可憐
21 件の小説殺人鬼ですが何か?2
フェルスト聖法王国、人口は約5万人、森林に囲まれ自然に満ちている。 北には正門と下町があり、そこからたくさんの商人や旅芸人が出入りしていた。それゆえ下町は毎日、栄え賑わっていた。 逆に南の方に進むにつれ序列が上がり、そこには貴族街と二つの城が立っている。 一つは南西、王族が住むゲルムート王城。南東には神官が街や世界の理を管理する為に作られたメルゲン聖法城。高さは王城より低く、敷地も王城の半分の広さしか無い。色は白く宮殿に近い大聖堂と言っていい迫力のある城である。 高い鐘楼には金色の大きな鐘。その鐘楼から金を縁取った青の垂れ幕を掲げている。 シンボルは盾に剣と竜を描かれた十字架。 国民はその宗教をフェルムス教と読んだのだった。 ある日、メルゲン城の会議室で全ての神官が召集されていた。 青いローブを羽織った綺麗な女人が頭より上の位置まで子供を掲げたスタンドグラス、まるで女人が赤子を神に捧げるかのように描かれている。 そこから照らされているのは部屋の中心にある岩盤の白い円卓と7個の白い椅子。 そこに座るのは金色の縁で彩られている青色の修道服を着た神官7名。 背中には剣の形をした十字架が描かれている。 部屋の上座に座るのは全てを包むような優しい目と金がほんの少し残った白髪の老女。ノア ペンドラゴン神官長。 彼女が一枚の紙を取り出し、神官達に報告する。 「フェルスト聖法王国の剣、グリフィン騎士団団長ベンゲルス シャーウッドからガルル森林をねぐらにしている盗賊退治の要請を受けました。行きたい者は挙手を……」 「……」 ノアは要請書を卓上の上に置き問いを投げかけた。しかし、その場にいる者全て、ピクリとも動かない。いや無関心と言った方が正しく、歯牙にもかけない様子を体で示しているのだ。 これには彼女もハァっと息を吐いた。 「居ないのならその理由をお聞かせください。まずムー神官」 彼女は右から順番に聞いていく。最初に問いただされたのは赤と白のメッシュのウルフカットヘアーの男(ムー ウェスタン)。目は狼のように野生に満ちたキリッとした黄色い吊り目。彼は円卓の上に足を乗せ寛いで神官長を睨む。 「それ俺たちがやる事か、ノア神官長よぅ?」 「質問を質問で返すのは答えではありません」 「チッ……行っても良いが騎士団まで殺してしまうかもしれないからでありますよ。神官長様」 「わかりました。アルタイル神官はどうです?」 次の神官は黒い髪、後頭部で一つにまとめて垂らした長髪の男(アルタイル レスター)。体がデカく筋か肉も服の中から張り出ている。腕の筋肉がくっきり見えるほどだ。彼は腕を組み、ムーとは正反対で姿勢も良く真っ直ぐな目でノアを見る。 「我は王命なら従うが騎士団長ならば話を聞く義理なしである」 「ナターシャ神官」 3番の神官は白い長髪の女(ナターシャ ホワイト)。咲いたばかりの白い百合(ゆり)の花のような楚楚とした艶かさの白い肌、まるで人間サイズのドール人形のようだ。 彼女は肘から指の先まで白いオペラグローブをつけ露出しないようにしている。 冷たい目の色でさげすむようにノアを眺める。 「あんな汚れた場所行きたくないわ。私もパスでお願い」 「エミール神官」 4番目の神官は黒いベールで素顔を隠している人。エミール ロックフット。男なのか女なのかそれは誰にもわからない。その人は手に持つ紙とペンで文字を書いてナターシャに渡す。 「ナターシャ、読んでもらえるかしら」 そうノアは言った。ナターシャは嫌な目をしてため息を吐きながらも彼女は仕方なく紙を拾い読み上げる。 「わかりましたわノア様、僕が言っても良いけど役に立てないと思うと書いてあります」 「ありがとうナターシャ、ではアガルド神官」 エミールの隣に座る人はアガルド、苗字なし、男性。彼は他の神官とは一味違う。金色に輝く玉座に座り、体のあらゆる所に宝石の服飾を身につけている。 「痴れ者が……神たる俺様に問いを解いても答えは決まっている。神は下々に手を差し伸べるわけなかろう。与えるのは慈愛と罰だけだ」 「ジェヘルガード神官」 最後の神官、ジェヘルガード ワトソン。 死んだような目をして髪はボサボサで野良犬のような茶色いショートヘアー、頭から不毛が落ちるほどくだらしない男。右手には酒瓶。髭はもじゃもじゃで酒臭い。 彼は酒瓶をラッパ飲みをする。だが中身が空、残念な表情で床に酒瓶を置いて言った。 「ただ単に面白くないからです」 彼はいじけるようにテーブルに顔を埋める。 現場はこのまま溶けて消えてしまうのではないかと思うほどだ。 それを見た彼女はジェヘルガードに近寄り背中を上下に優しく摩る。 まるで母親が子に愛でるように…… 「では私の権限で適材な方を選抜させていただきます。皆さん。それでよろしいですね」 ノアの問いかけに神官達は嫌な顔しながらも頷いた。 ノアはすぐさまジェヘルガードの肩を叩き囁くように言った。 「ジェヘルガード神官。お願いします」 「…………んっ!?」 ジェヘルガードは神官長の言葉にガッカリし絶望するのだった………“”
名無し
薄暗い森の奥、今宵は赤い満月で魔獣達も活発になる時間帯……… その森の奥で私の目の前には絶対たる死が見える。 青く光り輝く稲妻の槍、漏れ轟く放電の音、その中心から風圧で木々は倒れ折れ、辺り一面草原のような状態。 その槍を掴むのは金と赤で縁取り彩られた立派な白い鎧を纏う赤髪の男。 男はすごい憎悪に満ちた剣幕な顔つきでこちらを睨み、槍を掲げ振り下ろそうとしていた。 視線をしたに落とすとそこには恐怖で震え縮こまる小さな男の子。 体のサイズと合わない黒いマントに頭には2本の悪魔のツノ。 瞳は赤く額にわずかな切り傷。傷口から頬にわたる赤い血と恐怖に満ちた瞳から漏れる涙が混ざり顎から垂れ落ちる雫が私の腕に生暖かく染み渡る。 私は彼をしがみつき己の体を盾にする。 あの技を喰らえば一溜まりもなくチリ一つさえ消えて無くなるだろう。 だが、この怖がる小さな子を見捨てることは 人として、生い先短い大人として看過できない。 背中から聞こえる雷音、力を振り絞り、殺意あふれる大きな咆哮。 私の人生はあと数秒で終わるだろう。 だが、このまま黙って死ぬわけにはいかない…… 私は男の子に最後の力を振り絞って少年に己の得意魔法を使う。 「ワープ!!」 「させるかぁぁぁぁぁあああ!!」 その場は閃光のように包まれ、次の瞬間……… 私は子供を抱えながら緑あふれる絶景な草原に来ていた。
神に呪いをかけられて8
風が気持ちいい爽やかな昼、太陽から照らされる庭園の花々は満開で優雅に咲き誇る中、一人の少女が鼻歌まじりで華麗に舞いながら庭園を走り回る。 「ルーカス様、早く早く!」 綺麗な庭園を見てはしゃぐ気持ちはわからなくは無いが前世の記憶がある僕はそんな幼稚な事、気恥ずかしくて彼女と同じ行動は出来ない。 5.10.15m、アリスティアとの距離がどんどん離れて庭園の奥へ走り回る。 流石にこれ以上離れられて怪我をされたら家の問題になり母上にドヤされてしまう。そんなことを頭の片隅でよぎってしまった僕は声を上げ彼女の方へ駆けよる。 「アリスティア様、そんなに急がれては転んでしまいますよ」 声が聞こえ、すぐさま足を止めた彼女は振り返りハムスターのように頬を膨らませる。 「ルーカス様、私のことはアリス、もしくはアリィとお呼びください」 「王女様を呼び捨てにするわけには……」 「ア!リ!ス!!そう呼んでください。これは王命です」 彼女は近寄り、 「アリス……ティア……」 「……まぁ今日のところはそれで許しましょう」 (クソ、何恥ずかしがっているんだ僕は……)
お久しぶりです。
四月3日から頑張っていきます
自己紹介
初めまして、自己紹介させて頂きます。 可憐(かれん) 28歳。 会社員。 最近好きな漫画や小説は東京リベンジャー、オーバーロード、ナルト、のだめカンタービレなどなど。 質問されたら答えます。 アドバイスや質問いろいろしてください。 ただ、罵倒とかされるとガラスのハートが砕け散るので優しくしてください💔
神に呪いをかけられて7
死んだ親父が最後に言い残した事がある。 涙は心の改革であり人間には欠かせない人生という小さな海…… だから涙を一雫も流さない男は悪魔であり犬畜生だ。だからグレンよ。お前はプライドを捨ててや周りの目を気にしないで不細工な涙を流せる男になれ……… 確かに父は偉大で育てていた犬の出産で子犬が生まれたときなんか、鼻をズビズバと鼻を啜り不細工な笑顔で母親の頭を優しく撫でていた覚えがある。 また、死者に対しても誰よりも不細工な泣き顔を晒していたため亡くなった両親や妻も顔負けだった。 だからなのか俺の父は領民から愛され、貴族達からも一目置かれていた。 そんな父を尊敬するし、父みたいな領主になろうと心に誓った。 森の中央地点、日は昇り、暖かな日差しの下で陣を引き、テントの中で俺は頭を悩ませている。 「なぁ父上、俺は貴方みたいになれているだろうか………」 今、俺の前には大量の書類、その全てが戦死通告書。 ペンを握り深いため息を吐きながら通告書の内容をしたためていた。 全くどうなっているのだ…… 3日の戦闘でシャドウベアーの一体は討伐できたのだが、残りのシャドウベアーは森の奥へ逃げ込み仕留め損ね、こちらは莫大な被害を受けた。 騎士、冒険者ともに合わせて(約)負傷者200、死者250。 俺の親友だった者たちも大半が死に悲しみという感情は責任という錘(おもり)で抑えられている気分で涙を出そうにも流す事ができない。 現在、戦闘できるものは400名あまり、今後も死者が出ると考えてしまうとさらに気が滅入って仕方が無い。 そもそも、シャドウベアーは瘴気が漂う場所で死したレッドベアーがアンデット化したモンスターだ。 だが、この地域で瘴気が出現したという情報が出ていない。 他領地から来たシャドウベアーの可能性をも考えてみたのだが、それにしてもおかしい。この森は全景2キロの大きさの森だ。 決して小さくはなくたいして大きくない広さの森だ。 森から他の森に移動する距離は3キロ以上かかる平地。 森の周りには小さな村がいくつもある。 もし移動するとしたら何処かの村が目撃しているはずだ。 なぜ出現したのだ……誰かが意図的に生み出したとしか思えない。しかし、それはあり得るのか?シャドウベアーを作り出すことなんて…… クソッ!!もし考えている事が正しければ誰が何のために…… 頭を抱えて悩ませていると頭をコツンっと軽く叩かれた。 「ったくグレンぱいせんは、いつもかんがえすぎなんすよ」 視界を上に上げるとそこには黒い鎧を纏った白い髪の少女。 瞳は赤く、子うさぎのような可愛らしい童顔、しかし頬の周りにはシャドウベアーの返り血がべっとり、傍には二つの鉄のグラスと赤ワインを抱えている。 彼女の名前はマルタ・ワンダー、魔導士学園からの後輩で今はこの部隊の副団長を任せている。 「それより聞いてくださいよ先輩。3日前に男の子を産み落としたのですが、それが可愛くて可愛くてぇ、でへへ」 血のついた容姿や現状にそぐわない満面な笑顔、だがそこには彼女なりの優しさを感じる。 緊張感のない言葉だが普段の彼女は生意気で生真面目な性格、誰よりも先頭に立ち死に物狂いでシャドウベアーを討伐した。 下手したらその生まれたばかりの子を残して死んでしまう可能性があるのにこの討伐に率先して参加している。 だから彼女がこんな事を言うのは俺へ元気づけと無事に今日を乗り切った自分への安心感が入り混じった言葉に違いない。 「それなら、この討伐が終わったら君の子に会わせて貰わないとな」 俺は無理やり笑顔を作り彼女に答えた。 「わかりました先輩……すみません。椅子に座らせて欲しいです。体が痛くて痛くて」 「何処か怪我をしたのか?」 「いや出産後の戦闘って意外と体が辛くて、例えるならば、オーガの棍棒を喰らった後の辛さと言いますか怠さと言いますか……」 彼女はあははぁっと微笑し頬をぽりぽりとかく。 だが、額に少し汗も見えるのでだいぶ辛そうである。 俺はすぐに立ち上がり、己の椅子を彼女に与えた。 「じゃあこれを使え」 「冗談ですよ。産み落としてここに来た時だってポーションをありったけ飲みましたから」 「これは団長命令だ。さっさと座れ!!」 その後、俺達は昔話を肴にして夜明けまで飲み明かした。 亡くなった騎士達には悪いがここで辛さと悲しみを発散しないと、今後の指揮に影響が出てしまう。いや、心が潰れてしまうとお互いに感じ取ったからお互いに恥ずかしい事を暴露したり、秘密を共有し語った。 「先輩、日が登りましたね」 「あぁ、そうだな。すっかり寝不足だよ」 「じゃあこの一杯で最後にしますかね先輩」 マルタはそう言って俺の鉄のワイングラスに赤い酒を注ぎ込む。 「そうだな……そうだ。赤子の名前はなんで言うんだ?」 「あの子の名前はですね。どんなに暗い夜道でも明るく照らすお月様という意味で………」
今週はいろいろあってコメントや編集出来ません
来週はワクチン打つ予定なので再来週からスタートします。 3月からまた描き始めます。
名前を変えました。
名前変えました。 可憐です。よろしくお願いします。
リレー小説 第3話 夢の中のキミは
夢の中、モノクロの部屋で叫ぶ心の姿が見える。 彼女が何を言っているのか、誰に叫んでいるのかわからない。答えを聞く事はできるが、それが本当に彼女の答えなのかわからない。 だってそれは夢の中で、本当のキミは病院のベッドの上で横になっているからだ。 春の病院、天気は悪く雨のせいで桜の花びらが床に散らばる景色。 碧は病室でマーガレットの水差しを彼女の隣に置く。 「心、今日は天気が悪いな」 なんでも無い話を彼女に問いをかける。 だが彼女は何も答えない。 「……そうだよな。やっぱり晴れの方がいいよな」 いつか心が目を覚ましいつものように笑顔で話してくれるのでは無いか、そんな風な寝顔をしている。 だからなのか、碧は毎度ここに来ては何でも無い事や今日起きた出来事、野良猫に出会った事や思い出話など色々夕方になるまで話す。 「でさ、体育の先生にどやされてさ、グランド2周させられたんだよ。あははは………」 笑いは廊下まで響き、やがて静寂に包まれる。 こんなつもりじゃなかった。そんなつもりじゃなかった。 ああすべきだった。何をするべきだった。 そんな葛藤が彼を蝕んでいく。 「……ごめん。君にちゃんと向き合っていたらこんな事にはならなかったのに……」 心の手を握る。 生きていると実感させる生暖かい温もりと鼓動。 安心と罪悪感、混ざり合う。 だが涙ながそうにも流せない。その資格もない。 碧はそう思いながら目を閉じ、再び夢へ逃げる。 毎度、見るいつもの学校の教室。 だが全て一年前の光景、2年生の頃に使っていた教室。 碧は毎度、彼女を見つけては笑顔に挨拶をする。 「俺の事呼んだ?」 「ごめん、ちょっと呼んでみただけ」 後退りをする心を見て胸が熱くなる碧だが、その瞳には少し悲しみが含まれていた。 この後、君はこう言う…… 「あっ、この後体育があるからまたね……」 「お、おう」 碧は心を見送ろうとしたが、彼は心を肩を掴み引き止めた。 「な…なぁ心、もし良かったら俺と付き合ってくれないか?」 碧は息を呑む。答えを知っているのに……… 「え?………私でいいの? 彼女は照れ隠そうと前髪で顔を隠す。 対して碧は彼女の瞳を見ながら再び告白をするのだった……それ彼の最大の過ちだとも知らずに…… そして碧の視界でテレビの様なノイズが入る……… ノイズが止むとそこには背中に「ブタはブタらしく同族と付き合えブス」と書かれた張り紙をつけられ、教壇に立たされる心。 静まり返る教室。 教室の端で心を見て嘲笑う女集団、だがそこには俺はいない…… 再びノイズが入る。 次の瞬間、心は学校の屋上の端に立ち。碧を見ている。 「碧くん。今までありがとう……」 空に浮かぶ心。 必死に彼女を掴もうとする。 だが再びノイズが入る。 ノイズから最後に映し出されるのは太陽や日差しがない薄暗い教室。 窓から見えるのはモノクロの部屋で叫ぶ少女。 俺は罵倒されているのかわからないが何かを叫んでいる。 碧はぐったりとしながらひと細かくその子を観察して目を覚ますのであった。 起承転結の転を描きました。 夢の中のキミは っていうキミは碧に当てなくても良いかなって思って、碧くん目線で書いてます。 心が夢で碧が現実をイメージしてます。 最後、碧くんが心を夢の中を救って目覚めてくれたらと思います。
神に呪いをかけられて1
1 −−フォンターナ邸−−−−−− 「あっ動いたわ。痛っ!おてんばな子ね。グレン、あなたの子よ」 一人の大人の女性がとある部屋の窓の近くでロッキングチェアに揺られながら風船のように膨らんだお腹をゆっくりと丁寧に撫で摩る。俺の最愛の妻イザベラ フォンターナ侯爵夫人である。 僕は彼女のウェーブがかかった赤いロングヘアーを優しく触れ、濁りの無い翠色のガラス細工のような澄んだ瞳を覗き込む。 彼女の瑞々しいぷるんっとした新鮮な唇に唇で愛を注いだ。 「イザベラ、生まれてくる子はどんな子だろうか、やっぱり君みたいに美しくて頭のいい子なんだろうか?」 「こんな元気のいい子ですもの。きっと凛々しくてかっこいい子に決まってるわ」 「それは困るな。俺に似た子なら俺が世界一の色男で無くなってしまうではないか」 「そうね。ならこの子に乗り換えようかしら……フフフ」 「であれば、捨てられない様に君の口を奪うとしよう」 再び口付けをしようと目を閉じ顔を近づけると、急に頬に痛みを生じた。 目を開くと妻はムスッとした表情で俺の頬を引っ張りこちらを睨んでいた。 「イタタタ!!何をするんだ」 「それより、この子の名前を考えてくれたんですか?」 「ああ、考えているさ……順調だよ」 俺がそういうと彼女は深いため息をついて言った。 「あなたいつもそう言って考えていないじゃない。名付け親がアーノルドとかベティーに取られても良いの?」 「わかってる。わかっているさ。アルトなんてどうだ?」 「爺臭いわよ。近くの村の農民にアルトっていう村長がいたわ」 「ならばローガンは?」 「同じ理由で却下」 「だったらジョンは?」 「浮気しそう」 「じゃあどうすればいいんだ。全部却下するじゃないか」 俺は力が抜け、ため息混じりで言った。 それを聞いて彼女は優しく宥めるような、また怒りを我慢ようなトーンで言い返す。 「だから言っているでしょう?その場で適当に考えず。あなたが心から名づけたい名前を考えてって」 俺はため息を吐きながら床に膝をつき彼女の腿に頭を乗せる。 実際、名前は考えていた。ただ俺の名付け方というのは少し特殊で、名前は考えるより巡り合いだと考えている。会った人物や見かけたお花など様々。しかしながら、なかなかコレだと思える名前には会っていない。妊娠8ヶ月になって、出産まで1、2ヶ月。そろそろ拘ったプライドは捨てて名前を考えるべきだろうか…… 子供のように甘える俺を彼女は手で頭を優しく撫でてくれた。 「グレン、ため息は幸せを奪うのよ。大丈夫よ。まだ時間はあるわ。だけど急いでね。あ な た」 俺は頬に触れた手に優しく手にとり跪く。 「慰めているのか、急かしているのかわからんな」 「ねぇ知ってる?面白い事にその2つは矛盾しないのよふふふ」 彼女の笑顔は素敵だ。例えこの身がアンデットに落ちたとしてもこの笑顔で浄化される。 俺が癒されていると突如、現実を突きつけられる様に馬面の男、アーノルドが剣幕な表情で飛び込んでくる。 「旦那様、大変です!?ガルル森林にシャドウベアーが出現したという情報が入りました!?」 俺はアーノルドの言葉に耳を疑った。もしコレが嘘ならその場でファイアーボールを顔面に食らわせてやる程だ。 シャドウベアー −−−−−−レッドベアーのアンデット化したモンスター、朝は姿を消し夜に活動する。体から負のオーラを放ち影から意思のある分身を2体召喚することが出来る。全長は3メートル。最悪の場合5メートルの体格があり、時間が経つにつれ力が増すため騎士団やギルドに要請しなければならない。 「なんだと!?それは本当にシャドウベアーなのか?暗くてレッドベアーと見間違えたのではないのか?」 「Aランク冒険が申しておりましたので間違い無いかと……」 「……わかった。アーノルド、早馬を出してギルドに討伐要請しろ。俺も騎士団を集め正門に向かう」 討伐の準備をしようと立ち上がった時、袖に重さを感じた。イザベラだ。彼女は袖を強く掴み不安、恐怖が入り混じり困惑した表情。それもそのはずだ。シャドウベアーを討伐するのに必ず数十人の死者が出る。彼女もそれを知っている。だが、俺が行かなければ近隣の村が消滅し死者が100を超える。 俺は心配かけない様に平然を貫き通し、彼女の手の甲にそっと唇を触れる。彼女との初対面の頃のように膝をつき彼女を見上げ、目をまっすぐ見つめた。 「レディイザベラ、今宵、貴方の空いた心の隙間に私で埋めさせてくれるのなら、あの月をあなたに差し上げます。あなたの乾いた唇を私の愛で塞がせてくれるのなら、私の心をあなたに捧げます」 「ったく何馬鹿な事言ってるんですか!?フフ……本当に私の事が好きならレッドベアーの首をとってきなさい」 「御意!!」 俺は力一杯声を上げ彼女の命に答え討伐の支度へ部屋を出る。それを見ていたアーノルドは首を傾げていたがそんなことはどうでも良い事だった。