鶴さん
4 件の小説生命の輪廻
今日、チトセは千歳の誕生日を迎えた。 娘、息子、そして孫たちに囲まれて息を引き取った。 千年生きると人間は高位生命体になる。 そして、新たな次元へ招待されるのだ。 招待された先にあるのは生き別れた人との再開。 私が目を覚ますと知らない天井がある。 私を囲んで、父、母、祖母が居た。 祖父は私を見る前に次の次元へ行ってしまったから、 祖母、父、母は次もまた祖父に会えるけれど、 私は永遠に祖父に会うことができない。 祖母は私と数十年過ごすと直ぐに、次の次元へ行ってしまう。 父と母は私が毎回看取って、 やってきた私の子供の頬を撫でてから去ってゆく。 私は父と母がまた高次元の存在になるのが悲しい。 私も早くそっちに行かせてと願うばかりです。
羽の無い天使
我が主人が帰宅するまでの長い時間を大量のレンタルビデオの山で過ごす。それはアクション映画であったり、韓国ドラマ、話題のテレビアニメだったりする。暗い部屋で小さなテレビを抱えるようにしてホラー映画のCDをセットする。録画している物もある。そしてまたTSUTAYAが潰れたらしい。少し前にご主人様が安かったと言って買ってきた。長年TSUTAYAに置いてあっただけあって色褪せていて、経年劣化が激しい。閉店セールの値段はご主人様曰く、閉店日に近くなるほど安いらしい。なのでここにあるビデオも閉店日前日まで残ったクソみたいな内容のビデオしか無いが個人的にどれも好みだ。流石ご主人様、私の趣味を良く分かっている。狭い部屋が臭くて古い、売れ残ったレンタルビデオでいっぱいだが私は幸せを感じていた。下界に降りてきて良かった。良いご主人様に出会えて良かった。 天使はブルーライトに照らされて幸せそうだった。 夏、それは恋の季節。 「付き合って下さい!」 僕は精一杯の勇気を振り絞って言った。 古典的でベタベタな設定で終業式の日に下駄箱に旧校舎裏で待つと書いた手紙を入れて、LINEでもなく好きな女の子に告白した。 相手の女の子の名前は三上さん。三上さんはクラスで一番かわいい。好きになったのはクラスの有志数人でラウンドワンに行ったとき。UFOキャッチャーで一緒にぬいぐるみを取った。「取れないね」とはにかんだその顔が可愛くて可愛くて可愛くて、僕は好きになってしまった。そのときの可愛い三上さんの顔は他の人に一切見せないがその可愛さといったら!もしその顔を見たのが僕でなくとも誰でも好きになってしまうだろう、それだけ彼女は可愛いのだ。 三上さんは可愛い顔ではにかんで戸惑った顔をした。うーん、と可愛く首を傾げて僕も戸惑った。 これは、断られてしまうのか!? 「告白ありがとう。」三上さんは泣きそうだった。 「でも山城くんは友達だから。彼氏じゃない、ごめんね。付き合えない」 僕の初心な恋心は砕け散った。砕け散った末に製粉機に掛けられて粉になってしまった。 泣きながら終業式の高校を出る。 ぎょっとした生徒達が僕を見て振り返るが、失恋したんだ、僕はわんわんと泣き続ける。夏休みの浮かれた空気の中、一人だけお通夜だった。 駅まで歩いているうちに後ろから友人達がやってきた。 「どうしたよ!?」友人達は一斉に僕の顔を見て声を上げる。 僕は泣き腫らした目で親愛なる友人たちを見た。流石僕の友人だ、直ぐに事情を察したらしい。 「大丈夫だよ、結菜ちゃんにフラれたんだろ?別の子また告ればいいさ」 なんて優しい奴らなんだ。でも僕は三上さんじゃないとダメなんだ。三上さん以外を好きになれる気がしない。 「いや、そんなことないよ、◼️◼️◼️…..◼️◼️◼️」 友人達は僕の背中をさすりながら励ましてくれたが僕にその声は聞こえなかった。取れないね、と言ってにかんだ三上さんの笑顔で花開いた僕の心は萎れて、顔と同様に無惨な有様だった。僕の虚ろな精神で夏休みの最悪のスタートを切る。 千鳥足で駅から電車に乗り、友人達と別れ帰路に着いた。殆ど記憶が無いが人間はよく出来たもので、“慣れ”だけで家に帰ることができる。そうやって今日、僕は帰ってきた。 自宅のインターホンを押す。 暫くすると「はーい」と声がして玄関を開けてくれた。 僕の家には居候がいる。 彼女は天使。僕が生まれたときからこの家に居候している。僕の母さんが買ってきたしまむらの服を着こなして、職業:自宅警備員をしてくれている。 僕の泣き腫らした顔を見て、友人達同様に驚いた顔をした。 「どうしたの!誰にやられたの!?」 天使はふかふかのタオルを持ってきて僕の涙を拭こうとしてくれたが僕は「もう泣いてない」と言う。天使は天使のように優しい。 天使は長い金髪を振り回して僕に問う。 「誰に殴られたの?」 「別に、殴られてないし」 「じゃあ、それならどうしたの?」 「言いたくない」 「言ってよ!」 天使は悲しそうな顔をした。それと同時に僕に向けて怒っていた。 「どうしたの」そんな顔をしないでほしい。 「─────────フラれた」 天使は予想外の回答に面食らった。 「意外!」 「トーマにも好きな子いたんだ!」 今日は赤飯だ!と喜びだす。 「だから、フラれたんだって」 僕は力なく階段を登る。天使は一緒に映画を観ようと言ってくる。励まそうとしているんだろうが僕はもう寝たいんだ。冷房の効いた部屋で三上さんのあの笑顔を思い出して泣いて、寝落ちしたいんだ。そっとしといてくれよ、天使。 僕は自分の部屋に入った。冷房が効いていてキンキンだった。天使かな? 泣いて泣いて泣いて、泣いた後に希望通りに寝落ちした。涙の渦に巻き込まれて粉々になった初心な恋心をかき集めているような感覚がした。 夢を見た。 天使が割れた硝子をハート型になるように直している夢。天使は接着剤を器用に使って硝子をハート型にしていた。ハート少しが治るたびに僕の心が楽になった。天使の白くて細い指で硝子を触るたびにくすぐったかった。天使は僕の方を見向きもせずにTSUTAYAのビデオ山のの上に座って夢中でくっつけ続ける。天使は硝子を触っているはずなのに手に傷一つなく、平気な顔をしていた。そして最後の破片を天使が嵌め込んだ。 僕は目が覚めた。 ────天使? 天使が僕を覗き込んでいた。 「大丈夫?楽になった?」笑顔だ。 「トーマ、寒そうだったから冷房の温度上げといたよ」ニコニコ。 「!あれ、元気でた!」 ────天使は魔法でも使ったのかな、なんて。 窓を開ける。 空が青い。夏休みが始まるんだ、 蝉の声がジリジリと聞こえ、生ぬるい風が吹き、冷えた身体には暖かく気持ちがいい。天使は笑顔で、次の恋を探そう、と言ってくる。確かにそうだ、僕はなんて小さなことでうじうじ泣いていたんだ!! 失恋の悲しみは露と消え、高校初の夏休みの喜びが残った。悲しんではばかりは居られないのだ、夏休みを楽しまねば! 「切り替えられたみたいだね。良かった良かった」天使は満足気に頷く。 夏休み初日、僕は最高のスタートを切った。サラダを作って、トーストを家族分トースターで焼き上げ、六枚切りのパンにたっぷり蜂蜜とバターをのっける。天使の分も塗ってあげて家族揃って食べ始める。 「昨日ね!昨日、トーマが好きな女の子にフラれたんだよ!」 やばい、天使に箝口令を敷き忘れた。 天使はミーハーである。何でも知りたがる癖に物事を簡単な形でしか理解できない。口止めをすればできる限り守ろうとしてくれるが、そもそも秘密を抱え込むのに向いていない天使だ。 親も親で息子の恋愛事情に食いついた。「本当に?」とか「誰?」とか分かりもしない癖に聞いてくる、聞くな。 僕はトーストを頬張って「散歩してくる」と言った。両親は「照れてるよ」と笑ったが、天使は不機嫌そうな僕を見て、やっと言わない方が良かったと気づいたと思う。 天使は元気に朝からアクション映画を観て何かの真似をしている。生憎こちらは映画に詳しくないので何の真似か分からないが、天使のテンションがいつもより高かった。 「天使、なんで今日は元気なの?」 散歩に着いてきた天使に聞いた。天使はさっきからずっと謝り続けている。 「ごめんね、ごめんよ、ごめん。?そうかな。テンション今日高いかな?」きっと気のせいだよ。と言った。 山城家の朝は早い。朝日が青空を照らして美しい。天使はハニーズで買った白いワンピースに白いポーチを提げていた。天使曰く、天使コーデだそうだ。 僕はとりあえずコンビニに入った。 店内の冷たい空気が心地良い。アイスを買って、近所の公園で食べようと思った。 「アイス買う!!」 天使は甘いものが大好きだ。天使は迷わずハーゲンダッツを手に取りレジに向かう。僕はクーリッシュのバニラ味にした。 アイスを持って公園に行く。 天使は既にハーゲンダッツを食べ始めていた。 「気が付かなくてごめんね、、」 ハーゲンダッツをありがとう。と天使は笑った。 天使がハーゲンダッツを食べ終わる頃に公園に着いた。 僕が生まれたときから既に山城家には天使が居た。 天使に記憶力が無いのか過去のことを聞いても答えない。 両親は天使をとても可愛がっているが天使との出会いについて記憶が無いようだった。 でも、僕は天使を愛してるし、なにより大切な家族だと思っている。 「ぁぁ────やっちゃった」 天使は珍しく落ち込んでいた。いつもは天真爛漫に振る舞うが陰で疲れていたりする。山城家に良くして貰っている手前、トーマに嫌われたく無かった。 天使は山城家に戻ると自分の部屋の冷房を付けた。 天使の部屋はCDと漫画で埋め尽くされていた。 天使はここ16年余り、居心地の良い日が続いていた。 「もう、お別れだ」 天使はひとりで河川敷を歩いていた。狭い堤防の上の道をトコトコとあるいて青く霞んだ遠くのビル群を眺める。細い小径(こみち)は真っ直ぐに続いて天使の腰辺りまで雑草が生えている。 天使は目を細めて、眩しそうにした。灼熱の熱波が天使の肩を切る、草花がサラサラと心地よい音を立てる。 天使はそろそろ飛び立つときが来たと思った。トーマも知らないことだが天使は羽根を自由自在に出し入れすることができた。 天使は二メートルはある巨大な白い羽根を一対、背中に生やしてみせた。 日光を浴びて熱くなった白い羽根から干したての 布団の匂いがする。 エネルギーはタダでは無い、羽根を生やすにも、大空へ羽ばたくにも、コストがかかる。 下界に来てから16年、溜め続けたエネルギーを解放する。 よーいドン! 天使は覚悟を決めて走り出した。 小柄な運動不足の体にエネルギーを込めて助走をする。天使はこんな映画のシーンを観たことがあった。もしかしたらダーウィンが来た!のフラミンゴの動画だったかもしれない。 天使は疾走する。 大きな羽根を広げて空へ飛び立った、飛び立とうとした。 「待ってよ!!」 天使は驚いて飛び立つのに失敗した。宙から30センチほど浮いて落ちて、尻もちをついてしまった。 目を見開いて振り返った先に居たのはトーマだった。 「おい天使!なに、飛ぼうとしているんだよ!」 おまえ、羽根生やせたのか。と、トーマは言った。 「で、どこに行こうとしたんだ?」 ええと、なんて言えば良いのだろう?天使は立ち上がりながら考える。トーマには何も言わず出てきてしまった。自分のことをすっかり忘れる山城家を見たくなくて、記憶のタイマーをセットして出てきた。しかも、自分が何かトーマに隠してるのを多分気付かれた。 やばいなぁ、と天使ははにかんだ。 「空を散歩しようと思って。何でもないよ、先にかえってて!」 努めて明るくいつもの自分で。 天使は前を向いて再び羽根を広げる。 「いや、お前が空を飛んでいるところを見たことがないから」 トーマは首を傾げて答える。 「秘密にしてたんだよ!実は飛べるんだ」 天使は長い金髪をなびかせて笑った。 実はトーマに天使が隠していることは多い。ズボラに見えた天使は裁縫ができたし、辞めさせられたがアルバイトだってしたことがある。 そして、天使には様々な不思議な力が使えるということ。そして一番の秘密は、、、 「天使、天使は本当に帰ってくる?」 見抜かれた。自分は本当に隠し事が下手だ。 「もちろん、なに当たり前のことを聞くの!?」 「いや、天使がもう帰ってこない気がしたから」 「帰ってくるに決まってる、」 「天使の顔をみたら分かるよ」そりゃあ、といって言葉を続ける「16年一緒に暮らしているからね。」 「そっか」トーマも成長した。 もう言うしかないか。天使は2つ目の覚悟を決めた。 「ばれちゃった」 ててぺろ、を意識して顔を作る。でもきっとすでに全てトーマには見抜かれている、 「実はね、もうお空に帰らなくちゃいけないんだ」 知ってる、と言うようにトーマは頷いた。 「あと僕は天使じゃなくて堕天使なんだ!」 「厨二っぽいな」 「勝手に人間がかっこいいと思ってるだけだよ、まあ”墜ちる”なんてかっこいいけどね」 ははは、とトーマは笑った。ちょっとだけうれしい。 「なぜお空に帰るんだ?今まで楽しかったよね?」 快晴の空に流れた風が、天使とトーマの間を通り抜ける。天使はつとめて笑顔で答える。 「天使は下界に長く居られないんだ。だってさ、トーマは私以外の天使を見たことある?」 「いや、無いけど。」 「ほら、下界に降りる天使なんて好き者で、好きだから降りてきたの」 「そんなに降りる天使は珍しいの?」 「うん、下界に降りた時点で堕ちた判定をされて力が大幅に削られる。」 「だから下界で私だったら山城家に当たるけど、帰るために何処かでお世話になって天に戻るためのエネルギーを貯めるんだよ」 「でもずっとここに居るのは?」 天使は目を閉じた。 ずっとここにはいられないんだよ。これ以上居てもトーマの邪魔になるだけだから、トーマは好きな子もできたし、一人でもう歩いて行ける。そして天使こと私はトーマの感情エネルギーを吸い取って下界で生活しているから!足手まといになるだけなんだ!! 天使は2つ目の覚悟を思い出す。 強い風が吹いて天使の髪が顔を覆う、周りの草がざあぁぁと音を立てて舞った。 「いいや、ずっと一緒には居られない。」 「トーマ!だいすきだよ!!」 そう言って私は後ろを向いて助走をつけるために河川敷を走り出す。 強風が後ろから吹いて、まるで風が背中を押しているみたいだった。 16年間まいにち少しづつ貰ってきたトーマの感情エネルギーを使って飛び立つ。2メートル以上ある巨大な一対の羽根が動いて悠々と浮力を作り、天使は足を地面から離す。 また風が吹いた。 トーマが何か言っている。 「ありがとう!天使!!僕も大好きだよ!!」 天使はまたはにかんだ。そしてわはは、とわらって大空へ飛んでいった。トーマは天使が見えなくなるまで手を振っていた。 天使は故郷に帰った。 天使が仕掛けた記憶のタイマーは作動した。トーマは三上さんにフラれた日同様、無様に泣きながら家に帰ったが泣いて泣いて泣いて、寝落ちしたあと、起きたら天使のことをすっかり、そしてあっけなく忘れていた。 天使の部屋は綺麗にTSUTAYAのビデオと小型テレビが隅に寄せられて、しまむらと天使コーデを始めとした沢山の服は天使が火曜日の燃えるゴミに出した。 天使はTSUTAYAのビデオを残して消えた。 END
私達は脊椎動物
私は山が好きだった、山登りをしては自然に触れていた。あるとき久しぶりの登山で休憩していると、同じ登山客の男性に出会った。 彼の手作りという、水筒入ったお茶を頂いた。水筒から紙コップに移して、私に渡された。 しかし、お茶は酷く濁っていた。茶色の茶葉が大量に浮いている…..。 中国で教わったお茶らしい。確かに横浜の繁華街でそれらしい茶葉が売られていたはずだった。 小心者の私は断ることができなかった。 意を決して飲んだ瞬間、そのお茶は見た目に似合わずとろとろとしていて、寒天だか、片栗粉だかを溶かしたようで、ぞっとした。私はそのとき痩せ我慢してその男性とにこやかに会話していた。 彼は優しそうな中年男性で、今度成人するらしい娘の話をしていた。私はその男性と別れた後も釈然としなかった。何か透明な細い虫のような、細長い魚の稚魚のようなものが茶葉の間を縫って泳いでいるような気がしたから。 そしてそれは今、私の中にいる────── 私は恐ろしくなった。何かおかしな物を飲まされたのではないか? 私は次の日熱を出した。お陰で会社を休むはめになった。39度。 原因はあのお茶に決まっている。 そして、体の中心───脊椎の辺りが恐ろしく痛い。皮膚の表面が腫れているなどではない、体の芯が痛いのだ。 どうしようもない痛みで私は車で病院に行った、異常は特に見つからなかった。その、どうしようもなく痛いということ以外には。 家に帰されていつでも救急車を呼んでくださいと言われた。私は布団をやっとのことで敷いて、部屋で痛みに耐えていた。 考えの回らない体で、ぐるぐると首の辺りをまわる細長い透明な虫がいる感覚を追っていた。そう、ここは────頚椎?頚椎といえば、脳の次に体を司る器官。今私の体の中を頚椎から腰まで円を描くようにして泳いでいる。ぞわぞわした。そう、透明な虫はどうやってお茶から脊椎に入るというのだ?腹を壊すのはまだ良い、理由が分かっている、しかし体の中を虫が泳ぐとはどういうことだ? 頚椎に来ると私の首は酷く痛んだ。私が押し殺した悲鳴を上げると虫はぐりぐりと侵入して来ようとする。脳に入られれば、体を乗っ取られて操られてしまう。 私は布団の中で考えていた────────こいつは私の脳を探している? 私は痛みで気絶した。 私が目を覚ましたのは次の日の夕方だった。 私はあまりの喉の渇きで麦茶を探した。 相変わらず背中を這うような感覚が抜けなかったが、熱は若干ましになった。 私はリビングに向かう。隣の部屋なので、襖を開けるだけだった。 は───────? リビングは机がひっくり返されていて、二脚ある椅子は倒され、机に置いてあった飲みかけの麦茶のコップは割れていた。 私はその場にへたりこんでしまった。私が寝ている間に誰がやったのか? 私がやったのか、? 体の中の透明の虫は私に侵入した。 私の体は虫の意思に従って破壊を実行した。 それはまるで侵略ではないか。 いや、それは妄想が過ぎる。 妄想?おかしなお茶を飲んで、熱を出して、寝込んで起きたら家具が全てひっくり返っている。 私が行くべきは精神科か、内科か。 私は痛みが強くなってまた布団の中に戻った。 何も無いと言われたのだ、行くべきは精神科だろうと、精神科の予約を取った。精神科はどこも予約がいっぱいで二週間後に取るのが精一杯だった。二週間後にはすっかり元気になっているかもしれない。 意識が途切れた。私は眠っていたらしい。私が目覚めたのは家ではなかった。 家から恐ろしく離れた山奥で、あのお茶の入ったペットボトルを握って、山道に、立っていた。 意識はあった、ただ、体が自由に動かなかった。 私はしっかりと、登山着を着て、にこやかに他の登山客にあのお茶を勧めていた。その、私のお茶を飲んだ人がお茶を褒める、私は「ありがとう」を言う、これは私の母に教えて貰ったレシピなんだと話す、熱を出して会社を休んだ話もする。登山客は私もだと共感する、そして登山客は私も一緒に山頂に行かないかと誘う、私はもう少し休みたいからと断る。 私に眠気が襲う。 私はまた眠ってしまったらしい。
旅路の魔法使い
俺の前には沢山の観客がいた。俺達の周りを取り囲んで、ケストの踊りを眺めていた。ケストはくるくると回転してアクロバティックなダンスを披露する。それに合わせて俺はリュートを弾く、ケストの動きに注目して、ケストが次にどんなダンスがしたいか予想する。ケストと予め決めておいたラインナップがあって、その中からケストが動きを決める。そうすると、俺が決めておいた音楽をリュートで弾く。 ケストは俺が見込んでダンサーとして育てた。昔から、故郷で俺が下手な横笛を吹いて遊んでいた時から、ケストはくるくると回って女の子にしては細長い体で踊っていた。 ある日、親友の家で遊んでいたら、ケストがまたくるくると踊っていた。 ダンスには音楽が付き物だから俺は得意のリュートを鳴らしてやった、俺にとって当たり前だったから。そしたらまだ小さかったケストは喜んで、俺はケストとよく、踊るために親友の家に行くようになった。いつの間にか親友より仲良くなったものだから、嫉妬されただろうな。 俺は旅がしたかったんだ。大好きな音楽で生計を立てて、国と国の間を渡り歩く。そんな生活を望んでいた。 今、俺の目の前にはそれがあった。昔の俺が望んだ物は今この前に広がっている、ケストが踊って、俺がリュートを弾き、周りの観客たちが大勢で嬉しそうに手を叩いている。 俺はニヤリと笑った。ケストはそれを見たらしい、クライマックスを踊ろうと俺に伝えた、俺はスピードを上げた、なるべく速くて大きな音を出すように気を付けながら弾く。これで観客は大喜び、歓声を上げて俺達が腰を曲げて帽子を地面に置くと直ぐに沢山の銅貨が放り込まれた。銅貨だけではない、銀貨だって数枚入っていた。 ケストが息を切らしながら、笑って近づいてきた。 「やったね」 「ああ、よかったな」本当に良かった、また上手くなったんじゃないか? 「いくら稼いだ?」 「銅貨は、さんじゅう、37枚だ」 「銀貨は?」 「3枚」 これだけあれば今夜はいい宿に泊まれる。2人で1部屋ではない、1人1部屋。 「あははははははは!やった!!!!」 ケストは持ち前の身体能力で飛び上がった。余りにも高く飛ぶものだから、周りの人間がぎょっとしたようにこちらを見た。 「そうだな。旨いものでも食べに行こう」 ここは古くて今にも壊れそうな大衆食堂───だが、この辺りで一番旨い。 「おっちゃん!粗挽きソーセージのタイピスがけとケストのスープをくれ」 「ケストって!」 ケストは不満そうな顔をしていた。ケストとはメダカの意である、まあ、食用のメダカだが。 「じゃあ!私は!ナジュドのソテーで!!」 大きな声で注文したケストは恰幅の良い店主を呼び止める。 「ナジュドは無いよ」 ナジュドはそこの兄ちゃんだろ、と諭されてケストはつまらなそうだった。 「ナジュドって魚くらい居ると思うんだけど」 「残念だったな」 完全勝利、俺は先に運ばれてきたケストのソテーを啜る。 勝利の余韻に浸りながら俺はケストにスープを少し飲むか聞いた。 「飲む」 ケストがスープを掬って飲んだ。 「共食いだ!」 すかさず弄る。 結局ケストはファコとコーンスープを注文した。 運ばれてきたケストはファコにかぶりつく。 「ちょっと食べる?」 「いや、要らない」 こんなに沢山蜂蜜がかかっていたら、甘すぎて食べられないだろうに。頬張るケストを見て俺は呆れてしまった。 「そうだよね、ナジュドは甘いの食べれないもんねー」 俺が食べないことを分かってこいつ注文しやがった。聞いておいて始めから分けるつもりなんて無かったんだ。 食堂ではまだ12時の針を過ぎたばかりだったが、早くに仕事を切り上げた男たちが早くも酒盛りを始めていた。 俺は酒を注文した。今日は沢山稼いだので良い酒を、ケストには酒が飲めないからジュースを。 長く、俺達はそこに居た。話して、これからの事を話し合って、どうするか決めた。 「シンゲストーンが次の目的地?」 「ああ、そうだ。シンゲストーンは魔法都市だから、魔法使いが多い、魔法学校もある」 「知らなかった。魔法使いって本当に居たんだ」 「故郷にも呪い師がいただろう」 そう、魔法使いのように正しい魔法を使わないが病気に罹ったなら大体は呪い師に頼る。故郷にもひとり中年の女が使えた。 「居たね、そんな人。」 「お前は丈夫だからな、俺は随分お世話になった。」 「ナジュドは子供の頃、体弱かったからね。今とは大違い」 ケストは最後のジュースを飲み干す。コップに残った水滴を指で撫でて、名残惜しそうに舐める。 「なんでまた魔法都市にいくわけ?」 直ぐには答えられなかった。だから俺も最後の酒を飲み干して、少し考えて答える。 「いや、魔法に興味があってさ」 「ナジュドが!?ナジュドは才能無いよ」 「違う。リュートに魔法をかけて貰いたいんだ」 俺は隣に置いてあったリュートを手に取る。 「リュートはいつも調音しなくちゃいけない。弾いてるうちに音が狂い始めるから」 それが許せないんだ。と小さな声で呟く。 少しケストは考えて言った。 「へえ、そんなに繊細な心がナジュドにあったんだ」 「そうか?ガサツだからそう思うんだが」 わかってるじゃん、とケストは笑った。俺もつられて笑ってしまった。 「リュートに魔法はかけられない」 ケストの後ろに居た男が言う。 湯気を上げたリンゴジュースを持つ男に話しかけられた。 「失礼。俺はトビ、ルメルージュ村のトビだ」 怪しい男だと思った。 「なんでかけられないって分かるんだ」 「僕は魔法使いなんだ」 トビはケストの隣に座ろうとする。 「俺の隣座れよ、話を聞かせろ」 好都合だ。 トビと名乗る魔法使いは茶色の髪の毛をしていたが、肌の色はケストと同じように黒かった。そして、肌の色と同じように、黒いローブを着ている──── 「俺は言った通り魔法使いだから、リュートの音を永遠に狂わせない魔法が使える。俺はシンゲストーンの魔法学校の卒業生さ。」 「リュートの音を永遠に狂わせない魔法だったらこんな意味の魔法をかけることになる───“時間を止める”っていうね」 ケストは向かいに座ったトビを見ていた。 「ということは、時間を止めたら音楽を作れない。だから魔法をかけられないってこと?」 「そういうこと」 トビは嬉しそうにThat's Rightと言うように指を指す。 トビは追加でホットリンゴジュースを注文する。 「君たち名前はなんだい?」 ケストが俺の方を見た。 「ナジュド」 「ケスト」 トビの目が光る。こいつは何の目的で俺達に近づいて来た?明らかに怪しい、それともただの親切な魔法使いか────俺のことを知っているか。 「僕は魔法使いと言ったけれども未だ修行の身。少し僕の魔法を見てみないか?」 「良いのか?」 勿論、と答えてトビは「試しにそこの蝋燭に日を灯して見せましょう」と言った。 トビは樫の木で作られた細い杖を手に取って、下を向き、念じるようにした。 ふっと蝋燭に日が灯る。 「凄い!」ケストが声を上げる。 「他には何ができるの?」 「他にはね────鳥になって空を飛んだり、精霊を呼び出したり、幻覚を作り出せる」 「すごいな」つい呟いてしまった。 ははは、とトビは笑ってリンゴジュースを一気に飲み干す。まだとても熱そうだったのに、よく飲めたものだ。 「シンゲストーンに来てもきっと良い体験ができると思う。僕が案内するから一緒に来ないかい?」 俺達は少しふたりで話させてくれ、と言って店を出た。明日には結論を出す、と伝えて。 「私は反対だよ」 意外だった。ケストはトビの話をよく聞いていたし、てっきり魔法に興味があると思っていたからだ。 「あいつは怪しい───何か隠している」 「俺はそうは思わない。案外気の良さそうなやつじゃないか?次の目的地も決まっていないから、トビに案内を頼んで楽をしよう」 「でも、よりにもよって偶然に、魔法使いが、私達に、話しかけてくると思うか?」 「思う。ここは魔法都市シンゲストーンの近くなんだ。魔法使いのひとりやふたりくらい居るだろう」 「確かにそうだけど、」 「これからの旅もあるんだ、トビが居れば火を無くす心配も無ければ、襲われる危険も減る。俺達には行く宛ても無いんだ。数日もあればシンゲストーンに着く」 ケストは見上げて俺をじっくりと見た。 本当に大丈夫かと聞いているのだろう、大丈夫に決まっている。俺がついているのだから…..。 仲間が増えた。仲間の名前はトビ、魔法使いだ。 「一緒に行こう」と酒場で俺が言ったときトビは笑って、「もちろんだ」と言った。 トビの一番得意な魔法は電撃を放つ魔法らしい。もし野党に襲われたとしても、電撃を放てばたちまち意識を失うか、立てなくなる。魔法学校を先月に卒業したばかりで、修行の旅に出たものの隣町まで来たところで俺達に出会ったらしい。 「シンゲストーンは素晴らしいところでさ、どこで魔法を使っても住民は慣れちゃって構いやしないし、俺達魔法使いに優しいんだ」 「多分君達は南下してきたんだろう?シンゲストーンはこの街から南東にあるんだ。」 俺達は街を離れる最後に市場で公演をした。シンゲストーンまでの旅費を稼ぎたかったからだ。 まずは俺がリュートを弾いて、市場に音を響かせる。ケストがくるくると踊り始める。俺ほどではないが、こいつの声はは高くて通る音がするんだ、ケストに呼び込みを任せた方が良い。 「さあ、よってらっしゃい見てらっしゃい。あの!カリンバーン伯爵のお墨付き、この大陸一のダンサー ケストとリュート弾きのナジュドの音楽を観てかないかい?」 ケストはメダカのようにくるくると周って始まりを告げる。俺はリュートを強く握りしめる。 公演を終えて観衆に帽子を差し出すと、銅貨や数枚の銀貨が放り込まれた。観客達は口々に言う「あなた達の演奏は確かに大陸一だった」と!俺はケストと顔を見合わせる。 「最近ナジュドは本当に演奏が上手くなった。私のダンスだけじゃ大陸一にはなれない」 「そうか?」 それはこちらの台詞。笑わせるな、上手くなったのはケストだ。ケストの声には、踊りには華があって、美しい。 「大したものだ」そう言って俺達に近いてきたのはトビだった。 「こんなに素晴らしい演奏を初めて観た」 感心したように言う。 「カリンバーン伯爵のお墨付きさ」 以前カリンバーン伯爵の城に招かれたことがある。伯爵の夕食会で披露した、あんなに豪華な城はこの国には殆どないだろう。 「また観れるかい?」 「ああ、シンゲストーンに行けばまたやる」 俺達は膨らんだ財布を持ってシンゲストーンに行く。 俺は、いつトビに頼むか考えていた。 シンゲストーンまでの道のりは山を四つ越えたところにあるらしい。 「この辺りの森は魔法の森さ。見習い魔法使いが魔法の練習をしていたり、滅多に見ないが魔法生物なんかもいたりする」 「こわいね。」とケスト。 「怖いのか?」確かにお前はお化けが苦手だったっけか。 「怖いよ」 俺とトビが並んで歩く後ろでケストは呟く。 「何をされるか分からない。何が起こるか分からない。何があっても対応できない。」 トビは黒いローブを翻して後ろのケストを見る。 「大丈夫さ、安心してくれ。僕はこの森を知り尽くしているし、何が起こっても対応できる」 ケストは「何をされるか分からない」と言う言葉を飲み込む。 森は深まる。高く聳え立つ木々は俺達を見下ろして、閉じ込めているみたいに見えた。閉じ込められた俺達は、地道にでこぼこした地面を歩く。 トビは後ろで長く、癖の強い黒髪を髷にして結っていた。黒いローブは魔法学校の生徒だと言うことを示す。未だ修行の身である、色褪せた黒。 「僕はね、更に南の方で生まれたのさ」 トビは俺の前を追い抜いて先頭を歩き始める。 「見た通り僕は黒い肌にこの髪の毛だから知っているだろうけど、呪い師の母がいて、才能を見込まれて魔法学校に入学した」 ケストが俺の隣を歩く。木の根に躓きそうだったので、手を貸してやった。ありがとう、とケストは言う。 「僕はね実際才能があった。」 「そうか。」俺は答える 「普通は四年くらいかかるんだけど、僕は二年半で卒業できたのさ」 「凄いな、」 「実際、天才と呼ばれた。」 トビはふふっと笑って、 「才能を試したくて仕方が無いのさ」と言った。 トビはまた俺達の方を振り返って、君達は?と聞くようにする。 俺は頭を搔いて、ケストの肩を強く叩く。バシリと大きな音が響いて、ケストが声を上げる。 「俺は、ケストと同じ村の出身だ。シハ島のバージン村で生まれて───ケストは俺の親友の妹だったんだが、」 「叩かないで!」 「ごめんな───それで、こいつの親が実は大富豪のお貴族様だって分かってな。誰か分からないから本当の親を探して世界中を旅して回っているのさ」上手いもんだろ?本当にお貴族様が居れば良かったんだが。しかし、本当に俺達は大陸一どころか世界一の旅芸人。 ケストは立ち止まって俺の顔を見ていた───ごめんなって、悪かったから。 「へえ?それで色んなところを旅しているのかい?」 「まあ、そんなところだ。こいつに貴族の血が流れているなんて信じられないところだがな。そうだ!こいつの親が残したペンダントもある!」 そう言って俺は昨日買ったネックレスを取り出した、キラキラと青白く輝く宝石が付いている。ケストは目を見開いてネックレスを見つめていた。 「へえ、これは殆どペンダントではなくて、ネックレスじゃないのかい?」 「ははははは、ペンダントもネックレスも同じだろう?」 トビはネックレスを検分するように触る。 ケストに微笑みかけて、「魔法をかければ、どこの貴族が持っていたか分かるよ?」と言った。 「本当に?」大袈裟にケストは驚く。 「本当か?それならお願いしたい。」俺はゆっくりと言う。 じゃあ、ケストがどこの貴族の娘なのか、このネックレスから見てみようか。とまた、樫の木で作られた細い杖を回してトビは呪文を唱える。そして、丸い円を書いてその内側に記号を描き連ねる────やばいな、もうばれたか。 俺はケストの手を握る、冷たい手だった。ケストは緊張した顔でネックレスを見続けていた。 「もし、両親が貴族ではなかったら。どうしようか?」 「何故本当の両親が貴族だと思ったんだい?」 円の中に何かを書きながら続ける────「本当にこれは君の両親の物なのかな?」 魔法の準備は完了した。 トビは魔法陣の前で手を動かす。 「昨日見せた蝋燭に火を灯す魔法は単純だったから魔法陣は特に要らなかったけどさ、今からかける魔法はちょっと複雑なんだ。リュートの音を永遠に狂わせない魔法も魔法陣を使うよ────これは時間を巻き戻す魔法。このネックレスがどんな歴史を辿ってきたのか明らかにする」 魔法陣が、ネックレスが光り、幻影が浮かび上がる。確かにこのネックレスが辿ってきた歴史だった。 「おかしいね、このネックレスは君達を旅に行かせる原因だったはずなのに、このネックレスは昨日君が買ったものじゃないか」 そこに映る幻影は、俺が露店で昨日このネックレスを買った姿。 「ケスト!走るぞ!!!」 ケストの手を握って来た道をUターンして走る。 きゃあああとケストは声を出しながら「なんで嘘を吐いたの、」と聞いてきた。 トビは俺達の後ろから追いかけてきた。 ────速い!、はやすぎる、 「言ったじゃないか、見習い魔法使いがよくこの森で魔法の練習をしているって」 ────僕もこの森のことは何でも知っているんだ! ケストを俺は引きずるようにして走っていたが、ケストは元々ダンサーなだけはあって、身体能力が高い。体勢を整えて、俺の後ろをぴったりと整えて走り出した。 ────「嘘を吐いたらだめじゃないか!!!!」 森の中を木霊する、トビの声。 気付けば、俺、ケスト、トビの順番で列になって走っていた。 追いつかれた。 ケストは見た。トビが一瞬自分達から意識を離して、瞬きするくらい一瞬の間に何かを念じた。 ────電撃! ケストの全身をトビの放った電撃が伝う。 「なにすんだ!!!」俺は咄嗟にトビを殴りにかかる。 ────電撃! 痛い。 それでも俺は拳を止めなかった。 トビをぶん殴る。 トビの顔面に命中した。しかし、 ────電撃! 更に電撃が襲う。 隣には意識を失ったケストが横たわる。 「何しやがる…..。」 トビは顔を擦りながら、ローブをはたく。 「『何しやがる』はこっちの台詞なんだけどさ、、バレちゃったか」 ほら、本性を表しやがった。俺は激痛の中、ケストのほうにゆっくりとだが、歩いて傍に立つ、片膝をついた。 「お前、さっきからずっと怪しいと思ってたんだ。明らかにメリットの無い話しについて来た、何か企んでるだろ!」 そう、こいつは明らかに何か考えている。俺達を使って何か企んでいるが、それでも俺がこいつに着いてきたのは 「取引をしないかい?」トビは言った。 「君は魔法都市シンゲストーンで病気を直して欲しかった、修行中の僕でも直せると思ったが、ケストには秘密にしたかったんだろ?」 「でもさ、僕には君達が必要なんだ」 「何に必要なんだ?」 嫌な予感がする。絶対に良い提案であるはずが無い、こいつはさっきから自分の力を試したくて仕方がないようなことを言っていた…..。 トビは地面に細い杖で大きな円を描いた。 「ケストが大事なんだ?じゃあケストを助けてあげるから、君の体を頂戴、どうせ君は近い未来死ぬ運命にある。」 俺は全身が痛くて片膝をついたままケストの傍らから動けなかった。 トビは念じた。 ────電撃! 俺の全身に電撃が撃たれて、俺は意識を失った。 意識を失ったナジュドを引きずって僕は魔法陣の中心に持って行く。ケストの命だけは可哀想だから助けてあげるつもりだった。ケストはお貴族様の血は引いていないが、僕と同じ南方の血統であるのは確か。同胞を生贄にするのは気が引けた。 ナジュドの体は丈夫で、しぶとかった。 僕はケストの体を魔法陣の脇に寄せて、呪文を唱える。 ────