ナマコ

4 件の小説
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ナマコ

初めて小説を書きます。 読んでいただいたら大変嬉しいです☺️

二人だけの世界

あるボロアパートの部屋にマットという若い男が住んでいた。 狭い木造建築の一室に、何枚もの絵が散りばめられている。 マットは老人のように背中を丸めながらひたすら絵を描いていた。 ずっと幼い頃から画家になることを夢見ていたが、一向に売れる気配すらない。いや、売る相手すらいない。 そもそも人付き合いが極端に苦手で恐怖を抱く男にどこへ行き、どこへ自分の作品を発表すればいいのかすらわからない。 昼は清掃の仕事をし、帰って来たら絵を描くというルーティンだ。 誰にも見せない作品を描き続けて筆を折らないかと誰もが思いが、ただ一人絵を見てくれる人がいた。 緑色の瞳の猫のスーだ。 スーという名前はマットがつけた。 偶然スーが窓際に腰掛けていたところ、余ったご飯をスーに餌付けをした。 その後。賢いスーは、マットが家に帰って来る時間を知っているかのように毎日同じ時間に来るようになった。 マットが帰って来ると、いつも開いた窓に腰掛けている。 マットは今日も来てくれたとソーセージと魚をあげるのだ。 マットが安い紙に安い絵の具で絵を描く作業を始めると、スーは部屋に入って来て緑色の澄んだ瞳で見守ってくれる。 まるでマットの描く絵を楽しみにしているかのように。 言葉を交わす必要もない。 スーがいてくれるおかげで筆を折ることなくある意味、スーのために描いているような気分で心地良かった。 マットにとってスーは唯一の親友に思えた。 時が流れ。マットはヨボヨボした体で家に帰って来ると、すっかり毛並みが悪くなったスーも窓に腰掛けていた。 スーは歳をとってもまだ元気はあるようだ。 マットはいつも通りソーセージと魚を皿に乗せてスーに差し出し、椅子に腰掛けた。 だがスーはこの日は食べなかった。 そのかわり。 いつもなら見守るだけのスーは何かを悟ったかのように、マットの膝に飛び乗った。 マットにより一層寄り添うスーに戸惑いながらも、しわくちゃの手でスーの背中を撫でた。 マットな老いて弱くなった体を奮い立たせ、最後の仕事に取り掛かった。 震える手で、絵の具をつけた筆を紙に塗り付ける。 この日の色は、今までにないくらい鮮やかに見えた。 最後。これまでの動作と人生を目に焼き付け終えたと思うと、筆を止め作品を眺めることなく、そっと目を閉じた。

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嫉妬する男

ロイは幼い頃から本を読むのが好きだった。 その中でも特に勇者が出てくるファンタジーものが好きだった。 ロイにとって、勇者が出てきて世界を救う話しはとても美しく聞こえた。 そんなロイは成長し仕事に就いたのだが、コミュニケーションが苦手で大人しいロイは、人目のつかない仕事で働いていた。 だがその仕事は低賃金で、ロイは貧しい生活を強いられた。 ロイが実家に帰った時。かつての自分だけの部屋の本棚に目がついた。 懐かしい気持ちに駆られ、本を読み耽った。 幼い頃はこんな勇気ある話に惹かれたなぁと、思い出に耽っていたが、ふと自分の現状に目を向いてしまった。 自分はこんな安い人生を歩んでいるのに対し、この本の主人公は勇気あふれて、皆から賞賛される勇者。 ロイの中に自分の情けなさを嘆くと同時に、作品の主人公に対して嫉妬心が芽生えた。 ロイは自宅に帰ったら、ペンわ握りしめ紙に作品を書き出した。 それは、王国を救った勇者がその後落ちぶれるといった、バッドエンドの話を書き出した。 勇者なんて所詮人殺し。 勇気ある行動なんて偽善。 と言った、勇者に対する批判の書を書き綴った。 この作品を誰に見せるわけでもなく、いや誰にも見せる人がいなくて、こういう話を書いていると気持ちが落ち着くのであった。 ロイもやがて歳をとり、病にふせってしまった。 病室のベッドの上でも作品を書くことは辞めなかった。 一人の看護婦が許可を得て、ロイの作品を読んでいた。 「これ面白い物語ですね。」 看護婦は少し興奮気味に言った。 ロイは数十年ぶりに褒められたと涙ぐんだ。 看護婦はあることを言った。 「ロイさん。アレクサンドロス大王って知ってますか?」 「アレクサンドロス大王?」 「太古の昔に活躍した王様ですよ。次々と国を自分の領土にしたとにかくすごい人なんです。 「その人がどうかしたんですか?」 看護婦は続ける。 「その人、ずっと神話の架空の人物のヘレクレスに嫉妬していたんです。」 「!!」 「ヘレクレスなんて実在しない人なのに、そんな人に嫉妬していてロイヤルさんどう思いますか?」 ロイは唖然としてしまった。 自分でも架空の人物に嫉妬していたのはくだらないと自覚していた。 それでも嫉妬をやめられなかった。 だが改めて嫉妬している人を客観的に見てみると、本当にくだらないと心の底から呆れられるのだ。 そして自分にも。 ロイはペンを床に落とし、カクンと首を前に傾げた。

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嫉妬する男

完璧な母親

母親のキルトと息子は二人暮らしだ。 夫とは数年前に別れて、母親のキルトが生計を立てている。 キルトは息子が苦労しないように懸命に働き、家事も完璧にこなした。 朝早く起き、掃除をして、息子の朝食の準備をし、自分の身支度を済ましたら息子を起こす。 そして、息子の朝の準備を済ましたら学校へ送り、自分は仕事へ行くといった。完璧な朝のルーティンを済ます。 ここでは省くが夜のルーティンも完璧だった。 側から見れば完璧で素晴らしい母親のキルトだが、キルトはかなりこだわりの強い母親だった。 家のありとあらゆる物の配置まで決めていて、床の僅かなチリカスのゴミや、洗濯物を干す服の順番まで、家の事は自分でやらないと気がすまなかった。 こうなると、息子の介入は許さなかった。 母親を気遣って家事を手伝うとしても、「いいよ!お前がやると余計面倒くさい!」と激昂し、箒や洗濯物を触ることさえ許さなかった。 こうなると息子も母親には強いこだわりがあると、家事は一切手伝おうとしなかった。 むしろ自分がやらなくても母親がやってくれると、楽でよかった。 ある日の梅雨のこと。数日続いた嵐の影響で、家の窓が壊れてしまった。 キルトは工具を持って窓の修理に取り掛かるが、慣れない作業で手こずる。 そんな様子の母親を見ても息子は一切手伝おうとしなかった。 ソファーで漫画を読んでいた。 キルトは自分がこんなに大変なのに手伝おうとしない息子をみて、ついに「少しは手伝ったらどうなの!!」とハンマーを振り回しながら怒鳴った。 一瞬驚いた様子の息子だったが、こだわりの強い母親のことだからと、関わらないようにして漫画に目を向けた。 キルトの中で何かが切れた。 キルトは息子に近づきハンマーを振り下ろした。 頭を何回も。 何回も。 何回も。 その間。息子は叫び声をあげ、自信の頭蓋骨が粉砕されていく音を死ぬ間際の土産として聞いてしまったであろう。 キルトは我に帰った時は、もう息子は頭に血を流しながら無言の状態だった。 息子の頭の出血を手で抑えようと息子を抱き抱えるが、もうすでに遅かった。 キルトは自ら警察に自首し逮捕となった。 近所の人達は、さぞ驚かれたであろう。 あんなに完璧で非の打ち所がない母親が息子を殺すとは。 キルトの逮捕の一件は小さな町の中で広まり、しばらくみんな話題の困らなかった。

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完璧な母親

埋める少年

リックは幼い頃両親を事故で亡くしてしまった。 親戚の家に預けられだが、あまりいい扱いを受けなかった。 それでもリックは立派な人間になることを誓い。 学校に上がると同時に勉強しながら働いた。 稼いだお金の半分は、家計の足しになればと親戚に渡し、もう半分は自分の為に残した。 しかし、親戚はリックの分のお金も催促するようになり、リックは一文なしになってしまった。 そこでリックは自分の分のお金を箱に入れ、庭の土に埋めて隠すようになった。 この作戦は成功し、なんとか貯金できるようになった。 だが、リックが成長し使う持ち物が増えてくると今度は親戚は物が邪魔、物が増えるといい、リックの持ち物を捨ててしまう。 リックはお金だけでなく自分の持ち物も、庭の土に埋めて保管するようになった。 リックはこの行為は苦ではなかった。 むしろ、自分の大事な持ち物が脅かされず、安心感すら感じいた。 月日が流れ、リックは親戚の家を離れ一人暮らしを始めた。 自分だけの空間を手に入れたリックではあったが、食器や服、日用品などを家の中に保管するのがどうにも落ち着かない。 結局。家の中でに家具は置かずに、すべての持ち物は庭の土に埋め、保管していた。 そんな生活をしているリックは、今まで一生懸命勉強してきたのにも関わらず、いい職に就くことができなかった。 職場の人間関係につまづき、低賃金の人と関わらない仕事しかできなかった。 食事は節約のため、一日一食の夕飯だけで、食べられる分だけ買いその日の内に食べるのが普通だった。 さすがにリックは今までの努力が無駄で、己の能力の無さに嘆き、ますます物を埋める癖が加速していった。 夜な夜なゴミ置き場でゴミを漁るようになり、気になった物を持ち帰り人目のつかない空き地に埋めるという奇行を繰り返した。 そうすると、何も自分を脅かされない子供の頃感じた安心感を味わうことができた。 そんなある日、親戚の一人が亡くなったという知らせを受け、形だけでも葬式に出席した。 葬式の最中。ふと親戚の庭の土に埋めた自分の持ち物を思い出した。 葬式が終わった後。夜、親戚の庭に忍び込んで、土を掘り返した。 そこには、懐かしい自分の持ち物が溢れかえっていた。 汗水流して稼いだ僅かなお金。 手垢がついたペン。 積み重なったノート。 思えばリックは今まで物を捨てたことがない。 自分の持ち物は大事に扱っていたはずなのに、どうして満たされていないのか疑問に思っていたが、リックはあることに気づいた。 貧乏でも才がなくても、幸せになれる方法はある。 それは、誰か愛する人がいてくれることだ。 リックは今まで孤独で一人で奮闘してきたが、全部自分のためだった。 誰かのためだなんて考えていなかった。 しかし、自分に足りないものがなんであったがわかっていたところで、人と関わること絶望を感じている自分にはどうすることもできない。 リックは懐かしい自分の持ち物達を抱え、いつも自分が埋めている空き地にたどり着いた。 そして穴を掘り、思い出の詰まった持ち物達を放り込んだ。 自身も穴の中に横たわり、拳銃をこめかみに当てたを

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埋める少年