綴木 継人

4 件の小説
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綴木 継人

気ままに書いたりしてます。

知らない夕焼け

 電車に乗って随分遠くまで来た。荷物は重かったけれど、僕も彼もそんなことなんて少しも気にはならなかった。  知らない駅で降りて、山を登る。出発した頃は登ってきたばかりだった太陽も、気づけば今日の役目を終えようとしていた。  オレンジ色に照らされている道を二人で黙々と登り続けていたけれど、ふと彼が足を止めて背後の空を見上げた。それに釣られて僕も足を止める。そこには燃えるような赤い夕焼けがあった。 「綺麗だね……」 「うん。……あっという間だったね」 「あと少しで着くかな」  どうだろう、と言って彼は荷物を背負い直して歩き出す。僕も後を追う。太陽の反対側で一番星が瞬いた。

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知らない夕焼け

Sa véritable intention

「……久しぶり、だね」  そう言って彼女ははにかんだ。 「どうしたの?急に空港なんかに呼び出して……」  2年ぶりに幼馴染から連絡が来たと思ったらこんなところに呼び出されるとは。男が2月14日に呼び出されるところってもっと近場じゃなかったっけ。校舎裏とか。 「実はね、フランスでお菓子作り学べることになって……」 「そうなの? おめでとう、ずっと行きたいって言ってたもんね」 「うん、ありがとう。唯斗が応援してくれてたから頑張れたよ」 「そう言ってもらえると嬉しいなぁ……向こうでも頑張ってね」 「うん、頑張る。それでね、これを渡したくて」  彼女が差し出してきたのは手のひらサイズの赤い箱。淡いピンクのリボンがかかっていて、まるで恋人へのプレゼントだった。 「帰ってくる頃にはもっと美味しいものを作れるようになってる筈だから、この味、覚えてて」  そして箱を僕に押しつけて、それじゃあ飛行機の時間があるから、と言って早足で去ってしまった。  おいおい、また暫く会えないのに別れ際雑じゃないか?  箱を開けてみると、色とりどりのチョコレートが並んでいた。昔からお菓子作りが得意な彼女だったけれど、パティシエになってからさらに腕を上げている。ずっと彼女のお菓子の味見係をしていたから、断言できる。これは帰ってくるのが楽しみだ。  箱の中央に置かれた赤いハート型のチョコレートの艶が、やけに印象的だった。

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Sa véritable intention

祭の狭間

 祭特有の喧騒の合間を縫って歩く。目的地までの道は人でごった返していた。 「お、兄ちゃん焼きそば食ってかないかい?」 「あー……すんません、後でまた来ます」  屋台のおっちゃんの営業を躱して人混みを抜ける。そのまま神社に足を踏み入れようとしたところで、屋台の横にいるやけに古風な狐の面に気付いた。  ばちり、と目が合う。気がした。  小さな手が面を押し上げ、幼い顔が現れる。そして大きく瞳が開かれた。 「お兄ちゃん、私が見えるの?」

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深夜0時の紅葉狩り

『20分後に迎えに行くよ』  一体何時だと思ってこんな連絡を寄越したのだろうか。呆れつつも時間に間に合うように支度をする。  彼が時間に無頓着なのは今に始まったことではない。まだ日の登らない早朝から海に連れて行かれたり、日が暮れてから延々とドライブをしたこともある。  振り回される度にうんざりするのだが、最終的には自分も楽しんでしまっている。彼に付き合うようになって半年もすれば、そんな滅茶苦茶な誘いも楽しみになっていた。 「おまたせ」  彼は20分きっかり計ったかのように到着した。そこだけはいつも妙にきっちりしている。 「今日は何処行くの」 「それは着いてからのお楽しみ」  相変わらず、目的地は最後まで教えてくれない。  彼の運転する車の中で他愛もない話をしながら、夜の街を走った。  どれくらい走ったのか。不意に彼が車を止めた。 「着いたよ」  知らない街をいくつか越えたそこは、小さな山だった。 「こんな暗い中山登りするの?」 「ちょっとだけ。これ持ってて」  受け取ったランタンを付ける。周りは明るくなったが、それでも心許ない明かりだった。 「それじゃあ行こうか」  彼の言った通り、山を登ったのはほんの少しだった。 「ここがね、すっごく紅葉が綺麗で」  そう言って彼はランタンを頭上に持ち上げる。ランタンの仄かな光が紅葉を照らした。 「わあ……綺麗」  照らし出された紅葉は昼間に見るより鮮やかで、夜の闇にとても映えた。 「君と見るなら昼より夜だなって思ってさ」 「うん、すごく綺麗」 「来て良かった?」 「うん。……連れてきてくれてありがとう」  もうちょっと早く連絡をくれるといいんだけど、という言葉は夜の闇に消えていった。

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