之助
6 件の小説之助
こんにちは!学生です。 気軽に読んで頂けたら嬉しいです😌🍀 色々なジャンルに挑戦したいと思ってます!! いいね、コメント、フォローめちゃ嬉しいです💖 リクエスト等があればぜひ🙏✨
それでも私は欲しくなる
子どもの頃に夢中で観ていた、あの猫型ロボットのアニメを 最近になってまた見始めた。やはり、いつ見ても面白い。 昔、タケコプターが欲しすぎて、竹とんぼを頭に貼り、 ベランダから飛ぼうとしたことがある。 母にものすごい剣幕で止められたのは言うまでもない。 無謀だけれど、今思えばなかなかの発想力だったと思う。 さて、有名な道具で言うと『タケコプター』や『どこでもドア』 などが挙げられるが、果たして一番最強の秘密道具はどれなのか。 いくつもの秘密道具を思い浮かべてみたけれど、 やはり『ソノウソホント』に勝るものはない気がする。 この道具は口に装着すると、その人がついた嘘が“現実になる” というものである。喉から手が出るほど欲しい。 一例を挙げると、“うちが書いた小説全く売れへんわ”とつぶやいたその翌週には、『次世代のノーベル文学賞候補』として世界中で紹介されているのである。そんなもん、欲しいに決まってる。 そもそも、そんな道具があるわけない。 わかってるのに、なぜか真剣に考えてしまう。 でも結局、一番欲しいのは、「こうだったらいいのに」と 想像できる、その気持ち“そのもの”なのかもしれない。 つまりは、現実からちょっとだけ浮かび上がれるくらいの妄想力。 子どもの頃は、たいていの人が持っていた。 無限に広がる“もしも”の世界で遊べていた。 タケコプターも、どこでもドアも、もしもボックスも、全部、妄想という名の能力を補助してくれる道具だったんじゃないだろうか。 まあ、そうは言っても、欲しいと思う気持ちに 嘘はつけないのである。
声のしない場所で
今朝も、私(男)は真っ先に“藤崎 詩”の席を見た。 そこに座っていた彼女の姿を、もう五日も見ていない。 校内が不穏な空気に包まれていた。 担任の私にも、警察や保護者から何度も電話がかかってきた。 今から三ヶ月ほど前にも、彼女は忽然と姿を消したことがある。 その時は、噂が噂を呼び、教室ではざわめきが止まなかった。 彼女が十歳という幼い年齢だったこともあり、騒ぎは大きくなり、警察が動き出し、保護者への連絡網が回された。 まるで空白のような時間が過ぎ、ようやく彼女が見つかったのは、失踪から二日後のことだった。 学校から数十キロも離れた郊外のバス停付近で、深夜に一人、 小さな靴で歩いているところを保護されたという。 後に関係者の聞き取りや家庭環境の調査から、過度ないじめや、 夜になっても帰らない母親を待つ孤独感の辛さを誰にも話せな かったことが失踪した原因だと分かったらしい。 休み時間、職員室でコーヒーを淹れながら、他の教師たちが ひそひそと話していた。 「どうせ“また”どこかに家出でもしたんでしょう。」 「親もうるさかったもんね。被害者ヅラして」 私はただ黙って、自分の席に戻る。 私が“彼女の抱えていた痛み”に気づけたのは、彼女が失踪する 一日前のことだった。か細くて、今にも消えそうな声で 「先生、相談があるんだけど良いかな…。」 と言ってきた。けど、もっと早く行動するべきだった。 一度失踪した後にも、私たち教師には見えない所で、また 虐められ、ずっと孤独感を感じ、それでも学校には通い続けた。 辛かったのだろう。誰にも気づかれないように、声を殺して 泣いていたのだろう。 昼休み。生徒たちは騒がしい。 だが、教室に戻った私は、真っ先に彼女の席に目を向ける。 机の上には、クラス委員が置いた連絡プリントが一枚だけ。 風が吹けば飛んでいってしまいそうな、軽い紙。 まるで、彼女の存在の重さまで、そうだったかのように。 放課後。子どもたちの笑い声が下校のチャイムに溶けて、 徐々に校舎が静かになる。 私は一人、教室に残り、窓を閉めてまわる。 彼女の席の前に立つと、机の引き出しに手を伸ばした。 中には、折れかけの鉛筆とカラフルなシールで飾った消しゴム、そして、小さな淡いピンクの髪留めが入っていた。 私はその髪留めを手に取って、強く握りしめた。指に食い込む 感触が、彼女との最後の会話よりもずっとリアルだった。 帰り道、空はもう藍色に染まりかけていた。 駅前の交番には、彼女の顔写真が貼られたままだった。 その下には「行方不明・小学生女子」と、赤い太字のタイトル。 けれど、その紙をまじまじと見る者はいない。 貼られたときにだけ見る者がいたが、あとはただ、日々の風景に 埋もれていくだけだ。 彼女が泣いていたことも、きっと誰も気づかなかったのだろう。 気づいたのは私だけだった。 自宅に戻り、扉を閉めると、家の中には私の足音だけが響く。 薄暗い廊下を進み、奥にある古い物置部屋の前で立ち止まる。 ドアノブを握る。 ひんやりとしていて、少し汗ばんだ手のひらに張りついた。 ゆっくりと扉を開けると、窓のないその空間には、埃っぽい 匂いと湿気が立ち込めていた。 古い棚、毛布、空き箱、そして…丸めた布団の上に、小さな影が 静かに身を寄せていた。 “彼女”は、毎日泣くのを我慢していた。 誰もその涙に気づかなかった。私以外は。 けど、今はもう泣かなくていい。 僕の物置の中なら、誰にも傷つけられないから。 「ただいま…よかったね、詩ちゃん。 今日も誰にも見つからなかったよ。」 あとがき 読んで頂き、ありがとうございました。 少女は、一体どうなってしまったのでしょうか。 そして、正義という名の狂気に取り憑かれた人間は、どこまでを「善」と感じられるのでしょう。 歪んだ正義感。それが最も恐ろしいのは、本人にまったく悪意が ないことなのかもしれません。
しあわせの味
いつも通り起きて、いつも通り朝ごはんを食べる。 「ふつうが一番よ。」と笑う母の背中を見ながら、 僕はそれを退屈だと思っていた。 一方で、都会の人混みに飲まれながら 「これが夢だったはずなのに」とつぶやく友人がいる。 誰かの幸せは、誰かにとっての当たり前で、 誰かの当たり前は、誰かにとっての夢なのかもしれない。 それに気づいたとき、母の作った卵焼きを食ベて思った。 “しあわせ”ってきっとこんな味なんだ、と。 あとがき 読んで頂き、ありがとうございました。 私にとっての幸せは、お菓子を口にした時です。 幸せのかたちは人それぞれで、だからこそ美しいのだと思います。 今日も、誰かの心に“幸せ”が訪れますように。
タイムトラベル
小学生の頃に戻りたいと思う瞬間がある。 突然どうしたって感じだが、私は真剣である。 ランドセルを背負い、給食袋をぶら下げて、石ころを蹴りながら 帰ったあの頃。あれ、今思えば最高だった。 もちろん、タイムトラベルなんてできやしない。 それは分かっている。でも、最近になってふと思ったのだ。 『銀河や宇宙が存在するのに、タイムトラベルは不可能なのか?』 某映画を見ていると、改造した車と雷を使えば現実でもタイムトラベルが可能になるのでは、と思ってしまう。 この宇宙のスケールの中で、人間が「時間」を一方向にしか 進めないなんて、少しもどかしい気もする。 そこで、ヒントは“宇宙と銀河”にあるんじゃないかって気がして調べてみることにした。けれど、出てくるのは「太陽系が属する天の川銀河」だの、「無数の恒星の集まり」だの、「直径十万光年」だの……スケールが違いすぎてよく分からない。 「銀河の直径は約10万光年」とか言われても、「光年て何年?」と、聞き返したくなる。それでも、何となくこう思うのだ。 もしかして、時間って宇宙規模で見ると私の性格くらい曲がってて、クネクネしてるんじゃないか。だから、「小学生の頃」に ワープできるような道も、どこかにあるんじゃないか。 いや、ないだろうけど、願望が理屈を超える瞬間があっても いいじゃないか。 あの頃の私は、未来に憧れていた。 そして今の私は、過去を懐かしんでいる。 人はどこにいても「今」を生きるしかないんだな。そう思った。 というか、さっきまで銀河とか宇宙の話をしてたくせに、 最後は完全に感情論で終わる自分。 結局、それが“今の私”である。
イヤホンの向こう側
教室の隅。廊下側の一番後ろに座っているあの子は、誰とも話さず、目も合わせない。まるで透明人間のように、ひっそりといる。 昼休み、手にした弁当箱を軽く揺らしながら笑い声を交わし、購買へ向かう足音や会話が壁にまで染み込むように広がっていた。 けど、あの子はいつも机に顔を伏せて、イヤホンをしている。 誰とも交わらず、ひとりだけ時間の流れが違っているようだった。 だから、私が話しかけようとしても、あの子がそれを望んでいないように感じてしまう。 教室の隅で、笑い声にまぎれてその子の悪口が聞こえてくる。 「授業中ずっと寝てるとか、ナマケモノじゃん」 「てか顔もナマケモノにしか見えないんだけど、ウケる」 本気で言ってるんじゃない。笑いの種として、ただ軽くいじっているだけだとわかっている。けど、もし、あの子に聞こえていたら。聞こえないふりをして、我慢していたのかもしれない。私たちには見えないだけで、あの子の心は静かに泣いていたのかもしれない。そんなことを考えていくうちに、胸の奥がじわじわと熱くなる。でも、私は知らないふりをしてしまった。多分、他の誰も。 私はいつも、なんとなくあの子を見てしまう。 だけど、やっぱりどこか寂しそうに見えるのは気のせいじゃない。 一人が好きな人はいても、誰にも頼らず、誰にも気づかれず、 それでも平気でいられる人なんているのかな。 きっとあの子は話しかけて欲しいんだ。ただ、どうすればいいのかわからないだけで。声をかける勇気も、優しくされることへの期待も、もうどこかに置いてきてしまっただけで。 もし、今ここで私が一言でも声をかけたら、言葉を弾き返す小さな盾のような、あのイヤホンを外してくれるかもしれない。 もし外してくれなかったとしても、あの子の心に、ほんの少しだけ風が吹く気がする。だから私は、一歩だけ近づいてみた。 声なんて、まだ出せない。でも、名前を心の中で呼んでみた。 あの子がふとこちらを見たような気がして、私は思わず目をそらした。けれど、その一瞬だけ教室の空気が少し変わった気がした。 部活終わり、荷物を取りに教室へ行くと、椅子に座ってイヤホンをしながら本を読むあの子がいた。 ページをめくる指が一度止まって、こちらを見た気がした。 その瞬間、胸の奥で何かが揺れた。 なんとなくとか曖昧な興味なんかじゃなくて、話したい。 あの子の声を、ちゃんと聞いてみたいって。 イヤホンの奥にきっと“あの子”はいるから。 迷いがなかったわけじゃない。でも、今なら。 小さく踏み出したつま先に合わせて、私は声をかけた。 「ねえ、なに聴いてるの。」
『あの日』行きの電車
午後5時45分。誰もいない駅のホームに現れた古い電車。 行き先は、錆びたプレートに『あの日』と書いてある。 「信じられない…これが“あの日”行きの電車?」 俺にはやり直したい過去があった。近くの図書館で見つけた古びた本。普段は、都市伝説のような話を全く信じない俺だったが、その本で過去に戻れる電車があると知り、何故か試したくなった。電車が到着してすぐにドアが開いたが、夢のような電車が本当に あるんだという驚きと興奮で、俺は思わず立ち尽くしてしまった。 すると、車掌らしき人が「…乗りますか?」と無表情で尋ねてきたので、頷いたあと急いで電車に乗った。中には誰も居なかった。 俺が席に着いたあと、すぐに車内放送が流れた。 「当列車は“やり直したいあの日”に向かっております。戻れるのは一度きり。ただし、過去を変えるという行為は、決してお辞め ください。全て自己責任でお願い致します。」 俺が戻りたい過去は一年前の、最後に妹に会った日。 たった一言、「いってらっしゃい」を言わなかったあの日の朝。 あの日は珍しく、朝から妹の芽衣と大喧嘩をしてしまい、 「お前なんか一生、家に帰って来んな!」と言ってしまった。 けど、その日に妹は不慮の事故で、本当に帰らぬ人となった。 心の奥にしまっていたはずの記憶がふと蘇るたび、知らぬ間に涙が頬を伝っていた。なんで、あんなことを言ってしまったのだろう。 どうして、素直に「いってらっしゃい」が言えなかったんだろう。芽衣が元気に笑う姿をいつも、今も、ずっと隣で見ていたかった。 過去を変えたくても変えられない。そんなこと分かってる。 けど、だけど、あの時、せめて挨拶だけでもすれば良かった、 もっと笑えばよかった、もっと抱きしめればよかったって。 今さらどれだけ言葉を重ねたって、もう届かないってことくらい 痛いほど分かってる。それでも、心の奥底で何度も、何度も、 届かない叫びを繰り返してしまうんだ。 どうしようもなくて、苦しくて、それでも、それでもせめて、 芽衣に恥じないように、前を向いて生きていきたいんだよ……。 気づけば、あの日の喧嘩をした朝だった。 視線の先で玄関を出ようとしていた妹を、咄嗟に呼んでいた。 「芽衣…!!」 妹は、少し不機嫌そうに驚いた顔をしたけど、すぐに笑った。 「…なに?いきなりどうしたの、お兄ちゃん」 俺は、一度だけ深く息を吸って、優しく、確かに言葉を届けた。 「いってらっしゃい。さっきは強く言っちゃってごめん。」 妹は一瞬目を丸くしたが、照れくさそうに返した。 「…うん!いってきます。」 それは短くて静かな言葉だった。けれど、心の奥に小さな光が 差し込んで、あの瞬間、ようやく一歩踏み出せた気がした。 電車は再び、午後5時45分の駅に到着した。 もう二度とあの日には戻れない。 それでも、自分を責める声は、どこか遠くへ消えていった。 それから毎朝、玄関で「いってらっしゃい」と声をかけるのが、俺の日課になった。姿はなくても、空を渡る風がその一言を連れて、きっと妹のもとへ運んでくれるから。 あとがき 読んで頂き、ありがとうございました。 少年は、ようやく前を向いて歩き出せたようですね。 きっと、彼の思いは妹のもとへと届いていることでしょう。 人は誰しも、心の片隅に「やり直せたら」と願う過去を抱えて 生きているのかもしれません。 あなたには、やり直したいと思う過去がありますか。 この物語が、そんな問いにそっと触れるきっかけになれば嬉しい です。