みむる。
15 件の小説彼女のツノ。(お題)
「私、嘘をつくとツノが生えるんだ。」 付き合い始めに、酔った彼女が変なことを言った。 「は?ツノ?嘘だろ?」 「さぁ。でも、その嘘がどれくらい相手を傷つけるかによって、そのツノの長さは変わるんだ。頭の上見ててもわかんないよ笑見えないと思う笑」 彼女が何言ってるか分からなかったが、おちゃめな彼女はよく冗談を言ってたから、今日のもまたその1種だと思った。 そして、ツノの話題は出ることなく、2年の月日が流れた。10日前からだろうか、彼女が急によそよそしくなった。なんだか不安になった僕は、彼女が付き合い始めに言ってたツノのことを思い出した。 彼女に会う週末、どこかよそよそしい彼女と夕食を食べた帰りに、何と無く聞いてみた。何気なさを意識しすぎて、少し変だったかもしれない。 「なぁ、ミキは俺のこと、好き?」 「もちろん。好きだよ!何を今更笑」 彼女は屈託のない笑顔を見せながら、そう言った。僕はほっとして、またたわいのない話をして、お互いの帰路についた。 「じゃあまた来週ね!今日は楽しかった!」 「俺も楽しかったよ。またな。」 そう言って手を振って、お互い背を向いて歩き始めた。ふと、彼女のことが気になった僕は、振り返った。 いつもと変わりのない彼女の後ろ姿。 しかし、その影には、大きなツノがあった。
レール
何がしたいんだろうか、私は。 小学生の時は、何も考えずに毎日を楽しんでた。 中学生の時は、高校受験に向けて、塾に通い、毎日を楽しみながらも勉強漬けの日々だった。 高校生の時は、無事第一志望の高校に入れたものの、周りのレベルが高すぎてやっぱり 勉強漬けの日々だった。 大学生になったら、変われる。人生の夏休みと言われる大学生になったら。 そう、ずっと思ってきて勉強し続けて今。憧れの大学生になってるけど、色々な経験もしているけど、ふと、やはり思ってしまう 「こんなものか」と。 そして今まで受験のために頑張ってきたから、ここまで来たら次の目標が定められず困っている。定められたレールはここで終わっている。 私はこの先どこに向かうのだろうか。
15分間
「林先生の声やっぱり眠くなるよねー笑寝てしまった。田邊くんも?」 右前に座った彼女が背伸びをしながら振り返ってきた。 「ちょっとだけな。美咲は寝すぎ笑」 「結構起きてたんだ!あ、じゃあさ、今日の授業の宿題何だった?」 「…あー、悪い、なんも記憶ないわ」 「いやそれ寝てたんじゃん!笑」 左耳にかけた君の長い髪の毛がこっくりこっくりとしたリズムで頭が動くのと同時にサラサラと流れ落ちていくのが綺麗で。いつまでも見ていたくて。 …そんな君をずっと見ていたから、寝てはないけど授業は聞いてなかったって言ったら、君はどんな表情をするだろうか。 「ま、後で誰かに聞こうぜ笑とりあえず帰ろうか。」 外はもう真っ暗で、ちらほらある灯りが柔らかく僕らを照らし、いい雰囲気を醸し出している。僕にとっては、1週間に1度、この授業が終わって駅に着くまでの15分間が愛おしくて仕方ない。 「今日も疲れたねー。田邊くんもお疲れ様!今部活どんな感じ?」 「部活はーーー」 彼女がしてくる質問に適当に受け答えながら、僕は彼女に触れたくて仕方なかった。どこまでならセーフだろうか。手とか握ってみたい。でもダメかな。 ちょっとふらついて少し軽く寄りかかってみようかな。 帰り際に手を振る時、ハイタッチして触れるぐらいならいいだろうか。 僕はずっとそんなことをぐるぐるぐるぐる考えている。我ながら、女々しいとは思っている。 「わ!どうしたの?大丈夫?!」 僕はちょっと彼女に寄りかかってみた。彼女は心配しながらちょっと僕を支えてくれた。触れた部分が熱くてでも心地よくて仕方なかった。 「ごめんごめん笑」 おちゃらけた気分を出し、これなら行けるのでは?と思い、思い切って手を握ってみた。 「…手、おっきいねぇ…。」 「…小さいな笑」 そんなこと言いながら、またたわいのない話をし始めた。さっきと違うのは、この心地よい手の温もり。 永遠にこの時間が続いて欲しかった。 でも、15分間はそんなに長くない。もうあっという間に駅の前に着いた。改札口の前で、君は反対側の電車に乗る。いつの間にか手は離れていた。 「じゃあ、またね!お互い頑張ろ!」 彼女が振ってくる手に僕はそっと手を重ねてすぐ離した。 「あぁ、お互い頑張ろうな。」 そして彼女はそのまま視界から消えていった。右手に残る余韻が消えないように自分の手を見つめていた。彼女は少しでも僕を意識してくれただろうか。拒絶しないってことは、少しは可能性があるんだろうか。 君には彼氏がいるって噂、嘘だよな。
彼の声。
「ーーーよ!」 「えー?なぁにー??」 高速なのに窓を開けているせいで、彼の声が聞こえない。まぁ、彼が結構低い声なせいもあると思う。 彼がたまに出す真剣な声が私は大好きなのだが、いつもお調子者のように振る舞うので、そう聴ける機会は多くない。 「あと、15分で着くって!」 彼は車を走らせながら、助手席にいる私の方を向いて声を少し張り上げて言った。 「分かったけど、窓閉めてよー!!」 そう私も声を張り上げながら言ったら、彼は窓を閉めてくれた。 「高速だと窓開いてると声聞こえないね笑」 「ごめんごめん閉め忘れてたわ」 無事ウミネコ海に着いた。ウミネコ海とは、何故かウミネコが大量発生している海であり、私達は、ウミネコ同好会の活動で海に来た。仲間はあと3人いるんだけど、みんな日にち合わなくて来れなかったんだよね…。彼とは2年来の仲だが、2人で行動するのは初めてだった。 私達はひとしきりウミネコの生態調査をした。そして、辺りが暗くなり始めたとこでうちやめて、帰ることにした。 「またまたお邪魔しま〜すっ」 そーっと助手席に乗り、運転席に座っている彼の方を見たら、何故か緊張し始めた。 「よし、帰るか」 そう言って、彼は車を走らせた。運転が出来ない私は、かっこいいなぁと思いながらぼーっとしてた。 30分くらい経ったのだろうか。ずっとたわいのない話をしてたのに、急に手を握ってきた。 「え?!」 「手、やっぱり冷たいね。」 思わず声をあげたが、彼は何食わぬ顔で、冷房を調節した。彼の手は暖かくて、胸まで熱くなってきた。 その後もたわいのない話が続いたが、手が触れ合うことは無かった。 そうして喋ってたら、行きにも通った高速まで来た。ぼーっと前の灯りを見ていたら、急にゴーって音がし始めた。 「え、なんで窓開けたの?!」 「特に意味無い笑」 「ーだよ」 「え?なんて?」 私の質問に彼はしばらく無言のままだった。そして、何も無かったかのように、窓を閉めた。 「いつか言うから待ってろ。」 私はじーっと運転席を見ていたが、彼は私を見ずに、前を向いたまま、そう言った。真剣な声色で、何故かまた、胸が熱くなった。 君が窓を開けた理由は結局わからずじまいだった。
可哀想に
「可哀想に」 尾崎くんは、僕にしばしばこの言葉を浴びせる。 「可哀想に。そのままじゃはっきり見えないなんて。眼鏡とかコンタクトとか、大変だよなぁ。毎日毎日不便そう。俺は視力1.2あるから良かったわぁ。」 そうかそうか、君には世界がさぞかしクリアに見えるんだろうね。それはよろしゅうございました。 「可哀想に。そのままじゃはっきり聞こえないなんて。補聴器なんて、邪魔くさそうだなぁ。俺は普通の耳で良かったわぁ。」 そうかそうか、君には世界がさぞかし音で溢れてるんだろうね。それはよろしゅうございました。 でも、それっていい事なの?確かに、便利かもしれない。確かに、目も、耳も、正常な程、機能が良い程、いいかもな。 「うわっ、虫やばっ。」 「え、今あそこで何か動かなかった?…なんだ、ただの染みか。」 「あいつら、今ぜってぇ俺の悪口言ってる。俺の名前と悪口が聞こえてくるんだ。くそぉ。」 でもさ、機能が良い君は、気付くことが多い分、生き辛そうだよ。僕は、自分の都合の良い音だけ、都合の良い物体だけ、見て聴くことが出来るんだ。この世界の良さを、君は知らないんだろうな。僕は勿論、よく聴こえて、よく見える世界も、少し手を加えれば、いつでも体験出来るけどね。 はは、そっか。僕には世界が2つあるけど、君には1つしかないんだね。僕は両方体験できるけど、君はこちらの世界にはきっとずっと来れないんだ。ふうん。この世界の違いを味わえないんだ。ふうん。 「可哀想に」 ほら来た。でもね、なんとも思わないんだ。だって、僕は君にこう思っているんだから。 「そんなことないよ〜。でも、尾崎くん羨ましいな笑」 【可哀想なのはお前だよ。ばーか。】
毎年のルーティン
いつもは9時過ぎに気怠げに起きる私だったが、今日は早起きだった。6時に目が覚めたのだ。それも目はぱっちり。自分に違和感を覚えつつも、布団から出て、顔を洗い、飼い猫に挨拶をして、餌や水を与え、自分の朝ご飯を作る。びっくりするぐらい、健康的な朝だった。いつもの自分は、布団から飛び起きて朝ご飯など食べずに、走って出社するのだが。そして、私は7時半に家を出た。毎日の出社の時間は、11時。いつもよりも1時間半、早く行動してしまった私は、暇を持て余し、家の周辺を散歩することにした。そう言えば、久しく散歩をしていない。それどころか、毎日毎日休みもなく11時から23時まで働いて、外を堪能していなかった。こんなにも空は青かったのか。こんなにも、景色は綺麗なのか。いつもパソコンやスマホなどの電子機器とにらめっこしている私からすると、3次元の世界は眩しかった。定期的に、外の光を浴びようと思った。 ぶらぶらしていたら、飼い猫にちょうど良さそうな草があった。仕事帰りに寄って、猫にあげよう、そう思いながら遠回りをして私は出社した。 仕事終わり、クタクタだったが、いつもよりも気分は良かった。手に草を持っていたからか、いつもは出迎えをしてくれない飼い猫が、今日は出迎えてくれた。特に大きなイベントごとはない日だけれども、少し早起きするだけで、1日が全然違うなと、実感した。これからも出来るだけ早起きして、余裕を持った1日にしていこうではないか。 ーと、私は毎年思うのであった。
なんにも
ここに文字を入れるとさ、 何も内容なくても、 “それらしく”見えるよね。楽し
箱
ここにいれば、何かが着実に減っていくことは分かってるけど、大きな失敗をすることはないし、ささやかな幸せの中で今まで通りの道筋を歩み生きていけるんだ。 でも、ここから出れば、失敗はあるかもしれないし大きな悲しみを得ることもあるかもしれないが、何を捨ててもいいと思えるぐらいの幸せを感じられるかもしれないんだ。 人によって幸福の基準は違うし、道を選ぶのは自分だ。怖くないよ。外に出ようと、言ってくれる人は多い。 でも、彼らはここにいれば失敗することはないよと言う。 私は選べない。出たくない。でも、人とも交流したい。色々な経験をしたい。 だから、今日も私はここにいながら、他人をこの箱の中に閉じ込めるんだ。 ようこそ。
「今」すべきこと
今すべきことってなんですか。 時間はどんどん過ぎていく。 ある人は言う。今が1番楽しい時だ。沢山遊べ。と。 ある人は言う。今が1番学習出来る時だ。沢山学べ。と。 ある人は言う。今が1番危険を冒しやすい時だ。真面目に生活しろ。と。 ある人は言う。今が1番休める時だ。沢山休め。と。 だから私は、沢山遊んで、沢山学んで、沢山休んで、そしてそれでも真面目に生きようとした。 でも、ふと思ったんだ。時間が足りないって。 何かを見つけれた人は、その何かを頑張っている。 でも、私は何も見つけれてないんだ。だから、人に言われたことをそのまましてる。 パンクしそうだ。 「今」すべきこと、ってなんですか。 ある人は言う。とにかく、今を生きろと。 だから私は、とにかく今を生きようと思う。
彼と彼女の恋と友情
1月7日 「あ、あのさ…A氏の映画見たいって言ってたじゃん。一緒に行く人が見つからなくてさー、一緒に行かん?」 「え、いいよ!…あー、いつ大丈夫か分からないけど、多分大丈夫!」 「ほ、ほんとか?!!……来週末でも大丈夫かな?」 「あー、大丈夫!じゃ、来週末にねー!」 そんなこんなで僕と彼女はA氏の映画を見に行く約束をした。もちろん、お分かりの通り、見に行く人がいないだなんて嘘である。彼女と行きたかった。まさか、一緒に行ってくれるとは思わなかった。これ、脈アリって思っていいよな?普通、何とも思ってない奴と2人で映画だなんて行かないよな…?! 1月16日 そして映画当日。どこか距離を感じる彼女と映画を見に行った。 「ごめん、1つだけ確認なんだけど、いちお、私と2人で映画行った的なことは言わないでくれる…?その、なんか変な噂とかめんどいことになったら嫌だからさ」 至極最もな言葉だが、面と向かってそれを言われると、少し辛かった。 「あー、そだよな、うん、それはもう。うん。大丈夫。」 僕は、歯切れ悪く適当に流した。 そして、映画を見終わった後、夜の明かりに照らされながら、いいムードの中、2人で歩いていた。 ここだ。言うならここだ。ここしかない。今を逃したらもうチャンスは当分ない。 「あ、あのさ…あの…」 「ん?なんか言った?」 「………ひっ」 ……やばい、緊張のせいか変な汗が体中から出てきた。そしてまた2人とも無言になった。やばいやばいやばい。中途半端すぎる。 「あのさ!俺、好きなんだけど。付き合ってくれん?」 言った。いったいったいった言えた!!!!心臓がやばい。待って待って返事待って心臓もたんちょま 「ごめん。」 え? 「ごめん……え、えっと、ごめん…。なんというか、ごめん。…本当にごめん…ごめんなさい。」 「あ、いや、そんな謝らんといてよ。悪くないって。そか。あ、え、いや、急にごめんな。これからも友達として仲良くしてくれるか…?」 「…うん。ごめんね。ありがと。」 その後のことは覚えていない。何故かって?察しろよ馬鹿野郎。このタコ。ハゲ。ただ、ただ辛かった。 こうして、僕の2年の恋は終わった。 ーーー彼女 視点ーーー 1月7日 「あ、あのさ、A氏の映画見に行かん?」 彼に唐突に映画に誘われた。確かに、彼も私もA氏のファンで、よくその話で盛り上がっていた。でも、これは友達として、でいいんだよね?変な意味じゃないよね?…、ぶっちゃけ言うと、私は彼のことは友達としては好きだけど、恋愛的な意味では好きではない。そこはハッキリしてる。…、そもそも、私には誰にも言ってないけど、彼氏がいるんだ。誰にも言ってないけど。2人で映画はダメな気がすーー 「え、いいよ!」 ?!私のバカ?!何言った?!え、待って、え…?!そんな子だったの?! 「あー、いつ大丈夫か分からないけど、多分大丈夫…かも」 待って、どうしよう。とりあえずOKしちゃった……もう知らない!!行こっと。黙ってればいいよね…?一応当日口止めしとけば…。ま、まぁ、彼も私のこと恋愛的に好きとかは絶対ないと思うし。 「じゃあ来週末にね!」 …誰か、この時の私に思いっきり腹パンをして頂けないだろうか。アホの子なのだろうか。この馬鹿野郎。 1月16日 私は会ってすぐ、用意しといた言葉を述べた。 「ごめん、私と2人で映画行ったってことは誰にも言わないで。」 そんな内容だったと思う。もう覚えてないや。 彼は、歯切れは悪かったけど、いいよ、と言ってくれた。ちょっと失礼だったかな?いいよね、それくらい。 少し気まづいムードのまま、映画を見た。 …映画の後、何やらいいムードになってしまった。これはダメだ。この雰囲気はアウトだ。鈍感な私でも分かる。 「あ、あのさ…あの」 やめてやめてやめて。え、今までそんなムードじゃなかったじゃない。やめてよ……。 「ん?なんか言った?」 頼むから、もうやめて。 「ひっ」 彼はそのまま黙ってしまった。私は凄くホッとした。もうすぐだ。もうすぐで地下鉄だ。そこまで行ったら、あとは、「今日楽しかったね。またね。」と言って、解散できる。このまま、なかったことに出来る。あと少しーー 「あのさ!俺、好きなんだけど。付き合ってくれん?」 つっーーー。無理だ。あ、無理だこれ…。私が間違えた…。 「ごめん」 どうしよう 「ごめん。あ、えっと、ごめん」 どうしようどうしよう 「ごめん…本当にごめん」 どうしようどうしようどうしよう 「ごめんなさい…」 その後のことはふわふわしててもう覚えてない。 こうして、私は2年来の友達を1人なくした。