鬼ウサギ

6 件の小説
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鬼ウサギ

結構ファンタジー系の方面に寄った作品が多くなると思います。それと、かなり不定期に書くので全然上がらないことが多々あります。こんなのでも良ければ見ていってください!

自己嫌悪

好きだった人に彼氏ができた。 俺はそれを全力で祝福した。 「おめでとう!」 どうしておれじゃないんだろう 「2人とも前からよく話してたもんな」 おれのほうがあのひととずっといたのに 「2人ともお似合いだよ、一緒にいるとずっと笑顔だもんな」 おれだってあのひとをえがおにしようとどりょくしてた 「本当におめでとう」 おれはもうこんなことばをはきたくない 泣き喚いてしまいたい、腹の中に溜まっていくドス黒いこれを吐き出してラクになってしまいたい。 でも、それはできない。 2人の中に水を刺すな。 今まで通り、それでいて少し距離を取れ。 簡単だろ、仮面をつけて押し殺せばいい。 お前は道化師なんだから

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失恋

高校2年生の頃、好きな人がいた。 頭が良く、バスケが得意で、あまり多くは喋らない人だった。 だけど、人と話すのが嫌いとういわけじゃなくて、話しかけると普通に話をしてくれて、授業で分からない内容があると教えてくれて、周りがよく見えていて、困っている人は放って置けない人だった。 俺はそんな彼女と文化祭の準備をきっかけに話すようになった。 初めの頃はお互いに少し硬くなりながら敬語混じりの会話をしていたけれど、少しずつ強張りが解けていって気さくに話せるようになっていた。 気づけば、俺の周りにはたくさんの人が集まるようになっていた。 俺の中学の頃からの友人、1年の時に仲良くなった人、文化祭を通して仲良くなった友人、多種多様で面白いメンバーだった。 そんな中でも彼女は色褪せることなく、中心にいた。 会話に必要に入ってこようとはせず、それでもしっかりと流れを読んで場を盛り上げる発言をする彼女はあまり笑わない人だった。 微笑むような笑いはあったけれど彼女が心から笑っているところを見たことがなかった。 俺の勘違いかもしれない、思い上がりかもしれない、けれど俺は彼女に笑って欲しかった。 それから俺は彼女を笑わせようと努力してきた。 道化を演じて、バカなフリをして、行儀悪くなく、下品でなく、それでいて彼女が楽しいと思い笑ってくれるような、そんな何かを探して闇雲に。 そうして、数ヶ月が経った。 少しずつ表情を崩して笑うことが増えた彼女に今度は何を見せようかなんて考えながら帰路に着こうとした時だった。 彼女が歩いていた。 俺が見たこともない、素敵な顔で。 本当に好きなものを見つけたときのような、恋焦がれていた何かを見つけたようなその顔は。 俺ではなく、クラスの友人に向けられていた。 文化祭以前まで絡みはなく、文化祭当日も決して目立った行動をしたわけでもない。 それでもそこにいたのは俺ではなく、友人だった。 『なんであんなやつが! どうして俺じゃないんだ!』 そんなことを考えるよりも前に、自分の中で何かがひび割れた。 その場から俺は逃げた。 家に着いても脳裏に刻まれた表情は薄れもしなかった。 俺はその日からうまく笑えなくなった。

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特別さ

いつからなんて区切りはなく、俺は初めから凡人だった。 人並みに周りから好かれ、人並みに嫌われ、人並みに運動ができ、人並みに勉強ができる。    人並みでしかなかった。    それでも、自分は平凡ではない、特別な人間なんだと必死に理想の自分を見せようとした。    背伸びをして、見栄を張って、誇張して、大袈裟に伝えて、    そうして、       そうしてできた自分は、とてつもなくスカスカだった。       中身の入っていない菓子袋のような中身と外見が一致していなかった。        こんなにも賢いんだぞと掲げるテストの点数はその実必死にテスト範囲を暗記したもので          こんなにも運動神経がいいんだぞとカッコつけてみてもその裏では泥に塗れながら練習したもので        こんなにも人が周りにいるんだぞと胸を張ってもそれはみんなに声をかけ、〇〇が行くからと俺ではない誰かが要因であって           俺自身には誰も興味なんて持ってはいなかった。     俺の周りにいるのは誰もが特別な人間だった。     運動神経がよい者、授業を聞いているだけで高得点を出せる者、普通に話しているだけで自然と周囲に人が寄ってくる者。        そのどれもが俺が欲し、そして、手に入れられなかった物だった。        それでも俺は諦めることはできなかった。  俺は主人公なんだと、特別なんだと誰かに認めて欲しくて        ただ走り続けることしかできなかった。     その先にゴールなんてないと分かっているけど、どこかで盛大に転ぶまでは     現実から逃げるためにも     努力してるんだと分かりやすいポーズをとり、自分を騙すためにも     走り続けるしかなかった。

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日常は腐りやすい

あれ、俺最近何してるんだっけ? それは何気なく出かけたコンビニからの帰り道のことだった。 卒業試験が終わり、学校というそれまで学生を縛っていた大きな鎖から解放された俺はそれまで学校にいた時間の全てをゲームに注ぎ込んだ。 一日平均約十五時間をゲームのために使った。 昼に起きてゲーム機の充電をつけつつ昼食を温め、腹を満たし、喉の渇きを潤し、コントローラーを握る。 そこからはほとんどブルーライトを発する画面を見つめ続けて一日が終わる。 そんな日々が一ヶ月ほど続いた。 そうして、三月になり卒業式が行われた。 その日は久しぶりに会った友人たちと食事をしに行った。 ついに高校を卒業した開放感と寂しさに浸りながら入学したての頃の話などをしたのが記憶に強く残っている。 そんな一日が終わり俺はまた青白い光と再開する。寝て起きて、一食を食べ、ゲームをし眠る。 そんな日を延々と続けたある時、  それは訪れた。 あれ、俺最近何してるんだっけ? そんな言葉が脳裏に浮かんだ直後胸に湧き上がったのは焦燥感だった。 思い返そうとしてもろくなことを思い出せない事実とその奥で輝いて見える学校にいた頃の自分。 今まで自分を縛っていた学校はその実、充実感を与えてくれていたのだと気づく。 人と会わなくともコミュニケーションが取れる現代において何か機会がないと滅多に会うことがなくなっていた。 それ故に学校という場があることで俺は色々な人と関わっていた。 多くの人と話し、笑い、学ぶ。 それまで億劫に感じていたそれが一番生き生きとしていた。 それに対して、今の自分は腐っていた。 自分の楽しいこと、それだけを詰め込み、それだけに注ぎ込んだ日々は確かに楽しかった。 だが、そこに充実は存在しなかった。 その事実に気づいたのだ。 ただ、それだけである。 俺は自らの日々が腐り落ち、そして戻らないことに気づいた。 それだけだった。 変わるには遅すぎた。 俺の日常は芯の芯まで腐り切ってしまった。 俺はただ、焦燥感と過去への羨望を胸に溜め込み、腐り切った沼へと沈んでいく。 ゆっくり  ゆっくりと   暖かく、心地よい浮遊感に包まれながら

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凡才

気づいた時にはそこに居た。 真っ黒で真っ暗な黒に包まれた世界。 その中で認識できるものは四つだけだった。 自らの体の輪郭 いつの間にか持っていた少し古びた万年筆 ぼんやりと浮かび上がっている黒い階段 そして、そこに至るまでの距離がわからないほどはるか上空に位置する白い穴 まるで太陽のようにさえ見える白い穴を見て何故が俺はあそこに辿り着かなくてはならないと強く思った。 無意識のうちに足が前へと進む。 上へ上へと伸びる螺旋階段をひたすらに登る。 上る。 昇る。 それは、ほんの少し穴への距離が近づいたかと思った時だった。 それまで単調に登るだけだった階段に変化が訪れた。 分かれ道だ。 2つに分岐した道の左には筆を折るようなピクトグラムの看板が、右には人が歩いているピクトグラムの看板があった。 立ち止まりしばらく考えたような気がする。 どれだけの時間が経ったのかは分からない。 ただ、俺は胸ポケットに入れた万年筆を見て右へ進んだ。 右の道は平坦な道だった。 少し歩いた先にあったのはハシゴだった。 ぼんやりと輪郭だけが理解できるそれに若干の頼りなさを覚えながら登っていく。 カンカンカン、と金属音のような高い音を聞きながら、歩いた時間と同じだけ登り続けるとハシゴが終わる。 体を持ち上げると目の前には先ほどまでと同じように螺旋階段が続いている。 天上の穴を見上げるがまだまだ先は長そうだ。 しばらく階段を登り続けた。 特に何か起こるわけでもなく、分かれ道もあの一度きり、ハシゴに辿り着くまでの時間と倍は登っていたはずだった。 しかし、穴との距離は一切変わっていないように見える。 今まで終始落ち着いていた心に焦りが生まれる。 このままではあの穴へと辿り着けないのではないか、と 自分が焦っていたのだと気づいた時には足は地面を離れ空中にいた。 早足で螺旋階段を登っていた俺は落ち着いていれば気づけたはずの階段が抜けていたスペースに全力で踏み込んでいた。 その結果が自由落下だった。 落ちていた時間は1秒だったか、はたまた10秒か、1分だったか  それは分からないがどうにか着地した。音はなく、痛みもなかった。 ただ、右手から着地してしまったからか右腕の骨が変な方向を向いていた。 そんな悲惨な状態の自分の腕を気にも留めず頭上の太陽との距離を確認する。 上がっても上がっても近づいていないように見えたからか、たいした差がないように思える。 また登ろうと前を向き直すと目の前には分かれ道があった。 右の道はまた、あの万年筆が折れた看板。 左の道にはベットのマークが描かれた看板。 考えるまでもなく左を選ぶ。 少し進むとシングルサイズのベットがあった。 それを認識すると同時に猛烈な睡魔に襲われる。 ベットに倒れ込むようにして眠った。 目を覚ますと右腕が治っていた。 それだけでなく焦りまでもが息を潜めていた。 上を見ると心なしか距離が縮まった気さえする。 胸ポケットに入れた万年筆を取り出し、手に握る。 そしてまた、階段を登り始めた。 どれだけの時間が経ったのだろう。 あれからも何度も分かれ道は現れ、その度に右には筆が折れた看板がある。 それでも左の道を選び続けた。 するとある時自分の他にも階段を登っている者たちがいることに気づいた。 自分と同じように階段を登っている同志たちだろうと思っていた矢先。 誰かが天に触れたのが見えた。 それは、俺が10度目の分かれ道を進んだ時に登り始めていたはずの者だった。 焦りが生まれそうになる心を抑圧し、冷静さを保ちつつまた歩みを進める。 体が少し重くなっていた。 軽い足取りで登っていた階段がいつからか少し登るだけで足が動かなくなっていた。 幸い、あの一度以来下に落ちることはなかったが何か物足りないような感覚を覚えつつ登り続けた。 登って、   上って     昇って   いつの間にか開けた場所に出ていた。 穴にはまだまだ距離がある。だが目の前の階段は途切れていた。 それを認識した瞬間、体から力が抜けた。 地面に倒れ込む。 まだだ    まだ進める そう叫ぶ心に体がついていかない。 倒れ込んだ体が微動だにせず動くことを拒否する。 サラ………、と足からゆっくりと灰のようになり霧散していくような気がした。 もう体を動かそうと思う気力さえ無くなっていた。 そんな時、視界に何かが映った。 動かない首の代わりにどうにか目を動かしそれを見つめる。 それは人だった。 だが、俺とは全く違う。 ボロボロになり傷つきながらも鬼気迫るような、狂気を含んだ笑みを浮かべ螺旋階段を駆け上がっている。 それは罠にかかり落ちそうになりながらも無理やり階段を掴み、引き上げ螺旋階段へと舞い戻る。 その姿を見ていると渇いた笑みが溢れた。 俺は半ば諦めていたのかもしれない。自分の何倍も早く天へと進み、至るものたちの後ろ姿ばかりを見たことで自分には辿り着けないと決めつけ、そのために必要な自らの中の狂気から目を逸らしていた。 それに終わり側になってようやく気づいた。 俺も、お前になりたかったよ。 聞こえるわけがない。 伝わるわけがない。 理解されるわけもない。 だが、そんなものはいらない。 ただ、俺はその背中に憧れていた。 髪の毛の先まで灰となり、俺の痕跡は消え去る。 カラン……… 真っ黒で、真っ暗な黒に包まれた世界にまた、一つの万年筆が落ちてきた。 階段を登るものたちは気づかない。 天の穴へと至った者たちでさえも気づかない。 そこは落ちたものだけが見つけることができる。 地の底の底に沈む数え切れないほどの万年筆たちを。 破れ去っていった者たちが階段を形作っているというその事実を。

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とすり 背後から軽い音がした。その反面俺の肉体にはぞぶりと肉の繊維を切り裂き、進む感触がした。 困惑の声を上げる間もなく足の力が抜け正面に倒れ込む。 理解できない現状に思考が停止しかけながらもなんとか腕を動かし嫌な感触のした背に触れる。 ぬちょりとした粘液質な何かが手にベッタリと着いたのがわかった。 その正体が何であるのか、それをあたまのなかでおよそわかってはいるがそれでも視界に入れてかくにんをとろうとする。 それは、   アカイエキタイダッタ。 その瞬間、体が燃えるように熱くなる。 痛みに対する苦悶の咆哮を上げることも、痛みによる涙を流すこともできず、声にならない声が己の中で反響する。 口の中が渇き、とめどなく垂れ流される赤とそれに呼応するかのように溢れていく汗に不快感を覚える暇もなくただ熱さとも痛みとも表現できないそれに意識を喰われていく。 そんな地獄を耐え続けた先にあったのは、寒さだけだった。 指の先の感覚が消え、先ほどまでは辛うじて身じろぎができた体が微動だにしない。まるで氷にでもなったような感覚だった。足の先から、足首、ふくらはぎ、膝、太腿、腰、指先、手、二の腕、腹、胸、首、先ほどまで意識を喰らわんとしていたナニカが今度は肉体をくらい尽くそうとしているように感じた。 ゆっくりと、それでいて確かに体が消えていくようにさえ感じる。 そうして、身体の感覚が消え伏せ、五感までもが喰らわれ、最後に残った意識さえも闇に溶け込む。 その瞬間、俺は目が覚めた。 「今日も最悪の目覚めだな」 また、日常が始まる。

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