灯崎 とあ
4 件の小説川
冬の、凍りつくようなその流れ 音も空気も凍りつき、静寂が覆うその流れはいつしか 君の命も、心も、汚れも何もかも ゆっくりと包み流して行くのかな 温かいと言ってくれた君、その心にあったのはやけどするほど冷たい感情だけで、ふっと笑った君の横顔は、まるで氷柱のように私の心に突き刺さる。 知らなかったとは言わない、しかし解かっていなかったのも事実である。 君はいつでも優しくて、だからこそいつでも冷たい心を留めていた。 優しさはときに他人との距離を見定めるものになる。周りのみんなはそれに気づかず押し寄せ、その度に君は感情を流さぬように凍りつかせていた。 しかし、その留め方は長くは持たないことを君は自覚していない。気付かぬうちに決壊し、流れ、濁流になって心身を滝つぼへ沈めた。 あの時、私は、その冷たさを嫌って手を伸ばすことを躊躇った だから、いま、君の痛みを どうか、温もりを こんな冷たい手でも さようなら。 あなたの穢れも淋しさも 私が川の一部となり 共に流していきます。
関門「スルト壁門」
世界で二番目に大きい大陸、「シーア大陸」。その東部に位置する島国「カレイア国」から、一年に三度だけ運行する海上列車に乗り、シノは次なる地へ向かっていた。 シーア大陸本土には大国が三つ、小国が五つあり、シノが向かう先はその中でも大陸を象徴するような大国、「フェブリタール」である。 “情熱の国”フェブリタール。国民の七割が竜人(ドレイク)であり、若き国王である「アキ・フェブリート」もまた、ドレイクだ。 国の特徴として、国を円形に囲む巨大な門、「スルト壁門」がある。その昔、大陸に突如襲来した龍の群れから国を守るためにドレイク、ドワーフの2種族が結託し、わずか三日で建てられたという伝説がある壁門であり、世界十二名所のひとつとなっている。 スルト壁門には三つの関門があり、カレイアとフェブリタールを結ぶ海上列車が通る「東門」、フェブリタールと“繁栄の国“シエブリとの連絡経路である「南門」、そして未だ一度も開かれたことの無いと噂される「西門」の東西南に位置される。 約四日かけ、海上列車はシノをフェブリタールへと送り届ける。途中シナテという小国で一日滞在し、ここで一回目の検査が行われる。 ここでの検査は主に持ち物の検査だけとなっておりそれほど厳しくはない。シノは難なく通過し、一日をシナテで過ごした。 翌の正午に列車は出発し、一日程でフェブリタールの関門に着く。シノは緊張することも無く、穏やかに列車旅を過ごしたのであった。 シナテをたった翌朝、遂に列車はスルト壁門に到着した。魔法の勉強をしながら眠ってしまったシノは車掌に優しく起こされ、列車を降りた。 フェブリタールに観光に行く者は少なくない。ここには無いものはないとみなが口を揃えて言うほどであり、世界でも一、二を争う巨大国家なのだ。しかし、シノの一番の目的は観光ではない。忘れ物が無いかを確認し、足早に東門関所に向かった。 「…通行証確認、行ってどうぞ。...待って、その鞄の中身ナッツが入ってるね。ここに置いていきなさい。ああ、ダメだ。ナッツや植物の種等は持ち込み厳禁だ、置いていきなさい。従わなければ三年は入国禁止になってしまうから。」 流石は竜人族、嗅覚だけでは無いが人間よりずっと優れている。 関所での他人のやり取りをみたシノは感心していた。 東門関所での検査はシナテの検査とは訳が違う。持ち物の制限は細分化され、同時に通行証、身分証、目的書の確認も行われる。どれかひとつでも失くしてしまったり忘れてしまったりしてしまえば入国禁止となる。 ここでシノの心に一つ不安が浮かんだ。しかしその不安はすぐに解消されることとなる。 「どうも、おはようございます。身分証、通行証、目的書のかくに...ん...ん?」 「こ、これ、なんですけど...」 「...これはこれは、あなたが。どうぞ、お通りください。後ほどアキ様にもお伝えしておきます。」 シノが提示したのは魔導協議会が認めた魔法使いにのみ発行される魔導章。三級魔導士の魔導章は赤色、二級は青色、一級は白色があしらわれており、その上の特級魔導士、及び国家魔導師の魔導章には魔導師資格を取った国の色があしらわれている。 特級魔導士になると魔導「師」と呼ばれるようになり、国に一人配属されている国家魔導師に弟子入り出来るようになる。国家魔導師の弟子になれるものは二人だけであるため、国色の魔導章はすなわち国が認めた魔導士であるのだ。 シノの魔導章の色は灰色。つまりカレイアに認められた魔導士ということとなる。 魔導章はその階級に関わらず位の高い身分証の代わりとなる。しかし国色の魔導章となると話は別で、その魔導章だけで入国に留まらず国の長に会うことも許されてしまうという、特級の名の通り特別な魔導章になる。 シノはその魔導章に信頼感が芽生え、それと同時に何かとてつもないものを持っているという意識が必要と気付かされた。 かくして、シノは無事“情熱の国“に足を踏み入れた。
七色の旅へ
これはまだかけだしの魔法使い、シノの旅の記録。 かつて三つの大陸が大災害で七つに分かれてしまい、多くの生き物が身動きできなかった時代。一人の大いなる存在、大賢者アレフが災害を鎮め、大陸を再びくっつけた。元通りにはならなかったものの、五つの大陸と三つの海を作り、その大陸と海を自らの手で生み出した七人の魔法使いに任せた。 各魔法使いのおかげで世界は発展していき、やがて七つの国が出来上がった。大賢者アレフはどんな国なのか分かりやすくするために色彩魔法を使い色で国を完成させた。 −−−シノはそんな昔話を、育ての親であり魔法の師匠のカノンに毎晩毎晩聞かされて育った。 シノはそんな昔話に飽き飽きしていたがそんな時間さえも充実した楽しい時間だった。 ある日を境にシノはある夢を見るようになる。カノンがどこか遠くに行ってしまう夢、自分を置いていなくなる夢。 カノンが去り際に「わたしは再び旅にでるよ。あなたはきっと一人でも生きていける。ただ、本当に寂しくなったらわたしを追って旅に出なさい。きっと素敵な経験出会えるわ。」と言う、そんな夢を。 シノは不安になってカノンに問いかける。けれどカノンはいつも「大丈夫よ」と返事する。心配になりながらもシノはその言葉を信じ続けた。 ある日の夜、シノは全く違う夢を見た。竜人族が切磋琢磨、一生懸命働いている場所や自然がいっぱいでとても癒されるばしょ、年中夜でそこにいる人たちはみんな寝ぼけている。 シノはこの夢に出てきた場所を知っていた。七つの国、七色の国。シノはわくわくしながらも夢から覚めた。 …いない。 隣で寝ていたはずのカノンがいない。 夢のわくわくから一転、不安と寂しさでいっぱいになってしまった。 涙でいっぱいになりながら一階へおりる。すると、テーブルの上に手紙があるのを見つけた。カノンが書いた手紙だ。 「急にいなくなってごめんなさい。きっとあなたはわたしがいなくちゃ何も出来ないと自分で思いこんでしまっている。けれど、もうあなたは一人前の魔法使いよ。わたしが教えたこと、家事や洗濯もそうだけど、いちばん大切なことをずっと忘れていないから。だから、わたしは旅に出ます。」 「ここまでおいで。いちばん大きい鬼ごっこよ。」 最後の言葉でシノの涙はなくなり、目を輝かせた。 シノは気づいていた。自分が無意識のうちに一人でなんでもやっていけるようになってたことを。それをカノンが気づいていることさえも。 だからこそ甘えていたかった。だからこそいてほしかった。しかし逆に、煩わしさも抱いていた。 そんなこともカノンにはお見通しだったのだろう。シノはそんな気持ちに気づいていないことももちろん。 だからこそ、一人で旅に出たカノンのことをもっと好きになった。そして「ここまでおいで」と自分の力を認めてくれたことにとても嬉しくなった。 シノはさっそくその日のうちに資金や必要なものをかき集め、旅の準備をした。 準備で疲れたからか、出発は明日にした。最後にカノンの温もりを感じたかったからだ。 こうして、シノは旅へと向かった。 カノン探しの旅、もとい自分の成長の旅へ。
chapter1-1
…「佐倉さん、あなたいい加減眼鏡持ってきたら?」 年に二回、前期と後期とで行われる視力検査。高校生活最後の夏休みが終わり、六回目になる三年生後期の視力検査でも、やはりその言葉を投げてきた。 「や…あの、すみません…。」 「いやね、怒ってるわけじゃないんだけどとにかく不便なんじゃないかしらと思って。」 「あ…いえ、特に不便じゃないので…」 「本当かしら。だってあなた、0.1もないんじゃなくて?」 「あの、はい…見えてない、です。」 「なら、“不便じゃない”ことはないんじゃないの?」 「いや…あの…、まぁ、はい…、でも、対して大きな問題もないんで、ほんとに…。」 「そう、あなたがそう言うならこれ以上は何も言わないわ。でももし大変なことがあったら遠慮しないで相談してちょうだいね。」 「はい、ありがとうございます…。」 今回の視力検査の先生も去年、前期と同じく土田先生。うちの高校で養護教諭をしてる先生だ。保健室の先生らしい温厚な性格でとても気にかけてくれるのだがどうも心配性な所があり、何かと生徒(特に私)と接しようとする節があり、人と話すことを苦手としている私にとっては少し難儀だ。 …眼鏡はかけたくない。例え視力検査であっても。 何時どこでまた事故るか分かったもんじゃないから。 なんて頭の中でぶつくさ呟きながら教室に向かった。 教室では既に視力検査を終わらせた生徒がどちらの視力が高いだとか眼鏡を忘れてきちゃっただとか騒いでいた。 …賑やかだな。あまり長居したくはない、かも。 そう憂いていると、 「アヤちゃん、今回も眼鏡忘れてきたの?」 私の前の出席番号で小学校からの幼なじみ、坂井マコトが話しかけてきた。 「忘れてきたって言うか持ってきてない。」 「またそうやって〜!んま、アヤちゃんの視力検査の結果はもう分かりきってることだからこの話は置いておいて…」 …昔から、マコちゃんはよく話せるよね、こんな私みたいなのと。 と、頭の中で言葉を羅列させながら適当に相槌を打っていると、 「さっちゃん〜!購買行こ〜!」 「んあ〜い!今行く〜!んじゃ、アヤちゃんまたあとでね!」 ごめんね、と掌を合わせて言いながらマコトは席を後にした。 …そう、そうなんだよね。 深い憂鬱を抱えたまま、私も席を立ち教室を後にした。