こたつねこ

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こたつねこ

はじめまして!気ままに小説を投稿していきたいと思います。よろしくお願いします。

最悪な日

あーあ、今日は最悪な日だ。 朝から寝坊して朝ご飯は食べ損ねるし、 電車にはあと一歩の所で間に合わなくて一本遅くしたせいで遅刻ギリギリになるし、 授業では分からない問題に限って当てられちゃうし、 お弁当を作ってもらっていたのに忘れて購買に並ばなきゃいけないし、 部活だって何だか上手くいかない。 オマケに、帰り道で嫌いな人に会ってしまった。 小さい頃からいつもいつも私にまとわりついてくる人。 不器用なくせに私の為に慣れないことまで頑張ろうとするし、 私が笑顔の時は私以上に楽しそうだし、 私が泣いてると必ずなぐさめてくるし、 あそこに行きたい、と言えば休日に予定を立てて連れて行ってくれる。 そんな所が鬱陶しくて、ずっと嫌いだった。 強く押された感覚がまだ背中に残っている。頭の中が色んな感情でぐちゃぐちゃだ。 あいつが車に轢かれた。私の代わりになって轢かれた。 鉄の臭いとぐちゃぐちゃになった赤黒い塊の数々をぼんやり眺めながら、あいつを思い出す。目の前の塊がかつてのあいつだと、頭では分かっているのに心は理解を拒んでいる。 最後に顔を見ることも出来なかった。今日の出来事に落ち込んで、俯いて歩いていたのが良くなかった。 こんなに涙が出てくるのに、今日は私をなぐさめてくれない。いつも優しい声で呼んでくれたのに、今日は怒鳴り声にも近い、必死な叫び声だった。 素直に伝えるのが恥ずかしかっただけで、本当は全然嫌いなんかじゃなかった。 「大好き」 あーあ、こんな事になるまで伝えられないなんて。 やっぱり今日は最悪な日だ。

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最悪な日

俺の家系はみんな、20歳まで生きられない。両親が他界した後の家を兄が継ぎ、俺が産まれたばかりの頃から腕の良い医者が我が家に治療の為に来てくれるようになった。しかし、俺の兄は結局20歳の誕生日を目前に死んでしまった。そして、今日の0時で俺も19歳になる。つまり、このままいけば俺の余命はあと一年もないのだ。死ぬことに恐怖も特段なかったが、いざ死が近づくと怖くも感じるものだ。そんな俺は今日、医者の男に誘われて夜中まで飲み明かしていた。 3、2、1…… カチッ。時計の音と同時に、俺は19歳になった。めでたいはずの誕生日が、今の俺には死へのカウントダウンのスタートにしか思えない。 「…おめでとうございます」 医者が一口自分の酒を飲んでから、俺に祝いの言葉をくれる。 「先生…俺、あとどのくらい生きられるかなぁ。」 「そうですね…貴方の余命は、ざっと後80年程でしょう。」 「…え?」 えっ、80年?聞き間違い?悪い冗談? 予想外すぎる余命宣告に、俺はパニック状態になる。混乱する俺を見て、医者がふっ、と笑いながら言う。 「あなたは今日で、20歳です。」 「…えっ?」 次々と出てくる情報に、開いた口が塞がらない。間抜けな声を漏らしながら、俺の頭の中はぐるぐるとパニックを起こしている。 「…あなたに年齢を教えていたのは、誰ですか?」 「え、兄ちゃんが毎年…」 「そう。」 もうお分かりですよね、といった様子で医者は言葉を続ける。 「あなたは嘘の年齢を教えられていたんですよ、一年若い年齢をね。」 「………」 もはや声も出なかった。唐突に明かされた現実に、思考が完全に停止してしまった。 「えっ、じゃあ、俺……」 思考が再び動き出したものの、今までの事とかこれからの事とか色々と言いたいことがありすぎてまとまらない。 そんな俺の頭の中を見透かしたように、医者は言った。 「…20歳まで生きられないと言われた病気で、あなたは20歳まで生きたんです。あとは、せいぜい100歳くらいまで寿命を生きるだけです。」 「あなたの病気が思い込みだったにしろ本当にそういう病気だったにしろ、あなたの先祖や兄と違って幼い頃から私の治療を受けてきた人間が完治しないはずないでしょう?」 自信たっぷりににやり、と笑う医者の目は少し潤んでいた。医者も賭けだったのだろうか。 「…俺…、良かったぁ………」 俺も安心して涙が溢れてくる。そうか、俺、生きられるんだ。ずっと死ぬことは平気だと思っていたのに、自分がこんなに生きたがっていたことに驚いた。 「先生、あと、兄ちゃん…」 目の前の人と、遠くにいる人へ。 「ありがとう。」

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嘘

君と過ごした1年間 3話

まだまだ不慣れな学生生活も順調に進んでいき、俺にとっては初めての体育祭まで後一週間となっていた。体育祭練習に替わる授業もいくつかあって、学校全体に体育祭ムードが漂っていた。 「晴斗は綱引きと1500mリレーだっけ?出るの」 零がお弁当を食べながら俺に問いかける。数日前に弁当を手作りしてみることを進めたが、どうやら零はかなりの料理音痴らしく、以前持ってきた弁当はもはや何の料理かも分からないほど黒く焦げていた。それ以来零は手作りをやめ、今日も執事お手製の煌びやかな弁当を持ってきている。美味しそうだ…。 「おう!零は障害物競走だよな?」 「そう。でも晴斗はすごいなー…リレーも軽々引き受けちゃうし!」 零はため息をつく。どうやら零は運動も得意ではないようだ。リレーについては、クラスの中で足の速い奴がいくつか候補に上がったが、やりたがらない人も多かった為話し合いの末に俺が選ばれた。 「…別に、何の競技でも出来るからな!」 俺にとって最初で最後の体育祭なのだ。少しでも活躍して、思い出に残したいし、楽しいものにしたい。 帰りのHR後−− 「晴斗っ!校門まで一緒に帰ろ!」 「おー、帰ろうぜ!」 この高校には寮生活の人がほとんどだが、零のように特例で自宅から通学している人もいる。 「…零、またな!」 「うん、また明日!」 校門で零に別れを告げ、零は迎えの車へ、俺はすぐ近くの寮に向かう。…ところだったのだが、今日はそうもいかなそうだ。さっき、学校近くの廃ビルの最上階に人影が見えたのだ。あのビルを使う人は滅多にいないし、恐らく同業者だろう。この時間帯にうちの学校を狙うとなると、狙いはほぼ確実に零だ。バレないように処理しなくては。 「ちっ…」 ある廃ビルの一室−−− 俺の名前は麻 真也(あさ しんや)。殺し屋だ。今日は暗殺の依頼を受けたのだが、どうやら有名な財閥の御曹司らしい。目の前で呑気に車に乗るターゲットに少しだけ同情しながら、狙撃銃を構える。 「待て。」 え…?今、確かに背後から声がした。ここは最上階だぞ!?誰も入れないはずなのにどうやって…。色々な疑問が一気に浮かぶが、その声の威圧感と得体の知れない恐怖に身体中を支配されたような気分で、狙撃銃を構えた手が震える。 「そいつは俺の獲物だ。怪しい動きをすれば撃つ。」 カチャ…と音を立てながら、俺の後頭部に拳銃がつきつけられる。くそっ…同業者かよ…!? 「質問に答えろ。誰の依頼だ?」 「はぁ!?何でお前なんかに…」 「『答えろ』と言ったはずだ。」 頭に拳銃を押し付けられる感覚に、思わず声が出なくなる。 「…っ、うちの社長だよ!写真だけ渡されて、頼まれてそのまま…」 本当のことだ。これを言えば解放してもらえるのか、という期待が俺の頭をよぎった時−−− −−−−−−−−−− 辺りに響く音を立てて、男の手から狙撃銃が落ちた。車が無くなっていたのを見るに、零はもう帰ったようだ。目の前に倒れる男の死体を見つめながら俺は考える。 体育祭が楽しみだとか、少しでも零に楽しく過ごしてほしいとか、“友達”だとか、全部俺には必要ないんだ。俺がどんな生活を望もうが結局殺し屋の俺から変われないと刺されたように理解する。全部仕事の一環で、楽しさなんか必要なくて、零だって早く殺さなくてはいけない。 「あれ…」 自分でも気が付かない内に、涙が頬を伝っていた。出会ったあの日からずっとそうだ。無意識の内に俺は、毎日なんだかんだ言い訳をつけて零を殺すのを先延ばしにしていた。仕方の無いことだと割り切っているような顔をして、本当はずっと現実から逃げていただけだった。 「ははっ…」 自分で自分を嘲笑う。もう何年も殺し屋をしている癖にこんな事で悩んでいる自分が、凄く惨めで馬鹿らしい。ずっと胸が痛い。明日こそ、零を殺さなくては。そう思うと同時に、どうせ明日も、と自分で自分を疑ってしまう。見ないふりをしていただけで、ずっとそうだったのだ。 俺は、どこまで行っても殺し屋なんだ。変われない。足元に転がる男の死体と、制服にまで浴びた血を見ながらそう思った。

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君と過ごした1年間 2話

昼休み−− 「晴斗!お昼一緒食べない?」 「おっ、零!食べる食べる!」 俺と零が友達になってから1ヶ月ほどが経っていた。…俺はまだ、零を殺せていない。しかし、最近気付いた事があった。 どうやら零は、クラスメイト達に避けられているようだ…いじめとまではいかないものの、皆零と必要以上に関わりたがらず、一線を引いているように思えた。零とクラスメイトのやりとりを見て薄々感じていたが、零のいない時にばかり俺に話しかけてくる奴らを見ていて、確信に変わった。 「なぁ零、お前さ、悩み事とかないの?」 お弁当を食べながら何だか無性に気になって、何気なく聞いてみた。屋上を吹き抜ける風と、絵の具で描いたような綺麗な青空が心地良い。 「えっ…悩み事?ないよ!どうしたの?」 零は急な質問に驚いたらしく、逆にこっちが心配されてしまった。 「いや…ないならいいんだけどさ。 ごめんな、変な事聞いて」 零が気にしていないのなら変に詮索する必要もない。しかし、俺は何で今零にあんな質問をしてしまったんだろう。 「いや、気にしてないよ!…それより、晴斗のお弁当は手作りなの?」 零が俺のお弁当を見つめながら聞いてくる。今日のメニューは白米に卵焼き、から揚げ、ほうれん草のバター炒めと、定番とも言えるごく普通のものだ。 「うん、手作り。零の弁当はいつも凝ってるよな…」 さすが財閥の御曹司。高級そうな重箱に、今日はなんと伊勢海老が入っている。 「あ、あはは…。そんなに張り切らなくて良いよって言ってるんだけどね…。」 どうやら零のお弁当は執事が作っているようで、零は困ったように苦笑いをした。もしかしたら、零が避けられている原因はこういう、俺たちとは違う世界に住んでいる所にあるのかもしれない。 「なぁ零、一回だけ自分で弁当作ってみないか?」 「えっ?」 零は何を言っているのか分からない、といった様子だ。零も皆と変わらない普通の人間だと分かってもらえれば、少しは避けられる事も減るんじゃないかと思っての提案だった。 「…それもいいかもね」 少し考えた様子だったが、零は了承してくれた。 「ん、お昼休み終わりのチャイムじゃない?」 屋上だから少し聞こえにくいが、確かにチャイムが鳴っている。俺たちは空のお弁当箱をしまって教室に帰った。 夜−− 俺は寮の自室で一人今日の事を思い返していた。 何故俺は今日、零にあんな事を言ったんだろう。忘れかけてしまうが、俺と零は殺し屋とそのターゲットなんだ。何も知らない零が俺と仲良くなりたがるのは分かるが、俺はいつか零を殺さなきゃいけない。そう考えると、「はぁ…」と思わずため息が零れる。 …でも、卒業まではまだまだあるはず。それまでは、零にも楽しく生きてもらいたいし、殺すのはもっと後でも良いか、零は俺に初めて出来た“友達”なんだ。 まどろみの中でそんな事を考えながら、俺はやがて泥の沼に沈むように眠りに落ちた。

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君と過ごした一年間

「やめろ…やめてくれ…、金ならやるからッ」 薄汚いビルの一室。目の前で必死に命乞いする男の首を俺は何の躊躇もなくはねた。壁一面に広がった血は俺の着ていたスーツにもかかり、辺りはたちまち錆びた鉄のような臭いでいっぱいになった。 「御苦労だ。…これほどまでに良い働きをするとは。期待以上だよ」 目の前でにやりと笑うこの男は、行き場のない俺を雇ってくれた、この殺し屋組織のボスである。すっかり夜も更(ふ)けて、ボスの後ろに見える窓には月が見えていた。 「…ありがとうございます」 「……お前に丁度良い仕事がある」 俺が特に気持ちもこもっていない返事をした後、ボスは言葉を続けた。 「水森財閥という大きな財閥にお前と同年代の御曹司がいるのは知っているか?今年で高校三年生になるんだそうだ」 そう言いながらボスが見せた写真には、笑顔の優しそうな黒髪の男が写っていた。 「次のターゲットはこいつ、水森 零(みずもり れい)だ。だが財閥の御曹司ともなれば今までのようにはいかないだろう…。そこで、お前には1年間の猶予をやる。」 「もちろん、一年も経たずに任務を終えれば学校には中退の手続きをしてやろう。同じ学年に編入し、隙を見て奴を殺せ。」 「…わかりました」 どうせボスの命令に逆らう事は出来ないのだ。今までのターゲットは金持ちの年寄りばかりで学生は初めてだが、別に大した変化もない。ボス曰く、二週間後に編入し、それから一年間は寮生活になるんだそうだ。 少ない荷物をまとめる為に俺は部屋に帰った。 二週間後−− ガヤガヤと賑わう校門と、目の前にそびえ建つ真新しい校舎。仕事とは言えど、少し前まで殺し屋をしていたのにこれから一年間高校生として生きると考えると不思議な気分だ…。少しだけ、楽しみな気もする。 …ふと、前を歩いていた一人の男子生徒が落とし物をした。人混みがすごくてかなり分かりにくかったが、確かに彼のものだろう。−任務をスムーズに進める為には、なるべく明るく振る舞い交友関係を広げた方が良いはず−俺は明るい笑顔を作りながら人混みの中に腕を伸ばして男子生徒の肩を叩いた。 「…ねぇ、君!これ落としたよ!」 財布だろうか? 黒色に金の刺繍が施されていて、なんとも高級感のある長財布だ。男子生徒が驚いたようにこちらを振り向き、目が合った。 「あっ…ありがとう!」 顔を見た瞬間に分かった。サラサラな黒髪に人好きのする笑顔でお礼を言う彼は、まぎれもなく水森財閥の御曹司…水森零だった。財布を受け取り会釈して去っていく彼の背中を見つめつつ、俺はこれからの事を考えていた。 教室に行くと、既に多くの生徒で賑わっていた。俺のクラスは三年二組、水森零と同じクラスだ。 「はーい、皆さん!今日から新学期ですね〜。」 担任の先生の明るい挨拶からホームルームが始まった。 「…今年からうちのクラスに編入生が一人来てくれました!自己紹介出来るかしら?」 「はい。」 冷静に返事をしたが、急な自己紹介なんて聞いていない。だが任務の為にもこの自己紹介は肝心だよな…。俺は黒板の前に立ち、クラスメイト全体を見渡しながら言った。 「今年から編入してきた森 晴斗(もり はると)です!よろしくお願いしまーす!」 自分に出来る全力の笑顔を作って元気良く自己紹介をした。クラスメイトの反応も悪くなさそうだ。 「はい、元気がいいわね!じゃあ、席に戻って。」 HR後−− しばし休み時間となった教室は、かなりガヤガヤしていた。同じクラスの友達と喜び合う人もいるし、クラスの離れた友達に会いに行ったり、来てもらったりしている人もいる。 そんな中、俺の席に向かってくる人影が一つあった。 「…君、編入生だったんだ。朝 僕の財布拾ってくれたよね?」 皆が各々の時間を過ごしていた中、おずおずとした様子で俺に話しかけてきたのは、なんと水森零だった。 「あぁ、覚えててくれたんだ!」 まさかそっちから来てくれるなんて…。とにかく、これを機に何としてでも交流を深めたい。と思っていた矢先… 「あの…森くん、だよね。僕は水森 零って言うんだ。」 「良かったら、その…僕と、友達になってくれない?」 「……え?」 え。驚いて思わず声が漏れてしまった。 こんなにいきなり仲良くなるとは思っていなかった。しかも、知る由もないがこれから自分を殺そうとしている殺し屋に。 「…いや、迷惑だったらいいんだ!ごめんね…。」 「財布の事は本当にありがとう。どうかさっきの事は忘れて…」 笑顔だった水森零がみるみる悲しそうな表情に変化していく。俺は水森零の言葉を遮って話しだした。 「いや、ちょっと待って!」 「友達、なろう!!」 気がつけばそんな言葉が、咄嗟に口から出ていた。…任務の為にもこのチャンスを逃さない訳には行かない。 「ほんと!? ありがとう!」 悲しげだった水森零の表情が明るくなっていく。 「水森くん、これからよろしく!」 そこから、俺と水森零の『友達』として過ごす日々が始まった−−。

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