大切な人との、すれ違い

「花見?」 「そう。行かない?一緒に」 「行かねぇよ花見とか」 これが…最後の会話だった。 和也とは小学校からの友達で、一年前に付き合ってカップルになった。 和也は昔から無愛想で、不器用で、でも、優しかった。 私だけが知っていた。 和也の良いところ。 小学生の頃、親同士も仲がいいこともあり、お母さんたちと四人でお花見に行っていたのを思い出す。 和也は桜の木の下で、上から舞ってくる桜の花びらに興奮して、きゃーきゃー言ってた。 でもいつからだろうか。 思春期というのは誰にでも来るものだ。 お互いがいつしか思春期に入り、和也は男子としてのプライドを持つようになり、親や友達や女子に反抗的になった。 私も、お父さんと手を繋ぐのがいつしか恥ずかしくなり、会話もしなくなり、女子の友達だけと行動するようになった。 だが和也が告白してきた時は、嬉しかった。 でもお互いに思春期真っ只中だった。、 私はそれでも、恥ずかしながら和也をお花見に誘った。 またあの時みたいに、きゃーきゃー言う和也を見たかった。 だが和也は断った。 「行かねぇよ花見とか」 悲しくて、冷たかった。 もう、覚えてないの? あの時のこと。 走り回って、きゃーきゃー言ってたあの時のこと。 私たちはそれから、ずっとすれ違って生きてきた。 ほんとに付き合ってるの? そう言われることが多い。 お互いに行く高校は違うし、進む人生も違う。 でも、もし、もしすれ違わなかったら。 きっと和也はあの頃を思い出して、 今でもラブラブなカップルで居れたはずだ。 あなたも、誰かとすれ違うことはありますか? お互いに気持ちはあるのに、 上手く伝えられない。 受け入れられない。でも、 お花見なんて、行けるのは今のうちかもしれません。 最近は桜が咲いている時期がどんどん短くなってきて、いつか環境問題が進めば桜が咲かなくなる日が来るかもしれない。 お花見…。 大切な人の顔を、思い出しましたか?

誰かこの詩に名前を付けてください第二

 そう 私はこれからも悔やむでしょう  なぜあの時 すぐに人に言わなかったのか  なぜあの時 人に泣き付かなかったのか  考えてはみるのだけれど 理由はもう分かっている  恥ずかしいからだ    自分の理想は こうじゃない  いつも物怖じせずに口答えが出来て  いつもこれは嫌だと反論が出来て  でも 理想と私は違う  いつも相手に押され 意見が言えず  いつも相手の気持ちを考え 嫌だと言えず  ね?根本的に違うでしょう?  だからこそ 理想が膨らんで行く  一生変わる事の無い自分を 好きなだけ想像出来たらそれはそれで幸せね  でも そのたびに違和感が膨らんでいく  本当の自分を愛す事が出来ず 偽物の自分を愛すしか無い  それは 自分を裏切っているのと変わらない  それを分かっていて 私は偽物の自分を作って行く  これからもそれは変わらない  いくら涙が出ても  変わろうと思っても  無理でしょうね 諦めているからかも知れないけれど  私は生涯 自分を愛す事は出来ない

みーつけた

「もういいかーい」 返事はない、きっとみんな隠れる場所を見つけたのだろう。 今年から山間の小さな村の小学校に転勤になり、僕は教師として全学年の担任をしている。 全学年とはいえ、たった12人しかいない小さな学校である。 そして休日は、こうやって子どもたちの遊び相手をしている訳だ。 小川に架かっている小さな橋の下、家と家の隙間、お地蔵さんの小屋の後ろ、手当たり次第に探してみるが誰一人として見つからない。 ふと、林の中で誰かが動いた気がした。 僕は駆け足で近寄った。 この林に生えているのはほとんどが竹で、秋にはお年寄りがタケノコを採っている場所だ。 まだタケノコの収穫時期ではないため、おそらく先ほど見えたのは、子どもたちの内の誰かだろう。 「よーし!この辺も探すか!」 わざと大きな声で叫んでみる。 しばらく林を歩いていると、ひときわ太く成長した竹の後ろで淡い赤色の布が動いているのを見つけた。 よし、一人目発見! おもむろに駆け寄り、僕は竹の後ろを覗いてみる。 そこには一人の小さな女の子がしゃがんでいた。 女の子は僕に見つかったとわかると、笑顔で僕を見た。 「みーつけた!よし、じゃあ元のところに戻ってるんだぞ。他のみんなもすぐに連れてきてやるからなー。」 「ありがとう」 女の子は笑顔でお礼を言う。 この調子で日が暮れるまでにみんなを見つけよう。 結局、二人目はスタート位置のすぐ横の塀の裏、三人目は道路の側溝、四人目は畑の中で、背の高い雑草の中に隠れていた。 とりあえず日が暮れるまでに全員見つけられてよかった。 「もー、先生見つけんのうますぎだろー」 悔しがる子どもを連れて僕は最初の場所に戻った。 「だーるまさんがこーろんだ」 先に見つけた子どもたちがワイワイとはしゃぎながら遊んでいる。 一人の子が、片足をあげたまま動くまいと必死に耐えているのを見て、自分もあのように無邪気に遊んだ時期もあったのだろうかと、少し寂しい気持ちになった。 「はーい、これで全員見つけたから先生の勝ちだな。今日はもう遅いから、みんな気をつけて帰るんだぞー。」 「はーい」 僕の言葉にみんなが返事をし、それぞれの家に帰っていった。 どこかモヤモヤした気持ちを抱えながら、夕日が弱くなり暗闇に変わろうとする空を見上げた。 どうしてモヤモヤしているのか、自分でもわからない。 先ほど、昔を懐かしんだからだろうか。まあ大したことじゃないだろう。 夕飯を済ませ、早めに布団に入る。 ぼーっとしながら今日の出来事を思い出していた。 次第に眠気が増してきて、ウトウトとし始めた。 明日は授業だ。頑張ろう。 僕は静かに目を閉じた。 あれ、今日、何人と遊んでいた?      動くまいと必死に耐えていたのは何人だ。    何人見つけた?         なんでお礼を言われた? 背筋がピンと伸び、寒気がジワジワと押し寄せる。   あれ、僕はあの子に、なんて言った? 「みーつけた。」 淡い赤色が揺れる。 「待っても連れてきてくれないから、私が全員迎えに行くね」

お花見

花見の定番といえば桜だろ 花を見ると書いて花見、なのに花見と言ったら桜 なんでか知ってるか?それはね、一番最初に桜を見た人がいるんだけどその人は桜の名前を知らずに、桜の事を花と言ってたんだ。 満開に咲いた綺麗な桜を見せたくて家族や友人に花を見に行こうと言って桜が咲いてる所に連れて行ったんだ。家族も友人も誰一人桜の名前を知らなくて、みんな綺麗な花が咲いてると大盛り上がり、そこから花見と言われるようになったんだよ 私の隣を歩く甥っ子が本当なの?と聞くと さあ、どうだろうね、今考えた作り話だからね、でも、もしかしたら本当かもよと答えた

あの日交わした約束はいつまでも。

「毎年あなたと見る桜は格段に綺麗」 僕の妻は結婚する前、僕にそう言って 逆プロポーズしてくれた そう。あれは四月十九日のこと。 まさかそんなこと言われると思ってなかったし そう思ってくれていたなんて知らなかった。 自分の実家はThe日本家屋で山にあって 庭が広くて大きな桜の木があったから、 わざわざ他のところに行って お花見なんてしなかったんだけど 妻は毎年見るのが楽しみみたいで 毎年毎年違う場所で一緒にコーヒーを飲みながら 他愛のないおしゃべりをするのが恒例だった 桜はいい。 目に優しい色をしているし 八重桜の八分咲きは洗って塩漬けにすれば 桜茶になる。 ああそういえば 毎年母が卒業式に持っていってたな。 まぁ妻は、事故で他界してそれっきり。 塞ぎ込んだ僕は桜を見れなくなった。 でも3年がすぎた今なら お花見もできる気がする。 今度、君が僕にプロポーズしてくれた場所で 2本の缶コーヒーを買って お花見をするとしよう。 一緒にあの桜を見よう。 四月十九日 午後一時に 東丘公園の桜の木の下で。

お花見

 お花見しようと友が来た  はらが減ったと言い乍ら  なにも持たずに来た友に  みそ田楽を馳走した      あとがきです  サムネは「歌川国貞 釈迦八相記令様写絵」です  如何云う状況を描いてあるのかはよく分かりませぬ 「釈迦八相」というのはお釈迦様の生涯における八つ出来事をらしい  それなのにお武家様とお化け猪に乗って蛇と多分ムカデを体に纏わり付かせた怪人とは  なんなんでせうね  よくわからない    おまけ  旧作です  もし、もし、よろしければ、お読みくだせえませ  < ウラハラ >  友人の伊藤君と桜並木を歩いていた  満開の桜がハラハラと散りかけている頃だった  明るい春の月夜に、いつもと違って静か過ぎる伊藤君に私は尋ねた 「元気ないな。どうした?」 「おお、我が悩みを聞いてくれるか?」 「勿論だ」 「金取ったりしないよな」  私は精神分析医で、普段は他人の悩みを聞いて生活の糧にしている 「タダだ。しかし、普段は客の言葉に突っ込んだりはせんが、今は別だぞ」 「客なのか、患者じゃなくて」 「難しい処だな」  私は頭の上の桜花を見た。花弁が舞っている 「で、なんなのだ、君には似合わない悩みというのは?」 「うん。お前、前世の事を覚えているか?」 「いや、覚えてない。前世なんてものがあるのかないのか知らないが、覚えてないのが普通だろう。君は覚えているのか?」  普通、客にはこういう言い方はしないのだが、彼は客ではないから気楽だ 「覚えてないよ。でも、この前、覚えてるって奴が現れて、俺に言うんだ、『前世であんたに殺されたんだ。その怨みを晴らしたい。しかし、目には目を、歯には歯をたって、今世でお前を殺したら刑務所行きだ。それは嫌だ。だったら、どうすればいいと思う?』てさ」 「どう答えたんだ?」 「知らんよ、そんなん、と。しかし、それから付き纏われてるんだ。怨みだの前世の因縁だのと。鬱陶しくて、ノイローゼになりそうだ。どうすりゃいいと思う?」 「そうだな」私は一瞬考えて「つまり、うらみハラスメントか」 「なに? 怨み、晴らす?」 「いや、怨み、てん、ハラスメント。パワーハラスメントとかあるだろう。パワハラとかセクハラとか。この場合は、怨みハラスメント、つまりウラハラ」 「ウラハラ? 聞いた事ないな」 「だろう、言い始めだ」 「それでどうすりゃいい?」 「ウラハラでは、警察に訴えにくいな」 「笑われそうだからな」 「なら、そうか、…… 相手は、金がありそうな感じか? 貧乏そう?」 「うん、貧乏人って感じではないかな」 「だったら、」と名刺をわたして「ウチに来るように言ってくれ。なんとかしよう」 「おう、桜ハラハラ、俺はウラハラ、俺の苦労とはウラハラに、そっちは金を儲けてウハウハか」 「三方一両得だな」 「うん?」  おまけの弍  大昔に書きました  最初と終わりだけの物語  暇なら読んでね  <  魔大戦 プロローグ  >  美しい娘がいた  名をマナといった  山深い寒村に暮らしていた  多くの若者がいて、皆、村を出て行き、そして多くが帰って来た    マナもまた、一度村を出てみたいと言った  外の世界を見てみたいと  しかし、ダメと言われた 「なぜ?」 「お前が村を出ると世界が滅んでしまう」 「そんな馬鹿な」 「お前には印があるんだ」  ええ、とマナが言った  胸についた不思議な模様  クッキリあるのに、ハッキリ見えない 「この村は結界に包まれている。世界中の力が此処に集まってくるんだ。その全てをお前が吸い込んで溜め込んでいる  この村は力のダムだ  お前の溜め込んだ力が外に出ないように堰き止めている  もし、お前が村を出ればその力が川の水のように流れ出すだろう  世界は再び魔大戦の昔に戻るだろう  そして、滅び去るだろう」  そう? とマナは言った  でも、あたしは村を出たい  そして、世界を滅ぼしてやる  <  魔大戦  序章  >  夜陰に紛れて、マナは村をでた。  誰にも知られず  誰にも気づかれず  僅かなお金と僅かな食料を持って。  行く当てはなかったが、南に大きな町があると聞いていたから、南をめざした。  深い森、深い闇を、目の前に黄色く光るものが二つ現れるまで。  大きな剣歯虎がいた。  あたしを食べようというの?  無理だわ。  あたしにとって死は贈り物だけど  でも世界が許さないと思う。  あたしは世界を滅ぼさなくてはならないから。  世界が灰の中から蘇られるように。  世界は不死鳥で、あたしは炎  燃やさなくては  燃え尽きるまで  世界が燃え尽きたら、あたしは死ぬ  それ以上は意味がないから。    剣歯虎🐅はひと声唸って、マナの前に跪いた。  まあ、あたしの家来になるというの?  じゃあ、ついておいで。  剣歯虎の肩に手をおいてマナは歩き続けた。  やがて朝の光が森の小道を照らす頃、マナと剣歯虎は道を外れて、小さな泉の傍で眠った。  目覚めると鴉がいた。  木々の枝という枝に折り重なるように、何千羽もの鴉がとまっている。  その中に、一羽、ティアラをした鴉がいて、マナをじっと見ていた。 「なんなの?」 「わたしは鴉の女王だ。  一千年余りの後に、昨日、強い力の流れを感じて不思議に思い、追ってきたら、あなたがいた」 「ええ、あたしが流れ出る力の源。力を湛えた海なの」  と、マナが答えた。 「あなたに渡したいものがある」  と数羽の鴉がバタバタと運んできて、マナの前に落としたのは美しい宝杖だった。 「前の破壊神が持っていたもので最強の武器だ」 「あら、あたしは破壊神?」  笑いながら拾うと、ルビーにサファイヤにダイヤモンドが散りばめられた短い杖だった。 「破壊神、殺戮者、色々言われるだろうけど、それがあなたの使命だから、挫けず、或いは挫けてもいいから、頑張ってね。  わたし達はいつもあなたの味方だから。  最後の日、埋葬の時には、あなたを濡羽色の羽の中に埋もれさせてあげる」 「ありがとう。なんの慰めにもなってないけど、なんとか頑張ってみるわ」 「それじゃ」  と、何千羽の鴉がバタバタとうるさく飛び立っていった。 「ばか鴉。なんだって言うのよね」  マナが剣歯虎に話しかけた。 「とにかく行きましょう。他に道はないもの」    <  魔大戦 エピローグ  >  魔風が吹き荒れている  人々は救いを求めて、巨大な神像や仏像を作ったけれど、それらの神像や仏像が動き出して、祈る人々を踏み潰した  大地を様々な魔物達が闊歩している。人々は魔法や武力で守られた砦や城の中で辛うじて生き残っているばかり、そんな時代だった  そんな大地を二人の男が馬に跨がり進んでいた  少し向こうに見える森を目指している 「あの森に最強の魔女がいるのですね」  と従者がきくと 「そうだ」  と主人が短く答えた  森に入ると、馬を降り、細い道に沿って歩く 「襲われたりしませんか」  従者が不安そうに言う 「そういうことはないと思うが・・・」 「保証はしかねる、と」 「そうだな」  しばらく行くと立て札があった 【武器はここに置いて下さい】 【魔法は使わない方が安全です】 「どうします?」 「武器を置いていこう。剣ばかりでなく、尖ったものは全てだ」 「柵も城壁もない。なのに魔物がいませんかね」 「魔女の森だからな、魔物は入れないのだろう」  やがて空き地に出た。中央に噴水があり、周りに花壇がある。小鳥が囀っている。ここには魔法的な生き物がいない  噴水の横に娘が座っていた。二十歳前くらいに見える美しい娘だ 「久しぶりね、アル」  とその娘が言った 「三十年ぶりかな、マナ」 「歳を取ったわね」 「君は変わらない」  アルが近づいて、マナの頬に口づけした  二人は思い出を語り合った  アルは平和で美しかった村のことを話し、マナは腐り果てて澱んでいた村のことを話した  同じ村の思い出・・・ 「一緒に帰らないか」とアルが言い 「火刑にされそう」とマナが笑った 「君は世界を滅ぼすと言って村を出た。もう十分じゃないか」 「世界を救おうと思って、あたしは村を出たけれど、救いきれなかった。あたしの所為じゃない。皆んなが馬鹿だから、あたしだけではどうにもならない」 「うん?」 「一人の少女の中に千年分の力を溜めておこうなんて無理なのよ。いつか溢れだす。あたしが壊れたら、この千二百年間に溜まった全ての力が一気に解放される。ダムが破れて、世界は力の洪水の中で溺れてしまったでしょう。だからあたしは村を出て、少しづつ力を流れさせた。三十年、一万日、それでも世界には多すぎたみたい」 「そうなのか」 「そうなのよ」 「言ってくれればよかったのに」 「無駄だわ。千数百年ごとに魔大戦が起こる。人々は懲りて力を封じ込めようとする。印を持つ少女達に力を封じ込める。でも、やがて、自分が壊れると知って、少女は逃げ出す。また魔大戦が起こる。その繰り返し。どうにもならない」 「変えられると思うが」  アルが言うと、マナは首をふった 「無理だと思う。もう何年かすれば私の力が尽きて、あたしは消える。すると、次の少女が現れるわ」 「そもそも力を溜めなければいいのか?」 「それも難しいみたいね。力には多すぎる時期と少なすぎる時期があるから、多すぎる時期に小規模な魔戦が起こってしまう。だから、このシステムができたのね。そして、結局の処、魔大戦が起こってしまう。どうしようもないのよ、多分。千年の平和か、何十年毎の戦争か、その選択になるのね」 「この荒廃した魔物だらけの世界がもうじきに平和になる。戦いのない時代が千年続く、誰が千年先のことなんか考えるものかって?  そうだな。そうなりそうだな」  アルは上を向いて空を見た  美しく青い空が広がっている  他の地の濃く暗い雲が広がる空とは違っている 「ここの空は綺麗だ」 「暫くここに留まりませんか? あなたが懐かしい。村に家族がいるの?」 「いない。ずっと君を思っていた。昔のままの君に会えるなんて夢みたいだ。それに比べておれは歳を取った」 「あの頃のあなたは頼りなかったし、子供過ぎたから、今の方がいいわよ」 「そう言ってくれると、嬉しいな」 「なら、決まりね」 「しかし、カロが退屈するかな」  と従者を指した 「ふふふ」と笑い「リナ」と呼ぶと大人の美しい女が現れた 「娘なの。ここには誰もいなくて、寂しがっていたから、丁度いいかも」  リナがマナの横に立った 「母親の方が若いなんて巫山戯てるけど、宜しくお願いします」 「こちらこそ」  とカロが満面の笑みを浮かべて言った        了    最後の意味不明なおまけ、なんだかんだ春だからのカンダハル  なにをイタチの最後っ屁  痛ち痛ちの最後っ屁  四行の本文に長大なオマケをつけました  ここまで読んでいただいた方がいらっしゃれば  感謝です

病〜やまい〜

 まるでコンピュータウイルスに侵されたように頭の中で欲望ばかりが増殖している    それは他人の介入からか、自己で形成したものなのかは分からない  

染色

見つけられた 心の底は 青の液体 拡がる波紋 殺意にも似た 静かさピシリ 張り詰む 意志は ナイフにも似て 笑顔の 奥の  冷ややか ピカピカ 叩く ピアノは さながら 天使の 情の 混じらぬ sound 酔いなど ナイトの 名などは 宿らぬ 器は 内部の 構造 どうなってるの? 知らぬし 目隠し  額の 三つ目の   機能の 性能 懊悩 照らして くれるの かしらね  尽きぬ 欲望  緋色に 染めるの

お花見

 私はミモザの花を見た事が無い。ソメイヨシノの花も同様に見た事が無い。この北の地では、寒さに耐え切れず、枯れてしまうのだ。  此処では、春の訪れはエゾヤマザクラという桜が知らせてくれる。  五月のゴールデンウィークの終わりに咲き始めていた桜が、最近では四月の末に咲き始める。暖かくなるのが早くなったものだ。 「長閑だねぇ」  陽の当たる、窓際のソファーに座り、シワシワになった手で三毛猫を撫でる。此処から桜を眺めるのは何度目だろう。 「たまも桜が咲いて嬉しいかい?」  膝の上で寛ぐたまは、大きな欠伸をした。きっと、嬉し過ぎて眠くなってしまったのだろう。  ふふっと笑い、桜を見上げる。  あと何回、桜を眺める事が出来るのだろう。腰が曲がった今となっては、季節の流れが凄まじく早く感じる。  仏壇を見遣ると、夫が此方に笑っていた。小さな遺影だ。 「私が居なくなったら、たまが困るかね」  私には子供が居ない。頼る者も死んでしまった。  孤独な身ではあるが、寂しさは感じない。  たまも居る。それに、夫が植えてくれた、エゾヤマザクラの木があるからだ。 「来年は、空の上から桜を眺めたいものだねぇ」  とはいえ、疲れてしまった。身体も痛むし、長生きなんてするものではない。  溜め息を吐くと、たまが一声鳴いた。 「怒ってるのかい?」  聞くと、たまは膝の上から飛び降りる。 「大丈夫だよ。人間はしぶといからねぇ」  春の日差しを受け、微睡みが訪れる。  目を閉じる前に、エゾヤマザクラの隣で夫が笑っているのを見た気がした。

野ざらし姫

春はあけぼの。 やうやう白くなりゆく山ぎは、 少し明りて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。                    「枕草子」冒頭より 貴族様の侍女をお務めなさった叔母様は、昨年、享年三十八で儚くなられた。ご子息が二人いらっしゃった。私の従兄弟にあたる彼らもまた、侍従としてそのお家がお入りになった。 私が商家へ奉公に出ている間、次男様の行方が分からなくなった。三日ほど経った早朝に東山の荒野で亡くなられた状態で見つかったという。 涙が溢れることはなかった。二度か、三度しか会ったことのない人だったからだ。叔母様に似て、上品な振る舞いをなさる方、以外の印象はなかった。従兄弟だとしても生きる場所が違った。生まれた身分と品格は異なるのだ。 次男様が見つかったのは東山の荒野。野に骸を置かれた。死体というのは実に汚らわしく、触れてはいけないモノなのだ。野ざらしと呼ばれそのまま放置される。高貴なお方は美しき炎の中で躰ごと永眠なさるが、どこで生きようと所詮平民ではその野に置かれたこと自体が光栄の極まりである。しかし、そちらへ赴こうと思い立ったのは全くの偶然であった。自らが進んでいく場ではない。 「御兄様…」 鼻の中を抉るような匂いの中、麗人がそこにお立ちになられていた。まるでその場所だけ柔らかな春の風が吹いているようだった。けれどその足元には、まだ白骨になりきれていない骸があった。 「そちらのお方はもしや……」 凪いだ目がこちらをじっと見つめる。 「我が最愛の弟よ」 ヒュッと息を呑んだ。あまりにも、惨たらしい有様。 一歩、足を進めた。 それは私の中で最も醜い行動だった。 「御兄様」 その人は穏やかな笑みを絶やさない。 また一歩と足を進める。 「御兄様」 香が焚きしめられた袖が少し動くだけでも、その香りが辺りを包む。私の足元にも、もうその骸はあった。 ーー御兄様の胸はとても温かかった。  顔をそっと埋める。 御兄様も穏やかに微笑んだまま、私を抱きしめた。 「なぜ、この方は……」 顔を御兄様の胸にうずめながら問うた。 「我が弟があまりにも美しかったのだ」 見上げた先にもまたこの世のものとは思えぬ美しいお顔があった。 「お前は間男というものを知っているかい?」 私は知っていたけれど、そのお声をもっと聞いていたくて「いいえ、いいえ御兄様。わたくしには分かりませぬ」とそう答えた。 御兄様はわたくしが知っていることを悟っていた。当たり前のことだ。仏のような御兄様に分からぬことがあるはずがない。 「我が主は女を愛さない。奥方様もそれを知っていらっしゃる。奥方様は母上を信用なさっていた。だから我が弟を奥方様の侍従頭に、私を旦那様の側仕えとして雇うてくださったのだ。その意味が分かるか。母上を信用して、『浮気をしても目を瞑れる愛人』をお作りになられたのだ。私たちはね。彼らが初めて互いに贈りあった、贈り物なのだよ。けれど、弟はあまりにも美しくて純粋だった。旦那様には内緒で、奥方様は弟と何度も夜を重ね、身籠られた。弟の子よ。弟は純粋だったのだ。“奥方様を身籠らせたのは私の責任。この御子は私が全てを尽くしてお育て致します”奥方様にそう言ったのだよ。旦那様にもその旨を伝えていた。人の醜い心を知らぬのだ。子は宝。当然に奥方様は喜ぶのだろうと。彼女は泣いたよ。“私にはもう尽くさぬのだな”旦那様は弟の頬を張り飛ばした。“私たちから逃げるためにあやつの子を育てるだのと申したのだな” そのようなお方たちなのに、我が弟は彼らを共に愛したのだ。可哀想な人たちだ、と。あろうことか、貴族を憐れんだのだ。無償の愛と共に」 御兄様は私を抱いたまま、静かに野に腰を下ろした。私は彼の上にのっていた。私の頭を彼は話しながら、撫でていた。 「弟はね。自ら命を絶ったよ。私に赤子の預け先だけ伝えて。あとはお願いします。その子の名は兄上にお任せ致すと」 彼は野に横になった。私の唇は彼の首元にあった。 「ねぇそうだろう。赤子はどうだい?美琴」 私の顎にしなやかな指先がかかった。 「もぅっ!御兄様ったら意地の悪いこと」 「それはすまないね」 「元気に過ごしておりますわ。乳が出るように、わたくしも男を雇って身籠り、あの子にあげているのですわよ」 「ありがとう。弟に代わって礼を言うよ。でも、お前。愛した男以外の子は生まぬと言っていたのではないか?」 「えぇ。愛した男の子がこの腹の中にいますわ」 「私の驕りだったようだね」 「いいえ?わたくしは貴方をお慕しゅう想っております」 「では……?」 「わたくしの幼馴染よ。父様が雇ってくださったの。私は平民でも、父は貴族だから」 「愛するひとを決められなくて、誰が女と言えますか」 「さぁ、御兄様。お眠りのお時間ですわよ」 麗しき唇に接吻をした。 「あぁ、そうだね」 「心配事はありませんわ。今頃、わたくしの幼馴染にお貴族様は熱を上げられているようですから」 「君の計らいだね」 「まぁ、面白いことをおっしゃること。彼が行きたいと言っておりましたのに」 「そういうことにしておこう」 「御兄様」 「なんだい?」 「あの女狐に接吻されたところはどこですの?」 「心の臓の上のあたりだよ」 「あらぁ!誓いでも交わすつもりかしら。あの女」 「かもしれないな。なにしろ、弟をずっと探していのだから。似ているからね、私は」 彼の胸元から少しずつ着物を崩した。 「こちらでよろしくて?」 「あぁ」 いやらしく、接吻をした。 「そろそろ、あの子が泣く時間だから行くわ。御兄様」 「うん。ありがとうね」 「……愛していますわ。わたくし、貴方だけは決められませんでしたの」 「なんともまぁ、情熱的な告白だね」 「それくらいしないと、貴方は目を逸らしますもの」 「その通りだ。俺をよく分かっている」 「俺だなんて」 「最後は、ね」 「そうですわね。では」 「あぁ。頼んだよ」 目を瞑り、野の上で眠った。 美琴という女には、二人の子がいた。 一人は見目麗しい男で、 もう一人は、愛らしい女だった。 美琴とはとても狡猾な女だったが、加えて思慮深く、慈愛深い女でもあった。 彼女は子を慈しみ、夫を愛した。 とある貴族の愛人として生きる夫は、 朝は彼女を酷く罵り、夜明け前に帰ってきた頃には、眠る彼女の頬に愛おしげに接吻を落とした。 彼女は自分がいかほどに罪深いかをよく理解していたし、夫も彼女に騙されていることを了承した上で、愛人として通っていた。毎日、家に帰れているのも、彼女が貴族に丸一日、土下座をして頼み込んだからだ。 けれど、彼女の夫の心は疲弊していた。 子供が成人して、夫婦で一息ついていたころ、夫は、二人のとある貴族を殺した。 そのときに、彼女の夫は兵に首を飛ばされた。 夜明け前に彼女の元に帰ってきたのは、夫の首だった。 「わたくしの罪よ」 そう言って、彼女が自ら衛兵に自分の首を切るように言った。 彼らは躊躇った。美琴は殺された貴族の異母妹だったからだ。しかし、庶子だった。 そこで、彼らは問うた。「どのように死にたいか」 彼女はこう答えたと、記録に残っている。 「東山の野で、夫の首を抱いて死にたい」 しかし、首を切って死ぬとか、毒で死ぬとか具体的な死に方を言わなかった。 そして衛兵たちはもう一度、問うた。 「どのように死にたいか」 彼女はこう答えた。 「睡眠薬で眠ったまま、狼に喉笛を噛みちぎられたい」 記録に彼らは残さなかった。 そしてそれは実行された。 彼女は狡猾だった。 愛する男二人の横で死んだのである。 加えて、彼女は愛することのできる女だった。 かつての幼馴染を抱いて、盗賊に高貴な衣を剥ぎ取られて全て骨の見える従兄弟に背を向けて眠った。 もう別れを告げた。愛したことも伝えた。 だから、彼女は最後まで夫を愛して死んだのだ。 ただ、予想外だったのは睡眠薬が切れるまで狼が彼女を見つめるだけだったことだ。 卯月。 夜が明けたとき、彼女は目を覚ました。 もう一度、瞬きしたとき。 彼女の視界は血で覆われて、そのままこと切れた。 享年三十二。 ある女は死んだ。