リョウ
5 件の小説自己紹介
順序が違ってすみません。今更ながら自己紹介です。 リョウと申します。26歳の社会人です。 ひょんなことから歌舞伎町に通うようになり、それ以来推しのバーテンダーさんとお酒に魅せられております。基本的にはこのつながりがベースの自伝的小説(全て実話というわけにはいきませんが)になるかと思います。 完全に自己満のため、文章も拙ければ文脈も綺麗じゃないしオチもない、みたいになる可能性が高いですが、日本のどこかにはこんな哀れにも人の優しさと酒に溺れる男がいるのかと思っていただくだけでも嬉しいです。 ※もちろん自分意外の個人は特定できないような形で書かせていただきますが、必要以上の詮索や個人の特定に繋がりかねない行為はお控えください。
ディサローノ・アマレット
カクテルは風味豊かで、それでいて明確に表情がある。スクリュードライバー、ファジーネーブル、レゲエパンチ…。作る側にとっても飲む側にとっても、それはまさしく沼である。先人たちが名前をつけたくなってしまうのも納得だ。 カクテルの構成要素はお酒とソフトドリンクが基本だ。でもお酒同士だって構わない。ソフトドリンクにシロップを混ぜたノンアルコール・カクテルだってある。時には生クリームや氷、卵白だって使う。無限の選択肢があるからこそ奥が深く、多くの人々を狂わせてきた罪深き趣味である。 僕はその中でもディサローノ・アマレットという杏仁のリキュールを無糖のアイスティーで割って飲むのが好きだ。スッキリとした口当たりと上等な杏仁豆腐のような甘美で豊かな風味がたまらない。バーに入ればあの独特な蓋を探している自分がいる。 推しが引き合わせてくれた「その子」は元気、という言葉が人一倍似合う女性だった。精神的にはかなり大人びているが、よく笑い、よく飲み、よく食べる、そんな気持ちのいい女性であった。 「お店初めてですか?」 「いえ、何回か来てます。」 「お名前聞いていいですか?」 「リョウと申します。」 「あー!最近よく来てくれてるっていう噂の!?」 「???たぶん、?」 「お酒弱いんですよね、何飲みますか?」 「じゃあ、コーラで。」 「私も一杯いただいていいですか?」 「はい!」 「ありがとうございます!」 特有の巨大なグラスに並々と注がれたそれが僕の目の前に突き出された。 「じゃあ、かんぱ〜い!」 同じ店で働いている同じ大学の友人がいる、という話は聞いていた。だが、昼間彼女らが一緒にいる姿がどうにも想像できない。そのくらいまるでイメージが違う。 出勤回数はこちらの方の方が多く、必然的に会う回数も増えていった。ただ、自分から推しに対する感情を理解しているからか、どんなに仲良くなってもついぞさん付けから変わることはなかった。 「今日、何飲む?」 「アマレットの無糖茶割りで。」 「ええ!飲めるの!?かしこまりました!」 「推しに教えてもらっちゃった。」 「どうりで!なんかあの子が好きそうだと思った(笑)」 アマレットとソルティドッグで夜を更かす。話題は共通の知人である推しの話か美味しいご飯の話。飾ることなく大きな声で笑うその姿がとにかく印象的だ。 推しが引き合わせてくれた、僕たちの良き理解者。彼女は今日も凛として咲く華のように強く根を張り、自分を偽ることなく、自然体で、らしくあり続ける。
美人薄命、或いはそうではない。
美人薄命、という言葉を聞くと妙に納得してしまう。透明で、綺麗で、何より儚い。そんなイメージがその納得感を加速させる。 彼女もそのひとりだ。おまけにかなり生き急いでいる。日中は大学に通い、夜になればバーで他人に酒を注ぎ回る。たまの休日も趣味だというコスプレや、友人や僕との遊びに費やしている。 「あのさ、寝れてる?」 「え、うん。なんで?」 「ラインの返信とか朝から晩まで返ってくるし、ちゃんと寝れてるのかなって。」 「ちゃんと寝れてるよ。」 彼女からすれば素っ頓狂な質問だったに違いない。白い頬が大きく緩んだ。 それでも愚直に全てを正面から受け止める性格の彼女は無理をしてるように見えたし、人間関係の悩みを聞いたことも一度や二度じゃなかった。 けれど話しているうちに本当に無理をしていないような気がしてくる。強いとは違う。かと言って弱いわけではない。本人の言葉を借りるのなら「懲りない」うん。しっくりくる気がする。 「君が思ってるほど、弱くないから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう!」 柔らかい口調でそう答える彼女はいつもよりタフに見えた。 「守りたいだなんて言えるほど君が弱くはないの判ってて、それ以上に僕は弱くてさ、君が大事だったんだ」 いつもの帰り道。ふとスマホから聞こえてきた歌詞が僕の心を刺した。その通りだ。彼女の力になりたいと思っているようでその実、彼女にずっと支えられてきたのだ。思い返せば、この街に通うようになったのは、僕自身が寂しさを感じていたからだった。 美人薄命。いや、考えてみるとそうでもないのかもしれない。少なくとも、こんなことで情けなさを感じてる僕より、彼女はきっと長生きするだろう。
恋愛ごっこ・下
酒は彼女に教えてもらった。 「同じの飲みたいの。これならあまり強くないから。」 「じゃあ、飲んでみようかな。」 「ほんと!?やった!薄めに作るからね!」 あんなに嫌いだったそれを僕の体は拒絶しなかった。 彼女のことを「推し」と称するようになったのはその頃からだ。他のキャストの方からも彼女の固定の客であると認知されるようになった。 恋愛感情なのだと言われればそうかもしれない。けれども、僕としては彼女を「好きな人」と呼称するのはやや違和感があった。 自分に固定の客がいると信じられない。彼女はそう語った。それを聞いた瞬間、同席していた店長と口を揃えて言ってしまった。 「目の前にいるのに!?」 「違うの…。こんな私でいいのかなって。他に素敵な子もたくさんいるし…。」 自分のお金を自分ひとりのために使うより、君との時間のために使った方が数倍有意義に感じる。だから、私「で」いい、なんて言わないでほしい。そう伝えると彼女はその場にうずくまった。 僕と推しのことは徐々に僕の周りの人たちも勘づくようになった。概ね反応は冷ややかだった。地元では結婚したという声も少なくない中、推しだなんだと飲み歩いている僕の見え方が悪いのは百も承知なのでさほど気にならなかった。 酒を片手に他愛もない話を数時間。時たま食事に出かける程度の関係。その先を望んだとしても絶対に届かない。それでも互いに「好き」という言葉を投げかけ合う。そんな恋愛ごっこ、友達ごっここそが僕の心の拠り所。 「私が推しでいいのか?」 「勿論。君がいい。」 彼女は満足げな表情を見せた。 僕の方が頬を赤らめたのは、僕の方が酒に弱いせいだ。手元に並んだ空のショットグラスが目を引いた。 あんなに飲めないと思っていた酒が喉を通るようになった。君が僕と喋ってくれるからだ。毛嫌いしていたたばこを目の前で吸われても何も思わなくなった。煙の向こうに君が見えるからだ。近づきたくなかったその街に感謝すら覚えるようになった。だってそこは僕と君との待ち合わせ場所。 今日も僕は喜び勇んで街へ繰り出す。街の明かりが人工的になっていく。僕は今日も、君との恋愛ごっこに花を咲かせる。 「わあ!お帰り!待ってたよ!」
シュークリーム、嫌いじゃないですか!?
あんなに飲めないと思っていた酒が喉を通るようになった。毛嫌いしていたタバコを目の前で吸われても何も思わなくなった。 近づきたくなかったのに、感謝すら覚えるようになった。 その人に初めて会った日はたぶん晴れていた。日中出かけなかったからわからないけど、雨は降っていなかった。 「あの!シュークリーム、嫌いじゃないですか!?」 それが彼女が僕に投げた最初の一言。ネオンサインのような光の中でもくっきりとわかるほど目鼻立ちの整った顔つきの彼女は、片手にシュークリームを持って僕を待ち構えていたかのように立っていた。 「今お店でお客さんとシュークリームパーティーしてるんですけど、もしよかったらお兄さんもどうですか!?」 何て答えたのだろうか。おそらく曖昧な返事だ。 彼女の片手のシュークリームが僕の口の中に押し込まれた。甘い香りが広がった。 「どうですか?」 人懐っこいその笑顔に僕は一瞬で虜になった。 「お、おいしい、です…」 その後のことはあまり覚えていない。夢見心地というやつだ。深夜23時前、SNSを交換して店を出た。 何度か店に通い、徐々にお互いの身の上話や過去の話もするようになった。学校のこと、仕事のこと…。初めは敬語だった口調も日に日に砕けた。 彼女といるとどんな苦境も乗り越えられる気がした。 「おかえり〜!仕事終わり?今日もお疲れなの!」 これだけで今日の自分を称え、明日を生きようと思える。 気づけば僕の頭は彼女でいっぱいだった。