アルマジロ

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アルマジロ

こんにちは!アルマジロです。 小説は、ど素人です。 予告無しでしばらく活動停止する場合も多々あると思います。 読んでくれたら嬉しいです! フォローやいいね、コメント等もとても嬉しいです! よろしくお願いします! 追記 連載中の作品は、推敲中のものがあります。 そのため、途中から文章のクオリティーがドカンと落ちる可能性があります。ご了承ください。

来た

 「来てくれてありがとう。」 彼はにこやかに笑いかけながらナビヤに近づいてくる。 「あの、…あんた、誰?」 ナビヤが問いかける。だが、彼はまるでナビヤの声など聞く気もないと言った様子でナビヤに手を伸ばし、 「さあ、こっちへ!」 と言った。 ー話通じねえなコイツ…。 ナビヤはため息をついた。  「話通じてませんよ、シエル。」  そこへまた、背広姿の男が近づいてきた。彼は鮮やかな青色の長い髪で、四角い眼鏡をかけている。まるで、どこかの会社の秘書のようだ。 「ニラージュ!」 シエルと呼ばれた男が、手を振りながら眼鏡の男の名前を呼ぶ。  ニラージュこと眼鏡の男は、透き通るような青い髪色で、綺麗な紅色の瞳をしている。彼が着る背広も変わった色だったけど、変ってほどではない。  ニラージュはため息をついてから、シエルに尋ねた。 「一応伺いますが、彼には説明したんですか?」 「えーっと…」 「まあ、あなたがする訳ありませんか。」 「なっ!し、してることだってあるだろ!確かに、今はしてなかったけど…。ででででもっ、今からしようと思ってたんだからなっ!!」 ほんとに!!!そう言ってシエルは、ふてくされた子供のように頬を膨らませた。  ニラージュがナビヤに向き直り、ちゃ、と音を立てて眼鏡を直した。  それから、薄らの笑みを浮かべ、上級貴族の執事のような、美しく完璧なお辞儀をして言った。  「申し訳ありません、自己紹介が遅れました。私はニラージュ・サムリ。シエルの秘書をしています。そしてこちらが、シエル・トーマ。」  会った時と同じ、にこやかな笑みを浮かべて、シエルはナビヤに手を差し出した。  「僕はスターズリパーのリーダー。よろしく、ナビヤ・ラールくん。」  ナビヤは伸ばしかけていた手を止めた。 「名前、なんで…」  シエルが、不思議な蝶を見つけた子供のような顔になった。 「僕、手紙の差出人だよ?」  そして一瞬、奇妙な笑みを浮かべた。 ー続くー

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四話 ともり

私は夏田友梨。みんなは、私をともって呼ぶ。 運動は得意だし、勘はいい方だ。でも、言われたことはすぐ忘れちゃうし、よく物を落とすからか、みんなによく、おっちょこちょいって言われる。 そんな私だけど、なんだかんだで楽しい学校生活を送っている。 でも今日、とむを怒らせちゃったみたい。 とむは、私の幼馴染で、親友。 だいぶ内気で、話しかけなきゃなんもしゃべんない。 でも、とっても優しい。 それも、ちょっと問題レベルに。 そんなとむだから、私が物を落としても迷いなく拾って渡してくれるし、とむ自身が何をされても怒らない。 なのに、なんでだろう。 今日のとむはなんだか、少し怖かった。 なんていうか、優しさが消えちゃったみたいな。 それに、とむの目の奥のほう。 なんだか、不思議な光が見えた。 その光に、じっと見つめられていたような気がするんだけど、なんだったんだろうか。 考えたって仕方ない。 でも、私の勘が言ってる。 今のとむは、都夢じゃない。 ー続くー

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四話 ともり

一通の手紙と出会い

ここは、エスパスルモンド。 魔法文明の世界・・・・・・  とはいえ、人間が魔法を自由に操ることができる訳ではない。魔力は物に宿り、その物に宿る魔力を操ることで魔法を使っている。     そのため昔は、魔法を操ることができる人間は限られた。だが今や子供たちは、エレメンタリースクールで魔法を習い、日常生活では皆、ご飯を作るのも、移動でも、全て魔法を使っているのである。その魔法は今や、宇宙開発の要となる。  ある日、ナビヤ・ラールに一通の手紙が来た。  ナビヤ・ラール様  初めまして。僕は、ギャラクシースターズを探している、シエル・トーマです。ギャラクシースターズとは、何かずば抜けた能力がある、銀河のスターです。スポーツや音楽など、ジャンルはいろいろあります。その、ギャラクシースターズを探すスターズリパーを、今、僕は探しています。ナビヤ・ラール様、どうか、スターズリパーの任務を行なっていただけませんでしょうか。ギャラクシースターズを探すためには、あなたの協力が必要です。今日の午後 三時までに、ロワ星にお越しください。よろしくお願い申し上げます。                    シエル・トーマ  ーギャラクシースターズ…?  怪しげな手紙。ナビヤはこの手紙に心当たりがなかった。だからナビヤは、手紙を破って捨ててしまった。ナビヤは手紙のことを忘れ、その日は何事もなく過ぎていった。  次の日、もう一度、同じ手紙が来た。内容は同じだったが、手紙の裏には、 『早く来い』 と殴り書きされていた。裏には他にも何か書いてあったが、殴り書きだったため『早く来い』以外は解読できなかった。それを見て流石にやばいと感じたナビヤは、急いで準備をして、指定の場所に向かったのだった。  ナビヤは中央船通に乗って、ロワ星に向かった。中央船通とは、宇宙を走るバスのようなもので、ナビヤの住む世界では一般的な交通手段だ。 ロワ星までは約一時間。その暇時間、ナビヤは持ってきた船の模型を眺めていた。ナビヤは船が大好きだった。船を眺めていれば、時間はあっという間に過ぎていく。だから、寝る前に船を眺めていた日には、気づいたら朝なんてこともよくあった。 それから約一時間、中央船通はロワ星の空港に到着した。中央船通を降りたナビヤは、手紙で指定されていた場所に歩いて行く。左、直、右、右、左… 「やあ、君かい?新しいスターズリパーは。」 背後から突然、声がした。ナビヤは振り返った。誰かが立っている。その人物は腕をゆっくりと広げて、ナビヤに笑みを作ってみせた。 「来てくれてありがとう。」 少し薄い黒色の髪で、焦茶色の瞳。少し変わった色の背広を着て、黄色いネクタイをしている。背広の色は、はっきり言って変だった。笑みを作る彼の瞳は、まるでナビヤの頭の中を見透かすかのように、ナビヤの眼をまっすぐに見つめていた。 ー続くー

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タイヨウ

タイヨウ。光リ輝ク星。 タイヨウ。明ルク照ラス星。 タイヨウ。アッタカイ星。 タイヨウ。大キナ大キナ水タマリ。 タイヨウ。生命ヲ育ム水タマリ。 タイヨウ。時ニハ恐怖ノ水タマリ。 タイヨウ。君ハ頬ノ水ナメル。 タイヨウ。君ハ優シク笑ウ。 タイヨウ。君ハアッタカイ。 太陽。 大洋。 態様。 成葉。 タイヨウ。君ハ、ボクノ希望ノ、優シイヒト。 ー完ー

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タイヨウ

ひとり路地裏で

ずっと、ひとりだ。 友達はいる。少なかったけど、いい友達。 でも、なんでだか、心に穴があいてんだ。 友達は欲しい。みんなと仲良くなりたい。 でも、できない。 勇気が出せなくて、怯えてる。 昔はできたのに。 昔は、いろんな奴に話しかけて、 会話を弾ませることだってできたのに。 いや、違うのかもしんない。 昔は、話しかけることはできた。 けど、みんなは僕を拒絶した。 小さい頃まわりにいた奴と離れてから、僕は『怒り』を知った。 それから僕は、少し恐れられる存在になったかもしんない。 ある時、それに気づいて、怖くなった。 僕はそれから、自分を抑えるようになった。 ずっと、静かに、らしくなく。 でも、結局は変わらなかった。 やっぱりみんなは、僕なんかと話したくないんだ。 他のみんなと話している方がよほど楽しそうだった。 今も、昔も。 いや、当然か。 僕は、何も努力してない。 何もできていない。 これじゃ、ただの欲張りだ。 今日も僕はひとり、路地裏の隅でなく。 「にゃーお。」 僕は、ひとり彷徨う、野良猫だから。 ー完ー

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ひとり路地裏で

三話 消えた

ぼくの名前は割沢都夢。 今現在、感情が消えている。 別に、感情が欲しいだなんて思わない。 だって、苦しいとか、悲しいとか、 思わないで済むのだから。 感情がなくなったら、楽しいとか、嬉しいとか、 そんな感情もなくなるでしょ。 なんて、言う奴もいるだろうけど。 別にぼくは、そんな感情も欲しいとは思わない。 もともと、楽しかったことなんて、一つもなかったから。 なのにAIはご丁寧に、感情を一時的に戻すための場所まで用意してくれている。別に要らなかったけど、AIがあまりにしつこいので、学校のトイレの一室にしておいた。 そして。 今、そのAIが、感情を戻してみろとしつこい。 ぼくは要らないと言っているのに、しつこくしつこく、トイレに行けと言われる。 仕舞いには、 『ぼくの頭の中で黒板を引っ掻く音を鳴らし続ける』 と脅してくる始末だ。 「感情ハ無クトモ、鳥肌ハ立ツシ、痛ミモ感ジル。感情ガ消エルダケデ、感情ト一緒ニ発生スル現象ハ消エナイ。」 と言うのが、AIの言い分だ。 感情がないから嫌ではなかったが、何となく、まずそうな感じがしたので、仕方なく行くことにした。 設定した個室のあるトイレに辿り着いて、ぼくは中に入った。 その瞬間、すべてが帰ってきた。 胸の奥から、何かが込み上げてきて、ドキドキする。 ただのトイレだった場所に、カラフルな色が塗られていくみたいだった。 ねえ、AI。 ハイ。“ある”デス。 なんでもいいじゃない。すごいや、感情が消えるって、こんなに爽快なことだったんだね。 ダカラ言ッタデショウ、感情ヲ戻シテミロト。 感情ガ消エルコトノ素晴ラシサガ理解デキマスカラ 僕、感情を消して良かった。 ソウ言ッテ頂ケテナニヨリデス。 そろそろ、出ようかな。授業が始まる。 僕はトイレを出た。 少し残った感情があった痕跡を感じながら、教室へと歩んでいく。 どうやら辛いって感情は忘れてしまったようで、トイレの中ではその他の感情しか感じられなかった。 でもおかげで、教室にはためらいなく入れるようになった。 ぼくは自分の席について、授業の準備をする。 その時、隣の席の女子が、消しゴムを落とした。 その子の名は、夏田友梨。ぼくの幼馴染だ。 唯一の友達で、親友。 いつもなら、消しゴムを拾って、渡す。 でも今日は、しなかった。 なんでぼくがしなくちゃならないのか、分からなかったからだ。 「あれ、とむ。どうしたの?いつもなら、拾ってくれるのに…。」 こいつはよく、物を落とす。それは大概、ぼくの方に転がってくるから、いつも拾ってあげていた。 「うるせえ。なんでぼくが…。」 自分でも、何を言っているのか分からない。 なにかがおかしい。 「とむ、なんか変。」 「友梨、お前がものなんて落とさなきゃ、ぼくはずっと拾ってやる必要もなかったんだ。」 「とむ」 「だってそうだろ?なんでぼくばっかり…」 さすがにまずい。止まれ、止まって、いつもみたいに… 「とむっ!」 バシンッ 「…………痛」 友梨に頬を叩かれて、やっと気がついた。 ぼくは、優しさを忘れたのだ。 教室は、信じられない静けさに包まれていた。 外から聞こえる蛙の声だけが、響いていた。 ー続くー

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三話 消えた

二話 ぼくの日常

ー感情消去ガ、完了シマシタ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 「都夢!いつまで寝てるの!学校遅れるよ!」 ぼくの頭に、姉である伊都の声が響いた。目を開けると、いつもの部屋の風景が映った。 「…夢?」 「なに呑気なこと言ってるの。昨日、あんたが母さんと喧嘩してすぐ、あんた廊下で寝てたのよ。母さんは深夜に帰ってきて、今は寝てる。さっさと仲直りしなさいよ。ほんと面倒なんだから…。」 どうやら夢ではないようだった。試しにAIを呼んでみる。 おい、AI。 ーハイ。私ハ感情抑制AI、アル。あなタノ感情ヲ消シマス。 知ってる。 ー私ノコトハ、ある、トお呼ビクダサイ。大変紛ラワシイノデ。 随分と舌の回るAIだ。 ぼくはそう思った。AIの舌打ちの音が聞こえたような気がした。 ーゴ用ガナイヨウデシタラ、失礼イタシマス。 そう言ってAIは、ぼくの頭の中に引っ込んでしまった。 「なにぼーっとしてるのよ。あと15分で始業だけど、間に合うの?」 伊都の声で、現実に引き戻される。 「ああ…、うん。なんとかなるよ。」 ぼくは姉に生返事を返し、朝食の存在も忘れて小走りに家を出た。 走りながら、ぼくは考えていた。 感情が消えた今、教室に居ても、惨めな気持ちは湧かない、と考えて良いのだろう。 もしいきなり『陽キャになれ』と言われようが、今のぼくならできる気がした。 なにせ、感情が消えたのだから。 だが、そんな考えは、『それが何になるのか』と言ういつか聞いたことのあるような言葉にかき消された。 そもそも、いきなり『感情が消えました!』などと言われても、あまり実感が湧かないものだ。 例えるのなら、ぼくの好物である食べ物を差し出されて、「あなたはこの食べ物が嫌いになりました!食べてみてください!」と言われているようなものだった。 空は雲一つなく、晴れ渡っている。 木々は鮮やかな緑色の葉をつけ、蝉はけたたましく鳴いていた。 そんな夏の風景の中を、ぼくはただ黙々と歩んでいった。何も感じず、ただ、息を切らして。 教室の扉を開けても、誰もぼくを気に留めることはなかった。ちらりとぼくの方に目をやって、それからすぐに友達との会話に戻る。 ぼくは窓側の後ろにある自分の席につくと、呆然と外を眺めた。 小学生の頃からずっと続く毎朝のルーティーン。 家を出て、外の気配を感じ取る。教室の扉を開くと、僕を軽蔑の目で見つめる奴や、完全に無視する奴がいる。しまいには鼻で笑う奴まで出てくる始末だ。 そんな奴らを通り過ぎて、自らの席につき、外を見つめる。出席番号が決まって最後だから、学年が変わってもいつも同じ席になった。 それに、この席は不人気だったので、席替えで毎回同じ場所を希望して、同じ場所に座っていた。 『都夢が座ってたとこなんか、座れねーし。』 などと耳にしたことはあるが、今じゃ気にもならない。 つい昨日の僕までは、それがずっと苦しかった。 でも、今は違う。苦しみを感じなくなった分、随分と楽になった。 …あれ、苦しいって、どんなだっけ? ー続くー

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二話 ぼくの日常

一話 感情ヲ消シマス

「何回も言わせないで!そんなので、本当にちゃんとやってるつもりなの?もう一回、やりなさい。」 「嫌だ!何度も何度も、もううんざりだ!」 「じゃあもういいです!お母さんはもう出て行きます!さようなら!」 「あっ…!」 バタン 僕は引き留めようと手を伸ばしたが、母は鍵もかけず、逃げるように家を飛び出した。 ーまたやっちゃった。 学校では孤立して、家でも自分自身の我儘で、しょっちゅう母と喧嘩をする毎日。どれもこれも、悪いのは全部僕だ。分かっているのに、直せない。僕が気持ちを抑え込めないから。 ー感情が消せたら、楽だろうな。 その日僕は、そんな考えに取り憑かれた。 そしたら、誰かの言いなりになっても、学校で笑われても、何も苦しまないですむ。それに反発するせいで、誰かが傷つくことだってない。 そう、僕の感情さえなくなれば、みんなが幸せになれるんだ。僕が、僕さえ我慢すれば…。 ー私ハ感情抑制AI、アル。 …は?、え、何?? 誰だろうか。僕の頭に直接、AIのような声が響く。 感情抑制AI、ある? ー私ハ感情抑制AI、アル。あなタノ感情ヲ消シマス。 感情を、消す? 僕が疑問を抱くと、頭の中に直接、答えが返ってきた。 ーハイ。アナタノ意識ヤ記憶ハそのママデ、感情のミガ消エマス。…あなタノ願イガ、叶うのデス。 僕の、願い…。 確かに、感情が、消えてくれたら…。 ー感情消去ヲ、実行シマスカ? AIが問いかけてくる。僕に迷いはなかった。 …うん、するよ。願いを叶えられるのなら。 ー了解シマシタ。感情消去ニ当タッテ、幾ツカ説明ヲさせテ頂キマス。 AIはそう言って、僕の頭に足音を響かせながら、話し始めた。 ヒトツ。感情消去後ハ、後程指定シテ頂ク部屋デのミ、感情ヲ持つコトガデキマス。部屋ノ変更ヲ行いタイ場合ハ、仰っテクダサレバいつデモ可能デス。 フタツ。ワタクシハ、感情消去期間、あなタノさぽーとを行うタメ、脳内ニ住みつキマス。感情消去期間ニ制限ハかかリマセン。あなタガ感情ヲ持ちタイト望まナイ限リ、感情消去ハ続きマス。 ミッツ。モシ、あなタガ感情ヲ欲シテ、『感情抑制AI、任務終了』ト仰っタ場合、今後二度ト、感情ヲ消去すルコトハできナクなりマス。 ーヨロシイデスカ? 足音が止む。話すのに演出をしてくるAIなんて初めてだった僕は、随分個性的なAIだと思った。 うん。分かった。 ーソレデハ、感情ガ戻ル場所ヲ、指定シテクダサイ。 ー続くー

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一話 感情ヲ消シマス

十三話:天才の究明

休日が明け、いつものように任務の説明がされている。今日は、ナビヤとニラージュ、リミエとソレイ、リトワルはまたしても作戦参謀だった。いつも通り、みんなは任務場所に向かう。本部前では、シエルとリトワルが見送りをしていた。しかし、みんなが見えなくなった、その時だった。 「っ!リトワル!?」 リトワルが、外に向かって走り出した。 「馬鹿な!許可がない限り、ここには入れないし、出られない!世界最高の防犯システムで、結界をはってあるから!」 シエルが叫ぶ。追いかけようとしたが、間に合わない。リトワルの大声が聞こえる。 「あんなへなちょこ結界、ハッキングで無効化したよ!僕に突破されたくなかったなら、世界最高の結界技術にすればまだ望みはあったかもな!あ、そういえば言ってたっけ。これが世界最高だって!くはははっ!」 「リトワルっ!」 リトワルが走る。シエルには見えない速さだった。 「くっ…!」 シエルは携帯端末を取り出した。 「ニラージュ!リトワルがそっちに行った!」 話し相手はニラージュだった。 『…!分かった!本部に戻す!』 「頼む!」 電話が切れる。 「リトワル…、まさか…!」 ーーー 「おい、リトワル!戻れ!」 ニラージュが叫ぶ。リトワルは、ナビヤたち一行に追いついて、ニラージュから逃げていた。その時、突然リトワルが急停止した。 「ごめん、ニラージュ」 ドン! リトワルが、ニラージュの額を強く突く。 「…っ!」 バサッ! 「ニラージュ!!」 ナビヤが叫ぶ。 「大丈夫。気絶してるだけだから。」 リトワルが言った。 「なんで…!」 「我の中、考えし者よ。我を真実へと導きたまえ!『頭晰明能』!」 「…!」 リトワルの周りが青く光る。リトワルが能力を使ったのだ。 「やっぱり…、そうか…!」 青い光が消えた。 「リトワル、どういうことなの?」 リミエが聞く。だが、リトワルはその質問には答えず、代わりにニラージュに言った。 「もう起きてるんでしょ、ニラージュ。」 「”もう“じゃなくて、”今“なんだけど。何すんだよ、リトワル。」 ニラージュが起き上がる。リトワルは「ごめんごめん」と謝っていた。 「みんな、一回、本部に戻ろう。ニラージュも気絶させちゃったことだし。」 リトワルが言った。 「どの口が…」 ニラージュはぼやいていた。 ーーー 「あ、やっと戻ってきたー!リトワル、なんで急に抜け出すのさ。…ってあれ、みんな一緒?任務は?」 本部に戻ると、シエルが仁王立ちで待っていた。リトワルは下を向いて動かない。みんながリトワルを見つめた。そして、少し顔をあげて、リトワルが一言、こう言った。 「今日の任務地は、ここだよ。」 「へ?」 シエルが素っ頓狂な声を出す。 「そして、今日の任務は、裏切り者を暴くことだ…。」 「…」 静寂が流れる。シエルは苦笑し、他のみんなは不思議そうな顔でリトワルを見ている。リトワルはまだ下を向いている。 「部屋や本部中に設置された防犯カメラ、少しずつ回らなくなる頭、いつものように生じる、言動と出来事の矛盾…。なんだっけ、『暗空』だったかな。」 「なっ…!」 リトワル『暗空』と言ったことで、シエルは表情を変えた。リトワルがゆっくり顔を上げる。これまでにないほどに笑っていた。だがその笑顔は、いつもの優しいものではなく、探偵の真相解明の時のような、何にも例え難いものだった。リトワルが深呼吸をした。みんなが息を呑む。そして、リトワルはこう言い放ったのだった。 「シエル・トーマ、お前だ!」 ー続くー

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十三話:天才の究明

十二話:技

「よしっ、みんな、今日は休日だよ!外出許可を出すと1日じゃあ帰ってこれないだろうから、本部での休みにはなるんだけど。」 朝起きるなり、シエルが言った。 「えっ、休日!?今まで一回もなかったのに…。あ、あの最初の鬼ごっこは例外かな?」 ソレイが言う。 「ちぇっ、外出禁止かあ…」 リトワルがぼやく。リトワルは、あれから声を出して話すようになっていた。みんなも気にする様子はない。 「散歩でもしてこよっかな。本部の前の広場のとこ。ついでに能力も試したい。」 ニラージュが提案した。みんなが賛成する。 「僕は残るよ。行ってらっしゃい!」 シエルがそう言うと、みんなが次々に出ていく。「行ってくるね!」とか「後で来なよ!」とか、みんなはシエルに言って出て行った。 ーーー 本部前の広場の周りを、一行は散歩していた。本部前の広場は学校の校庭みたいな感じだったが、周りには木が隙間なく生えていて、中からも外からも、様子が伺えなくなっていた。 「あっ、フクロウ!」 ソレイが木の中から、フクロウを見つけた。 「ほんとだ!」 「初めて見たよ。」 みんながフクロウに注目する。 「そういえば俺、いっつも思うんだけどさ、」 ニラージュが話し始める。 「フクロウって、何考えてるのか全然分かんないんだよね。まず表情が読めないし、想像もできないんだ。なぜか。」 「言われてみれば、表情の変化が少し読みにくいよね。」 ナビヤも共感する。 「私、分かるかも!」 「えっ?」 ソレイが言った。 「私の特技は、最適解を即座に分析して会話すること!だから相手の考えも大体分かる!」 「…!」 「いくよー!」 ソレイが目を閉じて、深呼吸をする。そして、言い始めた。 「聞かせて!あなたの気持ち!『心開明陽』!」 言い終わると同時に、ソレイの周りが青く光り出す。 「ふむふむ、なるほど…」 青い光が消えた。 「すっごい眠かったところを注目されて、目が冴えたから助かった、って言ってたよ!」 フクロウの考えを読み、ソレイが説明する。 「ソレイ、すご…!」 リミエが感嘆の声をもらす。ソレイが照れる。 「あっ!飛んでいく!」 「走れ!輝け!『速光足輝』!」 「ニラージュ!」 「俺の特技は、足の速さ!」 ニラージュが、能力を発動させた。ニラージュの周りが青く光る。リトワルが驚いて叫ぶ。途端に、ニラージュはフクロウに追いついた。 「ニラージュー!フクロウが言うにはー、『帰ろうとしたらなんか追いかけられてる!怖い!』だってよー!」 ソレイがしれっとフクロウの考えを読み、ニラージュに伝達する。青い光が消えた。 「はっ!?何それ…。俺は悪役かよーっ!」 フクロウが本部を出ていった。 「…まあでも、能力が発現したってことで良しとするか。」 それからしばらく散歩をし、昼頃に本部へ戻った。 「やあ、おかえり!」 シエルが出迎える。 「ご飯、あるよ!」 食堂へ入り、シエルが握ったのであろうおにぎりを食べる。そこで相談して、午後は自由時間になった。ご飯を食べ終わって、各自部屋に戻る。 ナビヤは戻るなり、船の模型を作り始めた。船を作りながら、考える。 ー僕の特技は船しかないけど…。船を作る時に呪文が浮かんだことはない。じゃあ、僕の能力って一体…? ーーー その頃リミエは、自室のピアノの前に座っていた。リミエの部屋は、作りや元々ある家具などは他の部屋と一緒だったが、部屋の片隅にはピアノが置いてあった。壁紙も、髪の色と同じにしてある。 ー私の特技は、音楽…。ー 「奏で、光れ!自分だけの音!『天使友音』!」 リミエがピアノを弾き始めた。リミエとピアノが一つになる。どちらが弾いていて、どちらが弾かれているのか分からなかった。その壮大さに、他のメンバーが部屋を出て、リミエの部屋の前に来る。扉が開け放たれたままだったので、リミエの様子が伺えた。リミエはみんなの存在に気づいていない。ただ一心に、ピアノを弾き続けていたのだった。 ー続くー

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十二話:技