BULL
14 件の小説愛は残酷さを救う#3
「…え…か……えりか…!」 私は目を覚ました。目の前には、白い空間が広がっていた。隣には、涙目で見つめてくるひなたがいた。 「あなた!生きていたの!?」 「いや…違う……僕達は死んだはず…多分ここは、死んだ時にくる場所じゃないかな……でも、また会えて良かった……」 ひなたは強く私を抱きしめる。私も抱きしめた。 「いろは…ここにいないってことは……生き延びたのかな……」 私はそっと呟く。 「きっと、生き延びたよ。誰かが助けてくれたのかもしれない。」 「なら良かった…」 私達は強く抱きしめたまま、視界がゆっくりと歪んでいく。きっと、死後の世界へ行くのだろう。 「…きて…りく……起きて……!」 僕は目を覚ました。目の前には、白い空間が広がっていた。隣には、心配そうな表情を浮かべるいろはが僕の手を握っていた。 「いろは!良かった…また会えた…!」 僕はいろはを強く抱きしめる。 「ごめん…ごめんね…!僕…守れなかった…!辛い思いさせて…本当にごめんなさい……!」 僕は号泣しながら叫ぶ。いろはは、優しく僕の頭を撫でる。 「守ってくれようと行動してくれたことがすごく嬉しいよ。結果は…だめだったとしても、私は嬉しかった。りく、ありがとう。」 いろはの優しい唇が、僕の唇と重なる。また僕は涙を流した。 「今回は…僕が泣き虫になっちゃったね…」 いろはに微笑む。いろはは、クスッと笑った。そして、視界がゆっくりと歪んでいく。 きっと、死後の世界へ行くのだろう。死後の世界も、いろはと一緒だったら…幸せだな…… 私は、エリカに何か話しかけていた男の子の胸を剣で貫いた。 「これで全員殺ったか。」 私は男の子から剣を引き抜いて外に出た。そして、街へと歩き始めた。 「ギャー!悪魔だー!」 「誰か!誰か助けてー!」 街には、子供や女の人ばっかり残っていた。私は残りの街の人達を殺し回っていた。 「こ…この子だけは…!やめて…!」 私は無言で剣を刺す。刺して、刺して、刺して、刺して、刺して、刺して、刺して、刺して、刺して、刺して…… 徐々に街が静かになっていった。うるさい命乞いも無くなった。 「もういないか。」 私は森へ帰ろうと振り向いた。その時、 「おぎゃあ!おぎゃあ!」 赤ん坊の泣き声が聞こえた。私は声のする方へ歩く。 「おぎゃあ!」 血塗れになって死んでいる女性の腕の下で、赤ん坊が元気よく泣いていた。きっと、この女性が守っていたんだろう。私は女性の腕を払い、赤ん坊を抱き抱えた。 「またここに犯人が来るかもしれない。」 赤ん坊を抱えたまま私は、森の奥へ飛び立った。
愛は残酷さを救う#2
僕達は、赤ちゃんの時からの幼なじみだ。親同士が仲が良く、よく遊んでいた。 そして、小学5年生の時に二人で森で遊んでいたら、白い翼が生えた綺麗な天使を見つけた。その天使は、ショートヘアで目つきは鋭く男性っぽい。けれど、体は女性らしい見た目だ。そして、胸が大きい。僕はお弁当に入っていたパンを渡そうと天使に近づいた。でも、初めて見る天使に少し怯えていて震えていた。 「ありがとう……」 天使はパンを受け取り食べ始める。僕達はほっとして天使の隣に座った。 そのあとは、少しずつ天使を会話をして距離を縮めていき、友達になった。ただ、なんでここにいるかは絶対に教えてくれなかった。 そして数年が経った。僕達は高校生になっていた。 「ねぇねぇ、ひなたくん……」 「どうしたの?」 「私、ひなたくんのこと好き!幼稚園の時からずっと!付き合って…くれませんか……?」 その告白を聞いて僕は、やっと恋人になれると思い、舞い上がった僕は勢いよく抱きついてしまい押し倒してしまった。 「ちょっとひなたくん〜!危ないよー!」 「ごめんね…!でも、本当に嬉しくて!僕で良ければ、末永くよろしくお願いします!」 「うん…!」 僕達は人生初のキスをして、幸せに溢れていた。ただ、1人を覗いて。 「そういえば、森に行けてないね……」 「確かにそうね…怒ってるかな……」 「でも、優しいから話せば分かってくれると思う。部活とか勉強とかあって行けなかったって本当のこと言えば大丈夫だよ。明日行こうか!」 「うん!一緒に行きましょ!」 数ヶ月ぶりに天使に会いに行くことにした僕達は、緊張と久しぶりに会える楽しみさで溢れていた。 次の日になった。今日は日曜日なので、のんびりと森へ入った。森の奥に行くにつれて、森の雰囲気が変わっていった。徐々に草や木が荒れていく。 「…こんな森だったっけ……私違う気がする…」 声が震えている。僕は落ち着かせようと彼女の頭をゆっくりと撫でる。彼氏として元気をつけないといけない。 「僕がいるから大丈夫だよ。必ず守るから!」 「うん…ありがとう…」 まだ声は震えている。今は変に言葉をかけるより、傍にずっといよう。 歩いていると、天使が立っていた。僕は声をかける。 「天使!久しぶり!学校が忙しくて全然来れなかったんだ!本当にごめんね!」 天使がゆっくりとこっちを見る。 「学校…学校が忙しくて……そっか……学校ね。」 何かぶつぶつと言っている。怒っているのかもしれない。 「怒っているのならごめんなさい。あなたが納得るまで私達と話し合いませんか…?」 「私に内緒で付き合った…二人は赤ん坊作る?」 「え…なんで知ってるんだ……」 僕達は少し怖くなって後退りをしてしまった。 「知ってるよ…知ってる……見てるから。天使だから。おめでたいね、めでたいよ。また明日ここに来て。祝福するから。」 天使はどこかへ飛んでいってしまった。僕達は怖くなり急いで家に帰った。 次の日。学校が終わった後、僕達は帰り道で話していた。 「もう…あの天使とは会わないでおこう…」 「そうね…昨日のですごく怖くなった……」 「状況が悪化して何かあったら嫌だから。」 僕は強く抱きしめた。彼女も返すように抱き返してくれた。あの日以来、僕達はあの森へ行かなくなった。 数ヶ月が経ち、あの天使のことを少しずつ忘れてきたころ、夜に彼女から電話がきた。出てみると泣いていた。 「ひなた…助けて……」 「どうしたの!?」 「私の家の前に…大量のネズミの死骸が……」 「え…?」 僕は少し混乱した。この街はネズミは少ないはずだ。とりあえずもう少し詳しく聞くことにした。 「あまり言いたくないかもだけど、もう少し詳しく聞かせてくれるかな…」 彼女は深呼吸してから話した。 「いつも通り、家でお母さんの帰りを待ってたら…お母さんの悲鳴が外から聞こえてきて、慌てて玄関のドアを開けたの……そしたら、地面が見えないぐらいの大量のネズミの死骸が……おかしいよね…」 その次の日は、僕の家の前がそうなっていた。また次の日は、彼女の家が原因不明の火事になって家を失った。そしてまた次の日は、僕の家が原因不明の火事になった。僕の方の火事は、いち早く気づいたので大事にはならなかった。明らかにおかしいことが続いた。僕は、天使の顔を思い浮かべる。怖いけど、明日あの森へ行くことにした。 彼女は連れてこなかった。何かあったら嫌だからだ。僕は森の奥に着いて、声を出す。 「天使!お前の仕業なのか!?ならやめてくれ!」 しばらくすると、後ろから足音がした。振り向くと、天使が立ち止まって僕を見つめた。 「だって、二人だけ幸せなんて…そんなのあってはならない。なんで幸せなの?私はどうなるの?なんで幸せなの?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……」 僕は恐怖で体が固まった。けれど、ここで何かしないともっと酷いことが起きる。彼女だけは守らないと。 「っ…!僕達のこと…見てて苦しい…なら…もう関わらないで…くれ……!」 頑張って口を動かす。すると、天使がハッとした顔をした。 「関わらない…?確かにそっか。見てて苦しい。見るのやめる。」 天使が去っていった。これで良かったのだろうか。僕は緊張がほぐれてその場で座り込んでしまった。 そのあと無事におかしなことは一切無くなり、楽しいカップル生活を送り、そして、大人になって僕達は結婚した。周りの人達に祝福を受け、幸せいっぱいだ。 しばらくして、僕達の間に家族が増えた。日に日に大きくなっていく妻のお腹が愛おしい。早く産まれてきてほしい反面、妻には出産という痛くて辛い経験をさせてしまうので、少し複雑な気持ちだ。できるだけサポートできるよう毎日勉強している。 そして、 「おぎゃあ!おぎゃあ!」 「おめでとうございます!かわいい女の子ですよ!」 「あなた!私達の子よ…!」 「そうだな!僕達の天使だな♪」 その場にいたみんなから祝福された。かわいい僕達の天使も幸せそうだった。 (これから大変なことも多くなるけど、幸せも増える…!) 赤ちゃんは先生達に預けて病室で休んでいた。その時、妻が口を開いた。 「あなた…いろは…はどうかしら……」 「いろは…かわいくていいな!あの子にぴったりだ!」 僕達は幸せで溢れていた。 数ヶ月後。僕は家で妻と一緒にミルクをあげていた。 「いろは、いっぱい食べて寝て大きくなったらパパのお嫁さんになろうなぁ♪」 「もうあなたったら。いろはが困っちゃうでしょ〜?」 「おぎゃあ♪」 「今聞いたか!?いろはが笑った!」 「うふふ♪あなたが変なこと言うから笑ったのかもしれないわね♪」 そんな話をしていると、いろはがすやすやと寝てしまった。いろはをゆっくりと寝かせて、妻と一緒に家事をした。疲れた僕達は、いろはの隣で寝てしまった。 「おぎゃー!!おぎゃー!!」 いろはの泣き声を聞いて僕達は飛び起きた。何か視線を感じる。リビングのドアに目をやると、あの天使が立っていた。僕達は、一気に寒気がした。 「なんでここにいるんだ!早く出ていけ!」 「そうよ!もう私達に関わらないって言ったじゃない!」 僕達の声が家中に響く。 「なんで…?あんなに仲良かったのに?なんであなた達が結婚してるの?」 天使が問い詰める。 (関わらないという約束を忘れたのか…?) 「日に日にお前がおかしくなったからだよ!もう僕達に近づかないでくれ!」 すると、天使がいろはに向けてナイフを投げた。 「っ…!」 妻の声にならないうめき声が聞こえる。慌てて振り返った。 「嘘…やめてくれ……」 僕は妻といろはを抱きしめる。 「あな…た……いろは……みじかい…時間だったけれど…幸せだった…よ……あい…してる……」 僕は冷たくなっていく妻を抱きしめて最期の愛を伝えた。 「僕も幸せだったよ。また…生まれ変わったら……一緒に人生を歩んでください…愛しいいろはと…えりか……」 えりかはそっと涙を流して、先に逝ってしまった。僕は、力の無くなったえりかの腕をいろはにそっとのせ、立ち上がった。どうせ死ぬのなら、少しでも抵抗をしたい。全力で走って包丁を手にした。そして、天使に包丁を向ける。 「そんなもので…赤ん坊を守れると……?」 僕は、天使に向かって走り出す。 「愚かだね。」 いつの間にか天使は、僕に向かって大きな石を振りかざしていた。 鈍い音が脳内に響き渡り、僕は倒れた。意識が遠のいていく。これで、僕達の人生は終わった。 僕は、小さな街で産まれた。貧乏ではないけどお金持ちでもない。本当に普通の家庭。 「りく、今日は木の実が必要だから、森で採ってきてくれないかしら?奥には行かないようにね。迷子になってしまうから。」 「分かった!行ってきます!」 僕は、斜め掛けのバックを手に持ち森へ向かった。 「やっぱり森は綺麗だなぁ!」 僕は夢中になって食べれそうな木の実を採っていた。 「このぐらいでいいかな!帰ろ…あれ?」 案の定、僕は迷子になった。冷や汗が流れる。 「う…うそ…迷子になった…!」 僕はとりあえずうろうろすることにした。 数十分後。まだ迷子になっていた。怖くなってきょろきょろしていると、声をかけられた。 「あの…どうしました…か…?」 見てみると、緊張したような声のかわいい女の子がいた。僕は嬉しくて女の子の手を握った。 「よかったぁ!迷子になって不安だったんだ!この森を抜けるにはどうすればいいかな?」 すると、女の子が驚いて涙を流していた。 「あわわ!ごめんね!ゆっくりでいいから教えてくれると助かる……!」 女の子を落ち着かせようと頭をゆっくり撫でる。 数分後。女の子が落ち着いてきて道を教えてくれた。 「ありがとう!これで死なないね!」 「ねぇねぇ!またここにきていいかな?君にまた会いたい!」 女の子は嬉しそうな顔をして口を開く。 「もちろんいい…あ、いや……」 けれど、すぐに暗くなってしまった。 「ここには…危険な生き物がいるから…来ちゃだめです。」 女の子が俯いて涙目になりながら話す。そんな女の子を見て疑問に思った。 「じゃあなんで君はここにいるの?もしかして、その生き物に捕まってるの?」 女の子がハッと僕の顔を見た。助けを求めている顔だ。僕は決心した。 「分かった。君を助ける。またここに来るから待っててね!またね!」 僕は急いで帰った。街の人達に伝えてみんなで助けたい。けれど、誰も信じてくれなかった。少しずつみんなが信じてくれるようにしていこう。 それから僕は、会える日は毎日女の子に会いに行った。そして日に日に恋心が芽生えていた。 数年経ったある日、僕はいろはに気持ちを伝える。 「ねぇ、いろは…必ずこの森から解放するから、その時に結婚しよう。それまで僕の恋人になってくれませんか?」 僕は緊張しながら真剣に話す。いろはは、涙を流しながら返事をした。 「はい、喜んで…!」 「すぐ泣いちゃうところもかわいい♪」 僕達は、お互いの唇を合わせた。こんなに幸せを感じたことがなかった僕は、絶対にいろはを幸せにすると心に誓った。 そして、僕達は18歳になった。その頃、街の人達が変わっていった。みんな信じてくれて強い剣士達を集めてくれた。僕は急いでいろはに会いに行った。 「僕、街のみんなを説得できた。君と出会った時からずっと説得してたんだけど、こんなに時間かかると思ってなくて……街のみんなが明日ここに来る。その危険な生き物を倒してくれる!」 いろはが目を見開いて僕を見つめる。 「でも…あの生き物は何をするか分からない……きっと殺される……」 僕は涙目になるいろはを慰めた。 「大丈夫…みんな協力してくれて、強い剣士達を呼んでくれたんだ。きっと大丈夫。だから、今日と明日を乗り越えれば自由になれる。あと…」 僕はゆっくりとキスをして私の左薬指に指輪をはめた。 「やっと︙一緒に人生を歩めるね!」 私はりくの胸に顔をうずめて泣いた。本当に嬉しくて幸せで泣くこ としかできない。りくがゆっくりと私の頭を撫でる。そして、熱いキスをした。そのまま僕はいろはを押し倒し、愛を伝えあった。何もかも忘れて夢中になっていた。今までとは違う可愛いいろはの顔が脳内に焼き付いた。僕は、幸せな人間だ。 そして、終わって休んだあと、お互い余韻が残ったまま帰った。家に帰ってすぐに寝てしまった。 次の日。僕は街の人達を連れて森の奥に入った。すると、家を見つけた。きっといろはの家だ。僕達は気を引き締めて家に入る。 「なにこれ…焦げたような匂い……」 僕は思わず声を出す。匂いを辿っていくと、地下室へ続く扉を見つけた。僕達は恐る恐る入って行く。 「エリカ…エリカ……?なんで返事しないの?なんでそんなに真っ黒なの?」 知らない声が聞こえる。覗いて見ると、 「ヒッ…!」 鎖で壁に縛られている少女が、真っ黒に焼けていて死んでいた。それに向かって話す天使のような生き物。匂いがキツくなる。 「みんな!仕留めろ!」 街の人達が一斉に謎の生き物に攻撃を仕掛ける。その間をくぐり抜け、真っ黒な少女の元へ行った。 「人間共…!近寄るな!」 謎の生き物は街の人達に気を取られていた。その間に少女の顔を見つめた。見覚えのある顔。 「…い…ろは……?いろは…だよね……?」 少女は返事をしない。そもそも息をしていない。僕は少女の左薬指を見た。そこには、僕があげた指輪が光っていた。 「っ…!いろは…!いろは!目を覚ましてくれ!まだ…守れていないよ……!ごめん…僕……守れなかった……いろは…来世でまた会おうね……」 その瞬間、心臓に激痛が走った。見ると、街の人達が持っていた剣が刺さっていた。それを見て察した。きっと、街の人達は全滅した。僕の後ろには、死体が転がっているのだろう。 僕は、いろはの顔を思い出していた。いろはの温もり、いろはの優しい声、いろはの可愛い笑顔、いろはの匂い、いろはの……
愛は残酷さを救う#1
「おぎゃあ!おぎゃあ!」 雨が降る中、とある夫婦が殺された。女性は赤ん坊を守るように倒れ、血が流れる腹を抑え死んでいる。男性は包丁を握りながら仰向けに倒れて死んでいる。家の中は家族の思い出がいっぱい詰まっていた。 「おぎゃあ!」 私は母親の手を払って赤ん坊を抱き抱えた。また犯人がここに来るかもしれない。赤ん坊だけでも守ってやりたい。私は、大きな白い翼を広げて、森へ飛び立った。 夫婦が殺されてから5年が経った。あれから私は、赤ん坊を森で育て続けている。その赤ん坊は優しい女の子へと成長している。 「おかあさま!おいしそうな木の実をとってきました!」 こうやって、私のために食料や綺麗な花をとってきてくれる。 「ありがとう。籠に入れてきてくれ。」 女の子は笑顔で籠に木の実を入れた。 「あれから5年も経つのか…」 私はあの夫婦のことを思い出す。あの夫婦は昔から知っていた。私が天空の国から追放され、この地に来た時に初めて会った人間があの二人だった。まだ幼かったあの二人は、怯えながらも私にパンをあげてきたのだ。それから徐々に仲良くなり、大人になっても仲良くしてくれた。そして、私の存在は誰にも言わないでくれていた。 そんな二人が、ある日突然付き合い始めた。私はぐちゃぐちゃした感情が湧き出たのを覚えている。きっと、嫉妬したのだ。なぜ嫉妬したのかは分からない。そして月日が経ち、二人は結婚した。結婚祝いにこっそり夜にあの二人の家に行ったらドアが空いていて、急いで入ったら死んでいた。それが私の記憶。そう、これしか記憶がない。犯人を見つけたいが、人間の住む町に堂々と行くのは危ない。そう思っているうちに5年も経っていた。 「おかあさま!おかあさま!」 (でもいいか…この子がいれば。) 私にはこの子がいる。それだけでいいと思う。 「おかあさま?」 私は、暖かいこの子を抱きしめた。 またそれから13年が経ち、あの子が18歳になった。人間のことはよく知らないが、人間の中でも美しい見た目だと思う。綺麗な黒髪に、茶色の目。そして、優しい。 「ねぇ、こっちにきて」 「はい、お母様。」 「そろそろあなたに名前を与える。そのために儀式をしなければならない。」 人間は違うかもしれないが、私が生まれ育った国では、ある程度大人になると儀式を行い、名前を付けられる。 「儀式…ですか?」 首を傾げる姿も美しい。 「そう。地下に来なさい。」 私はこの子を連れて地下室に向かう。 「お母様…これは……」 この子に白いシンプルなドレスを着せた。 「儀式に必要な物だよ。あとはこれを付ける。」 綺麗な白い肌の両手首に鎖を付け、壁に縛り付ける。 「お母様…私怖いです……」 「怖くないよ。何も心配はいらない。」 私は微笑む。けれど、この子の顔は余計に怯えたような表情をする。 「いや…私これ以上…いやです……いい子にしましたから…もうおしおきは……」 何を言っているのだろうか。きっと怯えていて混乱してるのだろう。私はこの子の顔をじっと見つめる。 「おかあ…さま……」 「あの夫婦に似てるね。よくないことだよ。あなたの見た目は、人間には評判はいいかもしれないが、天空の国では駄目だよ。」 「な…なにを……するのですか……」 「私と一緒にするのよ。髪は白く、目は青色にね。痛いだろうけど、あなたなら大丈夫よ。見た目を変えてから名前を付けましょう。さぁ、始めましょうか。」 「いや…やめてください…!私は天使になりたくない…」 私は、自分の手を切ってこの子に私の血を浴びせた。そして、マッチに火をつける。 「ひぃ…!やめてください!私は人間です!死んでしまいます……!」 「あなたは私の子よ。死なないわ。」 燃えるマッチを、私のかわいいかわいい娘に落とした。 「いやぁぁぁ!!りく…!ごめんな…さい…!わ…たし…やくそく……まもれ…な……」 私は、燃える娘を見て名前を付けた。 「そうだわ。エリカにしましょう。いいわね、エリカ?」 エリカは、力が無くなったように首をカクンッと下に落とした。そしてなんとなくだが、エリカの左薬指から何かが光ったような気がした。 「おぎゃあ!おぎゃあ!」 「おめでとうございます!かわいい女の子ですよ!」 「あなた!私達の子よ…!」 「そうだな!僕達の天使だな♪」 私は祝福されながら産まれた。可愛くて優しいお母さんと、かっこよくて優しい、けれど少し抜けてるところがあるお父さん。まだ産まれたばかりだったけれど、私は幸せを感じていた。 「いろは、いっぱい食べて寝て大きくなったらパパのお嫁さんになろうなぁ♪」 「もうあなたったら。いろはが困っちゃうでしょ〜?」 「おぎゃあ♪」 「今聞いたか!?いろはが笑った!」 「うふふ♪あなたが変なこと言うから笑ったのかもしれないわね♪」 愛情のある優しい笑顔で私を見つめる両親は、世界一の夫婦だと思う。私はミルクを飲んだあと、眠りについた。 目が覚めると、両親が隣で寝ていた。いつも二人で協力して家事をしてるから疲れているのだろう。すると、足音が聞こえてきた。こっちに近づいてくる。 …ギィィ…… 私達がいるリビングのドアがゆっくり開く。そこには、今まで見たことの無い生き物が立っていた。白い翼に青色の目。私は怖くなり、大声で泣いた。すると両親が飛び起き、あの生き物の存在に気づいた。 「なんでここにいるんだ!早く出ていけ!」 「そうよ!もう私達に関わらないって言ったじゃない!」 両親の声が響く。 「なんで…?あんなに仲良かったのに?なんであなた達が結婚してるの?」 「日に日にお前がおかしくなったからだよ!もう僕達に近づかないでくれ!」 気づいたら、家の中が静かになっていた。お母さんが私を抱きしめながらお腹を抑えて冷たくなっていた。お父さんは、包丁を持ったまま倒れて動かない。私は泣き続けた。精一杯泣き続けた。 私は5歳になっていた。いつの間にか天使のような生き物に育てられている。森の奥に住んでいるから、私以外の人に会ったことがない。私は、この生き物を怒らせないようにいい子でいようと努力していた。できるだけ気を遣い、できるだけ言うことを聞く。そんな日々が続いた。 それから5年が経ったある日、外で木の実を採っていると、同い年の男の子がうろうろしていた。私は、無意識に声をかけていた。 「あの…どうしました…か…?」 緊張で震えていたが、精一杯振り絞って声を出す。すると、男の子が満面の笑みで私の手を握った。 「よかったぁ!迷子になって不安だったんだ!この森を抜けるにはどうすればいいかな?」 私は驚いた。私のお父さんに似ていて涙を流してしまった。そんな私を見て男の子が慌てている。 「あわわ!ごめんね!ゆっくりでいいから教えてくれると助かる……!」 男の子は私の頭をゆっくりと撫でて落ち着かせてくれた。この行動もお父さんにそっくり。 数分後。私は落ち着いて道を教えた。 「ここをまっすぐ行くと、苺の木がいっぱい生えてるところにつくから、そこを左に曲がると抜けれるはずです。」 「ありがとう!これで死なないね!」 男の子は嬉しそうな声を出す。 「ねぇねぇ!またここにきていいかな?君にまた会いたい!」 「もちろんいい…あ、いや……」 私は、いいよって言いそうになったけれど、あの天使のような生き物の顔が浮かんだ。見つかったら何をするか分からない。 「ここには…危険な生き物がいるから…来ちゃだめです。」 私は涙目になりながら話す。またこの子に会いたいけど、この子も私の両親のように殺されるのは嫌。私は俯く。 「じゃあなんで君はここにいるの?もしかして、その生き物に捕まってるの?」 私は、ハッと男の子の顔を見た。助けてと言いたいが、助けを求めるのが怖くて見つめることしかできなかった。そんな私を見て男の子は頷いた。 「分かった。君を助ける。またここに来るから待っててね!またね!」 混乱する私を置いて男の子は帰ってしまった。私は座り込んだ。 (この森から…解放…できるかな……) 数日後。私はあれから毎日、あの男の子と出会った場所に来ていた。あの生き物に怪しまれないように気をつけながら。いつも通り木の実を採っていると、声が聞こえた。 「やっと会えた!」 男の子が走ってくる。私は急いで木から降りると、男の子に抱きしめられた。 「え…!?」 「えへへ!びっくりした?君とぎゅーしたくて急いで来ちゃった!」 「え…あ……」 顔がどんどん熱くなる。こんな感情初めてだった。 「赤くてかわいい!あ、そうだ!お名前なんて言うの?僕は、りく!」 「私は…いろは…」 「いろはちゃん!かわいい名前だね!落ち着いたら遊ぼ!」 「は…はい……」 それから私達は、バレないように会い続けていた。そんな日々が続いて数年。 「ねぇ、いろは…必ずこの森から解放するから、その時に結婚しよう。それまで僕の恋人になってくれませんか?」 私は嬉しくて嬉しくて涙を流しながら返事をした。 「はい、喜んで…!」 「すぐ泣いちゃうところもかわいい♪」 私達は、お互いの唇を合わせた。こんなに幸せを感じたことがなかった私は、静かに泣き続けた。 そして、私達は18歳になった。するとある日突然、りくが言い出した。 「僕、街のみんなを説得できた。君と出会った時からずっと説得してたんだけど、こんなに時間かかると思ってなくて……街のみんなが明日ここに来る。その危険な生き物を倒してくれる!」 目を見開いてりくを見つめる。 「でも…あの生き物は何をするか分からない……きっと殺される……」 私は涙目になった。関係のない街の人達が殺されるのは嫌。それと、りくも殺されるかもしれない。 「大丈夫…みんな協力してくれて、強い剣士達を呼んでくれたんだ。きっと大丈夫。だから、今日と明日を乗り越えれば自由になれる。あと…」 りくがゆっくりとキスをして私の左薬指に指輪をはめた。 「やっと…一緒に人生を歩めるね!」 私はりくの胸に顔をうずめて泣いた。本当に嬉しくて幸せで泣くことしかできない。りくがゆっくりと私の頭を撫でる。そして、熱いキスをした。そのままりくに押し倒されて、愛を伝えあった。何もかも忘れて夢中になっていた。今まで見たことがない男らしいりくの顔がかっこいい。私は、幸せな人間だ。 そして、終わって休んだあと、お互い余韻が残ったまま帰った。家に入ると、あの生き物が真剣な顔をしていた。そして私に話しかける。 「ねぇ、こっちにきて」 「はい、お母様。」 私はゆっくりと近づく。 「そろそろあなたに名前を与える。そのために儀式をしなければならない。」 「儀式…ですか?」 「そう。地下に来なさい。」 私は少し強引に地下室へ連れて行かれた。 「お母様…これは……」 私に白いシンプルなドレスを着せた。 「儀式に必要な物だよ。あとはこれを付ける。」 私の両手首に鎖を付け、壁に縛り付けた。 「お母様…私怖いです……」 私は嫌な予感がした。全身が震える。 「怖くないよ。何も心配はいらない。」 私は涙を流す。けれど、この生き物はやめない。 「いや…私これ以上…いやです……いい子にしましたから…もうおしおきは……」 生き物は、怯える私の顔をじっと見つめる。 「おかあ…さま……」 「あの夫婦に似てるね。よくないことだよ。あなたの見た目は、人間には評判はいいかもしれないが、天空の国では駄目だよ。」 「な…なにを……するのですか……」 「私と一緒にするのよ。髪は白く、目は青色にね。痛いだろうけど、あなたなら大丈夫よ。見た目を変えてから名前を付けましょう。さぁ、始めましょうか。」 「いや…やめてください…!私は天使になりたくない…」 私は殺されると確信した。りくと人生を歩めない。りくより先に死んでしまう。 生き物は、自分の手を切って私に血を浴びせた。そして、マッチに火をつける。 「ひぃ…!やめてください!私は人間です!死んでしまいます……!」 私は全力で抵抗した。必死に暴れるけれど、鎖がびくともしない。 「あなたは私の子よ。死なないわ。」 そして… 「いやぁぁぁ!!りく…!ごめんな…さい…!わ…たし…やくそく……まもれ…な……」 マッチを落とされ、火に包まれた。全身が一気に燃え、激痛に襲われる。 私は、今までのりくとの思い出を振り返っていた。もう痛みを感じない。ただ、りくの顔を思い浮かべる。りくの温もり、りくの匂い、りくの優しい笑顔、りくの落ち着く声、りくの…… 「そうだわ。エリカにしましょう。いいわね、エリカ?」 私が最期に聞いた声は悪魔の声だった。意識が無くなり、首をカクンッと下に落とした。
摩訶不思議を愛してしまったわたし達#5
皆さんは、不気味なことは好きですか? このカフェ(なんでも屋)は、店長の雨音(あまね)と一緒に働く愛(らぶ)。 そして、色んな事情を抱えたお客さんが来るんです。 不気味でホラーで… 人の闇が見えたり… たまに大人向けなシーンがあったり…? そんなところで働いている私たちの物語を見てみませんか? きっと、たのしいかもしれません。 【第5話:バンド系配信者とヤバイ系信者】 私はカフェの椅子に座りながら今までの出来事を振り返っていた。お客さんからの依頼で危険な目にあうことはあるがそれとは関係なく、危険な目にあっている気がしている。何かに取り憑かれているのだろうか。 「今度お祓いしてもらうか…」 「やっと行くんですねー!」 独り言をつぶやくと愛が近づいてきた。 「そうですよー。命の危機が多くなってきてるのに平然と普通に過ごすからお祓いとかしないのかなーって思ってたんです!」 「気にかけてくれたんだね。」 「もちろんですよ!でもお祓いって高そうじゃないですかー。なので、これを見てください!」 愛がスマホの画面を見せてきた。画面を見ると、ギターでロックな曲を弾いている男の人が映っている動画が流れていた。動画の横にはコメント欄があり、たくさんの歓声が流れている。 「これがどうしたの…?」 「なんとなくですけど、こういうロックな曲を聞くと悪いものがどっか行きそうじゃないですか!なんとなくですけど!」 「愛…ただ単に、これを見せたかっただけじゃないの…?」 愛が誤魔化すように笑った。 (やっぱりそうだったのか…) 「でも店長ー。この人バンドやってて今すごくバズってるんですよー。性格も明るいし!本当にかっこいいんです!」 愛が楽しそうに話す。流行りとかに弱い私はよく分からない。もう一度動画を見てみる。[かっこいい!]とか[アンコール!]でコメント欄が埋め尽くされている中に[信者になりました!]とか[信者になって良かった!]などの[信者]という言葉が多い。 「愛、信者ってどういうこと…?」 「あー!愛ここで言う信者っていうのは、ファンネームのことですよ!」 「ファンネーム?」 「はい!普通は自分のファンのことは普通にファンと呼ぶけど、普通に呼ばないんです。自分でファンのことを別の言い方にしてるんです!なんとなく特別感がしますよね♪」 「なるほどね。面白い。」 「ですよね〜♪」 少しだが、この男の人に興味が湧いた。動画を見ているとなんとなくこの男の人について分かってくる。バンドをしていて、この男の人だけが配信者をしてバンドの宣伝などしているらしい。そして動画チャンネルの名前は、[コハクチャンネル]という普通な名前だ。この名前から分かるが、この男の人の名前は琥珀らしい。愛の言う通り、性格が明るく好かれやすいタイプなのはすぐに理解した。 それから私たちは、1日中コハクチャンネルを見続けた。愛はもう沼につかっているみたいだがそろそろ私もその沼に浸かりそうだ。今日はお客さんが来なくて良かったと思う。 ー数日後。 すっかり沼にハマった私は、琥珀がやっているバンドのグッズの缶バッジをひとつ買ってしまっていた。自分がこんなことをするとは予想していなかった。愛は缶バッジと他のグッズをテーブルに並べてウキウキしている。そんな時、カフェのドアが開く音がした。私達はドアを見る。そこには、 「すんませーん。ここなんでも屋っすよね?頼みたいんすけど。」 ギターを背負った琥珀がいた。スマホで見るよりかっこよく、背も高く感じる。私は冷静を保つために深呼吸をして席へ案内をする。 「い…いいらっしゃいませ…こちらへ…どぞ。」 ぎこちない声になってしまい顔が熱くなる。愛はポカンとしている。 「あれ、それバンドのグッズじゃないっすか。もしかして信者?だからそんなぎこちない声になったんすねw」 私の心に刺さる。私は冷静を保とうと頑張る。 「と、とりあえず…依頼はなんでしょうか?」 「面白い信者だなーwんで、そのことなんすけど、実は悪質な信者に付きまとわれててさ、生活しづらくてさー。警察とかに言ったんすけど見つからないらしくて。」 「それは…私達で見つけて逮捕してほしいってことですか?」 「そうそう。なんでも屋なんだから引き受けてくれるよな!」 琥珀が少し圧をかけてくる。沼にハマっているので断ることはできない。 「もちろんです。そんな信者はいなくなった方がいいです。」 「それいいねぇ!信者として最高じゃん。あ、ちなみにさ、この傷はその悪質な信者に刺されたんすよ。やばくね?」 そう言って琥珀は立ち上がり服をめくった。そこには、綺麗な筋肉質なお腹に包丁で刺されたような傷がついていた。とても痛々しい。 「は?絶対許せないー!もしかして、前に活動休止したのってそれのせいですかー!?」 愛が突然叫ぶ。 「びっくりしたwそうなんすよ。刺された時さ、包丁腹に刺さってんのに、逃げる悪質信者を追いかけたんだよwまぁ途中で倒れたけどな。」 琥珀が自慢げに話しながら服を整える。 「それもすごいし、平気に話す所もすごいです…」 「ありがとなぁ!んじゃ早速、ちゃんと自己紹介してからそいつの情報を話すわ。改めて、俺はバンドと配信者をやってる琥珀だ。よろしくな。」 琥珀は軽く頭を下げる。それに続いて私達も自己紹介をする。 「私は愛ですー!カフェで働いてますー!」 「私はここのカフェの店長をやってる雨音。よろしくお願いします。」 その後私達は、悪質な信者の写真などを見せてもらい特徴を確認した。そして計画を立てて今日は解散をした。 ー数日後。 私と愛は、今からライブをやる琥珀のバンドの会場の外に来ていた。 「店長〜もう1回計画の確認をお願いします〜!」 「まずライブ中の計画は、不審な人がいないか見張りをする。いたら警備員にすぐ伝える。これは当たり前のことだね。そしてライブが終わった後の出待ちの時が1番危険な時間。また包丁を持って来るかもしれないから、さっき警備員から渡された防犯用の電気ショックで素早く動きを止める。だけど、予想外なことが起きるかもしれないからその時は判断して動かないといけない。」 「ちゃんとライブに集中したかったです〜!」 愛がピョンピョンと跳ねる。 「しょうがないよ。お腹の傷見たでしょ?もう痛い思いしてほしくないなら我慢して。」 「はーい…あ、あと、このマイクがついた機械はなんですか?」 「それはトランシーバーだよ。何かあったり怪しい人がいたらそれですぐに教えて。」 「分かりましたー!」 ー数時間後。 ライブが始まった。ライブ中の観客は、喉がかれるような声を出している。それに答えるようにバンドの人達は盛り上げる。バンドのみんなかっこいいが、やっぱり目がいく先は琥珀だ。琥珀が歌い出すと歓声が増す。ギターを素早く弾きながら歌い、汗を流す琥珀は何よりもかっこいい。そう思えるほど迫力がすごい。だが、私達は見とれている場合ではない。人を1人ずつちゃんと見て警戒をする。すると、トランシーバーから声がした。 「怪しい人がいましたー!目が合った途端逃げた人がいます!今ライブの裏で追いかけてます!」 走る音とともに愛の息切れた声が響く。私は急いでライブの裏へ走る。 それからずっとライブ裏を走り回って探したが、愛も怪しい人もいない。そのままライブは終わってしまった。他のスタッフや警備員に愛のことを尋ねたが、誰も見ていないらしい。愛が戻ってくることを信じて出待ちのところで待機することにした。 しばらくして、琥珀達が出てきて信者たちに手を振ったりしている。その時、後ろから走る音が聞こえた。急いで振り返ると包丁を持った女の人が琥珀に向かって突進してきた。私は女の人の首に電気ショックを当てようとしたが、腰に激しい電流が流れて私は倒れ込んだ。地面に叩きつけられた機械を見ると愛が持っていた電気ショックだ。嫌な予感が頭をよぎる。 「いやだー!離して!」 女の人の叫び声が聞こえる。見てみると、警備員に取り押さえられていた。 「お前達!早く車に乗れ!」 琥珀がバンドのメンバーを車に乗せた。その瞬間、車が爆発して燃え始める。バンドのメンバー達が体中炎に包まれながら外に出てくる。次々と琥珀へ手を伸ばし倒れていくメンバー達。琥珀は真顔で燃え朽ちていくメンバー達を見つめる。きっと混乱してるのだろう。私は電気ショックを受けて身動きが取れない。ただその光景を見ているしかなかった。 ー数時間後。 救急車や警察が来て黒くなったメンバー達や悪質な信者、琥珀はライブ会場からいなくなっていた。愛は、警察にライブの裏のロッカーに閉じ込められているところを発見してもらい無事だった。私も痺れがとれて無事だった。そして、次の日からのニュースはこの事件ばかりだった。悪質なファンの犯行、車から炎が出て琥珀以外のメンバー全員死亡。車の炎上は悪質なファンの仕業らしい。ライブ前に時限爆弾を仕掛けていたみたいだ。バンドはもちろん解散。そんな事件がニュースから薄れていった頃、カフェのドアが開く音がした。気持ちが凹んでいた私たちはゆっくりとドアの方を見る。そこには、 「久しぶりだな!」 琥珀が立っていた。最初に会った時よりなんだが明るく感じる。 「久しぶりです。もう大丈夫なんですか…?」 私は恐る恐る琥珀に聞く。 「まぁ悲しいけどもう立ち直れたんで。あの悪質な元信者のスイッチ1個のせいで燃えるなんて…人の命なんてあっという間だな。」 「…ねぇ、あの悪質なファンってどうやって車を爆発させたか分かります…?」 私は琥珀に質問をする。 「ん?時限爆弾だろ?ニュースにもなってたはずだ。」 愛は、さっきの琥珀の言葉の違和感に気づき、口を手で抑える。 「そう、時限爆弾…時限爆弾は時間をセットして仕掛ければいいだけ。スイッチ1個なんていらない…だよね、琥珀さん…?」 私は琥珀を見つめる。琥珀はポカンとした。だが、顔を上に向けて高笑いした。 「あはは!やっぱオモロいわーwつい口が滑っちゃったじゃんかwやっと警察とかから解放されたんだけどなぁ……んで、通報すんの?」 琥珀が立ちながら、狩りをする虎のような鋭い目付きで笑い、私を見下ろす。私はゆっくりと口を開く。 「私はその辺の人間じゃないから通報しない。平気でメンバー達を灰にするような面白い人間なんて特にね。そんな面白い人間を真面目な警察なんかに渡すなんてもったいない。もっと面白いことをしてくれるかもだから。」 私は余裕な顔つきで琥珀を見る。 「ふーん?いいのかそれで?お前のことも灰にするかもしれないんだぞ?」 「自分の死は自分で終わらせたい主義だからもし灰にするならこうするよ。」 私はテーブルに置いてあったハサミを自分の喉に突き立てる。琥珀はニヤリと笑う。 「すごい気に入ったわ。そのハサミを本当に自分の喉に刺すかは置いといて、その考えが気に入った。お前達のことは殺さねぇから安心しろよ。」 琥珀が優しい笑顔になる。それを見た私はハサミをテーブルに置く。 「それでさ雨音さん、俺さここで働きたいんだけど。」 「はぁー!?人殺しの人なんて無理です!店長!さすがにこの人は入れないですよね!?」 愛が私の肩を揺らしながら必死に話す。 「えぇー?でもさぁ、俺の信者なんだろ?むしろ嬉しいだろw」 琥珀が半笑いで話す。 「もう信者じゃないですから!あと最初の時、〜っすね!っていう口調だったのに変じゃないですか!」 「あー最初は丁寧な方がいいよなって思ってそれにしてたんだよ。」 「どこが丁寧なんですか!」 「てかさ、雨音さんは俺を採用すんの?しねぇの?」 2人が私を見る。私はゆっくり口を開く。 「実は琥珀と同じ気持ちだったんだよね。これからさきも面白いことを見せてくれるなら……」 「え…店長……?」 愛が不安そうに声を出す。それを遮るように私は言う。 「これからよろしくね。琥珀。」 琥珀はガッツポーズをして喜ぶ。愛はなんでと言いながら私の肩を揺らし続ける。 これからは3人でこのカフェをやっていく。私は楽しみでしょうがなかった。
摩訶不思議を愛してしまったわたし達#4
皆さんは、不気味なことは好きですか? このカフェ(なんでも屋)は、 色んな事情を抱えたお客さんが来るんです。 不気味でホラーで… 人の闇が見えたり… たまに大人向けなシーンがあったり…? そんなところで働いている私たちの物語を見てみませんか? きっと、たのしいかもしれません。 【第四話:あの道世の道あの世の道】 前回の依頼から数日経ったある日、私は買い出しのために外へ出ていた。暑い日差しに照らされながらレジ袋を片手にとぼとぼと歩いていた。 (この暑さ異常でしょ…水分補給しないと流石に死ぬ…) そう思い、辺りを見渡した。見た限り自動販売機もコンビニも無い。最悪だ。帰り道に水分補給ができる場所があるのを祈りながら歩く。 ー数十分後。 公園が見え始めた。水道があるかもしれないと思い公園に入る。暑すぎるからか、人が一人もいない。人目を気にせずに水分補給ができる。蛇口を捻り水道水を喉に流し込む。あまり美味しくはないがしょうがない。蛇口を閉めてレジ袋を持ち、後ろを振り返った。 「…は?なにこれ……」 私は目を疑った。私の目の前には、さっきまでいた場所とは違う景色になっていた。赤い地面が遠くまで一面に広がっている。蛇口の方へ目をやると、蛇口はそのまま残っていた。まるで異世界へ飛ばされた感じた。とりあえず私は歩くことにした。 ー三十分後。 歩き続けたが、景色は変わらない。ずっと赤い地面が続いているだけ。だが疲れはない。ずっと歩いているのに疲れを感じないのはおかしい。しかもさっきまで猛暑だったはずなのに暑さもない。それと寒さもない。居心地がいいのが逆に気持ち悪い。すると、遠くで歌声が聞こえてきた。引き寄せられるように歌のする方へ走る。助けを求められるかもしれない。私は全力で走る。 歌声がするところへ着いた。そこには、 「あの世〜あの世〜♪この道渡れば楽に逝く〜♪あの世〜あの世〜♪この道渡れば楽にバララ〜♪あの世〜あの世〜♪」 大きな円になって手を繋ぎ、ゆっくりクルクルと回りながら歌う大勢の人がいた。後ろからも歌が聞こえ始めた。私は後ろを見る。 「あの世〜あの世〜♪極楽逝くには身体は要らぬ〜♪あの世〜あの世〜♪極楽着くには胴体要らぬ〜♪」 後ろには先が見えないほどの長い列を作り、歌い歩き続ける足達があった。いつの間に私の後ろに列を作ったのだろうか。さっきまでこの列は無かったはずだ。私はこの場から離れようと足を前に出す。すると手を引っ張られた。振り返ると、白いワンピースを着た可愛らしい女の子がいた。 「なんで逃げるの?ここは楽園…そう!楽園だよ!たのしいたのしい極楽浄土!みんなたのしいしあわせたくさん!逃げちゃだめ!逃げちゃだめ逃げちゃだめ逃げちゃだめ……」 逃げちゃだめと言い続ける女の子の皮膚や体の肉がアイスのように徐々に溶けていく。そして、女の子の骨が地面に散らばる。 「絶対これ夢だよね……早く目を覚まさないと頭がおかしくなる。」 私は全力で走って逃げた。 走っていると湖が見えた。近づいてみると、透き通った綺麗な湖だ。走って汗が流れているのでそのまま湖へ入った。 「ふぅ…冷たくて気持ちいい……」 水浴びをしているとお腹に何かが突き刺さる痛みが走った。お腹を見てみると、 「骨…私のお腹に刺さって……」 骨が私のお腹を貫通していた。綺麗だった湖が赤黒くドロドロした液体になっていく。沼にハマったみたいに身動きが取れない。 「にげちゃダメって言った……言ったよねぇ!」 前を見ると、さっきの女の子が半分溶けながら私を見ていた。お腹に刺さっている骨はあの女の子の骨だろうか。 「ここは楽園!しあわせたくさん!逃げるなんてもったいない!身体なんていらなくなるぐらいしあわせなの!絶対逃がさない!あなたの身体なんて捨ててやる!」 すると、赤黒くてドロドロした湖の底へ落ちた。 落ちたというより、引きずられた感覚がした。生臭くドロドロした液体に包み込まれ、息ができない。息をしようと口を開けるが、液体が口の中に入るだけだ。しかも、口いっぱいに肉が腐ったような味と鉄の味が広がる。思わず吐き気が襲う。液体の中でもがき苦しんでいると、何者かの手で上に引きずられた。地面に転がる。急いで口に入っている液体を吐き、息を吸う。口の中はまだあの最悪な味がする。ゆっくり目を開けると目の前には、首の無い胴体が私を囲んでいた。そして、手を繋いで円を描くように私の周りをゆっくりと回り始める。ここに来る前のあの光景に似ている。 「うっ、ゲホゲホ!」 私の口から大量の血が吹き出した。あの液体と同じ味。痛みが無くなっていき、私の身体がゆっくりと溶けだしていく。それを自覚した私はとても幸せな気分になっていた。 「ふふ…あはははっ!ここは天国だ!もう身体なんていらない!全部ぜーんぶ溶けちまえ!」 私は笑って叫ぶ。こんな幸せな気分はもう止められない。半分ドロドロな自分の身体を無理やり立たせて笑う。 「あはははは!!!」 「店長さん!」 私は目を開ける。愛が怒った声で私を呼ぶ。 「なんで公園のど真ん中で寝ているんですかー!今日真夏ですよ!?水道の水は出しっぱなしですし!」 私は体を起こす。あれは夢だったのだろうか。 「本当に心配したんですからね!もう帰りますよ!」 愛が私の手を握り歩き始める。もうあまり考えないでおこう。ただひとつ気になる。 (私の口の中…なんで生臭いんだ……)
捨てられた神様とメガネ男子#3
ソラ、ハル、ナギが住み始めて数日が経っていた。人間の生活に慣れない日が続いたが、なんとか人間っぽい生活になってきていた。 「僕、水族館?に行ってみたーい」 ソラがチラシを見てゴロゴロしながら話し始めた。すると、 「水族館ってソラが行ったらだめなところじゃねぇの?」 ソラの隣で寝ていたはずのハルがいきなり話し始めた。 「わぁ!?ハル!いつから起きてたの!」 ソラがびっくりしてチラシを破く。 「今。」 ハルはすぐに目を閉じた。今日は休日だから水族館に行ってもいいのかもしれない。そう思い、三人に提案を出す。 「今から水族館に行く…?」 ソラとナギが目を輝かせて僕に近寄ってきた。 「本当にいいんですか!私行ってみたかったから嬉しい…!」 「良かったねナギ〜!僕も嬉しい!早速行こう!」 僕達はすぐに準備をして水族館へ向かった。 ー水族館 「水族館ってこんなふうになってるんだな。すげぇ…」 ハルが水槽に手を当てて話す。ソラを見てみると、いつもより大人しくなっていた。僕はソラに声をかける。 「ソラ、どうしたの?」 「ここにいる子達は安全だね。」 ソラは水槽をじっと見ながら口を開く。 「ちゃんとご飯も食べられて、手当てもされて…幸せそうだね。僕達とは違う…でも今は、ご飯食べれて家もある、それだけで幸せだよ!」 ソラは僕に向かって少し悲しそうな笑顔になった。三人の過去のことで何かあったのだろうか。気になるが、今は水族館を楽しむことにした。 水族館のお土産屋さんでソラがタコのぬいぐるみが欲しいと騒いだので買って帰った。なんだか子供みたいだ。家に帰った僕達はご飯とお風呂を済ませ、寝ることにした。僕は自分の寝室のベットに腰をかける。すると、ハルが入ってきた。 「急なんだけど、ちょっと話があるんだ。今いいか?」 いつもゴロゴロしているハルと違って真剣な顔だ。 「いいよ。僕の隣においで?」 僕はハルを隣に座らせる。そして、ハルが話し始めた。 「そういえば言ってなかったなぁって思って、俺達の過去…」 「聞いても大丈夫なの…?」 僕は心配になり聞いてみる。 「大丈夫、二人に許可もらった。露に話してもきっと大丈夫ってなったから。」 「そうか。なら、聞かせてほしいな。」 ハルの目をみつめる。ハルはゆっくりと口を開いた。 「俺達は生まれた時から他の神から気味悪がられてるんだ。俺は吸血鬼とカラスのハーフ…半分悪魔の血が入ってる。ソラはタコと雷神、タコは昔から海の悪魔と言い伝えられているんだ。そのせいか、ソラにも悪魔の血が入っていると言われて気味悪がられてる。そんな俺ら二人は、ある森で出会ったんだ。目が合った時に感じた、似たもの同士だってね。」 ハルの顔が微かに明るくなる。嬉しそうだ。 「ナギも気味悪がられてるの…?」 「悲しいけどそうだ。ナギは、神達のせいで両親を失った。」 「…え?両親を……?」 僕は固まりハルを見つめる。 「両親は生まれたばかりのナギを連れて森に遊びに来ていたんだ。そこで神達の争いに巻き込まれて両親は亡くなった。その現場を俺達は見ていた。助けたかったが力が無くて無理だった。」 ハルがうつむいて目に涙を浮かべる。 「ナギの母親の腕の中から赤ちゃんの声がして駆け寄って見てみたら、ナギがいたんだ。怪我ひとつなかった。本当に愛されてたんだな。守れなかった責任をもってナギを育てることにしたんだ。でも、神と人間は一緒には暮らせない。だから俺達はナギのためにも神達から距離をとって一緒に暮らしてたんだ。そしたら神達の争いがまたきて家がなくなってこうなった。」 僕は呆然としていた。神様は優しくて心穏やかなイメージだったのでびっくりしていた。神様が嫌いになりそうだ。 「そうだったんだね…辛かったよね……ここは安全だから好きなだけここにいていいから。」 これは今の僕にできる精一杯の言葉だ。この三人には幸せになってほしい。少しでも心の傷が癒えればそれでいい。 「ありがとうな。露に出会えて良かった。寝る前なのに暗い話してごめんな。俺は寝るよ。んじゃ、おやすみ。」 ハルは安心したような顔つきで部屋を出て行く。僕はベットに横になって目を閉じる。 (三人の過去を聞けてよかった…それだけ信頼されてるってことだよね……) 僕は眠りについた。 ー次の日。 「僕のビリビリ触手がまた生えたー!」 「なんか私の体がビリビリするよ〜!」 「露すまん、翼を出したまま寝てたみたいだ。羽散らばってる。」 最近は良くなってきていたのにまたリビングが大変なことになっていた。 「はぁ…みんなで大掃除するよ!」 僕達の生活はまだまだ続く。
捨てられた神様とメガネ男子#2
「おっと、大きな声出せるんだね!元気いっぱいだ!」 ソラが陽気に話す。 「なんで戻ってきてるんですか…不法侵入ですよ?」 僕は呆れたように話した。するとハルが、呆れた僕を見て口を開く。 「俺達は神だから法律とか知らねぇんだわ。すまんなぁ。」 ハルが白々しい顔をする。 「確かにそうですけど…人間のルールも守ってくださいよ……玄関直すの大変だったんですから。」 「あー…そういえば壊してたな。その分なんかで返す。」 「やだぁえっちじゃん♪」 ソラが急に口を開く。 「どこがだよ!」 「いてて…急に頭叩くなんて!暴力はんたーい!」 「軽くだろ。まったく…」 神様とはいえ、家に居られるのは困る。しかも、人間の暮らしとか分かるのだろうか。一緒に住める気がしない。僕はまた断ろうと口を開こうとした途端、ナギが僕に近寄ってきた。 「えっと…どうしました?」 「お願いします!せめてソラとハルだけでもここに住まわせてください!」 「いや…その……」 (正直に言えば、あの二人の方が嫌なんだが……) 本音が出そうになったが、何されるか分からないのでギリギリで口を閉じた。 「いやいやいや、俺たちよりナギの方がこの家にいるべきだろ。」 「そうだよー!ナギがここに住みな!僕達は屋根とかで住むからね!」 やっぱりここに住まわせたらダメだ。はっきり言ってやらないといけない。 「すみませんが、本当にここには住まわせることができないので他のところに行ってください!」 三人が驚いた顔をして立ち上がり、僕の家から出て行った。 「え?急に?は…?」 とりあえず僕は、何か盗まれていないか確認した。 「ナギさんが着ていた和服は持ち帰ったな…そこは良かった。」 確認し終わってまたいつもの生活に戻った。 (いや、また来そうだな…) ー次の日の朝。 今日は学校休みの日なので久しぶりに散歩をしていた。朝の空気は気持ちがいい。ゆっくり歩いていると人の悲鳴が聞こえた。上を見ると、僕に向かって大きな木が倒れてきた。僕は素早く避ける。怪我はしなかった。 (運動神経良くてよかった。) ー数十分後。 僕はゆっくり歩いていた。すると、人の助けを呼ぶ声が聞こえた。声の方を見ると、女の人が道で倒れて叫んでいる。女の人の視線の先には黒いパーカーを着た人がカバンを持って走っている。盗まれたのだろう。僕は近くに落ちていたサッカーボールを手に取って黒いパーカーの人に向かって思いっきり投げた。そして黒いパーカーの人の背中に命中し倒れた。そのまま動かない。僕は散歩を続けることにした。 ーまた数十分後。 また人の悲鳴が聞こえ上を見ると、僕に向かって大きな木が倒れてきた。また素早く避ける。そしてまた木が倒れてきて避ける。それが何回か続いた。 (…怪しい) 視線を感じて後ろを向くと、三人の影が見えた。何をしているんだろうか。僕は三人に近づく。 「三人とも何をしてるんですか?」 三人は視線を逸らす。 「いやぁ…露君の身が危ない時に僕達が助けたら家に住まわせてくれるかなぁ…って思って…えへへ…」 ソラがビクビクしながら話した。 「倒した木はちゃんと直したんですか?」 「俺達の知り合いの神に頼んでる……」 「便利ですね神様って…」 直してくれる神様がいるとはいえ、僕が住んでる周りを壊されるのは困る。 「しょうがないから住んでいいですよ。」 僕は渋々受け入れた。 「良かったぁ!ハル!ナギ!僕達人間に勝ったよー!」 三人はとても嬉しそうな顔をしている。なんだが微笑ましい。僕達はそのまま家に帰った。一通り家の事や買い物の仕方など三人に教えて夜になった。寝るところがまだ無いので、三人にはリビングに毛布をひいて寝てもらった。夜中にふと起きた僕はリビングで寝ている三人の様子を見に行った。そこには、 「寝てれば三人とも可愛いんだけどなぁ…」 ソラとナギは手を繋いで寝ていた。ハルは二人の方を向いて寝ている。僕はそっと寝室に入り眠りについた。 ー次の日の朝。 「あ、露君おはよ〜!」 「露、おはよ。」 「おはようございます!」 「三人ともおはよ…え?」 リビングを見てみると、タコの触手が何本か生えていたり、カラスの羽が散らばっていた。悲惨なリビングだ。 「…次から気をつけましょう。」 僕は冷静になって声をかけた。ソラとハルが気まずそうに返事をした。僕達四人は、朝からバタバタと掃除をして、僕は学校へ急いで登校をした。 (本当に住まわせて良かったのかな……) 僕は授業中に頭を抱えてしまった。 (余談↓) 露が散歩をしている時にサッカーボールで命中させた黒いパーカーの正体はハルです!あの後、素早く女の人にカバンを返して去ったそうです。少しの間、サッカーボールが当たったところをさすっていたらしい…
捨てられた神とメガネ男子
【始まり】 ーポツポツ… 雨が降り始めた。僕はそっと傘を差す。今日は六月一日の土曜日、梅雨の時期。雨が降る中僕は、本屋で本を買い、帰り道を歩いていた。ふと海を見ると、和服を着ていて綺麗な青色の長い髪をした女の子が砂浜で倒れていた。この瞬間から僕の人生は大きく変わってゆく。 【第1話:三人の神】 僕は慌てて砂浜へ行き女の子のそばに駆け寄り息をしているか確かめた。 「すぅー……すぅー……」 「よかった…息はしてる。もしもし、大丈夫ですか!」 僕は女の子の肩を軽く揺らしながら声をかける。返事はない。服は濡れているし体調を悪くしているかもしれない。救急車を呼ぼうとスマホを出した瞬間、 「あなたは……人間…?」 女の子が起き上がり僕を見て問いかけてきた。僕はほっとする。 「体調は大丈夫ですか?念の為に救急車を呼ぶので病院に行きましょう。」 すると女の子は慌てた様子で声を上げる。 「それは嫌です!人間の手当なんかいらない…!」 女の子は立ち上がり海の方へ走る。けれど、すぐに転んでしまった。 「危ないので動かないで!」 僕は女の子のそばへ行く。女の子は転んだまま動かない。 (この子はなんだ……) しばらくするとゆっくり起き上がり、僕を見つめて口を開いた。 「よければですが…あなたの家で休ませてほしいです……すぐに帰りますので…」 警戒心が強い僕は断りたかったが、ほっとくのも嫌なので渋々家に連れていった。 ー露の家 シャワーを浴びるように女の子に伝え、僕は自分の部屋のベットで横になっていた。 「なんでこんなことに…できるだけ早く帰らせよう……」 そんなことを考えていると、インターホンが鳴った。身に覚えのない時は出ないので無視をした。すると、 ードカーン!! 「は!?」 玄関から何かが壊された音がした。びっくりして僕は立ち上がる。そして僕の部屋のドアがゆっくり開いた。そこには、 「なぁ、お前が誘拐したやつか?ナギを返せ。」 紺色の髪で綺麗な赤色の瞳の男子が立っていた。殺気が出ている。僕は腰が抜けてベットに座った。赤い瞳の男子が僕に近寄り僕を押し倒した。両肩を抑えられる。 「答えろ。ナギはどこだ。」 殺されると思った僕は思わず、 「ふんっ!」 「え?うわ!?」 男子を投げ飛ばしていた。壁に投げ飛ばされた男子は床に転がる。 「人間…だろ?強すぎねぇか……」 「勝手に人の家に入らないでください!警察呼びます!」 僕はスマホを取り出し画面を見る。だが、電源が入らない。何回やってもダメだ。おかしい。 「あら〜ハルが人間にやられてる〜やばいねぇ笑」 部屋に紫色のボブヘアーで黄色の瞳をした女の子が入ってきた。僕は固まる。 「そこの人間さんや、スマホは使えないよ〜僕がすこーし電気を操ったからね!それにしてもナギちゃんの姿が見当たらないね〜。どこにいるか知ってますー?」 女の子が僕に優しく声をかける。殺気はない。 「青色の髪の子はシャワーを浴びてますよ。」 「なら助けてくれたのかな!ありがとうございます人間さん♪」 僕に微笑む。明るい人なのかもしれない。廊下から足音が聞こえてきた。 「あの…着替えがないんですけど……」 シャワーから上がりバスタオルを巻いた青色の髪の女の子が来た。思わず僕は顔を隠す。 「ナギ!会いたかったよぉ!」 「びっくりした!ソラ、そんなに抱きしめたら痛いよー」 「えへへ♪ごめんね!着替えね…ハル〜買ってきてよ〜」 男子が起き上がる音が聞こえた。 「しょうがねぇな…帰ってくるまでここにいなよ。」 外へ行く足音が聞こえる。 (僕はどうすれば……) 「ナギ、とりあえず違う部屋に行ってね!僕はこの人間と話すよ!」 「うん、分かった。」 「人間さん、もう大丈夫だよ〜」 僕はゆっくりと手を下ろす。紫色の髪の女の子が見つめてきた。 「急展開でごめんね!それと、僕たちのこと警察に言ったら君の命無くなっちゃうから気をつけてね!」 笑顔で話す。僕は混乱していた。女の子は僕が落ち着くまで待ってくれた。 数分後、 「落ち着いたかな?」 「はい。なんとか落ち着きました…とりあえずあなたたちは誰ですか?」 恐る恐る話しかける。心臓の音が早くなる。 「まずそこだよね〜。驚かないで聞いてね!僕達は……神様なのです!」 「…え?」 自信満々に言うところは可愛いと思うが、何を言っているか分からない。 「だから神様なんだよ〜信じられないか…じゃあ、この姿を見れば分かるかな?」 女の子は目を閉じる。すると、女の子の周りに電流が走り始め、床からタコの触手が生えた。触手もビリビリしている。 「僕は、タコ神と雷神のハーフのソラだよ!よろしくね!」 ソラはピースをして決めポーズをする。僕は固まる。 「ありゃま!大丈夫かーい人間さんやー」 電流が走っていない触手でほっぺをつつかれる。少しヌメヌメする。 「本当に…神様なんだ……」 「買ってきたぞ。」 部屋に先程の男子が入ってきた。もう勝手に出入りされている。 「いいところに!僕の自己紹介は終わったからハルもしてね!」 ソラが男子の肩を揺らす。 「めんどくさいけどするしかないんだろうな。ちょっと待っててくれ。」 そして男子は、背中からカラスのような漆黒の翼を生やした。赤い瞳がもっと赤く光る。すごくかっこいい。 「俺はハル。吸血鬼とカラスのハーフ。」 かっこよすぎて僕は声が出なかった。 (本当にこんな生き物がいるんだ…!) 「じゃあ僕はナギに服を届けてくるね!」 ソラは走って出て行く。ハルは僕の隣に座る。 「さっきはすまん。ピリピリしてて押し倒してしまった……」 素直に謝ってきた。 「大丈夫ですよ。僕の方こそ投げ飛ばしてすみません。」 「いいよ、いい投げだった。人間にしてはすごい。」 最初は少し怖かったが、素直なハルを見て少し見とれていた。 「見て!ナギ可愛いよ♪」 声のする方を見ると、青と白色のワンピースを着た可愛い女の子がいた。 「照れちゃうよ……」 「大丈夫大丈夫♪じゃあ、ナギも自己紹介お願いね!」 「分かった。」 女の子は僕の前に来て自己紹介をする。 「助けていただいてありがとうございました。私はナギと言います。」 丁寧に自己紹介をしてくれたが疑問がある。 「ナギさんは神様ではないのですか?」 ナギは驚いた顔をした途端に悲しい顔をした。 「あ、失礼だったならすみません!」 僕はすぐに謝る。ナギは首を横に振った。 「いいえ、私は確かに人間です。ですが、生まれた時から神様達のそばで生活をしております。神様になりきれない者ですね。」 悲しい笑顔で答える。聞いてはいけない質問だったのだろう。 「ナギは普通の人間じゃないからね!ほぼ神様だよ!自信持ってねっ」 「ありがとうソラ…」 ソラがナギを優しく抱きしめる。僕は申し訳ないことをしてしまった。僕のことを察したようにハルが口を挟む。 「んで、神様たちの戦いで俺たちの家無くなったけど、これからどこで暮らす?しばらくは身を隠してた方がいい。」 「そうだね。そこで僕思いついたんだけど…」 ソラが僕を見る。なんとなく察しがつく。 (ここに住まわせてほしいってことだ……) 「人間さん…お願いしますっ!」 「ですよね……僕は一人暮らしなので部屋は余ってますけど、まだ出会ったばっかりの人達はさすがに無理です。今日は帰ってください。」 はっきりと断った。そうしないと分かってくれないと思うからだ。あと、後々面倒なことになりそう。 「そりゃそうだよな。ソラとナギ、とりあえずどっか行くぞ。今日はありがとうな。」 「ナギ行こっか。色々とありがとうね人間さん!」 「本当にありがとうございました。」 三人はすぐに出て行ってしまった。残ったのは壊れた玄関と、雨で濡れたナギの服だけだ。今から大家さんのところに行ってなんとか説明をして直してもらおう。 「めんどくさいことになった……」 ー数日後。 なんとかドアを直してもらっていつも通りの生活を過ごしていた。学校から帰って家に入ると聞き覚えのある声が聞こえた。走ってリビングに行くと、ソラとナギとハルが床に座っていた。三人とも僕を見る。 「久しぶりだね!僕たちだよ!おかえりなさいー!」 陽気にソラが声を出す。僕も声を出す。 「おかえりなさいじゃないー!」 いつも通りの生活が戻ってこない気がするのは気のせいだろうか。
摩訶不思議を愛してしまったわたし達#3
皆さんは、不気味なことは好きですか? このカフェ(なんでも屋)は、 色んな事情を抱えたお客さんが来るんです。 不気味でホラーで… 人の闇が見えたり… たまに大人向けなシーンがあったり…? そんなところで働いている私たちの物語を見てみませんか? きっと、たのしいかもしれません。 【第三話:巡り廻る】 前回の依頼から、体を張るような依頼を避けるために一時的に店を閉じることにした。私達は退屈でしょうがなかった。外に出て気分転換をしたいが、店を閉めているのでお金を節約をしないといけない。散歩ぐらいならできると思うが、欲しいものを見てしまったら辛いので毎日テレビを見たり、ゲームをしたりしていた。そんなある日、愛が私に提案をしてきた。 「雨音店長〜!私、頭がどうにかなりそうです〜!なので!お散歩しましょ!」 「愛は外に出ると欲しい物が増えて買っちゃうでしょ?今はお金を節約しないといけない。」 「我慢しますから〜!行きましょ!もう準備できたので!」 「しょうがないなぁ。ちょっとだけだよ。」 私はちょっとだけと言ったはずだ。なのに、愛がもっと外にいたいと言うのでもう三時間も外を歩いている。そして愛は珍しく買い物を我慢している。 「外を歩いて三時間ぐらいだよ。しかも今日は真夏……楽しいの…?」 私は愛の方を見て疲れた声で話す。 「雨音店長といればどこでも楽しいですよ〜♪あ!あそこに神社の入口があります〜!少し行きましょ〜」 愛が私の手を引っ張りながら神社へ入る。 (何が楽しいんだか……) 一通り神社を見て帰ることにした。鳥居を潜り、家へ帰る。帰る途中で、空から雪が降ってきた。私は自分の目を疑った。今日は真夏のはずだ。愛を見ると嬉しそうに雪を眺めていた。 「わぁ〜!雪ですよ〜!綺麗です〜♪」 「…え?」 「雨音店長どうしましたか〜?」 愛は不思議そうに私を見る。 「愛…今日、何月何日だっけ……?」 私は恐る恐る聞いてみる。 「今日は確か〜……4月25日ですよ〜」 「え?4月……?」 「そうですよ〜?」 「4月に雪?それもおかしいけど、本当は真夏のはず……」 「雨音店長…?歩きすぎて疲れちゃいましたか〜?早く帰りましょうか。」 混乱している私の手を引っ張りながら歩き出す愛。私はパニックになりながら店に着いてしまった。 「雨音店長が好きなココア作りますね〜」 私は違和感に気づいた。私が好きな飲み物はカフェオレとカフェラテだ。愛が間違えるはずがない。 (この愛は偽者……) ということは、この場所も偽物だろう。 「あぁ、ありがとう。」 この偽者に何をされるか分からないので、とりあえず合わせることにした。私はどうやったら戻れるんだ。 そして、いつの間にか夜になってベッドに寝っ転がっていた。この場所は時間の流れが早い。なので、探索したいが時間が短すぎる。私は考えてる間に眠りについてしまった。 朝になって私は目が覚めた。 (夜の時間も短いからか、ぐっすり寝れなかった……) 重たい体を起こして着替えて外へ出る。街の見た目は変わらない。変わっているのは、時間や季節、愛ぐらいだろうか。なぜこんなことになったのか何も分からない。私は街を調べることにした。 数時間後。結局何も分からずに終わってしまった。時間が短すぎて何もできない。今日も偽者な愛と話して眠りについてしまった。 そんな日がどのぐらい続いたのだろうか。睡眠時間は少なく、季節は何十回も変わり、生活習慣も崩れ始めて私の体に限界を感じてきた。どこへ行っても何も分からない。なぜこんなことに。 「やばい…倒れる……」 真冬の中、私は雪の上で倒れる。 「何も分からないまま死ぬのは嫌だな……」 そんなことを思いながら私はゆっくりと目を閉じる。すると、走ってくる足音が聞こえた。目を開けると、愛の姿があった。 (でもこれは愛じゃない…偽者……) 急に太陽の光が強くなり、雪を溶かした。これも何十回も体験したので驚かない。温度差にまたやられる。なんとなく偽者の愛を見ると、そこには愛じゃない人が包丁を持って立っていた。黒い長い髪の女性。 「イマナラ…サセル……ユルサナイ。ワタシノオットヲカエシテ……」 女性は包丁を高く持ち上げて私の方へ素早く振り下ろす。背中に強い痛みが走った。けれど、体が動かない。すっかり弱ってしまった体は、女性に抵抗するのを諦めているのだろう。地面が雪解け水と私の血で染まっていく。少し綺麗に感じた。そんなことを考えている間に何十回も刺されていた。もう痛みも感じない。これで人生は終わりだと思っていたが、いつまでたっても死ねない。これだけ血を流しても、痛みを感じなくなるまで刺されても、わたしはずっと生きている。でも、体は動かない。 (地獄…だな…) 刺されている感覚はあるのに痛みは感じない。この感覚が気持ち悪くてしょうがない。気持ち悪く、吐き気がして吐いたが、血が出るだけ。 この状況のまま何日も過ごしていた。ずっと刺し続ける女性と、それを受け続ける私。きっと、私の背中にはぽっかりと穴が空いているだろう。私は、血の混じった涙を流すしかない。 「ゔぅ……アァァ!」 すると、急に女性の体から炎が出てきて女性の体を燃やし始めた。一瞬にして灰に変わってしまった。それと同時に、季節が真夏になり、私は神社の鳥居の下で倒れていた。痛みも血も涙も無くなっている。そして、相変わらず体は動かない。目の前には、白い着物を着た愛が泣きながら御札のような紙切れを握りしめていた。紙切れの一部が焦げている。 「ら…ぶ……?私は……なんで……」 私は頑張って声を出して愛に話す。 「雨音店長〜!良かった!生きてた!!」 号泣しながら私に抱きつく。しばらくして、救急車に乗せられて病院へ行った。栄養失調と睡眠不足のため、少しの間入院することになった。また入院とは運がむいてないと思う。 回復した私は、店へ戻って愛から話を聞いた。 「あの時神社へ行ったじゃないですか…あの神社…呪われていたらしくて…帰る時に鳥居を潜ると、意識が一瞬で別の世界に飛んで悪夢を見続けるということが過去に何人のも人が経験しているみたいです。そして、死者もいたみたいです……雨音店長が倒れた時にこの前の霊媒師の澪生さんが通りかかったので話を聞いて、雨音店長を救う儀式を何日もやり続けました。そしたら雨音店長が目を覚ましたので…本当に良かったです……!!」 「そうだったんだね…ありがとう愛。愛のおかげだね。」 私はそっと愛を抱きしめる。愛がいなかったら今の私はいない。そう思うと抱きしめたくなった。 「雨音店長〜!頭打ちました!?それともまだ呪われてます!?塩まきましょうか!?」 「失礼だなぁ。感謝してるんだよ…?」 「うぅ!本当に!雨音店長のばか〜!いつも心配させて〜!」 愛も私を抱きしめる。今は癒されていよう。 ただ、ひとつ疑問がある。 なぜ愛は、真夏の日に三時間も歩いたのか。そして、愛の行動を思い返してみると、最初からあの神社を目指して歩いていた気がする。一番最初から呪われていたのはもしかして…… 「雨音店長〜!久しぶりにカフェオレ作りますね〜!」 「うん、ありがとう愛。」 この愛は本当に愛なのだろうか。〜終〜
摩訶不思議を愛してしまったわたし達#2
皆さんは、不気味なことは好きですか? このカフェ(なんでも屋)は、 色んな事情を抱えたお客さんが来るんです。 不気味でホラーで… 人の闇が見えたり… たまに大人向けなシーンがあったり…? そんなところで働いている私たちの物語を見てみませんか? きっと、たのしいかもしれません。 【第二話:あまァい犯し???】 前回の依頼から一週間が経とうとしていた。この一週間の間は、飼い猫が逃げたから見つけてほしいとか風船が木に引っかかったから取ってほしいとかそんな依頼ばっかりだった。全部楽な依頼だが、刺激が足りなくて欠伸が止まらない。もっと、人間の裏の顔やら不気味さがほしい。 「ふわぁー…」 私は新聞を見ながらまた欠伸をする。 愛は、椅子に座りスマホをいじっている。いつも通りだ。 (今日も刺激がない依頼が来んのかな。) ぼーっとしていると店のドアが開く音がした。目を向けると、エプロン姿の主婦らしい女性が慌てたような顔で息を切らしていた。 「いらっしゃいませ。依頼でしょうか?」 私は立ち上がり、女性に声をかける。 「できるだけ早く対処してほしいことがあるんです!」 少し様子が変だ。とりあえず席へ案内して座らせた。話を聞いてみる。 「では、依頼内容をお話ください。」 「はい。大体一年ぐらい前なんですけど、隣に家族が引っ越して来たんです。その家族は見た限り普通の家族なんですけど、家の中から変な音が聞こえたり、私の家にまで届くような刺激臭がくるんですよ。最初は我慢してたんです。でも、最近特におかしくて…特にあの娘。背が小さくて気配り上手ですごく可愛いんです。でも、言葉に表せられないんですけど、なんだか怖くて……」 (やっときた。これを求めてたんだ…!) 興味をそそる依頼がきて興奮してきたが、頑張って抑える。私は女性に質問をする。 「なるほど…それは不気味ですね。では、その家族に引っ越しをさせればいいんですか?」 「できればそうしてほしいんですが、難しいと思うので、変な音や刺激臭の原因を調べてほしいんです。」 「分かりました。お金は依頼を達成してから計算して言いますね。」 「はい!いくらでも大丈夫です!」 女性は、この後用事があるみたいなので住所が書かれた紙を置いて出て行った。愛と私は準備をして店を出る。私はずっとワクワクしていた。 私達は住所を頼りに、問題の家から少し離れた場所で立っていた。ここは住宅地みたいで、周りには家がたくさんたっていた。そして、人が結構通る道ばかり。 「店長〜問題の家族について、歩ってる人に聞いてみます?」 愛は私の腕を掴みながら周りをキョロキョロしている。 「それだと色々リスクがある。私達が怪しまれたり、問題の家族に探られていることがバレたら何されるか分からない。だからまず、娘と仲良くなって家に入れさせてもらう。」 「え!?どうやってですか!私、娘さんと仲良くしてる店長なんて見たくないですよ〜!いつも死んだような目をしているのに!」 愛が驚いたようで声を上げる。なんか余計な言葉が聞こえたがスルーしよう。 「まぁ任せて。まず最初に、変装だ。」 「わぁ〜♪こんな可愛い服買ってくれてありがとうございます〜♪」 「どういたしまして。今回の依頼で必要なことだからね。」 愛にピンクと白色のフリフリなメイド服を買って着させた。愛は嬉しそうにくるくる回っている。 「でもなんで私だけこんな可愛い服を着るんですか〜?」 「娘はおそらく、小学三〜四だと思う。依頼者が、背が小さくて気配り上手と言っていた。問題の家族の家の周りには小学生がいる家族がほとんど。気配りができるなら、小学一年生や二年生ではないと思う…っていう推理。」 「なるほど!小学生の女の子は可愛いものが好きだから興味を引くために私を可愛くしてくれたんですね〜!」 愛が目をキラキラさせて私を見る。きっと、かっこいいとか好きと思っているんだろう。愛はわかりやすい。 「察しが早くて助かるよ。あとは、その娘が来るまで怪しまれないように家の近くで待機。」 今日は平日の午後三時。そろそろ小学生は下校する時間だろう。私達は少しウロウロしながら待っていた。 「わぁ!かわいいふくだねー!」 「わたしもみたいー!」 しばらく待っていると小学生の女の子達が愛に群がってきた。有名人がきたような状況だ。 「えへへ♪ありがとうね〜!」 愛も嬉しそうに女の子達の相手をしている。私は一歩下がって周りを見渡していた。見渡していると、公園があることに気づいた。 (公園だったらもっと小学生が集まる可能性が高いな。) そう思い愛に言ってみる。 「いい案ですね!みんな〜お姉ちゃんたちはちょっと公園に行ってくるね〜!一回家に帰ってからきてもいいからね〜!」 「はぁい!」 女の子達に手を振りながら公園へ足を運ぶ。まるでアイドルのような愛に少し見とれてしまう。 私達は公園のブランコに座っていた。まだ小学生は一人もいない。これから来るだろうと信じて待っていると、大勢の小学生の女の子が走ってきた。それを見て私達は驚く。そして、女の子達は真っ先に愛の元へ走ってくる。私はそれに巻き込まれ、ブランコから落ちて尻もちを着いてしまった。 「いたっ!」 なんとか愛と女の子達から離れてベンチに座った。愛は困惑しながら相手をする。 「かわいいひとがいるってきいてみんなできたの!」 「かわいいー!」 「わざわざ来てくれたの〜!?嬉しい〜!みんなありがとうね〜!」 そんな状況が続いて数十分。問題の娘らしき女の子が見当たらない。今日は諦めようと立ち上がった瞬間、体がビクついた。ゆっくり愛の方を見ると、他の子とは違う雰囲気の女の子が立っていた。 (いつの間に…!) 私は愛の元へ歩いていく。すると、雰囲気が違う女の子が愛の手を握った。愛が女の子を見て固まる。何かを感じ取ったようだ。 「あー!キララだー!」 「さわっちゃだめ!」 一人の女の子がキララという女の子を押して転ばせた。キララが倒れて肘を擦りむいた。私は急いでキララを抱き抱える。 (この子……) 私は驚く。子供は軽いと聞くが、この子は軽すぎる。全体的に細い。そしてキララは私を見て泣き出す。 「え!?みんなお友達を怪我させたらダメだよ〜!」 「だってぇ!キララはかわいいふくばっかりきてるし、たいいくなんていっかいもやってないんだよー!」 「きゅうしょくもたべない!」 「へんなキララ!」 女の子達はキララを指さして声を上げる。完全にいじめだ。それに、女の子達の言葉も引っかかる。虐待の可能性もある。 「キララがきちゃったからみんなかえろうー!」 「そうだね!」 女の子達は一斉に帰っていく。残された私たちは、とりあえずキララを抱き抱えてベンチに座る。少しずつ泣き止んできたので優しく話しかける。 「キララちゃんだっけ?いつもこうなのかな?」 「…そうです。もう慣れているのでいつも泣かないけど…お姉さん達が初めて私を助けてくれたので…涙が出てきちゃいました……ありがとうございます。」 キララは私から離れてベンチに座る。礼儀正しい子だ。愛がゆっくりキララの頭を撫でる。 (これだったら早く家に入れるかもな) 「ちょうど消毒液と絆創膏持ってるから貼ってあげるね〜」 愛がキララの怪我を手当する。キララがまた泣きそうになる。泣かれる前に話しかけた。 「家では大丈夫?体細いからさ。」 「…本音を言ったら、嫌なこともあるけど楽しいこともあるので普通です。」 「ふーん…もしまた会いたくなったらここに来な。明日も来るからさ。」 できるだけ笑顔でキララに話す。 キララは嬉しそうにお辞儀をする。愛は、引いたような顔をしていた。とても失礼だ。 「私は家でやることがあるので帰りますね。また明日会いましょう!」 キララは走って帰ってしまった。こういうのは焦らず徐々に仲良くなった方が効率がいい。そのまま愛と私は店へ帰った。 店で愛と話し合いをしていた。 「長い時間になっちゃうけど、徐々に仲良くなろう。その方が成功率が高い。」 「そうですね〜。明日は普段着ている服でいいんですか〜?」 「そうだね。普段着ている服でいい。愛の服は今日のじゃなくても目立つけど。」 「だって可愛いじゃないですか〜。でも、今日の服可愛いから着ていけなくて残念です〜…」 「普通の日に着ていいから我慢してくれ。また女の子達が来たらめんどうだから。」 そのまま店を閉めて一日が終わった。 それから私達は、毎日あの公園に行ってキララと交流を深めていた。これが約一ヶ月経っていた。深めていくうちに少しずつ家のことについてわかっていく。 (両親に可愛いねと言われ続けられていて可愛くないとお仕置きが発生する、お父さんはなんの仕事をしているか分からない……そんなところか。) やっぱり謎が多すぎる。依頼者が言っていた変な音や刺激臭の原因が分からない。そして、一ヶ月経っても家に入れない。依頼者に待たせるのも申し訳ない。私は愛に提案をした。 「愛、明日も公園でキララと話していてくれ。私は行かない。」 「え!?なんでですか〜!?」 「大事な用事ができたから。愛なら一人でも大丈夫だよ。よろしくね。」 「うーん……わかりました〜」 愛は不思議そうに返事をした。 次の日、愛はいつもと同じように公園へ行く。行ったことを確認して私はロープと針金、麻酔銃をバックに詰め、マスクを付けて出かける。 (キララによると、今日は両親ともいないらしい…今日しかない。) 私は近くにあった背の高い木に登り、キララの家に飛び乗った。滑り落ちそうになったが、ギリギリ大丈夫だ。そして、二階の窓の鍵を針金で開けて侵入した。 (ここは…キララの部屋か?ピンク色が目立つ、そしてぬいぐるみが多い……) 廊下に出て一階へ降りる。リビングもトイレも変わりない。キッチンへ行くと急に強い刺激臭がした。思わず目を閉じる。ゆっくり目を開けると、 「こ…これは……」 さっきまで生きていたような裸の女性が体をバラバラにされて床に落ちていた。血は出ていない。そして、私は気づく、 「あなたは…依頼…者…」 床に落ちている裸の女性が依頼者であることに。周りを見渡すと、上の棚にも冷蔵庫にも冷凍庫にもバラバラな人達が詰められていた。みんなの生首が私を見ている。どこを見ても誰かの生首と目が合ってしまう。後退りをすると、誰かにぶつかり後ろを見る。そこには、 「お姉さん?なんでここにいるんですか?」 キララが愛の生首を持って立っていた。愛の首から赤い綺麗な血が垂れている。 「あ…あぁ……愛……」 私はその場で座り込む。そんな私を見てキララは笑顔になる。 「あ!美味しい匂いに誘われて家に入っちゃったんですね!なら許します!私のお母さんお菓子作りが得意なのでしょうがないです。」 キララは愛の生首を床に落として私の後ろで何かを漁り始める。私は冷たくなった愛の首をゆっくりと抱きしめる。 「なんで…こんなことに……」 「ねぇお姉さん、今日の朝作った新鮮なお菓子を食べましょ!」 キララが後ろで何をやっているか想像はつく。きっと、元依頼者の首を持ち上げて私を見下ろしている。 「とっても美味しいんですよ。自分の子供が世界一可愛いと勘違いするぐらい。」 私の涙が愛の生首を濡らす。 「お姉さん?さっきから何かを抱えるようなポーズをして何をしているのですか?何もいないですよ…?」 いや、私はしっかりと愛を抱きしめている。そう、元気で明るくて私のことが好きな可愛い愛を抱きしめている。温もりも感じる。 「愛は生きている。ここにいるじゃないか。ちゃんと温もりもある、ずっと私の傍にいてくれている。愛はちゃんと生きている!ちゃんと身体もある。愛はここに…ここに……いる……死んでなんかないよ……」 愛が温かい、とても。今もしっかり私の手の中で…命がある……ははっ……あはははは…… 「お姉さんもこっち側にきちゃったね。さぁ、お姉さんもオイシイオカシに……なりましョ……?」 首に冷たくて鋭いものが当たるのを感じた。体に生ぬるい体液が流れるのを感じる。痛くない。もう何も感じない。 「愛は…もう……」 「あ…ね…てん……おき…て……」 私はゆっくり目を開ける。視界に広がったのは、白い天井と自分と繋がっている点滴。それと、涙を流している愛。愛の涙が私の頬を濡らす。声を出したいが首が痛くて出せなかった。そんな様子の私を見て愛がもっと涙を流す。 「雨音店長!私…私……死のうかと思うぐらい心配したんですからぁ〜!!先に逝かないでくださいー!」 愛がしゃがんで私の手を握る。私は弱い力で愛の手を握った。 (良かった…愛…生きてた……) 私も涙を流す。 どうやら私は、キララの家のキッチンで首から血を流して倒れていたそうだ。キララが急いで帰ったことに違和感を覚えた愛がキララの後を追って家に侵入した時に、私が殺されかけているところを見てキララを取り押さえ、通報したらしい。警察によるとバラバラな死体は無く、キッチンには脳を麻痺させる粉が舞っていたらしく、それにやられて私は幻覚を見て、体の痛みも失っていたみたいだ。そしてキララの家族は殺人未遂罪と薬物摂取の疑いで捕まった。 私は退院をして店に帰った。しばらくは無理はせずになんでも屋をすることになった。依頼者へ会計の電話を何度もかけたが出なかった。家にも尋ねたがずっと留守のまま。逃げられたか、それとも…… 「本当にキララ家族にやられたかだな。」 私が見た依頼者の死体は本物だったのだろうか。血は出てなかったので証拠隠滅はできるだろう。 「店長〜カフェラテ飲みます〜?」 「うん、お願いしようかな。」 愛は私の事を気にかけてくれる。首をやられたから当たり前だが、なんだか嬉しい気分だ。 次は、どんな依頼が来るのだろうか。 〜終〜