【第7回N1】

第七回N1 お題 戦争 数多くの屍が横たわる戦場に1人の男が立っていた。 彼の名前はライム。後に『神剣』のライムと呼ばれる冒険者である。 彼の戦場での動きを見つめて行こう。 僕の名前はライム。冒険者である。そんな僕は今、知り合いの鍛治師のところにいる。 「ウェポン、できた?」 「ああ、できたぞ、ライム。」 そう言ってウェポンが持ち上げたのは、虹色の剣。 「これが俺の最高傑作『虹帝剣シグルド』だ。」 ライムが剣を手に取る。 「これは…。すごい、手に馴染むね。」 その瞬間、ライムはシグルドの使い方を理解する。シグルドは、形状変化をすることができ、9つの種類に分けられる。紅は炎を操り、橙は光を操り、黄は雷を操り、翠は木々を操り、水は氷を操り、蒼は水を操り、紫は闇を操る。そして、その色らを進化させたのが白と黒。白はより強い光と浄化を、黒はより強い闇と停滞を与える。つまり、シグルドは実質的に9つの属性を操ることができる。そして、その色に『闘気(オーラ)』は左右される。 「お前さんにぴったりの剣だ、俺の剣を頼むぞ。」 「うん。ありがとう、ウェポン。達者でね。」 こうして、ライムはウェポンに別れを告げた。 その後、冒険者ギルドについたライム。 「やあ、ライム。ここにいたのか。」 そう話しかけてきたのは今代の『剣聖』、『無双の剣聖』エルレイン。 「やっほー、ライム!」 また話しかけてきたのはエルレインのパートナーである今代の『聖女』、『太陽の聖女』アスタルテ。 「ふふっ、久しぶりだね、2人とも。」 「ああ、そうだ。エルレイン、陛下から、戦争があるという御触れが出た。」 「…。そうか。僕らも参加かな?」 「うん、そうらしいよ。」 悲しそうな表情でライムが問うと、アスタルテが答える。 「僕はまだしも君たちは、子供がいるじゃないか。」 そう、2人には子供がいる。 「修道院に預けてくる。俺たちが居ないと冒険者は統率が取れないだろう?」 「僕が何とかする。」 「ダメだ。」 「でも…。」 俯くライム。 「いいんだ。アスタルテ。も俺も覚悟はできている。」 「そうか。なら僕は何も言わないよ。じゃあ。」 「またな。」 そして時が流れ、戦争が始まる。これが後に語られる大戦である。 「遂に始まった。行こうか、シグルド。」 ライムが戦場に飛び込む。 「変われ、『紅帝剣クリムゾン』。『灼熱炎』、荒ぶれ。」 戦場に一筋の炎が走る。 ズバァン! 「くっ、何だこの炎、消えないぞ!」 敵の兵士が燃やされる。 「聖剣技『天冥斬』!」 闇と光の力を持った斬撃が兵士を襲う。 「うわあああ!」 「くっ、痛えよぉ。」 怪我をしている味方の兵士。 「治癒魔術『太陽の癒し』」 兵士たちを淡い光が包み込む。 「すっ、すげえ、治ってく。傷が治ってく!」 「ふふっ、2人共いい感じだね。んっ!」 何かを感じたかのようにライムが後ろを振り向く。 「向こうに強い気配。」 「おい、ライム!」 「わかってる、僕が行く!」 「…。死ぬなよ。」 ライムが気配のする方向に走って行く。 「何だ、貴様がこの軍の要か?」 「帝国の『鬼神』か。」 「なるほど。心踊る、貴様は強き者だな。貴様に敬意を表して名を名乗ろう。我が名は『鬼神』アシュラなり!貴様の名前を教えよ!」 「僕の名は『剣帝』ライム。」 「貴様は『帝』の器ではない!貴様は『神』の器だ!」 「君は途轍もな強いようだね。『白帝剣オルブライト』!」 戦場での最強同士の激突が始まる。 「ぬぅん!『鬼神斧』!」 「『白帝の斬撃』!」 強い力の波動がぶつかり合う。 「『神剣解放』。来い、アレス!『神剣アレス、抜剣』!」 「うおおおっ、『神葬斧ラグナロク』!」 最後に立っていたのはライムだった。彼は国を守った。そして彼には『神剣』の称号が与えられた。

日記

この話はフィクションです。 ホントの日記ではありません。 今日は、母と言い合いになった。私はかなり前から母親に男好きと疑われていて、私はそれが嫌で嫌で仕方なかったんだけど、ずっと我慢してた。 取り敢えず、否定をして、後の言葉は全部右から左に流せば、何とかなるって思ってた。 でも違った。 今日コンビニに行った時に、サブスクの支払いに行ったら、あまりにも早く帰ってきたことが、逆に疑われてとうとう私は泣きなが母親に「男好きじゃない!付き合ってる男の人も居ない!」といった。 母親からは、なんですぐ泣くの?ヒステリック見たいな感じにならないでよと言われ、私は泣きたくて泣いてる訳では無いのにと思いながら、ずっと涙が止まるのを待っていた。 辛かった。 どうしたら信頼されるのか、私はずっと母親に聞いた。 でも母親はそんなことが言いたいんじゃない。 男がいるなら言っての一点張り。 ほんとに付き合ってる男も女もいないのに、そうやって責め立ててくるから、苦しかった心がさらに苦しくなる。 もうどうすることも出来ない。 助けて。 誰でもいいから、助けてよ。 どうしたら信頼される。 分からない。 誰か、どうしたら信頼されるか、方法を教えて。 もう、疲れた。

べてる

ペテルギウス 君と離れて、もう何年経つだろう。 でも、あの約束は今も胸に残っている。 「輝くのは二人一緒だって」——あの日、 君が笑いながら言った言葉。 親の転勤で、僕らは遠く離れて暮らすことになった。 子供だった僕たちは、ただ一緒にいることさえ叶わなかった。 それでも、引っ越しの前日、どうしても君と もう一度だけ空を見たくて、公園に行った。 夜風がひんやりと頬を撫でる中、僕たちは並んで芝生に座り、 頭上を見上げた。 あの頃、夜中にこっそり抜け出しては、 公園で星を見上げていたこともあった。 街の灯りも、寝静まった家々も、 二人の世界には入ってこなかった。 「ねぇ、あれは?」 君が指差した先には、ぽつり、ぽつりと赤い光が瞬いていた。 「星だよ。ペテルギウス」 君が教えてくれた。 赤く揺れる光は、まるで僕らみたいに寄り添っていて、 泣いたり笑ったり、 全部を繋いでくれるように思えた。 これまで、何十回も何百回もぶつかって、言い合った夜もあった。 でも、どんなに離れても、僕らを照らす光は昔の星のように、 忘れたころに届いてくれる。 手を取り合い、肩を並べて歩くことを約束したあの日の気持ちは、 今も変わらない。 不安な夜は、僕はつい強がってしまう。 「大丈夫、僕がそばにいる」 本当は、君のいない夜の長さに何度も負けそうになる。 でも、同じ空を見上げていると思うと、少しだけ胸が温かくなる。 赤く光るペテルギウスを見つけると、心の中で君に呼びかける。 ——聞こえる? ちゃんと繋がってるよ。 その光はきっと、君のもとにも届いているはずだから。 あの頃の僕らはまだ小さくて、でも今は―― 大人になって再会した僕らは、肩を並べて同じ空を見上げる。 あの日、公園で見上げたペテルギウスのように、 今は二人で輝いている。 泣いたり笑ったり、繋いだ想いを胸に抱えながら——。

自己紹介

今更ながら、 (ちゃんと自己紹介してない!) と思ったので自己紹介しようと思います笑 涼風 葵(すずかぜ あおい)です!女です。 名前の由来は特に無いんですよね笑 強いて言えば動画観てた時、 「かっこいい名字」みたいなのが流れてきて、 「涼風」と出てきて、かっこいい!と思ったからです。 「葵」は何となくです笑 MBTIはESTPです😎💛 同じ方いらっしゃいますか? 学校では弓道部と、器楽部に所属しています。 器楽部はオーケストラです。 因みに涼風は未経験の癖にチェロやってます。 最近、少し弾けるようになってきました! 弓道は先輩が厳しい… なんだかんだ両方楽しいです🎀🤍 こんな感じでしょうか? まだまだ未熟な私ですが、 これからもよろしくお願いいたします🙏🏻 💭

ぬいぐるみ

ぼくは、ぬいぐるみです。 なまえは、なんだっけ、わすれちゃったけど。 かわいい、だったかな。なまえ。 とにかく、あのこのぬいぐるみです。 あのこがずっと、ずっーと小さいころからそばにいて、泣いてるときは、ぼくをぎゅーっとだきしめた。 つらいときはよりそった。大丈夫、しんぱいしないで、君はできる子だから。でも、ちょっとやすんで。無理はしないでって。 うれしいことがあった時ははなしをきいた。好きな子に話しかけられたって。あの子はあしをばたばたさせてた。 あの子のぬいぐるみです。 でも、もうお別れかも。 あの子が大人になったら、もう僕は必要ない。 寄り添う必要は、ない。 って思ってたんだけど。 「おかーさん!このぬいぐるみもらっていい?」 もう少し、出番があるようで。 もうちょっとだけ、寄り添ってみようかな。 なんて、おもったりしてる、ぬいぐるみです。

執着への依存

※この話は恋愛依存や執着をテーマにした創作です。 私の彼氏は“クズ”だ。 浮気は5度も。 SNSには、女の子とのツーショットばっか。 いいね欄、フォロー欄は9割が女の子。 定期的に私の携帯は確認してくる。 なのに、絶対に自分の携帯は見せない貴方。 このことを親友に相談してみた。 「あんたさ、尽くしすぎだよ。  あんたにはもっといい人がいるよ。  さっさと別れなよ、そんなクズ。」 私も別れなきゃいけないことは分かってる。 「でもいつか戻ってきてくれるかもしれないから。」 貴方にずっと期待し続けてきた。 「あんたさ、そんな無駄な期待してる時間が勿体無いよ。  自分が変わるしかないんだよ。」 そう言われて、何かから解放された気がした。 やっと“別れよう”と決心した。 「ねぇ、私たち別れよう。」 「は?急に何言ってんだよ。」 「今までずっと貴方に期待してた。  けど、それは無駄な期待だって、やっと気づいたの。  だから私たち、もう終わりにしよ。    じゃあね。」 これで初めての恋が終わる。 どこか寂しいような、自由になれたような、 複雑な気持ち。 「待って。  全部、俺が悪かった。  もう浮気なんかしないから。  俺から離れないで…」 まさか、涙を流す程だとは思わなかった。 貴方にとって、私は捨て駒のような物だと思っていた。 あっさり、別れを認めると思ってた。 まさか、これも演技なのだろうか。 ただ、私にはそうは見えなかった。 私のために泣いている… 楽しかった思い出が次から次へと、思い出してしまう。 「…嘘だよ、ごめん。離れるわけないじゃん。」 少しだけ迷った。 でも、私は彼を抱きしめていた。 あぁ、やっぱり貴方とじゃなきゃ、私は生きていけない。

「第7回N1」思い出

「おばあちゃん、死んだら風になろうかしら」  山の麓にそっと存在するおばあちゃんの家、その庭。小さな畑の中でおばあちゃんは突然言った。私のおばあちゃんはもしもの話をするのが大好きだった。そして大体、突然にものを言う。 「それじゃあ、私白いワンピース着るからね。そしたらおばあちゃん、私の裾をそっと撫でてくれる?」  私がそう返すと、真っ赤に色付いたトマトを枝から掬いながら、おばあちゃんは笑って頷いた。  夏休みになるとこうしておばあちゃんの家を訪れるのが私の習慣だ。それは今年、私が高校一年生になるまで毎年続いている。おばあちゃんの家は私が住む都会のアパートとは違い緑に包まれている。我が家とは違う安心がそこにはあった。  私はおばあちゃんが大好きだった。あったかくて、優しくて、陽だまりのようで。きっと他のどんな人からも受け取れないような全てを私は感じていた。 「おばあちゃん、これ、どうするの?」  家に入り、私はおばあちゃんに声を掛ける。机の上では、先ほどまで二人で黙々と収穫したトマトが籠いっぱいに溢れている。 「半分はご近所さんに分けようかねぇ。それは籠のままで、残りの半分くらいを冷蔵庫に入れておいてくれる?」 「分かった」  私が冷蔵庫にトマトをしまう横で、おばあちゃんはふうと椅子に腰を下ろす。 「ほんとに、さよちゃんが居てくれて助かるわぁ」  おばあちゃんはしみじみ言う。私はただ微笑みを返す。私たちには、それで十分だった。 「誰に配るの? 田口さんとこと、井澤さんとこ、川崎さんとこ、あと……」  お喋りなおばちゃん、気難しいおじさん、若い奥さんを順々に思い浮かべながら問う。 「ああ! 川崎さんね、畑始めたのよ。だからトマトあるかもしれないねぇ」  ふうん、と返事をする。 「でも、やっぱり行こうかね。そろそろ行こうかね」 「もう少し、涼しくなったら行こう」  私の提案に、おばあちゃんはそうしようか、と頷いた。 「どうもー、ごめんくださぁい」  あらーさよちゃんたら大きくなって! あ、トマト? 助かるわありがとう! ところで聞いた? あの話……。  お喋りな田口さんは、やっぱりお喋りだった。私がせっせとよそゆきの笑顔を構築する間に、くるくると話題が降っていく。  サヤエンドウが実ってね、あっトウモロコシ頂いたのよ! お裾分けするわ……!  そうして、帰りにはトマトの代わりの野菜が両手にどっさりだった。 「おばあちゃんが、もし田口さんみたくおしゃべりだったら__」  近所中を巡った帰り道、おばあちゃんが突然こぼした。 「畑の野菜全部なくなっちゃうかも。おばあちゃんの畑小さいから」  大量の野菜を見て、二人で笑うのだった。  夏は、そうやって少しずつ過ぎ去っていった。 「さよちゃん、ご飯できたよ」  私の部屋(正確には、私の母が使っていた部屋なのだが)の扉を開けておばあちゃんが言った。おばあちゃんはいつもわざわざ部屋に来て私を呼ぶ。そういうところが好きなのだった。 「むずかしいことしてるのねぇ」  私の宿題を覗き込んでおばあちゃんがしみじみ言った。ほんの少し悲しそうなのは気のせいだろうか。 「もし私がもっと後に生まれてたら__」  私はおばあちゃんの口癖を真似て悪戯ぽく言う。 「歴史の多さが大変なことになっちゃうね。だから今のままで良かった」  おばあちゃんはちょっとびっくりした後、おかしそうにくすくす笑った。 「ニャン太!」  朝起きて居間に降りると、一匹の猫がいた。 「おばあちゃん、ニャン太いつ来てたの?」  ニャン太は半分野良の猫である。時々ふらりとこの家にやってきて、ご飯を食べるか寝るかするとまた何処かへ行ってしまうのだ。因みに、“ニャン太”とは私が勝手に付けた名前であるので、もしかしたらニャン太はニャン太ではないかもしれない。 「今朝方よ。今日はご飯みたい」  そう言っておばあちゃんはストックしてあったキャットフードをニャン太に差し出した。やれやれ食ってやるか、とでも言うようにニャン太は気怠げに餌を食べる。 「……私も猫になりたいなー」  ニャン太を眺めながら私が呟くと、 「じゃあおばあちゃんも猫になって、さよちゃんと日向ぼっこしようかしら」  と、おばあちゃん。そんな素敵なことを思い浮かべて、その日は二人で笑いながら朝食をとった。  朝に起きる、食べる、話す。そして寝る。散歩する、畑で作業。そんな夏の二人の当たり前を、また今年も丁寧につくっていく。そんな中、夏は、ゆっくりと終わりに近づいていくのだった。 「今日は私がご飯作るね」  いつもはおばあちゃんが作っていた。私が手伝うことはあれど、ひとりで作ったことはまだない。 「さよちゃんが? ……それじゃあお願いしようかしら」  私が夕食を作っている間、おばあちゃんが心配そうにこちらを伺っているのを感じていた。私は手早く……と言うわけにはいかなかったが、一緒に収穫した夏野菜もたっぷり使って料理した。 「上手になったのねぇ」  私が出来た料理を食卓に並べると、おばあちゃんは穏やかに笑った。 「おばあちゃん、おいしい?」  私が聞くと、 「もしさよちゃんが料理人さんになったら、おばあちゃん毎日通っちゃうくらい」  ふふ、と笑いながらおばあちゃんは答えた。大袈裟よ、と返す私の声には嬉しさが滲んでいた。  私は暇になったら、よくおばあちゃんの部屋を訪れた。おばあちゃんの部屋はたくさんの物で溢れて、まるで大きな宝物箱のようだった。 「なあに、これ」  私はその宝物箱から時折り何かを引っ張り出してはおばあちゃんに聞くのだ。今回は小さな小箱のようなものだった。 「これはね……」  おばあちゃんはそれ以上言葉を続けることなく、小箱を開けた。中にあったゼンマイをかちかち回すと、小箱は歌をうたい始めた。 「オルゴールだったんだ」  おばあちゃんはその調べを懐かしそうに聞いていた。そしてふと、呟いた。 「おばあちゃんが死んだら、さよちゃんここから好きなもの持っていっていいよ」  私はありがとうと言うしかなかった。おばあちゃんの顔はいつもより少しだけ真面目に見えた。  夏はあっという間に過ぎ去り、いよいよ家に帰る日になってしまった。荷物はもうとっくにまとめ終わっていた。忘れ物は少なくとも三回確認した。それでも足りなくて、悲しくて、寂しいのだった。そしてそれは、きっとおばあちゃんも。 「私、もう一回確認してくる」  台所、居間、私の部屋、おばあちゃんの部屋。ひとつひとつこの夏をなぞるように確認する。 「さよちゃん、もう、バスが」  家の中を見て終わらない私に、おばあちゃんがそっと声を掛ける。もうそろそろ、行かなければならない。おばあちゃんに何度もありがとうとさよならを告げた。おばあちゃんはやっぱり微笑むのだった。 「またね、おばあちゃん」 「ばいばい、さよちゃん。元気でね」 「おばあちゃんこそ」  バス停までの道は何度も何度も振り返った。その度に、おばあちゃんは笑ってそこにいるのだった。おばあちゃんの姿が見えなくなって、ようやく私は前を見て歩き出した。  そうして、私の夏が終わるのだった。  うそ! そんなっ……!  夏が過ぎ、秋も過ぎ、一段と寒さの深まった冬の日だった。電話が鳴り、母が取る。……そして、受話器が落ちる。先ほどの言葉とともに。  その日は呆気なく、突然に非日常に変わってしまった。母が慌てて、今しがた電話で聞いたことを私に告げる。 「えっ……、な、なんて……?」  聞き取れなかった。いや、言葉は耳に入っている。ただ、脳がその文字列を受け付けなかった。冬なのに、冷や汗がついと背中をなぞる。  だから、おばあちゃんが……!  驚き過ぎて、涙が出なかった。驚きすぎて……なんてどこかで聞いた話だ、と関係のないことをぼんやり考える。そうしていないと、もうダメだった。気付いたら車にいて、次に気付いたときには病院にいた。  おばあちゃんは、静かに横たわっていた。寝ているようだ、とはよく言ったものだがおばあちゃんもそうだった。ただ、ちらりと覗く肌が青白い。目を凝らしても呼吸ひとつ感じ取れない。次々と気づいてしまういつものおばあちゃんとの違いが、静かに、残酷に、私に事実を突きつけるのだった。  おばあちゃんに、もう、会えなくなった。一生、永遠、この先ずっと。私がどれほど願ったとしても手の届かない……。  そう思っても、やっぱり何処か信じられなくて涙は出ないのだった。  いつの間にやら始まったお葬式すら、呆けた私には北風が過ぎ去ったようだった。むしろ遠くの嵐のような……。悲しみ以外の全ての感情を、嵐がぐるぐる風で巻いて持っていってしまったのだった。みんなにべったりと張り付いた黒い喪服は、おばあちゃんを見送るのに不釣り合いな感じがした。 「どうぞ、ご遺族の方に触れてあげてください」  式場の人に促され、そっとおばあちゃんの頬に触れる。……冷たい。花に囲まれたおばあちゃんは、微笑んでいるようだ。いつものようでいて、少し違う。おばあちゃんはここにいるのに、ここにいなかった。  もう、会えない。  ずっと考えていたことが、いきなり、現実としてのしかかるのだった。私はこのとき、おばあちゃんがいなくなってから初めて泣いた。子供のように。行っちゃいや! ずっといてよ! 来年の夏にまた会いたいよ……! そう言って泣いても、もう何も変わらないのだった。  せめて、せめて最後にちゃんとお別れを言いたかった。大好きだと伝えたかった。たったそれすらも、もう叶わないなんて。  私は、泣きじゃくりながらからっぽのおばあちゃんを見送った。  親戚の人たちが色々話し合って、おばあちゃんの家の整理は春にしようということになった。各人の仕事の関係など、色々考えてのことだ。  残った冬は、冬らしく冷たく過ぎ去っていった。私は何をするにも一定の無力感が拭えないまま、日常をただ消化していた。  春は存外すぐに来た。暖かくなった日差しが、私の白いワンピースで小気味よくはね返っている。  久方振りにおばあちゃんの家に入る。ひとつ、大きく呼吸をしてみる。おばあちゃんが居ない家は全く別物に変わってしまったようでいて、しかし、微かに残り香のような暖かさもある気がした。  おばあちゃんの家の整理は私にはひどく大変なものだった。ひとつひとつの物が一々私の思い出を呼び起こす。全く知らない物ですら、おばあちゃんが持っていたであろう思い出を想像して勝手に傷付くのだった。おばあちゃんの部屋が中でも記憶で溢れ過ぎていた。あのオルゴールもあった。私はそれを三周分聞いて、棚に戻した。  時計がかちりこちりと、時間の遅々とした歩みを刻んでいる。途中でニャン太が訪れたので、おやつを与えた。  それは、少し休憩をしようと手を止めたときだった。突然暖かな風が私の白いワンピースの裾をさらった。風はそのまま家中を駆け抜け、畑の葉を揺らす。 __ああ、おばあちゃんだ。  それは、一瞬だった。ほんの、そう、流れ星が落ちるほどの短い時間。それでも、私は確かに感じたのだ。おばあちゃんがいたときと同じ、あの暖かさ。 「おばあちゃん……!」  約束、したのだった。おばあちゃんが風になったら私の裾を撫でると。おばあちゃんだと思いたかっただけかもしれない。ただの風かもしれない。頭ではそう考えても、やはりおばあちゃんが来てくれたのだとしか思えなかった。 「ありがとう」  ありがとう、優しさをくれて。何でもない話に笑ってくれて。沢山、愛してくれて。  いつの間にか、私の頬には涙が流れていた。暖かな風はその涙をそっと拭いながら去っていった。私はただその風を見送った。今度こそ、本当のお別れだ。 「大好きよ、さよちゃん」  そう言って、おばあちゃんがにっこりと微笑んだような気がした。 おわり

ご相談

みなさん、ごきげんよう! 最近何も投稿していない海月です。ボカロPとしての活動をぼちぼち始めている海月なのですが、小説のネタがもうこれ以上降ってきません。おそらくもう書けないのだと思います。というか正直、僕の作品が皆様にとって需要があるのかどうかすら、元から分からなかったのです。そこで皆様にご相談があります。僕は今後、どうすれば良いでしょうか? 選択肢は二つ。 ①皆様からもらうリクエストのみでもいいから、小説を書いてほしい。 ②たまに海月が主催のイベントを開催してほしい。 僕ができるのはこの二つのいずれかのみです。これらさえ出来なくとも、このNoveleeには読み専として居続けるし、LINEオプチャもずっと運営し続けます。大規模合作企画も、予定通り開催します。皆様のご意見をお聞かせください。よろしくお願いします。 海月

『スイカ時計』

町のはずれに、小さな古い八百屋があった。 そこには、毎年夏になると不思議なスイカが並ぶという噂があった。 そのスイカは、切った瞬間に中身が時計の文字盤のように見え、秒針や長針がゆっくりと動いているというのだ。 ある日、少年のユウはその八百屋に足を運んだ。 目の前には確かに、他のスイカとは違う、青黒く透き通った皮を持つ大きなスイカが置かれていた。 「これが、時間を刻むスイカか……」 ユウは半信半疑で買い求めた。 帰宅して、ナイフを入れると、驚いたことにスイカの中には、金色の文字盤と歯車が鮮明に見えた。 針はゆっくりと動き、スイカの果汁が時を刻む音のように滴り落ちていた。 ユウはスイカの中をのぞき込みながら気づいた。 このスイカの中の時計は、ただの時間を示すだけじゃない。 彼の過去の記憶や、未来の瞬間までも映し出していたのだ。 ひとくちかじるたびに、幼い頃の夏祭りの記憶が鮮やかに蘇る。 また、皮の一部を剥くと、まだ訪れていない未来の出来事がちらりと見えた。 「時間を食べるって、こういうことか……」 ユウは不思議な感覚に包まれた。 スイカの味は甘く、懐かしくて切ない。 でも一度に全部を食べることはできなかった。 なぜなら、このスイカは、彼の人生の大切な瞬間を、少しずつ味わいながら生きていくためのものだったからだ。 その夏、ユウはスイカを分け合うことにした。 友達や家族と一緒に味わうたびに、みんなの時間と記憶が交差し、夏は一瞬で永遠のように変わっていった。 そして秋が来る頃、スイカは全部なくなってしまったけれど、ユウの胸には確かな時間の温もりが残った。 それは、ただのスイカではなく、「時」を食べる体験そのものだったのだ。

第7回N1 白から

 叔母さんが、亡くなった。  叔母は元・京都祇園の芸妓さんで、三年前結婚で引退し、地元である神奈川に帰ってきた。  叔母と僕は、すごく仲が良く、僕は叔母を「菊姐さん」と呼んでいた。母の姉で、名前が「菊」だったのもあるし、僕達がまるで、年は離れているが本当の姉弟のような仲の良さだったのもある。  休みの時は、家族でよく、母方の祖父母と菊姐さんがいる京都に行った。  まぁ、菊姐さんは芸妓さんだったので、休みが毎週末ある、とかいう訳ではなかったから、休み中京都に行っても、一、二日程しか会えなかったが、会った時は、二人で思い切り遊んだ。公園で鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり。トランプや百人一首なんかもした。妹が生まれて、歩けるようになると、妹も一緒に三人で遊ぶこともあった。  僕は菊姐さんが大好きだった。  菊姐さんは元からずいぶん美人な人だったが、たまに見る、芸妓姿の菊姐さんは更に綺麗だった。  白粉と紅で彩られた顔と首筋の上に、漆黒の、島田髷に結ったかつらをつけて、鼈甲の櫛や紅い玉かんざしをさし、美しい絵柄が施された綺麗な色の着物に、金糸銀糸を織り込んだ立派な帯を締め、赤い襦袢をのぞかして颯爽と、しかし上品に歩く様はかっこよくて、憧れた。  小学二年までは、男はなれないということを知らずに、将来の夢は芸妓さんだ、と言っていたぐらいだ。  菊姐さんが舞妓さんの頃の姿は、僕はその頃まだ小さくて、あまり覚えていない。ただ、すごくきらきらしていた、という印象が残っている。  姐さんとは、文通もしていた。届いた手紙はいつも、生八ツ橋の空き箱に大事にしまって、とっておいた。  菊姐さんが神奈川に帰ってきてからは、僕らの家と菊姐さん夫婦の新居がすごい近所だったのもあり、お互いの家によく行った。  僕らは二人とも、映画、特に時代劇が好きで、お饅頭や煎餅などをぽりぽり食べながら、二人でソファーでくつろいで、観ていた。菊姐さんが、芸妓になろうと思ったきっかけも、時代劇だったらしい。  たびたび、僕は、妹と一緒に菊姉さんから踊り−−つまり日本舞踊を教えてもらったりもした。菊姐さんは、踊りの得意な芸妓さんだった。踊りが好きだったので、芸妓さんをやめてからも、踊りは日々練習していた。 「タカ、これ、結婚式で着た白無垢なんやけど。」  ある日、菊姐さん家で踊りを教えてもらって、少し休憩をしていると。突然、菊姐さんが言った。  菊姐さんの言葉は、京都にいた頃の、芸舞妓さんの言葉と標準語が混ざって、少し独特な言葉になっている。 「私ね、これ、喪服に仕立て直そうと思うてて。」 「えっ、喪服って黒じゃなくて?」  そう聞くと菊姐さんは、 「昔は、喪服は白やったでしょ?白って、〈死〉も表すけど、〈再生〉の意味もあるらしくてね。まぁ、死の穢れを祓う、みたいな意味もあるみたいやけど、おんなじ白い服を着て、あの世へ旅立つ人の不安を和らげる、って意味もあって。なんか素敵やなぁ、って思わへん?ま、あんまり着る機会はないかもしれへんけど。」 と白無垢をつるりと撫で、笑った。 「確かにそういえば、時代劇の喪服って、いっつも白かったね。そういう意味があったのかぁ。」  世界が少し、広がった気がした。 「昔は黒く染めるのが、大変だった、っていうのもあるみたいやけどね。平安時代の庶民とか。」 「ああ〜。」  けっこう現実的でもあるんだな、と思った。 「菊姐さん、じゃあさ、これ、どこで仕立て直してもらうの?」  僕も白無垢の、白い絹の光沢のある生地を触ってみた。 「京都の馴染みのとこに、久しぶりだし、頼もかなって思うてる。」 「おお、いいじゃん。」 「商店街の和菓子屋さんで豆大福買って持っていこうかなぁ。」 「よもぎ餅もいいんじゃない?」 「あっそうやね!」  二人でよもぎ餅や大福の美味しいあの幸せな味を思い浮かべて、つばを溜めていると。 「だからさ。」  ふいに、菊姐さんが言った。 「もし私がこの、喪服に仕立て直したあとの白無垢を着る前にあの世へ行ったら、私の代わりにタカが着てくれる?」 「えっ何言ってんの、菊姐さん!僕、男だし、自分の死装束にしなくていいの?というか、死なないでよ。」  面食らって思わず叫ぶと、 「せっかく仕立て直したのに、一度も人を見送れへんなんて、なんか可哀想でしょう?」 と真面目な顔をして、 「ははっ、ま、冗談、冗談どす。」 と笑った。  それは、十二月の、雪混じりの寒風吹き付ける、身が縮まるような日の朝だった。  母から電話で、高校の修学旅行で京都にいる僕のもとへ、菊姐さんが危篤だと知らせが来た。  菊姐さんは最近、肺炎を患っていて、病院で治療を受けていたのだった。  僕はすぐさま先生に事情を話して、泊まっていた旅館を飛び出し、神奈川行きの新幹線に乗った。  時間の一分一秒が惜しかった。早く早くと願った。持ち直してくれと願った。  だが、菊姐さんが入院している病院に駆け込み、病室に行くと、時はすでに遅かった。  菊姐さんの身体は、まだほのかに温かさを残しているだけで、中には何も入っていない、空っぽの感じがした。  頭が、真っ白になった。  それから、いろいろ手続きをして、いろんな人に連絡して、お通夜があって、明日はもう葬式だった。  葬式には、お通夜の時と同じように、普通に制服を着るつもりだった。 (もう明日が葬式……。)  ハンガーにかけて壁に吊るした制服をぼんやり眺める。 (お葬式…。) 「ピリリリッピリリリリッピリリリリッ…」  突然、ベッドの上に置いた携帯の音が、部屋の中のぼんやりした空気を貫いた。  一瞬、びくっ、としてから、携帯を手に取る。画面を見ると、菊姐さんの旦那さんの、陽二郎くんから電話だった。 「…はい、もしもし、」 「あっ、もしもし、タカくん?ちょっとうちに来れる?今。菊ちゃんからタカくんに渡したいものがあるかもしれない。」 (あるかもって、どういうことだ。)  そう思いながらも、僕は、わかった、と答えた。 「これなんだけどさ。」  そう言いながら、目を泣きはらして真っ赤にした陽二郎くんが出してきたのは、〈おあつらえ〉と書かれた、たとう紙に包まれたものが三つと小さめの風呂敷包みが一つだった。 「こんな書き置きが一緒に置いてあって。」  続いて、二つに折り畳まれた便箋を渡してきた。  手にとって、開いてみると、中には、菊姐さんの流れるような文字があった。  タカ、もし私が死んだら、やっぱりこれ着てもらえへんやろうか?  タカに着てもらいたい。  女物で、すんまへん。              菊より  広い空間の中に、たった四行ほどの文字。 「いいよ、わかった。」  あの時の言葉は、どうやら冗談ではなかったらしい。半ば本気、だったようだ。 「えっ、本当にいいの⁉︎タカくん。」  少し驚いたようにいう陽二郎くんに、僕はうん、と頷いた。 「ありがとう、タカくん…。あっ、タカくん、着物着れる?」 「うん、着れる。菊姐さんに、教わったから。できなかったら、母さんに手伝ってもらう。」 「おっけ、よかった。でも菊ちゃん、女の人の着物の着方教えてたんだねー。タカくんに。」 「いいからいいからって言って、半ば強引に覚えさせられた感じかな。」 「はははっ、菊ちゃん…。」  そっとたとう紙を開くと、中には、純白の着物と帯と、半衿がついた長襦袢が畳んで入っていた。  真っ白な頭に、少し色が戻ってきた気がした。  その次の日、葬式に行くと、真っ白な着物を纏った僕を見て、皆がどよめいた。女物だもんな、とぼんやり思う。  母や父にも、菊姐さんの白い喪服を着る、と言った時驚かれて、止められた。妹はそんなに反対しなかった。  皆が黒い中、一人だけ白い僕は、目立っただろう。  白い着物、帯。帯揚げ、帯締め、半衿。足袋に、草履。顔には、白色の中際立つ男の肌の浅黒さを薄めるために、妹に人生初のファウンデーションを自然な感じで塗ってもらった。ついでに、薄桃色の口紅も、唇にほんのりさされた。そんな中、顔の中央には、存在感のある黒縁の眼鏡が陣取っていた。  気恥ずかしさは、ある。  でも、それ以上に、頭の中が白くぼんやりと霧がかっていて、あまり気にならなかった。 「菊ちゃんに、そっくりどすなぁ。」  菊姐さんの友達の、芸妓さんに言われた。 「こりゃびっくりだ。」  陽二郎くんが言った。  葬式は、つつがなく行われ、最後に、熱の中へと送り出された菊姐さんの身体は、骨になって帰ってきた。  骨を見ても、涙は出なかった。全てが、ぼんやりしていた。  葬式の後の食事会からは、少し早めに帰らしてもらった。  父も母も妹も、喪主である陽二郎くんも、皆が帰るまで残るつもりらしく、帰り道は一人だ。  家は歩いて行ける距離なので、なんとなく歩いた。道に、草履のパタパタという音が響いた。  ふと立ち止まって、横土手の下の川を眺めている時だった。 「よお、姉ちゃん。全身真っ白なカッコして、何?結婚式帰り?」  いきなり、肩をぐっ、と掴まれた。  なんだと振り向くと、金髪でちょび髭を生やした、いかにもチャラくて柄の悪そうな男と、その取り巻きみたいな、これまた派手な髪色をした男二人に囲まれていた。 「いや、葬式帰り。」  まぁ、穏便に済まそうと、とりあえず答える。  だが、男共は、僕の口から男の低い声が出てきたのに驚いたらしく、品のない大きな声を盛大にあげた。 「えっ、お前、男なの?なんだ、騙されたじゃねぇかよ。え、なんでそんなカッコしてんの、え、それ女のだよね、その着物。てか、なんで白いの、普通黒じゃね?」  男の口から次から次へと質問が飛び出してくる。その間ずっと肩を掴まれたままだし、うるさい。 「白い喪服もあるんだよ。」  答えるのが面倒なので、ただそう言って立ち去ろうとすると、男はなおも、 「え、なになに、どういうこと、白い喪服なんてあんの、てか俺葬式出たことないからわかんねー!」 と僕の腕を掴んでギャハハと笑い、 「てか、なんで女物なの、服。それ一番気になるんだけど。何それ、もしかしてお前オネエなの?」 と喋ってくる。 「うるさい。離せよ。」  思わず、呟いてしまった。  それを男共は敏感に聞き取った。 「あ?うるさい?」 「生意気な坊やだなぁ。」  どん、と肩を突き飛ばされ、僕は茶色に枯れた草で覆われた、土手に転がった。ところどころ覗く、溶けた雪で湿った土が、菊姐さんの喪服の白に、茶色い跡をつけた。 「何すんだよ!」  頭に血が登って、目の前が赤くなった。  それからは、乱闘になった。  こっちが殴りかかれば、あっちも殴りかかったり、蹴ってきたりする。何度も地面に転がされた。白い喪服は、さらに茶色に染まった。  頭のどこかでは、バカだ、と思っていたが、怒りが勝った。激しく動いて体が火照っていくと同時に、胸には灰青色のの気持ちが滲んで広がっていった。  近所の家の人か、歩いていた人が、僕らの様子を通報したらしく、パトカーのサイレンの音が近づいてきた。  気づいたら僕は、泣いていた。  大声で、声をあげて、泣いていた。  胸は、灰青色でたぷたぷだった。  警察が来た。  男共から引き剥がされた。  父と母と妹が来た。  陽二郎くんが来た。  僕は、泣いた。  涙で、身に纏う茶色と白のまだらに、灰色が混ざった。  背中をさする母の手が、暖かかった。  泣いていると、だんだん、胸の中に溜まっていた灰青色が、涙と一緒に流れていった。  あとに残ったのは、淡い黄色がかった、まっさらな愛しい色だった。  

愛と殺意

分かっていた。あの人は、駄目なんだって。 でも、求めた。私は、求め続けた。 だけど、もう、限界だった。 気が付けば、あの人は、死んでいた。 私の手には、包丁。あの人が愛用している物を、私は、この手に握っていた。 愛する息子からのプレゼント。そう、それで、 刺してやった。 快感でしかなかった。 私はね、母さん。ずっと、求めていた。  貴女の愛を。 「堕したかったのよ。あんたは」 と、母。私を前にして、言った。 「だって、長男を産んだんだから、もういいでしょ。でも、お父さんのお母さんが」 父の母、つまり、私の父方の祖母から、 「余裕があるなら、兄弟は多い方が良いって。馬鹿だったわ、私」 私を産んだ時から、自分よりも父の方に似ているせいか、私のことをお気に召さなかったようだ。 それでも、私は母に愛されたいと願い、今まで、顔色を伺いながら、小さくなって、生きてきた。 決定的な出来事があったわけではない。 ただ、そこに母がいて、包丁があった。 ただ、それだけのことだ。 埋めるのも、面倒。 自首をする。 一瞬、兄に負わせようと思ったけど、 それも面倒。 母親殺しの長女。母親殺しの妹。 それで良い。 完璧じゃない? ねぇ、母さん。

『蔓の記憶』

真白(ましろ)は、駅裏の古い路地にある温室を訪れた。 そこには「朝顔屋」という、時期外れの花だけを扱う不思議な店がある。 店主は、無表情の青年だった。名を尋ねても答えない。 代わりに、蔓の絡まる鉢をひとつ差し出してきた。 「この朝顔は、あなたが忘れたい人の記憶を吸います」 真白は笑った。「そんなの、花屋のセールストークでしょ」 けれど、彼女は鉢を受け取った。 その夜、夢を見た。 夢の中で、彼が立っていた。 夏の光の中で笑う、もう二度と会えないはずの人。 でも、その笑顔の輪郭は、朝顔の蔓に絡まれて少しずつ崩れていった。 目が覚めると、鉢には一輪、深い藍色の朝顔が咲いていた。 次の日も、その次の日も、夢は続いた。 彼の声、仕草、触れた手の温度が、花びらに吸い込まれるように薄れていく。 花は毎朝新しく咲くけれど、夕暮れとともに必ずしぼむ。 しぼんだ花は、枯れた記憶そのもののように、触れると崩れて消えた。 一週間後、真白はほとんど彼の顔を思い出せなくなっていた。 それでも、心臓の奥がきゅっと締め付けられる瞬間だけは残っていた。 愛情の絆は切れない、と、誰かが言っていたような気がする。 最後の朝、鉢には一輪も咲いていなかった。 温室へ返しに行くと、青年は初めて微笑んだ。 「これで“はかない恋”は終わりです」 真白は尋ねた。「……じゃあ、この痛みは?」 「それは花には吸えません。絆は目に見えないから」 温室を出ると、路地には真夏の陽射し。 振り返ると、そこにはもう店はなかった。

風の中で待っている

上條恒彦氏が亡くなられた。85歳で老衰であったという。当初この方のイメージは俳優としてであり、地味ながらも存在感のある人だった。元々は歌手であったと知ったのはいつ頃であっただろう。確か小学5、6年生の頃だと思った。音楽の授業で、シューベルトの「魔王」を鑑賞した。そのレコードの歌い手が氏だった。 「お父さん、お父さん、魔王が今、坊やを掴んで連れてゆく〜♪」 上條氏の臨場感ある歌声にたちまち惹き込まれたのを、今でもよく覚えている。思えば、歌手としての彼と接する事の出来た私は幸せだったのかもしれない。役者としてが最初だったか、歌手としてが初めてだったのかいまいち記憶が定かでない。ただ、私の記憶の中では歌い手としてのイメージが強い。 彼の代表曲といえば、「だれかが風の中で」だ。これを主題歌にした「木枯し紋次郎」自体、私は鑑賞していない。しかし、とはいえ、時代劇としてではなく西部劇を模して製作されたというドラマは、当時斬新で爆発的な人気を誇ったことは歌を聴いているだけで想像できる。 ドラマそのものは、主演の中村敦夫の出世作となっただけでなく、故蟹江敬三や故阿藤快など後に個性派俳優として名を成す人たちもゲスト出演していた。正に一時代を築いたテレビドラマだった。 上條氏も同様といえる。「木枯し紋次郎」の主題歌ということもあり、この年のヒット曲となった。しかし、である。仮にドラマが当たらなかったとしても、この歌は彼の代表曲として残っただろう。それだけの芯の強さを「だれかが風の中で」には感じられる。彼が最期に、風の中で見つけたのは誰だったのだろう。謹んでお悔やみ申し上げます。

『赤ずきんと森の歌』

昔々、小さな村に、赤いフードの少女が住んでいました。みんなは親しみを込めて赤ずきんと呼んでいました。 ある春の日、母親が言いました。 「おばあさんが風邪をひいているの。これを届けてあげてね」 籠には、温かいスープと甘いパン、それから一枚の白い紙が入っていました。母親はそれをそっと赤ずきんに手渡します。 「これはおばあさんにだけ読んでもらう手紙よ。必ず届けてね」 赤ずきんは「はい」と答え、森の小道を歩き出しました。 森は春の息吹で満ちていました。鳥がさえずり、木々が淡い緑を広げています。 そんな中、道端に大きな灰色のオオカミが座っていました。 「こんにちは、小さな赤いの」 驚きはしましたが、赤ずきんは礼儀正しく答えます。 「こんにちは。私はおばあさんにお見舞いを届けに行くの」 オオカミは首をかしげました。 「森を急ぐのもいいが、この森には“歌の道”もある。そこを通ると、花が歌ってくれるんだ」 赤ずきんは胸を躍らせます。 「どこ?」 オオカミは前足で奥の小径を示しました。 その道に入ると、本当に花たちが歌っていました。 小さなスミレは「やあ、春だね」、チューリップは「よく来たね」と囁きます。赤ずきんは花の歌を聞きながら歩き、すっかり時間を忘れてしまいました。 その間に、オオカミは先回りしておばあさんの家へ向かっていました。けれど彼の心は悪意ではありません。 実はおばあさんは、昔オオカミを助けたことがあったのです。凍える夜、倒れていたオオカミを家に入れ、暖炉のそばで温めた。それ以来、彼はおばあさんの見えない友達でした。 おばあさんは布団の中で笑います。 「おや、あんたかい。今日はどうしたの?」 「赤ずきんがこっちに来てる。けど、花たちと遊んでいて遅れてる」 オオカミは優しく笑い、「私が代わりに籠を受け取っておこう」と言います。 おばあさんはうなずき、「じゃあ、びっくりさせてやろうか」と悪戯心を見せました。 そこで二人は計画を立てます。 おばあさんは寝台の中に隠れ、オオカミはおばあさんの服と帽子をかぶり、布団をかぶって待つことに。 やがて赤ずきんが花の道から帰ってきました。扉を開けると、おばあさんらしき姿が布団の中からこちらを見ています。 「おばあさん、なんて大きな耳!」 「おまえの声をよく聞くためさ」 「なんて大きな目!」 「おまえをよく見るためさ」 「なんて大きな口!」 その瞬間、布団がぱっとはね上がり、オオカミが姿を現しました。 赤ずきんは驚きましたが、オオカミは笑って籠を受け取りました。 「これはおばあさんへの贈り物だろう? 道草してたから心配したよ」 その後ろからおばあさんが顔を出し、「驚いたかい?」と声をかけます。赤ずきんは大笑いしました。 おばあさんは籠から白い紙を取り出しました。そこには母からの言葉が綴られていました。 「あなたの優しさは森にも届いています。どうか、昔助けた友を忘れないで」 それを読み、おばあさんは静かにうなずきました。赤ずきんは首を傾げます。 おばあさんは笑い、「このオオカミは、私の古い友達なんだよ」と説明しました。赤ずきんは目を丸くしました。 その日、赤ずきんはおばあさんとオオカミと一緒に夕暮れの森を歩きました。 鳥たちが歌い、花々が眠る準備を始めます。 オオカミは言いました。 「森には危ない道もあるが、歌う道もある。大事なのは、どの道を選んでも心を失わないことだ」 赤ずきんは大きく頷きました。 こうして赤ずきんは、森の友達と優しい秘密を一つ持ち帰りました。 その秘密は、春風と花の歌とともに、ずっと彼女の胸の中で生き続けたのです。

愛は颯爽に

バンバンッ 銃の扱いにもだいぶ慣れてきた。 「怪我してませんか?」 「はい。大丈夫ですっ。」 (学習能力バケモンだな。) 「ッ!安藤っ!兄貴っ!大丈夫か!?」 「あ…佐々木。」 「どうしたっ!?誰にやられたんすか!」 「赤い髪の…パーマをかけた男…。」 「死なないでくださいッ!」 「しなねぇよ…。良かったわ…。防弾チョッキ着てて。」 「良かったっす!はっ、とりあえず隠れれるところに移動してください!」 「わりぃな…。」 その時佐々木さんが蹴られた。 「ッ!?」 「あっ…」 「邪魔なんだよ。クソ。」 (赤い…パーマ。) 「…あ?女もいるじゃねぇか。ああ、こいつか。京極の嫁。」 顔を掴んできた。 「ッ…離…して。」 「京極なら死ぬぜ。組員なんてもうボロッボロだろ。なんてったって50人しか組員寄越してないんだせ?そういうところだよなぁ。ほんと。組員の命だけ重く見てて後はどうでもいいんだよ。一般人が死のうがなんでもいいんだよ。あの男。せっかく結婚できたのに死ぬなんて気の毒だよなぁ。」 「離せよっ、クソ野郎!」 発砲した。 「危ねぇ危ねぇ。女にやられちまうところだった。」 殴りを入れた。 だけどアイツは素早く避けた。 喋ってる隙をついて足首を蹴った。 「うおっ!…ってぇ!…やるなぁ。お前。」 (力だったら絶対負ける…。だったら、今は、) 私は逃げた。 (逃げる一択!) 「あっ、おい待てっ!」 −(外に出たはいいけど…。どうしよう。交番とか?いやいやそれはダサすぎ。) 【右方向100メートル自転車駐輪場、自転車レンタル場】 「……。」 −「チッ。おいどこだよ?おーい。いるんだろ?見たぞさっき!」 ガサッ 「ここか?いねえじゃん。」 「ちょっとっ!ちょっとっ!」 「あ?」 (どこだ。) 「右!右!」 (右?右にいんのかっ?) 崖から自転車に乗った京極の嫁が出てきた。 「ッ!?」 落ちた自転車が見事赤いパーマの男に降りかかった。 「……。」 赤い髪のパーマの男は脳震盪なのか意識を失った。 「やったぁっ!成功した!あっ、佐々木さんのところに行かないとっ。」 −「佐々木さんっ!大丈夫ですかっ?!」 「は、はい。ついさっきおきました…。はっ!大丈夫ですかっ!?怪我は、あいつは!」 「あの人なら私が自転車で轢きました!」 「じ、自転車?!」 「頭から血が出てますよっ。包帯巻きましょう!」 「あ、これ。包帯です。」 「…大丈夫ですかっ?」 「な、なんとか。…橋本さん俺より強いっすね。」 「えっ!?それはないですっ!」 −「久しぶりだね。鬼塚。」 「…俺の名を呼ぶな。」 「なんでー?悲しいよ。」 「悲しいなんて思ってないだろ。」 バンッ 「いきなり…銃を使うなんて卑怯だな。」 「卑怯なのはどっちだ。おい京極。サシで勝負だ。」 「言われなくてもそのつもり。」 「俺が勝ったらお前は死ね。這いつくばれ。」 「どんだけ俺に恨みがあるのよ。」 「あ?俺の組だけ捜索されたのおかしいだろ?お前もクスリの取引、売春。山ほどやってただろ?」 「んー昔のことなんだけどなぁ。要するにそれってヤクザが一番求めてる勘の良さだろ?お前はそれを持ってなくて俺が持ってただけの話。まあいいや。じゃあ俺が勝ったらお前の組は京極会の傘下になれよ。」 「ッ!…いいぜ。どうせ勝つからな。」 「やだなぁ。負けるの間違いじゃない?みずぼらしい。」 −ドンッ! 「ッ!?今なんかすっごい大きい音聞こえたんだけど…。」 「屋上っす!行ってみましょう。」 「はいっ。」 屋上にいくと発砲し合ってる京極さんがいた。 「京極さっ」 「しっ!静かに!気づかれます!」 「何もできないなんて…。」 初めてみる京極さんだった。 あんなに素早く動く人を初めて見た。 「…京極さん、勝ちますよね?」 「はい。勝ちます。絶対。」 「勝つなら行きましょう…。」 「どこにっすか?」 「いるんでしょ?そこに。」 「くそ、気づかれてたか。」 「バレバレなんだよクソ。」 (六代目と似たようなものを感じる。) 「東京湾に沈めてやろうか?」 『東京湾に沈めようか?東京湾の水は冷てぇぞ。』 「お前の頭、トマトみたいに潰すぞ。」 「あ?抜かしたこといいやがってっ!」 「そんなんでイキんなよ。」 (橋本さん。早い…。) 「あっ、橋本さん!俺も加勢します!」 −「ッ?」 「よそ見すんなボケ!」 「くっ!」 「なんだ?もうギブか!?」 「何言ってんの。ギブなのは君の方でしょ。頭からそんなに血流して。」 「オラァっ!」 −「うっ!」 頭をバットで殴られた。 「橋本さんっ!大丈夫っすか!?」 「だっ、大丈夫。」 「すごい血っすよ?!包帯撒きましょう!」 「おらぁっ!」 「うっせぇ!」 バンッ 「行きましょう。」 「いや、京極さんのところに行かないとっ。」 「でも大怪我っすよ!やめときましょうっ!安全なところで処置しましょう!」 「…。」 −「クソッ!」 「…チッしつけぇな。」 (楓。勘違いかもしれないけど、俺はカジノで会う前に一回楓のことを見たかもしれない。借金を回収しに行く時に 『なんとしてでも全員今日回収させるよ。』 『はいっ!』 ふと窓を見ると後ろ姿だけだったけどなぜかその女性に心を惹かれた。 『...。』 カジノで君とすれ違った時似たような雰囲気を感じたんだ。話した時はイメージ通りって感じだったけど話せて嬉しかった。でも他の女と同じようにすぐ飽きるかと思ってた。 『咲夜さんっ、私と付き合ってくれるっ?』 『…帰るね。』 他の女はつまらない。だから全員体の関係で終わってた。 だけど楓は違った。 『俺と結婚して借金帳消しにしない?』 『最ッッッ低ッ!』 多分あの時確信した。俺にはこの人しかいないって。 「なにボーッとしてるんだよっ!」 あー。やば。よそ見しすぎた。) 「オイッ!咲夜ッッ!死んだら許さねぇからっ!なんとしてでも勝てッ!」 「ッ!?」 「ちょっと橋本さんっ!あんたまだ包帯撒き終わってないし出血やばいんですから暴れないでくださいっ!」 「負けるとか男してダセェからッ!負けたらあんたと私はそこまでッ!もう縁切るからぁッ!だから絶対勝てぇッ!」 「橋本さんっ!いい加減に!」 「イタァッ!」 「あ?なんだあの女。確か…橋本楓」 急に体が地面に倒れた。 「あのさぁ俺の女だから勝手に名前呼ばないでくんない?虫唾が走るんだけど。」 「クッソ!離せッ!」 「どーしよっかな。もう殺そうかな。傘下なんかもう死ぬほど組あるし。」 「やめろっ!やめてくれっ!」 バンッ 「あぁー!疲れた。」 「やった、おいテメェらッ!京極さんが勝ったぞッ!」 組員たちの雄叫びが聞こえた。 「…勝った…。良かった…。」 「あっ!橋本さんっ!?やばいこの人包帯巻いてる途中で意識失った!」 −3日後− あれからまだ楓は目を覚ましていない。 医者は命に別状はないっていうけど、それでも心配だ。 「…はぁ。」 「6代目っ。ちゃんと寝てますか?あと食べてますか?俺たちで真心込めてオムライス作りましたんでどうぞ食べてくださいっ!」 ケチャップで汚く6代目の文字をハートで囲まれたオムライスを見せられた。 「…あー、後で食べるわ。」 「それ絶対食べない奴じゃないですかぁっ!頑張って作ったのに…。」 そんなオムライスより楓のところに俺は行きたいんだってば! 楓のいる部屋の襖を開けた。 真っ先に目が入ったのは目が覚めて布団の上で冊子を見ている楓だった。 「あ、京極さん。」 「ぁっ、」 俺は持っていた荷物を全てその場に捨てて楓を抱きしめた。 「ちょっ、京極さっ」 「良かった…。目覚ましてくれて。」 「ただの脳震盪だったんですからっ!そんな大事にしなくても…。あー!!」 「何?どうしたの?」 「冊子が潰れた!」 「ああ、ごめん。あとで新しいの買っとくから今は…」 「もうぐしゃぐしゃだよ。」 「なんの冊子?」 「式場です。ここに届いてたの見て。」 「ッ!」 「和装とかも結構良くないですか?」 「…あー。もうダメ。」 「なにがですか、」 甘いキスをされた。 「はっ!?」 「君の初めての男が俺じゃないのが悔しい。」 「ッ!?病み上がりですからっ!」 頭突きされた。 「いった…。あ、そうだ。楓ちゃん。」 「はい?」 「抗争の時名前呼び捨てだったよね?もう一回呼んでほしいな♡」 「ッ…!」 「あん時の口調とか乱暴すぎてゾクゾクしちゃった!」 「キモ!」 「ていうかなんであんな強いなら後輩の時やっつけなかったの?」 「…大事な後輩だし…。」 「とんだお人好しだなぁ。」

 鬼、そう言われたら、きっと角が生えて、棍棒を持った地獄の鬼を想像してしまうでしょう。  私は鬼、と言われたら、やはり地獄の鬼を想像してしまいます。  しかし鬼と言われると、姿と共に、その鬼が存在しているか否かも想像してしまいます。  もし存在するのならば、その鬼には家庭もあって、仕事もあって、棍棒の手入れだって欠かさない、そんな鬼もいるかも知れません。  同じ様な事を考えたことはありますか?  コメントで教えてください。

夏休みの初恋(序章)

僕の名前は翼これはまだ僕が小学生だった頃の話、夏休みにおじいちゃん家へ遊びに行くことが多かった。 カブトムシを捕ったり、スイカを食べたりして今思うとめちゃくちゃ楽しかったのを覚えている。 ある日カブトムシを捕まえに網と虫かごを持ち山に入った 翼「今日はめっちゃ晴れたからカブトムシ捕り放題だなぁ!」 少し歩いた所で僕は立ち止まりカブトムシが居そうな気を探していた 翼「よーし、前ここら辺ででっかいクワガタ居たから今日はここで張り込むか!」 網を持ち木を一つ一つ見上げたりして、探し回っていた時の事だ ???「ねぇ君何してるの?」 翼「ひえ!?」 急に声を掛けられ変な声が出てしまい、急いで口を手で覆った ???「あははっ、変な声っ笑」 木漏れ日の中に白いワンピースを着た同い歳くらいの女の子が立って、クスクスと笑っていた。 翼「な、なんだよ!お前!急に話しかけたらびっくりするだろ!」 ???「えぇ〜気づかなかった君が悪いよ!私悪くないもーん!」 翼「僕が悪いの!?てかお前誰だよ!この辺じゃ見ないけど」 ???「お前お前言わないでよ!私にはゆりって名前があるの!」 翼「そーかそーか!で!ここで何してんだよ」 ゆり「何って、おさんぽだよ」 ゆり「君こそ何してるの?」 翼「カブトムシ探してんだよ、ここら辺でかいのいるからさ」 ゆり「へ〜そうなんだぁ、じゃあ私も一緒に探してあげる!」 翼「は?!いやいいし!一人で探せるし!」 ゆり「こー言うのは二人で探した方が早く見つかるのよっ」 そう言って半ば強引に後ろから着いてくるゆりは、時々「あつい〜!」「きゃー!?くもー!」 と騒いでいた、うるさいなぁと思いつつふと後ろを振り返った時に木漏れ日が照らすゆりの顔はとても可愛く、歩く度にふわりと舞うワンピースも相まってドキドキしてしまっていた。 夕方頃 翼「中々見つからないなぁ、、そろそろ帰るか」 ゆり「え〜!もう!?」 翼「もうすぐ日が沈んじゃうし、見つかるわけないだろ」 ゆり「あ!ねぇねぇ!あれ!カブトムシじゃない!?」 大きな声を出して大木を指さす君を見ていたら、私じゃない!あっち!と顔を大木に向かされた 翼「でっけぇ!!」 ゆり「流石に大きすぎない!?」 そこには大人の手のひらよりも少し大きいカブトムシが木に止まっていた 僕は網を掴み大木に向かって背伸びをした 翼「んーーー!ダメだ届かない」 ゆり「諦めないの!あ!私が上に乗るから、翼肩車して!」 翼「は!?なんで俺が下なんだよ!」 ゆり「いいから早く早く!」 翼「はぁ、わかったよ」 ゆり「上見ないでね!」 はいはいと溜息を着きながらゆりのことを肩車し、ゆりはそのまま網でんー!んー!と奮闘していた。 ゆり「ちょっと我慢してね!」 そう言うと肩の上に立ちさらに背伸びをした 翼「ちょ、おま、危な!」 そう言いかかった時、肩が軽くなったと思ったら ゆりの声が聞こえた ゆり「採れた!」 上を見上げるとそのまま落ちてくるゆりに押しつぶされた所が最後の記憶だった。

君がくれる一歩

初めて会ったのは、高校三年の夏。 画面越しに映る君は、透き通った声と真っ直ぐな瞳で、まるで私を見つめてくれた。 その瞬間から、私は君に惹かれていった。 朝の移動時間、 『おはよぉ、みんな朝早くから偉いね…』 まだ寝ぼけた声で、そっと背中を押してくれる。 お昼の暖かくて眠くなる時間、 『今日のお昼はね、冷やし中華にしたんだー』 ふっと笑いながら、日常を分けてくれる。 夜、目を閉じる前の静かな時間、 『みんなおつかれー。明日も早いからねー』 その優しさに、心がゆるむ。 ある日、勇気を出して送ったコメント。 【今日頑張った。明日も頑張るね】 『おおー、今日頑張ったんだ。偉いねぇ。明日も頑張るの!?偉い子じゃん!』 画面越しに笑う君が、私の世界を明るくする。 ――あぁ、頑張れる。君がいてくれるから。 今日も、生きていてくれてありがとう。 私は君のために、明日も一歩を踏み出す。