゃ。」 崩れた家に潜みながら、ソルネットは事の経緯を話した。 「あの者たちはただ、排除しに来たとだけ言っておった。女も子供も関係ない。ひたすらに制圧していったわい…。だが、これだけは言える。偶然ではない。これは、誰かがいるのだ。わしらを破滅に追い込む何かが…。」 ソルネットは少し遠くを見つめた。何かを悟り諦めたような顔にも感じたが、ワンダは俯いて気づけなかった。 「ま、お前が生きていて良かったわい。ただ…」 「私にはもう、生きる理由がない。だって、もうイブは…」 目が滲む。思い出したくないのに、色鮮やかに悲しくイブが映る。 「もう、生きていけないよ…」 ワンダは幼い少女のように肩を震わせ小さくなった。 「ワンダ…」 ソルネットはワンダを見て出会った日を重ねた。元気だったあの子はもう居なくなるだろう。面影も言動も変わってしまうだろう。それでも大切なものを教えようと口を開いた。 「イブは…お主に生きろと言ったんじゃろう。自分よりもお主の安全を選んだんじゃ。ワンダ、約束を…果たしなさい。」 『ぃ…き…て…』 イブの最期がワンダの脳裏を駆け巡った。 (イブ…) 近くにあった剣をもち、ワンダは髪を切るつややかなロングは不格好なショートヘアになり、瞳の輝きはいつの間にか消えていた。 「私は、今からワンダ・クローバー・ユリブーケ…復讐に…生きる者…!」 ソルネットは目を閉じ、沈黙した。否定でも肯定でもなく、訪れをただ見ていた。 「さぁ、もうゆきなさい…まずはプレジオーザ・エス…南を目指しなさい。」 「…うん。ありがとう、ソルネットじいさん…。」 「わしは少し休もう…お前の物語が、上手くいくことを願っている。」 家を出てしばらくすると…その家に火が投げられた。爆発音とともに家が燃える。ワンダはまた何かをなくしたように感じた。しかし、きっともう無くすものはないだろう。あの笑顔も幸せもきっと帰ってこない。あるのは業火のように燃える復讐だけ。 (キミがいないセカイが地獄なら、私は…) セカイを壊したい ーーー終ーーー 第2章へ続く……

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第1章 ハジマリ 第4話 村に着いたワンダだったが、心地よかった景色は炎と槍に包まれていた。手に持っていたイブへのプレゼントは手汗とワンダの握力でぐしゃぐしゃになっていたが、ワンダは手放さなかった。 (イブは、イブはどこ…!) ワンダは走った。息はあれ、喉元が焼けるように熱い。それでもずっと体の奥が痛かった。 (私が行かなければ…この村にいれば…どうして、どうして!!!) 感情もぐしゃぐしゃだった。でも、歩みは止められなかった。槍を持った人々は見知らぬ国旗の紋章をつけた制服でワンダの混乱をより強くさせた。 (盗賊だと思ってたのに…この人達は…?) 村の人たちは襲われ、もう息を忘れた人も多く転がっていた。ワンダも途中襲われかけたが、自身の身体能力がワンダを救った。 ようやく家の前に着くとひと気はないようだった。 (よかった…ここには…) ハッとワンダは見開いた。甘いマロン色の髪が横たわっていた。近づくと濃い鉄のような匂いがして、それが大量の血だとわかるまで、脳が処理を否定していた。一気にさっき食べていたものが食道を伝い口からはいでてきた。 「っおぇぇ…かはっ…ぅえぇ…」 ずっと会いたかった人のはらわたは剥き出しになり、目は片方えぐれ透き通る肌は黒く冷えていった。 「イ…ブ…イブ…!イブ!イブ!」 「……ワ…ダ?」 奇跡的に息はあるようだったが、短い制限時間がある壊れ物のようだった。ワンダは優しくイブを抱きしめた。 「ごめん、イブ…っ…私が…っ!」 「ぃ…き…て」 唇に重なった味は鉄の鉛のようで、野いちごタルトよりも甘い気がした。キスをされたとわかるまで時間がかかった。そしてイブの最期だということも。もう動かなくなってしまったイブの顔は柔らかい表情をしていた。 「あ、ああああああああああ!!!!」 叫びをきいて、紋章をつけた獣が近寄ってきた。 「あそこにもいたぞ!」 「1人も残すな!」 喋る獣はワンダへ向かっていく。振り下ろされた剣はワンダの左腕へ直撃した。 「…ゔああああ…!!!!」 赤い花びらが飛び散り、質のいい紙を持った腕はワンダから離れた。それでもワンダは何かが途切れたように動かなかった。自暴自棄になったように叫び、壊れたオートマタのようだった。 「なんだこいつ…早く殺せ!」 もうひとつ振り上げられた剣がワンダに降りかかろうとした時、獣は急に動きを止め倒れた。 「おい、ワンダ…!!」 ワンダの身を守ったのは、瀕死のソルネットだった。狩猟用の銃を手に持ちワンダを抱え込む。 「生きる気力もないとな…」 ボロボロのソルネットが前に立ったが、ワンダはイブを離さなかった。その瞬間、 バチン! と頬を叩く音が響いた。ワンダも目を見開く。 「イブはなんと言ったか!!お前ならわかるじゃろ」 少しだけ、ワンダの瞳に光がさす…。 「生きて…」 ーーー続くーーー

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キミのいないセカイが地獄なら

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第1章 ハジマリ 第3話 鋭い矢が狐の喉を一突きした。キュっ…と声を上げ狐は倒れる。 「これで6匹目…っと!」 結局依頼を受けることにしたワンダは頼もしい功績をあげていた。 (狐を討伐すればする分報酬アップ…。これはやるしかないでしょ!) イヴのことを思い浮かべ、ワンダは期待に満ち溢れた。 (本当は不安だったけど、大丈夫だよね。) ワンダは、どこか落ち着かない気持ちを持ちつつ、名前を記した紙を思い出す。気持ちは一つだと思って、また弓を構えた。小さかった網敷罠装置は、改良を重ね捕獲しやすくなり、周囲に寄る獲物は自信の弓裁きでなぎ倒す。ワンダの王道の狩猟方式だ。 「ワンダちゃ〜ん!休憩しましょ〜!」 遠くから依頼主の声が聞こえる。 「はーーい!」 返事をしてワンダはもうひとつ矢を放った。キュっ…とまた音がし、ワンダは得意げに微笑んだ。 「ワンダちゃん、お上手ね…!お昼作ったから一緒に食べましょ!」 「ヌテラさん、もしかしてこれ全部作ったの…?」 依頼主のヌテラは両腕を広げても大きいテーブルいっぱいに料理を並べた。サンドイッチ、パンプキンスープ、サラダ、チキン、デザートのポテトシトラスパイまで全て手作りのようだ。 「私、誰かが依頼を受けてくれるのが久々でね…よかったら食べてくれるかしら…」 顔のシワの量を感じさせない心意気にワンダも頬が緩んだ。 「全部食べれるかは分からないけど…いただきます!」 その言葉にヌテラも明るい表情を取り戻した。 「そういえば、ワンダちゃんはどうして依頼を受けてくれたのかしら…あっ、嫌だったら言わなくていいのよ。」 「私は、大切な親友にプレゼントがしたいんだ。親友っていっても家族みたいなものだけど。」 照れくさそうに微笑むワンダにヌテラが言った。 「素敵じゃない!どんなプレゼントなの?」 「えっと、質のいい紙が欲しいんだ。質とかあんまわかんないけど!」 「質のいい紙ね…ならいい所を知ってるわ。狐もすごい狩ってくれたし、報酬と…質のいい紙を売っているところの地図を渡すわね!手書きで申し訳ないけれど…」 「いいの?ヌテラさん、ありがとう!!」 ワンダは店と早い帰りを知り、胸が高なった。イヴをふと思い出すと、また野いちごタルトを作ってくれるんじゃないかと心を踊らせた。そして、ずっとヌテラに言いたかったことを話す時が来た。 「ヌ、ヌテラさん…おなかいっぱいかも」 ヌテラの家から店へはそこまで遠くなく、ワンダもすぐに着くことができた。硬貨は少し多めに持たされた気がするが。 「ごめんくださーい。」 ドアを開けると少し薄暗く、本やガラス細工などが小さい部屋の辺り一面に置かれていた。奥にはぽつんと店主がいて、近くにお目当てのものがあった。 「あ、これください!」 ワンダが指さすと店主は硬貨10枚と指を指す。ワンダはその倍の20枚もらっていた。 (やっぱ貰いすぎだよね…) と思い半分を払う。受け取った瞬間、ワンダは目を輝かせた。 「ありがとうござ…」 ドドーーーーーン!!!! 「!?」 いきなり大きい音と衝撃が走った。ワンダの心臓がドクドクと波打つ。店を出ると黒い煙が少し遠くで立ちのぼっていた。 (まって、いやだ。どうして、どうして、どうして!) ワンダが見上げた方角はワンダが帰る場所なのだ。 (イヴ!!!!) ワンダは走り出した。いつもの軽やかな走りは少し鎖がついているような気がした。息は上がり苦しくなって嗚咽が込み上げてくる。それでも、確かめないと苦しかった。いや、生きている姿が見たかった。 (無事でいて…イヴッ……!) ーー続くーー

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第1章 ハジマリ 第2話 「隣町に出張〜?」 「何か嫌か?悪い話じゃないがの。」 ワンダは眉を潜ませた。村の看板には硬貨が貰える簡単な仕事が貼ってある。ワンダもたまに仕事を引き受けるが、今回は看板の向かいにある家に住むソルネットからの声掛けから始まった。ソルネットはこの小さな村の雑貨商だ。ワンダとイブが小さい頃は、網式罠装置や古書を授け、ふたりの生活基準をサポートしてくれた。今では腰はまがり、ワンダよりも低くなった背だが、ワンダはずっと大きく頼もしい背中を見てきたのだった。 「ソルネットじいさんの頼みなら、なんでも引き受けたいよ!でも、さ、ちょっと距離が遠くない?」 仕事内容は狐の討伐依頼だ。ワンダの能力なら枝を折るほどの容易さだったが、ワンダには気がかりがあった。 「最近、イブの帰りが遅いの。大したことじゃないし、私の気にしすぎなのかもしれないけど今はできるだけ傍に居たいんだ。」 「そうじゃったのか…。まーむりにとは言わん。いつだって、心に従うんじゃ。」 「うん、ありがと!じゃ、またね!」 ワンダはソルネットに挨拶し軽やかに帰った。 (今日はすることもないし、家にいようかな…。) ドアを開けると、甘い香りが漂ってきた。 「あれ!?イブ!?」 「えっ、もっと遅いと思ってたのに…」 イブは珍しく慌てた様子だった。キッチンにたっていたイブはワンダに駆け寄る。 「もうちょっとでサプライズできたのに…。でもすぐ見せれるのは嬉しいわ。おかえり、ワンダっ。」 小麦粉、野いちご、バターにミント…。ワンダはすぐハッとしてイブの目を見た。 「野いちごタルト!!」 「…正解っ。」 ワンダはこころの芯の部分がじわっと広がっていく感覚を感じた。イブといるといつもなる感覚だ。ワンダはこの瞬間がたまらなく好きだった。 「ありがとう、イブ!」 「あともうちょっとで焼けるから、座って待って居てくれる?」 「はーい!」 ワンダがテーブルの方へ向かうと、1つの紙が置いてあった。 「あっ、これって…。」 紙は少し黄ばみ、端はボロボロになっているが字は褪せることなくかかれている。 ーOneda Cloverー(ワンダ・クローバー) ーEve Van Yulibouquetー× ーIve Van Yulibouquetー(イヴ・ヴァン・ユリブーケ) (私たちの名前を一緒に決めたんだよね…。) 古書をもらってすぐ、イブは文字を覚え始めた。きっとその日から、考えていたのだろう。何日も経った日、幼いイブはこう提案したのだ。 「私たちで、私たちの名前をつけよう!」 (今でもすぐ思い出せる。) イブは優しく文字を教えてくれた。お互いを示す存在はお互いを創る存在に変わっていた。 「お待たせ…あっ!」 イブは紙を見て少し頬を赤らめた。 「ちょっと昔を思い出したくなったの。これ、覚えてるよね。私たちで名前を考えて…」 「もちろん!私たちのハジマリだったから!」 「これも大切なんだけど、実は新しい紙に書きたいと思っているの。改めて私たちの名を残したくて。」 イブはそういいつつ、貯金が入ったタンスに目をやる。そしてすぐ遠い目をして静かに笑った。 「今はなんでも高いの…はぁ。」 ワンダはイブの横顔を見て少し考えた。そして声に出す。 「いい依頼があるの!」 ーーー続くーーー

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第1章 ハジマリ 第1話 「ねぇ、ワンダ。これって私への手紙?凄く嬉しい…あっ、…ふふっ!ワンダ!私のスペル間違えてるよ!でも嬉しい、あなたが初めて書いてくれたんだもんね……決めた!私今日からイヴ(Ive)にするね!」 ワンダは目をそっと開き、親友イヴへ送った手紙を思い出していた。視界にはさわやかに揺れる草原とのびのびと立つ大木が広がる。ワンダは大木が落とす木陰で一休みしていた。 (…もう…イヴ遅い!!) 今日は野いちごをつむ約束をしていたはずだが、約束の太陽の位置になってもイヴは来なかった。ワンダは起き上がり、うんと伸びをした。 (もう、最近いつも遅い…どこに出かけてるの?) 心の中でぼやき、ワンダは野いちごがある森へ向かった。理由はひとつ。 (全部食べちゃうもんね!) そしてワンダは駆け出した。軽く風のように、ワンダはまるでバリアシオンを踊っているように走り出す。慣れた足取りで木に巻きつくツルを掴み、川を一気に飛び越え、いつもなら夜食にするイノシシの子どもに目もくれず目的地へ向かった。 (あれ、あの姿…) 見慣れた姿にワンダは声を上げた。 「イヴ!!」 甘いマロン色の三つ編みおさげが揺れる。透き通る白い肌、柔らかなまつ毛を持ったタレ目には、ペリドットの瞳がワンダを映す。目的地にはもうイブがいた。 「ふふっ、ごめんワンダ!集合場所には間に合わないと思ったからもうこっちにいたの。」 イブは笑って手招きをした。 「もう!なんで来てくれないのよ…」 「だって、ワンダは待てずに来ちゃうでしょ。野いちご全部食べちゃおーとか考えて私を置いてくのが丸見えよ。」 図星をつかれ、口をすぼめたワンダにイヴはすかさず言った。 「ワンダのことならなんでもわかるのよ?ずっといるんですもの。」 イヴの言葉にワンダはこ降参と言わんばかりに手を挙げる。 「もーわかったってば!でも、次は一緒に行こうね?私がイヴをどれだけ待ってたかも考えて。」 ワンダはリスのようにほっぺを膨らませイヴの手を握った。 「ふふっ…うん。ワンダ、ごめんね。野いちごいっぱい摘んだら、あなたの好きな野いちごタルトを作るから。」 「これで全部とったかな?」 イヴは辺りをキョロキョロし、野いちごを全部とったかを確認する。すると、1人の少女が不敵な笑みを浮かべた。そしてイヴのカゴの中にある野いちごを3つほどパクリ。 「あっ!…ワンダ……。」 イヴがムッとするとワンダはニヤニヤしながら、 「味見だよ!毒がないか確認してあげたの!」 「ここに何回行ったと思うのよ!味見なんていりません。」 と慣れたやりとりをした。そして2人は夕暮れになるまで他愛もない話をして、カゴにいっぱいの野いちごを持って帰る。ワンダはふと自分が本当は誰なのかを思い出す。しかし分からない。親はもう、とうの昔にいないからだ。声も、体温も、形も知らないままこの村にいる。イヴも同じだ。ふたりは孤児だった。2人の出会いは名をつけるほど奇跡的なものではなく、まるでお互いの存在で自分の存在を示すためのような交わりだった。 (でも、それで良かったの。私はイヴが隣にいてくれれば。) ワンダはイヴの手をぎゅっと握る。 「…ワンダ?」 「…ただ、この幸せがずっと続けばいいなって思ったの。」 風が銀色の髪を撫でる。銀色のまつ毛、銀色の瞳、透き通った全てをさらに透き通す肌を持つワンダが優しく笑った。 【あぁ、なんてーー】 「…そうね。」 イヴも優しく笑った。ワンダは少し違和感を覚えたがイヴの声も、握りしめた手から伝わる体温も、イヴの形も疑わなかった。2人は家に帰り、野いちごを洗う。2人の家だ。素朴で小さく、幸福が詰まった家だった。ワンダは心の底から幸せが続くと思っていた。これから起こる悲劇も知らずに…。 ―――続くーーー

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