すれ違って、また…
茶髪が目立つ、輝くあの子は 私の親友が好きらしい。 顔も性格もよしの親友に 勝てるわけ、ないじゃんか 俯きながらすれ違う どれだけ胸が苦しいか 好きな気持ちが忘れなれない あの子の笑顔を信じきれない このまま好きで留めたい 涙が溢れないうちに… 黒髪が綺麗なあいつは実は 俺の親友が好きらしい クラスで人気者の親友 俺も大好きな親友 俺は近くですれ違う 目を合わせてくれないあいつ ああ、と涙を我慢する 私は 僕は あの子がほんとに好きなんだ アイツのことが好きなんだ
この飴が腐るまで
すっかり埃を被った飴玉を、口に入れて転がした。広がる不快感に、顔を歪める。喉が異物感を訴えて、思わず吐き出しそうになる。口中に砂のような埃がへばりついて、水分が失われていく。それでも必死に転がし続けて、そのうち目には涙が浮かんでいて、時も忘れてただ舐め続けていた。いつの間にか、口の中には唾液がたまっていて、あるはずも無い喉仏をごくりと上下させると、口中の唾液を飲み込んだ。そうすると、気が付いた。甘い味。埃の先の飴玉は、まだ甘くて、美味しくて、そうするうちに涙は引っ込んで、いつの間にか、夢中になって舐めていた。舌が、喜びに打ち震えている。惜しみなく流れ出る唾液が、ぽとりと地面に落下して、じんわりと広がっていく。口から伸びる透明な筋が、飴を味わう彼女の表情が、息を飲むほどに、色っぽい。 大丈夫、この飴はまだ、腐っていない。 ─ 青い飴 ─ 雲ひとつ無い大空を、飴玉越しに眺めてみる。微かに色が変わっただけで、何も起きない。そんな馬鹿なことをしている私の手をそっと掴んだ彼は、私の手を口へと近付ける。もう、届く。その瞬間、一筋の陽光に照らされた飴玉が、どうしようも無く綺麗に光っていて、そしてその光は、彼の口の中へと沈んでいった。飴を転がしながら、にたりと笑う彼は、そんな陽光を忘れさせるほどに、綺麗だった。私も同じ飴を舐めてみる。この飴は、こんなにも甘かっただろうか。 ─ 白い飴 ─ 初めてだった、甘くない飴を食べたのは。初対面の私達。彼の手には飴入りの袋があって、その中身を渡された。受け取って食べた飴は全然甘くなくて、驚いた私の顔を見て、彼はくしゃりと笑っていた。それで私はムッとして、そんなに笑うことはないじゃないかって、心の中で少し怒ったけど、そのうち馬鹿みたいに思えてきて、気が付いたら笑ってた。彼も一緒に笑ってて、冷めた味の飴とは裏腹に、顔はいつの間にか熱くなっていた。この日、私は初めての味を経験した。 ─ 黄色い飴 ─ 涙を流す私を見守って、彼はずっと傍に居てくれた。遠くの橋を並んで見つめる私達は、日が暮れるまで動かずに居た。その時の私は気が付かなかったけれど、橋の上を通る電車を見た彼の横顔は、驚くくらいに寂しげで、涙を堪えているように見えた気がした。しばらく話して、いつの間にか泣き止んだ私に、彼は袋を取り出して中の飴を渡してくれた。笑って頬張る彼を横目に、私も飴玉を口に入れた。それは、胸を締め付けられるほどに、酸っぱかった。 ─ 赤い飴 ─ 夕暮れの中、私は電車を見送った。多分、また泣いていたのかもしれない。泣き腫らした私の目は、多分すごく赤くて、彼はなんでもなさそうに笑っていたけれど、彼の目も赤かった。電車を待つ間、彼に飴の袋を渡した。中には一通の手紙を入れた。彼は嬉しそうに受け取ると、もう食べようとしたので、止めた。残念がる彼は、すぐに立ち直ると袋を取り出して、中の飴を私にくれた。二人して転がして、笑いながら話して、後半は泣いていて、それでも、最後は笑っていた。 ─ 桃色の飴 ─ 離れて行く彼女を窓から見て、どうしようも無く切なくなったのを覚えている。新しい土地で、心細くなった俺は、あの日貰った袋を開けた。中には手紙が入っていて、しばらく読むか悩んだけれど、意を決して読んだ。 その飴玉と手紙は、大切に、大切に保管した。少し埃は被ってしまったけれど、それでもこの飴は腐っていない。あの日以来、この笑顔を彼女に向けたのは初めてだ。上手く笑えているか分からない。もしかしたら涙が出ているかもしれない。それでも全力で笑って、飴玉を渡した。彼女は嬉しそうに受け取って、口に入れて転がした。 『この飴玉が腐るまで、私はあなたを忘れない。もしこの飴が腐ってしまったら。私を忘れて捨てて欲しい。もしまた会えたなら、あの頃のように、二人でこの飴を分け合いたい。』
コントローラー
ゲームのコントローラーが壊れた。新しく買い替えようと思いショッピングモールに行くことにした。だが、外に出るのがめんどくさかった。ゲームしたいでも外には出たくないと心の中で葛藤していた。 そして、なんだかんだいって外に出た。自分自身を褒めたいぐらいだ。そんなことを思っているうちにショッピングモールに着いた。 お目当ての物を探しに電化製品が売っている場所へ行った。とにかく急いで帰りたかったので、早歩きでゲームコーナーに行きコントローラーを買ってしまおうと思っていた。しかし、狙っていた最新モデルのコントローラーが売っていなかったのだ。自分自身、最新モデルじゃないとショッピングモールを爆発させたいぐらい嫌だった。なので人とできれば話したくはなかったが店員の方に聞いてみたら「売り切れてしまいました申し訳ございません」と言われた。絶望的だった。 あきらめて友達の家にゲームをやりに行った。家に着くと嬉しそうな笑みを浮かべた友達が出てきた。理由を聞いてみると自分が狙っていた最新モデルのコントローラーを買ったとなぜか悲しそうな表情で言ってきた。自分はムカついてしまってなんでそんな悲しそうなんだと聞いた。友達は、最後のひとつを買って家に帰り早速使おうと思ってたら一歳の妹が床に置いてしまったコントローラーを投げて遊んでて壊してしまったんだと泣き崩れながら訴えた。それに対し自分はこう言った… 「お前は馬鹿かーーー!!」
くれる・失う
森に小さな木を植えた 時が流れた 小さな木は大きな木になった ある日、 原子爆弾が落とされ、 大きな木は灰になった
本気で私を幸せにする気がないなら 私との契約は終了です。
この人と別れたら、生きる意味が無いからこんな世界やめてやる。 付き合う人ができる度、思った。 相手を振る時に思うことは、 あんな奴と付き合う私ってバカみたい である。 この恋、付き合って5ヶ月がやってくる今 思っていること それは もしこいつに飽きた時、こいつを殺す である。 彼は優しい。とても優しい。 男前で、胸張ってるけど、メンタルは弱い。 付き合っていて、ボケてツッコんでくれて、 とても楽しい。 でも困ったことが、ひとつ。 経済力がないこと。 確かに、お金で愛は買えないが、 愛だけを選んでいると、いつかどこかで 困ると思っているからだ。 でも私は彼のことを好きだ。 でも私はこれから彼と一緒にいて 幸せになれるのだろうか? 結婚だって、子供だって、お金が必要だ。 ほんの少しめんどくさいからと すぐにバイトをキャンセルする彼と これからの一生を共にすると考えた時 正直私は、幸せになれないと思う 私はこれからどうすれば 幸せになれるのだろうか
自分のために生きるということ。
自分のためにやることをやりなさいと言われ、 自分のためにやることをやれば、周りが見えないと言われ、 周りを見ようとすると、自分のことを第一優先でと言われる。 どれを全うすればいいのか。 きっと世の中は臨機応変に生きていかなきゃ行けないのだ。
6-1=◻︎
6-1=◽︎ ゆうき 『6-1=0である』 何を言っているのか、と疑問に思う人も居るだろう。 実はこの問題、正解なんです。 私達はアイドルグループ、R&R(アールアール)通称Rs。(アールズ) 最近人気が絶えなく、国民的アイドルグループになりつつある。 私はオレンジ担当の坂本梨々香。皆からはりりいと呼ばれている。私的にはこの名前は気に入っている。趣味は写真撮影。 他のメンバー達は、 まずピンク担当、リーダーでセンター、鈴木百香。もかりんと呼ばれている。そして黄色担当、深沢花音。かののんと呼ばれている。次に水色担当、斎藤優香。梨々香の幼馴染である。ゆかちゃんと呼ばれている。そして紫担当、花澤苺華。名前の通り苺が好きだそう。いっちーと呼ばれている。最後に白色担当、八木千紗。センターは恥ずかしくて嫌らしい。 「梨々香!新しくできたカフェ、一緒に行かない?」 そう話しかけて来たのは、斎藤優香だった。 「おぉ!いいね、行こう。」 優香はやったー!とはしゃいでいる。 カフェに行ったのは、それから数日後。 店に入ると、代表的なカフェな感じの音楽。そしてコーヒーの匂いが店一面に広がる。 「梨々香、何頼む?」 梨々香は何でも良かった。ただ、お洒落な写真が撮りたい。そう思っていた。 「うーん。優香に合わせるよ。何飲む?」 「わかった、じゃあ、、。モカ!」 ちょっと笑っちゃった。もかだって。うちのメンバーじゃん。 「じゃあ私もそれにするね。」 優香が店員さんを呼ぶ。 それにしてもお洒落。そう思い梨々香は写真をパシャリと1枚撮影する。 「あっ、そうだ。」 優香が急にカバンを漁る。 「梨々花に見せたいものがあってさ。」 そういってカバンから1枚。小さな写真を見せてくる。 「ん?なにこれ。」 「これ、前のライブの後の楽屋なんだけど、、」 そこには、梨々香達への花束が添えられていた。しかしよく見ると、八木千紗の花束の周りに、×××が散らかっている。 「な、なにこれ、、!ひどい、。」 「だよね。」 梨々香達の空気はますます悪くなっていく。そこで優香が、 「ごめん!お洒落なカフェで空気悪くしちゃったね。さ、飲も?」 「うん、そうだね!」 次の日。 「おはようございます。」 そういって楽屋に入ってきたのは、リーダーの鈴木百香だった。 「もかりん、おはよう。」 もかりんはリーダー、センターと、大事な役目を背負っているが、一切調子に乗らず、みんな平等を心掛けている、心優しい人だ。 「おっはよ〜、」 「あくびすんなし笑」 また入ってきたのは、深沢花音と、花澤苺華。 「花音、苺華、おはよ!苺華、朝ごはんは?」 「いちごー!」 やっぱり、この人は毎日朝はいちご。 そして遅れてきたのが、八木千紗。 「ご、ごめん!遅れました、、。」 「いいよー。」 「大丈夫大丈夫。」 ライブまでまだ時間があるから、最終リハを行うそうだ。 今回のライブはファン投票でセンターが決まる。だからみんなライバルに勝とうと必死に努力しているわけだ。 「今度こそ、センターになる、!」 そう八木千紗が呟いているのをたまたま聞いた。 梨々香も頑張ろうと思った。 ライブ本番 「髪崩れてないよね!」 「センターなりたい、!緊張!!」 よし、がんばろう。深呼吸をしてステージに上がる。 ファンの熱い声援が聞こえてくる。1曲目を歌い終わり、ファン投票が始まった。ルールは、ライブを進めながら、好きだと思ったメンバーに投票をし、最後の曲の前でセンターを発表し歌い、次の投票までセンターになる、というルールだ。 ファン投票の影響か、みんなスマホに食い付いている。そんなときに2曲目が始まる。ひとり、高校生くらいの女の子と目が合った。 目をキラキラ輝かせている。梨々香のファンだろう。 嬉しくて、ついファンサをした。 女の子は嬉しそうに目を見開いた。 「ありがとね!」 2曲目が終わった。 そしてしばらくし、最後の曲の前へと。ついに、投票結果の発表だ。 「結果は、、、」 「八木千紗!!」 「は?」 花音と苺華が千紗を睨みつける。 「え、え!?わ、私!?」 結果は千紗が選ばれた。拍手喝采だった。悔しくて、悔しくて。 仕方なかった。 数日後、千紗は死んだ。 自宅で死んでいた。ナイフを腹部と喉に突き刺された跡があった。 恐らく他殺だ。証拠は全て隠滅されていた。 その日はメンバー、スタッフ、事務所全体が集まり、千紗の“死”について話し合った。 その日、千紗と一緒に居たのは、優香だった。優香がやったんじゃ、と花音と苺華が騒ぎ立てた。けれど、幼馴染の梨々香なら分かる。絶対に優香はそんな事しない。 花音と苺華は、優香と口論になり、優香は小さい怪我をした。 「いっ、た、、」 「、ゆ、優香、大丈夫?」 「うん、大丈夫!平気だよ。」 「私達の大事なメンバーを殺したのは誰!!?」 花音が言う。 「そんなの、私達になんて分かんないよ!!」 「優香、、。」 スタッフがなんとかし、その日は終わり、結局Rsは活動休止という選択をした。 予想通り、ネットではファンも驚愕した。 誰がやった。などの考察までされている。 実際、誰がやったのか、千紗本人しか知らない。千紗を殺したあと、自殺したか、まだ呑気に生きているか。それも知らない。 花音と苺華に責め立てられた優香は家で部屋に閉じこもって、毎晩泣いている声が聞こえてくるらしい。 そりゃそうだ。あんなの誰でも怖い。 活動休止の間に、スタッフやら警察やらが動き、犯人を探し始めた。 「怖いな、、」 そうそっと呟き、梨々香は眠りに落ちた。 次の日 なんだかほんのり暖かくなってきた。そして庭には新しい花が咲いていた。 スノードロップだっけか。なんか、私に似てるな。 コンビニへ買い物に行った。 鮭おにぎりとファミチキを買って店を出た。 「そういや、これ両方、動物か。」 何だか寂しくなった。 千紗の死を思い浮かべてしまった。 久しぶりに百香に会いに行こう。と思って連絡をとってみた。 ―もしもし、梨々香。どうしたの? 「久しぶりに会いたいと思ってさ」 ―ほんと?わかった! いいよ。 「じゃあ。〇〇駅集合ね。」 ―はーい!じゃ、またね! プツッと電話が切れた時、少し怖かった。 数時間後 「百香ー!」 「梨々香、久しぶり!元気そうでよかったよ。」 「百香こそ、安心。」 ―カフェにて 「そうだ、犯人見つかった?」 「ううん、まだ。」 「まじか、怖いね。」 「だよね。私も協力してるけど、怖いな。」 「百香も協力してるの?大丈夫なの?」 「うん、最初は怒られちゃったけど、大丈夫!」 百香の笑顔をみて、安心した。 これならまだ大丈夫そうだな。 そうやってカフェを楽しんで帰った。 明日はまた話し合いがある。 どうやら犯人が分かったらしい。 あの高校生だ。梨々香推しの高校生だった。 梨々香が選ばれなくて、理不尽に千紗を殺した。 これは私の責任なのか?それとも××××××なのか? それは分からない。 結局女子高生は逮捕された。裁判では、女子高生があたふたしているところを見て、違和感を抱いた。 本当なのか、と。 そこで、 1件のメール。 千紗「みんな久しぶり。」 えっ 何が起きているのか、追いつけなかった。なんで?千紗は死んだはずじゃ。 殺されたあの日千紗は、センターになりたい。と言っていた。けど、千紗はセンターになるのが嫌だと言っていた。しかも、センターになった瞬間飛び跳ねて喜んだ。千紗はあんな性格じゃない。おかしいと思った。 いつもと違かった。なのになんで気づかなかったんだ。 でも。 じゃあ死んだのは、 誰? 一瞬にして怖くなり、鳥肌が止まらなくなった。 誰が死んだ、?千紗に似た誰か、ストーカー? でもそれなら、そのとき千紗は何をしていた? 、、、! 千紗は、閉じ込められていたんだ。 偽物に、狭い空間に、長時間。 でも、 メールの内容からして何ともないような感じがする。 ほんとにそうなのか? 怖くて仕方なかった。どうしよう。 今までで1番怖かった。 その後、まさかの高校生は冤罪だった。 釈放された。 そして、犯人探しが再開した。 「梨々香。」 「、優香、どっ、どうしたの?」 「犯人、梨々香でしょ。」 「は?」 「最近の梨々香、おかしかった。」 「そんなのたまたまでしょ。」 「幼馴染だから分かるの。当然だよ、。」 「そうだよ、。」 「え?」 「犯人、私だから。お前ら全員殺してあげる。」 「え、!?梨々香まって、!だめだよ!」 「うるさい!!!」 そう言って近くにあったハンマーで優香の頭を殴った。 優香は即死した。 そして花音、苺華の所へ。 「な、なに?」 「君たちを殺しに来ました。」 「は?」 そういって持参のバタフライナイフを振りかざした。 次に百香の元へ。 「あ、梨々香!やっほー!」 「犯人探しお疲れ様。てことでばいばい。」 百香にもバタフライナイフを振りかざした。 最後は千紗だ。 「梨々香じゃん。どうしたの?」 「なにがどうしたの?なの。お前のこと、みーんな大っ嫌いなの、知ってた?」 「え?」 「てことで殺させて頂きます。やっとこの時が来た〜!って感じ。」 「ひっ、梨々香!やめて!!」 千紗に馬乗りになり、心臓にナイフを突き殺した。 やっと解放された。この地獄から。 やっぱりあの問題は合ってた。 『6-1=0』 なんです。 解説 梨々香が犯人だとわかる場面が幾つかある。 まずは警察やスタッフが動いた時。 「怖いな、。」 この台詞は犯人がいつ動くか怖くて、ではなく、自分がいつ逮捕されるか、が怖かった。 そして百香の笑顔を見た時。 これならまだ大丈夫そうだな。この台詞は、まだバレてないな、という意味である。 そして優香の写真の事をしたのも梨々香で、曖昧な反応しか出来なかった。というわけだ。皆さんは犯人を見抜け、そして千紗の正体を見抜けましたか? 『6-1=0』なのです。 ゆうき
嫌いなわたし
気を遣われるのが苦手 だって,申し訳なくなるから 罪悪感で潰れそうになるから 自分という存在に価値がないと思うから どうしようもなく,消えたいと思うから なんでこんな性格なんだろ? どうして こんなに「生きづらい」と思うのだろう?
八番目の記憶
プロローグ あの夜、私は撃てなかった。 妹の胸を裂こうとするナイフを前にして、指が、動かなかった。 怯えていたのは、引き金の先にある“死”ではない。 それを引くことで、私が“何者になるのか”だった。 その過去が、再び私を襲い始めていた。 第一章:再演 2024年11月17日、午前4時21分。 東京都内のワンルームマンションにて、若い女性の遺体が発見された。 現場のドアには外部から施錠の痕跡なし。 窓も内側から施錠。密室。 部屋は整頓されすぎて不自然だった。 まるで舞台装置。 バスタブの中、女性は仰向けに沈んでいた。全裸で、冷水に浸されて。 「……両肩、脱臼してるな」 朝倉隼人が手袋をはめたまま遺体を観察する。 「胸骨、切開……心臓が、ない」 「“R”の焼き印。例の事件と同じか」 私は言葉を飲み込む。妹の遺体と、構図が一致しすぎていた。 現場保存を終えた後、晶が部屋に残された遺留品を列挙する。 ・赤いキャンディ1粒(肛門内) ・胃内容物:ガラス片(直径3~5mm) ・タオルから犯人のDNA反応なし ・風呂の排水口から反応した薬物は、MDPV(合成カチノン) 「バスタブで拘束、薬物投入、昏睡。意識があるまま胸を裂かれてる……」 蒼が吐き捨てる。 「これ、“見せるための殺人”だ」 そして、晶が呟いた。 「3年前の“赤ずきん事件”―澪の妹の件だ。再現されてる」 第二章:儀式 第二の殺人は3日後、都心の廃墟ビルにて。 遺体は男子高校生。 制服姿のまま、天井から逆さ吊り。 喉元に大量のガラス片を押し込まれ、目はくり抜かれていた。 「“見るな”って意味か」 「視覚を奪い、情報を遮断してる。暗示的だな」 被害者は、かつて蒼が自作した化学爆弾に巻き込まれて亡くなった少年の弟だった。 現場からは精密な映像機器が発見された。犯人は犯行を撮影し、保存していた。 晶が割り出した一連の共通点は恐ろしく明快だった。 •全ての被害者が、「第八班」のメンバーと個人的因縁を持つ存在 •手口に演出性と儀式性 •遺体からは毎回1文字ずつ、「REGRET」を綴るアルファベットの焼き印 犯人は、私たちの“後悔”を再現している。 第三章:連鎖 次の犠牲者は、神谷奏のかつての師―元公安の訓練教官。 遺体は逆十字に磔。 心臓にはミラー片が詰め込まれ、「E」の文字。 「これは、鏡だ。俺たち自身を見せてる」 蓮が言う。 「犯人は、俺たちの過去を逆照射している。俺たちの“罪”を暴きたいんだ」 晶が割り出した名――堂島 凌。 かつて澪が撃てなかった殺人鬼・堂島誠の息子。 現在25歳、行方不明。 「澪、お前が次に狙われる」 蓮の目が、私を射抜いた。 第四章:引き金 12月3日、私は一人で旧市街の廃工場へ向かった。 監視カメラに映った微かな姿、 通話ログ、交差点の信号パターンから導かれた場所。 全てが、犯人の誘導だった。 そこには、待っていた。堂島 凌。 25歳。黒髪に淡い笑み、そして澪の妹の目と同じ色の瞳。 「君たちは正義の名で父を殺した。じゃあ僕は、後悔の名で君たちを殺す」 「……あんたが選んだのは、ただの私怨だ」 話し合いの隙を突いて、私はサイドホルスターに手を伸ばす。 だが、早かったのは凌だった。銃口が向けられる。 その瞬間、蓮が飛び込んだ。 「撃つな、澪!」 ―乾いた音が一発。響いたのは、蓮の銃声。 堂島 凌は胸を撃たれ、静かに倒れた。 彼の口からこぼれたのは、笑いか、泣き声か、分からなかった。 エピローグ 事件は終わった。 “八つの記憶”は断ち切られた。 だが、消えることはない。 私たちはそれを抱えて、生きていくしかない。 その夜、屋上にて。 「蓮……ありがとう」 「礼なんていいよ。どうせまた、背中は預けるだろ」 「もし、次があったら」 「そのときは―俺が撃つ前に、お前が撃てよ」 私は少しだけ、笑った。 ようやく、指に力が戻ってきた気がした。
眼鏡に取り憑かれた悪魔
悪魔は狡猾で貪欲なものだ。 今まで惚れた男をあらゆる手段で手に入れ捨てた。今までの男たちは皆同じだった。 適当に考えた過去の不幸なエピソードを話し「2人だけの秘密にしてくれる…?」と涙目で見つめれば好きになってくれた。そこからは超簡単。 「〇〇くんの未来の彼女は幸せだなぁ。こんなに良い人と付き合えて」と言えば付き合えた。 でも、彼は違う。だからこそ悪魔の心は燃える。 高身長で頭が良くて運動もそこそこできて弦楽器が趣味。丸眼鏡がよく似合うキリッとした目で、イケメンとは言えないけど優等生顔。 嫌われがちな悪魔と連んでくれる数少ない友達。 彼は悪魔と小中学が同じの一つ上の先輩であり、悪魔は中学の時から彼がずっと好きだった。 悪魔は惚れっぽいから他の男と付き合うこともあったけど、それでも頭の片隅にあったのは彼だ。 5月の暖かい日差しの下、悪魔は彼の隣にいる。 休日に彼と2人でお茶をした帰り道、大好きな彼の匂いや雰囲気に呑まれて悪魔は天使のように穏やかだった。ニヤつく口を欠伸をするフリで誤魔化しながら、堤防沿いを歩いた。 悪魔は今から生まれて初めて告白をする。 普段の他愛もない話ならLINEでするし、他の男にはLINEで告白させるよう仕向けたことさえあった。 でも手強い彼にはそんなわけにいかない。 息を吸って口を開いた。 「ねぇ」 「どうしたの?」 「中学の時からずっと好きだった」 「気づいてた」 「付き合ってって言ったら嫌…?」 悪魔の想像以上に最高のシチュエーションだった。 春風で髪と上着が靡き、堤防に生える草が揺れて心地の良い音を立て、少し潤んだ目に日の光が差し、空は雲一つなく青かった。 普段なら「落ちた」と確信する悪魔でも今は全身が熱くなって息が詰まり、心臓が跳ねる。 丸眼鏡が少し上にズレ、光った。彼が悪魔を抱きしめたと同時に悪魔の目に涙が浮かんだ。彼が頭を撫でてくれる。 1週間後に訪れた彼の高校の定期演奏会で告白以来初めて顔を合わせた。眼鏡が消えて顔が少し寂しくなった彼が声をかけてきた。 「髪、思い切ったね。前も綺麗だったけど似合うよ。」 「ありがとう。そっちこそ、眼鏡卒業おめでとう。」 あなたはいつだってそう。「綺麗だよ」は言うくせに「愛してるよ」は言ってくれないのね。そして「嫌いだよ」って言って諦めさせてもくれない。 さよなら、でも離さないよ、眼鏡さん。