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4 件の小説古毒
僕は死を求めていました。 確実に逝けるであろう高いビル。 すぐにバレることはない暗さ。 遺書を置く場所や靴を脱ぐ場所。 それが用意されているような場所を数年間探していました。 そんな馬鹿な。という言葉を投げられることも少ないわけでは ありませんでした、それでもただ僕は心から死という道に逃 げたかった。 「死ぬ気がなかったのではないか。」 「死にたいフリをし、注意をひきたいのか。」 正直、他人からの注目も評価も全てどうでもよく、ただた だ救われたいがための行動で。不思議というか、まぁそうだろ う。というように、恐怖もありませんでした。 身を投げた後初めて目を覚まし、目にした顔は医者でした。 「何故こんな馬鹿なことをしたんだ」 「助かってよかったな」 「これから頑張って生きていくんだ」 そんな言葉をかけられ僕は絶望しました、僕を生かした彼らは それが善だと思っているのだと。 僕が考えた末に出した僕自身の人生の終わりを、会話をしたこ ともない他人に、彼らにとっての〈救い〉〈善〉である行動で 否定されたような。元の孤立など比にならない程の孤立、孤独。 世間的に見ればきっと僕は〈助けられた人〉なのでしょう。 僕にとっての幸福や僕にとっての救いなど眼中に無いのではな く、きっと理解されないような考え方を持つ僕が異であるのだ と思い知らされ、更に気が落ち込みました。 同じ世界が見えていない。彼らにとっては善である行動が恐怖でしかなく、僕はまた彼らの善を押し付けられるのだと考えるとどちらに対する気力も失いました。
幽囚
君は高校生でした。 いじめられていて学校に行くことが本当に苦痛であるということ、君の方を見ながら同級生が笑いながら何か喋っているのが本当に辛いということ。僕は何度も話を聞き考え、何度も別のアドバイスをしました。君は両親にも相談したようですが「そんな些細な事は気にせず学校に行きなさい。」と言われたと言っていましたね。 「気にしないほど心が強くない」と君は泣いていましたが、僕は気にしないことが正しい事だなんてとても思えなくて、何もしていないのに一方的に傷つけられ、相手に土足で心を踏みつけられている君がなぜ“気にしない”という我慢をしなくてはならないのか、どうしても分かりませんでした。 インターネット上の関係。僕は君の居場所も知らず聞けず、君の周りの大人は君の声を無視しました、僕も君の元へすぐに駆けつけられるような救世主になれませんでした。 そこから君の心は壊れていきました。 いじめの加害者がとても恐ろしいから加害者達を殺めて自身も命を絶ちたい、頭の中が[ 死 ]という言葉で埋まっているような感覚だと。 最期には貴方のことも信用できないと言われました、それでも1人は寂しく辛いものだから孤独にならないためにそこにいて欲しい。というのが君の願いでしたが、その願いを僕が叶えられたかどうかは君にしか分かりません。 「死にたいくらい辛いけれど、それでも死ぬ勇気なんて私にはないんだよ。」と話していましたが“死ぬ人は黙って死ぬ”という言葉は、やはり信じ難いですしきっと迷信ですね。 実際君は命を絶ちましたから。 過去を遡っても仕方が無いのだとよく聞きますが、過去を忘れずにいることはきっと無駄ではないのでしょう。 君と他者、そしてあなたへ。 せめて選択した死が恐怖でなく救済であることを願います。
着信
君から急な別れを切り出され理解ができずただ過ごしていました。 「君を忘れなきゃいけないよね、きっと君には他の人がいたんだ、 数日経てば僕も忘れるだろうし。」 そんなことを独りつぶやく深夜2時、2ヶ月ぶりの君からの着信。 「連絡なんてしない方が良かっただろうけどね、最期に声聞こうかな~って思ってさ!」 二ヶ月前の態度が嘘のように明るく、とても困惑したことを覚えて います。しかし当時の僕は、そんなことよりも君にどうしても聞いておきたい事があったので、特に気にもとめず質問しました。 「二ヶ月前、理解ができなかった。僕は気がつかないうちに君を 傷つけたのかな。」 それに対する答えはNOで、それなら何故?と伝えるよりも先に 僕ではダメなんだ、君は僕を必要としていないんだとそう感じた ため、それ以上聞くことを辞めました。 少しの沈黙の後、最初に話始めたのは君でした。 「…私ね、貴方と離れて気がついたことがあったんだよ!都会は 人がいっぱいだけどキラキラしてて綺麗でね、田舎は人が少ない けど、星も月も綺麗だよ、あと空気が美味しい!知ってた?」 2ヶ月で人はここまで変わるものかと思うほど、君はとても明るく話していて驚きました。その後も僕は簡単な返事をして何となく 会話を続けていました。 「ねぇ、貴方から離れたこと少しでも怒ってたりするかな。今は 怒ってるかもしれないけどね、いつか分かる時が来るよ、それは 今日かもしれないし、一年後かもしれないけど。」 意味深な話をする君に僕はまた困惑しました。 二ヶ月ぶりの急な着信と言うだけでも何かあるのでは?と感じる ものですが当時は疎いもので、ただの着信だと思っていました。 時計の針が六時をまわるころ。 それまで君はひたすら明るく不思議な話をしていましたが、僕は ほとんど理解ができず、ずっと気になっていたことを聞きました。 「通話かけたってことは、何かあったってことなのかな、何も無い ならいいんだけど…こんな時間になってから聞いてごめんね。」 それを聞いた後、君は少し迷っていたのでしょうか、言いにくそう に話始めました。 「特に何ってわけではないけど…強いて言うなら疲れたなぁって。 貴方から離れたのは別にこのためだったわけじゃないよ、 でも疲れた。」 僕は君の疲れたという言葉の意味を理解 したくありませんでした。しかし、どうしても理解しなくては ならないような気がして、とても君が軽い気持ちで言っている ようには思えず、なんと伝えようか、何を言うべきなのかひたすら 考えていました。 でも君は先程と同じように明るく話しました。 「気づいてると思うんだけどね、最期にサヨナラしたくて電話 かけてみたよ。やっぱり声聞く相手が貴方でよかったな~ 吹っ切れた!ありがとう。」 僕が待って、と伝える前に通話が切れました。その後何度かけても 不在着信で完全に連絡を切られてしまったんだと思い通話をかける ことも、メッセージを送ることも諦めました。 それからまた数ヶ月、君がいなくなったことも無かったように朝はきて、君は初めからいなかったんじゃないか。そんな考えが 頭をよぎり始めた頃、君の同級生からのメッセージがありました。 「お前の彼女、数ヶ月家帰ってなくて、捜索願い出てるって。」 僕はどうしたらいいか分からず、起きたことをそのまま話しました。サヨナラを言いたかったという着信があったこと、話の内容がバラバラでいつもの雰囲気ではなかったこと、それから現在、 通話が切れてから三ヶ月は経っていること。 同級生に話せることは全て伝えましたが 僕の元に捜査官は来ず、結局家出ということで処理されたらしく 君は帰ってきませんでした、君はどこへ行ったのでしょう。 そもそも生きているのでしょうか。
感傷
僕が君を殺してしまったのでしょう。 僕は君の心を救えなかったのでしょう。 気持ちの向かう先がない晩秋でした。 君は何事も疑いから入る人で僕の事を信用する素振りもありませんでした。だからきっと、君と関わり続ける事は不可能だろうと 感じていました、しかし君は僕から離れませんでした。 会話を重ねてみると君は関わりやすい人で、なにより優しく、 初めの印象だけで判断したことを少し反省し君に伝えました。 「初めは君と関わることなんて無理だと思った、君もすぐ離れて 僕を忘れるだろうって、でも話せて嬉しかった。」 少し考えてから君が返してくれました。 「俺も初めの君の印象は、正直よくなかったよ。でも君は 他の人より寂しそうだったから、一緒に居ることにした。」 僕は反応に困りましたが、君なりの考えがあってそばに居て くれることが嬉しく、君が向ける感情が同情でも なんでも良くなっていました。 君が僕を可哀想だと思っていても、君が僕を哀れだと思っていても、それでも許せる気がしていました。 今思えば、僕は昔から同情されるのは苦手だったはずで…この時から既に壊れてしまっていたのでしょう。 何も考えず、君に全てをさらけ出すようになっていました。 感情が上手く表に出せない。周囲の楽しいが理解できない。 美しい、愛しいが感じられない、そんな暗い話を君は静かに 聞いてくれました。 全て聞き終わった後で君も同じように、悩みを話してくれました。 人に合わせるのが苦痛。常に気持ちが落ち込む。 自分で自分を傷つけてしまう。 あの時君は何を感じたのか、僕には分かりませんでした。僕と関わっていても、かわらず君の手首からは変わらず血が流れます。 君は言っていました。 「生きていることが苦しい」 僕は正しい答えを持っていなかったので 「生きることが正義なわけじゃない、君は既に頑張ってるよ。」 (それに僕も生きていたくない) そう答えようとして言葉を詰まらせました。君を止める勇気も君を慰める方法も僕は何も持っていなくて嫌になったことを 覚えています。 その後はしばらく平穏で雑談やゲームをして君と過ごしました。 肌寒くなり始めた頃、忘れもしない九月 僕は君といつものように話をしていました。その日、僕の家は荒れていて君との会話中にも怒鳴り声は響いていました。 僕は雑談で気を紛らわせようとしましたが、君は気にしてしまって、ダメでした。その時自然と君が言いました。 「俺、もうこんな世界に期待なんてできない。 どうなっても、これ以上悪くなることなんてないとおもう。 でも1人は怖い、だから…」 僕は一言だけ 「いいよ、ついてく。」 次の日の早朝、形だけの着替えを一着、リュックに入れて バスに乗りました。 君と会うのは初めてでしたが特に緊張はしませんでした。 飲食を一切せず、日付が変わるまで君と話をしました。 階段に鍵がついていない、高いビル。見下ろすと人通りの少ない 夜の道、街灯は多いコンクリートの地面。完璧だと思いました。全て揃っていました、でも、君は震えていました。 「怖い?辞めるか?」 君に聞いてみると 「怖くない、逝ける。」 それが君の答え、僕は改めて逝こうと思いました。 成功すればもう悩まなくて済むから。 未来のことなんて考えなくて済むから。 手すりに手をかけるその瞬間 君が「愛してる」といいました。 僕は病院で目が覚めて…知りたいことが山ほどありました。 君は生きているのか、君の愛してるとはなんだったのか、 僕はなぜ生きているのか、何故逝けなかったのか。 初めは何も教えてもらえず、僕は何も分からず泣く日々でした。 しかし携帯が戻ってきてチャットをみると全てが解けました。 君の母からのメール 「生きている貴方にしか聞けないの」 それを見て理解しました。君はもういないんだと、君の母と 話をしました。 君は愛されていたんですね。 君は大切にされていたんですね。 君は…君が僕に話した内容はどこまで 本当なんでしょう。 今はもう聞くことができませんね。